二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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第28話を投稿します。

今回はタイトル通り鈴VS簪の模様をお送りします。

原作にはない2人のバトルをご覧下さい。


第28話 クラス対抗戦③~鈴VS簪

 

 

~all side

 

 

 ティアナを抱えた孤狼がEピットに入って来た。

 

 今回のクラス対抗戦では1年生がEピット、2、3年生がWピットを使うよう割り振られているので、志狼は鈴や簪に迎えられていた。

 

「おめでとうございます志狼さん!」

 

「やったわね、志狼!」

 

「ありがとう2人共」

 

 ティアナを降ろしながら志狼が答える。すると、

 

「しろり~ん、整備するからこっち来て~」

 

 本音に呼ばれて志狼は孤狼を整備台に駐機する。

 クラス対抗戦では、試合後の機体の整備は整備科や開発科である2、3年生の3、4組の生徒達が担当する事になる。これはクラス対抗戦があくまで学園行事であり、直接試合をする事のない整備科や開発科を参加させる為でもあるので、国や企業のスタッフは原則的に入場出来ないのだ。

 そんな中にあって、本音は1年生ながら特別に参加を認められていた。

 

 

 

 

 

 

 志狼が整備台へ行くと、残されたティアナに向けて、鈴がニヤニヤと笑いながら近付いた。

 

「いや~、結局アタシの言った通り、初戦で消える事になっちゃって、残念だったわねえ?」

 

「・・・・そうね。確かに残念だったけど、得るものの多い試合だったわ。私は全力を出し切ったし、それで負けたのだから悔いはないわ」

 

 そう切り返すティアナの表情はどこか晴々として、試合前の険がすっかり取れていた。

 

「「・・・・・・」」

 

 そんなティアナをポカンとした表情で見つめる鈴と簪。そんな2人からの視線に居心地が悪くなったのか、ティアナが尋ねる。

 

「な、何よ・・・・?」

 

「アンタホントにランスター? 試合前とはまるで別人じゃないの!」

 

「何だか可愛くなっちゃってますけど、試合中に何があったんですか?」

 

「な、何を言ってるのよ! 私は何も変わってないわよ!?」

 

「・・・・自覚なし、か」

 

「・・・・明らかに志狼さんに何かされましたね?」

 

「べ、別に志狼に何かされた訳じゃないわよ!」

 

「「志狼?」」

 

「あっ!」

 

「語るに落ちたわね、ランスター。さあ、キリキリ吐きなさい!」

 

「うう」

 

 ほんのりと頬を染めるティアナを壁際まで追い詰める鈴と簪。そこに志狼の救いの声が届く。

 

「おーい、ティアナ。お前もラファールを持って来てくれってさ」

 

「!分かった、すぐに行くわ!!」

 

 ティアナはそう言って鈴と簪の包囲網から脱け出した。

 

 

 

 

 

「何かあったのか?」

 

「別に何でもないわよ! はい、これ」

 

 そう言ってティアナはラファールの待機状態であるペンダントを整備科の先輩に手渡した。

 

「はい、確かに」

 

「1週間だけとは言え、私の相棒だった娘なんです。しっかり整備してあげて下さい」

 

 ティアナは深く頭を下げる。受け取った先輩は驚いた顔をしたものの、ニッコリと笑い、

 

「分かりました。任せて頂戴」

 

 と引き受けてくれた。

 

 ラファールを見送るティアナの目には僅かながら寂しさが浮かんでいた。そんなティアナの背中を志狼が優しく叩くと、2人は見つめ合い、笑みを交わした。

 

 

 

 

「ティア~~~! 大丈夫、怪我してない?」

 

 Eピットの扉が開いてスバルを始めとした各クラスの副代表達と明日奈が入って来た。

 

「惜しかったね。でも、凄くいいバトルだったよ。皆誉めてたし」

 

 ティアナに抱き付きつつ、捲し立てるスバルに辟易しながらもティアナが答える。  

 

「分かった。分かったから少し落ち着きなさい、スバル!」

 

「え~~ん、ティア~~~!!」

 

「あ~もう!落ち着けってば!」

 

 

 

「兄さん、やったね!」

 

「志狼さま、おめでとうございます」

 

