二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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遅くなりました。第24話を投稿します。

今回も毎度同じく予告編詐欺で、更識姉妹の仲直り編をお送りします。

何故投稿が遅れたかと言うと、更識姉妹の仲直りをクラス対抗戦の前にするか中にするかで、最初は対抗戦中にしようとしていたのですが、展開が原作と変わらない事に気付き、対抗戦前に仲直りさせる事にして書き直していたので遅くなりました。

遅れた分、長くなり、過去最長となってしまいましたが、第24話をご覧下さい。





第24話 雪融けの時

 

 

~志狼side

 

 

 華鋼が完成した翌日の放課後。俺は食堂の厨房の一角を借りて、お菓子を作っていた。

 

 昨日、華鋼の最終テストが無事終わると、「打ち上げをしよー!」と黛先輩が言い出した。皆もそれに賛成して、今日の夕食後に行われる事になった。

 その時、本音にこの間のパーティーで作ったホールプディングが食べたいとおねだりされると皆も興味を持ってしまい、作らざるを得なくなり、今作っている所なのだ。

 前回は時間がなく、数を揃えられなくて1人2、3口しか食べられなかった事が不評だったので、今回はミルクとカスタードの2種類を5個ずつ用意した。これなら前回より参加人数は少ないので充分行き渡るはずだ。

 

「兄さん、これでどうかな?」

 

 カラメルソースを作っていた明日奈が味見の為にスプーンを差し出した。

 

「ん? どれどれ・・・・うん、バッチリだ」

 

 明日奈の差し出すまま、スプーンを口に入れて味見すると、やや苦目で丁度いい塩梅だった。

 

「ホント!? やったっ!」 

 

「それじゃあ、そのままラップして棚に入れといてくれ」

 

「冷蔵庫に入れなくていいの?」

 

「冷蔵庫に入れると固まってしまうからな」

 

「は~い」

 

 明日奈はボウルにラップを掛けるとマジックで大きく「整備科」と書いて棚に入れる。これで作業完了だ。

 

「でも、いいのかな。結局、私何も手伝えなかったのに打ち上げに参加して」

 

「いいんじゃないか? 簪が直々に声かけてくれたんだろ? 第一これを作るのを手伝ったんだから堂々としてればいいんだよ」

 

「兄さん・・・うん、ありがとう」

 

 俺達は微笑みを交わし合うと、後片付けを始めた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~楯無side

 

 

 誰もいない生徒会室。私は自分の席に着いて、ノートパソコンに繋いだヘッドホンからとある音声データを聴いていた。

 

 

『ああ、そこダメ! あん❤ あ、い、いいの、ん~~~!!』

 

『んちゅ、んあ、お願い。私を名前で呼んで? ん、ああ、違うわ、ちゅ、刀奈。私の本当の名前はね、刀奈っていうの、ちゅ、ああ、しろお!』

 

『ああん、ごめんなさい! 貴方を罠に掛けようとした悪い娘の刀奈にお、おしおきして下さいっっっ!!』

 

『はあん! いいの、しろお、も、もっと、もっとして! ああ、もう、い、イク、またイク!んああ───っっっ!!!❤』

 

 

 この音声データは先日、志狼の部屋に仕掛けた盗聴機から録音したものだ。

 彼に言われた通り、録音したデータを聴いてみたのだけど、な、何と言うか、これって精神にクルわ!

 確かに私、色々と言ってはいけない事を喋っているのだけど、私を最も打ちのめしたのはそんな事ではなく、

 

「って、私堕ちるの早すぎない!?」

 

 そう。聴いてると抵抗していたのは最初だけで、後はただ、男女の、と言うか自分の睦み合う声が延々と続いているのだ。

 仮にこのデータを提出して、強姦されたと訴えたとしても、誰も信じないだろう。自分で聴いても和姦、それも女(つまり私だ!)が男に甘えてイチャイチャしてるようにしか聴こえないのだから。

 

 聴いているとあの夜、自分がどんな風に彼に可愛がられたか、朦朧としていた記憶がはっきりと甦って来る。

 今の私はきっと真っ赤に蕩けた顔をしているだろう。段々変な気分になって、右手がそっとスカートの中に伸びて──

 

 

「何を聴いてるんだ、刀奈?」

 

 いきなり肩を叩かれて、私はその場で飛び上がった。

 

「し、しししし志狼!? な、何でここにいるのよ!!」

 

 そこには志狼が不思議そうな顔をして立っていた。

 

「い、いつからいたのよ、もう! 声くらいかけなさいよ!!」

 

「いや、ノックもしたし、声もかけたんだぞ? 何を夢中になって聴いてたんだ?」

 

 そう言うと志狼は私のヘッドホンを外して聴き始める。しばらくすると、意地の悪い顔をして、

 

「成る程な。こりゃあ夢中になる訳だ。なあ?」

 

「う、ううう~~」

 

 志狼は扉に近付くと内側から鍵を掛けて戻って来た。

 

「ち、ちょっと、何をする気!?」

 

「ん? そりゃ勿論───」

 

「! あんっ❤」

 

 志狼の指に股間をまさぐられ、クチュッと湿った音が響いた。嘘、私もうこんなに───!?

