二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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誤字報告、並びに感想ありがとうございました。

第18話を投稿します。ご覧下さい。




第17話 パーティー・ナイト 後編~箒の告白

 

 

~志狼side

 

「それじゃ、名残惜しいけどそろそろお開きにしよう。まだ話し足りない人は各々部屋でするように。明日が休日だからって夜更かしするなよ」

 

「「「「ハーーーイ!!」」」」 

 

 

 

 時刻は午後10時過ぎ。タイミング的に先生達が来たのは丁度良かったので、俺はパーティーの閉会を宣言して、後片付けを始めた。事前に誰が何をするかを決めておいたのでスムーズに事が運ぶ。それにしても皆良く食べたものだ。用意したお菓子がほとんどなくなっている。

 

「志狼さん、残ったお菓子貰ってもいい?」

 

 テーブルを元に戻していた俺にナギが聞いて来た。

 

「いいけど、まだ食べるのか? 太るぞ」

 

「もう! 女の子にそんな事言っちゃ駄目だよ。私1人で食べるんじゃなくて、二次会のお茶受けにしたいの!」

 

「アハハ、ごめんごめん。いいよ、持ってお行き」

 

「うん! それじゃ貰ってくね」

 

 ナギはそう言うとひとまとめにしておいた余り物をビニール袋に入れ始めた。

 

「志狼さん、洗い物終わりました」

 

 洗い物を任せていた神楽が声をかけて来た。

 

「お疲れ様。こっちも終わった所だし、解散しようか」

 

 俺は周りで片付けをしていた皆に言って、解散となった。

 

 

「兄さんお疲れ様。あれ、それは?」

 

 明日奈が俺の持っている包みを見て聞いて来た。

 

「ああ、箒の分だよ。様子見がてら置いて来ようと思ってな」

 

「そっか。私も行っていい?」

 

「いいよ。行こうか」

 

 明日奈と共に箒の部屋へ行こうとすると、ナギが声をかけて来た。

 

「あ、明日奈! これから私の部屋で二次会するんだけど、明日奈も来ない?」 

 

「え、でも・・・・」

 

「行っておいで。皆お前ともっと話をしたいんだよ」

 

「兄さん・・・・うん、それじゃあ行って来るね。箒によろしく」

 

「ああ」

 

 明日奈はそう言うと、ナギと共に出て行った。俺も灯りを消して食堂を後にする。

 

 

 

 

 

 1201号室。箒と織斑の部屋だ。現在織斑が懲罰房に入っているので、今この部屋には箒しかいない。俺は部屋の呼び鈴を押して、箒が出て来るのを待つ。しばらく待っても出て来ないので、ドアノブを回すとドアが開いた。どうやら鍵を掛けてなかったらしい。

 

「箒? いるのか?」

 

 部屋は灯りが点いておらず真っ暗で、眠っているのかと思い、中を見てギョッとした。ドアのすぐ側で箒が膝を抱えて座っていたのだ。

 

「ほ、箒?」

 

「・・・・・・え? ああ、志狼か」

 

 暗い部屋の中、箒は随分と憔悴しているように見えた。これは具合が悪いとかではなく、明らかに何かあったな。俺は取り敢えずドアを閉めて灯りを点けた。明るくなった室内に一瞬顔をしかめるも、箒は全く動かなかった。

 彼女は目を開けてはいるが、その瞳は何も映してはおらず、まだ乾いてない涙の跡が見えた。

 

「箒、何があった?」

 

「・・・・・・」 

 

「俺には話せない事か?」

 

「・・・・・・」 

 

「箒、俺はお前のそんな顔は見たくない。何があったのか教えてくれないか?」

 

「うるさい!」

 

 何度も事情を聞こうとする俺に対して、箒が怒鳴り声を上げた。

 

「お前は私の何だ! 赤の他人だろう!? だったら私の事情に首を突っ込むな! もうほっといてくれ!!」

 

 そう言うと箒は膝に顔を埋め、声を殺して泣き出した。

 

 

 

 俺はそっと箒の側を離れた。

 

 今の俺にはそんな事しか出来なかった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~箒side

 

 

