二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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書き上がったので、第31話を投稿します。

今回は志狼達の戦いの裏であったもうひとつの戦いの様子をお送りします。

それでは、第31話をご覧下さい。



第31話 クラス対抗戦⑥~決戦(裏)

 

 

~all side

 

 

 3機の謎のISの乱入により、IS学園は混乱の只中にあった。何者かのハッキングを受け、コントロールを失い、避難も救援も出来なくなる中、コントロールを取り戻す為、整備科や開発科の3年生が頑張っていたが、結果は芳しく無かった。

 この緊急事態に警備責任者でもある織斑千冬は外部に救援を求める決意をする。謎のハッカーに奪われたコントロールを取り戻す為、千冬は自分が知る最高のハッカーである『電子の女帝』藍羽浅葱に協力を求めた。

 確かに浅葱は学園OGであり、千冬とは個人的に面識もあるが、現在では絃神コーポレーションという企業の人間だ。ただで協力を求める訳にもいかず、報酬を支払い、仕事の一環として依頼する事になった。

 また、一企業の人間に一時的にとは言え学園の全コントロールを預けた事が後々問題になった場合は千冬が全面的に責任を取る事で絃神の社長と話がついた。

 

 

 

 

 

 絃神コーポレーションIS開発室。開発室の面々とテレビを見ていた浅葱は、自分達の作った機体である孤狼が決勝戦を戦う姿を楽しみにしていたと言うのに、突然乱入して試合を潰した謎の機体に腹を立てていた。

 

「誰かあの機体見た事あります?」

 

「いや、無いなあ」

 

「今時全身装甲(フルスキン)型って流行らんよ」

 

「あんなの作るのはうちくらいじゃないか?」

 

「じゃあ犯人は俺らか。こりゃまずいな」

 

「「「わっはっはっは!!」」」

 

「笑い事じゃありませんよ!このままじゃ変に疑われかねないじゃないですか!!」

 

「何言ってんの、浅葱ちゃん」

 

「うちは志狼君をゲットしてから同業者連中に妬まれてるから、そんなの今更だって」

 

「それは!・・・・それもそうか。そもそも本当に関係無いんだから、難癖つけられたら名誉毀損で訴えてやればいいのよね」

 

「「「この女、怖えええ!」」」

 

「あん!?」

 

 そんなコントのような会話を絃神のスタッフと交わしていた浅葱の携帯から着メロが流れる。その着メロはかの有名な「ダース・ベ○ダーのテーマ」。浅葱がこの曲に設定している人物は1人しかいなかった。

 

「はい、藍羽です。どうしました織斑先生?」

 

『藍羽、緊急事態だ。力を貸してくれ』

 

「何があったんです?」

 

『他言無用で頼む。現在学園は何者かのハッキングを受け、全てのコントロールを失っている』

 

「! マジですか!?」

 

『マジだ。そこでお前の力を借りたい。何としても学園のコントロールを取り戻して欲しいんだ』

 

「力を貸したいのは山々ですが、今の私は一企業の人間です。その私が力を貸すとなると色々と問題があるのでは?」

 

『大丈夫だ。その辺の問題は絃神の社長と話し合って解決済みだ』

 

「そうなんですか?」

 

『ああ、後はお前次第だ』

 

「一時的に私が学園の全てを掌握する事になりますが、これって責任問題になりますよ?」

 

『ああ、構わん、責任は私が取る。やってくれ』

 

「分かりました。至急作業に入ります」

 

 浅葱は携帯を切ると、自分のデスクに座り、パソコンを起動する。ふとテレビを見ると、侵入者と戦う孤狼の姿が映る。相棒である彼が頑張っているのだ。ならば自分も出来る事をしよう、そう決意した浅葱は久々に女帝モードになると、自らの戦いを始めた。

 

 

 

 

 

 侵入者との戦いはエネミー1を孤狼と華鋼の連係で、エネミー2を加勢した閃光が撃破すると、残ったエネミー3が攻撃を仕掛けて来た。しかし、この状況にIS学園生徒会長である更識楯無は違和感を感じていた。

 

(3機目が動いた?あの機体は情報収集の為に動かないんだと思ってたけど、自分から攻撃を仕掛けるなんておかしいわよね・・・・もしかして、もう1機いる?)

