いつの間にかUAが25000を越えて、評価バーがオレンジ色になっていました。
こんなに沢山の人達に読んで貰えるとは思ってなかったので、驚いています。
本当にありがとうございました。
今回は対一夏戦です。思ったより筆が乗って書き上がってしまったので、投稿します。
それでは、第14話ご覧下さい。
~all side
第3アリーナに歓声が沸き上がる。
見事な逆転勝利を飾った志狼と最後まで戦い抜いたセシリアの2人へ惜しみない拍手と称賛の声が送られていた。そして次の瞬間、悲鳴が上がった。
セシリアのブルー・ティアーズが落下し始めたのだ。
彼女は孤狼の最後の一撃を受け、戦闘不能、即ち失神していた。ISの飛行を司るPICが一定時間操縦者からのアクセスがなかった為切れたらしく、重力に引かれて落下する。
ISには絶対防御があるとは言え、今のブルー・ティアーズはSEが枯渇しているので、どこまで働くかは分からない。落下するブルー・ティアーズを見て最悪の状況を想像し、悲鳴を上げた観客達の、
───想像通りにはならなかった。
地上に落下する直前、孤狼が持ち前の加速力を発揮し、ブルー・ティアーズを受け止めたのだ。その拍子にSE切れしていたブルー・ティアーズが待機状態になり、孤狼の腕の中には気を失ったセシリアが残された。
「う、ううん・・・・」
「セシリア、大丈夫か?」
志狼の声にセシリアがうっすらと目を開く。
「・・・・志狼さま?」
「ああ、俺だよ。状況は分かるか?」
孤狼のマスクを開き、志狼が素顔を見せて問いかける。数秒の間を置いて、
「・・・・
「ああ、今回は俺の勝ちだ」
「・・・・もう、乙女をあんな太いもので三度も突くなんて、酷い方ですわね」
「ちょっと待てセシリア。その言い方は止めなさい」
「? 何がですの?」
天然かよ! ったくこの天然エロ娘は!
「あのな、その言い方だと、~~~~っと聞こえる訳だ。解ったか?」
志狼がセシリアに説明すると、彼女の顔が瞬時に真っ赤になった。
「わ、
「ああ、うん、分かってる。それより体の具合は? 気分は悪くないか?」
「あ、はい、大丈夫です。痛みもありませんし、気分も・・・・どちらかと言えば、ふふ、心地いいですわ」
「? そうか。それじゃこのままピットに行くぞ?」
セシリアを抱えたまま、孤狼がホバー走行で移動を始める。
「はい。・・・・所で志狼さま、覚えていらっしゃいますか?」
「うん?」
「初めて会った時もこんな風に抱き抱えられましたわ」
「・・・・そうだな」
今のセシリアはISスーツ姿で 孤狼にお姫様抱っこされている状態だ。確かに2人が初めて会った時と似たような状態だなあ、と志狼は感慨深げに思った。
「あの頃の
「そうだな・・・・うん。君は強く、そして美しい、素敵なレディになったよ、セシリア」
「!! ・・・・・もう、本当にズルい人」
赤くなった顔を見せないように横を向くセシリアに、志狼は苦笑を浮かべつつ、Nピットに入っていった。
第3アリーナWピット。一夏の専用機『
「一夏、次はお前の番だ。相手は結城だが、やれるな?」
「ああ、あんな卑怯者、俺がブッた斬ってやる!」
一夏の目に宿るのは怒りの炎。卑怯な真似をして勝利を収めた志狼を許すものかと、燃えていた。
「一夏!? お前何を──」
だが、一夏はもう千冬の方を見ず、目を閉じていた。選手のコンセントレーションを乱す訳にもいかず、一旦引いたが、千冬は漠然とした不安を感じずにはいられなかった。
「やったわね、志狼!」
「やるじゃねえか、この野郎!」
「ありがとう。2人のおかげだ!」
第3アリーナEピット。浅葱と矢瀬に迎えられた志狼は2人とハイタッチを交わしていた。
「しっかし、イギリスの代表候補生を撃破とはなあ。こりゃ次も楽勝か?」