 

「・・・・用事があったから来たんだがな。でもそんなになった刀奈を放っておく訳にもいかないし、な」

 

「ちょっ! んもう、また!? ダメ、んああっ❤」

 

 

 

 30分程、私達は2人きりで過ごした。

 

 

~side end

 

 

 

 

~虚side

 

 

 生徒会室の扉を3回ノックする。返事がないので開けようとしたら、鍵が掛かっていて開きませんでした。

 

「会長、いらっしゃいます?」

 

 声をかけると、中からはバタバタと音が聞こえて来た。

 

『う、虚ちゃん!? ちょ、ちょっと待って!!』

 

 何だか慌てている会長の声が聞こえて来ました。

 

「会長、どうしました? 大丈夫ですか?」

 

『だ、大丈夫! 大丈夫だから5分程してからまた来てくれない!?』

 

「はい? 本当にどうしたんですか、お嬢様? 開けますよ!?」

 

 要領を得ない楯無お嬢様に業を煮やし、私は持っていた合鍵で扉を開けました。

 

 

 扉を開けた途端、風を感じました。更にいつもと違う甘い香りがします。室内を見ると窓が開いていて、この甘い香りは香水の匂いでしょうか? そして、楯無お嬢様以外にもう1人──

 

「どうしたんです、お嬢様!? と、志狼さん?」

 

「あ、あははは、やっほー、う、虚ちゃ~ん。元気?」 

 

「どうも虚さん、お疲れ様です」

 

 生徒会室内には楯無お嬢様だけではなく、志狼さんもいました。2人は会長席の前に並んで立っていました。

 

「・・・・2人共鍵まで掛けて、一体何をしていたんですか?」

 

「ええ!?ナ、ナニをしてたって、何で知って、ひゃんっっ!!」

 

 お嬢様が何故か飛び上がりました。ひゃん?

 

「実は会長に話がありまして、多分虚さんと同じ用件じゃないかと」

 

「私と? では簪お嬢様の──」

 

「ええ、内密の話なんで鍵を掛けたんですが、俺が運動して来たばかりで汗臭いと言われて、香水をかけられてしまって」

 

 ふむ、辻褄は合っているようですね。疑って悪い事をしました。

 

「そうでしたか。それにしてもかけすぎでは? 逆に香水臭くなってますよ」

 

「そ、そうよね。だから今、換気してる所なのよ!」

 

「成る程。では私はお茶を用意しますね」

 

 私は生徒会室に併設してある給湯室で紅茶を淹れる準備をしながら2人の会話に耳を傾けた。

 

「バ・・・動揺・・・・・自分から・・・・・んだ!」

 

「だから・・・お尻をつね・・・・・・ない!」

 

「そうで・・・・ないと・・・・・うだろうが!」

 

「う、悪かっ・・・にして・・・・わよね、この大嘘・・・・・ひゃん!!いきなり胸・・・よ!・・・ッチ!!」

 

 

 何でしょう? 離れている上に小声で話しているせいか、断片的にしか聞こえません。でも、あの2人っていつの間にあんなに親しくなったのでしょうか?

 そうこうしている間にお湯が沸いたので、私は紅茶を人数分淹れて持って行きました。

 

「お待たせしました。お2人で何の話をしてたんですか?」

 

「いや、ただの雑談ですよ。いただきます。・・・・っ、美味い」

 

 紅茶を一口飲んだ志狼さんが思わず、と言った風に声を上げました。

 

「でしょう? 虚ちゃんの淹れた紅茶は世界一よ」

 

「いや、驚いた。こんなに美味い紅茶はセシリアの実家で飲んで以来だ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 素直にそう言われると、やっぱり嬉しいものです。少し照れくさくなった私は強引に話題を転換をしました。

 

「さて、そろそろ本題に入りましょう。志狼さん、お願い出来ますか?」

 

「俺から話してしまっていいんですか?」

 

「はい。私では結局身内からの言葉になってしまいますから。ここは第3者である志狼さんからお願いします」

 

「分かりました・・・・会長。先日簪さんの専用機『華鋼』が完成しました。彼女自ら整備科に協力を仰ぎ、学園生徒の力で組み上げた機体です」

 

「華鋼・・・・そう、改名したのね」

 

「はい。倉持技研の付けた『打鉄弍式』と言うのは縁起が悪いので、学園で作られたあの娘には相応しくないとして簪さん自らが名付けました」

 

「そう・・・・いい名前ね」

 

「俺もそう思います。さて、ここからが本題ですが、今日の夕食後、整備室で打ち上げが催されます。会長も参加してくれませんか?」

 

「私が?・・・・どうして? 私には関係ないじゃない」

 

「貴女に参加を求める理由は2つあります。1つは自分達の力で専用機を完成させた皆を生徒会長として労って欲しいんです。貴女は2、3年生から人望があります。その貴女から労われれば、彼女達にとって今後のモチベーションに繋がると思うんです」

 

「成る程・・・・もう1つは?」 

 

「もう1つは・・・・簪さんと仲直り出来るチャンスだって事です」

 

「!・・・多分、そんな事だと思ったわ。でも・・・・」

 

「この期に及んで何ビビってるんです?」

 

「! べ、別にビビってなんか・・・・」

 

「ビビってるでしょうが。言っときますけど簪の貴女に対する好感度はゼロなんです。グラフの底辺を這いずり回ってる状態なんですよ?」

 

「うっ! そ、そんなに?」

 

「そんなにです。マイナスじゃないだけまだましだと思って下さい」

 

「うううう~~~」

 

 

 お2人のやり取りを見て驚きました。志狼さんが簪お嬢様の事だけでなく、今回参加した皆の事を考えてくれていたのもそうですが、私が思っていた以上にお2人が親しい間柄であるのが、今の忌憚のないやり取りで分かったからです。本当にいつの間にこんなに親しくなったのでしょうか?

