二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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今回正ヒロインがやっと登場します。

書いているうちに随分長くなってしまいましたが、第10話、お付き合い下さい。


第10話 明日奈登場!

 

 

~志狼side

 

 

 週明けの月曜日。いつもの通り朝のトレーニングを織斑先生とこなす(因みに連敗記録更新中)。

 先日の浅葱との打ち合わせの影響か、やや体のキレが悪い。今までと全く違う環境に放り込まれ、そろそろ疲れが溜まって来たのかもしれない。気を付けよう。

 

 あの後の浅葱との打ち合わせは長きに渡った。

 ベースは絃神の主力I-0「ゲシュペンスト」を改造したものとして、戦い方も俺に合わせた格闘戦仕様にして貰った。

 次に絃神のカタログから武装を選んだのだが、何と言うか絃神の技術者って頭がおかしい(笑)。全長5m超のバスターランチャーや巨大十字手裏剣、鎖付きトゲトゲ鉄球(ガン〇ムハンマー)や超硬スチール合金製の金属バットなどが真面目にカタログに載っていて、しかも、詳細な使用データまで記してあるのだ(つまり実物を作ってあると言う事)。

 はっきり言ってこう言うロマン武器は大好きなので、カタログを見てるだけで楽しかった。詳細を聞きたくて絃神本社の技術者に通信を繋いで貰い直接話をした結果、彼らとは大変仲良くなった(反対に浅葱の視線が冷たくなっていたが)。

 色々と話に熱中している内にすっかり遅くなり、結局その日は徹夜になってしまった。翌日、浅葱は代表決定戦がある木曜日までに必ず専用機を完成させると約束して帰った。

 

 という事があって日曜日もあまり休めず、週明けを迎えてしまった。まあ、代表決定戦が終わるまでの辛抱だ。もう一頑張りしよう。

 

 

 

 

 

 登校し、教室で雑談をしていると先生達が入って来た。皆が席に着いたのを確認して真耶先生が、

 

「皆さん、おはようございます。今日は皆さんに新しいお友達を紹介したいと思います」

 

 

 真耶先生の話に教室内がザワめく。入学式から1週間と過ぎてないのにもう転校生か、と不思議に思っているのだろう。

 だが、俺には心当たりがある。多分あいつがやっと来たんだろう。連絡して来なかったのはサプライズでも狙ったかな?

 

 

「ああ、転校生ではありませんよ。元々皆さんと一緒に入学するはずだったのですが、事情があって今日まで入学が遅れてたんです。・・・・それでは結城さん、入って下さい」

 

「はい」

 

 教室の扉が開いて、1人の少女が入って来た。

 

 両サイドを編んだ亜麻色の長い髪、神秘的なヘイゼルの瞳、雪のように白い肌をしたもの凄い美少女だ。彼女は皆の方を向いて柔らかく微笑み、

 

「おはようございます皆さん。結城明日奈(ゆうきあすな)と言います。事情があって入学が遅れましたが、今日から皆さんと一緒に勉強して行きたいと思います。1年間よろしくお願いします」

 

 挨拶が終わったというのに誰も反応しない。彼女に見蕩れているのだろう。彼女も反応がない事に困り顔だ。仕方がないので俺が拍手をすると、皆も気が付いたのか釣られて拍手をし出した。

すると、

 

「あ、あの、日本代表候補生の結城明日奈さんですよね!?」

 

「え? ええ、そうです。私の事知ってるんだ」

 

「はい! 大ファンです!」

 

「え? じゃあ彼女があの“閃光のアスナ”!?」

 

「え? 本物!?」

 

「ウソ? マジ!?」

 

 彼女が何者か分かると、あっと言う間に教室内が沸いた。まあ、無理もない。セシリアも代表候補生だが、あくまで他国のだ。だが、彼女は自国の代表候補生。より身近な存在なのだ。当然テレビや雑誌でも特集が組まれ、目にする機会も多い。ましてやあの美貌だ。見蕩れもするだろう。

 そんな彼女がすぐ側にいるのだからこうなるのは仕方がない。だが皆、誰かの存在を忘れてないか?

 

 ───パァン、パァン、パァァァン!!

