二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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遅くなりましたが、第21話を投稿します。


この場を借りて修正箇所の報告をさせて下さい。

今回より、アリーナの司令室と言うのを管制室に変更します。遡って第12話まで同様に修正しました。

また、第14話「VS 白式」において、今後の重要キャラが登場する場面を加筆、修正しました。

連載当初から読んでくれてる方には申し訳ありませんが、1度読み返して下さると幸いです。


それでは鈴が乱入した後はどうなったのか、第21話をごらん下さい。



第21話 忍び寄る魔の手?

 

 

~千冬side

 

 

 第3アリーナ管制室は酷い有り様だった。正面のガラスが割れ、割れたガラス片が内外に飛び散り、いくつもの機材が倒れてる。

 あの模擬戦の後、このアリーナでは4組の更識が専用機のテストをするはずだったのだが、管制室がこの有り様では使わせる訳にはいかず、特別に教員用アリーナの使用許可を出して、そちらに行って貰った。

 そして、人気のなくなった管制室に私は件の3人を呼び出していた。

 

 

 まず結城は堂々としていた。こいつはまあ、特に問題を起こした訳ではないから、この態度も納得出来る。

 次に一夏だが、こいつは見るからに落ち込んでいた。気付かなかった私も悪いが、せめて一言相談してくれればバイトなんかさせなかったのに、こいつの1人よがりはどうするべきだろうか・・・・

 最後に凰。こいつはずっと俯いている。良く見ると汗をダラダラと流していた。突発的とは言え自分のやった事が非常にマズいと理解しているのだろう。私はこいつのこう言う短絡的な所が昔から気に食わなかったのだが、案の定、やってくれたものだ。

 

 

「さて、お前達には聞くべき事と言うべき事がいくつかある」

 

 そう言うと、結城以外の2人がビクッと反応した。

 

「まず結城。何故織斑と模擬戦をした?」

 

「はい。理由は3つありますが、1つは前回のバトルでの決着が曖昧だったのできちんと決着を着けたかったと言う事。2つ目と3つ目は──失礼」

 

 結城はそう言うと私に近付き耳元でそっと囁いた。

 

「2つ目は織斑のストレスを発散させる事です。あいつ相当溜まってたみたいですから、ストレスの元である俺にぶつければ多少は晴れるかと思ったんですが、それ処じゃなくなりましたね・・・・」

 

「そ、そうか。気を使わせたな」

 

「いえ、それと3つ目は、あいつまた箒を傷付けたんで、ちょっと制裁を加えとこうかと思いまして・・・・」

 

「・・・・一夏は何を言ったんだ?」

 

「箒に言った罵詈雑言をテンパッていて覚えてないそうですよ」

 

「あの馬鹿!・・・・解った、本当に色々すまんな」

 

 私がそう言うと、結城は小さく頷き元の場所に戻った。

 

 

「次に織斑。お前はまあ表面的には問題はない。結城に模擬戦を挑まれて、受けただけだからな」

 

「ち、千冬姉・・・・」

 

「だがな一夏、教師としてはともかく、姉として保護者として言っておかねばならない事がある。お前は何故私に相談せず、勝手に行動するんだ。生活費が足りなくなったら言えと私は言ったよな。それを家に金がないと勝手に思い込みバイトをするなんて、一言相談してくれさえすればお前だって中学で部活とか出来ただろう。金の事ではお前を困らせる事はないと思っていた自分が情けないよ」

 

「千冬姉、ごめん・・・・」

 

「そもそもな、酒屋の親父さんだって本当は迷惑してたんだぞ?」

 

「ええっ!!」

 

「当たり前だ! 条例で中学生は雇っちゃいけないのに、お前親父さんに土下座して頼み込んだそうじゃないか。店先でそんな事をしたら迷惑に決まってるだろう。それじゃあ一種の脅迫だぞ!」

 

「ううう・・・・」

 

「お前は何故か私に頼る事を恥と思ってるな? だが私はお前の姉で、たった1人の家族なんだぞ。家族を頼るのは決して悪い事でも恥ずかしい事でもないんだ。良く覚えておけ!」

 

「・・・・・・はい」

 

 一夏は俯きながらも返事をした。これで分かってくれるといいんだがな・・・・

 

 