 

 その結論に達した楯無は、独自の行動を取る事にした。

 

(となると、専用機持ちの協力者が欲しいわね・・・・フラストレーションが溜まってるだろうし、彼女にお願いしましょうか)

 

 楯無は友人であり、ライバルでもある1人の操縦者にプライベートチャネルで連絡を取る。

 

「ああ、なのはちゃん? ちょ~っと力を貸して欲しいんだけど・・・・」

 

 

 

 

 

 絃神コーポレーションIS開発室。浅葱がパソコン相手に格闘していた。パソコンも1台では足りず、2台目、3台目と増やして行き、最終的に5台のパソコンを接続して浅葱は事に当たっていた。

 

(全く、何なのこのプログラム。どれだけダミーを用意してるのよ! お陰でえらく遠回りさせられたけど、もう逃がさないわよ!)

 

 浅葱は学園にハッキングをした者がどんな人物か作業を進めながら想像していた。

 

(まず、間違いなく天才だわ。それもどっか壊れてる、ね。性格は悪戯好き、もしくは策士。いずれにしても絶対性格悪いわ。プログラムから滲み出てるわよ。そんな人物に心当たりは───)

 

 浅葱は知り合いのハッカー達を思い浮かべるが、どの人物も当てはまらない。消去法で考えると、後に残ったのは1人しかいなかった。その人物を思い浮かべた途端、浅葱に悪寒が走る!

 

(ヤバイ! もし、本当にあの人なら今してる事は命取りだ!!)

 

 浅葱はハッキングの解除プログラム作成と同時に、犯人の居場所を逆探知していた。もし、犯人が浅葱の思い浮かべた人なら報復されかねない。そう考えた浅葱は逆探知をやめて、自分が逆探知していた痕跡を消す作業に移った。

 

(危なかった・・・・やぶ蛇になる所だったわ。これで大丈夫だとは思うけど、相手があの『天災』となると分かんないわよねえ。一応こっちの意図を読み取ってくれるとは思うけど・・・・)

 

 浅葱がハッキングの解除プログラムを完成させると、テレビの中では一夏が観客席のシールドバリアを破ってアリーナに飛び出した所だった。

 

「はあ!? 何やってんの、こいつ!!」

 

「本当になあ。馬鹿なのか?」

 

「馬鹿なんだろう? それとも手柄を挙げて汚名返上したいのかねえ?」

 

「ああ、それはあるかも」

 

 絃神のスタッフの会話を聞きながら浅葱は急ぎ千冬に連絡を取る。

 

 

『藍羽! 終わったのか!?』

 

 電話に出た途端、食い気味に尋ねて来る千冬に若干引きながら浅葱は答える。

 

「! は、はい! お待たせしました。思ったより時間がかかりましたが、今、終わりました。スイッチひとつでコントロールを取り戻せますが、どうします?」

 

『やってくれ! 大至急だ!!』

 

「了解です」

 

 浅葱がキーボードを押すと、プログラムが作動してハッキングの爪痕をどんどん消して行く。ものの1分とかからず、学園はコントロールを取り戻した筈だ。実際、携帯の向こうからは歓声が聴こえる。

 

『藍羽、感謝する。報酬についてはまた後日に』

 

 そう言うと千冬は電話を切った。

 

 浅葱は携帯を充電器に戻すとテレビを見つめる。観客席の生徒達が避難を始めたその端で孤狼が立ち上がるのが見えた。

 

「頑張れ、志狼」

 

 一仕事終えた浅葱はテレビ画面を注視し、志狼に声援を送った。

 

 

 

 

 

 

 某国、某所。

 

「あれ? ハッキングが解除されちゃったよ。ウソ、マジ? あれって束さんの自信作なんだよ? 1時間で消えるプログラムだけど、その間は絶対解除されない自信があったのに!? 何、今の学園には束さん以上のハッカーがいるって言うの!?」

 

 しばし愕然としていた束であったが、次の瞬間、

 

「ウフ、ウフフフ、アハハハハーーーーッ!!」

 

 突如、狂ったように笑い出した。

 

「アハハハハーーーッ!! マジかよ!この万能の天才たる束さんを、一分野とは言え越える才能の持ち主がいるなんて。ああ、何て生意気で、何て愛しいんだろう! この感動はちーちゃんやしーくんと出会って以来だよ! 一体君は誰なんだい?

