二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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遅くなりましたが、第34話を投稿します。

今回はタイトル通りの事件が起こります。
果たしてどうなるか、ご覧下さい



第34話 電子の女帝誘拐事件

 

 

~箒side

 

 

 GW最終日。私は神楽と2人、剣道場へ向かっていた。本来部活は休みなのだが、どうにもじっとしていられなくて同室の神楽に付き合って貰い、自主練しようと思ったのだ。

 

「すまないな神楽、付き合わせて」

 

「構いませんよ。箒との稽古は私の為にもなりますから」

 

 そう言って朗らかに笑う神楽。

 

「但し、今日のお昼は箒の奢りですからね♪」

 

「うっ、わ、分かってる」

 

 志狼程ではないが神楽もかなりの大食いだ。運動後の彼女がどれだけ食べるかを考えると、ちょっと怖い。

 

 

 

 剣道場へ向かう途中、見慣れた金髪の少女が掃除をしていた。

 

「お~いセシリア!」

 

 声をかけると彼女はこちらを見て笑顔を浮かべた。

 

「あら、箒さん、神楽さん。これから部活ですか?」

 

「いや、部活は休みなんだが自主練を、と思ってな」 

 

「あらあら、精が出ますわね」

 

 私達はそのまま立ち話を始めた。

 セシリアはクラス対抗戦で避難指揮を執った時、ISの武装を一般生徒に対して使った件で5日間の奉仕活動を命じられた。だがそれは事故を防ぐ為、止むを得ず行った行為であり、彼女に責任はないと私達は織斑先生に抗議したが、セシリア自身が望んだ事で本人が聞き入れなかった。よって先日から学園のあちこちを彼女は掃除して回っているのだ。 

 

「しかし、随分と増えたものだな」

 

「そうねえ」

 

 周りを見ると大勢の人が掃除をしており、その人数は日々増え続けている。何故こんなに人が集まっているのか───その原因はセシリア自身にあった。

 

 クラス対抗戦において避難指揮を任されたセシリアは、突然の抜擢であるにも関わらず、全員を無事避難させて立派に役目を果たした。

 その時に見せた彼女の勇姿に大勢のファンが出来た。確かにあの時のセシリアは貴族として持って生まれた人の上に立つ者としての資質を遺憾なく発揮し、その毅然とした態度と輝かんばかりの美貌は見る者全てを惹き付けていた。

 あのセシリアを目にしたのならファンになってもおかしくはないだろう。かく言う私もあの時の彼女に目を奪われた者の1人だ。私と同じように彼女に魅せられた者達がセシリアが罰として奉仕活動をしている事を知ると、自然と集まって手伝うようになったのだ。

 その中には私達1年1組のクラスメイトは勿論、上級生やあの時セシリアに撃たれた者までもが集まっていた。

 

「私達も手伝おうか?」

 

 私がそう申し出ると、セシリアは苦笑して首を横に振った。

 

「そのお気持ちは嬉しいんですけど、掃除道具がもう無いんです。ですから構わず自主練に行って下さい」

 

「そうか。それじゃすまないがそうさせて貰おう。行こうか、神楽」

 

「ええ。それじゃセシリア、今日で最終日なんですから頑張って下さいね」

 

「ありがとう。お2人も頑張って下さい」

 

 そう言葉を交わして、私達はセシリアと別れた。

 

 

 

 

 剣道場に着いた私達は着替えて防具を着けると、軽く竹刀で打ち合う。30分程打ち合った後、休憩していると神楽が話しかけて来た。

 

「ねえ箒。最近やたらと気合いが入っているのは、この間のクラス対抗戦の影響かしら?」

 

「・・・・まあ、そんな所だ」

 

 先日のクラス対抗戦。乱入して来た3機の正体不明ISと戦った志狼達の姿はこの目に焼き付いている。特に私達を守る為に敵のビームをその身に受け、敵を撃墜した後、傷付き倒れた志狼の姿が頭から離れなかった。

 あの瞬間、心臓が止まるかと思った。あんな思いは2度とご免だ。私は志狼に救われた。彼の力になりたい。強くなると彼に約束したのだ。でも私には専用機がない。それでも何かしなくちゃと逸る気持ちが私を剣へと駆り立てていた。

 

「ねえ、箒」

 

 再び神楽が話しかける。私は彼女を見ずに返事をした。

 

「何だ?」

 

「焦っては駄目よ」

 

「!?」 

 