 

「やかましい! 鎮まらんか馬鹿者共があ!!」

 

 怒れる千冬(魔神)が降臨し、騒ぐ生徒(暴徒)に怒りの出席簿(鉄槌)を下す。それによってようやく静かになった。

 

「全くお前達と来たら・・・・まあいい、結城! 少し事情を説明してやれ」

 

「はい。それでは改めまして、日本代表候補生序列4位、結城明日奈です。入学が遅れたのは、専用機の調整に時間がかかったからです。昨日やっと完成したので今日から登校する事になりました」

 

 そこまで言うと、彼女は俺をチラりと見ると、

 

「兄共々よろしくお願いします」

 

 と言ってまた教室を沸かせた。再び魔神が降臨する。

 

 

 

 

 

「全くお前は・・・・」

 

「あはは、ごめんね、兄さん」

 

 午前中の授業が終わり、今は昼休み。俺はいつもの皆に明日奈を加えたメンバーで昼食を摂り終え、雑談をしていた。

 

「俺達が兄妹だと知られるのはいいが、騒ぎが収まったすぐ後にやる事はないだろう?」

 

 俺がやや乱暴に頭を撫でると、

 

「キャー、ごめーん、兄さん」

 

 明日奈は嬉しそうに悲鳴を上げた。

 

「兄妹仲がい~ね~」

 

「本当にね」

 

「うわあ~、本物だよ、本物!」

 

 本音、静寐が食後のお茶を飲みながら言い、清香がIS雑誌を広げ、興奮している。明日奈の特集が組まれている号らしく、食堂の本棚にあったものだ。

 

「ねえ、兄さん。そろそろ皆を紹介してくれない?」

 

「ああ、そうだな。明日奈、彼女達は入学以来仲良くしている娘達で、まず俺の右隣の娘がセシリア」

 

「初めまして。セシリア・オルコットです。以前電話でお話して以来ですわね?」

 

「貴女がセシリアさん!? ずっと会いたかったんだあ。うわあ~、兄さんの言ってた通り、凄い美人!」

 

「あ、ありがとうございます。でも明日奈さんの方がお綺麗ですわよ」

 

「そんな事ないよ~、でも会えて嬉しい。よろしくねセシリアさん。私の事は明日奈でいいよ」

 

「よろしくお願いします。(わたくし)もセシリアと呼んで下さい」

 

 俺の両隣にいる2人は、立ち上がって俺の頭の上で握手をした。いや、別にいいんだが・・・・

 

「それと、向かって左からスポーツ好きの清香、しっかり者の静寐、癒し系の本音だ」

 

「あ、相川清香です! 清香でいいです!」

 

「鷹月静寐です。静寐と呼んで下さい」

 

「私、布仏本音~、よろしくねあすにゃん♪」

 

「3人共よろしく! 私も明日奈でいいから。ていうか、いきなりアダ名付けて貰っちゃった兄さん!」

 

「良かったな。因みに本音は基本アダ名呼びで、俺なんてしろりんだぞ?」

 

「プッ、し、しろりんって・・・・よし、それじゃ私は本音ちゃんの事を本ちゃんと呼ぼう! OK?」

 

「オッケ~、えへへ、アダ名を付けて貰ったのは初めてだよ~」

 

 喜んでくれたようで何よりだ。俺はお茶のおかわりをしようと席を立ち、給湯器へ向かう。お茶を淹れようとしたら、

 

「あ、あの結城さん!」

 

 明日奈に声をかける奴がいた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~一夏side

 

 

 彼女を一目見て心臓が止まった気がした。歩く度に亜麻色の髪がサラサラと揺れる。こちらを向いた時の柔らかな微笑みを見て、今度は心臓が激しく鳴った。

 

 ──何だコレ? 今まで感じた事のない感覚だ。

 

 彼女の名は結城明日奈。日本の代表候補生。そして、アイツの妹。

 2人目の男性操縦者、結城志狼。たった2人しかいない同じ立場の男なのだから仲良くしてやろうと思っていたのに、年上だからってやたらと俺をバカにしたり、ダメ出しをして来る嫌な奴だ。千冬姉も何だかアイツを頼りにしているように見えるし、初日に俺が吐いたウソをアイツに暴露されてから、クラスメイトの態度が冷たくなった。

 こんな風に学園生活が上手く行かないのは全部アイツのせいだ。初対面の時から嫌われていたようだが、何故あんなに嫌われてるのかが分からない。いや、考えてみれば中学の頃も弾や数馬以外の男はこんな感じだったかも・・・・

 

 そんなアイツの妹である彼女──明日奈から何故か目が離せない。彼女の声を聞きたい。彼女に俺を見て欲しい。そんな欲求が湧き上がる。俺は意を決して彼女に話しかける事にした。だが、どう話しかければいい? 彼女の側には結城がいる。俺が妹に近付くのをアイツが黙っている訳がない。それに、話しかけたとして、どう会話に繋げればいいんだろう?

