二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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第19話を投稿します。

皆さんお待ちかねの一夏と鈴の再会ですが、今回はさわりだけとなっております。
楽しみにしていた方がいたら、申し訳ありません。
前半の簪パートで文字数を使いすぎた為、こうなってしまいました。

それでは期待外れかもしれませんが、第19話、ご覧下さい。



第19話 再会と再開発

 

 

~志狼side

 

 

 孤狼が帰って来た。

 

 いきなり何を言ってるのかと思うだろうが、事実なんだから仕方がない。詳しく言うと、織斑との試合後、データ解析の為、浅葱に預けていた孤狼が帰って来たのだ。

 

 

 それは昨日の夕方、クラス代表会議を終えた寮への帰り道、俺の携帯に浅葱から電話が入った。一緒に帰っていたセシリアに断りを入れて俺は電話に出た。

 

 

『ハイ志狼。今、大丈夫?』

 

「ああ、構わないよ」

 

『実は今、駅まで来てるんだけど、ちょっとだけ出て来れない?』

 

「駅にいるのか? 分かった、少しだけ待っててくれ」

 

『悪いわね。それじゃあまた後で』

 

「ああ、後でな」

 

 

 俺は電話を切ると、再びセシリアに断りを入れて、駅に向かった。

 

 

 

 

 「IS学園前」駅に着くと、初めて会った時と同じ青いスーツを着た浅葱がいた。

 

「浅葱」

 

「ハイ志狼。悪いわね、来て貰って」

 

「構わないさ。それで、どうしたんだ?」

 

「うん。立ち話もなんだから入らない?」

 

 そう言って浅葱が指さしたのは駅に併設されている全世界規模のファーストフード店だった。

 

 

 

 注文した品を持って席に着くと、ドリンクを一口飲んでから浅葱が話し始めた。

 

「まず、今日来て貰ったのはこれを渡す為よ」

 

 浅葱はハンドバッグから小さな箱を取り出した。

 

「浅葱からプレゼントを貰えるなんて嬉しいな。大切にするよ」

 

 俺が真面目な顔で言うと、浅葱は飲んでいたドリンクを吹き出した。

 

「ゲホッ、ゴホッ、な、何言ってんのよアンタは! な、何で私がアンタにプ、プレゼントなんかするのよ!!」

 

「落ち着け、冗談だ」

 

 その一言に揶揄われていた事に気付いた浅葱は、口元を拭いていたハンカチを握りしめ、プルプルと震えていた。

 

「・・・・アンタってホンットにイイ性格してるわね!」

 

「お誉めに預かり恐悦至極」

 

「誉めとらんわ、馬鹿!!」

 

「まあまあ、話を戻そう。察するにこれは『孤狼』なんだろう?」

 

「そうよ! データ解析と機体の改修が終わったから持って来たの!!」

 

「そうか、わざわざありがとう。休日返上で頑張ってくれたんだな。浅葱は勿論だけど絃神の皆さんにも礼を言っておいてくれ」

 

 俺が頭を下げると、浅葱が面食らったような顔をした。

 

「へ? ああ、うん、分かった・・・・(うう、コイツやっぱりズルい。何で急に真面目になるかなあ。自分達の頑張りを素直に認められたら嬉しくなっちゃうじゃないのよ、もう!)」

 

「ん? どうかしたのか?」

 

「な、何でもないわよ! それより開けて見なさいよ!」

 

 そう言われて俺は箱を開ける。中に入っていたのは腕時計だった。一見普通のデジタル時計。時計本体は孤狼の装甲と同じ赤。バンドは黒で、普通に時計としても使えるのか数字が動いている。そして絃神のロゴが刻んであるのが実にらしい。

 

「これが孤狼の待機形態・・・・」

 

「どう? 気に入った?」

 

「ああ、これなら身に着けるのに邪魔にならないし、デザインも気に入った。ありがとう浅葱」

 

「そう、なら良かった。それで、改修した点なんだけど・・・・」

 