・・・・駄目だ。追跡してた痕跡が全て消されている。そもそも逆探知して束さんの居所を捜そうとしてたんだね。でも、途中で束さんを相手にしている事に気付いたのか。そして、痕跡を消したと言う事は、束さんと敵対する気は無いってアピールか。成る程優秀だ。でも、ダ~~メ! 束さんは君に興味津々だよ。必ず君の居場所を掴んで見せるからね?ウフフフフ・・・・・・」

 

 真っ暗な部屋に無気味な笑い声が木霊する。

 

 

 

 同じ頃、浅葱が悪寒を感じて、人知れず身体を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 中央アリーナWピット。解錠された扉からからアリーナ場外に駆け出す1人の少女の姿があった。

 栗色のサイドテールを靡かせて、特注の白いISスーツを身に付けた高町なのはであった。

 なのははアリーナ場外に出ると、首から下げた赤い宝玉のようなネックレスを掲げて自分の専用機を喚ぶ。

 

 

「レイジング・ハート、セットアップ!」

 

『Yes,Master』

 

 

 ISコアの声に応えて現れた専用機『レイジング・ハート』をなのはが纏う。

 機体色が白と青で構成され、背中に鋼鉄の翼を持った美しい機体だった。その姿から味方からは「白き天使」、敵からは「白い悪魔」などと呼ばれる機体である。

 拡張領域からレイジング・ハート唯一にして最大の武装「可変型カートリッジ式砲撃戦機杖・スターライト」をコールすると、なのはは軽やかに空に舞い上がった。

 

 

(実はね、侵入して来た3機の仲間が学園近辺に潜んでいる筈なのよ。それを探すのを手伝って欲しいの) 

 

 

 楯無の要請により、隠れた敵機を探す為、地上1000mまで急上昇するレイジング・ハート。その位置から周辺のISコアの反応をサーチする。

 

(学園内の反応は無視して構わない。探すのは学園外、それもあまり遠くない所にいるはず───)

 

 そう考えてサーチすると、反応が3つ。ひとつは楯無のものだったが、他の2つは未確認のコアであった。

 

「たっちゃん、あったよ。それも2つ。アリーナ上空2000m。もうひとつは───」

 

『了解。そっちは私がやるわ。なのはちゃんは空をお願い』

 

「それで? 目標は確保? それとも撃墜?」

 

『墜としちゃって構わないわ。それじゃ、よろしく』

 

「了解」

 

 

 プライベートチャネルで楯無との通信を終えたなのはは、レイジング・ハートを更に上昇させた。

 

 

 

 

 

 アリーナ上空2000m。誰もいない空にその機体はいた。侵入して来た3機と同型の黒いIS。それは静かに上空からアリーナでの戦闘を見つめていた。

 

 アリーナでの戦闘に決着が着き、主から命じられた情報収集は完了したと判断した機体(以後エネミー4と呼称)は、速やかに帰還しようとした。その時、自分に向かって急上昇して来るISの反応をエネミー4は捕らえた。

 

「覗き魔はっけ~~ん!」

 

 現れたのはデータにある機体。日本代表候補生序列1位高町なのはの専用機、砲撃戦特化型第2世代機レイジング・ハート。主の目的の為に、是非ともデータが欲しい機体であった。

 エネミー4は帰還からデータ収集にモードを移行し、戦闘態勢を取った。

 

「うんうん。やる気があって大変結構。それじゃ、行っくよーーーっ!!」

 