「さて、待たせたな凰。お前には色々と言いたい事がある。何故かは解ってるな?」

 

「ううっ、はい・・・・」

 

 凰は後退りながらも、自分が悪い事は理解しているようで逃げようとはしなかった。

 

「専用機持ちでありながら許可なくISを展開、あまつさえ学園の施設や機材を破損させ、同じ室内にいた者達を危険に晒した。何か申し開きはあるか?」

 

「・・・・いえ、ありません」

 

「お前は中国の代表候補生だ。この事は中国政府に正式に報告と抗議をする事になるが構わないな?」

 

「ぐっ・・・・はい、構いません」

 

「待ってくれ千冬姉! 鈴は俺の為に──」

 

「そんな事は関係ない! お前は黙ってろ!!」

 

 一夏が凰を庇おうとしたが、私が怒鳴りつけると、黙り込んだ。

 

「では凰鈴音。お前にはISの無断展開及び危険操縦と器物破損の罰として反省文30枚と5日間の自室謹慎を申し渡す。反省文は明日中に提出しろ」

 

「・・・・・・はい」

 

 そう言い渡し、解散させようとしたその時、

 

「先生、発言よろしいですか?」

 

 結城が発言を求めて来た。

 

「結城? いいだろう、何だ?」

 

「鈴の処分なんですが、反省文はともかく謹慎はクラス対抗戦が終わってからにして貰えませんか?」

 

「・・・・何故だ?」

 

「来週末にはクラス対抗戦が開催されます。それまでの期間は出場選手にとって貴重な訓練期間です。今回の鈴の処罰は彼女個人に関するもの。この期間訓練出来なければ2組の皆に迷惑が掛かる事になりますし、俺としても出場するなら万全の状態であって欲しいんです。お願い出来ませんか?」

 

「ふむ・・・・結城はこう言ってるがどうする、凰?」

 

「わ、私としてはとても助かります。お願いします織斑先生!」

 

「いいだろう。では反省文は明日まで、謹慎はクラス対抗戦が終わってからとする。いいな?」

 

「「「はいっ!!」」」

 

 この後、解散を言い渡し、3人が管制室を出るのを見送ると、私は後片付けの手配を始めた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~箒side

 

 

 志狼達3人が管制室から出て来た。私やセシリアのように志狼を心配して待っていた娘達が志狼の元に集まる。

 

「志狼! 何か処分とかあったのか!?」

 

 何かあったのではと焦る私が聞くと、

 

「いや、俺と織斑は特に何も。ただ、鈴がな・・・・」

 

 皆はああ、と納得した顔をしていた。

 

「皆、危険な目に合わせてごめん!」

 

 と、鈴が謝ると、皆からは「大丈夫」「心配ないよ」などと鈴のした事については比較的寛容であるようだ。

 

「志狼、織斑先生に取りなしてくれて、ありがとう」

 

「何、俺は訓練不足で負けたなんて言い訳が聞きたくなかっただけさ」

 

「ふふん、そんなに言うならクラス対抗戦は全力で叩いてあげるわ!」

 

 鈴が彼女らしい不適な笑みを浮かべた。何だか久し振りに鈴らしい表情を見た気がする。

 志狼も嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべ、見つめ合う2人の間には火花が散っているようだった。すると、 

 

「鈴、行くぞ! それと箒、今日は先にシャワーを使わせて貰うからな!!」

 

 こちらと距離を取っていた一夏が焦れたように大声を上げた。

 

「ああ、好きにしろ」

 

「あ、待って一夏! じゃね、皆!」

 

 私がそう言うと、鈴は一瞬、不思議そうな顔で私を見てから一夏を追いかけて行った。

 

 

 

「さて、俺は簪のテストの手伝いに行くけど皆はどうする?」

 

 志狼は皆にこの後の予定を聞くと、各々部活ややる事があるそうなので、ここで解散となった。私も剣道部に行かなければならないが、その前にやる事があった。

 

「皆、待っててくれてありがとうな。部活頑張ってくれ」

 

 志狼はそう言うと、皆とは別方向にある教員用アリーナに向かおうとしたが、私はそんな志狼を呼び止めた。

 

「志狼!」

 

「箒? どうした?」

 

「志狼・・・その、今回の件は私の為にしたのか?」

 

