誤字報告をして下さった方ありがとうございました。
筆者も投稿前には推敲しているのですが、何度も書いて、見直しを繰り返すと自分では解らなくなってくるので大変助かりました。
今回は初のバトル回。今の自分にはこれが精一杯なので、筆者が伝えたかった光景が読者の皆さんに上手く伝わればいいな、と思います。
今回更にキャラ目線の1人称から全体目線の3人称で書いています。これは、バトルの為に目線が絶えず切り替わり、今まで通りでは上手く伝えれないと思ったからです。
尤も伝えきれてないかをも知れませんが、バトルがある回はこの書き方で行こうと思います。
それでは第13話、対セシリア戦をご覧下さい。
~all side
第3アリーナ観客席。そこは既に大勢の生徒で埋め尽くされていた。今期初のISバトルイベントである1年1組クラス代表決定戦。出場するのはイギリス代表候補生と2人の男性操縦者、いずれも注目度の高いメンバーだ。
このバトルは公式戦に認定され、個人の戦績に加味される為、ただの模擬戦ではない本気のバトルが予想される。よって、当事者である1年1組の生徒だけでなく、他のクラスの1年生や上級生である2、3年生、教職員までもが第3アリーナに詰め掛けていた。
その観客席の最前列に1年1組の生徒達が陣取っていた。
「う~、早く始まんないかなあ~♪」
「・・・・楽しそうねえ、貴女は。明日奈はやっぱり心配?」
「ううん、私は兄さんが勝つって信じてるから!」
「とは言え、下馬評通りセシリア有利は否めないだろうが・・・・そう言えば本音はどうしたんだ?」
試合を待ちきれない様子の清香、それを揶揄する静寐、志狼の勝利を信じる明日奈、戦況を予想する箒と四者四様の中で箒が1人足りない事に気付いた。そんな時、
「お~い、皆、お待たせ~♪」
相変わらずのほほんとした声で皆を呼ぶのは噂の本音。彼女は見知らぬ少女の手を引いていた。セミロングの水色の髪に赤い瞳、視力矯正が容易な今時珍しい眼鏡を掛けた大人しそうな美少女だ。
「皆、紹介するね~、ルームメイトのかんちゃんだよ~」
「・・・・どうも、4組の
「あ! 更識さん久し振り! 元気だった?」
「・・・・どうも結城さん、ご無沙汰してます」
「明日奈、彼女とは知り合いなのか?」
「うん、私と同期の代表候補生だよ」
「・・・・はい、一応序列3位をいただいてます」
「え、3位!?」
「明日奈より序列が上なのか!?」
驚いて簪を見る箒達。この大人しそうな少女が、明日奈より上の序列持ちとは思えなかったのだ。
明日奈と簪。操縦技術では明日奈の方が上だが、情報分析力や整備力では簪が上であった為、総合的に簪が上と判断され、今の序列となっている。
「そうだよ。更識さんは凄いんだから!」
「あ、いえ、私なんて・・・結城さんの方がずっと凄いです・・・・」
簪の手を握り何故か自慢気に語る明日奈。反対に簪は恐縮して、恥ずかしそうにしている。
「私もっと更識さんと仲良くなりたかったの。いい機会だから私の事は明日奈って呼んで?」
「え、いや、その・・・・」
「ねっ!」
「う、うん。あ、明日奈・・・・」
「うん! じゃあ私は・・・・うん、私もかんちゃんって呼ばせて貰おう!」
「え、それはちょっと」
「駄目?」
「うっ・・・・いえ、かんちゃんでいいです」
「やったー! ありがと、かんちゃん!」
思わず簪を抱き締める明日奈。簪も恥ずかしそうにしながらもどこか嬉しそうに見える。ともあれ美少女同士が抱き合っている光景は実に絵になり、中には鼻血を流している娘達もいた。
「ほら、仲良くなったのはいい事だけどそろそろ座ったら明日奈。周りの迷惑になるわよ」
周りの視線が気になり出したのか、パンパンと手を叩いて明日奈を嗜める静寐。それを感じ取った明日奈は「ゴメン、ゴメン」と口にしながら簪と一緒に席に着く。すると、彼女らの副担任である山田真耶の声がアリーナに響いた。