 なのははレイジング・ハートを上昇させ、距離を取る。レイジング・ハートは砲撃戦特化型。近接戦闘は本職では無いのだ。自分の有利な距離を取ろうとエネミー4から離れようとする。しかし、そのくらいは知っているのか、距離を取ろうとするレイジング・ハートに向けてエネミー4が突撃する。

 近付くエネミー4に慌てる事無く、レイジング・ハートは手の平に6つのエネルギー球を浮かべると、それをエネミー4に向けて撃ち出した。

 

 

 

 ───エネルギー誘導弾

    「アクセルシューター」

 

 

 レイジング・ハートの基本技のひとつ。手の平から撃ち出したエネルギー球を自在に操り、敵にぶつける技。

 撃ち出されたエネルギー球はなのはの脳波により操られ、自由自在に飛び回り敵を撹乱し、撃ち落とす。なのはの人並み外れた空間把握能力があってこそ可能な技であり、なのはにしか出来ない技でもある。

 コントロール出来るエネルギー球は最大12個まで。出すだけなら36個まで出せる。

 余談ではあるが、なのはのBT適性を測定したら間違いなくセシリア以上の値が出ると思われる。

 

 

 

 自分に迫るエネルギー球を次々とかわすエネミー4。だが、6つ全てをかわしたと思った途端、戻って来たエネルギー球の直撃を背中に受け、態勢を崩す。

 そうなれば、後は飛び交うエネルギー球に翻弄され、身動きが出来なくなってしまった。

 

 飛び交うエネルギー球の檻に閉じ込められたエネミー4に向けて、レイジング・ハートが「スターライト」を構える。

 

「『スターライト』モードチェンジ、“カノンモード”!」

 

『Yes,Master.“Canon Mode”』

 

 なのはの命にISコアが応え、スターライトが変形する。長大な杖の状態から、引き金や銃把を備えた長大な銃、いや砲に変形した。

 レイジング・ハート唯一の武装「スターライト」は用途に応じていくつもの状態に変形する能力を持っている。

 そして、最も良く使われるのがこのカノンモード。今、なのはの代名詞たる技が放たれようとしていた。

 

 

 自分が危機に陥っている事に気付いていても、飛び回るエネルギー球の檻からエネミー4は脱出出来ずにいた。

 スターライトの砲口にエネルギーが充填されて行く。その光はまるで夜空に輝く星の光の如く、そして、

 

「ディバイン、バスターーーーッ!!」

 

 なのはの叫びと共に砲口に充填されたエネルギーが撃ち出される。それはエネミー4のシールドバリアをいとも容易く貫通し、機体を破壊した。

 

 ディバインバスターの一撃を受け、エネミー4は機能を完全に停止させ、そのまま海へ落下して行った。

 

「あ、たっちゃん?こっちは終わったよ。残骸はどうするの?」

 

『もう終わったの? 流石ね。回収はこっちで手配するからなのはちゃんは上がって頂戴。お疲れ様。あ、この事は他言無用でお願い』

 

「は~~い。それじゃ、お先に」

 

 楯無との通信を終え、なのはは学園に帰還する。

 志狼が重傷を負ったとなのはが知るのは、もう間もなくの事であった。

 

 

 

 

 

 

 アリーナに乱入した3機に加え、上空から情報収集をしていた1機も破壊されてしまった。IS学園の策敵能力はこちらの予想を上回るようだ。そう判断した最後の1機(以後エネミー5と呼称)は見つからぬように静かに移動を開始した。

 主の命により、1ヶ月前からこの場で情報収集に当たっていた自分が見付かる事はまず無いだろうが、主からは今回侵入した4機が全て破壊された時に限り、撤退するように命じられていた。その命に従い撤退しようとしたエネミー5であったが、突如周囲の状況が変化し始めた。

 自分の潜んでいた海中、その周りの海水が渦を巻いて上昇して行き、やがて自分の周りから海水が無くなり、ポツリと海底に立つ自分だけが残された。

 四方を水の壁で囲まれ、むき出しになった海底に取り残されたエネミー5の前に空から1機のISが降り立った。

 