 そんな風に悶々としていると、結城が席を立った。これは神が与えた千載一遇のチャンス! どう会話するかは話してから考える! 俺は彼女に近付いた。

 

「あ、あの結城さん!」

 

「・・・・何かしら?」

 

「俺、織斑一夏って言うんだけど」

 

「・・・・ええ、知ってるわ」

 

「本当に? 光栄だなあ」

 

「・・・・いや、兄さん以外の男子生徒なんて貴方しかいないでしょう」

 

 あれ? さっきまで笑顔を振り撒いていたのに、急に態度が冷たくなったぞ?

 

「ア、アハハ、そ、その通りだよね」

 

「・・・・で、何かご用?」

 

 ただ話がしたかったなんて言えないし、どうしよう? 俺は咄嗟に、 

 

「新しいクラスメイトに挨拶を、と。それとお願いがあるんだけど・・・・」

 

「・・・・・・お願い?」

 

「そう。俺にISの事を教えて欲しいんだ」

 

 咄嗟に出たにしては中々の理由。これならば!

 

「ISの事が知りたいなら先生に聞けばいいでしょう? 私に聞くのは筋違いよ」

 

「い、いや、先生はちょっと・・・・」

 

「はあ、どの道私は忙しいので貴方の相手をしている暇はないわ。用がそれだけならお引き取りを」

 

「・・・・そっか、仕方ないよな。んじゃ、まあこれからよろしく。俺の事は一夏って呼んでくれ」

 

 俺はそう言って、右手を差し出す。が、

 

「・・・・貴方に言っておく事が二つあります。一つ目は私は親しくもない異性を名前で呼ぶ気はないという事。二つ目は私は貴方が嫌い、いえ、恨んでいます。だから今後話しかけたりしないで頂戴」

 

 !? 嫌い? 恨んでる? 何で? 彼女とは今日初めて会ったんだぞ! それなのにどうして!?

 

「な、何で? 君とは今日初めて会ったのに、どうして恨まれてるんだよ!?」

 

「・・・・私が貴方を恨んでるのは、貴方が兄さんの夢を台無しにしたからよ!」

 

「・・・・アイツの夢? 俺が?」

 

「そうよ! 兄さんは子供の頃から医者になるのが夢だった。その為に勉強して、身体を鍛えて、ずっと、ずうっと頑張って来たのに、貴方が不用意にISを動かしたせいで、折角合格した大学に入れず、ここに来る羽目になったんだから!」

 

「いや、望まずに入ったって言うなら俺だって同じだよ!」

 

「じゃあ、あの時何でISに触ったの!? どうせ何も考えてなかったんでしょ!」

 

「そ、それは・・・・」

 

 確かに彼女の言う通り、間近で見たISが珍しくて、つい、触ってしまったんだけど・・・・

 

「貴方は自分のした事がどれだけ多くの人に迷惑をかけたかなんて知らないでしょう? いや、その顔は考えた事もなかったようね。貴方は自分が被害者だと思っているようだけど、私達からすれば間違いなく加害者よ。その自覚もなく、私に話しかけて来るなんて正気を疑ったわ」

 

「お、俺は・・・・」

 

「大体貴方は──「そこまでだ、明日奈」っ兄さん!?」

 

 いつの間にか彼女の背後に結城が立っていた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 俺が席を外した途端、明日奈に声をかける奴がいた。誰であろう織斑だ。全く、防波堤()は何をしてるんだ?

