二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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遅くなりましたが、第33話を投稿します。

この場を借りて修正箇所を報告させて頂きます。
誤字報告により第30話において文章が欠けていた事に気付きました。
一夏がシールドバリアを破った後のセシリアの場面です。
加筆して修正しましたのでよろしければご覧下さい。

誤字報告して下さった方、名前を出していいのか分からなかったので控えさせて頂きましたが、報告して下さり、ありがとうございました。

それでは新キャラ多数登場の第33話、ご覧下さい。




第33話 結城家の兄妹

 

 

~志狼side

 

 

 クラス対抗戦が終わり、世はゴールデンウィークに突入した。

 幸い俺の身体もあれからすぐに回復して動かせるようになったので、鈴と刀奈にはたっぷりオシオキをしておいた。(勿論、刀奈には性的にだ)

 そして5月になると、ようやく俺の外出許可が降りたので、これから実家へ帰る所だ。

 

 

 

 

 寮に残る皆にしばしの別れを告げて、俺と明日奈はモノレールに乗り込んだ。

 モノレールに揺られる事約10分。「IS学園駅」に到着した。学園側にあるのが「IS学園前駅」、本州側にあるのがここ「IS学園駅」。間違えやすいので何とかして欲しいものだ。

 

 駅を出ると、駅前に停めていた黒いセダンの前にいた一組の男女が歩いて来た。30代後半の痩身の男性と20代半ばの明るい雰囲気のショートカットの女性だった。

 

「やあ、初めまして結城志狼君。御当主の命で今日から君の護衛を務める衛宮切嗣(えみやきりつぐ)です」

 

「同じく、藤村大河(ふじむらたいが)でーす」

 

「初めまして、結城志狼です。これからよろしくお願いします」

 

 俺は衛宮さんと握手を交わした。

 

「ああ、こちらこそ」

 

「それと、妹の明日奈です。今日は実家へ帰るので同行させて貰います」

 

「結城明日奈です。よろしくお願いします」

 

「よろしくねー♪ うわあ、明日奈ちゃんって本当に美少女ねえ。お姉さん感動!」

 

「はい? あ、ありがとうございます」

 

「うんうん。あ、2人共私の事は親愛を込めて『藤姉』って呼んでね?」

 

「「は、はあ・・・・・・」」

 

「大河君。いきなり飛ばしすぎだよ。ほら、2人共戸惑ってる」

 

「あははー、ゴメンね。お姉さんちょっとハシャギすぎちゃった」

 

「「い、いえ」」

 

「ハア、それじゃ2人共車に乗って。出発しよう」

 

 衛宮さんに促され荷物をトランクに入れて車に乗る。助手席には1人の少女が座っていた。艶かな長い黒髪の黒いゴスロリドレスを着た、まるで人形のように整った容姿の美少女だった。彼女は俺を一瞥すると興味無さげに目を閉じた。

 衛宮さんが運転席に、俺と明日奈、藤村さんが後部座席に乗り込む。その時、視線を感じて振り向くと赤い大型バイクに乗った少女が俺をジッと見ていた。フルフェイスのヘルメットを被っていたので顔までは解らないが、ピッチリとしたライダースーツを着ているので抜群のスタイルが窺える。しばし俺と彼女の視線が交錯する。すると、

 

「志狼君、どうしたの?」

 

「いえ、何でもありません」

 

 藤村さんに言われて、車に乗る。俺がシートベルトを着けたのを確認して、衛宮さんが車を出した。

 

 

 皆、無言のまま車は走り続ける。しばらく走っていると、衛宮さんが、

 

「どうだい、那月君?」

 

 と聞くと、助手席の少女が答えた。

 

「大丈夫。追手は無いわ」

 

「切嗣さん、紗矢華ちゃんからも異常なしですって」

 

「了解。そのまま警戒を頼む」

 

「「了解」」

 

 どうやら無言でいたのは周囲の確認をしていたからのようで、助手席の彼女が何らかの方法で警戒をしていたらしい。

 

「志狼君、明日奈ちゃん、紹介するわね。助手席の彼女が南宮那月(みなみやなつき)ちゃん」

 

「藤村、先輩をちゃん付けで呼ぶなと何度言ったら解るんだ」

 

「え、先輩?」

 

「んふふ、那月ちゃんてあのナリで実は私より年上なのよん」 

 

「「ええ!」」

 

 見た目明日奈より年下に見える彼女が藤村さんより年上!?

 

「あの、もしかして藤村さんもまだ十代とか?」

 

「あら、嬉しい!お姉さんってそんなに若く見える?」

 

「ひゃあっ!」

 

 藤姉が明日奈に抱き付いた。

 

「ふん、お前の場合は若いんじゃなくて幼稚って言うんだ」

 

「ふ~んだ、見た目が幼い誰かさんよりマシです~」

 

「・・・・ほう、お前も言うようになったな?」

 

 南宮さんが殺気を放ち出す。だが、

 

「2人共、じゃれ合うのもいい加減にしないと、流石の僕も怒るよ?」 

 

 衛宮さんが更に強い殺気を放ち、車内にいる全員を圧倒する。

 

「うあ!」

「うっ!」

「や、やだな~、私達仲良しよ、仲良し」

「・・・・ふ、ふん」

 

 やべえ、織斑先生以上の殺気だ。この人ただ者じゃないぞ。俺はこの件から衛宮さんは絶対怒らせてはいけない人だと心に刻み込んだ。

 

 

 

 衛宮さんの殺気を皆で仲良く浴びて大人しくしていた俺達であったが、しばらくすると藤村さんがまた話しかけるようになって、車内の雰囲気が柔らかくなった。

 おしゃべりをするのは主に明日奈と藤村さんで、俺は2人の会話を聞くとはなしに聞いていた。

 

「私達は政府直轄の志狼君の専属護衛チームでね、チーム『ウルフ』って言うのよ~。そんで織斑一夏君にも専属護衛チームがあって、あっちはチーム『サマー』って言うんだって。誰が名付けたか知らないけど随分安直よねえ」

 

 これは嘘だ。とは言っても明日奈は更識家の事を知らないから詳しく話せない為だろう。事前に刀奈から教えて貰ったが、正式には更識家の下部組織のひとつ「獅子王機関」とやらに所属しているそうだ。ただ、チーム名に関しては本当らしい。確かに安直だ。

 

「あはは、それは確かに安直ですね」

 

「でしょ?4人1組のチームでうちのリーダーが切嗣さんでウルフ1、那月ちゃんがサブリーダーでウルフ2、私がウルフ3、最後にウルフ4がいるんだけど今は先行して前を走ってるわ」

 

「その人ってさっき言ってた紗矢華さんって人ですか?」

 

「あら、良く聞いてたわね。そうよ、煌坂紗矢華(きらさかさやか)ちゃん。彼女は3月にIS学園を卒業したばかりなの。言わば貴女達の先輩になるのよね」

 