 そう言って浅葱は孤狼の改修点を説明する。織斑が聞いたらまた反則だと叫びそうな能力だが、これで孤狼の防御力は格段に上がる。正直ありがたい。

 

「しかし、凄いなこれは」

 

「ふふん、言ったでしょ。絃神の技術力は凄いんだから。ああそうだ志狼、ひとつだけ忠告」

 

「何だ?」

 

「志狼、学園の整備科に話を付けときなさい。孤狼は格闘戦型。パーツの損耗は他の機体より激しく、交換する機会も多くなるわ。学園の事情で私達企業はすぐに力になれない事もあるでしょう? いざと言う時の為に整備科の協力を得られるようにしておくべきよ」

 

 成る程、浅葱の言う通りだ。整備と言うのは本来1年生の2学期になってから学ぶ項目であり、未だ授業ではやっていないので、俺にとって未知のものだ。学園の性質上、浅葱や矢瀬のような外部の人間の手を借りられないなら、内部に協力者を作り、頼むしかない。

 

「そうだな。分かった、明日にでも早速整備科に行って見るよ」

 

「その方がいいわ。それじゃあいい人を紹介してあげる」

 

  そう言って浅葱が名前を出したのは意外にも知っている人だった。

 

 布仏虚。ついさっきまで一緒にいた人だった。

 

 何でも浅葱が昨年卒業した開発科は整備科と密接な関係にあり、昨年整備科のエースとして腕を振るったのが布仏先輩なのだそうだ。その為、開発科のトップであった浅葱とは接する機会も多く、仲も良かったらしい。

 今期はまず間違いなく、整備科のトップになっているはずなので、自分の紹介だと言えば色々と便宜を図ってくれるだろうとの事だ。 

 

 俺は浅葱に礼を言って、寮へ戻った。

 

 

 

 

 

 火曜日の放課後、俺は整備室の前にいた。

 昨日の浅葱の忠告に従い、整備科長の布仏先輩に会いに来たのだ。昨日少し調べた所、浅葱の言った通り布仏先輩が今期の整備科長になっていた。彼女とは面識もあるし、話の分かりそうな人に見えたので、こちらの要請を受けてくれると思う。

 

 整備科の事務所は整備室の奥にある為、一度整備室内に入る必要があった。整備室への入室は厳重に管理されている。それも当然、ここには貴重なISパーツが多数置いてあり、時には整備中の無防備なISさえあるのだ。その為入口にあるリーダーで学生証を読み込み、入退室を厳しく管理しているのだ。

 整備室に入った俺は事務所に向かおうとしたが、途中で見知った娘がいたので声をかけた。

 

「あれ、本音?」

 

「ふえ? あ、しろりんだ~♪」

 

 桜色のツナギを着た本音はいつもののほほんとした笑みを浮かべて近寄って来た。

 

「本音、何やってるんだ? そんな格好で」

 

「ん~、お手伝いしてたの」

 

 そう言うので彼女がいた所を見ると、整備台に置かれた1機のISがあった。そして、そのISに隠れるようにしながらこちらを伺っている娘がいた。

 

「あれ、君は・・・・更識さん?」

 

「ど、どうも。昨日振りです、結城さん」

 

 そこにいたのは昨日の会議で会った4組代表、更識簪さんだった。俺は腕に引っ付いている本音に尋ねた。

 

「友達なのか?」

 

「ふっふっふ、私とかんちゃんは幼なじみの親友で、今はルームメイトでもあるのだ~♪」

 

「ルームメイト・・・・・あ!」

 

 俺は本音が初日に言ってた事を思い出した。そうだ、本音はあの時、ルームメイトは4組のかんちゃんと言っていた。そのかんちゃんが更識さんだったのか。そう言えば近い内に挨拶しようと思っていたのに色々あってすっかり忘れていた。

 

「いや~、すっかり挨拶が遅れてしまって申し訳ない。改めて、1組クラス代表兼1210号室の結城志狼です。よろしく、お隣さん」

 