「・・・・何故そう思った?」

 

「だって! あのタイミングで志狼が怒るなんて私の事くらいだし、それに、バトル中に箒にあんな顔をさせるなって言ってたから・・・・」

 

「そうか・・・・管制室には通信傍受機能があるんだっけな」

 

 どうやらごまかそうとしていたようだけど、こっちは一夏との会話を全て聞いていたのだ。志狼は私に言い訳出来ないと悟ると、

 

「そうだよ。確かに俺は箒にあんな作り笑いをさせた織斑が許せなくて、ぶん殴ってやるつもりだった。ただ殴ったら俺が罰せられるから、模擬戦と言う事にして、合法的にボコるつもりだったんだが、織斑の馬鹿さ加減にやる気を削がれてあまりボコれなかった。すまん」

 

 志狼は私を真っ直ぐに見つめて言うと、軽く頭を下げた。違う! そうじゃないんだ!!

 

「違うんだ、志狼。私は謝って欲しい訳じゃなくて、私なんかの為に危険な真似をしないで欲しいんだ。志狼は優しいから私なんかの為に平気で自分が傷付くような事をしかねないから、もっと自分を大切にして欲しいんだ。私なんかのせいで志狼が怪我をしたり、罰せられたりするのが、嫌なんだ・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 私はいつの間にか志狼にすがり付くように身を寄せていた。彼の厚い胸板に手を置いて、顔を見上げると、志狼の表情には微かな怒りがあった。何か怒らせるような事を言ってしまったのだろうか?

 

「・・・・箒」

 

「! は、はい!?」

 

「私なんか、なんて言うな」

 

「え?」

 

 私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。そのまま両肩をつかまれて、背後の壁まで押しやられる。

 

「私なんかって自分を卑下するような言い方はやめろ!」

 

 志狼が何故怒ってるかが分かった。でも、私には実際価値なんて・・・・いや、ある。「篠ノ之束の妹」と言う価値が。自分を長年苦しめて来たそれを思い出し、私は自嘲気味に呟いた。

 

「でも私の価値なんて、「篠ノ之束の妹」と言うくらいだし・・・・」

 

 私が俯いて言うと、耳元でバンッ大きな音がした。驚いて顔を上げると、志狼の顔が目の前あった。狼狽えて顔を背けようとすると、志狼の両手で正面に固定されて背けられない。こ、これって所謂壁ドンと言う奴では!?

 

「し、ししし志狼!?」

 

「箒、そんな悲しい事言わないでくれ。それじゃあ目の前にいる女の子を大切に思ってる俺の気持ちはどうなるんだ?」

 

「え? 私が大切・・・・・・? 志狼が?」

 

 心臓が激しく高鳴る。志狼に大切と言って貰えて正直凄く嬉しい。でも・・・・

 

「箒、お前とは入学初日から色々あったよな・・・・俺にとってお前はもう身内同然なんだよ。俺はきっとお前をもう見捨てられない。お前に何かあったら力になりたいし、お前を傷付けるものから守りたいと思ってる」

 

「志狼・・・・・・」

 

「それに、お前のあの笑顔を見てしまったからな。あんな風に人の笑顔に心奪われたのは初めてだ。だからこそお前にあんな作り笑いをさせた織斑を許せなかった。箒、お前は自分を大切にしろと言うけど、アイツがまたお前を傷付けるようなら、俺は何度でも戦うぞ」

 

 志狼の左手が私の頬をそっと撫でる。優しく、壊れ物を扱うように。志狼が触れているだけで私はこんなにも幸せを感じてる。

 好きな人が自分のせいで傷付くのは恐い。でも、自分の為に戦ってくれるのは嬉しい。相反する想いが私の中で渦巻いている。なんて矛盾してるんだろう?

 志狼の意志を覆すのは難しいだろう。ならば、彼に迷惑を掛けないようにする為に私は──!