 その話を聞いて、俺は駅前で俺を見ていたバイクに乗った少女を思い浮かべた。

 

「藤村さん、その娘って赤い大型バイクに乗ってませんでした?」

 

「あら志狼君、何で知ってるの?」

 

「車に乗る時、こっちを見ていたので、もしかしたらと思って」

 

「そう。その娘が紗矢華ちゃん。ちょ~っと気難しい所はあるけど、とっても可愛い娘よ」

 

 気難しいと言うのが気になるが、まあ、接する時には気を付けるとしよう。

 

 

 

 

 やがて車は都心部を離れ、郊外へ。

 1時間程走ると見覚えのある景色が見えて来た。やがて山の麓の周りに何もない所にポツンと建つ一軒家が見えて来た。高い塀に囲まれた中々広い庭を持った屋敷と言う程ではないが、それなりに大きな家。これが俺達の実家「結城家」だ。 

 

 車から降りて家を眺める。離れてからわずか1ヶ月なのに、無性に懐かしく感じるのは、それだけIS学園での日々が濃厚だったからだろうか。それに10歳でこの家に引き取られてから8年間暮らして来た場所だ。俺にとって家とはここなのだからある意味そう感じるのも当然かもしれない。

 

「帰って来たね」

 

「ああ」 

 

 いつの間にか隣りに立っていた明日奈が感慨深げに呟く。 

  

「志狼君、荷物を下ろしてもいいかい?」

 

「あ、すいません!」

 

 衛宮さんに言われて、荷物を取りに行く。明日奈の分も受け取り、衛宮さんに礼を言う。

 

「今日はありがとうございました。では予定通り、また3日後にお願いします」

 

「解りました。よい休暇を」

 

 そう言うと衛宮さんは車に乗り、走り出した。藤村さんが手を振っていたので俺達も手を振り見送った。

 

 

 

 

「さて、行こうか」

 

「うん」

 

 衛宮さん達を見送り、家に入ろうかと振り向いた時、門が開いて1人の少女が出て来た。

 肩にかかるセミロングの黒髪と同色の瞳。それに比して雪のように白い肌。体付きは細く華奢ながら病的な要素はなく、健康的な活力に満ちている。その可憐かつどこか神秘的な顔立ちは俺達を見て喜びを浮かべた。

 

「兄さま!!」

 

 彼女は弾かれたように走り出すと、真っ直ぐ俺の胸に飛び込んで来た。

 

「おっと! 全く、危ないからそれは止めろと言っただろう?」

 

「兄さま、兄さま、兄さま!!」

 

 俺の注意を聞こうともせず、彼女は俺の胸に顔を埋める。その目の端に光るものを見てしまうと、俺は何も言えず、自分の荷物を地面に下ろすと空いた右手で彼女の頭をそっと撫でた。

 

「心配かけたな。ただいま、雪菜」

 

「はい。お帰りなさい、兄さま」

 

 俺がそう言うと、彼女──結城雪菜(ゆうきゆきな)は目を潤ませながらも笑顔を見せてくれた。

 

 

 コホンッ

 

 隣りから聞こえた咳払いに俺と雪菜はそちらに顔を向ける。

 

「んんっ、え~、いい雰囲気の所申し訳ないんだけど、私がいる事も忘れないで欲しいなって・・・・」

 

 そこには若干拗ねた表情をした明日奈がいた。

 

「! ご、ごめんなさい姉さま! いや、あの、決して忘れてた訳じゃなくて、たまたま目に入らなかったと言うか、その・・・・」

 

「そっか~、雪ちゃんは兄さんしか目に入らなかったんだ。私はすぐ隣りにいたのに、お姉ちゃん寂しいな、くすん」

 

 明日奈はそう言うと泣き真似をして俯く。それを見た雪菜は更に慌てて、

 

「いや、違うんです姉さま!確かに兄さましか見えなくて思わず飛び込じゃったんですけど、決して姉さまの事を忘れてた?忘れてたのかな?えっと、!と、とにかく兄さまも好きだけど姉さまの事も好きだから、だから、その、あの!」

 

 わたわたとプチパニックを起こして訳の分からない事を言い出す雪菜。それを見て明日奈は俯きながら肩を震わせていたが、次の瞬間、明日奈は雪菜に抱き付いていた。

 

「うん、ありがとう。私も雪ちゃんが大好きだよ!」

 

「はい!? いや、あの・・・・はい?」

 

 顔中に?を浮かべる雪菜を抱きしめる明日奈。

 

(───全く、仕方のない奴だなあ)

 

 雪菜は普段から生真面目で、凛とした雰囲気を持つ美少女だ。そんな彼女から慌てたり、焦ったりと普段はしない表情を引き出すのが明日奈の悪癖であった。やり過ぎると本当に怒るので、適度な所でやめると言う絶妙な匙加減で雪菜を揶揄う様は最早名人芸だ。

 俺としても姉妹のスキンシップのひとつだと思っているし、幼少時の雪菜を知る者としてはそうやって雪菜の色んな表情を明日奈が引き出そうとするのも分かる気がするので、黙認している。

 

 日本人の父親とフランス人の母親の間に生まれたハーフであり、どちらも飛び切りの美少女であると言う点を除けば、2人の容姿は全く似ていない。

 母方の血を色濃く受け継いだ亜麻色の髪とヘイゼルの瞳の姉、明日奈。

 父方の血を色濃く受け継いだ黒髪黒瞳の妹、雪菜。

 そんな一見姉妹には見えない2人ではあったが、実際にはとても仲の良い姉妹だった。

 

 

「お~い、いい加減中に入らないか?」

 

 俺は未だにスキンシップを続けている姉妹に声をかけた。

 

「あ、は~い、兄さん」

 

「ううう、あ、はい」

 

 帰宅早々雪菜分を充填したのかホクホク顔の明日奈に対して、帰宅早々振り回されてヘロヘロの雪菜。

 2人を引き連れて、俺は約1ヶ月ぶりの我が家に帰宅した。

 

 

 

 

 家の中に入ると、荷物を置く為に俺と明日奈は一旦自分の部屋に向かった。

 荷物を置いてからリビングに降りると、雪菜がお茶の用意をしていたで手伝おうとしたら、「私がやりますから座ってて下さい」と言われてしまった。仕方なくリビングのソファーに座り、何気なくテレビを点けると放送中の番組を見て唖然としてしまった。

 

 

『特集! 結城志狼のすべて』

『IS学園の危機を救った英雄の素顔』

『結城志狼、その軌跡』 

 

 

 何故かどのチャンネルでも俺の特集をしている!?