「あ、その、4組クラス代表兼1209号室の更識簪です。こちらこそよろしくお願いしますです」

 

 そう言って俺と更識さんは握手を交わした。

 

 

 

「そうか、手伝いって更識さんのか。クラス対抗戦の機体を・・・・ん?」

 

 俺は更識さんがクラス対抗戦で使う機体の整備を本音が手伝っているのだろうと思い、整備台のISを見たが、それが打鉄でもラファールでもない事に気付き言葉を止める。

 確か彼女の専用機は未完成だと言ってたな。ではこれが───!?

 

「えーと、更識さん? これってもしかして・・・・」

 

「あ、はい。私の専用機『打鉄弐式(うちがねにしき)』です。未完成ですけど・・・・」

 

 ひょっとして俺は機密を見てしまったんだろうか。だとしたらとてもマズい事になるのでは?

 

「更識さん、俺、機密を見ちゃったのかな?」

 

「ああ、構いませんよ。どうせ誰も気にしませんから・・・・」

 

 今まで見た彼女とは違い、どこか捨て鉢な態度の更識さんに、俺は訝しげな視線を向ける。

 

「どう言う事か聞いてもいいかな?」

 

「・・・・・・」

 

 更識さんは悔しそうに口唇を噛み、俯いていた。

 

「かんちゃんの『打鉄弐式』は倉持技研が担当していたの」

 

 訳を話し始めたのは更識さんではなく、本音だった。本人の許可なく話すのはマズいのではと思ったが、更識さんは俯いたまま何も言わなかった。

 

「本音・・・・倉持技研って確か織斑の」

 

「正にそう。織斑君の『白式』を倉持技研が担当する事になって、技術者が全てそっちに掛かりっきりになっちゃったの。その煽りを受けてかんちゃんの『打鉄弐式』は開発を中断して放置されちゃって・・・・」

 

 何とも浅葱が聞いたら激怒しそうだな。それにしても倉持技研ってのは何なんだ。いくら稀少な男性操縦者の機体を担当するにしても、代表候補生の専用機をほっぽり出す事はないだろうに。

 倉持程の企業なら技術者も大勢いるはずなのに、何故こんな事になったのだろうか?

 

「でも白式が完成した今なら──」

 

 だが、本音は首を横に振った。

 

「ううん。そう思ってこちらから連絡したけど駄目だったの。データ取りやら何やらで忙しくて、こちらに割ける手はないって」

 

 つくづく酷い話だ。これでは更識さんをわざと冷遇してるとしか思えない。

 ふと、彼女の境遇に俺の境遇が重なった。俺も政府からは冷遇されている身だが、担当した企業のスタッフが政府の思惑を越えて優秀だった為、あまり冷遇された気はしなかった。だが、彼女は政府からも企業からも冷遇され、今の所、どこにも救いがない状態なのだ。

 彼女はまるでもう1人の俺のようだ。どこからも助けて貰えなかったら俺も彼女のようになっていただろう。何とか力になってあげたい。彼女の為と言うのも勿論あるが、このままでは自分も救われない気分になって酷く嫌なのだ。

 

 

「それで機体を引き取って、ここで開発を続けてたのか。政府や企業が駄目なら学園はどうなんだ? 整備科や開発科の力を借りたら──」

 

「駄目!!」

 

 今まで黙っていた更識さんがいきなり声を上げた。

 

「・・・・更識さん、何故駄目なんだ?」

 

「だって、あの人は1人で自分の専用機を作ったんだもの! 私だってそれくらい出来なきゃ駄目なの! じゃなきゃいつまで経っても認めて貰えない!!」

 

「・・・・・・」

 

「かんちゃん・・・・」

 

 更識さんの叫びはどこか切羽詰まった悲痛さを感じさせた。

 察するに彼女はあの人とやらに認めて貰いたいと願っていて、その手段として専用機を自分1人で作ろうと拘っているらしい。だがそれは、

 