 ポンッ、ポンッ

 

 温もりを感じる。

 

 温かく、優しい感触が私の背中を叩いている。

 

 規則正しいリズムを刻む音がする度に温もりが私の体を、そして心を満たしてくれる。

 

 何だろう? 温かな感触が私の冷えて固まった心を優しく解してくれるような、どこか懐かしい不思議な感触だ。

 

 私はその温もりに誘われるように目を開けて、隣を見た。

 

 

 そこには自分の上着を私に掛けて、優しく私の背中を叩いている志狼の姿があった。

 

 

「・・・・・・しろお?」

 

 自分の声とは思えないような妙に幼い声で志狼に呼びかける。志狼は手を止めて私の顔を見ると、微笑みを浮かべた。

 

「起きたか。ちょっと待ってろ」

 

 そう言うと志狼はキッチンに行って、少しすると湯気をたてたカップと皿に盛ったお菓子を持って来た。

 

「ほら、熱いから気を付けてな」

 

 私は状況が良く分からないまま、カップを受け取り一口飲んだ。中身はホットミルクで、蜂蜜を入れてるのかほんのり甘く、温かくてとても美味しかった。

 

「次はこれ。今日のパーティー用に皆で作ったんだ」

 

 そう言って皿に盛ったお菓子を勧めるので、クッキーを1枚口に入れた。途端にバターの香りとほのかな甘味が口一杯に広がった。

 

「・・・・・・美味しい」

 

 私がそう言うと、志狼は嬉しそうに笑った。

 

「そうか。ほら、これもあるぞ」

 

 そう言ってまた別のお菓子を勧めて来た。この時、私は始めて自分が空腹である事に気付いた。そして、気付いたからにはもう手が止まらなかった。

 

 

 

「ごちそうさま・・・・・・」

 

 一心不乱にお菓子を食べて空腹を満たすと、ようやく落ち着いた。それと同時に志狼に対する申し訳なさ、罪悪感が生じていた。

 私は彼に何をした!? 心配して声をかけてくれた友人に何と言った!? 朧気ながら覚えている。

 ・・・・私は最低だ。一夏から受けた仕打ちに傷付いていながら、志狼に同じ事をしてしまった! どうして? どうして私はいつもこうなんだ!!

 

 私が果てしなく自己嫌悪に陥っていると、ペチンッと間の抜けた音と頭に何かが当たった感触がした。そっと頭を上げると、そこには苦笑を浮かべた志狼がいた。

 

「・・・・・・しろお?」

 

「クスッ なーに辛気くさい顔してんだよ、箒。折角の美人が台無しだぞ?」

 

 どうやら以前のように軽くチョップされたらしい。しばらくそのまま見つめ合っていると、急に志狼が私の頭をワシャワシャと乱暴に撫で回した。

 

「わ、ぷっ、な、何をするんだ!?」

 

「ん? 何となく、だ」

 

 志狼は笑いながら、今度は優しく私の頭を撫でる。最初は何だか分からなかったが、だんだん心地好くなって来て、終いにはされるがままになっていた。

 

「全く、お前と言う奴は──「やっと笑ったな」・・・?」

 

「気付いてないか。お前は今、笑ってるんだよ、箒」 

 

 言われて初めて気付いた。ほんの少し前まで二度と笑う事なんて出来ないくらい落ち込んでいたと言うのに、今は苦笑とは言え笑っているのだ。

 

 何故? いや、答えなんて分かっている。

 それはきっと志狼が、この人が私の側にいてくれるから───

 

 

 

 

「志狼、先程はすまない。心配してくれたお前にとんでもない事を口走ってしまった」

 

 私は深く頭を下げる。しかし、志狼は、

 

「気にするな。こう言う時は誰にでもあるさ。それよりまだ事情は話したくないか?」

 

 そう言われると、別に隠すような事でもない。でも、私は今、志狼に別の話を聞いて欲しかった。今まで誰にも話した事のない私自身の話。私がどんな想いを抱えて生きて来たのかを他ならぬ志狼に知って欲しかった。

 

 

「なあ志狼。少し長くなるが私の話を聞いてくれないか? 1人の女の子の話なんだが・・・・」

 