 

「な、何だこりゃあーーーっ!?」

 

 俺の叫び声を聞いて、明日奈と雪菜が慌ててリビングに駆け込んで来た。

 

「どうしたの、兄さん!?」

「何事です、兄さま!?」

 

 2人は固まっている俺を見て、次にテレビの内容を見て、「ああ・・・・」と納得した。

 

「な、何でこんな事に・・・・」

 

「ええっと、それはね・・・・」

 

 理由を知っているらしい明日奈が説明を始めた。

 

 

 

 クラス対抗戦の模様は全世界にテレビ中継されている。当然無人機が乱入したのも、俺達がそれを撃破したのもしっかり中継されていた。

 特に織斑が破ったシールドバリアの近くにいたカメラマンがビームが撃ち込まれた瞬間をバッチリ撮っており、俺が身体を張って皆を守った所から無人機を撃破した所、更には傷付き倒れた所まで余す所無く中継されてたそうだ。

 その結果、俺は学園の生徒達を守り、傷付きながらも侵入者を倒した男として英雄に祭り上げられた。

 普段ならここまで持ち上げられる事はないのだが、織斑の大ポカを世間の目からごまかす為にもヒーローが必要であり、丁度入院中で何も文句が言えない俺に白羽の矢が立った。

 俺が入院している間、学園では取材の電話が鳴り止まず、業務に支障を来すとして、後日正式に記者会見するまで取材の全面禁止を各国のマスコミに申し渡した。これを破ったマスコミは今後一切取材を受けないと言われて、各国のマスコミも従わざるを得なかったと言う。

 

 

「───何てこった・・・・」

 

 まさか自分を取り巻く状況がこんな事になっているとは。これでは落ち着く所か入学前より更に酷くなってるじゃないか!!

 俺や学園に取材出来ないからか、かつて俺が通っていた高校の先生や友人までもインタビューを受けていた。俺はもう見る気が失せてテレビを消した。 

 

 雪菜の淹れてくれたお茶を飲んでようやく落ち着いた俺はこれからの事を相談をする。夕食は明日奈が久々に腕を振るうと張り切っていた。雪菜は明日奈に相談したい事があるそうなので、俺は自分がいない方がいいと思い自室に戻った。

 

 

~side end

 

 

 

 

~雪菜side

 

 

 姉さまに相談があると言うと、兄さまは自分の部屋に戻りました。まだ兄さまには聞かれたく無い話なので、正直助かります。

 

「それで、相談って何?」

 

「まずはこれを見てください」

 

 私は一通の封筒を姉さまの前に差し出します。姉さまは封筒を手に取り、私の方を見ます。私が頷くと、姉さまは封筒を開けて中身を取り出しました。

 

「──『結城雪菜様。貴女はこの度、代表候補生採用試験第1次審査に合格した事をここにお知らせ致します』・・・・雪ちゃん、これって」

 

「はい。見ての通り、代表候補生採用試験の1次審査に合格しました。私は代表候補生になって来年からIS学園に通いたいと思ってます」

 

 私は自分の進路について初めて家族に相談しました。本来なら父さまに相談すべきなのでしょうが、仕事で留守がちな父さまより、現役の代表候補生である姉さまに直接相談した方が早いと思ったのです。

 

「───そっか、雪ちゃんIS学園が第1志望なんだ

・・・・うん、私は反対しないよ。お父さんが留守がちなこの家に1人でいるより、IS学園に入れば3人一緒にいられるしね。でもね、代表候補生になる必要は無いんじゃないかな?」

 

「!? ですが、それでは兄さまの力になれません!」

 

「やっぱり。兄さんの側にいたいから、その力を求めて代表候補生になろうとしてるんだ。でもね、それは本当に雪ちゃんがやりたい事なのかな?」

 

「勿論です! 私は兄さまをお守りしたくて──「そんな事しても兄さんは喜んでくれないよ」!?」

 

「雪ちゃんが自分の為に進路を選んだのだとしたら、兄さんはきっと喜んではくれないと思う」

 

「! でも、姉さまだって!?」

 

「雪ちゃん、順番が違うよ? 私が代表候補生になったのは兄さんがISを動かせる事が発覚する前だよ」

 

「! あっ・・・・・・」

 

 そうでした。姉さまは最初からIS操縦者を目指して代表候補生になったのでした。その後、兄さまがISを動かしてしまい、IS学園に通う事になったので、今2人が同じ学園に通っているのは偶然。本来ならあり得ない事なのです。

 

「それにね、代表候補生って、いざと言う時軍属として動かなくちゃならないんだよ? 上の命令に従って戦う事が貴女に出来る?」

 

「そ、それは・・・・」

 

 姉さまの言葉には現役の代表候補生として、そして実戦を経験した者としての重みがありました。私は何も言い返せませんでした。

 

「さっきも言ったけど、IS学園を志望校にするのはいいと思う。でも、代表候補生を目指すのはもう少し考えた方がいいんじゃないかな?」

 

「・・・・・・はい」

 

 私は何も言い返せず、ただ俯くだけでした。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 その日の夕方、俺は携帯で浅葱と話をしていた。無人機との戦いでかなりのダメージを負った孤狼はメーカーでの修理が必要となり、今は絃神の本社に送られている。その状況を聞いているのだ。

 

 

「それで、孤狼はどんな具合だ?」

 

『順調よ。フレームは無事だったから装甲を全部取り換えて調整するだけだから、思ったより早く済みそうよ』

 

「そうか。折角のGWだってのに悪いな」

 

『いいわよ別に。どうせやる事も無いんだから』

 

「・・・・若い娘が折角の連休だってのに、それはどうかと思うが」

 

『うっさい! 余計なお世話よ!! それより約束は忘れてないでしょうね!?』

 

「ああ、連休の最終日でいいんだよな?」

 

 以前、ホテルのスウィーツバイキングに付き合うと約束したので、GWの最終日に行く事にしたのだ。

 

『そうよ! 楽しみにしてるんだからすっぽかしたら承知しないんだからね!?』

 

「分かってるよ。所で本音はどうしてる?」

 

『本音ちゃん? 元気にやってるわよ。基樹も筋がいいって誉めてたわ』

 

 先日、正式に俺の専属整備士になった本音は孤狼が修理の為に絃神本社に送られる事を知ると、自分も一緒に行って勉強したいと言い出した。

 本音の心意気に感銘を受けた浅葱が二つ返事でOKを出して、研修の名目で本音は今、絃神に行ってるのだ。

 

「そうか。よろしく頼むよ」

 

『任せなさい。それじゃ、約束忘れないでよ!』

 

「ああ、またな」

 

 

 電話を切ると丁度夕食が出来たようで、明日奈が呼びに来た。久々の明日奈の力作だ。冷めない内に頂くとしよう。

 

 

~side end

 

 

 

 

~明日奈side

 

 