『お待たせしました。間もなく第1試合を始めます。尚、予定を変更して第1試合はセシリア・オルコット対結城志狼になります』
突然のカードの変更に一瞬観客席がザワめくも、山田先生のアナウンスがそれを掻き消す。
『それではNピットより、セシリア・オルコット選手の入場です!』
アナウンスが終わるなり、アリーナに飛び出す一閃の青───
イギリス代表候補生セシリア・オルコットの駆る第3世代型IS『ブルー・ティアーズ』が姿を現した。
その名の通り青く美しい装甲をした優美な機体だ。操縦者のセシリアも友人達の声援に手を振る余裕もあり、人機共に万全の様子だ。
『続いてEピットより、結城志狼選手の入場です!』
アナウンスに続き、アリーナに姿を現したのは異形の機体。
「
観客の誰かがこぼしたように、全身装甲型とは最初のIS『白騎士』やその他のごく一部の第1世代型のみに使われていたもので、ISバトルで操縦者の顔が見えるタイプが主流となった現在では凡そ使われないタイプなのだ。尤も詳しい者が見れば絃神製のI-0『ゲシュペンスト』そのままであると気付いただろう。
白い機体はそのまま空を飛び、ブルー・ティアーズと同程度の高さまで上がると30m程離れて停止した。
「・・・・志狼さま、ですの?」
「ん? ああ、これでいいかな?」
そう言うと機体のマスクを開いて素顔を見せる志狼。彼の顔を見てホッとしたのか、セシリアが話し掛ける。
「驚きました。まさか全身装甲型とは・・・・それが志狼さまのISですか」
「ああ、まあ今は事情があって完全じゃないんだけどな」
志狼はディスプレイの残り時間を見ると、14:35と表示されていた。後15分───
「? それはどう言う──」
「いや、こっちの事情だから気にしないでくれ。それより時間が押してるようだし、そろそろ始めようか」
「ええ。あの時のように、ただ守られているだけの
会話の終わりを待っていたかのようにブザーが鳴り響き、
『第1試合、セシリア・オルコット“ブルー・ティアーズ”対結城志狼“孤狼”試合開始!!』
バトルが始まった!
バトル開始から5分、試合は一方的な展開になっていた。下馬評通りセシリアの『ブルー・ティアーズ』が志狼の『孤狼』を追い詰めているのだ。
開始直後、一気に距離を詰めた孤狼がオープニングヒットとなる右ストレートを決めるもブルー・ティアーズのシールドバリアに阻まれ、自身のSEも減じる結果となった。
ISバトルは相手のSEを0にするか、操縦者を戦闘不能状態にする事で勝敗が決まる。
ISの全身はシールドバリアによって守られている。これは機体の
その結果、格闘戦仕様の孤狼は離れればブルー・ティアーズの射撃で、近付いては攻撃がヒットしたとしても自身のSEも削る事になり、打つ手がなく、後はただ逃げ回る事しか出来なくなってしまった。
「何だよアイツ、さっきから逃げてばかりじゃないか!」
第3アリーナWピット。織斑一夏は試合をモニターで見ながら憤っていた。一夏の専用機『白式』は現在最適化作業中。その時間を稼ぐ為にも志狼が逃げ回っている事を知らない彼は、ただただ志狼の戦い方に不満を洩らしていた。
弟のそんな声を聞きながら、千冬は志狼の機動に感心していた。第3アリーナは300m×300mの広さしかないアリーナとしては小規模のもので、セシリアのブルー・ティアーズからすれば端から端まで全て射程内なのだ。そんな中を逃げに徹しているとは言え、ISに乗り1週間の人間が未だに仕止められていないのだ。
上下左右絶えず動き回る事で照準から外れ、相手の攻撃位置を推測して回避し続けるこの機動は、ハイパーセンサーを駆使して相手の視線や指先の動きを読み、回避すると言う現役時代の山田真耶が得意とした戦法『
──真耶の奴、あの僅かな期間で結城にここまで仕込んだのか!