 

「志狼、今後一夏がどんなに私を傷付けようと、意趣返しのような事は一切しないで欲しい」

 

「しかし、箒──「私は!」!?」

 

 反対しようとする志狼の口唇に人差し指を添えて、口を封じる。

 

「私は強くなる! 一夏が何を言って来ても傷付かないように、貴方の隣りに並び立てるように強くなる。なって見せる!!」 

 

 私は真っ直ぐに志狼を見つめて、そう宣言する。志狼は一瞬、驚いた顔をすると、やがて肩を震わせ笑い出した。

 

「志狼・・・・?」

 

「いや、すまん。箒の決意を笑った訳じゃないんだ。ただ、お前はやっぱり守られてるだけじゃない、戦うヒロインなんだなあって思ったら、つい」

 

 志狼はまだ笑っている。

 

「ふん、今に見てろよ。志狼を守れるくらい強くなってビックリさせてやるから!」

 

 笑い続ける志狼にそう言ってやると、

 

「ああ、見てるよ」

 

 いつの間にか笑いが止んで、志狼がそう言った。

 

「志狼・・・・?」

 

 不思議に思って志狼の方を向くと、志狼は真っ直ぐに私を見つめていた。いつもの優しくて温かい、その眼差しで。

 

「ずっと見てる。だから頑張れ、箒」

 

「志狼・・・・・・うん!!」

 

 私は志狼に飛びっ切りの笑顔を向けた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~鈴音side

 

 

「ねえ一夏。さっきのってどういう事?」

 

「さっきのって何だよ?」 

 

 寮が見えて来た頃、隣を歩く一夏にそう訊ねると、一夏は訝しげに聞き返す。

 

「ほら、箒にシャワーを先に使うって・・・・」

 

 意味深な台詞が引っ掛かる。まさか箒とつき合ってる? でもどう見ても箒が好きなのって志狼なのよねえ・・・・?  

 

「ああ、箒とは同室だからな。いつもはあいつが先にシャワーを使うから、今日は先に使わせて貰うって断っただけだよ」

 

 箒と同室!? 聞いてないわよ私は!?

 

「何でアンタが箒と同室になってるのよ!?」

 

「何でって・・・・部屋が足りないから仕方ないだろ? まあ箒とは幼馴染みだし、見ず知らずの女子と同室になるよりましだからな」

 

 箒と幼馴染み!?・・・・ああ、そう言えば私と知り合う前にも女の幼馴染みがいたって言ってたわね。私がセカンドでその娘がファースト幼馴染みだって・・・・なら!

 

「幼馴染みだからって同室になったの? なら私にもその資格はあるわよね!?」

 

「お、おう。同意が得られればいいんじゃないか?」

 

「そう・・・・・・一夏、アタシやる事があるから、また後でね!」

 

 一夏の返事も聞かずにアタシは来た道を引き返して駆け出した。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 箒と別れ、教員用アリーナに来た俺は、まず状況を確認しようと管制室に入った。

 

「遅くなりました虚さん。テストはどうなってますか?」

 

 メインコンソールに座っていた虚さんがこちらを向く。

 

「お疲れ様です志狼さん。丁度良かった。アリーナに入ってお嬢様の随伴をして貰えますか?」

 

「随伴? 構いませんが明日奈はどうしたんです?」

 

「それが、電話があって席を外してからまだ戻って来ないんです」

 

 何だろう? 少し心配だが、そう言う事なら仕方がない。

 

「分かりました。すぐに着替えます」

 

「お願いします」

 

 俺は管制室を出て、ISスーツに着替えるべく、更衣室に向かった。

 

 

 

 

 

 ISスーツに着替えた俺は、アリーナ場内で打鉄弍式を纏った簪と、最終調整をしている黛先輩に声をかけた。

 

「簪、黛先輩、お待たせ」

 

「あ、志狼さ、ん・・・・」

 

「おー、志狼君ご苦労おおおーーーっ!!❤」

 

 何だ? 2人の様子がおかしい。簪はうっすらと頬を染めて、チラチラとこちらを伺っており、黛先輩は目を爛々と輝かせ、どこから取り出したのか、デジカメをこちらに向けて、いろんな角度からシャッターを切りまくっている。正直動きが気持ち悪い。

 

「・・・・何やってるんです貴女は」

 

 流石にローアングルから人の尻や股関を撮り出したのでカメラを没収して尋ねる。

 

「だって! 志狼君の貴重なISスーツ姿の生写真だよ!? 一体いくらで売れると思ってるの! プレミア物だよ!!」

 

「そんな事知りません」

 

 俺はそう言うとデジカメのデータを消去した。

 