「ありがとう、明日奈、セシリア。でも明日奈、ここは一応関係者以外立入禁止だぞ? 副代表のセシリアは大丈夫だが、織斑先生辺りにばれたら怒られるぞ?」

 

「問題ありませんわ、志狼さま。今回副代表には1人だけ随員が認められていますから、明日奈さんは(わたくし)の随員として来ているので大丈夫です」

 

「そうなの。この地位を勝ち取る為に苦労したわ」

 

「苦労って、何をしたんだ?」

 

「希望者全員参加のジャンケン大会。熾烈な戦いの末に私が勝利を収めました!」

 

「・・・・楽しそうだな、お前ら」

 

「そうですわね。皆さんすっかりお祭り気分です。ああ、それと皆さんからの伝言がありましたの」

 

「何だ?」

 

 

「「頑張って志狼さん、主に私達のデザートの為に!!との事ですわ(だって)」」

 

 クラス対抗戦の優勝賞品は食堂のデザートの「半年間フリーパス」。女の子なら誰もが飛びつく賞品だった。

 

「・・・・・嬉しくて涙が出そうだと伝えておいてくれ」

 

 志狼は深く、ため息を吐いた。

 

 

 

 

「鈴、もうすぐ出番ですよ。準備は出来てますか?」

 

「もう、ヴィシュヌは心配性ね。大丈夫だってば!」

 

「油断は禁物ですよ、鈴。相手のデータは何もないのですから」

 

 再三の忠告にも耳を貸さず、「大丈夫」を繰り返し、対戦相手である簪を舐めてるような鈴にヴィシュヌは不安を感じていた。

 

 

 

 

「更識さん、これ」

 

 紗夜は1枚のデータチップを簪に手渡した。

 

「これって・・・・?」

 

「頼まれてた例のブツ」

 

「!───じゃあ!!」

 

「うん。これをインストールすれば『春雷』が使える。これで華鋼はパーフェクトモード」

 

「ありがとう! でも、良くあの短期間で・・・・」

 

「ウチのお父さんの専門分野。ま~かせて」

 

 眠そうな目で気の抜けるVサインをする紗夜。紗夜の父はかつては国の研究機関に所属していた。専門は大型砲の研究という一風変わった現在フリーの研究者である。

 「打鉄弐式再開発計画」に参加した紗夜が荷電粒子砲「春雷」の出力調整が難航していた時、自分の父を引っ張り込み、調整作業をお願いしたのだ。事情を聴いた紗夜の父も、倉持技研には思う所があったようで、ふたつ返事でOKして、今日この日に間に合ったのだ。

 

「これで華鋼は完璧。後は更識さん次第だよ」

 

「うん、頑張る」

 

 チップを握りしめ気合を入れていた簪にはいつも無表情の紗夜が微かに笑っていた事に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『アリーナの準備が整いました。第2試合に出場する選手はカタパルトへ移動して下さい』

 

 

 アナウンスに従い、鈴と簪が自分のISを纏う。

 先に入場する鈴がカタパルトに乗り、射出される。次いで簪も同様にアリーナ上空に姿を現す。

 簪は上空からアリーナ外縁部に立つ楯無を見付けた。楯無は簪と目が合うと、手にした扇を広げ笑みを浮かべる。扇に書かれた「勝利!」の文字を見て、簪は頷いた。

 

 

 赤みがかった黒い機体。中国製第3世代機『甲龍』。操るのは中国代表候補生序列3位、凰鈴音。

 水色がかった銀の機体。学園製第3世代機『華鋼』。操るのは日本代表候補生序列3位、更識簪。

 奇しくも同じ代表候補生、同じ序列3位、同じ第3世代機同士の対戦となった。2機のISは30m程の距離を空けて対峙する。

   

 

『第2試合、1年2組代表凰鈴音“甲龍”VS1年4組代表更識簪“華鋼”、試合開始!!』

 

 

 アナウンスの後にブザーが鳴り、試合が始まった!

 

 

 

 

「さて! かかってらっしゃい!!」

 

 2本の青竜刀、双天牙月を構え、まるで京劇の役者のように見得を切る鈴。だが、そんな鈴を嘲笑うかのように簪はいきなり華鋼最大の攻撃を放つ。

 

「マルチロックオンシステム起動。ターゲット・・・・ロック! 『山嵐』全弾発射!!」

 

 華鋼の背後に現われた6機×8門の浮遊型ミサイルポッドから、48発の誘導ミサイルが一斉に発射される。最大48発のミサイルによる飽和攻撃、これが、華鋼の第3世代兵装、マルチロックオンシステムによる華鋼の最大攻撃『山嵐』!