 そう言って、私は志狼の顔を真っ直ぐに見つめる。

 

「いいよ。聞かせてくれ」

 

 志狼も私を見つめ返して言った。

 

 

 私の自分語りが始まった。

 

 

 

 

 

 

 ある所に1人の女の子がいました。彼女は両親と姉に囲まれて、普通の日々を過ごしていました。ただひとつ人と違う所があるとすれば、女の子の姉は所謂天才と呼ばれる存在だったのです。父や母にも、誰にも姉の語る事が理解出来ませんでした。やがて姉は周りの人達を見限り、無視するようになりました。

 しかし、姉は妹である女の子の事は唯一可愛がっていました。女の子も姉の語る事は良く分かりませんでしたが、姉の楽しそうな顔を見るのは大好きでした。

 

 ある日、父の経営する剣術道場に1人の少女がやって来ました。姉の友人だと言う彼女は道場に入門すると、メキメキと強くなっていきました。

 しばらくして、少女は自分の弟を連れて来ました。女の子と同い年のこの男の子も道場に入門して、剣術を学び始めました。最初の頃は女の子の方が強かったのですが、姉と同様、男の子もメキメキと強くなり、半年も過ぎた頃には女の子より強くなっていました。

 女の子は短期間で自分より強くなり、父に誉められている男の子が嫌いでした。

 

 そんなある日、女の子は学校で男子にいじめられました。掃除をサボって遊んでいる男子達を注意した女の子に、女の子が女だてらに剣道をやっている事を「男女」と言い、着けているリボンも似合わないとからかって来たのです。

 女の子は悲しくなりました。その時着けていたリボンは、可愛くて店先で見ていたものを母が特別に買ってくれたお気に入りだったのです。思わず涙が滲んで来たその時、男の子が男子達に殴りかかったのです。剣術を学んでいた男の子は数人の男子を相手にしても負けず、男子達をボコボコにしてしまいました。

 何の警告もせず暴力を振るい、先生や姉から怒られてはいたが、自分の為に戦い、助けてくれた男の子に女の子は好意を抱くようになりました。そして、その好意はやがて恋心に変わったのです。

 

 それから数年、女の子は男の子と共に剣道を続け、2人揃って大会では負けないくらいに強くなりました。このまま男の子と共にいつまでも一緒にいたいと女の子は思いました。しかし、女の子の思いは自らの姉によって絶たれる事になるのです。

 ある日、姉がとんでもない兵器を開発しました。現行兵器の全てを凌駕する性能を持つその兵器は、世界のパワーバランスを崩す程のもので、世界各国はこぞってその兵器を欲しました。所が姉は姉にしか作れないパーツを一定数作ると、姿を消してしまいました。妹である女の子にも何も言わずに・・・・・

 

 それからが大変でした。政府は残された女の子達に要人保護プログラムを適用し、身辺警護を理由に無理矢理引っ越しをさせたのです。更に執拗な監視と事情聴取を繰り返され、自由などない日々が続きました。

 引っ越しの間隔は長くて半年、短い時は1週間しかいない時もありました。更に何度目かの引っ越しの後、女の子は両親とも引き離され、偽名を名乗るように強制され、たった1人で見知らぬ土地へ放り出されたのです。世話役は付いていましたが、当然政府の人間で決して気を許す事は出来ませんでした。

 

 見知らぬ、それもいつまでいられるか分からない土地で、偽りの経歴、偽りの名前を使わされている身では友達を作る事もままならず、家に帰っても監視を兼ねた世話役がいるだけの、誰にも心を開く事が出来ない孤独な生活の中で、いつしか女の子はこの状況をもたらした姉を恨み、憎むようになりました。そして、好きだった男の子といつしか再会出来ると信じる事で、心の均衡を保つようになったのです。

 

 そんな中で、女の子は剣道だけは続けていました。剣道を続けて大会に出れば、いつしかあの男の子が自分を見つけて、捜しに来てくれるかもしれない。そんな夢のような事を信じる程に女の子の心は疲弊していたのです。