 落ち込む楯無お嬢様をしばらく見つめていた志狼さんは、ふと表情を柔らかくして言いました。

 

「クスッ すいません、今のは嘘です。簪は本当は貴女の事が大好きですよ」

 

「ふぇっ!・・・・本当?」

 

 あ、涙目になってるお嬢様、ちょっと可愛いです。

 

「本当です。貴女だってそうでしょう? 大好きな人とすれ違ったままなんて辛いだけじゃないですか。いい機会ですよ」

 

「でも・・・・」

 

 そこまで志狼さんに言われてもお嬢様は踏ん切りがつかないようです。無理もありません。それ程までに楯無お嬢様にとって簪お嬢様は大切な存在なのです。

 お2人をずっと側で見守って来た私には、その気持ちが痛いくらいに分かります。ですが───

 

 

「・・・・昔々、ある所に1人の少年がいました」

 

 そんな時、志狼さんが突然関係ない話をし始めました。私もお嬢様も何事かと思いましたが、今の志狼さんには何故か口を挟んではいけないと感じて、黙って聞く事にしました。

 

「少年はお母さんと2人暮らしで父親の事は何も知りません。少年はお母さんが大好きでした。ある日の事、お母さんが体を壊して入院してしまいました。少年はお母さんに会う為に毎日病院に通います。何日、何十日と過ぎてもお母さんの具合は良くなりません。やがて少年はお母さんに言いました。大人になったら自分が医者になって、お母さんや病気に苦しむ人達を助けてみせる、と」

 

 

 ここまで聞いて、私達は理解しました。この話は志狼さん自身の───

 

 

「それを聞いたお母さんはとても喜んでくれました。この時から少年にとって医者になる事は大好きなお母さんとの約束になったのです。そんなある日、些細な事でお母さんに注意された少年は、お母さんの事を「嫌いだ」と言って病室を出て行ってしまい、毎日通っていた病院に行かなくなりました。3日が過ぎて反省した少年は今日の放課後お母さんに謝ろうと決めて、その日学校に行きました。そして、少年は学校でお母さんの訃報を聞いたのです」

 

 

 淡々と語る志狼さんに、私達は息を飲みました。

 

 

「少年は冷たくなったお母さんと病院で再会しました。いくら話しかけてもお母さんは答えてくれません。あんなに温かく包んでくれた手も冷たくなって、少年は2度とお母さんに会えない事を理解しました。少年は激しく後悔して泣きました。泣いて、泣いて、涙が渇れ果てても哭き続けました。大好きなお母さんに嫌いと言ったまま別れてしまった事、お母さんを傷付けてしまった事、素直に謝れずにお母さんの死に目に会えなかった事。全てが少年の心をズタズタに切り裂いたとしても、大事な時に素直になれなかった少年が悪いのです。こうして少年はいつまでも後悔し続けるのでした。おしまい」

 

 

 志狼さんの話が終わりました。私も、楯無お嬢様も何も言えません。

 

「楯無」

 

 下を向いていたお嬢様がビクッと反応しました。

 

「お前が何を迷ってるのか俺は知らない。でも、大切な人とすれ違ったまま2度と会えなくなる辛さはよく知っている。お前にはそんな思いはして欲しくない」

 

「志狼・・・・」

 

「俺にはもう出来ないけど、お前は会う事も話す事も出来るだろう? ならばどうか後悔のないようにして欲しい。俺の言いたい事はそれだけだ。後はよく考えて自分で決めてくれ。・・・・それじゃ虚さん、紅茶ご馳走様でした」

 

 そう言って志狼さんは生徒会室を出て行きました。

 

 

 

「楯無お嬢様・・・・」

 

「・・・・虚ちゃん。ごめん、しばらく1人にしてくれる?」

 

「・・・・はい」

 

 志狼さんが出て行った時のまま動かない楯無お嬢様に一礼して私も生徒会室を出る。

 願わくばお嬢様が勇気を出して、最良の選択をしてくれん事を祈るばかりでした。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

「みんなー、飲み物は行き渡ったかな? それでは更識簪ちゃんの専用機『華鋼』の完成を祝して、カンパーーーイ!!」

 

「「「「カンパーーーイ!!」」」」

 

 

 午後8時の整備室。華鋼完成の打ち上げが始まった。整備台に置いた華鋼の前にテーブルを2つ並べてシートを被せ、その上にお菓子や飲み物が置いてある。自由に飲み食い出来るようにしてあるので、皆好きな物をつまんで談笑していた。

 

「簪、改めて完成おめでとう」

 

「おめでとうかんちゃん。全然手伝えなくてごめんね」

 

「ありがとう志狼さん。明日奈もありがとう。大丈夫、気にしないで」

 

 俺と明日奈は今日の主賓である簪に声をかけた。今の簪は妙に出来のいい王冠を頭に乗せ、「私が主役!」と書かれたタスキを掛けていた。誰が用意したのか何となく分かるが、やらされてる感満載である。

 

「所でかんちゃん、その格好は?」

 

「あう、黛先輩が主役なんだからそれなりの格好をしなきゃって言って半ば無理矢理・・・・」

 

「まあ、可愛いいからいいんじゃないか? 取り敢えず1枚」

 

「そうだね。あ、私も1枚」

 

 俺と明日奈は簪を携帯のカメラで撮影する。

 

「何でいきなり撮るのーーっ!?」

 

 簪に怒られた。簪をなだめつつ、再び写真を撮る。恥ずかしいのか顔を赤らめてはにかむ姿が実に可愛いらしかった。刀奈が見たら悶死する事であろう。そんな時、

 

「しっろう君!ちょっとい~い♪」

 

 ご機嫌な黛先輩に声をかけられた。非常に嫌な予感がする。

 

「・・・・何でしょうか」

 

「やだな~もう! 忘れちゃった? 約束したよね? 華鋼完成の暁にはインタビュー&撮・り・ほ・う・だ・い♪」

 

 チッ、覚えてやがった。右斜め45゚でテンプルに打ち込めば記憶を失わないかな?