 正直驚いた。神楽は私の心中を察して忠告をして来たのだ。

 神楽は旧華族出身のお嬢様で、長い黒髪が麗しい大和撫子然とした美少女だ。彼女とは同じ部屋、同じクラス、同じ部活に所属しているので、今ではほとんど毎日一緒に過ごしている。また、同じ悩み(胸が大きすぎて合うブラが少ない)を持つ同志であり、昨年の全中で私の剣が荒れている事を指摘した娘でもあった(同室になった時教えて貰い、私も事情を話して和解した)。

 また、彼女は優れた洞察力の持ち主でもあり、私のように単純な者の心中などあっさり看破してしまうのだ。

 

「貴女の気持ちも分からなくは無いけど、私達はまだ1年。ようやくスタートしたばかりなのよ。先はまだまだ長いわ。今は焦らず、地力を付けるべきだと思うのだけど」

 

「うん、神楽の言う事は正しい。分かってはいるんだ。でも、こうしてる間にも志狼はどんどん先へ行ってしまう。そう思うと私は!」

 

 神楽はしばらく私を見つめていたが、やがて苦笑を浮かべた。

 

「はあ、全く恋する乙女は仕方がないわね」

 

「なっ!?」

 

 そう言われて途端に顔が赤くなる。

 

「クスクス、では恋する乙女の箒が少しでも強くなれるように私も相手を努めましょうか。さあ、練習再開よ、箒」

 

 神楽はそう言うと面を着けて立ち上がった。私も後を追うように面を着ける。彼女の言う通り、今は焦らず地力を付ける事を目指すとしよう。

 そう気持ちを切り替えて、私は大切な友人の待つ場内へ足を踏み入れた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 GW最終日の午前中、俺は迎えに来た衛宮さんに車を出して貰い、とある場所を目指していた。

 因みに明日奈は地元の友達と会うと言うので別行動。雪菜ともしばしの別れを済ませて来たので、俺の用事が終わったら浅葱との会食に行く予定だ。

 

「ここでいいのかい?」

 

 車を運転していた衛宮さんが聞いて来た。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 俺は礼を言って車を降りた。そこは古びた教会だった。

 

「それじゃあ30分程で戻りますから、ここで待ってて下さい」

 

「ちょっと待って。流石に1人では行かせられないよ。大河君、同行して」

 

「了解です」

 

 衛宮さんの指示で藤村さんが同行する事になった。俺は彼女と共に教会の裏手に向かった。

 

 

 

 教会の裏手は墓地になっている。通い慣れた小路を歩いて行くと、迷う事なく目的の場所に到着した。

 そこには簡素な墓石がポツンと置かれていた。

 

 

『Yukiko Kazami』

 

 

 その墓石にはそう刻まれていた。

 

「志狼君・・・・」

 

「ええ、俺の母の墓です」

 

 病気で母が亡くなってもう10年になる。母の事を思い出すと今でも胸が痛む。この痛みは多分一生消えないだろう。後悔と言うこの痛みは───

 

 持っていた花束を墓前に供えて手を合わせると、俺は心の中で母さんに色々と報告した。

 大学に合格したけど、ISを動かしてしまい、IS学園で2度目の高校生活を送っている事。沢山の新しい出会いがあった事。セシリアと再会した事。明日奈とクラスメイトになった事。専用機を貰った事。いくつものバトル、そして実戦を経験した事。そして、約束した医者にはなれないかもしれない事等々。

 医者になるには大学の医学部を卒業して、医師免許を取得しなければならない。仮にIS学園を無事卒業して受験しようとしても、ISを動かせる男など厄介者でしかないのだから大学側から拒否される可能性が高い。

 結局、ISを動かせる男が2人しかいないのが問題なのだから、その状況が変わらない限り医者になる道は閉ざされたままだ。そんな事を考えていると、聞き覚えのある低い声がした。

 

「おや、誰かと思えばISを動かしてしまったせいで、人生を棒に振った憐れな男ではないか」

 

 俺は声がした方を向いて顔をしかめる。

 

「アンタか・・・・しばらくだな、言峰神父」

 

「全くだ。久し振りだな、結城志狼」

 

 慇懃無礼な態度で話しかけるこの男、名前を言峰綺礼(ことみねきれい)と言い、ここ言峰教会を任されている神父だ。

 この言峰教会には児童養護施設──所謂孤児院が併設されている。母さんを亡くし、身寄りの無かった俺はその施設に入り、1年半程暮らしていた。

 施設は元々前任者である綺礼の父が開いたのだが、引退に伴い、息子の綺礼に引き継がれた。

 この男、慇懃無礼な態度といい、人を煙に巻く言動といい、どうにも好きになれない男なのだが、子供達に食事と衣服を与え、教育を施してくれた事には感謝している。

 

