遅くなりました。
パーティー・ナイト中編をお送りします。
はい。案の定全部書いたら一万字を越えてしまった為、二つに分けました。
よって、箒の過去編の手前までを中編として先に投稿します。
鈴を書いていたら思いの外筆が乗ってしまい、こうなりました。
楽しみにしていた人がいたら、ごめんなさい。
それでは第16話、お楽しみ下さい。
~志狼side
グウウウウ~~~~ッ!
夜の静寂を破るように響く奇音。それを聞いた俺達──俺、神楽、ナギの3人は思わず顔を見合わせた後、ゆっくりと音のした方を見つめた。
そこには黒髪ツインテールの少女が、決して明るいとは言えない街灯の下でも分かるくらい顔を赤く染めて、プルプルと震えていた。
「・・・・えーと、腹が減ってるのか?」
俺の声にビクッと反応した彼女は、
「な、何の事かしら!?」
と、大声でごまかそうとしていた。
「いや、さっき君の腹の虫が──「アーアーアー、聞こえない聞こえない私には何にも聞こえなかったわ!貴方達もそうでしょ?そうよね!お願いそうだと言って!!」・・・・」
魂の絶叫だった。よっぽど恥ずかしかったのか、全力でごまかそうとする彼女の姿があまりにも憐れで、聞かなかった事にしようとしたその時、
グウウウウ~~~ッ、キュルッ、
無情にも更なる破滅の音が鳴り響いた。
「「「・・・・・・」」」
黒髪ツインテの少女はついに諦めたのか、orzのポーズでその場に突っ伏してしまった。
「うう~、何で~? 何でこんな時にお腹が鳴るのよ~~」
彼女は既に涙目、いや半泣きだった。
「・・・・まあ何だ。取り敢えず何か食べさせてあげるから、一緒においで。な?」
「・・・・・・うん」
俺が優しく肩を叩くと、彼女は今度こそ素直に頷いた。
これが俺と「中華の麒麟児」凰鈴音との出会いであった。
~side end
~明日奈side
パーティーも終盤、兄さんが作った自家製ホールプディングは大好評だった。ちょっと苦めのカラメルシロップをかけたカスタード味も、牛乳の優しい風味と練乳の甘さが際立つミルク味も、皆が一口食べると目を輝かせ、我先にと争うように食べた結果、あっと言う間になくなってしまった。兄さんが初めて家でこれを作ってくれた時、雪ちゃんと2人大喜びしたっけ。何だか懐かしい気分だ。
そんな風に喜ぶクラスメイトを眺めていると、残っていたお菓子を貪る、と言う表現がぴったりの食べ方をしている娘が視界に入った。
神楽とナギを連れて出て行った兄さんが20分程して戻って来ると、同行者が1人増えていた。
テーブルの片隅に座った彼女は神楽とナギが持って来たお菓子に目を輝かすと、余程お腹が空いていたのか、もの凄い勢いで食べ始めた。兄さんにあの娘はどうしたのか聞くと、「拾って来た」とだけ言って、厨房で料理を始めてしまった。
実を言うと、目の前でお菓子を貪る娘には見覚えがあった。代表候補生の教育の一環として、他国の代表及び代表候補生の顔と名前を教えられた事がある。その時に彼女の顔を見たのだ。中国代表候補生の中でも要注意人物として教えられた彼女。
ふと、隣を見るとセシリアも訝しげな顔をして彼女を見ていた。
「セシリア、彼女ってやっぱり・・・・」
「明日奈さんも気付きまして? ええ、間違いないですわね」
私達2人の見解が一致した。その時、兄さんが大皿一杯の炒飯を持って来た。彼女は大喜びで食べ始め、あっと言う間に平らげてしまった。
「ごちそうさま!!」
「お粗末さま。しかし、良く食べたな。少しは残すかと思ったんだが」
「お腹が空いてたのもあるけど、すっごく美味しかったから全部食べちゃったわ」
「そりゃどうも。本場中国の人に出すのは心配だったけど喜んで貰えたようで何よりだ」
「謙遜する事ないわよ。本場でも通用する味だったわ。この私が保証するんだから間違いないわよ!」
胸を張って偉そうに言う彼女。本来ならカチンと来そうな態度なのに、小柄な彼女がすると何だか微笑ましくて憎めない。兄さんも苦笑していた。
すると、彼女がおもむろに席を立ち、兄さんに向けて左手で右拳を包む所謂包拳礼をした。
「美味しい食事をありがとう、お陰で助かったわ。貴方に最大限の感謝を、2ndドライバー結城志狼。私は中国代表候補生序列3位、
凰鈴音。この業界ではかなりの有名人だ。
幼少期を日本で過ごした彼女は14才で帰国すると、帰国時に受けた適性検査でA+と言う高さを示し、政府の薦めで代表候補生入り。翌年明けの序列決定戦において唯1人、現中国代表李紅蘭を倒して一躍勇名を上げた。