 夕食の後片付けが終わった。久々に腕によりをかけた料理は我ながら上出来で、兄さんも喜んでくれた。ただ、雪ちゃんは今イチ元気がなかった。代表候補生になる事を私に反対されたのが原因だろうが、私の意見は変わらない。

 あの娘は代表候補生になるという事を甘く見ている。確かに代表候補生、それもページワンともなれば様々な恩恵を受けられる。だがそれと同時に果たさねばならない義務も生じるのだ。それを考えるとやはりあの娘には荷が重い。だからあの時ああ言ったのは決して間違いではないと思うのに、何かが引っ掛かってスッキリしない。

 そんな事を考えていると、兄さんがキッチンにやって来た。

 

「どうしたの、兄さん?」

 

「ああ、ちょっとコーヒーでも飲もうかと思ってね」

 

 兄さんはそう言うとお湯を沸かして、コーヒーメーカーの準備をし始めた。

 

「明日奈も飲むか?」

 

「うん。ブラックで頂戴」

 

「ブラック? 珍しいな」

 

「ちょっとね。そんな気分なんだ」

 

「ふ~ん・・・・」

 

 しばらくして兄さんがコーヒーの入ったマグカップを持って来てくれた。

 

「ほら。本当にブラックでいいんだな?」

 

「うん。ありがとう」

 

 そう言ってコーヒーを一口飲む。あう、やっぱり苦い。でも私がブラックと言ったからか、かなり薄めに淹れてくれたみたい。こう言う心遣いが素直に嬉しい。

 

「・・・・ありがとう、兄さん」

 

「ん。それで?雪菜とケンカでもしたのか?」

 

 やっぱり兄さんにはバレバレみたい。こうなったら素直に相談した方がいいのかな?

 

「ん~、ケンカって訳じゃないんだけど、ちょっと意見の食い違いがあってね」

 

 私はポツポツと雪ちゃんに相談された内容を話し始めた。

 

 

 

 

「───と言う訳なんだけど」

 

 話を終えて、冷めてしまったコーヒーを飲む。話を聞き終えた兄さんは何かを考えるように顎に手を当てている。

 

「・・・・つまり明日奈は何に引っ掛かってるか分からなくてスッキリしない、と」

 

「うん。何なんだろう、これって」

 

「これは俺の意見として聞いて欲しいんだが、要は明日奈が本当に雪菜に伝えたい事が伝わってないからじゃないか?」

 

「本当に伝えたい事?」

 

「ああ。話を聞くと雪菜が代表候補生を目指してるのは俺の力になりたいかららしいが、これに反対するのに俺が喜ばないからと言ってるよな?」

 

「うん。それとも兄さんは嬉しいの?」

 

「そうだなあ・・・・確かに雪菜が本当にやりたい事があって、それを断念してでも俺の為に代表候補生なろうって言うのは反対だよ。でも、もし雪菜自身が目指す将来の為に代表候補生になる必要があるなら応援したいと思う」

 

「それは、私もだけど・・・・」

 

「なあ明日奈、雪菜が代表候補生になるのに反対する一番の理由はなんだ?」

 

「それは、雪ちゃんが心配だから・・・・あっ!」

 

「それがお前が一番伝えたい事じゃないのか? 雪菜からすれば、自分の目指す立場にいる姉に相談したら、理詰めで反対されたんだ。簡単に納得出来ないだろう。代表候補生である明日奈の言葉は雪菜からすれば経験者の言葉だ。動機が俺って事もあるが、真面目な娘だから気にしすぎてるんだろう。だからこそ理詰めで納得させるんじゃなく、自分の、ありのままの気持ちを伝えた方がいいと俺は思うよ」

 

 ・・・・そうか。言われてみれば、私は反対する理由に兄さんの気持ちや代表候補生のデメリットを挙げただけで、私自身の気持ちを伝えてなかった。だからスッキリしなかったんだ。何だか目の前の霧が晴れた気分だ。

 

「ありがとう兄さん、もう一度雪ちゃんと話をしてみるよ!」

 

「ああ。それがいい」

 

 私は立ち上がり、雪ちゃんの部屋に向かう。でもその前に、

 

「明日奈?」

 

 私は兄さんに背中から抱き付いた。

 

「ありがとう兄さん、大好き!」

 

 頬を合わせると兄さんの温もりや匂いを感じる。自分の頬が熱くなるのを感じながら、私ふと、初めてこの温もりを感じた日の事を思い出していた。

 

 

 

 

<><><><><><>

 

 

 

 

 お母さんが亡くなった。流行り病だった。体調を崩して入院したと思ったら数日と経たない内に亡くなってしまった。当時6歳だった私はただ悲しくて泣いて過ごす日々が続いた。

 そんな悲しみも時が癒してくれるのか、私が泣き止み、お母さんの思い出を少しずつ話せるようになった頃、私は小学校に入学した。

 

 

 私の容姿は日本人とはかけ離れている。亡き母譲りの亜麻色の髪とヘイゼルの瞳は黒髪黒瞳の子供達の中でかなり目立っていた。だからだろうか、いつからか私はクラスの男子達から嫌がらせを受けるようになっていた。

 

 物を隠される事に始まり、髪を引っ張られたり、時にはスカートをめくられたりもした。クラスの女子は遠巻きに見ているだけで助けてはくれず、先生に至っては学級会でおざなりに注意をするだけで、何の助けにもならなかった。

 次第に私は学校へ行かなくなり、夏休み前には立派な登校拒否児童になっていた。心配したお父さんが学校に抗議をしたみたいだけど、学校側は言い訳するばかりで結局何も変わらなかった。

 

 

 夏休みになったある日の事だった。近所に買い物に出掛けた私は、私に嫌がらせをしていたクラスの男子グループと偶然出くわしてしまった。

 私が逃げると彼らは追って来た。捕まったら何をされるか分からなくて、怖くて必死に逃げたけど人数も多く、次第に私は追いつめられ、とうとう捕まってしまった。

 私を捕まえた彼らは学校に来ない事をなじり、罰を与えると言い出した。私は抵抗したけど、数人がかりで身体を拘束されて身動きが出来なかった。私は怖くて泣きそうだった。そんな時、パシャパシャとカメラのシャッター音が聞こえた。音のした方を見ると私よりいくつか年上の見た事ない少年が携帯を掲げていた。

 

「そこまでだ。お前らの悪さの証拠はここに収めた。これ以上やるなら親は勿論、学校や警察に報告するぞ」

 

 その少年はそう言うと、ゆっくり近付いて来た。明らかに自分達より年上の少年の登場に、気後れしていた男子グループのリーダーは食って掛かったけど、少年に耳元で何かを囁かれると、顔を真っ赤にした後、皆に引き上げるように言って、他の子達と共に引き上げて行きました。

 

 私は拘束から解放されて、膝を着いたまま、しばし呆然としていました。そんな私に少年は目線を合わせてこう言いました。

 