 

「───志狼君!?」

 

 藤村さんが緊張した面持ちで聞いて来る。

 

「大丈夫、知り合いです」

 

 俺がそう言うと藤村さんは緊張を解いた。そんな藤村さんを見て綺礼が言う。

 

「護衛付きか。偉くなったものだな、英雄殿」

 

「・・・・やめてくれ。ただでさえ嫌なのにアンタに言われると余計に嫌になる」

 

「ふっ、謙遜する事はあるまい。私も見ていたが中々面白い見世物だったぞ」

 

「そうかい。喜んで貰えたようで何よりだよ」

 

「嫌味ではないぞ。現に子供達はテレビにかぶり付いて応援していたしな」

 

「そうか・・・・そう言えば子供達は?」 

 

「GWも終わりなのでな。近所にピクニックに出掛けているよ」

 

「そうか、皆元気なら良かった」

 

 俺は母さんの墓参りがてら年に数回色々と差し入れをしているので、今の子供達も知っている。皆お兄ちゃんと呼んで慕ってくれる俺にとって可愛い弟妹達だ。

 

「そろそろ行くよ。皆によろしく伝えてくれ」

 

「よかろう・・・・志狼、道は歩みを止めた時に閉ざされる。先が見えぬからと歩みを止めれば、願う場所には辿り着けぬよ。良く覚えておくのだな」

 

 俺はいきなりの綺礼の言葉に苦笑する。

 

「信者の前でも説法しないアンタからそんな言葉を聞けるとはな。どう言う風の吹き回しだい?」

 

「何、迷える子羊を導くのも神父たる私の務めだからな。単なる気紛れと思えばいい」

 

「そうかい。それじゃあ」

 

「ああ」

 

 そう言って、今度こそ俺達は別れた。

 

 

 

「何か志狼君とあの人、仲がいいのか悪いのか良く分からないわね?」

 

「そうですか? 仲は良くないですよ、決して」

 

 あの男は神父のくせにミサはさぼるは、やたらと腕っぷしは強いわ、変な事を色々知ってるわ、言動は嫌味ったらしいわ、と人として信用出来るかと言われたら出来ないと答えるだろう。だけど決して無視は出来ない。その場にいるとどうしても気になってしまう。言峰綺礼とは俺にとってそう言う人物だった。

 

 藤村さんと2人で歩きながら、俺は少しだけ気が楽になったような気がしていた。

 

 

~side end

 

 

 

 

 

~ティアナside

 

 

 IS学園資料室。ここには世界各国のISバトルの映像が保存されていて、持ち出せはしないが資料室内で観る事は出来る。私はさっきから同じ試合の映像を繰り返し見続けていた。

 

「失礼しま~す。あ、いたティア・・・・もう、またその試合見てたんだ」

 

 スバルの声に振り向く事なく映像を見続ける。私が見ているのは先日のクラス対抗戦での私と志狼の試合。敗れはしたが私としては今までで一番いい動きが出来た試合だ。私は自分がもっと強くなる為に、そしてもう1度志狼に挑む時の為に客観的な視点で試合を見直そうと、何度も同じ試合を見返していた。

 

「ね~、ティア~、もうお昼過ぎたよ。ご飯食べに行こうよ~」

 

「ん~、私はいいからアンタだけで行って来なさい」

 

 私は一時停止やスロー再生で映像を見ながら生返事をスバルに返す。

 

「駄目だよ~、操縦者なんだから食事はきちんと摂らなきゃ。いざと言う時戦えないよ?」

 

「ん~、じゃあ、もう少し待って」

 

 映像は最後の攻防に差し掛かっていた。高速切替(ラピッドスイッチ)を駆使して孤狼に4度目の突撃をする場面だ。

 

「あ~、ここで油断しちゃったのが敗因だね」

 

突然聞こえたスバル以外の声に驚き、振り向くと、

 

「こんにちは。確か1年3組代表のティアナ・ランスターちゃんだったよね?」

 

「! 高町なのはさん───!?」

 

 そこには学園最高と呼ばれる操縦者、日本代表候補生序列1位、高町なのはさんの姿があった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~なのはside

 

 

 観たい試合の映像を探しに資料室へ行くと、特徴的なオレンジ色のツインテールが目に入った。1度お話してみたいと思っていた娘だったので、何を観てるのか後ろから覗いて見ると、彼女としろくんの試合だった。

