短いですが、切れがいいので投稿します。
今回は決戦前、と言う感じでお送りします。
それでは、第29話をご覧下さい。
~all side
Eピットに戻って来た簪と鈴。素晴らしい戦いを見せた2人に拍手が沸き起こる。
「かんちゃんおめでとーーーっ!」
「凄かったよ、かんちゃん!」
華鋼から降りた簪に本音と明日奈が抱き付く。
「わっ! ありがとう2人共!!」
珍しく満面の笑顔で答える簪。ふと志狼と目が合うと志狼が大きく頷いた。簪も頷き答える。
「残念でしたね。ですがいい試合でしたよ、鈴」
甲龍から降りた鈴をヴィシュヌが迎える。
「無様よね。アンタの忠告を聞かずにこのザマよ。情けないったらないわ・・・・」
鈴は俯いたままピットを出る。廊下に出た鈴とピットに戻って来たティアナがすれ違った。
「・・・・お互い初戦で消える事になったわね。でも、私は諦めないわよ。次は勝つわ。貴女はどうするの、凰鈴音?」
「・・・・アタシを誰だと思ってんのよ。アタシは凰鈴音よ。こんな事くらいで挫けるもんか!」
涙で顔をグシャグシャにしながら答える鈴。
「そう・・・・。お互いこれからよね」
鈴の顔を見ずに答えるティアナ。
「ええ、これからよ」
そう呟くと鈴は再び、歩み始めた。
───クラス対抗戦第3試合 2年1組代表高町なのは対2年2組代表フォルテ・サファイア戦
「コラ~、逃げるな~~!」
「いや、無茶言うなっスよ~~~!」
この試合は終始なのはが優勢のまま終わった。
なのはの専用機「レイジング・ハート」は砲撃戦特化型。遠方から強力な砲撃を撃ち、相手を制圧するのが本来の戦い方だ。
比べてフォルテの専用機「コールド・ブラッド」は中距離支援型で、冷気を操る特殊能力も精々直径20m程の範囲内でしか効果が無く、距離の取り合いで圧倒的不利にあった。
試合結果は9分52秒でなのはの勝利。
試合後のコメントでなのはは「フォルテちゃん全然本気じゃなかった。つまんない」と言い、フォルテは「いやいやいや、あんな怪獣相手に勝てる訳ないっスよ!」とコメントしていた。
───クラス対抗戦第4試合 3年1組代表ダリル・ケイシー対3年2組代表
「うわあ~、や~ら~れ~た~~~!!」
この試合は下馬評通り、あっさりとダリルが5分07秒で勝利した。
ダリルはアメリカ代表候補生序列1位。対する杏は一般生徒である。これで勝てると思う方がおかしい。
そもそも杏は人望と人気で代表に選ばれたタイプで、操縦者としての実力は代表候補生に比べて大きく劣る。
今までは代表候補生など1学年に3人いれば多いと言われ、専用機持ちなど1人いるかいないかであった。しかし、今年の1、2年生は例年にないくらい代表候補生と専用機持ちが増えている。2年生は代表候補生が4人と国家代表が1人、専用機持ちが4人で、1年生に至っては代表候補生が6人、専用機持ちが6人と異例の多さなのだ。
これは今年入った2人の男性操縦者に関係してると思われ、今後も増える事が予想される。
ともあれ、午前中に予定の4試合が終わり、昼食を挟んで1年生の決勝戦が行われる。今年のカードは1年1組代表結城志狼対1年4組代表更識簪となった。
これから戦う2人はさぞかし火花を散らしてるだろうと思いきや、2人共ピットでのんびり仕出し弁当をパクついていた。
「うん。やっぱり〇〇亭の焼肉弁当は一味違うな」
「志狼さん志狼さん、○□屋のとんかつ弁当もイケるよ!」
「・・・・ちょっと、志狼、スバルも。貴方達いったい何個食べるのよ」
「「まだ3個目だ(よ)」」
「ああ、そう・・・・」
「あはは、気にしたら負けだよティアナ。はい、兄さんお茶」
「ああ、ありがとう明日奈」