「あああああーーーーっ!!」

 

 データを消去したデジカメを黛先輩に返すと、先輩はさめざめと泣き出した。

 

「うう、酷いよう~~~」

 

 許可も得ず撮った写真で商売しようなど言語道断。しばらく泣かせておこう。

 

 

 

 今でこそこんな風に接している黛先輩だが、打鉄弍式再開発計画がスタートした時には結構刺々しい態度で、計画にも虚さんに言われて仕方なく参加したと言う体であった。

 これは完全に俺のせいである。まあ、パーティーの時、取材に来た先輩を俺が問答無用で追い返したから、その時の事を根に持っていたらしい。

 結局、打鉄弍式が完成した暁には独占インタビューを受ける事とその時に先輩が用意した衣装を着て写真を撮らせる事を約束すると、ようやく機嫌が直ったのだった。

 それからの黛先輩は整備科のエースと呼ばれるに相応しい活躍をしてくれるようになった。時々先程のような奇行に走る事もあるが、概ね頼りになる存在である、はず?

 

 

 黛先輩は放っといて、簪に目をやると、頬を赤らめて恥ずかし気にこっちをチラチラと盗み見ている。別段恥ずかしい格好をしているつもりはないんだが、簪のように清純そうな娘からそんな風に見られては悪戯心がムクムクと湧いて来る。こんな事だから明日奈からドSだなんて言われるんだよなあ。

 ともあれ、簪をイジリたいと言う気持ちとそんな場合じゃないと言う気持ちを人知れず葛藤させていると、

 

「かんちゃんお待たせ~。あー、しろりんだ~♪」

 

 いつもマイペースの本音が機材の載ったカートを押してトテトテ駆けて来た。

 

「よっ、本音。ご苦労様」

 

 いつものように俺の隣りにやって来た本音に声をかけて、頭を撫でる。

 

「えへへへー♪ しろりんもお疲れ様。聞いたよ?大変だったね」

 

 織斑を連れ出す前に教室からいなくなっていた本音は何があったのか結果だけ聞いたらしい。

 気にならないはずはないのに、詳しい経緯を聞きもせず、ただ隣りでニコニコ微笑んでる姿に癒しを感じて、更に頭を撫でる。そうすると本音は更に笑みを深くして、癒しのパワーが増したので、俺も更に頭を撫でる。こうして癒しの永久機関が完成した。

 

「何をしてるんですか、2人共!」

 

 ふと気が付くと、簪がジト目をしてこちらを見ていた。

 

「ちょっと癒されてた」

 

「癒してたー♪」

 

 俺と本音の返答を聞くと、簪は深くため息を吐いた。

 

「あの、そろそろテストを始めたいんですけど?」

 

「俺の方はいいけど、黛先輩はどうするんだ?」

 

 黛先輩は泣き止んではいたが、その場に体育座りをして、完全に拗ねていた。

 

「もう! 黛先輩!! 完成したら志狼さんに好きな衣装を着せて写真撮れるんでしょう!? だったらその時にISスーツでもフンドシ一丁でも好きにすればいいじゃないですか! いい加減仕事して下さい!! 」

 

 簪がそう言うと、黛先輩の目に光が戻った。

 

「そうだったーーーっ!! そう、完成した暁には写真撮り放題!何でもありのヴァーリ・トゥードなのよーーー!!

よし、仕事しよ! ほら、かんちゃんと志狼君はIS纏って! 本音ちゃん機材の準備して!」

 

 雄叫びを上げて復活した黛先輩は人が変わったようにテキパキと指示してテストの準備を整えて行く。

 

「おい簪、どうするんだ。流石にフンドシ一丁は嫌だぞ!?」

 

 俺は簪に抗議するも、簪はニッコリとイイ笑顔をして、

 

「協力、してくれるんですよね? お願いしますね志狼さん♪」

 

 と言うと、展開してあった打鉄弍式を纏い始めた。

 出会った頃の弱々しさはなりを潜め、彼女本来の明るさが現れるようになったからか、最近の簪は自分の意見をはっきり口にするようになった。いい徴候だとは思うが、急激な変わり様に若干戸惑ってしまう。

 

「しろり~ん、準備して~」

 

 本音に言われて急いで孤狼を纏う。いかん、今はテストに集中しよう。

 