 

「ん!? 何だか不穏な気配を感じたわよ! 約束したもん! 今更なかった事にはしないからね! ほら、かんちゃんも覚えてるよね。ね!!」

 

「は!? はいっ!?」

 

 こいつ、簪まで巻き込みやがった。とは言え、約束したのは事実だし、しっかり働いてくれたしなあ。仕方ないか。

 

「分かってます、ほんの冗談ですよ」

 

「・・・・冗談にしては殺気を感じたんだけど」

 

「それも冗談ですよ」

 

「冗談で殺気を込めないでよ、怖いから!」

 

「はいはい。ですが条件が2つあります。これを飲んでくれたら取材を受けますよ」

 

「え~!? 一応聞くけど、何?」

 

「1つはクラス対抗戦が終わってからにする事。もう1つはあまり奇抜な格好はしないと言う事。この2つです」

 

「1つ目は当然よね。私も忙しくなるからむしろありがたいわ。2つ目も大丈夫よ。着て貰うのは普通の衣装だから。間違ってもフンドシ一丁なんてしないから」

 

 黛先輩はそう言った。視界の端で簪が残念そうにしてるのは何故だ? ともあれ、新聞部の取材を受ける事が正式に決まってしまった。

 

 

 

 

「おーい、更識さん」

 

 飲み物片手にいつもと同じ無表情で沙々宮さんがやって来た。

 

「あっ、沙々宮さん」

 

 彼女は簪をジッと見て聞いた。

 

「何その格好。イケてる」

 

「い、言わないで!」

 

「ん、華鋼完成おめでとう。それとお父さんと連絡が着いたよ」

 

「本当!? じゃあ」

 

「うん。クラス対抗戦までには間に合わせるって」

 

「助かる。お父さんによろしく伝えて」

 

「うん。分かった」

 

 そう言うと沙々宮さんは踵を返してテーブルのお菓子を頬張り出した。俺はそっと簪に聞いた。

 

「ひょっとして『春雷』の件か?」

 

「うん。どうやら目処が付きそう」

 

 簪は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 打ち上げが始まって30分が過ぎた頃、虚さんが華鋼の前に立ち、皆に声をかけた。

 

「皆さん、ちょっと聞いて下さーーい!」

 

 虚さんの声に皆が注目する。

 

「皆さんの協力で華鋼は無事完成しました。色々と大変な事もありましたが、皆さんにとっても貴重な経験になったと思います。本当にお疲れ様でした。今日は皆さんの頑張りに一声かけたいと特別ゲストが来てくれました。それでは、どうぞ!」

 

 虚さんがそう言うと、華鋼の後ろから刀奈が現れた。

 

「「「きゃあああーーーっ、会長ぉーーーっ!!」」」

 

 未だに接点の少ない1年生はともかく、2、3年生からの人気は抜群で、姿を現した途端に歓声が上がる。刀奈はその歓声に笑顔で手を振って応えた。

 

「整備科、開発科並びに有志の皆さん。私は皆さんを誇りに思います。企業が放置した機体を学園の生徒の力で完成させたと言うこの実績は、学園の実力の高さを世界中に知らしめる事となるでしょう。また、今回の事で皆さんも自信が付いたと思います。その自信を過信とせぬようこれからも精進して、皆さんが望む未来を勝ち取らん事を期待しています。最後にもう1度、私はIS学園生徒会長として、この場にいる全ての人を誇りに思います。ご静聴ありがとうございました」

 

 刀奈が演説を終え、一礼すると、大きな拍手と歓声が沸き上がる。刀奈が手にした扇を広げると「拍手喝采」と書かれていた。流石は生徒会長と言うべきか、この場にいる者達の心をしっかりと掴んでしまったようだ。

 

「この人がロシア代表、更識楯無・・・・」

 

 右隣りの明日奈は彼女の持つカリスマ性に圧倒されていた。反対に左隣りの本音は何だか自慢気だ。本音にとって彼女は身内なのだから誇らしいのだろう。そして、本音の隣りにいる簪は突然の姉の登場に動揺を隠せないでいた。

 演説を終え、皆に囲まれていた刀奈がこちらにやって来て、簪の前で止まった。簪を見つめる刀奈。だが、簪は俯いて目を合わせようとしない。

 

「簪ちゃん。話があるの。少し付き合ってくれる?」

 

「・・・・・・う、うん」

 

 物凄く小さな声で簪が答えた。刀奈に促されて、簪が歩き出そうとした時、俺は声をかけた。

 

「簪」

 

「志狼さん! 何?」

 

 すがるような目で簪が見つめて来る。だが俺が一緒に行く訳にはいかない。これは彼女達姉妹の問題なのだから。

 俺は簪の頭にそっと手を置いて、軽く撫でる。

 

「簪、ビビるな。お前が思っている事を全部ぶつけてやればいいんだ」

 

「志狼さん・・・・」

 

 簪の瞳に火が灯る。姉を前にして萎縮していた心が再び熱を取り戻したようだ。

 簪は目を閉じて深呼吸をすると、すっかり元に戻っていた。

 

「うん、行ってきます」

 

 簪はそう言うと、しっかりした足取りで刀奈に付いて行った。

 刀奈は簪が付いて来るのを見て、俺と視線を合わせる。俺には彼女が礼を言ってるように見えた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~楯無side

 

 

 打ち上げ会場である整備室の隣りにあるIS格納庫。ここは整備上の関係から、整備室と自由に行き来出来るようになっている。ここなら無人だし、多少大きな声を出しても大丈夫だろう。

 私は簪ちゃんと2m程離れて向かい合う。

 簪ちゃんは先程とは違い、真っ直ぐ私を見つめている。先程のような萎縮した状態では話にならなかったろうから、彼女に火を灯した志狼には感謝してる。同じくらい嫉妬もしてるけど。

 

 