昼食の時間になるとピットにはかなりの量の弁当が届けられた。本来は作業している整備科や開発科の生徒用なのだが、食堂に食べに行ったり、自前で用意したりする娘が多く、かなりの数が余りそうだったので、志狼とスバルが持ち前の食欲を発揮し、片っ端から平らげていた。
「ん~~~! とんかつウマーーーッ!」
「こう言う時は験を担いでカツカレーが一番だね」
「ん、カツカレーは正義」
「ふむ、タイのカレーとは違いますが、日本のカレーは味わい深くて美味しいですね」
隣りのテーブルでは本音、簪、沙夜、ヴィシュヌが揃ってカツカレー弁当を食べていた。
因みにセシリアはクラスの様子を見に行って不在。鈴は出て行ったきり戻っていなかった。
「ふう、ごちそう様」
結局志狼は弁当を5個平らげて、「試合前だし腹八分目にしておくか」と言い、ティアナに呆れられていた。因みにスバルはまだ食べている。
「兄さん、少し横になったら?」
明日奈が自分の膝をポンポンと叩きながら言う。
「ん、いいのか?」
「うん!」
明日奈がそう言うと志狼はそれじゃあとソファーで横になって、明日奈の太股に頭を乗せた。ごく自然に膝枕の状態になった2人にティアナとスバルは目を丸くする。
「・・・・ふふ、こうするのも久し振りだね」
「ん、そうだな。いつ以来だっけ?」
「えーと、確か兄さんの受験が終わって以来かな?」
「そっか、もうそんなになるか」
「そうだよー、ふふっ」
嬉しそうに志狼の黒髪を撫でる明日奈。明日奈の制服は基本ノーマルのままで、スカートをミニにして、膝下までのソックスを履いている。つまり膝枕をすると素肌に触れる事になるのだ。明日奈の滑らかかつムッチリとした太股の感触に志狼は心地好さそうに目を閉じる。
「少し眠ったら?」
「んー、それじゃあ少しだけ」
「うん、お休みなさい」
しばらくすると志狼は寝息を立て始めた。眠る志狼を見つめる明日奈の顔は兄を見る妹のものではなく、どう見ても愛しい男を見つめる女の顔であった。
いきなり発生した桃色空間に同じテーブルにいたティアナとスバルは勿論、隣りの簪達まで顔を赤くしていた。
「あはは、何だか兄妹って言うより恋人同士みたいだねえ?」
妙な雰囲気を変えようとスバルが言ったが、それに答えて明日奈が爆弾を落とす。
「そう? だったら嬉しいかな。私は兄さんをひとりの男性として愛してるから」
「「「「!!!」」」」
その発言に皆が愕然とする。
「いや、ちょっと待って!? 明日奈、貴女達兄妹なのよね!?」
「そうよ?・・・・ああ、そっか。皆は知らなかったんだっけ。私達血は繋がってないのよ」
「「「「えええっ!!!?」」」」
「あれ? 本ちゃんも知らなかったっけ?」
「聞いてないよ~~~!」
「そっか・・・・あの時先に寝ちゃってたんだ」
それは志狼の代表就任パーティーの夜。ナギに誘われて彼女の部屋で二次会をしていた時の事、こういう時の定番と言える
その場にいたのはナギ、癒子、神楽、清香、静寐、そして本音だった。ただ、その時本音と清香はお腹が一杯になって寝ていたので聞いてなかった。
「まあ、そう言う事だから問題なしって事で」
「まあ、そう言う事なら・・・・」
「倫理的には問題ないですね」
「やっぱ最大のライバルはあすにゃんだったかぁ・・・・」
皆やや釈然としないながらも取り敢えず納得したらしい。明日奈はそんな皆を見ながら、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「兄さん、起きて。時間だよ」
明日奈の耳元で囁く声に志狼はゆっくりと目を開いた。
「ん、どのくらい寝てた?」
「15分くらいかな。良く眠れた?」
