・sciolto(束縛のない、自由な)
あの郵便局強盗未遂事件の次の日、少年探偵団は本庁にいた。
ビデオが盗まれていたということで実況検分をするためだった。
それには佐藤刑事と捜査二課の成宮刑事が応援で担当することになっていた。
「……ちょっと美和子、何ぼけーっと立ってんのよ」交通課の由美は佐藤の肩をぽんと叩く。
「…えっ?…ああごめん……」
「それと、9時からのカラオケ忘れないでよ!」
「カラオケ?」
「ちょっとー!メール入れたでしょー!?」
「ごめんごめん、メールボックスすぐにいっぱいになっちゃうから……」
佐藤は苦笑いを浮かべながら由美に謝り、バタバタ急ぎ足で外へと出て行った。
彼女のメールボックスの中には“消せないメール”があったため、彼女がいらないメールを消しているのを由美は知っていた。
その、“消せないメール”の内容も―……。
昨日のパレードの場所へ来ると、少年探偵団は事細かに昨日のことを話す。
「…こんな感じで突き飛ばされて……」
「それでねー…」
佐藤は子供たちの話を手帳へメモをしていく。隣で成宮は携帯の画面を見つめていた。
「……ちょっと成宮くん。一応貴方も捜査に加わってもらわないといけないんだけど」佐藤はぴしゃりと言った。
「ああ、分かってるよ。そういえばさ、松田刑事…もうあれから3年たつのか、と思って」成宮は微笑った。
…松田くんのこと、だろう。そういえば今日は11月7日……。
彼が残したメールを見るたびにこの日を思い出す。
前を向いていかなきゃいけないことくらい分かっている。でも、忘れられない。
私は彼に、何もできなかった。黙って見ていることしか出来なかった。
佐藤は“消せないメール”の最期の言葉をじっと見つめていた。
彼の最期の言葉を考えるたびに胸が締め付けられるような思いになる。
「おい、大丈夫か?」成宮は佐藤の顔を覗き込んだ。
「…あ、ええ、大丈夫よ」佐藤は携帯をポケットにしまい込むと仕事へと戻った。
***
「へえー…そんなことがあったんですねー…」
高木は白鳥警部と、昨日付けでやってきた後輩の北条とともに捜査に出ていた。
白鳥に“松田くん”について高木は聞いてみると、彼は詳しく教えてくれた。
連続爆弾事件のことと松田刑事が殉職したこと……。
「彼女がまだあの事件を引きずっているとすれば我々に勝ち目はありません…」
「で、ですよね…」高木は溜息をついた。
「そう簡単に立ち直れるようなものでもないですしね」北条ははっきりと言った。
高木はもう一度大きな溜息をつく。
「あれ?高木くん?」通りがかった佐藤は少年探偵団を連れていた。
「…ああ、佐藤さん!実況検分終わったんですね」高木はわざとらしく明るい声で言った。
「そういえば成宮くんは?」白鳥が尋ねると佐藤は眉をひそめ
「一旦本庁に戻るって言ってたわ。何か気になったことがあったんじゃないのかしら」佐藤はぶっきらぼうに言った。
「それより由美とカラオケに行くんだけど高木くん達も行かない?」
「僕はそういう気分になれないので…」白鳥は手を振ると一人車へ向かって行った。
「え、ええ僕はいいですよ…北条さんはどうします?」
「私はちょっと本庁に戻ります、調べたいことがあるので」
「そう…残念ね」佐藤は苦笑いをした。
「何か気になったことでもあるのかい?」高木は北条へ尋ねる。
「…ええ、そんな大したことじゃないとは思うんですけど……。ここに爆弾予告があるって電話してきたのに何もないだなんておかしいなと思ったんです」
北条は何か考えているような素振りをしながら呟いた。
「爆弾予告?」コナンがそれにすぐに食いついた。
「そう、7年前と3年前と同じ日付の今日、爆弾予告の電話があったの…。でも調べたけど何も無かったわ。……偶然にしては出来すぎだと思わない?」北条はコナンに問いかける。
「確かに…ほんとうに何もなかったの?」
「電話だとこの喫茶店に仕掛けたと言っていたらしいけど…隅々まで調べたわ。だけど爆弾らしきものは出てこなかった。だからおかしいのよ。悪戯にしては不思議でしょ?」
コナンと北条のやり取りを不思議そうに見つめていた高木が、「考えすぎなんじゃ…」と口を開いたと同時に爆発音が響いた。
煙があがっているのは、白鳥警部が乗った車からだった。