 少し様子を見てると、明らかに織斑の挙動が怪しい。何と言うかそわそわ? もじもじ? と言った挙動をして、よく見ると顔がうっすらと赤くなってる。ああ、これはいつものアレだ。

 兄である俺が言うのも何だが、明日奈はもの凄い美少女だ。初めて会った時は、泣きベソをかいてばかりの庇護欲を駆り立てる幼女だったが、成長するにつれ、泣き顔より笑顔が増え、性格は明るく社交的になり、身体は女らしい曲線を描くようになった。そんな明日奈は中学生になる頃には無敵のモテ女になっていた。

 告白される事ン百回(中には大学生や社会人もいたので全員通報した)、下駄箱からラブレターが雪崩れ落ちるという漫画のような光景も何度もあったそうだ。そんな状況に辟易した明日奈がした“ある宣言”にて、これらは鎮静化して行くのだが、それを知らない初対面の男などは明日奈を見ると、今の織斑と同じような態度をしていた。

 つまり、織斑一夏は結城明日奈に恋をした、らしい。

 

 

 正直、今の織斑に明日奈を任せる気は全くないので、明日奈が上手く断れないなら介入しようと思ったんだが、そんな心配はなかったようで、話しかけて来る織斑を冷たくあしらっていた。

 これなら大丈夫だろうと淹れて来たお茶をすすりながら見物してると、事態が急変した。織斑の何が明日奈の逆鱗に触れたのか、明日奈は滅多に見せない怒りを露にしていた。話を聞いていると、どうやら俺の事で怒ったらしい。全く、明日奈らしいと言うべきか。あの娘は自分の事よりも俺や雪菜の事で怒るのだ。

 とは言え、こんな公の場で人の夢がどうのと恥ずかしい事を言い出したので、これ以上変な事を言う前に止めるとしよう。俺は遠巻きに見ていた生徒達の間をすり抜け、明日奈の背後に付くと、明日奈の頭にポンッと手を置いた。

 

「そこまでだ、明日奈」「っ兄さん!?」

 

 

 

 いきなり現れた俺に当事者2人は驚いていた。

 

「そこまでにしておけ、明日奈。今、織斑を責めた所で何も変わらないぞ?」

 

「───っでも!」

 

「お前が俺を思って言ってくれるのは嬉しいが、全ては過去の事だ。あの時ああすれば良かった、こうすれば良かったなんて言い出したらキリがない。それはお前だって分かってるだろう?」

 

 俺は明日奈の頭に置いた手で優しく撫でながら続ける。

 

「・・・・・・うん」

 

「だったらこの話はここまでだ。いいな」

 

「・・・・はい。ごめんなさい、兄さん」

 

「ん・・・・、さて織斑、妹がすまんな」

 

 いきなり話かけられて、織斑が驚いた。

 

「え!? ああ、いや・・・・」

 

「まあ、図らずも俺がお前に関わりたくない理由が露見した訳だが、今にして思えば逆恨みのようなものだ。忘れてくれ」

 

「・・・・いいのかよ、それで」

 

「いいも悪いも俺は今ここにいる。それが全てだ。それに」

 

「それに?」

 

「こうなってからまだ1カ月しか経ってないんだ。夢を諦めたくはないが、かと言ってどうすればいいのかも分からないんだよ。考え中って事だ。まあ、ここでの生活も悪くないと思えて来た所だしな。ここに来たからこそ本音達と出会えたし、セシリアとも再会出来た。それに、明日奈とクラスメイトになれるなんて思いもしなかったからな」

 

「兄さん・・・・・」

 

 俺が明日奈を見つめると、明日奈はようやく微笑んでくれた。と、そこで、

 

「お前達、そろそろ午後の授業が始まるぞ! 早く教室に戻れ!」

 

 織斑先生が現れ、生徒達は蜘蛛の子を散らすように去って行った。俺達も顔を見合わせると、急いで片付けて、食堂を出る。出入口に陣取った織斑先生にすれ違い様、

 

「気を使わせたようで、すいません」

 

「ふん、早く行け」

 

 やっぱり。話の切りがいい所まで待たせていたようだ。いつもなら10分前に来るのに既に5分前だからな。中の様子を伺いながら出るタイミングを計っていた織斑先生を想像すると、思わずニヤけてしまう。

 こんな事を考えていると、恐ろしくカンの鋭い人だから察知されかねないな。さっさと教室に戻るとしよう。

 

 

 

 

 

 午後の授業が終わり、放課後。真耶先生の都合で本日の補習は休み。放課後の予定が空いたので何をするかと話し合った所、明日奈も来た事だし、今まで伸び伸びになっていた学園施設見学ツアーをしようと言う事になった。だが、出発前に俺にはする事があり、皆には少し待って貰う。

 

「箒」

 