「ああ、ありがとう明日奈」
志狼は身体を起こして、膝枕をしてくれた明日奈に礼を言って立ち上がる。身体を動かし、固まった身体を解していると、簪が近付いて来た。
「よう、こっちは休養充分、準備万端だ。そっちは?」
「うん、私も万全。よろしく志狼さん」
そう言って簪は右手を差し出す。
「よろしく簪。お互い全力で戦おう」
志狼も右手を差し出し、2人は握手を交わすと自分達の機体に向かう。
「整備は万全だよ。2人共頑張って!」
2機の前に立つ本音は両手を上げて2人を迎える。志狼と簪は本音とハイタッチを交わして機体に乗り込んだ。
「行くぞ、孤狼」
「頑張ろうね、華鋼」
始めに孤狼がカタパルトに乗り、待機する。
『さあ、いよいよクラス対抗戦も最終戦となります。今年の1年最強なのは果たしてどちらか? 最初に登場するのはご存知2人目の男性操縦者。イギリスに続きアメリカの代表候補生も撃破したその実力は最早誰もが認める事でしょう。1年1組代表、鋼鉄の赤き狼、結城ぃぃ志狼ぉぉぉーーーっ!!』
アナウンスが終わると孤狼がカタパルトから射出されアリーナに姿を現すと、途端に歓声が沸き上がる。
志狼はアリーナ最前列のクラスメイト達を見ると、箒や神楽、ナギ、静寐などお馴染みの面々が声援を送っている。そこにはセシリアも居り、どうやらピットには戻らなかったようだ。志狼が手を上げると、更に歓声が大きくなった。
『そして、最後に登場するのは今まで謎のヴェールに包まれていたが、その姿を現した途端に中国の代表候補生を撃破、その実力の高さをまざまざと見せつけてくれた日本の代表候補生!その戦い振りから『流水』『鋼の狩人』と言った二つ名が早くも付いた1年4組代表、更識ぃぃ簪ぃぃぃーーーっ!!』
アナウンスが終わり、華鋼がカタパルトから射出される。簪の顔は既に真っ赤に染まっていた。
アリーナ上空て30m程の距離で対峙する2人。
「あー、大丈夫か『鋼の狩人さん』?」
「お願いだから言わないで!」
志狼が揶揄うように尋ねると、若干涙目になって簪が顔を真っ赤にして言う。その姿に大いに嗜虐心を刺激される志狼だったが、そんな場合ではないと自分に言い聞かせ、これ以上触れない事にする。
「すまん、もう触れないから。それより全力で戦おう」
「志狼さん・・・・うん、約束だもんね」
2人が笑みを交わすと、試合開始を告げるアナウンスが響く。
『それでは、クラス対抗戦最終戦。1年1組代表、結城志狼“孤狼”対1年4組代表、更識簪“華鋼”試合開──『二人共避けろぉぉぉーーーーっ!!』!?』
そのアナウンスの途中で突如響く千冬の絶叫。2人は反射的に機体を後退させた。
その途端に空から一条の光の柱が降り注ぎ、地表を灼く。後退するのが一瞬でも遅ければ2人共巻き込まれていた事だろう。
「これって、まさかビーム兵器!?」
簪が呟き、光の降りて来た空を見上げる。そこには3つの黒い影。
「
シールドバリアを破り、アリーナには黒い全身装甲型のISが3機、乱入して来た。
「さあ、いよいよ試験開始だ。IS学園に来たるべき脅威と立ち向かう力があるのか、この束さんに見せて貰うよ、ちーちゃん?」
いくつものモニターしか光源のない真っ暗な部屋で、天災が楽しそうに笑みを浮かべていた。
~side end
読んで頂きありがとうございます。
今回で年内最後の投稿とさせて頂きます。
8月半ばから趣味の自己満小説として書き続けて早4ヶ月。投稿を続ける内に気付けば思いもよらない程大勢の人達に読んで貰い、評価や感想など沢山頂きました。
本当にありがとうございました。
来年も頑張って投稿を続けたいと思うので、よろしくお願いします。
次回は全編バトル回の予定です。