 

 

「更識さん、君は馬鹿か!?」

 

 

「「────!!」」

 

 俺のその一言で空気が凍りついた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~簪side

 

 

 始めは何を言われたのか分からなかった。

 

 結城志狼。1組のクラス代表で2人目の男性操縦者。この間の試合では圧倒的不利な状況からの大逆転でイギリス代表候補生を撃破した。

 その戦い振りを見てまるでヒーローのようだと少し憧れていたのに、いきなり馬鹿呼ばわりされて、流石の私も怒りが込み上げて来た。

 

 

「どう言う意味ですか?」

 

「そのままの意味だよ」

 

 一瞬、私と彼の視線が交錯する。

 

「だから何で私が馬鹿呼ばわりされなくちゃいけないんですか!!」

 

「全く持って状況が見えてないから馬鹿だって言ってるんだ! 少しは冷静になって考えろ!!」

 

「あの、2人共落ち着いて・・・・」

 

「「本音は黙って(ろ)(て)!!」」

 

「はうううう~~~」

 

 口を挟もうとした本音が涙目になって引き下がる。だけどそのお陰で少し間が出来た。

 

 

「すまん本音。・・・・更識さん、俺の話を冷静に聞く気があるか?」

 

 彼がそう言って来た。私も何故いきなり馬鹿呼ばわりされたのか知りたかったので、大人しく話を聞く事にした。

 

「・・・・いいでしょう。聞かせて下さい」

 

「まず君の言うあの人がどれだけ優秀なのか俺は知らない。だか、どんなに優秀な人でもたった1人でISを作る事なんて出来やしない。それが出来るのは篠ノ之束博士だけだ。君はあの人とやらが自分1人で専用機を作ったと直接聞いたのか?」

 

「・・・・いえ、人伝てで聞きました」

 

「次に聞きたいんだが、君にとって最優先事項は何だ?」

 

「・・・・最優先事項?」

 

「そうだ。あの人に認められる事か? 専用機を完成させる事か? どっちだ?」

 

 そう言われて考える。あの人──お姉ちゃんに認められる事は私の願い、願望だ。だけどこれが最優先事項かと言われると違うと思う。むしろ最終目標と言った方がしっくり来る。

 来るべきクラス対抗戦に私はクラス代表として出場する。私は日本の国家代表候補生。それもページワンの一員である序列3位をいただいてる身だ。その私が全世界にテレビ中継される試合に専用機で出場出来ないのは国家の、そして私自身の恥だ。

 正直ろくな支援もしない国家なんていくらでも恥を掻けばいいと思う。でも、私自身が侮られるのはやっぱり悔しい。

 

 そこでふと気が付いた。ああ、そうか。私は考え違いをしていたんだ。

 お姉ちゃんに認められる手段として私は専用機を1人で作ろうとした。だけど、今私がしなくちゃいけないのは専用機を完成させて試合に出る事だったんだ。なんて矛盾だろう。なのに私は先輩達の協力を断り、1人でやるんだと意固地になっていたんだ。これでは彼に馬鹿呼ばわりされても仕方がない。

 私は今までの自分を振り返り、恥ずかしい気持ちで一杯になった。

 

 

 

 

「・・・・・そうだったんだ。結城さん、ありがとうございます。確かに私は馬鹿呼ばわりされても仕方がないですね」

 

 彼──結城さんは一瞬訝しげな視線を向けたけど、私が理解した事を察したのか、顔付きが元の優しい表情に戻りました。そして、

 

「分かってくれたのならいいんだ。こっちもキツい事を言って悪かった、ごめん」

 

 そう言って頭を下げてくれました。貴方は悪くないのに、私の目を覚ましてくれた事に感謝しなくちゃいけないのに、随分と律儀な人です。そう思ったら思わず笑みが零れてしまいました。

 

「どうした? 更識さん」

 

 突然笑い出した私に結城さんが尋ねる。

 