「怖かったろう? もう大丈夫、良く頑張ったな。偉いぞ」

 

 そう言って少年は私の頭を優しく撫でてくれました。私の目から涙がポロポロと零れて来ました。今まで誰も助けてくれなかった。どうして自分がこんな目に合うのか分からないまま、怖くて、辛くて、悲しかった。でも、初めて助けてくれる人が現れた。その人の言葉が、触れる手がただ優しくて、暖かくて、安心したら涙が止まらなかった。少年は私が泣き止むまで、ずっとそうしてくれました。

 

 

 しばらくして私が泣き止むと、少年は家まで送ると言ってくれました。私は恥ずかしい事に極度の緊張から解放されたせいか腰が抜けて立てなくなってしまった(少し漏らしてしまったのは絶対秘密だ!)ので、少年におんぶして家まで連れてって貰った。

 

 道すがら少年が元々は孤児で、新しいお父さんに引き取られて今日この街にやって来た事、新しい家族と上手くやっていけるか不安で、気持ちを落ち着けようと散歩してたら私が襲われているのを発見して助けてくれたのだと教えてくれました。

 そんな少年に私は今まで誰にも聞けなかった事を、そっと聞いてみました。

 

「私の髪と瞳って、そんなに変なのかな? 皆と同じ黒かったら皆と仲良く出来たのかな?」

 

 少年は私を降ろすと、再び目線を合わせてこう言ってくれました。

 

「俺のいた施設にはね、親のいない子供達が何人もいるんだ。皆俺より年下で黒髪だけじゃなく、金色や銀色、紫色なんて髪の子や、青や翠なんて瞳の子もいたんだ。広い世界には沢山の髪や瞳の色があるんだよ。それに比べれば君の髪も瞳もちっとも変じゃない。とっても綺麗だよ」

 

 そう言ってくれた少年に私は思わず抱き付いた。この色はお母さんの色。誰かに変じゃないって、ずっとそう言って欲しかった。例えこの髪と瞳のせいでいじめられたとしても、決して否定したくなかった。

 家族じゃない、他人である少年に肯定して貰って、初めて私は心が軽くなったのを感じていた。

 

「ありがとう、お兄さん」

 

 そんな私の背中を少年──お兄さんは優しく叩いてくれました。

 

 

 歩けるようになった私はお兄さんと手を繋いで家路に着きました。家の場所をお兄さんに教えると、お兄さんは何故か驚いていました。

 やがて家が見えて来ると、家の前にはお父さんと妹の雪菜がいました。私は2人に駆け寄ります。

 

「お父さん、ただいま!」

 

 近頃見せなかった笑顔でお父さんに駆け寄ると、お父さんは驚いていました。

 

「お帰り明日奈。どうしたんだい?何かいい事でもあったのかな?」

 

 私の頭を優しく撫でて聞いて来ました。

 

「うん! あのね、あのお兄さんに危ない所を助けて貰ったの!!」

 

 私の言葉に一瞬顔をしかめるも、助けて貰ったと言うその人を見て、お父さんは更に驚いていました。

 

「志狼君!?」

 

「えっと、どうも、お義父さん」

 

 お父さんはお兄さんを知ってるみたい。2人の会話を聞きながらそう思っていると、お父さんが私と雪菜の肩に手を置いてこう言いました。

 

「明日奈、雪菜、紹介するね。彼は志狼君。今日からお前達のお兄さんになる人だよ」

 

 そう言われて私は目を丸くしました。お兄さん──志狼さんは私達に目線を合わせて、

 

「初めまして、今日から君達のお兄さんになる風見、じゃない──結城志狼です。これからよろしくね、明日奈ちゃん、雪菜ちゃん」

 

 

 

 

 これが私と兄さんの出会い。その後、私と同じ小学校に転校した兄さんはどういう手を使ったのか、私の周りを変えていった。男子は私に手を出さなくなり、女子は話しかけて来るようになり、友達も出来た。先生は極力気を使うようになり、困った時にはすぐに対応してくれるようになった。

 一体何をしたのか聞いてみても、兄さんは曖昧に微笑むだけで教えてはくれなかった。ただ、クラスの子達が私に嫌がらせをした理由は教えてくれた。

 男子はどうやら私の気を引きたかったらしい。私と仲良くなりたくて、気を引く為に始めたそうだが、段々エスカレートしてしまい、歯止めが利かなくなっていたそうだ。

 それを聞いて私は呆れた。どこの誰が嫌がらせをする人と仲良くなりたいと思うのだろうか。そして、兄さんのこの予想は中学に上がると真実だった事が分かった。かつて嫌がらせをして来た男子達がこぞって告白して来たのだ。私は当然の如く全員斬って捨てたけど、この事から私には同年代の男子と言うものが馬鹿にしか思えなくなった。

 女子は私があんまり綺麗だったから気後れしていたのだそうだ。仲良くなりたかったけど、躊躇している内に男子の嫌がらせが始まり、巻き込まれるのを怖れて声をかけられなかったと言う。後に友達になった娘がそう言って謝ってくれた。

 

 こうして私の学校生活は一変した。登下校は元より校内でも常に兄さんが目を光らせていたので、男子達の嫌がらせはなくなった。そうすると女子が寄って来て、友達が出来るようになると、今度は女子が男子からガードしてくれるようになった。次第に学校が楽しくなり、性格も明るくなったと思う。

 

 その頃には私を支え、助けてくれた兄さんを1人の男の子として好きなのだと自覚していた。思えばいつからだろうと思い返すと、多分初めて会った時にはもう好きになっていたんだと思う。その事をお父さんに話すと、「いい女になって志狼を振り向かせてやりなさい」と笑っていた。それから自分を研くようになって現在に至っている。

 

 

 

<><><><><><>

 

 

 

 私の想いは色褪せないまま、初恋の男性を想い続けている。

 IS学園に入ってから兄さんの周りには魅力的な娘が増えた。箒やセシリア、本ちゃんやかんちゃん、最近ではティアナとかも怪しくなって来た。

 兄さんはああ言う人だからこれからも沢山の女性を惹き付けるだろう。でも兄さんの一番の座は誰にも渡さない。私が一番になってみせる。

 兄さんの温もりを愛しく感じながら、私は決意を新たにした。

 

 

~side end

 

 

 

 

~雪菜side

 

 

 突如襲来した姉さまに連れられて、何故か一緒にお風呂に入る事になってしまいました。

 あっと言う間に服を脱がされ、浴室に放り込まれた私は仕方なしに身体を洗い始めました。

 

 満遍なく身体を洗っていると、やはり発展途上の胸に目が行き、思わずため息が出ます。昨年からほんの僅かしか成長していない自分の胸。兄さまが大きい方が好きだと知ってから姉さまと共にバストアップに励んで来たけど、ぐんぐん成長していった姉さまと比べて私の方は未だ発展途上のまま。まさかもう成長が止まってしまったのではと最近危惧している。