 

「あ~、ここで油断しちゃったのが敗因だね」

 

 と、思わず口を出してしまった。驚いて振り向いた彼女──ティアナちゃんに挨拶した。

 

「高町先輩・・・・どう言う事でしょうか?」

 

「ん? 私の事はなのはでいいよ。どうって言われても自分が一番分かってるでしょ?」

 

「! な、何を・・・・」

 

「劣勢に追い込まれてから3度も突撃が成功して、勝てるかもしれないと思い始めた。だから4度目も安易に飛び込んで、拳でしか攻撃して来ないと思い込んでた相手から肘と膝で攻撃され、結果敗けた。これを油断と言わずに何て言うの?」

 

「うっ・・・・!」

 

 彼女は悔しそうに俯く。自分でも分かっているんだろう、反論は出なかった。でも、だからこそ彼女は見込みがある。

 

「悔しい?」

 

「・・・・悔しいです」

 

「強くなりたい?」

 

「強く、強くなりたい! 誰よりも!志狼よりも!貴女よりも!!」

 

 彼女はそう言って私を真っ直ぐ見つめる。私は嬉しくて思わず笑みが零れる。

 

「そう。なら私の訓練を受けてみる? この訓練に耐えれたら貴女は今よりもっと強くなれる。但し、相当厳しいよ?」

 

「・・・・ゴクッ やります! 私を鍛えて下さい、なのはさん!!」

 

「いいよ。それじゃよろしくね、ティアナ」

 

「はい、よろしくお願いします、なのはさん!」

 

 私とティアナはガッチリ握手を交わした。その時、

 

「あ、あの!」

 

 ティアナの後ろにいた青髪の娘が声をかけて来た。この娘どこかで見たような・・・・?

 

「あの! 私の事、覚えてますか、なのはさん?」

 

 そう言われて彼女の顔を良く見る。確かに見覚えがある気がする。彼女の不安そうな顔が、面影が重なる。

 

「君・・・・もしかして昴?」

 

 私がそう言うと彼女は嬉しそうに笑った。

 

「はい! 私、中嶋昴です! 2年前貴女に助けられて、貴女のようになりたくてここに来ました!」

 

「そっか、あの時の娘が・・・・また会えて嬉しいよ、昴」

 

「はい、なのはさん!」

 

 彼女は全身で喜びを表していた。こんな風に慕ってくれるのは素直に嬉しく思う。

 

「なのはさん、私もティアと一緒に鍛えてくれませんか?私も強くなりたいんです!」

 

 昴は真っ直ぐに私を見て言う。その瞳には強い意志が宿っていた。

 

「覚悟は出来てるみたいだね。いいよ、昴」

 

「はい!よろしくお願いします!!」 

 

 

 こうして私には2人の教え子が出来た。彼女達がどんな風に成長するか今から楽しみだよ。ふふっ、何だか面白くなって来た。取り敢えず彼女達の今の実力を見せて貰うとしようか。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 都内の某高級ホテル。俺は待ち合わせ場所であるロビーで浅葱を待っていた。待ち合わせの時間に5分程遅れて浅葱が姿を現した。

 今日の彼女は春物の白いワンピースを着ている。ギャルっぽい見た目なのに、お嬢様然としたそんな格好も不思議と良く似合っていた。彼女は周りを見渡して俺を見付けると、手を振って駆け寄って来た。

 

「ごめん志狼、遅れちゃったわ」

 

「大丈夫だよ浅葱。このくらいは許容範囲さ」

 

 彼女は走って来たのか息を切らしてうっすらと汗をかいていた。

 

「走って来る事はなかったろうに。ほら」

 

 俺はハンカチを手渡した。

 

「ありがと。でも誘っておいて遅れるなんて、そんな失礼な真似出来ないわよ」

 

 浅葱はハンカチで汗を拭って言った。何とも律儀な奴だ。でも彼女のそんな所が俺は気に入っている。

 

「ありがと。これ、洗って返すから」

 

「俺は別に気にしないぞ?」

 

「私が気にするの!察しなさいよ、もう!」

 

 浅葱が可愛らしく頬を染める。そんな彼女に俺は先程感じた服装の感想を伝えると、彼女は顔を更に赤くした。

 

「あ、ありがと。志狼もその、か、格好いいわよ」

 

「そうか? ありがとう」

 