「簪、と呼んでくれませんか? その、更識と言う名字は今の私には少し重いので」

 

「・・・・分かった。なら俺の事も志狼でいいよ、簪」

 

 私が思い切って言うと、何か感じる事があったのか一瞬真剣な顔をした後に彼──志狼さんは笑顔でそう呼んでくれました。

 

「はい、志狼さん!」

 

 私は久し振りに心からの笑顔で答えました。

 

 

~side end

 

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 今までのどこか陰りのある雰囲気を払拭するかのような笑顔を見せる簪。先程言った名字の重さや、あの人に認められたいと焦る気持ちが彼女が本来持っていた明るさを曇らせていたようだ。でも今の彼女なら大丈夫。そう思わせる何かが簪の笑顔にはあった。

 

 

「さて、これからどうする?」

 

「・・・・ま、まず、整備科の事務所へ行って協力を仰ぎます。でも、私、前にやらかしちゃったから・・・・」

 

 俺が何をしたのかと不思議そうな顔をすると、本音が、

 

「あのね、前に協力を申し出てくれた整備科の先輩達に向かって、さっきみたいにガオ~って」

 

 成る程、さっきみたいに「自分一人でやるから手を出すな!」的な事を言ったのか。それは確かに気不味いだろうな。でも、

 

「でも、やらなくちゃ。こ、こっちが悪いんだから例え土下座をしてでも整備科の協力を取り付けてみせる!」

 

「その意気だ。いざと言う時は俺も一緒に土下座してやるよ」

 

「私も~~!」

 

「! 志狼さん、本音・・・・・・ありがとう」 

 

 簪は目を潤ませながらそう言った。そこに、

 

「話は聞かせて貰いました、お嬢様」

 

 

 声のした方を見ると、そこには数人の生徒を引き連れた現整備科長、布仏虚がいた。

 

 

~side end

 

 

 

 

 

~虚side

 

 

 整備室内で言い争いが起きている。そう報告を受けた私は事務所にいた整備科の現エース、2年の黛薫子(まゆずみかおるこ)さんと報告して来た娘達を連れて現場に向かいました。

 整備室は私の管轄下にあると言うのに、そんな所で諍いを起こすとはいい度胸です。たっぷりお灸を据えてやりましょう。

 

「それで、こんな所で諍いを起こすのはどこの誰です?」

 

「それが、例の更識さんと、男の人、結城志狼さんです」

 

「!!」

 

 それを聞いて私は驚いた。結城さんは昨日会議で会ったばかりだけど、礼儀正しく、自ら諍いを起こすような人には見えなかった。簪お嬢様は尚更だ。生まれた時から知っているあの大人しい娘が言い争いをするなんてとても思えない。一体何があったのか? 私達は現場に急いだ。

 

 

 

「───君にとっての最優先事項は何だ?」

 

「・・・・最優先事項?」

 

「そうだ。あの人に認められる事か? 専用機を完成させる事か? どっちだ?」

 

 

 現場に到着した私達はまず様子を伺いました。

 そこには結城さんの詰問に考えを巡らす簪お嬢様の姿がありました。どうやら結城さんから専用機を1人で作ろうとする愚かしさを咎められているようです。

 それも当然。簪お嬢様は御当主──楯無お嬢様が1人で専用機『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』を作ったと思い込んでいるのだ。確かに設計は楯無お嬢様がお1人でしたが、機体の製造には私達整備科や開発科が力を借しているのだ。ISと言うものは決して1人で作れるものではない。それが出来るのは世界で唯1人だけなのだ。

 その事を何度説明しようとしても聞く耳持たなかった簪お嬢様が今回、結城さんの言葉に耳を傾けている。これは良い兆候だ。そして、今2人は笑顔で語り合っている。更に私達整備科の協力を取り付ける為に土下座まで辞さないと言っているのだ。流石にそんな事させられない。私はここぞとばかりに姿を見せた。

 

 

 

「話は聞かせて貰いました。お嬢様」

 