 

「!!な───!?」

 

 自分目掛けて突き進む48発のミサイル。鈴からすれば視界一杯にミサイルの壁が迫って来るように見えるだろう。とにかく距離を取って回避しようと試みるも、マルチロックオンシステムによる追尾機能によって、どこまでも追って来る。

 

「くっ! こうなったら迎撃するしか!!」

 

 逃げ切れないと判断した鈴は双天牙月を振るい、甲龍の第3世代兵装「龍咆」を撃ちながら迎撃しようとするが、全方位から迫るミサイルを捌ききれず、遂には捕まってしまう。

 

「─────!!」

 

 アリーナを震わせる衝撃と轟音。その凄まじさに鈴の悲鳴すら掻き消される。

 

 

 

 

 

 中央アリーナEピット。

 

「よし、つかみはOK」

 

「いや、そう言う問題じゃないと思うぞ、沙々宮さん」

 

 紗夜のボケに思わずツッコむ志狼。

 

「うわあ~~、これは決まっちゃったかな?」

 

「鈴、あれ程油断するなと言ったのに・・・・」

 

「鈴さん、お亡くなりになってないといいんですが・・・・」

 

「いや、怖い事言わないでよ、オルコットさん!?」

 

「まあ、死んではいないでしょうけど、あれだけの衝撃に晒されたら、気を失っていてもおかしくないわね」

 

 

 モニターの前では1年生各クラスの代表、副代表と明日奈が試合を見ていた。予想外の展開に皆が驚き、大量の土煙りで見えなくなった鈴がどうなったか見極めようと、モニターから目を離さずにいた。

 やがて、土煙りが晴れると、そこには片膝を突き、1本に連結させた双天牙月を杖代わりに立ち上がろうとする甲龍の姿があった。

 

 

 

 

 

「くっ、アンタ大人しそうな顔してやってくれたわね・・・・」

 

 肩で息をしながら何とか立ち上がり、上空から自分を見下ろす簪を射殺すように見つめる鈴。

 一方の簪は鈴の激情などどこ吹く風と、冷静に鈴の状況を分析していた。

 

「・・・・甲龍の残りSEが3割ちょっと。試合用に威力を落としているとは言え、山嵐が半分も当たれば甲龍のSEは全損してるはず。なのにまだ3割も残っていると言う事は、迎撃したって言うの?・・・・成る程、凰鈴音は噂通りの天才って事か」

 

 荒れ狂うミサイルの嵐の中、3割ものSEを残して凌ぎきった鈴。恐らく鈴自身にもどうやって凌いだか分かってないだろう。ピンチに於いて身体が勝手に最適解を弾き出し、本能の命じるままに動いた結果、生き残れたのだろう。

 これが鈴が中国で天才と呼ばれる由縁なのか、理論派の自分とは真逆の鈴の本能に簪は改めて戦慄を覚えていた。

 とは言え、自分が圧倒的に優位に立てたのは紛れもない事実。後はこの優位を崩さない試合運びをすればいい。その為には常に先手を取り、主導権を与えない事!

 

 

 瞬時にそう判断した簪は背中に搭載された「春雷」を可動させ、発射体勢を取ると、甲龍に照準を合わせ、

 

「行くよ、沙々宮さん」

 

 そのまま発射した。

 

「!!」

 

 華鋼が背中の砲身をこちらに向けた瞬間、鈴は反射的に動いていた。そして、その判断が彼女を救った。

 先程まで甲龍がいた場所には大穴が空いていて、回避するのが少しでも遅ければ、この試合は終わっていた。そう思うとゾッとしたが、鈴は自分の窮地がまだ終わってない事を本能的に感じて、甲龍を疾らせた。

 

 「春雷」の最大の特徴は連射性にある。甲龍の回避する先に亜光速まで加速した重金属粒子が次々と着弾し、大穴を穿つ。グラウンドが高熱で溶解するさまは、いくら絶対防御を持つISと言えど、当たればただではすまない事を物語っている。

 鈴は最早何も考えず、己が本能のままに甲龍を操る。結果、ギリギリで回避が出来ているのだから鈴の野性の本能恐るべし、である。

 

 このままでは埒が明かないと、鈴は上空の華鋼を見る。腹が立つ事に華鋼は試合開始位置から全く動かず自分を翻弄しているのだ。

 

(アタシの馬鹿!ヴィシュヌの言う通りじゃないのよ!!)