操縦者としては現在の真耶と戦ったとて決して負けないと自負する千冬だが、果たして教師として人を教え、導く力は真耶の方が上かも知れないと、可愛がっていた後輩の隠れた実力に驚愕していた。
───最適化完了まで後、7:35
「このままじゃ駄目ね、彼」
「う~ん、そうだね」
第3アリーナの観客席の中段辺りに高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの姿はあった。
「回避技術は中々のものだけど、このままじゃ捕まるのは時間の問題だね」
「・・・・うん」
「どうしたの? 彼が思った程じゃなくてがっかりした?」
「・・・ううん、しろくんは間違いなく強いよ。でも今の彼には違和感があって・・・・まるで枷を着けて戦ってるみたい。あれ、ホントに専用機なのかなぁ?」
「・・・・そう言う話だったけど?」
「最初はセシリアちゃんと織斑君が戦うはずだったよね? でも、急遽しろくんに代わった。・・・・織斑君の準備が出来てないから、出ざるを得なくて、時間稼ぎの為に逃げ回っているとしたら?」
「!? それって・・・・」
「でも、あの違和感はそれだけじゃないような・・・・ううん、分かんないや」
なのはは考えるのを止めた。考ても分からない事は考えない。いたってシンプルに割り切ったなのはは、ただ志狼の戦いを見守る事にした。
───最適化完了まで後、5:12
「ああ、危ない!」
「どうしたのだ志狼は、逃げてばかりではないか!」
最前列に陣取る1年1組の様子は4つに分かれていた。1つは志狼と仲が良い者を中心とした親志狼派。志狼が被弾する度に悲鳴が上がっている。2つ目は親セシリア派。彼女に憧れる者を中心とした所謂ファン達。3つ目は中立派。志狼に対する悪感情はなかったものの、逃げ回っている志狼の戦い振りに不満を感じている模様。最後が最も少数の女尊男卑主義者。積極的にセシリアを応援し、志狼が被弾する度に昏い嘲笑いを浮かべている。
そんな親志狼派にて、
「・・・・明日奈、どう思う?」
「うん、明らかに兄さんらしくない戦い方をしてる。兄さんなら例え不利でも積極的に攻めるはずだよ」
「・・・・機体がおかしい」
「うん、専用機って事だけど、ホントかなあ~」
静寐の問いに明日奈が答えると、簪と本音が機体の様子がおかしい事を疑問視する。
「それはどう言う事だ?」
「・・・・私はその志狼さん?の事を知らないから見たままを言うけど、機体が操縦者に追いついてない」
「うん、しろりんの反応速度に機体がついて来てない。専用機ではあり得ないよ~」
「そんな! じゃああれは何だって言うの!?」
「落ち着いて、明日奈。貴女も専用機持ちなんだから分かる筈。専用機が操縦者の反応速度に遅れるなんてあり得ないって。でも、あの機体は明らかに操縦者と合ってない。と言う事は?」
「! まさか・・・・かんちゃん貴女は兄さんが最適化されてない初期状態で戦ってると言うの!?」
明日奈の一言に話を聞いていた周りの娘達がザワついた。
「多分間違いない。恐らく最適化が現在進行中なんだと思う。だから志狼さんは逃げて時間を稼いで、その時が来るのを待ってるんじゃないかな?」
「兄さん・・・・・」
簪の見解は聞けば聞く程、納得出来るものだった。兄らしくない消極的な戦い方、挙動の怪しい機体、時間稼ぎをする理由など全てに納得が行く。
「その最適化とはどのくらい時間がかかるんだ?」
「・・・・分からない。プログラマーの腕によって短縮出来るけど、それでも30分から1時間以上かかる事もあるから・・・・」
「そんな・・・・」
箒の問いに簪が答えるも、その答えは絶望しかもたらさなかった。『蒼穹の狙撃手』の異名を持つセシリアから1時間も逃げ切る事など出来る訳がない。