 私が姿を見せるとそこにいた人達は全員違う様子を見せた。簪お嬢様は素直に驚いていた。そんな顔もとても可愛いです。逆に結城さんは「やっと出て来たか」と言わんばかりの態度。私達がいる事に気付いていたようで、この人本当に何者なんでしょうか? そして、妹の本音は両手を振って、「お姉ちゃんだ~♪」と笑顔を振り撒いていた。全くこの娘は自分の妹ながら良く分からない。

 

「う、虚さん。どうしてここに?」

 

「あら、整備科長である私がここにいるのに理由が必要ですか? それより、私達整備科の力を借りたいのですか?」

 

 簪お嬢様はハッとすると、意を決したように私を見る。

 

「はい。今まで皆さんが散々協力を申し出てくれても私は意地を張って断ってばかりでした。でも、ようやく自分1人では専用機を完成させられない事に気付きました。今更虫の良い話ですが、どうか私の専用機を完成させる為に力を貸して下さい。お願いします!」

 

「「お願いします!!」」

 

 簪お嬢様が私達に頭を下げると同時に結城さんと本音も同じく、頭を下げました。私は後ろにいる薫子さんと目を合わせると、互いに頷いて、

 

「3人共頭を上げて下さい。簪お嬢様、良く決心なさいましたね。私達は貴女がそう言ってくれるのをずっと待っていたんですよ」

 

「虚さん・・・・」

 

「貴女が意固地になっているのは分かっていました。ですから私達は貴女が冷静さを取り戻した時には、すぐにも協力出来るように体制を整えていたんです」

 

「虚さん、ありがとうございます!」

 

 簪お嬢様は再び深く頭を下げました。目の端が光っていたのは見なかった事にしましょう。

 

「結城さんもお嬢様を説得してくれてありがとうございます」

 

「いや、俺は自分のしたい事をしただけで・・・・」

 

「あ~、しろりん照れてる~♪」

 

 本音がそう揶揄うと、結城さんは本音の頭を持ってシェイクしましたが、本音は楽しそうに悲鳴を上げていました。仲がいいんですね、この2人。あ、お嬢様が羨ましそうにしています。あらあらこれはちょっと面白くなりそうですね。

 

 

 

 

 こうして簪お嬢様の専用機「打鉄弍式再開発計画」が発足しました。政府や企業が当てにならぬ中、学園の力だけで成し遂げねばならない一大計画です。

 さあ、お嬢様を蔑ろにした者達に目にもの見せてやりましょう!

 

 

~side end

 

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 打鉄弍式再開発計画。簪の専用機『打鉄弍式』を企業の手を借りず、学園生の力で再開発しよう、と言う計画だ。

 メンバーは簪や本音は勿論、整備科からは科長である虚さん、現エース黛先輩を始め、2、3年生の有志一同。開発科からも何人かが協力を申し出てくれた。1年生では同じ日本代表候補生である明日奈が機体データの提供やテスト飛行の随伴を買って出てくれた。また、武装について専門知識を持っていた4組副代表の沙々宮さんも参加を表明。そして何より、『電子の女帝』藍羽浅葱がアドバイザーに就任したのだった。

 

 計画が発足した日の夜、浅葱と電話で話した時、自分のサポートを頼むのをすっかり忘れていた俺は浅葱から怒られていた。何故そうなったか理由を説明すると、案の定浅葱は大激怒。自分も参加すると言い出した。流石にそれはマズいと説得し、何とかアドバイザーで納得して貰った。

 メンバーの皆は伝説の卒業生たる浅葱がアドバイザーに就いた事で大いに盛り上がっていた。

 そんな中で、俺に与えられた任務は雑用係だった。

 

 これは仕方がない事で、何と言っても俺にはISに対する知識が圧倒的に足りない上、整備の経験もないのだ。そんな奴がウロウロしてても邪魔なだけなので、俺は工具を持って来たり片付けたり、力仕事をしたりとやれそうな仕事を見付けては整備室内を行ったり来たりしていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 木曜日の朝、1年1組の教室内は異様な雰囲気に包まれていた。何故かと言うと今日で丁度1週間だからだ。そう、懲罰房に入っていた織斑が出て来るのだ。