 

~side end

 

 

 

 

~簪side

 

 

 打鉄弍式のテストが始まった。起動テストから飛行、武装のテストと次々とメニューをこなして行く中、そのテストの全てに志狼さんが孤狼で付き添ってくれる。

 飛行テストでは万が一に備えて僚機として飛んで貰い、武装テストでは模擬戦の相手をして貰い、貴重なアドバイスをしてくれた。献身的に力を貸してくれる志狼さんに、先程は悪い事をしたなあ、と私は反省していた。

 自分でも分かってる。これがただの嫉妬であると。頭を撫でられて仲良さげに微笑みを交わす2人に本音が羨ましいなあとか、私もして欲しいなあとか思ってただけで、志狼さんは決して悪くないのだ。それなのにフンドシ一丁とか結構酷い事を言ってしまった。でも咄嗟に出て来たのは何でフンドシだったんだろう? そりゃあそう言う姿を見たくないと言えば嘘になるけど、ちょっと特殊過ぎないだろうか? 自分の隠れていた趣味に戦慄を覚えていると、バチが当たったのか突如右脚部のバーニアが火を吹いた!

 突然の事に、バランスを崩してコントロール出来なくなる。

 

「きゃあああーーーーっ!!」

 

 失速し、落下する中、今度は左脚部のバーニアが爆発した!その衝撃で私はかなりのスピードで落下する。ISには絶対防御があるのだから死ぬ事はないだろうが、衝撃を完全に殺す事は出来ない。何より高速で落下するのは本能的な恐怖を呼び起こす。私は落下の衝撃に備えて歯を食い縛り、目を閉じた!

 

 

 

 感じた衝撃は思ったより軽く、絶対防御って凄いなあ、と一瞬思ったが、そんな訳ない。恐る恐る目を開くと、私は孤狼に抱き抱えられ、空に浮いていた。

 

「簪! 大丈夫か!?」

 

「し、志狼さん・・・・」

 

 孤狼のマスクが開き、志狼さんが顔を見せる。

 

「だ、大丈夫です、助かりました」

 

「良かった。このまま地上に降りるぞ。いいな?」

 

「あ、はい。お願いします・・・」

 

 着地すると、待機していたスタッフが両脚に消火剤を撒いて火を消した。私はISから降りると足に力が入らなくて倒れそうになったけど、

 

「おっと、大丈夫か?」

 

 ISを解除した志狼さんが支えてくれた。志狼さんはそのまま私を抱き上げると、

 

「本音! 後は任せたぞ!」

 

「オッケ~、任されたー♪」

 

 そう言って医務室に連れて行かれた。って言うかこれってお姫様抱っこじゃ───!?

 

 

 

 

 

 

「先生! 急患です!」

 

 医務室の扉をノックして、志狼さんが医務室に入る。無論、私をお姫様抱っこしたままで。

 

「あら、大変」

 

 養護教諭の御門涼子先生が台詞とは反対に落ち着いた様子で近付くと、私をじっと見つめて、フッと微笑む。

 IS学園の教師は織斑先生を始め、美人が多いのだけど、この御門先生は学園でも1、2を争う美女として知られている。とにかく色っぽいと言うか艶っぽいと言うか、他の先生達とは違う妖艶な魅力のある女性なのだ。

 

「それじゃ、そのベッドに寝かせて頂戴」

 

 先生に言われて、志狼さんは私をベッドに寝かせると、

 

「先生、俺は外に出てるので診察お願いします」

 

 そう言って医務室を出て行った。

 

「あら、別にいても良かったのに。ねえ?」

 

「え? いや、駄目ですよ!?」

 

「そうなの? ふふ、それじゃ始めましょうか。スーツを脱いで頂戴」

 

 そう言って先生は診察を始めた。

 

 

 

 

「大丈夫。特に怪我はないわ。落下のショックで精神的に参っているだけだから、少し休んで行きなさい」

 

「はい。ありがとうございます」 

 

「それじゃ私は用があるから。ここはお願いね、彼氏クン?」

 

「彼氏じゃありませんが、分かりました」

 

 

 御門先生の診断後、私はそのままベッドで横になっていた。付き添いには連れて来た志狼さんがそのまま付いてくれたんだけど、は、恥ずかしくて顔を見れないよ~!