 そんな事を考えていると、姉さまが入って来た。妹の私から見ても姉はとても綺麗だ。

 亜麻色の長い髪と神秘的なヘイゼルの瞳。それだけでは冷たそうに見える美貌も柔らかな表情のせいか、そうとは感じさせず、むしろ人を惹き付ける魅力を放っている。スタイルも抜群で、同年代と比べ確実に大きな胸は大きいだけじゃなく形も綺麗で、細い腰はキュッと引き締まり、腰のくびれから丸みを帯びたお尻のラインなどは同性の私から見てもドキドキしてしまう。

 そんな姉と比べると、自分の華奢な身体付きが貧相に思えて来る。全く、同じ姉妹でありながら何故にこうも違うのだろうか。私は再度ため息を吐いた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~明日奈side

 

 

 仲直りする為、少し強引に雪ちゃんをお風呂に引っ張り込んだ。

 服を脱がせて雪ちゃんを浴室に入れると、着替えやバスタオルを用意してから私も服を脱いで、浴室に足を踏み入れた。

 

 身体を洗っていた雪ちゃんが振り向いた。姉の私から見ても妹はとても可憐だ。

 鴉の濡れ羽色とでも言うべき黒髪はしっとりと艶を含ませ、頭頂には天使の輪が光り、黒曜の大きな瞳はその可憐さを更に引き立てている。華奢ながら弱々しさを全く感じさせず、鍛えているせいか無駄な肉が付いていない引き締まった身体付きは見ていてため息が出そう。私はちょっと油断すると余計なお肉が付いてしまうので、羨ましいと感じてしまう。

 

 

「背中流すよ、貸して」

 

「あ、はい」 

 

 私は身体を洗っていたスポンジを受け取ると、雪ちゃんの背中を洗い始めた。雪ちゃんが終わると交代して私の背中を流して貰った。

 私は素早く身体を洗うと、雪ちゃんの入っている浴槽へ身体を滑り込ませた。

 

「はあ~~、気持ちいい~~♪」

 

 温かいお湯に身体が浸かる快感。この瞬間は日本に生まれて本当に良かったと感じてしまう。

 

「クスッ やだ姉さま、おばさんみたい」

 

「ムッ、言ったなこいつめ!」

 

 私は雪ちゃんの脇腹をくすぐる。彼女は笑い声を上げて逃げようとするけど、そうはさせじと追いかける。その内、反撃されたりしてしばらく2人してじゃれ合っていた。

 

 

「ハア、ハア、お、お風呂でふざけるのは危ないから、や、止めようね」

 

「ハア、ハア、さ、賛成です」

 

 お湯に浸かったままじゃれ合ったせいか、息が苦しくて、頭がクラクラする。私達は浴槽の縁に腰かけてのぼせた頭と身体を冷ましていた。呼吸が整ってから、私は雪ちゃんに話しかけた。

 

「ねえ雪ちゃん、さっきの件なんだけどね」

 

「・・・・はい」

 

「雪ちゃんは本当に代表候補生になりたいの?」

 

「・・・・はい。あれから色々考えました。でもやっぱり私は代表候補生になりたいと思います」

 

「それは兄さんの側にいたいから?」

 

「それもあります。でも、もう見てるだけなのは嫌なんです」

 

「え? それってどう言う・・・・」

 

「この間のクラス対抗戦、兄さまと姉さまが戦っていると言うのに私はただ見てる事しか出来ませんでした。この先IS学園に入れたとして、仮に同じような事が起きた時、2人が戦っているのに私だけ何も出来ないなんて絶対に嫌です!」

 

 ああ、そうか。私はこの時自分が思い違いをしていた事に気付いた。この娘も私と同じで、家族が心配だっただけなんだ。私がこの娘の将来を心配していたように、この娘は私や兄さんが学園で危険な目に合わないかと心配していたんだ。そこまで考えて仮に自分がこの娘の立場にいたとしたら・・・・うん、じっとなんかしていられないだろう。何だか雪ちゃんの気持ちがようやく分かった気がした。

 

「そっか、ようやく分かったよ。雪ちゃん、私はもう反対しないよ。学園に入る事も代表候補生になる事も。但し、両方共大変だから覚悟しておいてね」

 

「! 姉さま、ありがとう!!」

 

 雪ちゃんが私に抱き付く。私は彼女の柔らかな身体を抱き返しながら、出来る限り彼女の力になろうと改めて決意した。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 もうすぐ日付が変わるかと言う時刻、俺の部屋にノックの音がした。

 

「兄さま、雪菜です。少しいいですか?」

 

「いいよ、お入り」

 

 そう言うとと雪菜が入って来た。寝間着代わりのTシャツと短パンを着ている為、華奢な手足が剥き出しで、風呂から上がったばかりの少し上気した肌と相俟って妙に艶っぽく感じる。しばらく見ない内にまた少し綺麗になった妹にしばし見蕩れといると、雪菜が声をかけた。

 

「こんな時間にすいません。その、お話したい事があるのですが・・・・」

 

「構わないよ、そこにお座り」

 

 雪菜がベッドに腰かける。明日奈と再度話をして決意が固まったのか、夕食時には随分と落ち込んでいたが、今は真っ直ぐに俺を見つめている。少し緊張しているようだが、雪菜の出した答えを聞かせて貰うとしよう。

 

「もう姉さまから聞いてるかもしれませんが、私は来年IS学園を受験します。ですがその前に今年の8月の代表候補生試験を受けたいと思っています」

 

「・・・・代表候補生になりたいのか?」

 

「はい」

 

「何の為に?」

 

「大切なものを守りたい。その為の力を得る為に」

 

 俺を真っ直ぐに見つめる雪菜。俺も視線を外さず見つめ返す。しばし俺達の視線が交差する中、雪菜は一度も目を反らさなかった。

 

「そうか。そこまで決意が固いなら俺も出来る限り協力するよ。8月まであまり時間はないけど頑張れよ」

 

 俺がそう言うと雪菜は意外そうな顔をした。

 

「どうした?」

 

「いえ、てっきり反対されるとばかり思っていたので」

 

「代表候補生になる事が雪菜の本当にやりたい事なら反対しないよ。メリットもデメリットも明日奈から聞いてるだろうしね」

 

「はい!ありがとう兄さま!!」

 

「俺は何もしてないよ。ただ認めただけさ。さて、もう遅いからそろそろ寝なさい」

 

 俺はそう言って退出を促したが、雪菜はベッドから動かず、俯いてもじもじし始めた。

 

「雪菜?」

 

 俺が声をかけると、雪菜は意を決したように顔を上げて、

 

「あの!・・・・・・今日だけでいいですから、一緒に寝てもいいですか?」

 