「おバカ! 相手のデータは何もないんだから、油断なんかしてらんないわよ! 志狼も分かってる!?」
「勿論だ。油断も慢心もしないよ。セシリア並の相手と想定して戦うさ」
言葉通り、グローブをしっかりはめ直し、真剣な表情を浮かべる志狼。
「そ、そう。ならいいのよ。基樹! エネルギーの補給と点検やっといて! 私はデータのチェックをするから!それと志狼! 貴方は今の内に体を休めときなさい!」
そそくさと志狼に背を向け指示を出す浅葱。それを見て面白そうな笑みを浮かべる矢瀬。
「いや~、春だねえ」
「? そうだな。今は春だな」
「クク、いや、そう言う意味じゃねえんだがな」
意地の悪そうな笑みを浮かべて、志狼の肩を叩くと矢瀬が作業に戻る。志狼は言われた通り体を休めようと、ソファーに腰を下ろそうとすると、ピットに備え付けの電話が鳴った。2人が作業中の為、志狼が出ると管制室の真耶からであった。
『志狼君、まずは初勝利おめでとうございます』
「ありがとうございます。これも真耶先生の指導のおかげです。これからもよろしくお願いします」
『はい! こちらこそ。所で孤狼は今、どんな状況ですか?』
「はい。今、エネルギーの補給とダメージの点検をしていまして、ちょっと待って下さい・・・矢瀬! どのくらいで終わる? ・・・分かった。お待たせしました。後10分で出撃出来ます」
『分かりました。ではWピットにも伝えておきます。また後程』
「はい。ではまた」
電話を切り、浅葱と矢瀬に向かい、
「2人共! 10分後に再出撃する。準備よろしく!」
「「了解!!」」
そんな2人を見て、自分はスタッフに恵まれたと志狼は思った。
例えどんな思惑があったとしても、絃神を自分の担当にした政府の誰かに心の中で感謝した。
第3アリーナ観客席。先程の試合の熱も冷めやらぬままに、あちこちで会話に花が咲いていた。中でも最前列に陣取る1年1組は大いに盛り上がっていた。
「いや~凄かったね、流石志狼さん!」
「セシリアも最後には一矢報いていたものね」
「どうだったかんちゃん? うちの兄さんは」
「・・・・うん。カッコ良かった」
一部の女尊男卑主義者を除いて、皆が志狼とセシリアを称賛していた。そして、話題は自然と次の試合へと移って行った。
「そう言えば箒、織斑君って強いの?」
「・・・・正直に言えば決して強いとは言えない。剣道で言えば県大会のベスト8くらいのレベルだろう」
「そこそこって事?」
「そうだな。ただ、ISに関しては全く分からん。この1週間触ってもいないからな」
「「「「えっ!?」」」」
箒の言葉を聞いていた全員が自分の耳を疑った。周りのその反応に箒が逆に驚いた。
「な、何だ、その反応は!?」
「いやいや、ISに触ってないの? ISバトルなのに?」
「あ、ああ」
「どうして? 特別に借りる事くらい出来たでしょうに」
「いや、いつぞやのSHRで1年生は今の時期、貸出し出来ないと言われて、そのまま・・・・」
1組の皆は、ああ、そう言えば、と数日前の事を思い出した。しかし、
「だからっておりむーは何も言わなかったの?」
「ああ、使えないなら仕方がない、と」
「・・・・馬鹿すぎる。IS舐めてるとしか思えない」
「ねえ箒、兄さんが放課後、真耶先生に訓練を受けてたのは知ってる?」
「えっ!?」
「知らなかったんだ・・・・でも、同じ立場なんだから言えば対処してくれたはずだよ。先生には相談しなかったの?」
「私はしてない。恐らく一夏も・・・・」
「「「「・・・・・・」」」」
今の話を聞いて、次の試合はダメかもしれない、と1年1組の一同は思った。
『皆さん、お待たせしました。これより第2試合を開始します』