 

 試合前ヴィシュヌから相手のデータは何もないのだから油断するなと再三忠告を受けたのに、初対面の気弱そうな簪の印象が強すぎて、正直舐めていた。

 だが、実際蓋を開けてみれば今の簪からは初対面の気弱な印象など欠片もなく、冷静に自分を追い詰めている。まるで獲物を狙う狩人のようだ。

 

「だからって、やられっぱなしって訳にはいかないのよ!!」

 

 鈴はそう叫ぶと甲龍を上空の華鋼に向かって疾らせた。簪は春雷を迫り来る甲龍に向けるも、何故か撃つのを止め、代わりに超振動薙刀「夢現」をコールして甲龍を迎え撃つ。

 

「はああああーーーーっ!!」

 

「ふっ!!」

 

 上空で激しく打ち合う2人。鈴は手数にものを言わせ、2本の青竜刀を振るう。その連続攻撃はまるで吹き荒れる嵐の如く、華鋼に襲いかかる。

 しかし、簪は鈴の一手一手を冷静かつ丁寧に凌いでいく。鈴の斬撃を受け、薙ぎ、払い、流す。その変幻自在さはまるで激流を制する静水の如く、甲龍の攻撃を受け流す。

 

 

 

 

 

「凄いねあの娘。あの凰鈴音の攻撃を悉く受け流している」

 

 中央アリーナWピット。2、3年生が待機するこのピットで、2年1組副代表フェイト・T・ハラオウンは隣りでモニターを見ているなのはに声をかける。

 

「・・・・・・」

 

「なのは?」

 

 一向に返事がないのを不審に思い、なのはを見たフェイトは愕然とした。

 

「────はあ❤」

 

 なのはは頬を染め、目を潤ませ、恍惚とした表情をしていた。その様はまるで愛しい人に巡り会えたかのような、或いは大好物を目の前に出されたかのような、そんな表情であった。

 

「凄いよ簪ちゃん! いつの間にこんなに強くなったの? これはもう今すぐにでも食べちゃい(戦い)たいくらいだよ! どうしよう、フェイトちゃん!?」

 

「ああ、うん、取り敢えず落ち着いて、なのは」

 

 どうやら簪の戦い振りは、なのはのバトルジャンキーに火を点けてしまったようだ。いや、そもそも先の志狼の試合で点いていた火が更に燃え上がったと言うべきか。最早、ちょっとやそっとで消えそうになかった。

 

「なのは。その思いは取り敢えずフォルテにぶつける事にして、後の楽しみに取って置くといいよ」

 

 フェイトはこの後の試合に集中させる為、対戦相手のフォルテに目を向けさせた。後ろで「ふあっ!?」と叫び声が聞こえた気がしたが、気にしない事にする。

 

「ああ、うん、そうだね・・・・はあ、でもいいなあ❤」

 

 フェイトの言葉に一応納得したのか、未練を残しつつもなのはは再びモニターに目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 中央アリーナEピット。モニターを見ながら志狼達が話し合っていた。

 

「驚いた。彼女接近戦もいけるのね」

 

「えっへん! 実はかんちゃんは薙刀の名手なのだ~」

 

「でも何故春雷を撃たなかったのでしょうか?」

 

「恐らくだが、角度が問題だったんじゃないか?」

 

「兄さん、角度って?」

 

「あのままの角度で春雷を撃てば、観客席に当たっただろう。いくらシールドバリアがあるとは言え、春雷のあの威力だ。万が一と言う事もある。簪はその辺を考慮したんじゃないか?」

 

「・・・・ありえる」

 

「だねえ~、かんちゃんらしいなあ~」

 

「まあ、接近戦にも自信があるからこその選択なんだろうがな」

 

 志狼はモニターから目を離さず、2人の攻防を見届けていた。

 

 

 

 

 

 

(くっ、この娘こんなに強かったの!?)