明日奈はただ、一刻も早く最適化が完了する事を祈るしか出来なかった。
───最適化完了まで、後2:56
「くっ!」
右肩に衝撃を受けて、弾き飛ばされる。最初はセシリアがスナイパーライフル『スターライトMk-Ⅲ』しか使わなかったので、真耶から伝授された方法で回避出来たが、業を煮やしたのか、4機のBT兵器『ブルー・ティアーズ』を使い出すと徐々に被弾数が増えて来た。
試合時間が13分を過ぎた頃には、遂に囲まれてしまった。
「お見事でした志狼さま。この
「・・・もう勝ったような言い方だな」
「ええ、チェックメイトです」
確かに孤狼はもうボロボロだ。もう後1、2発食らえばSE切れを起こし敗北するだろう。
「代表候補生である
「あいにく往生際が悪くてね。遠慮させて貰うよ」
「貴方はそう言う方ですわね・・・・では、これで最後です。行きなさい『ブルー・ティアーズ』!!」
セシリアの号令と共に4機のBT兵器が一斉に襲いかかった。
四方からレーザーを撃ちながら孤狼に迫る。志狼はPICを切り、自由落下する事で回避すると直上に向けて何かを発射した。セシリアは2機のBT兵器を操り撃ち落とすと、大量の煙が広がった。
「煙幕!?」
周囲に広がった煙幕によって孤狼の姿を見失ったセシリアはハイパーセンサーを駆使して孤狼を捜す。エネルギー反応を真下に感じ、4機共そこに向けてレーザーを発射する。
───次の瞬間、衝撃と轟音そして閃光がアリーナを揺るがした。
第3アリーナEピット。モニターに表示されたデータを見て、浅葱は豊満な胸を撫で下ろした。
「間に合ったあ・・・・さあ、反撃開始よ、志狼!」
「何だよ、これで終わりかよ」
第3アリーナWピット。自機の最適化が完了する前に試合が終わってしまい、結局逃げるだけで何も出来なかった志狼に呆れた声を洩らす一夏。だが、
「いや、まだだ!」
共にモニターを見ていた千冬が声を上げる。そのモニターに映ったのは──
「これは・・・・なのは!?」
「フフ、アハハハ! そうか、そう言う事かしろくん! 成る程道理で時間稼ぎをする訳だ。さあ、見せて貰うよ、君の本当の力を!!」
悦びに声を上げるなのはの目に映ったのは──
「兄さん!!」
セシリアの攻撃で起きた衝撃と轟音、そして閃光。最適化が完了してない機体では到底耐えられないだろう攻撃を受け、明日奈はただ、志狼の無事を祈るしかなかった。しかし、
「大丈夫。明日奈、あれを見て!」
簪の声に彼女が指差す方向を見ると、アリーナの電光掲示板がある。そこには対戦中の機体の状況が表示されている。機体名、操縦者、残りSE、ダメージレベルなどが表示される中、孤狼のSEやダメージレベルが回復しているのだ。
「! こ、これは・・・・」
「ふう~、間に合ったみたいだよ、あすにゃん」
そう呟いた本音の視線の先に映ったのは──
最初に感じたのは空気を震わせる低い震動。そこから高く、アリーナ中に響き渡る音。それはまるで───
「・・・・狼の、咆哮───!?」
セシリアにはそう聞こえた。次の瞬間、猛スピードで自機の目の前を通り過ぎ、直上に位置する1機のIS。だが、さっきまで戦っていた機体とは姿がまるで違う。
セシリアが感じたのは重厚さ。全身装甲型なのは同じだが、両肩のパーツが大型化し、各部の装甲が厚くなっている。背中には4枚のフィン・スタビライザーがあり、頭部には大きな1本の角。そして、機体の色が白から鮮やかな赤に変わっていた。
「これは・・・・志狼さま、ですの?」
そう言いながらもコア・ネットワークから得た情報は目の前の機体が孤狼であると示している。
「待たせたな、セシリア」
孤狼のマスクが開き、先程のように志狼が顔を見せる。
「ようやく最適化が終わったよ。これでやっと勝負出来る」
「!