「まずは専用機の完成おめでとう。華鋼か・・・・簪ちゃんが付けたんですって? いい名前ね」

 

「ありがとう。私が馬鹿だったせいで随分遠回りしちゃったけど、ようやくね」

 

「? どう言う事?」

 

 私が尋ねると簪ちゃんは事の次第を教えてくれた。私に認められたいが為、1人で作り上げようと整備科の協力を断り続けた事。志狼に諭され、自分が優先すべき事を思い出せた事。整備科に協力を要請した時、何度も拒絶した自分を温かく迎えて貰えた事。テスト中の事故で墜落しかけた事。本当に沢山の人達の力を借りて、ようやく完成した事。志狼の提案で改名し、華鋼と命名した事等々。

 

「今思うと本当に馬鹿な意地を張ってたと思うよ。あの時お姉ちゃんに言われた言葉を撤回させたくて、意固地になった挙げ句、視野狭窄に陥って、大切な人の助言にすら耳を貸さずに、これだけが唯一の方法だと思い込んでた。本当に何をしてたんだろうね、私って・・・・」

 

「簪ちゃん・・・・」

 

 あの時の言葉。これが何を差すのか私達は良く分かっている。私が洩らしたあの言葉で私達の間には決定的な溝が出来てしまったのだから。

 

 

 

 あの日、私は任務で初めて人を殺した。

 更識家は対暗部用暗部。この国に暗躍する影を始末する為の闇の存在。その次期当主たる私の手が綺麗なままでいられる筈がないのだ。

 あの日、当主である父の命により、日本でスパイ活動をしていた諸外国の人間を人知れず始末した。訓練通りに上手くやれたと思う。人を殺した事による嫌悪感や忌避感も感じなかったし、何の問題もない、その時はそう思っていた。ただ、この仕事は簪ちゃんには絶対にさせられないと強く思った。

 今思えば問題がない訳なかったのだ。あの時の私は妹を家の仕事に関わらせてはいけないと言う強迫観念に駆られていた。そして、私は言ってしまった。

 

 

「貴女はもう、何もしなくていい」

 

 

 と。だけど私が妹を心配して零したはずの言葉は、彼女からすれば自分が役立たずだと言われる以外の何物でもなかった。

 つくづく言葉が足りなかったと思う。きちんと言葉を尽くして説明さえしていれば、つまらないすれ違いも起きなかっただろう。でも、当時の私にはその事に気付く余裕なんて無かった。

 

 

 

 程なくして私は父から当主の座を譲り受けた。本名である「刀奈」を隠し名として、第17代目更識楯無となったのだ。

 その襲名の場で私は1つの方針を発した。それは妹に家の仕事をさせない、と言う事だった。しかし、襲名の条件として父にも確約させたこの方針が、妹を更なる苦境へ追いやるとは夢にも思わなかった。

 

 結果として、妹は一族から爪弾きにされるようになった。本来なら現当主の妹として高い発言力を持つはずの彼女に、当主自らが家の仕事から外した。それは彼女が役立たずであると決定付ける事となり、その結果、彼女は周りから爪弾きされるようになってしまった。

 襲名したばかりの私には当主の言葉の重みと言うものが分かってなかった。その為に善かれと思ってした事が彼女をより辛い立場に追い込んでしまうも撤回する訳にも行かず、結果放置するしかなかった。

 私達の間の溝は更に深まり、最早自分ではどうする事も出来なかった。

 

 今更訳を話したとしても何も変わらないかもしれない。でも、私も簪ちゃんも生きている。同じ学園に通い、会う事も話す事も出来るのだ。ならばせめて誤解だけでも解いておきたい。そして、私が貴女を愛してる事を知って欲しい。

 その結果、例え蛇蝎の如く嫌われ拒絶されたとしても、志狼から貰った勇気を胸に、私は自分の想いを言葉にした。

 

 

~side end

 

 

 

 

~簪side

 

 

「貴女はもう、何もしなくていい」

 

 

 そうお姉ちゃんに言われた時、目の前が真っ暗になったのを覚えている。

 

 

 

 昔からお姉ちゃんは優秀だった。

 文武両道をそつなくこなし、明瞭快活な性格は人を惹き付け、その美貌と抜群のプロポーションは見る者を虜にした。そんな優秀すぎる姉と物心付いた頃から私は比較され続けて来た。

 大抵の人は私がお姉ちゃんの妹だと知ると、じっと顔を見て、お姉ちゃんの明るい美貌と私の暗い顔を見比べて、本当に姉妹なのかと首を傾げるのだ。それを知ってから私は顔を隠す為に目も悪くないのに眼鏡を掛けるようになった。 

 中にはお姉ちゃんに比べて平凡な私に対して、出涸らしとか絞りカスなどと酷い言葉をぶつける人もいたけど、私はあまり気にしなかった。

 他の誰かの言う事など関係なく、私にとってお姉ちゃんは憧れであり、目標でもある大切な人だった。

 普段は完璧なお姉ちゃんが私や布仏姉妹の前では気を抜いて、素の表情を見せてくれる。それはお姉ちゃんにとって私が特別だと言われてるようで、とても嬉しかった。

 最近は次期当主としての仕事で忙しいらしく、側近である虚さんはともかく、私や本音は一緒にいる時間が少なくなっていた。周りの期待に答えようとお姉ちゃんが無理してないか、体を壊してないか私はいつも心配していた。だから私はいずれ父に代わって更識家の当主となるお姉ちゃんを支え、力になりたいと思っていた。

 お姉ちゃんから、あの言葉を聞くまでは──

 

 

 

 あの日、お姉ちゃんは初めて部隊長として、隊を率いて任務に出掛けた。それまでは部隊の一員として任務に就いていたけど、今日からは指揮官として、次期当主として相応しい所を示さねばならないと、緊張しつつも張り切っていた。