「・・・・・・」

 

 とんでもない事を言い出した。

 

「雪菜、それは流石に──「今日だけ!今日だけでいいんです。お願い、兄さま!」・・・・」

 

 たしかに昔は一緒に寝た事もある。だがあれは雪菜がまだ小学生の頃の話だ。今の美しく成長した雪菜と寝るなんて俺には苦行でしかない。だが、

 

「やっぱり、駄目・・・・ですか?」

 

 俺は昔から雪菜のこの「お願い」に勝てた試しがない。雪菜のような愛らしい美少女が目をウルウルさせて、頬を上気させながらする「お願い」の破壊力に、俺は今回も白旗を揚げた。

 

「・・・・今日だけだぞ」

 

「はい!ありがとう兄さま!!」

 

 俺がそう言うと、雪菜はパッと顔を明るくした。

 俺はその満面の笑顔を見つめて、今夜は眠れない事を覚悟した。

 

 

 

 

 翌朝、雪菜と2人で寝ている所を明日奈に見つかった俺は、その日の夜、明日奈と一緒に寝る事を約束させられた。

 俺は2日続けて眠れない夜を過ごす羽目に陥った。

 

 

~side end

 

 

 

 

~雪菜side

 

 

 兄さまのベッドに2人並んで眠る。それだけで心臓の鼓動が早くなるのを感じる。兄さまはベッドに入ると端の方で身動きひとつしない。距離を置かれてるようで少し寂しくなった私は、近寄って兄さまの腕にそっと触れた。

 

「兄さま、もう寝ちゃいましたか?」

 

 声をかけたけど返事がありません。もう寝てしまったようなので、私は兄さまにそっと抱き付きました。兄さまの体温と匂いを感じて私は笑みを零します。

 この温もりを知ったあの日から、ここは私が世界で一番安心出来る場所。兄さまの温もりに包まれながら、私は兄さまと初めて会ったあの日の事を思い出していました。

 

 

 

 

<><><><><><>

 

 

 

 

「初めまして、今日から君達のお兄さんになる風見、じゃない──結城志狼です。これからよろしくね、明日奈ちゃん、雪菜ちゃん」

 

 その人は私と目を合わせて、そう言いました。

 母さまが亡くなって、3人になった私達家族に新しく加わると言うこの人。今はにこやかに笑っているこの人は果たして私の能力(ちから)を知っても、まだ笑ってくれるでしょうか?

 

 

 

 

 私には生まれつき普通の人にはない、不思議な能力(ちから)がありました。

 物心付いた頃から何もない所をじっと見つめていたり、虚空に向けて話しかけたり、転んで泣いたりすると窓ガラスが割れたりする事が何度もあって、不安に思った両親が専門家に相談した所、私には強い霊力と言うものがあると言われたそうです。

 私が何故こんな霊力(ちから)を持って生まれたのかは分かりませんが、その専門家が言うには先祖返りのようなものらしいです。

 感情の爆発により物を壊してしまうと知ってから、私はなるべく感情を抑えて過ごすようになりました。楽しくても笑わず、悲しくても泣かずにいる内に私は感情の表し方が分からなくなって、いつも無表情で過ごすようになりました。

 それは母さまが亡くなった時も同じでした。隣りで姉さまが泣いているのに、悲しいはずなのに私は涙も出ませんでした。

 周りの人はそんな私を感情を持たない人形のような娘として扱うようになり、私に話しかけるのは父さまと姉さまの2人だけになりました。

 

 

 

 

 新しく出来たお兄さんは優しい人のようで、あっと言う間に姉さまと仲良くなりました。お料理も父さまが作るより美味しくて、お兄さんの料理を食べた父さまは次の日から料理を任せるようになりました。

 そんな風に、来て1週間も過ぎた頃にはお兄さんは家で確固たる地位を築いていました。

 

 そんなお兄さんは私にも積極的に話しかけてくれました。私の事情は聞いているでしょうに、気味悪がらずに話しかけ、笑顔を向けてくれるお兄さんに私も段々と懐いて、感情を表さないまでもちょこちょことお兄さんの後を付いて歩くようになりました。

 

 

 

 そんなある日、庭で遊んでいた私は何か変なモノを見付けました。黒い靄のようなそれは私に自分が見えている事に気付くと近寄って来ました。

 近寄るにつれて、それが悪いモノだと感じた私は逃げ出しました。しかし、それはもの凄いスピードで襲いかかって来ました。

 

「来ないでーーーっ!!」

 

 恐怖を感じた私は、感情と共に自らに宿る霊力(ちから)を爆発させました。その霊力(ちから)は黒い靄を吹き飛ばしましたが、長い間封じ込めていた感情の爆発は周りの庭や建物を傷付けていきます。

 この状況を止めたいと思ってはいても、自分の霊力(ちから)を、感情を制御出来ない私にはどうする事も出来ませんでした。そんな時、

 

「───雪菜ちゃん!?」

 

 お兄さんの声が聞こえました。お兄さんはこの状況に絶句していましたが、意を決した表情をすると、私に向かって駆け出しました。

 

「!こ、来ないで!来ちゃダメーーーっ!!」

 

 私がそう叫ぶもお兄さんは近付いて来ます。その間にも私の霊力(ちから)がお兄さんを傷付けていきます。何度吹き飛ばされ、血を流しても諦めず近付こうとするお兄さんに私は叫びました。

 

「もうやめて!お兄さんが死んじゃうよ!!」

 

「うるせえーーーっ!!」

 

 こんな時にも関わらず、お兄さんに初めて怒鳴られて私は口をつぐみました。

 

「俺はお前の兄貴だ!兄貴が妹を見捨てられる訳ないだろうが!!」

 

 ついこの間兄妹になったばかりの私にそう言い放つお兄さん。

 

「今行く! 待ってろ雪菜あああーーー!!」

 

 そう言って駆け出すお兄さんは、霊力(ちから)の奔流に晒されながらもとうとう私に辿り着き、抱きしめてくれました。

 

「もう大丈夫!俺が側にいるから。だから落ち着け、雪菜───!」

 

 お兄さんは私を抱きしめて、そう言ってくれました。お兄さん──兄さまの温もりを、鼓動を感じていると、荒れ狂っていた心が鎮まって行き、それと共に霊力(ちから)の暴走も収まって行きました。

 完全に暴走が収まると、私を抱きしめたまま兄さまは倒れ込みました。

 

「兄さま!?」

 

 私は慌てて兄さまの顔を覗き込むと、兄さまは

 

「あ~~疲れた。よく頑張ったな、雪菜」

 

 そう言って私の頭を撫でながら笑ってくれました。

 こんな目に合ってもまだ私に笑いかけてくれる兄さまに私は涙を零しながら抱き付きました。

 