真耶のアナウンスが再びアリーナに響く。会話を弾ませていた観客達は席に着き、アリーナに注目する。
『それではEピットより、結城志狼選手の入場です!』
アナウンスの終了後、アリーナに飛び出す赤い疾風───孤狼が姿を現した。
赤い全身装甲の機体は先程の試合のダメージを感じさせず、日の光を受けて輝いていた。
『続いてWピットより、織斑一夏選手の入場です!』
アナウンスが終わるのが待てないとばかりに終了と同時に飛び出す白い影。
どこか西洋鎧を思わせる純白の機体。織斑一夏の専用機『白式』であった。
2機のISは30m程の距離を空けて対峙した。そして、
「結城! 俺はお前みたいな卑怯者には絶対負けない!」
いきなり一夏が、よりにもよってオープンチャネルで言い放った。
先程まで歓声が聞こえていたアリーナが嘘のように静まり返った。まさかそんな事を言われるとは思ってなかった志狼は、また一夏独自の勘違いだろうと踏んで、こちらもオープンチャネルで話しかける。
「真耶先生。審判でもある先生に質問しますが、先程の試合で俺は卑怯と罵られるような事をしましたか?」
すると、管制室からこちらもオープンチャネルで真耶が答える。
『いいえ。そんな事はありません。両者共実にクリーンな戦い振りでした』
「ありがとうございます、と言う事なんだが織斑、お前は俺のナニを持って卑怯だと言うんだ?」
「だってあれは反則だろ! 試合中にエネルギーやダメージが回復するなんてあんなのアリかよ!」
成る程。試合中に一次移行して、エネルギーやダメージが回復した事がこいつには卑怯に見えたのか。
「織斑、あれは1回こっきりの事だ。お前との試合では出来ないから心配いらないぞ?」
「そ、そんな事心配してねーよ! 俺が言ってるのは試合中に回復する事自体が反則だって言ってるんだ!」
「と、言う事ですが、試合中のエネルギーの回復について何かルールがあるんですか、真耶先生」
『いいえ。チーム戦で回復ポイントを設け、回復したと言う例はありますが、1対1のバトルの最中にエネルギーが回復した例はありません。よって、前例がないと言う事はそれに関するルールも存在しません』
「ありがとうございます。つまり反則にはならないそうだぞ、織斑。そもそも俺が最適化の完了してない状態で出る羽目になったのは、お前の専用機が時間通りに届かなかったせいなんだが?」
「で、でも実際回復したんだから──「ならばお前は何を求めてるんだ。俺の反則負けか? セシリアと再試合しろと言うのか? 言ってみろ」・・・そ、それは・・・!」
志狼の問いかけに言葉を詰まらせる一夏。どうやら試合中にエネルギーが回復した、と言う事実を元に志狼を糾弾したかっただけなのか、一夏からは何の要求も出て来なかった。
「もういいか?」
何も出て来ないようなので、志狼がこう尋ねると、一夏はキッと志狼を睨みつけ、言った。
「まだある! 女をあんな風に殴り付けるなんて、あれが男のやる事かよ! 女は守るものだぞ! それをあんな一方的に殴るなんて、男として恥ずかしいと思わないのかよ!」
「・・・・なら、どうすれば良かったと?」
「あ!? そんなの適当に手加減してやりゃ良かったじゃねーか! 男の癖に女相手に本気出してんじゃねーよ、みっともない!」
志狼は呆れ果てていた。一夏は自分の主張がどんな意味を持つのか分かっていないようだ。志狼は周りに自分も同意見だと思われないように反論した。
「織斑、お前自分の言ってる事の意味が分かっているのか?」
「あん?」
「・・・・お前は今、全ての女性操縦者を敵に回す発言をしたんだぞ?」
「ハア!? 何でだよ!」
「お前の主張は男は女を守るものだから、戦うなら手加減をしろ、と言う事で間違いないか?」
「あ、ああ・・・・」