 俺の今日の服装はバッチリとスーツで決めている。父さんが大学の合格祝いにと用意してくれたものだ。結局大学には通えず、着る機会を逃していたのだが、今日はホテルでの会食の為、ドレスコードに引っ掛かる事もあり得たので着て来たのだ。明日奈や雪菜は絶賛してくれたのだが、浅葱からもそう言われてようやく安心した。

 

 

「さ、そろそろ行きましょう!」

 

 そう言って俺の左腕に浅葱はそっと腕を絡める。俺が驚いて彼女を見ると、浅葱は俯いたまま耳まで赤くしていた。

 

「ちゃんとエスコートしてよね。私、こう言うの初めてなんだから」

 

 そんな彼女の初々しさに思わず笑みが零れる。

 

「クスッ 了解しました。それでは参りましょうか、お嬢さん」

 

 俺達は腕を組んだまま歩き出した。

 

 

~side end

 

 

 

 

~浅葱side

 

 

 ホテルの2階にあるスイーツバイキングの会場であるレストランに着いた。私はバックからチケットを取り出してウェイターに見せると、席に案内された。

 流石高級ホテルだけあって、色とりどりのケーキやマカロンなど作り置きされたものを始め、クレープなどの直接料理人が作ってくれるものや和菓子まである。スイーツだけではなくてローストビーフやパスタのような食事も用意されていて、至れり尽くせりだ。

 

「凄いな。どれから食べようか迷うな」

 

「本当ね。さ、行きましょう!」

 

 私達は席を立って、料理の海に飛び込んだ。さあ、戦闘開始よ!

 

 

 

 

 それから私達は豪華な料理を堪能した。私も志狼もお腹を空かせていたので、カレーやビーフシチューなどの食事から手を付け、ある程度お腹を満たしてからスイーツに手を出した。様々な種類のケーキやアイスクリーム、中にはたい焼きなんかもあり、目の前で職人さんが焼いた焼きたてを貰った。様々な趣向で私達の目と舌を楽しませて、至福の時間を過ごせた。

 料理は勿論の事、志狼と一緒な事も楽しかった。私はこう見えて良く食べる。だからこう言う所に友達と来ると先に友達がダウンしてしまい、思う存分楽しめない事が多かった。だけど志狼は私と同じかそれ以上に食べる人だったので、最後まで2人して料理の感想を話したり、新しい料理を取りに行って2人でワイワイと選んだりするのがとても楽しかった。だけど、流石に限界が来て、今は食後のコーヒーをゆっくりと飲んでいた。

 

「あ~~、美味しかった」

 

「本当にな。ありがとう浅葱、誘ってくれて」

 

「いいわよ別に。私も久々に楽しかったし」

 

 友達と来ても皆私程に食べないから引かれちゃうのよね。でも今日は最後まで楽しめた。これは相手が志狼だからと言うのが大きいだろう。

 

「・・・・ねえ。また誘ってもいい?」

 

「勿論。本当は俺から誘いたい所だけど、立場的に難しいからな。すまない」

 

「貴方のせいじゃないでしょ。じゃあ、また誘うから断らないでよ?」

 

「ああ、分かった」

 

 次の約束を取り付けて、私は笑みを零した。

 

 

 

  

 会計(と言っても無料チケットを渡しただけだが)を済ませて、私はちょっとおトイレへ。用を済ませてトイレから出ると、入った時には無かったはずの壁があった。

 

「・・・・・・は?」

 

 何だろうと見上げると、そこには壁では無く2~3mくらいの人型の機械。赤い単眼の漆黒の機体。これってクラス対抗戦で乱入したIS───!?

 

「ちょっ、何よ! きゃあああーーーっ!!」

 

 そのISは私を掴み上げると、レーザーで壁に円形の穴を開け、そのまま宙に身を踊らせた。

 

「浅葱!!」

 

 私の悲鳴を聞いた志狼が駆け付けたけど、私の身体は既に宙にあった。

 

「志狼!!」

 

 伸ばした手は届く筈もなく、むなしく空を切った。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 浅葱が拐われた。しかも拐った相手はIS。しかもクラス対抗戦で乱入して来たのと同型の機体に見えた。なら相手は無人機? 目的は何だ? 何にしてもこのまま手をこまねいている訳にはいかない。俺は周りを見て追跡手段を探す。あった! 俺は誘拐犯が空けた穴から街路樹に飛び移り、そのまま歩道に転がり出た。通行人が驚いていたが気にしてる場合じゃない。俺はそのままの勢いで路肩に停めてある赤い大型バイクに乗った少女に声をかけた。

 

「君! 確か煌坂さんだったよな。緊急事態だ。すぐ出してくれ!」

 

 俺は護衛チームのひとりである、彼女──煌坂紗矢華に言った。

 

「はあ!? ちょっと、貴方いきなり何を──「一緒にいた友人が拐われた。今飛んで行ったのがそうだ。追いかけるから力を貸してくれ!」!?」

 

 いきなりの事に困惑する彼女。だが、そんな暇はないのだ!