「志狼、どうした?」

 

「話がある。ちょっと付き合ってくれ」

 

「? 解った」

 

 俺は人気のない方がいいと思い、箒を連れて屋上へ向かい、昼休みの顛末を話す。

 

 

「い、一夏が結城明日奈に惚れたあ!?」

 

「ああ、恐らく間違いないと思う」

 

 箒が愕然としている。無理もない。以前箒から聞いた話では織斑一夏という男はカンは決して悪くないくせに、事が恋愛に及ぶと途端に鈍くなるそうで、「キング・オブ・唐変木」、「朴念神」などの異名を持ち、数々の女の子を泣かせて来た奴らしい。

 その織斑が恋をした。箒にとっては一大事だろう。俺にとっても相手が妹でなければ問題なかったが、当事者とあってはそうはいかない。早急に対策を立てねば。

 

「そもそもここ数日、お前は何をやってたんだ。確か織斑とは同室だったよな? 当然織斑との仲を進展させる行動は起こしたんだよな?」

 

「うっ、それがその・・・・」

 

 気まずそうに目を反らす箒。こいつ、まさかと思うが、

 

「お前、さては何もやってないな」

 

 ビクッと大きく反応する箒。やっぱりか!

 

「お・ま・え・は・な・に・を・やってたんだ。同室なんてこれ以上ないアドバンテージを無駄にするな」

 

 箒の脳天に軽くチョップを繰り返しながら俺が言うと、

 

「し、仕方なかったんだ。放課後はずっと剣の稽古をして、その後は例のレポートを書かなくちゃいけなくて、その、とてもそんな雰囲気に持って行けなくて」

 

 ああ、あれか。そう言えばあれの〆切って今日じゃないか?

 

「そう言えばあのレポートって出来たのか?」

 

「いや、流石に無理だった。でも一夏は織斑先生が催促して来るまでごまかす、と」

 

 あの馬鹿。こう言う事はこちらから間に合わなかった理由を説明して、待って貰うようにお願いするべきなのに。元々は参考書を全く読んでない織斑に基礎知識を理解させる為のレポートなのだから、熟読する時間が足りないとか、代表決定戦に集中したいとか言って猶予を貰えば良かったのに。まあ、今までやった成果は見せる必要はあるが、まさか1ページも書いてない事はないだろうしな。

 俺はその旨箒に教えると、織斑に伝えて来ると駆け出そうとするので、ポニーテールを摘まんで止める。

 

「何をする!? 痛いじゃないか!!」

 

「まだこっちの話が何も終わってねーよ」

 

「あ、そうか」

 

「話を戻すぞ。それで、お前は何のアプローチもしてないんだな?」

 

「いや、それが・・・・初日にシャワーを出てバスタオル1枚の所を見られてしまって」

 

 何だ。やる事はやってたんじゃないか。こう言っては何だが、箒のスタイルは抜群だ。高校生離れした爆乳と剣道で鍛えた足腰は引き締まり、長い脚も相俟って実に魅力的だ。箒のそんな姿を見たのならいくら織斑でも・・・・

 

「ほう。で、どうなった?」

 

「・・・・恥ずかしさのあまり、ぶちのめしてしまった」

 

 エ?ハズカシサノアマリブチノメシタ?

 

「お・ま・え・は・ほ・ん・と・に・お・り・む・ら・を落とす気があるのか!?」

 

 さっきより強めに脳天チョップを繰り返す。こいつはもお!

 

「何やってんだお前は! あれ程暴力は駄目だって、優しくしろって言っただろうが!」

 

「ううう~、だってえ~~」

 

 で、聞いた所、結局まともなアプローチはかけられず、現状維持が精一杯だそうな。何と言うか、

 

「織斑もそうだがお前も恋愛事にはポンコツだな、箒」

 

「ポ、ポンコツ・・・・」

 

 orzのポーズで地に伏せる箒。こいつどうするかなあ。だんだん面倒臭くなって来た。すると、屋上の扉が開いて明日奈達がやって来た。

 

「あ、兄さん見つけた。もう、遅いから捜しに来ちゃったよ」

 

「あ、すまん。もうそんな時間だったか」

 

 屋上に来てから既に20分経っていた。待たせすぎたな。

 

「・・・・で? この娘は誰で、何で伏せってるの?」

 

「えーと、何と説明すればいいのか」

 