「それって、要は女は男より弱いから本気で戦う価値はない、と言ってるのと同じだぞ」
「え? あ・・・・・・!」
「先の試合、俺はセシリアと本気で戦ったぞ。そもそも真剣勝負の場では男も女も関係ない。それを女だから手加減しろだなんて、女を、そしてバトル自体を馬鹿にする行為だ。お前は自分の姉がして来た事を否定する気か?」
「!!」
「それをよりにもよってオープンチャネルで言うとはな。お前の考え方は20年以上前の考え方、所謂男尊女卑と言う奴だ。今の世の中では通用しない考え方だよ。観客席を見てみろ。皆お前に反発してるのが分かるだろう」
志狼にそう言われ観客席を見ると、そこで見たのは少女達の怒りの表情。ハイパーセンサーの高感度はこういう時無情だ。1人1人の表情がはっきりと見えるのだから。
「うぅっ!」
己が失言を悟り、流石にマズいと思った一夏だったが、時すでに遅し。もはや一夏の味方をしてくれる者は誰もいなかった。
特に一夏を打ちのめしたのは、幼なじみの箒と、そして近頃何故か気になっていた明日奈が揃って侮蔑の表情で自分を見ていた事だった。
第3アリーナWピット。モニターから一部始終を見ていた千冬は頭を抱えて蹲っていた。
「あの、大馬鹿者がぁぁぁーーーっ!!」
第3アリーナ管制室。一夏の発言を聞いて流石に真耶も驚いていた。そんな時通信が入った。相手は志狼、今度は双方向通信だ。
「はい、こちら管制室、山田です」
『結城です。単刀直入に聞きますが、試合はどうなります?』
「そうですねえ。正直織斑君のメンタルはボロボロでしょうし・・・・一応本人に確認してみましょうか」
『お願いします。分かったら連絡下さい』
通信を終えると真耶は一夏に連絡を取った。
どこからか通信が入っている。ノロノロとした動作で通信機をオンにすると、山田先生であった。
『こちら管制室、山田です。織斑君、大丈夫ですか?』
「や、山田先生・・・・」
『織斑君、単刀直入に聞きますが試合はどうします? 棄権しますか?』
真耶の目から見ても、一夏の精神状態はとても試合が出来るようには見えなかった。だか、
「───やります」
小さく、か細い声ではあるが、一夏はやる、と言ったのだ。選手がその気ならば止める事は出来ない。
『分かりました。では、間もなく試合を開始します』
そう言って真耶は通信を切った。そして、
「そうだ試合だ試合で勝って俺が正しい事を証明すればいいんだ大体結城の奴が反則しなきゃこんな事にはならなかったのにあんな奴ブッた斬って2度と俺に逆らえなくしてやるそうすれば皆も俺が正しいって分かる筈だそうだ俺が皆を守るんだそうすれば箒も明日奈も目を覚ますはずだそうだ勝った者が正しいんだだから俺が勝つんだ───!」
一夏のこの様子を知るのは白式だけだった。
第3アリーナは異様な雰囲気に包まれていた。試合前に暴論、暴言を吐き、全生徒を敵に回した織斑一夏がそれでも試合をやると言ったのだ。本人がやる気ならばと結城志狼も承諾し、ここに改めて第2試合が行われた。
『それでは第2試合、結城志狼“孤狼”対織斑一夏“白式”、試合開始!』
バトルが始まった。
開始早々、いきなり白式が突っ込む。
「うおおおおーーーっ!!」
雄叫びを上げて突っ込んで来る白式に、志狼は冷静に対処する。武器も持たず、ただ突っ込んで来るだけと判断し、交差する瞬間、光を纏った右拳が白式のボディにカウンターで命中する。
「ガハッ!!」
苦悶の声を上げて吹き飛ぶ白式。シールドバリアは攻撃を防いでくれるが、その衝撃までは完全に消す事は出来ない。カウンターの一撃は白式より、むしろ一夏にダメージを与えていた。
一撃を喰らって頭が冷えたのか、今度は少し距離を取って様子を見る一夏。だが、ここで志狼は拡張領域から1つの武器を左腕にコールする。