 

 得意の接近戦に持ち込んだと言うのに、簪の防御を一向に崩せない鈴は、流石に焦りを感じ始めていた。

 連続攻撃とは無酸素運動。必ず息継ぎする瞬間がある。簪は固い防御を見せつつ、その瞬間を逃さず「夢現」を攻撃に転じて来るのだ。また、その「夢現」が曲者で、薙刀の刀身が微細な振動をしている為、切断力がアップしており、確実に甲龍のSEを削り取っていく。

 既に甲龍のSEは2割を切っている。それに比べて華鋼のSEは未だ9割もあるのだ。

 

(どうする? どうすればいい?)

 

 圧倒的不利な状況に、鈴は己が頭脳をフル回転させる。

 

(距離を置いての戦いは向こうが圧倒的有利。接近戦では互角に戦えるけど、互角じゃ駄目なんだ。接近戦を有利に進めるには・・・・あっ!!)

 

 ひとつ作戦を思い付いた鈴は、双天牙月を1本に連結し、構える。

 

「もうこれで───行くしかない!!」

 

 そう言って甲龍を突撃させる鈴。簪は夢現を構えつつ、甲龍を迎え撃とうとしたが、突然の衝撃に吹き飛ばされ、体勢を崩す。

 

「何!? きゃあああっ!!」

 

 態勢を崩した華鋼に甲龍の攻撃がこの試合で始めてクリーンヒットする。

 

「ここだああああーーーーっ!!」

 

 この機会を逃すものかと連続攻撃に転ずる鈴。双天牙月を振り回し次々に華鋼にダメージを与えていく。

 華鋼が態勢を立て直した時にはSEが3割も削られた後だった。

 

 

 

 

 

「何だ? 華鋼がいきなり吹き飛ばされたぞ」

 

「衝撃砲、ですわね。中国の第3世代兵装の」

 

「衝撃砲?」

 

「衝撃砲って言うのはね、兄さん。小学生の時に理科の実験でやった空気砲って覚えてる? あれの凄い版なの」

 

「より正確に言えば、空間を圧縮した見えない砲弾を撃ち出す兵装よ。砲弾だけじゃなく砲身も見えないから当たってからじゃないと分からないって言う厄介な代物なのよ」

 

 志狼の疑問にセシリア、明日奈、ティアナが答える。

 

「成る程なあ。でも何で今まで使わなかったんだ?」

 

「さあ? そこまでは」

 

「忘れてただけだと思う」

 

「いやいや沙々宮さん、それはないって」

 

 思わず否定したスバルの意見に皆も反対しなかった。誰であろう紗夜の意見が正しかったと知るのは後日の事である。

 

 

 

 

 

(ええい!アタシは馬鹿か!!何で龍咆の事忘れてんのよ!?)

 

 自身の切り札となりえる龍咆の存在をすっかり忘れていた鈴。それだけ簪に追い詰められていたと言う事だが、確かに迂闊ではあった。

 現に龍咆を戦術に組み込む事によって、接近戦での主導権は鈴が手にしていた。先程までは互角であった接近戦で、龍咆と言う見えない砲弾を駆使する事により優位に立ち、ジリジリと華鋼を追い詰めているのだ。

 

(取り敢えず反省は後でするとして、今はこのまま行く!!)

 

 鈴は勢いのままに華鋼に襲いかかる。

 

 

 

 

 

(衝撃砲───見えない砲弾がこれ程厄介だとは思わなかった)

 

 一方の簪も龍咆の攻略に頭を悩ませていた。見えない砲身と砲弾だけでも厄介だと言うのに、発射の予兆すら感じられない非常に静かな兵装なのだ。一応両肩から発射されてるようなので、ハイパーセンサーにより吸気音や可動音が聞こえないか探ってみたが無駄だった。

 幸い龍咆自体の攻撃力が然程高くないから持っているが、華鋼の残りSEは既に半分を切っている。いい加減勝負に出ないと苦しくなるばかりだ。となれば、

 

(目には目を、砲には砲で!!)

 

 双天牙月の連撃を夢現で凌ぎつつ、簪はわざと隙を作る。その隙から突き崩さんと龍咆を撃とうとしたその時、

 

「!!」

 

 鈴は咄嗟に甲龍をバックさせた。

 

 

(何? 今の嫌な感じ。アタシの気のせい?)