 クラスの皆も織斑をどう扱ったらいいのか分からないようで、その困惑が今の異様な雰囲気を作り出していた。

 

 俺は固い表情をして席に着いていた箒の肩をそっと叩いた。

 

「箒、大丈夫か?」

 

「志狼・・・・うん、大丈夫」

 

 肩に置いた俺の手に、自分の手をそっと重ねて微かに微笑む箒。明らかに無理してるのが分かったが、ずっと着いている訳にもいかない。俺は歯痒さを感じながらも、

 

「そうか、昼食は一緒に摂ろう。何かあったら言えよ?」

 

「うん・・・・ありがとう志狼」

 

 そう言葉を交わし、俺は自席に戻った。

 

「兄さん、箒の様子はどう?」

 

 明日奈が心配そうに声をかけて来る。先日、朝帰りが見つかった時、明日奈には箒に何があったかかい摘まんで話してある。それにより、明日奈の織斑嫌いにますます拍車が掛かったが仕方がないだろう。

 

「明らかに無理してる。まだ1週間しか経ってないんだし、当然だよな・・・・」

 

「うん、心配だね」

 

 

 

 そしてチャイムが鳴り、真耶先生と織斑先生が入って来た。いつもは副担任の真耶先生にSHRは任せているのに、今日は最初から織斑先生が教壇に立った。

 

「皆おはよう。・・・・さて、この雰囲気は皆もう分かっているのだろう。本日より懲罰房に入っていた織斑が懲罰期間を終え、再びクラスに合流する。皆思う所もあるだろうが、出来ればクラスメイトとして温かく迎えてやって欲しい」

 

 

((((いや、どう考えても無理だろ!!))))

 

 

 まるで、クラス中の無言のツッコミが聞こえるようだ。だが、そんな圧力にめげず話を続ける織斑先生は流石ブリュンヒルデと言うべきか。

 

 

「では、織斑、入って来い」

 

 扉が開いて織斑が入って来た。そして、

 

「皆、久し振り! 織斑一夏、恥ずかしながら帰って来ました!!」

 

 久し振りに見た織斑がイケメンスマイル全開で挨拶して来た。

 

 

 

 

 

 その後、一悶着あったが織斑は自分の席に着くと例のイケメンスマイル全開で周りの娘に話しかけた。その結果、何人かの態度が軟化して、今では談笑までしているのだ。

 奴のやらかした事を知っていながらこれなのだ。正にイケメン恐るべし、である。

 とは言え、そんな手に引っ掛かるのは意志が弱く流され易い娘だけで、大半の娘達は織斑に対して不信感を募らせていた。そんな時、大きな音を立てて扉が開き、1人の少女が駆け込んで来た。

 

 

「───一夏!」

 

 少女ーー鈴は織斑を見て息を詰まらせ、

 

「えっ・・・・・・鈴?」

 

 織斑は彼女を見ると、立ち上がり息を止めた。

 

 

 そして、次の瞬間、

 

 

「鈴!!」

 

 

 

 織斑は鈴を抱きしめていた。

 

 

~side end

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

作中で打鉄弍式の再開発が始まりました。

これは原作を読んでいて、仮にも代表候補生の専用機を半年近くも放っておくなんてあり得ないだろうと思っていた所、他の作者さんが書いたSSで簪が1学期から登場していたのがいくつもあったので、じゃあうちもそうしようと思い、簪の早期登場となりました。

原作では今一印象が薄く感じていた簪ですが、本作中では活躍して貰おうと思います。

次回の予告なんですが、一夏と鈴の再会をもう少し掘り下げて、さらには志狼対一夏、再びとしたいと考えてます。
但し、最近守れない事が多いので、あまり当てにしないで下さい。

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