 

「拐われたのは藍羽浅葱。俺の専用機の開発者だ。頼む!力をを貸してくれ!!」

 

「! 藍羽さん!?」 

 

 果たして俺が浅葱の名を出すと、煌坂さんは劇的な変化を見せた。

 

「それを早く言いなさい! 乗って、結城志狼!」

 

 彼女の変化の理由は分からないが、正直ありがたい。俺がバイクの後部シートに飛び乗ると同時に彼女はバイクを発進させた。

 

「言っとくけど、変な所に触ったら殺すわよ!」

 

「いきなり物騒だな。いいから走れ!」

 

 バイクの走るその先に──いた!

 

「いたぞ!あれだ!!」

 

「分かってる!」

 

 標的を見付けてスピードを上げる中、俺は携帯を取り出し電話をかける。

 

『どうした結城?』

 

「織斑先生、緊急事態です。浅葱が拐われました。犯人はこの間の無人機です」

 

『何い!本当か!?』

 

「はい。今追跡中です」

 

『くっ・・・・分かった。自衛隊のIS部隊の出動を要請する。そのまま追跡出来るか?』

 

「はい!」

 

『お前のGPS情報を元に応援を向かわせる。頼むぞ!?』

 

「了解です」

 

 電話を切り、応援が来る事を煌坂さんに伝えると彼女はコクリと頷いた。

 

「そう言えば君は浅葱と友達なのか?」

 

「まさか!・・・・元同級生ってだけよ。彼女は有名人だから私は知ってるけど、彼女は私の事なんて覚えてないと思うわ」

 

 浅葱の名前を出した途端、やる気になったから、てっきり友達なのかと思ったが違ったらしい。そのくせ彼女からは浅葱に対する思い入れのようなものを感じる。

 

「藍羽浅葱と言う人は私達の世代のスターなのよ。私がIS学園のOGなのは聞いてるのよね? 私が3年の頃、1年に更識楯無や高町なのはのようなスター選手が入って来たけど、私達の学年にはこれといって突出した能力のある操縦者がいなかったの。そんな中で藍羽さんの存在は私達にとって誇りであり、憧れでもあったわ」

 

 IS操縦者と言うのは花形だ。本来最も注目を浴びる存在であるのに、自分達の世代にはそう言った選手がいない事が引け目になっていたらしい。だから開発科のトップであり、既に数々の実績を上げていた浅葱は同世代の誇りであったのだろう。

 

「成る程、そう言う事か」

 

「そうよ。──て言うか、結城志狼!貴方が何で藍羽さんとデデデ、デートなんてしてるのよ!?」

 

「いきなり何を・・・・友人と食事をするって衛宮さんには伝えたけど、聞いてないのか?」

 

「それは聞いてるけど、相手が藍羽さんだなんて聞いてないわよ!!」

 

「別に誰が相手かなんて言う必要はないだろう?」

 

「あるわよ!男なんかが藍羽さんに気安く近付くな!」

 

「・・・・君、もしかして主義者なのか?」

 

「あんなのと一緒にしないで!私は単に男が嫌いなだけよ!!」 

 

「どう違うんだよ!?」

 

「女尊男卑主義者ってのはISを使えるのが女だけだからって、自分達が偉くなったと勘違いしてる馬鹿共でしょ!? 私は単に男と言う生き物が嫌いなだけよ! 男なんて馬鹿だし臭いし汚いし、人の身体をジロジロ見て来るスケベばっかりだし。あんな生き物この世から抹殺した方が人類の為よ!」

 

 いや、男がいなくなったら人類滅ぶぞ。だがこれで分かった。彼女が極端な男嫌いだと言うのが、先日藤村さんが言っていた彼女が気難しいと言う理由だと。

 俺が考えを巡らせてる間にも、延々と男の悪口を垂れ流す彼女がいい加減ウザくなって来た。もうこいつ呼び捨てでいいわ。

 

「おい、煌坂」

 

「! な、何よ、いきなり呼び捨てにして」

 

「お前は呼び捨てで充分だ。お前の主義主張なぞどうでもいい。それより目標を見失うな」

 