代表候補生になって僅か4ヶ月での快挙に天才の出現、次代の申し子と持て囃され、付いた二つ名が「中華の麒麟児」。ただ他の候補生に敗れた為、代表にはなれずその年は序列6位に終わっている。
気分屋な性格なのか強制される事を嫌い、気分が乗った時は無類の強さを発揮する反面、時に大ポカをやらかすなど問題もあるが、小柄な愛らしい容姿とその裏表のない性格が国民に受けて、「鈴にゃん」の愛称で親しまれているそうだ。
「代表候補生だったのか、よろしく鈴。俺の事も志狼でいい」
「うん、よろしくね志狼」
2人が挨拶を終えると兄さんが私達を見て、手招きする。私達は顔を見合わせると、意を決して歩き出した。
「鈴、紹介するよ。俺の妹の明日奈と友人のセシリア。2人共君と同じ代表候補生だ」
「日本代表候補生序列4位、結城明日奈です。よろしく凰さん」
「同じくイギリス代表候補生序列3位、セシリア・オルコットです。よろしくお願いしますわ、凰さん」
「あ、そうなの。私、他国の候補生って興味ないから知らなかったわ。ゴメンね。私の事は鈴って呼んで」
彼女があっけらかんと言い放つ。そして、
「ねえ! 織斑一夏ってどこのクラスか知ってる?」
と、聞いて来た。その一言で皆が一斉におしゃべりを止めた。一瞬で雰囲気が変わった事に凰さん──鈴が不思議そうに周りを見る。すると突然、
「こんばんわー、新聞部でーす! 話題の男性操縦者2人を取材に来ましたー!」
1人の女生徒が押し入って来た。しかし、
「お断りします。お帰りはあちら」
兄さんがやんわりと彼女を出口へ押しやった。
「え! あの、ちょっと!? 私は取材を──「今取り込み中なんで、取材はお断り、分かった?」っいや、だから、ねえ話聞いてよ───!」
新聞部員らしい彼女の声がどんどん遠ざかって、やがて消えた。
私達は顔を見合わせ、誰が説明するかを押し付け、もとい決めようとしたんだけど、何故か皆の視線が私に向いている事に気付いた。え? 私が説明するの!? 兄さんがいないんだからここは副代表のセシリアの出番じゃないの!?
隣にいたはずのセシリアを見ると、いつの間にか私より一歩下がって「どうぞ」と言わんばかりに手を鈴に向けていた。ズルい!! 私は仕方なく鈴に声をかける。
「えーと、鈴? 織斑君とは知り合いなの?」
「そう、幼なじみなの! 全く人が国に帰ってる間にあいつったらISを動かしたりしてるじゃない? 聞いた時は思わず食べてた拉麺吹いちゃったわよ!」
「そうなんだ。・・・・あのね鈴。織斑君は一応このクラスなんだけど、今はいないの」
「何で? さっきナギから聞いたけどクラスの懇親会も兼ねてるんでしょ? ・・・・それとも何? まさか仲間外れにでもしてるって言うの?」
そう言うと不思議そうにしていた鈴の目に剣呑な光が宿る。
「・・・・違うわ。彼、織斑君はね、問題を起こして今、懲罰房に入れられてるの」
「───え? 何それ?」
「昨日、このクラスの代表を決めるバトルがあったの。その試合でちょっと問題を起こしてね」
「そんな・・・・だからって懲罰房なんて酷いじゃない!」
「入れたのは織斑先生よ」
「うっ!」
幼なじみと言う事は、当然織斑先生の事も知っているのだろう。先生の名前を出すと流石の鈴も一瞬怯んだ。
「・・・・問題起こしたって、アイツ一体何したの?」
「それは・・・・」
「それは君自身が見て確かめるべきじゃないか、鈴」
返答に困った私を助けるように、兄さんが戻って来た。
~side end
~鈴音side
全く日本に帰って来てからトラブル続きだ。まあ、半分くらいは自分のせいな気もするけど、とにかくそんな私を助けてくれたのが2ndドライバー結城志狼だった。
本国からは2人の男性操縦者と接触してデータを集めろ、なんて言われてたけどそんな気は始めっからないし、正直一夏以外の男なんてどうでも良かったんだけど、志狼本人に会って少しだけ興味が沸いた。
困っていたアタシを助けてくれるくらいだから悪い人ではないのだろう。お菓子を食べながらも周りの話をそれとなく聞いていたけど、クラスメイトの評判も良いようだ。
顔も一夏程ではないが、充分イケメンと言えるし、背も高く、意外と筋肉の付いた身体をしてる。素の戦闘力も高そうだ。料理も上手く面倒見がいいので、兄がいたらこんな感じかな、なんて思う。
この短い時間接した感じでは彼は信頼出来そうだとアタシの直感が言ってる。その彼が自分で確かめろなんて言うとは、余程口では説明しにくいって事なのかな?