「はい、見付けた。駄目よ。お姉さんからは逃げられないんだから」

 

 現れたのはデータにある機体。ロシア代表にしてIS学園生徒会長、更識楯無の専用機、万能型第3世代機ミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)。主の目的の為に是非ともデータの欲しい機体であった。

 エネミー5は帰還からデータ収集にモードを移行し、戦闘態勢を取った。

 

「あら、()る気? それでは短い間だけどダンスのお相手を務めて貰いましょうか?」

 

 そう言いつつも、何の構えも見せない楯無をエネミー5は観察する。変わった機体であった。極端に装甲が少ない、と言うより無い。上半身などはISスーツの操縦者がほとんど丸出しで、左右一対のクリスタルのようなパーツが浮いているのが特徴的であった。

 データによると、この機体は昨年の12月に突如自由国籍権によりロシア国籍を取得した楯無が、翌1月の代表決定戦に於いて、当時のロシア代表及び代表候補生を全員撃破し、ロシア代表となった時に与えられた機体「モスクワの深い霧」を元に彼女自ら再設計し、組み上げた機体だと言う。元のISの形などほとんど残ってない程変貌した機体の戦闘データは無く、その名の通りミステリアスな機体であった。

 故にこの機体のデータは何としても持ち帰る必要があり、出来る限り多くの能力を使わせるのが、自らの役目だとエネミー5は理解していた。

 

 

 

(あらあら、かかって来ないわね) 

 

 海中に潜む事を前提としている為か、これまでの黒と違い青い装甲のエネミー5を見ながら楯無は考える。逃走しようとしていた敵機がそれをやめて自分に向かって来ると言う事は、自分を倒して脱出するか、自分との戦闘データを欲しているかのどちらかだろう。

 

(恐らくは後者。と言う事はなるべくレイディの能力を引き出したいと思ってるのでしょうね。ならば、私がするべき事は───速攻!)

 

 楯無は右手を掲げると、エネミー5に向けて降り下ろす。

 

「!?」

 

 途端に周りの水が槍のように伸びてエネミー5に襲いかかる。たかが水かと思いきや、水の槍が当たったエネミー5のSEが大きく削られる。

 襲い来る水の槍を回避しようと動き回るエネミー5だが、周り全てが水で囲まれたこの場所では到底回避しきれず、ダメージが溜まって行く。

 エネミー5はこの場の不利を悟り、空に逃れようとするも、

 

「!?」

 

 その両足に水が鎖のように絡み付き、逃げられなかった。

 

「フフ、駄目駄目。ここは既に私の結界の中。逃れる事なんて出来ないわよ」

  

 やがて絡み付いた水の鎖は全身に巻き付き、エネミー5を完全に拘束する。

 

「こんな所に潜んでいたのが仇になったわね。覚えておくといいわ。私のミステリアス・レイディは水のある所では無敵だと言う事を」

 

 楯無は水を操り巨大なランスを作り出す。その水のランスがドリルのように高速回転を始めた。

 

「アナタがどこの誰だか知らないけど、私の学園を土足で踏みにじった事を後悔なさい!───蒼流旋!!

 

 水のランス───蒼流旋がエネミー5を貫く。

 ほとんど何も出来ないまま、エネミー5は機能を停止した。

 

 

 

 

「ふう、取り敢えず終わったわね」

 

 楯無はそう呟くと機能停止したエネミー5を抱えて宙に舞う。途端にナノマシンを操り固定していた海面が元に戻って行く。

 ミステリアス・レイディはアクア・クリスタルと呼ばれる浮遊パーツから放出されるナノマシンにより、水を操る能力を持つ。それにより水のある所では周りの全てを武器にする事が出来る。水のある所では無敵と言った楯無の言葉もあながち間違いでは無いのだ。

 

『御当主様。高町様が倒した敵機の回収が完了しました』

 

「ご苦労様。こっちも終わったから合流して回収して下さい」

 

『了解しました。本当に学園には何も知らせずに良いのですか?』

 

「構いません。私は学園からの指示で動いてる訳じゃなく、あくまで更識家当主として動いたのですから」

 