「ほら、貴女も立って。で? 説明して兄さん」

 

「んー、詳細は彼女のプライベートだから言えないが、簡単に言うと恋愛相談を受けて、駄目出ししたらこうなった」

 

「・・・・って言う事だけど間違いない?」

 

「・・・・ああ、概ねその通りだ」

 

「そう、良かった。てっきり兄さんがドS全開で貴女を落とそうとしてるのかと思っちゃった」

 

「おいコラ」

 

「え、志狼さんってやっぱりS?」

 

「コラ清香、やっぱりって何だ」

 

「そうだよ~、それもドS。皆も気を付けてね」

 

「成る程。らしいですね」

 

「Sと言う事は志狼さまにいじめられてしまうのでしょうか? そ、そんな事になったら、わ、ワタクシ──」

 

「静寐さん!? らしいって何!? あとセシリアは少し落ち着け」

 

「あはは、セッシー、エロ~い」

 

 何だろう。収拾が付かない。

 

「大体、何で俺が箒を落とそうとするんだ」

 

「え? だってこの娘兄さんの好みにどストライクじゃない」

 

「「えっ?」」

 

 図らずも俺と箒がハモった。

 

「長い黒髪のポニーテール、顔立ちはカワイイ系よりキレイ系、スタイルが良くって、何よりこの大きな胸! ね、どストライクでしょ?」

 

 箒をじっと見つめる。コラコラ、胸を隠すように抱えるな。胸がつぶされて形を変えるから逆にエロいぞ。しかし、言われて初めて気付いたが、明日奈の言う通りどストライクだ。

 やはり出会いがああだったからか、そう言う目で見てなかったし、何より彼女には想い人がいるしなあ。

 

「ああ、確かにな。良く見ればどストライクだ。だけど彼女には好きな人がいるから、俺が落とそうなんて気はないよ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「ふーん、そっか。ねえ、この娘もクラスメイトだよね?」

 

「ああ。・・・・えーと、篠ノ之箒さんだ」

 

 見ると、箒は真っ赤になって固まっていて、とても自己紹介出来る状態ではなかったので、俺が紹介する。

 

「篠ノ之? そう、この娘が・・・・」

 

「知ってるのか?」

 

「うん。代表候補生は入学前に学園内の重要人物についてレクチャーを受けるの。今年の最重要人物は兄さんと織斑一夏君の2人。次いで彼女の名前もあったから」

 

 成る程。篠ノ之束の妹ならそれも当然か。

 

「篠ノ之さん、私、結城明日奈。これから皆で学園施設見学ツアーに行くんだけど、良かったら一緒に行かない?」

 

「え? だ、だが私は・・・・」

 

「たまにはいいんじゃないか? そもそもお前、クラスにまだ女の友達いないだろう?」

 

「うっ、それは・・・・」

 

「もしかして、初日の俺との一件か?」

 

「うん。あれですぐに暴力をふるう女だと怖がられてしまって・・・・」

 

「ああ・・・・でもまあいい機会だ。この娘達なら大丈夫、一緒に行こうぜ」

 

「い、いいんだろうか?」

 

 清香達を見ると、皆微笑んで頷いてくれた。

 

「だってさ。ほら、行くぞ」

 

 俺は促すように箒の手を引く。

 

「あ、う、うん!」

 

 皆の輪の中に1人加えて、俺達は屋上を後にした。

 

 

 

 学園施設見学ツアーは皆が楽しんで、幕を閉じた。

 アリーナでは先輩達の模擬戦を見て、清香が興奮し、整備室では設備の充実ぶりに本音がはしゃいでいた。

 格納庫ではズラリと並んだ数十機のISに静寐が目を輝かせ、資料室ではIS雑誌に自分の水着グラビアを見つけたセシリアが恥ずかしがっていた。

 講堂では入学式に出られなかった事を明日奈が悔しがり、武道場では剣の腕を披露した箒が皆から拍手をされて照れていた。

 色々と回るうちに箒も皆と打ち解けたのか笑顔が増え、いつの間にか名前で呼び合うようになっていた。

 1日では回りきれなかったので、近いうちに第2回ツアーをやろうと言って、この日は解散した。

 

 

 

 織斑が明日奈に惚れた事について、何の対策もしてなかったのに気付いたのは、部屋に帰った後だった。

 

 

~side end

 

 

 

 




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