───3連装マシンキャノン
「グランディネ」
格闘戦仕様の為、近接戦用の武装ばかりになった孤狼に不安を感じた浅葱が、中距離戦用の武装も取り付ける事を進言し、採用された武装。
射撃が苦手な志狼でも当たるように、点ではなく面で制圧する事を目的とした速射性と連射性に優れた射撃武器である。
因みにグランディネとはイタリア語で雹の意味。
左腕の3つの砲口が火を吹く。全く予想していなかった孤狼からの砲撃を白式はまともに喰らってしまう。
「うわあああーーーっ!」
たまらず距離を空ける白式。既にSEは4割程しか残ってない。一夏は自分にも武器があるはずと拡張領域を探す。そこにあったのは一振りの剣。
───日本刀型近接ブレード「
かつて日本代表として戦っていた姉、千冬の専用機『暮桜』の専用武器であった『雪片』。その名と力を継承したこの『雪片弍型』に、一夏は千冬の想いを感じずにはいられなかった。
「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」
拡張領域から雪片弍型をコールし、構える。この剣を持っただけで体の奥底から力が湧いて来るのを一夏は感じていた。
ようやく武器を抜いた白式を警戒する志狼。コア・ネットワークから白式の剣を検索し、その正体を掴む。
「なかなか厄介な武器を持っているようだな。だが!」
志狼は左腕のグランディネを拡張領域に戻し、代わりに右腕にリボルビング・ステークをコールし、構えた。
30m程の距離を空け、対峙する赤と白。
両拳に光を纏わせ構える孤狼、対峙する白式も青眼に構えた雪片弍型が変形、エネルギーの刃を形成する。
互いに次の一撃を必殺とする気概で集中力を高める2人。そして───
試合終了のブザーが鳴った。
『“白式”SE残量0、よって、第2試合は8分21秒で“孤狼”結城志狼の勝利です!』
真耶のアナウンスが試合の終了を告げる。だが、先程と違い歓声も罵声も起きなかった。あるのは、ただ白けきった空気と一夏の叫びだけだった。
「何でだああああっーーーー!?」
~side end
~志狼side
深夜0時。俺は何となく眠れずにベッドの上で今日の出来事を思い返していた。
クラス代表決定戦はかなり問題があったが取り敢えず終わった。
セシリアとの第1試合は互いに全力を尽くした良い試合だった。初めてのバトルを勝利で飾る事が出来たのは素直に嬉しかった。
続く織斑との第2試合。これは蓋を開ければ呆気ない幕切れだった。この試合は試合よりも試合前の織斑の暴言の方が注目され、バトルは見向きもされないお粗末な内容だった。
バトルの結果は織斑のSE切れによる負け。どうやら白式が最後に出したエネルギー刃がえらくエネルギーを消費するらしく、睨み合ってる内にエネルギー切れを起こしたのだそうだ。何ともお粗末な結果に皆もただ呆れていた。
最後の第3試合。第2試合後に織斑先生から相当搾られたであろう織斑は心身共に疲弊した状態でセシリアと対峙したが、そんな状態で勝てる訳がなく、結果としてセシリアの圧勝だった。以前俺が危惧したような遠距離からチクチクとSEを削られ、何もさせて貰えないと言う遠距離戦用機のお手本のような試合運びであった。
試合の結果、俺が2戦全勝。セシリアが1勝1敗。織斑が2戦全敗とクラス代表を決める権利は俺が獲得した。
明日のHRで決める事になるが、俺はやりたくないのでセシリアに押し付け、もとい、やって貰おう。
そう決めた途端に眠気が来た。クラス代表が決まればしばらくはゆっくり出来るだろう。俺はそのまま眠りに落ちていった。
───白、白、白。
辺り一面が真っ白な世界に俺は立っていた。
何だここは? 俺はどこに来てしまったんだ?