 更識家は対暗部用暗部。その仕事がどんなものなのかは中学生になった私にも何となく分かっていた。私も来年には任務に就く事になるけど、今は初めて部隊長を務めるお姉ちゃんが無事に帰って来る事を祈っていた。

 

 

 

 お姉ちゃんが任務を終えて帰って来た。

 私の心配が杞憂に終わってほっとした。私はお姉ちゃんの無事を確認したくて、丁度父に報告を終えたらしいお姉ちゃんを見つけて声をかけた。お姉ちゃんは任務の後だからか、何だか疲れているようにも見えた。

 

「お姉ちゃん、お帰りなさい!」

 

「簪ちゃん?・・・・ただいま。まだ起きてたのね」

 

「うん、お姉ちゃんの無事な顔を見たくて。任務どうだった?」

 

「任務?・・・・どうしてそんな事を聞くの?」

 

「だって私、将来はお姉ちゃんの補佐が出来るようになりたいの! だから今の内に色々と勉強しときたくって」

 

「駄目よ」

 

「え? お姉ちゃん・・・・?」

 

「これから先、貴女が任務に就く必要はないわ」

 

「え? それって・・・・」

 

「貴女はもう、何もしなくていい」

 

「!!」

 

 そう言うとお姉ちゃんは私の前から去って行った。私はその場にへたり込み、突然お姉ちゃんから見離された事に混乱していた。

 

 次の日、当主である父から家の仕事から私を除外すると伝えられた。当主の直系でありながら除外されると言う事は私が家の仕事に耐えれないと判断されたと言う事。すなわち役立たず、お荷物と言うレッテルを貼られた事になる。私は当然抗議したけど取り合って貰えなかった。

 やがて、一族の者から私は爪弾きにされるようになった。蔑視され、嘲笑される日々の中で私は何故こんな風になったのか考える。全てはあの日、お姉ちゃんに言われた言葉が始まりだった。

 「どうしてあんな事を言ったの?」 たった一言尋ねれば良かったのに、私はそれが怖くて出来なかった。もし尋ねて、「貴女が嫌いだから」とか「貴女が憎いから」なんて返って来たら私は立ち直れなかっただろう。

 

 でも、そんな弱かった自分とはもうお別れしよう。

 志狼さんと出会い、沢山の人と関わって学んだ。願いを叶える為には自分から動かなきゃいけないんだと。

 ただ流されるままに生きて来た弱虫な私ではなく、自らの意志で行動する新しい私でお姉ちゃんと対峙しよう。自分の想いをぶつけてどうなるかなんて分からない。でも私はこのままじゃ嫌なんだ。だから私は───

 

 

~side end

 

 

 

 

~楯無side

 

 

 

「それで、話って何?」

 

 簪ちゃんに先に切り出された。簪ちゃんは先程から変わらずに真っ直ぐ私を見つめている。

 思えばこの娘とこんな風に見つめ合ったのはいつ以来だろう。2年前、私達の間に溝が出来てからは私を前にすると俯き、決して目を合わせようとしなかったのに、今は目をそらす事なく、真っ直ぐに私を見つめている。

 その瞳の真摯さに後ろめたさのある私は、思わず目を背けたくなる。でも、それはしちゃいけない。私はなけなしの勇気を振り絞って簪ちゃんを見つめ返した。

 

「そうね・・・・ねえ簪ちゃん、私達どうしてこうなっちゃったんだろうね?」

 

「・・・・どうして? そんな事分かってるはずだよ。2年前のあの日、お姉ちゃんが私に言った言葉が始まりだって。・・・・逆に聞くけど、どうしてあんな事言ったの?」

 

「それは・・・・貴女の事を守りたかったから」

 

「私を守る? 意味が分からないんだけど」

 

「更識家の仕事は裏稼業。時に人に言えない事や世の醜い部分を見る事になるわ。そんな惨い世界に貴女を関わらせたくなかったの。だから私は・・・・」

 

「私を突き放して、家の仕事から一切手を退かせたって言うの?」

 

「そうよ! 全て貴女の為に──「勝手な事言わないで!!」・・・か、簪ちゃん?」

 

 驚いて簪ちゃんを見る。彼女の顔には紛れもない怒りがあった。

 

「全て私の為? ふざけないで! あの後私が一族からどんな風に扱われてるか知ってるでしょう!? ちっとも守れてなんかないじゃない! 笑わせないでよ!!」

 

「か、簪ちゃん・・・・」

 

「大体お姉ちゃんは勝手だよ! 私に断りもなく全部1人で決めるなんて。私がいつ家の仕事が嫌だなんて言ったのよ!?どうしてお姉ちゃんが勝手に決めるの!?」

 

「! 貴女は仕事の過酷さがまるで分かってないのよ!現実は貴女の好きなアニメとは違うのよ!!」

 

「! そんなの解ってるよ! 分かってて私はお姉ちゃんの力になりたかったの!!」

 

「だから、私は貴女をそんな世界に引き込みたくないのよ!どうして分かってくれないの!!」

 

「分かってないのはお姉ちゃんの方だよ!そんな事百も承知で私はお姉ちゃんといたいのに、どうして分かってくれないのよ!!」

 

 売り言葉に買い言葉。際限なくヒートアップする私達は最早何を言い合っているのかすら分からなくなっていた。この場に私達しかいないのだからもう止めようがない。このままでは決定的な何かを言ってしまいそうだ!お願い、誰でもいい、誰か止めて!!