 しかし、数年が経ち、女の子が少女に成長した頃、少女の初恋の男の子との再会を願い続けていた剣は、いつしか自分の置かれた状況に対する恨み辛みを吐き出す為の憂さ晴らしに変わってしまったのです。 

 その事に気付いたのは中学3年の全国大会。準決勝で対戦した娘から何故そんなに荒れてるのか、と問われてから。そう言われて初めて自分の剣がただの暴力に成り下がっていた事に少女は気付いたのです。

 結局、少女はそんな荒れた剣で優勝してしまいました。しかし、自分の剣の姿に気付いた少女はただ、恥ずかしくて、情けなくて誇る事などとても出来ませんでした。

 

 やがて少女も進路を考える時期になりました。しかし、少女の進路は政府によって、姉の作った兵器の事を学ぶ特殊な学園への入学が既に決まっていたのです。少女は反発しましたが、全寮制の為、監視役が側にいなくなる事と、本名で通ってもいいと言われた事から入学を了承しました。

 そんな時、あの男の子が自分と同じ学園に通う事が判ったのです。テレビで見た少年はあの男の子が成長した姿に間違いありませんでした。少女はこれぞ運命と感じ、少年との再会に心躍らせました。

 

 季節が巡り、少女は学園に入学し、待ち望んだ少年との再会を果たしました。

 少年が自分の事を覚えていてくれて嬉しかった。お互い成長したのに、すぐ自分だと判ってくれたのが嬉しかった。自分が全国大会で優勝した事を知っていたのが嬉しかった。

 少女は少年と再会出来た事が何より嬉しかった。今まで偽りの名前、偽りの自分で人と接してきたが、もうそんな必要はない。何よりここには昔の自分を知っている彼がいてくれる。彼の為ならば何でも出来る、とまで思ってしまった。

 

 今思えば、少年と再会した事と自分を偽らなくていい事の二重の喜びに、少女は所謂ハイになっていたのでしょう。だからこそ少年を無視した青年、彼に対して本来あり得ない暴力を振るってしまったのです。

 そんな少女を青年は許し、少年との恋を応援するとまで言ってくれました。それは少女にとって久方振りの友達が出来た瞬間でした。

 

 そして、学園で生活する内に色々な事がありました。

 青年とより親しくなれた事、青年を介してクラスメイトと友達になれた事、皆でした学園見学ツアーがとても楽しかった事、青年の戦う姿がカッコよくて皆ではしゃいだ事など。それは少女にとって久し振りの本当に心から楽しい時間でした。

 

 しかし、そんな楽しい学園生活に水を差す存在がありました。それは他ならぬ少年でした。

 少年は学園に入学して以来、悪目立ちしていました。元々男が2人しかいなかったので、周りの注目を浴びていたのですが、嘘を吐いたり、一般常識を知らなかったり、自分に都合のいい解釈をしてクラスメイトと口論になったりと、周りの評価を下げるような事ばかりしていたのです。

 少女から見ても、中学3年間帰宅部だったらしく、剣の腕がガタ落ちしていたり、同室である少女に愚痴や青年の悪口を吐いたりする、そんな以前とは変わってしまった少年の姿に少女は胸を痛めていました。

 

 そんなある日、青年との試合前に全ての女性を貶めるような発言を少年はしてしまったのです。

 その結果、少年は反省するようにと懲罰房に入れられてしまいました。少女は少年の本心を確かめたくて会いに行きました。そして、少年と話をしたのですが、結果は散々なものでした。罵詈雑言を喚き散らし、口汚く罵るその姿に少女の好きだった少年の面影は、もうどこにもありませんでした。

 

 

 こうして、少女の初恋は終わりを迎えました。

 

 

 傷心の少女を青年は心配してくれました。しかし少女は青年の好意を無下にして、喚き散らし、自分が少年にされた事をそのまま返してしまったのです。

 しかし、それでも青年は少女の側にいてくれました。泣き疲れて眠ってしまった少女に寄り添い、背中を優しく叩いて、側にいる事、1人じゃない事を少女に示し続けてくれました。

 

 

 

 ───少女()はこうして、本当の意味で目覚

    める事が出来た。

 