 

 龍咆を撃とうとしたその時、鈴の本能が「撃つな!」と命じた。今まで何度も助けられた自分の本能を信じ、攻撃を止めて後ろに下がった。

 しかし、咄嗟の事で本能的に動いてしまった為、果たしてこれで良かったのかイマイチ信じきれない鈴であった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・本当に鈴の直感はとんでもないな。簪は決定的なチャンスを逃しちまったな」

 

「どう言う事? しろりん」

 

「多分だが、簪は今の展開で勝負を決める気だったと思う。その為にわざと隙を作ってたしな」

 

「ハーイ質問、隙を作るのがどうして勝負を決める事になるんですか?」

 

「ふむ。中嶋さん、簪が現在不利な状況に追い込まれているのは何故だい?」

 

「え? それは、えーと」

 

「接近戦中に衝撃砲で体勢を崩され、ダメージを受けるようになったから、だよね?」

 

「明日奈正解。では次に衝撃砲を攻略する必要はある?」

 

「ええ? だって、攻略しないと勝てないんじゃ・・・・」

 

「いえ、必ずしも攻略する必要はありません。現状SE残量では華鋼が有利なのだから、一気に勝負を決めてしまえばいい」

 

「ギャラクシーさん正解。では次に今までのパターンから考えて、次に何が来るか分かってる攻撃は?」

 

「えええ? えーと、んーと」

 

「衝撃砲。その後で必ず青竜刀で追撃してくる」

 

「沙々宮さん正解。では最後に鈴に衝撃砲を撃たせるにはどうしたらいい?」

 

「ああ、そっか。わざと隙を作って撃たせればいいんだ!」

 

「中嶋さん正解。それで最初に戻るけど、衝撃砲の後には青竜刀での追撃が必ず来る。ならばその追撃して来る所を狙い撃てばいい。だけど鈴は直感でヤバイと感じたのか衝撃砲を撃たなかった。わざと隙を作るなんて方法は怪しまれてしまうから何度も出来ない。初手で決めるのが一番効果的だったんだ。だから決定的チャンスを逃したと言ったんだ」

 

 説明し終えた志狼を見て、本音やスバルがポカンとしていた。

 

「凄いねえ、しろりん」

 

「ホント、何で分かるんですか?」

 

「いや、多分って言ったろ? 今のは俺の予測でしかないんだ。むしろ外してたら凄く恥ずかしい事になるぞ」

 

「ですが、そう大きく外れているとは思えません。現に私も結城さんと同意見です」

 

「・・・・・・」

 

 思わぬヴィシュヌの肯定に気恥ずかしそうに頭を掻く志狼。そんな志狼を見て、本音達はクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

 

 一方、笑えないのが簪である。

 

(何なの?あの娘の野性の勘は! どんな育ち方したらああなるのよ!?)

 

 途中までは良かったのだ。こちらの思惑通りにわざと作った隙に衝撃砲を撃とうとしていた。なのに、咄嗟に何かに気付いたかのように鈴は退いた。あのまま衝撃砲を撃って追撃して来たら、春雷をカウンターで撃ち込んで試合を終わらせる筈だったのに、全ての思惑が外されてしまった。

 

(とは言え状況は何も変わってない。落ち着け私、ISバトルとなれば色んなタイプの操縦者がいるのは当然。むしろ今、彼女の様な操縦者と戦えて経験値を得たと思おう)

 

 

 突撃して来る甲龍の攻撃を凌ぎながら、簪は以前、鈴の様に自分の思惑を悉く外して勝利した相手を思い出していた。

 

(そう言えば何となく明日奈と似ているかも)

 

 今年の年明け、代表候補生序列決定戦にて簪と明日奈は戦った。結果は明日奈の勝利。彼女は格闘技の経験などないのに、勝負所をわきまえていて、こちらが嵌めようとする手の悉くをかわされた。その上、鈴のように直感に優れ、手痛い一手を撃ち込んで来るのだ。

 最後には彼女の必殺の突きを食らい、簪は敗北した。

 

 そう言えば、と簪はあの時食らった突きを思い出していた。

 あの突きは後の明日奈の二つ名「閃光」の代名詞となる技で、身体全体で猛スピードで突っ込むと言う危険ではあるが強力な技だ。あれなら衝撃砲を物ともせずに甲龍にダメージを与えられるかもしれない。

 

(やってみるか・・・・大切なのはスピードとタイミング。私と華鋼なら出来る!!)