 

「簪ちゃんが!!」

 

「お姉ちゃんが!!」

 

「結局、2人共お互いの事が大好きなんだね~♪」

 

 場の空気を読まない、聞くと脱力してしまいそうなのほほんとした声に私達は思わず口論を止めてしまう。

 

「・・・・本音?」

 

「・・・・本音ちゃん?」

 

 そう、私達の幼なじみにして、簪ちゃんの側近でもある布仏本音ちゃんがこの場に現れた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~本音side

 

 

 全くもう、(かんちゃん)にも刀奈(かっちゃん)にも困ったもんだよ。中々帰って来ないと思ったら、こんな所でケンカしてるんだもん。

 

「2人共、遅いから迎えに来たよ。帰ろ?」

 

「止めないで本音。この分からず屋に教えてやらなきゃならないの」

 

「! それはこっちの台詞よ! いくら言っても聞かないんだから、この分からず屋!」

 

「んー、さっきから2人の話を聞いてたんだけど、私にはお互いが大好きだって言ってるようにしか聞こえなかったんだけどなー?」

 

「「なっっ!!」」

 

「かっちゃんはかんちゃんが大切だから、危険な家の仕事をさせたくないんだよね?」

 

「え? ええ、そうよ」

 

「でもかんちゃんはその危険を覚悟の上で、それでもかっちゃんといたいんだよね?」

  

「う、うん・・・・」

 

「ほら。2人共お互いが大好きって事じゃない♪」

 

 私がそう指摘しても素直じゃない2人はああだこうだと言い訳して認めようとしない。もう!しょーがないなあ。

 

「ねえかっちゃん、かっちゃんは何をしに来たの?」

 

「え? それは皆を労う為に・・・・」

 

「もう!違うでしょ? かんちゃんと仲直りしたくて来たんじゃないの!?」

 

「それは・・・・」

 

「かんちゃんが今の状況になっちゃったのは自分のせいだって分かってるんでしょ? なのに謝りもしないで自分の意見をゴリ押ししたって何も伝わらないよ?」

 

「う、はい・・・・」

 

 私は次いでかんちゃんを見る。

 

「かんちゃんはかっちゃんと仲直りしたくないの?」

 

「それは、そんな事はないけど・・・・」

 

「けど、何?」

 

「その、私はお姉ちゃんがどう言う意味であの言葉を言ったのか知りたかっただけで・・・・」

 

「それならもう解ったよね。かんちゃんの事を思いすぎて勝手に暴走しただけ。いつものシスコンをこじらせただけだって」

 

「え? いや、あの、ちょっと、本音ちゃん?」

 

「違うの?」

 

「あ、いえ、はい、そうです」

 

 私がジロッと視線を向けるとかっちゃんは慌てて肯定する。

 

「かんちゃんは本当にそれだけでいいの? 今まで散々理不尽な目に合って来たのに、理由さえ分かってしまえば全て許せるものなの?」

 

「そ、それは・・・・」

 

「そんなんでしろりんに胸を張って報告出来るの?全てぶつけて来たって言えるの!?」

 

「!!」

 

 私にしては珍しく大きな声でかんちゃんを詰問する。そんな私を見て2人はやっと理解したらしい。

 

「本音ちゃん・・・・?」

 

「本音、貴女ひょっとして・・・・」

 

 

 

 そう、私は怒っているのだ。

 

 

~side end

 

 

 

 

~簪side

 

 

 驚き?困惑?そう言った感情が私達の顔に出ていた。

 本音が、いつも朗らかな笑顔とのほほんとした雰囲気で場の空気を穏やかにしてくれたあの本音が、怒っているのだ。

 私も、恐らくお姉ちゃんでさえ初めて見た怒った本音にどうすればいいのか分からなかった。

 

 

「大体ね! 2人共いつまでこの状態でいれば気が済むの!? 今まで姉妹(2人)の問題だからって敢えて何も言わなかったけど、ここまでお膳立てされて何でまたケンカしてるの!?」

 

「ほ、本音・・・・」

 

「本音ちゃん、落ち着いて、ね?」

 

 分からないながらも、とにかく本音を宥めようと声をかけたけど、効果はなかった。

 

「私は! かんちゃんもかっちゃんも大好きなの! なのにどうしていつまでたっても仲直り出来ないの!? 前みたいに4人でおしゃべりしたり、ご飯食べたりしたいよ・・・・」

 

 本音はそう言うとポロポロと涙を零した。

 

 

 

 本音の涙を見て私は自分の至らなさを思い知った。

 2年前のあの日が来るまで私達4人はいつも一緒だった。でも、あの日から私がお姉ちゃんを避けるようになって、4人で行動する事はなくなった。私は1人でいる事が多くなり、そんな私をほっとけないのか本音が側にいるようになった。

 今まで辛いのは自分だけだと思っていたけど、そんな訳なかった。そんな私を見てあの優しい本音が何とも思わない訳がないのに、今に至るまで思いも寄らなかった。

 私は思わず本音に抱き付いた。

 

「ごめん、ごめんね本音。私は本当に馬鹿だ。ずっと一緒にいたのに、こんな風になって辛いのは私だけじゃなかったって今になって思い知った。本当にごめん!」

 

 すると、反対側からお姉ちゃんが抱き付いて来た。

 

「私もごめん。本音ちゃんの、虚ちゃんの気持ちを考えてなかったわ。そして何より、簪ちゃんの気持ちを・・・・」

 

「お姉ちゃん・・・・」

 

 お姉ちゃんは本音を抱きしめたまま、あの日何があったのか訥々と話し始めた。

 

 

 任務で初めて人を殺した事。人を殺したと言うのに、特に何も感じなかった事。だけど私には絶対にやらせてはならないと思った事等々。

 だからこそ、私を家の仕事から遠ざけようと突き放した。私が一族から白眼視されるようになったのは完全に誤算であり、そんな気は毛頭なかったのだそうだ。

 