「志狼・・・・どう言う意味?」
「そのままの意味だよ。試合の映像記録を見て、織斑が何をしたかその目で確かめた方がいいって事さ。それと鈴、ひとつ聞きたいんだが、君は転校して来たのか? それとも織斑に会いに来たお客さんか?」
「勿論転校して来たのよ。それがどうかした?」
「いや、それなら手続きをしないといけないんじゃないか?」
! いけない、志狼に言われるまで手続きの事をすっかり忘れてた。
「そうだった! すぐに本校舎の総合受付って所に行かなくちゃ! 場所教えて、志狼!」
「・・・・残念だが総合受付は午後9時で閉まってる。もう週末だから受付出来るのは月曜の朝になるぞ?」
「ええ!?」
「因みに俺達が会った時にはもう9時過ぎてたからいずれにしても間に合わなかったけどな」
「えええ!? そんな~、どうすればいいのよ~」
ほとほと困り果てたアタシに志狼が言った。
「大丈夫、こんな事もあろうかと既に呼んである」
? 一体何を呼んだと言うのか。若干不安に思っていると、2人の女性が食堂に入って来た。その内の1人は知ってる人だ。
「結城、どう言う事だ!?」
「織斑先生、真耶先生、お疲れ様です。実は・・・・」
志狼が2人の先生にアタシの事を説明する。それを聞き終えると千冬さんがアタシを見る。
「凰か、久し振りだな。よりによってこんな時に来るとはタイミングの悪い奴め」
「お、お久し振りです、千冬さん・・・・」
そう、一夏のお姉さんである千冬さんだった。実を言うとアタシはこの人が超苦手なのだ。志狼ったらなんでこの人を呼んで来たのよー!
「鈴。お2人はこの寮の寮長と副寮長なんだ。転入手続きが出来ないにしても寮に入るなら話を通しておく必要があるだろう?」
「アハハ・・・・・・そうね」
アタシは力なく答えた。
「成る程、確かに迷子の子猫だな。では、凰の身柄はこちらで預かろう。お前達もいい時間だからそろそろお開きにしておけ。では着いて来い、凰」
「あ、ハイ」
アタシは慌てて千冬さんの後を追おうとした。すると、
「あ、ちょっと待って下さい」
志狼が呼び止めて、2人に小さな包みを渡した。
「パーティー用に作ったお菓子です。召し上がって下さい」
「そうか、ではありがたくいただこう」
「わあ! ありがとうございます志狼君」
そう言って千冬さんはちょっと嬉しそうに、もう1人の先生は素直に喜んで包みを受け取った。千冬さんのあんな顔は初めて見たかも。
「鈴の事、よろしくお願いします。鈴、詳しい事は織斑先生に教えて貰え」
別れ際、志狼がそう言って来た。
「う、うん! 分かったわ」
「何の事だ? まあいい、では行くぞ」
そう言う千冬さんに続いてアタシは食堂を後にした。千冬さんの後に付いて廊下を歩きながら、ふと気になった事を尋ねた。
「そう言えば千冬さん、さっき迷子の子猫とか言ってましたけど、何の事です?」
「ん? ああ、お前の事だよ凰。結城の奴私に連絡して来た時に“迷子の子猫を拾った。引き取りに来てくれ”とこう言ったんだよ」
・・・・あんにゃろ、後で覚えてなさいよ。でも、お陰で千冬さんの機嫌は悪くなさそうだ。聞くなら今しかない!
「それで千冬さん、一夏って今──」
「凰、歩きながら出来る話でもないんでな。着いたら教えてやるから、もう少し待て」
「・・・・・・はい」
機嫌良さげだった千冬さん顔が一瞬で険しくなった。アタシは不安気に返事をするしかなかった。
全く、一夏の奴、ホントに何をしたのよ!
~side end
読んでいただきありがとうございます。
中国代表は某帝国華撃団のあの人です。
中国人のキャラが他に思い浮かばなくて、彼女の登場となりました。
今後、出番があるかは未定です。
鈴の二つ名は適当に付けましたが、原作にありましたっけ?見落としてたかもしれませんが、本作品ではこのままでいきます。
ページワン入りすると二つ名が付くという設定なので、他の候補生にも付ける予定です。
後編もなるべく早く投稿したいと思いますのでお待ち下さい。