「そう言う事だ。ああ、言っておくが決してセシリアを舐めていた訳じゃないぞ。止むを得ない事情って奴でな。取り敢えず全部倉持技研が悪い」
「は、はあ・・・・・・?」
「さて、それじゃ仕切り直しと行こうか。勝負はこれからだぞ、セシリア!」
志狼はマスクを閉じ、孤狼の出力を上げる。途端に響き渡る高音、それはやはり咆哮の如く───
「赤い、狼───!?」
セシリアの呟きと共に、赤い狼が青き狙撃手に襲いかかる。
「な、何だよあれ! あんなの反則だろ!?」
Wピットでモニターを見ながら一夏が憤る。一次移行が完了し、姿が変わってから先程とは攻守が逆転していた。
ブ厚い装甲をした鈍重そうな外見ながら孤狼の動きは速かった。そして、先程と違うのは孤狼の拳撃が相手のSEを削るだけで自機のSEは一切損なわないのだ。
孤狼の拳撃がヒットする前に拳が光を放つ。この光がSEが減らない秘密のようだが、今の所正体は不明だ。
「ったく、オルコットの奴やられっ放しじゃねーか!」
「黙れ! そして良く見ておけ! お前はこの後、あの2人と戦うんだぞ。何の対策もなしに勝てる相手だと思ってるのか!?」
千冬に怒鳴られ縮こまる一夏。だが、千冬の目はモニターから動かず、画面の中の赤と青の
「凄い・・・・・あの踏み込みの速さといい、あの光る拳といい、セシリアが一方的にやられてるなんて信じられない」
「フフフ、それだけじゃないよ。あの機体、孤狼のコンセプトが何となく分かったよ。いや~流石しろくん、頭おかし~!」
一次移行した孤狼の戦い振りに感心するフェイトに何かが分かったのか笑みを浮かべるなのは。
「どう言う事?」
「うん? あの機体の加速力と重装甲、そしてしろくんの戦闘スタイルを考慮すると、要するに孤狼は一発の銃弾、いやこの場合は砲弾かな?」
「・・・・重装甲で身を守り、加速力で近付きインファイトに持ち込むと言う事じゃないの?」
「クスッ 違う違う。その戦い方は副次的なものだよ。言ったでしょ? 1発の砲弾だって。あの機体、孤狼は格闘型なんかじゃなく一点突破の特攻型。自機を一発の砲弾に見立てて機体ごとぶつけて相手を粉砕する、その戦い方こそがあの機体の真骨頂なんだよ」
「! まさか・・・・そんな事」
「ねっ、頭おかしいでしょ♪ いくら自分がISの素人だからってこんな一か八かの機体なんて考えたって作らない、まして自分が乗るなんてしないよ~」
結論から言えばなのはの読みは大正解であった。確かに孤狼のコンセプトを考えた志狼は頭がおかしいと言われても仕方がない。だが、それを読み切ったなのはにも同じ事が言えるのではないだろうか、フェイトは漠然とした不安を感じるのだった。
第3アリーナの観客は大いに沸いていた。志狼の圧倒的不利な状況からの大逆転。それは観客席の少女達の目にはまるで物語のヒーローのように映っていた。
「行けー、志狼さん!」
「兄さん、頑張れー!」
「セシリアも負けるなー!」
「セシリアさん、ファイト!」
目の前で激戦を繰り広げる2人に声援が飛ぶ。操縦者を目指す少女達はいつか自分もこんな凄いバトルをしてみたいと、その瞳に憧れと情熱を浮かべていた。
管制室で1人、真耶は志狼の勝利を祈っていた。己が価値を示さねばならない志狼。その為には善戦ではなく勝利と言う結果が欲しい。
真耶は僅か1週間ではあるが、己が愛弟子であった青年が自らが望む未来を勝ち取れるよう、祈り続けた。
「頑張って、志狼くん」
「くっ! 速い!」
