今から1時間程前。
本庁にFAXが送られて来た後、ばたばたと刑事達が外へと出て行く。
佐藤も同じく捜査に加わる準備をしていた所、目暮警部が声を掛けた。
「あー、佐藤くんちょっといいかね」
「はい何でしょう?」
目暮警部は視線を廊下へ移した。佐藤は黙って警部の後ろを着いて行く。
「今日高木くんを教育係として一人後輩をつけたのは知っておるだろう」
「……ええ、まあ」
「そこで…君にもだな、一人面倒を見てやって欲しい人がいる」
「…はい?」
警部は困ったような複雑な表情を佐藤に向けた。
「実はな…あの人によく似ておるんだよ、彼」
「……配属された新人が、ってことですか?」
「まあな……君にはちょっと酷かもしれんが」
「誰に似ているんです…?」
コツン、と誰も居なくなった廊下に革靴の音が響く。
やって来たのは細身で長身の男―…、少し癖のある髪に挑発しているような瞳を持つ男だった。
「……松田、くん……」
「……そう、“松田陣平”によく似ておるんだ、彼は」
目暮警部はぼそぼそと呟くように言った。
「成宮楓くんだ。普段は捜査二課の知能犯係に配属なんだが暫くの間は応援でここにいてもらう。その間の教育係として君に頼みたいんだ」
佐藤は黙りこんだまま、ぼうっと遠くを見つめていた。
やっと、前に進めたと思っていたのに…。
思い出したくないこと、だったのに…。
「佐藤くん?」目暮警部は心配そうに佐藤の顔を覗き込む。
「……いえ、大丈夫です。任せてください」
佐藤は目暮に頷くと、成宮によろしく、と手を差し出した。彼も同じように手を差し出す。
目暮は佐藤にしばらく心配そうな顔をしていたが、ゆっくり息を吐いた。
「早速だが、送られて来たFAXの捜査に君達二人とも参加してもらう。車を出してくれ―……」
***
「今日ここまで来るまでに“松田”という名を何度も聞いた」
佐藤が運転する車の中で、隣に座る彼はうんざりしたような口調で話した。
「……ごめんね、すごく似ているのよ。松田くんに」佐藤は苦笑いを浮かべる。
「…殉職した刑事に、か?」
「どうして……それを?」
「そりゃあ何度も似てる似てると言われりゃ気になるでしょうも。その辺の奴に聞いたら簡単に教えてくれましたよ」
成宮はぶっきらぼうに話すと、思わず佐藤はくすり、と笑みを零した。
「……何がおかしい」成宮はむっとした顔をした。
「…だって、貴方の態度も喋り方もよく似ているのよ。まるで兄弟みたいね」
佐藤は前を向きながら昔のことを思い出していた。
7日間しか一緒に居られなかった、想い人のことを。
「……あ、高木くん達だわ」
「高木…?」
「そう、私の後輩なの。…あとあなたと同じ今日配属された北条さんも。…交通課の由美もいるわね」
「仕事サボってパレードでも見てんじゃねーか?」
成宮はにんまりと悪戯っぽく笑う。
佐藤は肩をすくめ、「そうかもね」と冗談っぽく答えた。
「松田、って誰のことですか?」高木は由美へ問いかける。
「んー……なんていうか…美和子の…うーん…」
「元カレ、ですか?」北条は大して興味なさそうな口調で聞く。
「まあ、そんなんに近いわね」
「も、ももも元カレですか!?」
「ちょっと高木くん!何やってんのよ!」
「ささ佐藤さん!」
「ちょーどよかった!美和子ー…」
「もう、由美もそこで油売ってないでさっさと仕事に戻りなさいよ」佐藤はぴしゃりと言う。
「へーい…」
「それに高木くんも。北条さんいるのにこんなんじゃ駄目じゃない!」
「は、はい…」
それよりも高木は佐藤の隣に立っている“松田くん”が気になってしょうがなかった。
佐藤さんの元カレによく似ているのか、それとも…本人なのか。
うんうん唸っていると、北条はそれに気がついたのか気を利かして「このお二人は?」と高木に尋ねる。
「………あ、ああ、まずは同じ捜査一課の佐藤さん。僕の先輩だよ。あと隣にいるのは……」高木の声は少し震えていた。
「成宮くんよ。捜査二課にいるんだけど暫くの間は捜査一課の応援をしてもらうのよ」
「……よろしく、高木さん」成宮はにやにやと笑みを浮かべながら手を差し出した。
高木もたじろきながら手を差し出す。この人には何となく負けるな、と感じた。
「ちょっとー高木くん!そろそろ高木くんの車出してくんないと切符きるわよー」
佐藤に怒られた腹いせと言わんばかりに由美がわんわんと大声を出した。
「はーい、ちょっと待ってくださいー…」高木は自分の車までバタバタ走っていく。
「……北条さんも大変ね、彼の下なんて」佐藤は苦笑いをした。
北条は笑っていいのかちょっと迷ったような曖昧な笑みで返すと、高木の後を追った。
***
「おい、どうしたんだよ!早くビデオに撮らないとヒデ行っちまうぞ!」
「……それが…ビデオを誰かに盗られてしまって…」
「盗られただと!?」
「ほんとなの?光彦くん?」
それじゃあ犯人を探すっきゃねーな、とコナンが言いかけた時、大きな爆発音が響いた。