「・・・・それじゃあ」

 

「ええ、今更信じて貰えないかもしれないけど、私は今でも貴女を愛しているわ、簪ちゃん」

 

「! お姉ちゃん!!」

 

 本音を抱きしめたまま、反対側の手でお姉ちゃんに抱き付く。すると、お姉ちゃんも同じように私を抱きしめてくれた。

 

「私も! 私もお姉ちゃんの事大好きだよ!」

 

「!・・・・・・ありがとう、簪ちゃん」

 

 思わず涙が溢れて来る。お姉ちゃんを見ると、お姉ちゃんも涙を流していた。

 私達はお互い想い合いながらも、すれ違い、傷付け合っていた。誰が悪いと言う訳ではなく、強いて言うならタイミングが悪かったのだろう。

 あの時任務から帰ったお姉ちゃんに声をかけずにいたら、一晩置いて冷静になってあんな事言わなかったかもしれない。お姉ちゃんに突き放された時、絶望していないですぐさま本音や虚さんに相談していれば、話し合い意見を変える事が出来たかもしれない。

 たらればになってしまうけど、ほんの些細なボタンの掛け違いで私達は2年もの間、寄り添う事が出来なかった。

 私達3人は抱き合いながら、涙を流していた。まるで流した涙で今までの疑いやわだかまりを洗い流すかのように・・・・・・

 

 

~side end

 

 

 

 

~虚side

 

 

 時刻は間もなく午後10時になろうとしています。

 打ち上げは30分程前に終わり、今ここに残っているのは私だけです。

 2人っきりで話をする為にお嬢様達がここを離れ、本音に様子を見に行かせてからそろそろ1時間になります。これだけ遅いと言う事は話がこじれて、本音が間に入っているのかもしれません。

 簪お嬢様は勿論の事、楯無お嬢様や本音も本当に言いたい事を言えずにいる傾向があるので、この際だから言いたい事を全部ぶつけ合ってくればいいんです。

 少し心配ではありますが、本音がいれば大丈夫でしょう。あの娘はいるだけで場の雰囲気を穏やかにしてくれるので、仲裁役にはぴったりの筈。きっともうすぐ笑顔で戻って来るでしょう。

 そんな事を考えていると、格納庫の方から楽しそうな話し声が聞こえてきました。どうやら上手くいったようですね。

 

「あ、お姉ちゃーん、お待たせー」

 

 私に気付いた本音が笑顔で手を振って駆けて来ると、私に抱き付きました。

 

「お疲れ様、本音」

 

「えへへへーー♪」

 

 本音の頭を撫でると嬉しそうに微笑みました。

 

「虚ちゃん・・・・」

 

「楯無お嬢様。ちゃんとお話出来たようですね」 

 

 楯無お嬢様と簪お嬢様が手を繋いでいます。それだけで上手く仲直りが出来たのが分かります。

 

「ええ、今更だけど、心配かけてごめんなさい。そしてありがとう。いつも見守ってくれて」

 

「お嬢様──ううん。刀奈ちゃん、簪ちゃんと仲直り出来て良かったね」

 

「!───うん」

 

 私は2人にあえて昔の呼び方をした。刀奈ちゃんが家の仕事をするようになると、私もサポートに付くようになった。任務は私達だけではなく、他の大人達と一緒なので、公私混同しないように幼馴染みではなく、側近として接する為に「お嬢様」と呼ぶようになった。でも、今くらいはいいでしょう? 今だけは幼馴染みの4人に戻って、あの頃のように───

 

 

 

「今、紅茶を淹れますね」

 

 私はお湯を沸かしている間に志狼さんから預かったものをテーブルに出しました。

 

「うわあ~~、プリンだ~~♪」

 

「虚ちゃん、これは?」

 

「ホールプディング。志狼さんのお手製ですって」

 

「・・・・おっきい」

 

 打ち上げが終わり、解散した時に志狼さんが私に仲直りのお祝いに、と渡してくれたのです。流石に2個は多いと言ったのですが、本音がいれば食べきると言われ受け取ってしまいました。

 ミルクとカスタードの2つを適当な大きさに切って4人で分け合います。紅茶を淹れて、準備完了です。

 

「さあ、それじゃあいただきましょうか」

 

「「「「いただきます!!」」」」

 

 皆、それぞれが食べ始めます。すると、

 

「ん~~~!美味し~~~い!!」

 

「本当、上品な甘さねえ」

 

「カスタードのカラメルソースのほろ苦さがいいわね」

 

「お姉ちゃん、ミルクの方は練乳が入ってるみたい、すごく優しい甘さがする」

 

 私達はプリンを食べながら久し振りに何のわだかまりもなくおしゃべりをしました。昔の事。学園生活の事。友達の事。仕事の事。本当に沢山の事を話しました。

 気付けば多いと思っていたホールプディングは完食していました。和やかな雰囲気のまま、詳しい話は後日改めてする事にしてこの日はお開きになりました。

 この雰囲気を作ってくれた志狼さんには本当に感謝しなくてはいけませんね。

 

 

~side end

 

 

 

 




読んで下さってありがとうございます。

ご覧の通り、更識姉妹は仲直り出来ました。全てのわだかまりが無くなったとは言えませんが、お互い歩み寄る事は出来るようになるでしょう。

次回こそはクラス対抗戦に入ります。








おまけ


〇生徒会室での志狼と刀奈の会話(完全版)


「バカ! 何動揺して自分からバラそうとしてるんだ!」

「だからってお尻をつねる事ないじゃない!」

「そうでもしないとお前はポロッとバラしちまうだろうが!」

「う、悪かったわよ。それにしても上手くかわしたわよね、この大嘘つき。ひゃん!!いきなり胸を揉まないでよ、このエッチ!!」





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