脅威的な加速力で孤狼にピッタリと貼り付かれ、引き剥がせない。ジャブを主体とした速く細かい連打で徐々にSEが削られて行くが、先程までと違い、こちらが一方的にSEを削られ、孤狼は全くの無傷なのだ。一応こちらにも『インターセプター』と言う近接戦用ショートブレードがあるが、セシリア自身接近戦は苦手で、今までの相手にはこれ程の接近を許した事はなかったので、使える自信が全くなかった。
となれば、何とかして距離を取らねば勝ち目はないと考え、セシリアは賭けに出る事にした。
「流石です、志狼さま。ですが、
セシリアが4機のBTを動かし孤狼の背後を狙う。これを見た志狼はブルー・ティアーズにピッタリ追従して撃てばセシリア自身に当たるように位置を取る。
しかし、これはセシリアの罠だった。ピッタリと貼り付いた孤狼に向けて、残った2機のBTを発射する。
「残念ですが志狼さま、BTは実は6機ありましてよ!!」
「なに!?」
「とっておきのBTミサイル、食らいなさい!!」
至近距離でミサイルが孤狼に命中し、孤狼のSEが一気に半分近くまで減る。しかし、至近距離での爆発はブルー・ティアーズをも巻き込んで両機を弾き飛ばした。
ブルー・ティアーズは今の衝撃でSEが残り2割になってしまったが、待望の距離を稼ぐ事に成功した。孤狼との距離は凡そ50m。孤狼の加速力を持ってしても一気に近付けない距離だ。
先程の爆発から盾にしたせいか、銃身の曲がってしまった『スターライトMk-Ⅲ』を拡張領域にしまい、スペアのライフルを取り出す。しっかりと孤狼に照準を合わせ、すうっと息を吸う。
図らずも次の一撃が最後だと、お互い決意したのが解るかのように、志狼とセシリアは同時に言い放った。
「「これで最後(だ)(ですわ)!!」」
セシリアは4機のBTを孤狼の進路上に配置し、レーザーをかわした所を狙撃出来るようにライフルを構える。
孤狼は再度、狼の咆哮のようなブースト音を上げながら加速する。
ここでセシリアに誤算が生じた。孤狼が全く回避せずに真っ直ぐ突っ込んで来るのだ。だが、回避しないならこのまま集中砲火を浴びせれば良いと考え直し、引き金を引こうとした瞬間───孤狼の姿が消えた。
ハイパーセンサーで孤狼を捜そうとするも、その必要はなかった。何故なら孤狼は既に目の前にいたのだから。
「───
BTの射撃直前、志狼は未完成の瞬時加速を発動。一気に距離を詰める事に成功した。そして、
「これで最後だセシリア! 食らえ、リボルビング・ステーク!!」
孤狼の右腕にコールと共に長大な杭打ち機がセットされる。
───6連装パイルバンカー
「リボルビング・ステーク」
孤狼の主要武装の一つであるこの武装は男なら一度は憧れるロマン武器。絃神のカタログでこれを見つけた志狼は真っ先にこれの使用を熱望。操縦者が望むならと取り付けられたこの武装は、孤狼の加速力と武装自身の攻撃力が相俟って凄まじい破壊力を生んだ。
凄まじい衝撃が3度生じると、ブルー・ティアーズの残りSEが一気に枯渇した。そして、
『“ブルー・ティアーズ”SE残量0、及び操縦者セシリア・オルコットの戦闘不能を確認。よって、第1試合は24分12秒で結城志狼“孤狼”の勝利です!』
真耶のアナウンスが終わると、歓声が沸き上がった。
~side end
読んでいただきありがとうございました。
次回は解る方もいるでしょうが、対一夏戦です。
今回程長くならない予定ですが、筆が乗るとその限りではないかも。