俺は部屋で寝ていたはずなのに、いつの間にか学園の制服を着て、この真っ白な世界に来ていた。
白い地面は固くも柔らかくもなく、熱くも冷たくもない。でも踏んだ感覚からするとどうやら砂らしい。
白い砂の上をしばらく歩き続けると、俺が砂を踏む以外の音が聞こえて来た。
聞こえて来たのは寄せては返す波の音。その音に向かって歩き出すと、見えて来たのは黒い海だった。白一色の世界で初めて見た別の色。それを見て俺はここが砂浜だと知った。
しばらくこの景色を見ていると、いつの間にか波打ち際に1人の少女の姿があった。俺は彼女に近付いた。
近付いて彼女を見ると、白いワンピースを着た腰まである長い黒髪の少女と言うより幼女と言う年頃の女の子だった。残念ながら後ろ姿である事と、大きな白い帽子を被っていた為に顔までは分からなかった。
「こんにちは、お嬢さん」
俺が彼女に話しかけると、彼女はゆっくりとこちらを振り向いた。目深に被った帽子で口元しか見えなかったが、彼女は微笑んでいるようだった。
「1人かい? こんな所で何をしてるの?」
俺が彼女と目線を合わせようと、片膝をついて尋ねると、彼女は子供らしいやや舌足らずな口調で、
「まってた」
「待ってた? 誰を?」
俺がそう尋ねると、彼女は小さな指を俺に向けた。
「俺?」
彼女はコクンと頷いて、
「ずっと、まってた」
はっきりとそう呟いた。
「君は・・・・」
「あいにきて」
「・・・・・・」
「まってるから」
彼女がそう言うと、突然彼女と俺の間に突風が吹いた。その強さに一瞬、目を瞑り、再び目を開けた時には、
───彼女はもういなかった。
彼女の消えた白と黒の世界で、俺は1人佇み、やがて意識を失った。
目が覚めた。
俺は自分のベッドの上で寝ていた。格好は寝る前に着ていたTシャツとジャージ下で、学園の制服ではなかった。
「夢、か・・・・・」
俺は体を起こして呟いた。夢だとすればおかしな夢だった。夢診断されたら何と言われる事か。
白と黒の世界に1人佇む幼女。何故だろう、俺にとって彼女はとても大切な存在である気がしてならなかった。
「待ってる、か・・・・・」
そう言われてもどうすれば会いに行けるのだろうか?考えても分からない。俺は考えるのを止めて横になった。
明日、クラス代表が決まればしばらく何もない筈だ。ようやくゆっくりと出来る事だろう。俺は目を閉じて、眠りに着いた。
結果から言うと俺がゆっくり出来るのは当分先だった。次の火種はすぐそこまで来ていたのだ。
~side end
読んでいただきありがとうございました。
ここで筆者のISバトルに対する見解をひとつ。
原作では一夏がセシリア相手に30分近く逃げ回ったとありますが、高速で飛び回るISが狭いアリーナで戦うならば、短期決戦になるのが必然で、むしろ30分以上かかるなんてあり得ないのでは、と以前から疑問に思っていました。
よって、本作では試合時間は短く、短期決戦で決着がつくように書いています。
次にアリーナのピットですが、原作ではAピットと書いてあるのを筆者は見落としてました。
自分設定でピットはE・S・W・Nの4つあり、それぞれ東南西北に対応しているとして13話を書いたので、本作ではこのままの設定で行きます。
次回はクラス代表決定から新ヒロイン登場まで書きたいのですが、また筆が乗って文字数が多くなりすぎたら2回に分けると思います。