「! わ、分かってるわよ!」

 

 目標はどうやら海を目指しているらしい。やがて山ひとつ越えたら海、という山頂辺りで目標が停止した。

 

「何だ?」

 

「あ、結城志狼、あれ!」

 

 停止した目標を怪訝に思っていると、煌坂が声を上げた。彼女が示した方からは2機のISが飛んで来た。あれは自衛隊のIS! どうやら応援が間に合ったようだ。

 

「自衛隊の制式採用機、神武(ジム)だわ」

 

 神武(ジム)は多国籍企業アナハイムエレクトロニクスの開発した第2世代機。操縦者に合わせた豊富な武装や操縦性の良さで人気を博し、多くの国で制式採用された機体。

 ラファールという上位互換機の登場によりシェアは縮小したが、今でも根強い人気を誇り、主に軍用機として活躍している。

 豊富なパーツと武装により、操縦者の好みに合わせたバリエーションが幾つも存在し、量産機でありながら、専用機のように扱えるのが操縦者達に人気の理由らしい。

 

 

 目標は2機の神武を敵と認め、迎撃するべく迫る2機に対してビームを撃った。神武はクラス対抗戦のデータがあったのか、ビームを回避して挟み撃ちにしようとする。戦場は徐々に山の向こう側に移り行き、俺達もそれを追いトンネルに入った。

 間もなく出口と言う所でそれは起きた。10数m先に光が疾ると、トンネルが崩落したのだ!

 

「いかん!?」

 

 このまま進めば崩落に巻き込まれると判断した俺は、煌坂を抱えてバイクから飛び降りた。そのまま道路に落下してゴロゴロと転がる。煌坂を抱えたままで受け身を取る事が出来ず、痛みで一瞬息が出来なくなる。しかし、そんな事を気にする間もなく、道路までもが崩落し、俺達は更に落下して行った。

 

「うわあああっ!!」

 

「きゃああああーーーっ!!」

 

 俺達は闇の中へ落ちて行き、そこで意識を失った。

 

 

~side end

 

 

 

 

~紗矢華side

 

 

 私は暗闇の中、意識を取り戻した。暗くて周りが良く見えない中で何があったかを思い出す。

 もうすぐトンネルを抜けるという時、目の前で光が疾ると、トンネルが崩落した。そのまま走っていたら間違いなく巻き込まれて、生き埋めになった事だろう。だけど、結城志狼が私を抱えてバイクから飛び降りて助かった。けど今度は道路の崩落に巻き込まれ、私達はしばらく意識を失っていたらしい。

 

「結城志狼、どこにいるの!?」 

 

 私は自分の護衛対象を呼ぶも返事がない。捜さなきゃと身体を起こそうとしたけど、何かが乗ってるようで上手く動かせない。それでも無理矢理身体を起こすと、上に乗っかってる物がズルリと滑り落ちる。

 

「!!」

 

 その時ようやく闇に目が慣れた私は、自分の上に乗っていたのが結城志狼その人だと初めて気付いた。

 

「ちょっ! 結城志狼!?しっかりしなさい!!」

 

 私は彼の身体を揺するも返事はない。身体を仰向けにして手持ちのペンライトで彼を照らした。

 

「!!」

 

 彼は傷を負っていた。額と左上腕から瓦礫で切ったのか出血しており、着ていた真新しいスーツがボロボロなのを見ると打撲もしているだろう。幸い骨折はしてないようだが、頭を打ってるかもしれないので迂闊には動かせない。

 彼がこれだけの怪我をしているのに対して、私の方はちょっとした打ち身程度。これはひょっとして───

 

(私を守ってくれたというの!?)

 

 そうとしか思えなかった。何という事だ。護衛対象、それも嫌いな男に守られるだなんて。でも彼が助けてくれなければ私は今頃生き埋めになっていたかもしれない。彼は危機的状況に対応したというのに私には出来なかった。こんな護衛がどこにいるというのか。私は自分の無力さに打ちひしがれていた。

 

「うっ、ここは・・・・?」

 

 そんな時、結城志狼が目を覚ました。

 

「結城志狼、大丈夫?」

 

 私か顔を覗き込んで尋ねると、彼は私を見て驚いていた。

 

「君は・・・・・・煌坂か?」

 

「何を言ってるのよ?私以外の───あっ!」

 

 この時私はヘルメットを被っていない事に気付いた。落下した衝撃で外れてしまったのか、彼に素顔を晒していたのだ。まじまじと見つめる彼の視線を感じて顔が熱くなる。

 