 

 

 簪は覚悟を決めると鈴の一撃を大きくかわすと、そのまま距離を取った。

 

「行くよ、華鋼!」

 

 夢現を構えつつ、甲龍の周りを飛び回る華鋼。何かあると感じた鈴は華鋼の後を追い、飛行する。

 アリーナ上空で突如始まった空中戦(ドッグファイト)に歓声が沸く。追う甲龍と追われる華鋼。時に大きく離れ、時に刃を交わし、付かず離れず、2人は代表候補生に相応しい技の応酬を繰り返し、観客を魅了する。

 だが、数分間の空中戦の末、どちらが有利なのか誰の目にも明らかになった。空中戦を征したのは華鋼であった。

 

 

 ISの分類は多岐に渡るが、大別すると戦闘型、高機動型、支援型、万能型の4種類になると言われている。

 戦闘型は戦闘力に特化した(タイプ)。鈴の甲龍や打鉄がこれに当たる。高機動型はスピードに特化し、機動力を武器に戦う(タイプ)。一夏の白式がこれに当たる。支援型は支援や援護攻撃を得意とし、誰かと組む事で更に力を発揮する(タイプ)。セシリアのブルー・ティアーズがこれに当たる。万能型はそれら全てを兼ね備えた(タイプ)。バランスは良いが、得意分野では特化型に劣る。ラファール・リヴァイヴがこれに当たる。

 

 そして、高い火力故に戦闘型に思われがちだが、実は華鋼は高機動型なのだ。

 打鉄は量産機として高い評価を得ていたが、近接戦闘力と防御力に特化したが故に機動力が疎かになっていた。その為、いざバトルになると機動力のある機体に翻弄され、勝ち星を上げられないと言う問題が出た為、「機動力を持った打鉄」を目指して開発されたのが華鋼の前身である打鉄弐式なのであった。

 それが代表候補生となった簪の専用機に充てられるも、紆余曲折の末、開発が放置されたのは知っての通りである。

 

 つまりは高機動型である華鋼が空中戦で甲龍の上を行くのはある意味当然なのである。しかし、事前に公表されているデータすら見ていない鈴は、同じ戦闘型であろう華鋼に機動力で翻弄されている事に次第に苛立ちを募らせていた。

 

 

 

 そして、それすらも簪の策の内であった。

 

「そろそろかな?」

 

 華鋼に追い付けず、鈴が次第に苛ついていくのが手に取るように分かる。いかに鈴が野性の直感を持っているとしても、そんな精神状態では十全に発揮出来ないはず。仕掛け時が来たと感じた簪は上昇し、太陽を背にする。

 

「しまった───!!」

 

 華鋼を追っていた鈴は太陽の光に目が眩み、一瞬、華鋼の姿を見失う。すぐさまハイパーセンサーが太陽光をカットして視界が戻るも、華鋼の姿が見当たらない。

 

「くっ、どこに行った!?」

 

 その時、甲龍のセンサーが真下から猛スピードで迫る華鋼を捉える。

 

「真下!?」

 

 気付いた時にはすぐ側まで華鋼が迫っていた。

 

「行けええええーーーーっ!!」

 

 夢現の刃が甲龍のシールドバリアに突き刺さる。

 

「夢現! 最大出力!!」

 

 簪は夢現の超振動を最大にして貫通力を上げる。

 

「くうううーーーっ!!」

 

「貫けええええーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 観客の目には空中で一瞬、華鋼と甲龍が交差したようにしか見えなかっただろう。だが、その一瞬にどれだけのやり取りがあったのか、知るのは当の本人達だけであった。そして───

 

 

 

 

 

『“甲龍”SE残量0、よって第2試合は16分45秒で更識簪“華鋼”の勝利です!!』

 

 

 

 

 

 

 アナウンスの後、歓声がアリーナに鳴り響いた。

 

 

 

~side end

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

どちらを勝たせるか悩みましたが、ご覧の通り簪の勝利となりました。賛否両論あるとは思いますが、簪の勝利を祝して下されば幸いです。

次回はいよいよ乱入者がその姿を現します。

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