 

「それじゃ、頑張って。ね?」

 

 御門先生が私の耳元でそっと囁いてから医務室を出て行く。何か誤解されてるよ~! 私が顔を赤らめていると、志狼さんが私の額に手を当てて、

 

「少し熱っぽいな。冷やしとくか」

 

 そう言って濡れタオルを額に乗せてくれた。決して熱っぽい訳ではないんだけど、ひんやり冷たいタオルは心地良かった。

 

「あ、ありがとうございます・・・・」

 

「・・・なあ簪、もしかして昨夜あんまり寝てないんじゃないか?」

 

「あう・・・・」

 

 実はその通りで、今日のテストが上手く行けば完成まで後一息だと思うと気が逸ってしまい眠れなくて、好きなアニメでも見て気を落ち着けようとして、気が付くと朝になっていたと言う体たらくだったのだ。

 

「やっぱり。操縦者は体が資本なんだから、きちんと睡眠は取らないと駄目だろ」

 

「はい、すいません・・・・」

 

「クスッ 全く、しっかりしてるようで案外抜けてるんだな、簪は」

 

「あう・・・・」

 

 志狼さんは苦笑を浮かべて、私の頭を優しく撫でてくれた。

 

「それじゃ、俺は行くから、このまま少し眠るといい」

 

 そう言うと、頭を撫でていた掌が離れる感覚がして、私は思わず大声を上げてしまった。

 

「! ま、待って!!」

 

 立ち上がりかけた志狼さんは一瞬驚いた顔をすると、優しく微笑んで聞いてくれた。

 

「どうした、簪?」

 

「えと、あの、その・・・・」

 

「何かして欲しい事があるなら言ってごらん」 

 

 志狼さんがそう言ってくれたので、私は思い切って言って見る。

 

「あの、ね、眠るまででいいですから、手を握っててくれませんか?」

 

 私がそう言うと、志狼さんはちょっと意地悪そうに笑うと、

 

「なんだ、今日は随分と甘えん坊だな、簪は」

 

「だ、駄目なら別にいいですよう・・・・」

 

「クスッ 揶揄ってごめん。俺でいいなら喜んで」

 

 そう言うと志狼さんは私の左手を両手で包み込む。

 

「今はゆっくりお休み、簪」

 

 私は志狼さんの温もりを感じながら、目を閉じると、やがて眠りに落ちて行った。

 

 

~side end

 

 

 

 

~?side

 

 

 う、う、羨ましい~~~!!

 

 簪ちゃんが、私の簪ちゃんが他の、しかも男に甘えてる。これは由々しき事態だわ!

 

 簪ちゃんはお嬢様育ちで、同年代の男と接した事なんて滅多にないからちょっとイイ男に優しくされただけでコロッと参っちゃうかも!? イヤイヤ何を言ってるの私。うちの簪ちゃんに限ってそんなチョロインな訳ないわ! ああ! でも顔を赤らめて恥ずかしがってる姿が無茶苦茶可愛いいいいーーー!! ヤバいわ!あれはもう落ちかけてるって言うかもう落ちてるように見えるーーーっ!!

 

 はあ、はあ、くっ、まさか女だらけのIS学園で簪ちゃんに男の魔の手が迫ろうとは。織斑一夏と結城志狼。今期入学した2人の男性操縦者のプロフィールは職務上目を通してあるけど、これだけではその人の人となりまでは解らない。仕方がない、直接接触するのはもうしばらく様子を見てからにしようと思っていたけど、こうなったら私が直に見極めてやるわ! そして、簪ちゃんに相応しくないと判断したら私の持つあらゆる権力を使ってでも2度と近付けないようにしてやるわ!!

 

 まずは結城志狼! 簪ちゃんに相応しいか試させて貰うわ! 覚悟してらっしゃい!!

 

 

~side end

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

学園の養護教諭として、「To Loveる」シリーズから御門涼子先生に出演して貰いました。
保健医と言うとこの人しか思い浮かばなかったんですが、原作で設定されてましたっけ?
仮にいたとしても本作ではこのままで涼子先生にやって貰おうと思います。

さて次回は、志狼に迫る謎の人物(笑)との対決や如何に!?

と言う感じで行きたいと思います。

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