 ───少年(一夏)の仕打ちによって渇いた私の心

    を

 

 ───青年(志狼)が優しさで満たしてくれた。

 

 

 

 思えば学園に入学してから貴方には助けて貰ってばかりだった。

 今は感謝の気持ちを伝える事しか出来ないけれど、いつか、私にも貴方の為に出来る事が見つかればいいなって思う。

 

 

 ありがとう。心配してくれて、

 

 ありがとう。話を聞いてくれて、

 

 ありがとう。側にいてくれて、

 

 

 今、心から思う。貴方に出会えてよかった、と。

 

 だから今、全ての想いを乗せて伝えたい、貴方へ───

 

 

 

 

「ありがとう、志狼」

  

 

~side end

 

 

 

~志狼side

 

 

「ありがとう、志狼」 

 

 

 長かった話の終わりに、そう言って笑顔を見せる箒。その笑顔は今まで見た事のない、何かから解放されたような、透き通った、無垢な笑顔だった。

 そんな笑顔を見せる箒を、俺は思わず抱きしめていた。

 

 

「し、志狼?」

 

 戸惑い、声を上げる箒。でも、いつものように慌てたりはしなかった。

 

「うるさい。いいから黙って抱きしめさせろ」

 

「クスッ はい♪」

 

 ぶっきら棒に言う俺に、どこか面白そうに箒が答え、手を背中に回して抱き着いて来る。

 端から見れば抱きしめ合う恋人同士に見えるだろう。だが、当事者である俺達にやましい気持ちはなく、ただ、お互いの存在を確かめ合うように、温もりを分け合うように抱き合っていた。

 

 

 以前から箒はまともな育ち方をしてないと思ってはいたが、まさかこれ程とは思わなかった。つくづくこの国の政府はクソだな。

 年端もいかない女の子を孤立させ、見かねた姉が出て来るのでも待っていたのか、いずれにしても人の所業じゃない。一体どれ程の痛みを抱えて来たのか、箒に感じていた歪みの正体を知り、俺は憤っていた。

 

 長い間、孤独の中にあった箒はどうやらスキンシップに飢えていたようで、今、俺の腕の中にいる彼女は心地よさそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「・・・・しろお」

 

「・・・・ん?」

 

「・・・・何だか眠くなって来た。このまま眠ってもいいかな?」

 

「・・・・このままか?」

 

「・・・・うん、このままがいい」

 

「・・・・いいよ。お休み」

 

 俺はそう言うと、箒の腰に回していた左手で、彼女の背中をゆっくりと優しく叩き始めた。

 

「ふふっ」

 

「どうした?」

 

「ん、これ好き」

 

「そうか」

 

「うん・・・・」

 

 しばらくすると、微かな寝息が聞こえて来た。

 

「・・・・箒?」

 

「・・・・・・」

 

「お休み箒、良い夢を」

 

 俺は近くにあったタオルケットを取ると箒に掛けて、目を閉じた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~箒side

 

 

 温かい。

 

 志狼に抱きしめられ、彼の温もりを感じている。

 まるで丁度良い湯加減のお風呂に入っているかのように、心地良く、幸せな気分だ。

 いつもの私なら男に抱きしめられたりしたら、パニックを起こして相手を殴ってるだろう。

 でも、その相手が志狼だと言うだけで、私はこんなにも安らぎを感じている。それはきっと私の心に変化があったから。その変化によって生まれた想いを名付けるなら───

 

 

 

 本音を言えば、このまま自分の全てを志狼に捧げてしまいたい。でも、志狼はきっと受け入れてはくれないと思う。

 一夏との恋に終わりを迎えた私が自棄を起こしていると考えて、決して本気で向き合ってはくれないだろう。

 だから今は何も言わない。少し時間を置いてから改めて私の想いを伝えよう。

 

 

 だから今は、今だけは甘えさせて?

貴方を独り占め出来る機会なんて滅多にないんだから。

 志狼の温もりを感じながら、私は眠りに就いた。

 

 

~side end

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

次回は鈴と一夏の再会の前にワンクッション置いて日常回をお送りしたいと思います。

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