『失礼しました。差し出口をお許し下さい』

 

「構いません。では合流します」

 

『はい。それと、ひとつご報告が』

 

「何かしら?」

 

『アリーナでの戦いが終わりました。敵機は全て撃破。簪様にお怪我はございません。ですが───』

 

「ですが何?」

 

『結城志狼が重傷を負いました。現在治療中だそうです』

 

「!!」

 

『御当主様?』

 

「・・・・・・いえ、何でもないわ。では、合流します」

 

 

 楯無は敵機の回収を命じていた更識家の部下と通信を終えると、逸る気持ちを抑えて合流地点に急ぐ。

 

(志狼に一体何があったの!? どうか無事でいて!!)

 

 

 

 

 

 

 某国、某所。

 

「ありゃりゃりゃ? 全部墜とされちゃったの!? 一体どうして・・・・」

 

 束は情報収集を終えて帰還する筈だった無人機──ゴーレムが全機撃墜された事に驚いていた。

 アリーナに乱入した3機は始めから帰還しない事を想定した使い捨てであるから構わないが、上空と海中に潜ませていたものまで撃墜されるとは思わなかった。 

 束は途中まで送られていた戦闘データを解析しながら呟いた。

 

「ふ~ん、こいつらが学園最高と学園最強か・・・・束さんのゴーレムを墜とすなんて、ムカつく~!でも、まあ今回は学園の力を確かめるのが目的なんだから、良しとするか。ふむ、試験は一応合格かな?皆まだまだ成長の余地がありそうだし、もうしばらく温かい目で見守ってあげるとしよう!」

 

 そう言うと束は途端にシュンとした。

 

「はあ、とは言え今回は失敗しちゃったよ。しーくんに怪我させちゃうなんて。まさかゴーレムが箒ちゃんのいる所にビームを撃ち込んじゃうなんて・・・・しーくんが守ってくれなかったら危ない所だったよ。むう、それと言うのも全部いっくんが悪いんだ! もう、どうしてくれようか!!」

 

 そんな風に束が息巻いていると、ノックの後にスライド式の扉が開いた。

 

「束様?お食事の用意が出来ました」

 

 入って来たのは長い銀髪をツインテールにして、ゴスロリ風の衣装を着た美少女だった。

 

「うわああぁぁんっ!くーちゃああぁぁんっ!!」

 

「ふわっ!? 何事ですか、束様!?」

 

 いきなり束がくーちゃん──クロエに抱き着いた。

 

「どうしよう? しーくんに怪我させちゃったよう!」

 

「まあ、それは大変ですね」

 

「うん、どうしたらいいかな?」

 

「そうですね・・・・こう言う時はお見舞いに行ったらどうでしょう? 束様特製の医療用ナノマシンを持って行けばどんな怪我でもすぐ治せるでしょうし」

 

「!! くーちゃん天才! よし、そうと決まれば早速行って来るね!!」

 

「ああ、束様!? お食事を・・・・行ってしまいました。それにしても、しーくん様、どうかご無事で・・・・」

 

 クロエは閉じたままの目を束の消えた方向に向けて、そっと祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 このように志狼達の戦いの裏でも戦いがあり、誰にも知られる事無く終わりを告げた。

 

 

 だが、この戦いがよりにもよって、かの『天災』を学園に呼び込む事になるとは誰も思わなかった。

 

 

 

~side end

 

 




読んでいただきありがとうございます。

なのはの専用機レイジング・ハートのモデルは「アンジュルグ」です。ウイングゼロカスタムとどちらにするか悩んだのですが、天使のイメージはやはりこちらの方が強かったので、こちらにしました。

相方のフェイトの専用機は何になるか、予想してみて下さい。因みにこちらもスパロボからです。

次回でクラス対抗戦は完結。ようやく原作1巻分のエピソードが終わります。
ここまでに約4ヶ月もかかった亀進行ですが、今後もよろしくお願いします。



【変更点】
レイジング・ハートのモデルをウイングガンダムに変更。



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