「ごめんなさい。ありがとう、兄さま」

 

 そうして私達は意識を失いました。

 

 

 

 

 あの後私達は駆けつけた父さまに手当てを受けて、私の霊力(ちから)について相談しました。

 とは言っても私は勿論、父さまや姉さまにも解決策はありません。すると兄さまが携帯を取り出し「あまりあいつに頼りたくないんだけど」と言いつつ、電話をかけました。

 

 電話をしている兄さまは何だか相手に対してムキになっていて、年相応の子供に見えました。話をしつつ、メモを録った兄さまは電話を切ると、大きく息を吐きました。

 心配した父さまが声をかけると、兄さまはメモを渡して明日ここに連れて行って欲しいと頼みました。

 

 

 

 次の日、父さまの運転する車に乗って私達はメモの場所に出掛けました。

 到着した場所は神社でした。古いけど綺麗に掃き清められた境内に入ると1人の巫女さんが出迎えてくれました。

 

「こんにちは。貴方が結城志狼君?」

 

「はい。それとこの娘が妹の雪菜です」

 

「ゆ、雪菜です・・・・」

 

 いきなり紹介されて私は取り敢えず挨拶をしました。巫女さんは私をじっと見つめると、ニヤリと微笑みました。

 

「成る程。聞いてた通り強い霊力(ちから)を持っているね。こんにちは雪菜さん、私は縁堂縁(えんどうゆかり)。この神社を任されている者さ」

 

「は、はい・・・・・・」

 

「それじゃ、話を聞こうか。中にお入り」

 

 巫女さん──縁堂さんはそう言うと中へ案内してくれました。

 

 

 話は縁堂さんと父さまの間で交わされましたが、父さまは途中で怒られていました。その話し合いが終わると縁堂さんは私に言いました。

 

「さて、雪菜さん。お前さんの持ってる霊力(ちから)はかなり強い。コントロール出来なければ日常生活に支障があるレベルだよ。お前さんも今のままじゃいけないと思ってるんだろう? 望むなら私がここで修行をつけてやるよ。どうする?」

 

 私は悩みましたが、結局は縁堂さんに修行をつけて貰う事にしました。

 それから私は約半年間、神社に住み込みで修行を受けました。縁堂さん──お師さまの修行は厳しいものでしたが、毎週土曜日になると兄さまが来て、神社に泊まってくれるのを楽しみにして耐え続けました。

 幸い小学校入学前にお師さまからのお許しを貰えて、今後は通いで修行を受ける事になりました。そして、それは今も続いています。

 

 小学校に入学した頃はまだ不安定でしたが、学年が上がるにつれて霊力が安定して、小学校高学年になる頃には完全にコントロール出来るようになりました。

 

 自らの霊力をコントロール出来るようになったのはお師さまのお陰ですが、その切っ掛けをくれて、修行中も励ましてくれた兄さまの事を私はいつからか1人の男性として好きなのだと自覚していました。

 思えばいつからだろうと思い返すと、多分初めて抱きしめられたあの時にはもう好きになっていたんだと思います。その事を父さまに話すと、「お前もか・・・まあ、頑張っていい女になって志狼を振り向かせてやりなさい」と笑ってました。

 その父さまの台詞の意味を私は後日知る事になりました。まさか姉さまもだったとは・・・・

 

 

 

 

<><><><><><>

 

 

 

 

 私の想いは色褪せぬまま、初恋の男性を想い続けています。

 IS学園には魅力的な女性が大勢いると聞きます。正直兄さまがそんな所にいるのは不本意だけど、こればかりは仕方がありません。

 兄さまはああ言う人だからこれからも沢山の女性を惹き付けるでしょう。でも兄さまの一番の座は誰にも渡しません。私が一番になって見せます。

 兄さまの温もりを愛おしく感じながら、私は決意を新たにして、眠りに就きました。

 

 

~side end

 

 

 

 

~束side

 

 

「ウフッ、ウフフフ、アハハハハーーーッ!! 見付けた!見付けたよ~~~!!」

 

 暗い部屋の中、哄笑を上げる束。その瞳にはモニターに映った淡い金髪の美少女の姿が。

 

「いやあ~~、まさか学園の外にいたとはねえ。外部の人間を使うとはちーちゃんにしては随分と思い切ったもんだわ。でも、もうダ~~メ、ロックオン完了しました!ウフフフッ、早く会いたいよ藍羽浅葱ちゃん。色々とお話を聞かせて欲しいなあ~~♪」

 

 暗い部屋の中、束の楽し気な笑い声がいつまでも響いていた。

 

 

 

~side end

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

ご覧の通りの展開となりましたので、順番に解説させて頂きます。

チームウルフ(笑)登場。名前は酷いですが実力者揃いのチームです。
リーダーの切嗣。魔術は使えませんが、それ以外の戦闘力は原作並み。美人の奥さんと娘を持つパパでもあります。
サブリーダーの那月ちゃん。とある特殊能力を持っていますが今は秘密。この世界には監獄結界が存在しないので容姿の問題はただの発育不良の合法ロリです(笑)
ウルフ3の藤姉。剣の達人。愛刀虎徹を手に戦うチームの潤滑剤。彼女がいなければかなり殺伐としたチームになるでしょう。24才独身。彼氏ナシ。
ウルフ4の紗矢華。IS学園OG。昨年度の操縦士科次席卒業。獅子王機関から専用機を与えられたスゴ腕の操縦者です。彼女の専用機は何がモデルでしょうか?次回をお楽しみに。
一応チームサマー(笑)のメンバーも考えていますが、出て来るかは未定です。

雪菜、ついに登場。元々この作品は明日奈と雪菜をヒロインにしてIS学園を舞台にしたオリ主モノのつもりでした。そのメインヒロインの一角がやっと顔を見せました。彼女の戦闘シーンは来年度までおあずけです。

明日奈と志狼の出会い。明日奈への嫌がらせは好きな娘の気を引こうとするアレです。かつて自分も通った道ですが、今思うと何であんな事したんでしょう?嫌がらせされた娘がした方を好きになるなんて無いのに、やっぱり男は馬鹿なんでしょうね。

志狼が明日奈のクラスの男子や担任にやったのは弱みを握っての脅迫です。決して誉められたやり方じゃありませんが、1度大切な者を亡くした志狼は、大切な者を守る為ならどんな手段でも使う箍が外れた奴になっています。決して真似しないで下さい。

雪菜の霊力の暴走。雪菜を襲った黒い靄は悪霊の類いです。初めて襲われた恐怖から暴走しましたが、現在の雪菜ならば片手で葬れるレベルの雑魚です。

志狼が頼りたくなかった電話相手。果たして何者なのか、次回登場予定です。


次回は浅葱とのデート回。だが、そこに天災の魔の手が迫る。と言う感じでお送りします。お楽しみに。



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