「な、何よ・・・・」

 

「いや、思ったより美人なんで驚いただけだ。それよりここは?」

 

「び!・・・・・・恐らく崩落した道路の下が排水路になっていたみたいね。お陰で生き埋めにならずにすんだわ」

 

「そうか・・・・俺達どのくらい意識を失ってたと思う?」

 

「そんなに長くはないと思うわ。精々2、3分って所かしら?」

 

「そうか。なら急がないと」

 

 彼は立ち上がろうとして、よろめいた。

 

「ちょっと、まだ無理よ! 頭を打ってるかもしれないんだし、もう少し寝てなさい!」

 

 私は咄嗟に彼を支えようとしたけど、支えきれずそのまま倒れてしまう。

 

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

 倒れた時、彼の顔が私の胸の間に埋もれてしまう。

 

「ちょっと!?どさくさに紛れて何してんのよ!」

 

「すまん! だが不可抗力だ!」

 

 彼はすぐに顔を上げて私から離れる。

 

「ほら、すぐには無理よ。焦るのは分かるけど、せめて傷の手当てくらいさせなさい」

 

「すまん。頼むよ」

 

 彼はそう言って上着を脱ぐ。私は左腕のハンカチを巻こうと傷の具合を確かめると、 

 

(え? 傷がもう塞がってる!?)

 

 シャツは切れて血痕は残っているのに、既に出血は止まり、傷痕も塞がっているのだ。シャツの切れ目からかなり深い傷だと推察されるのに、こんな事あり得ない。

 

(何なの、この異常な回復力?)

 

 私が彼の身体に疑問を抱いていると、

 

「どうした?」

 

 彼が不思議そうな顔をして聞いて来た。

 

「ううん、何でもない。出血は止まってるみたいだけど念の為巻いておくわね」

 

 私はそう言ってハンカチを傷痕に巻いた。彼は自分の身体の異常な回復力の事を知っているのだろうか? 私はこの事を上に報告すべきか頭を悩ませていた。

 

 

 

 

「ありがとう煌坂。それじゃあ行こうか」

 

 手当てを終えるとそう言って結城志狼が立ち上がる。今度はふらつかないようだ。

 

「行くって、どうやってよ?」

 

「さっきここが排水路だって言ったろ? 水の流れる方向に沿って行けば海に出られるんじゃないか?」

 

 良く見るとチョロチョロとだけど水が流れてる。私達は海に出ようとしていたんだから確かに理に叶ってるんだけど、何か悔しい。

 

「どうした、煌坂?」

 

「何でもない。行くわよ!」

 

 私はせめて先頭に立とうと先を急いだ。

 

 

 

 

 暗闇の中、ペンライトのみを光源にして、私達はしばし無言で歩く。そんな沈黙の中、私は謝罪の言葉を口にした。

 

「ごめんなさい。役立たずな護衛で」

 

「・・・・いきなり何だ?」

 

「本来なら貴方に怪我なんてさせちゃいけないのに、貴方が庇ってくれたから私は軽傷で済んでるわ。トンネルが崩落した時も私は何も出来なかった。本来守るべき立場の私が逆に守られてるなんて、ホント護衛失格よ。全く、情けないったら無いわ・・・・」

 

 話している内に私はどんどん自己嫌悪に陥っていった。

 

「煌坂、もしかして今回が初任務か?」

 

「・・・・うん」

 

 そう、私は3月にIS学園を卒業したばかり。約1ヶ月の訓練期間を経て、今回が初の任務なのだ。それがこうも失態続きとは目も当てられない。

 

「そうか。良かったな」

 

「───は?」

 

 この男は何を言ってるの?失敗して落ち込んでる女に向かって良かったなって、馬鹿にしてるのか!?

 

「貴方、馬鹿にしてるの!?」

 

「何でそうなる。確かにお前は今回失敗したかもしれない。でも失敗したという経験を得る事が出来た。ならば次はもっと上手くやれるだろう?」

 

「! な、何を・・・・」

 

「それに失敗したと言うが今回の任務はまだ終わってないだろ? 今回の任務は俺が生きていて、浅葱を無事取り戻せれば成功なんだ。落ち込むのはまだ早いぞ、煌坂」

 

 結城志狼はそう言って私の頭を軽く撫でる。私は子供の頃から女にしては背が高く、こんな風に頭を撫でられた経験が無かった。しかも嫌いな男に触られている筈なのに、普段の私なら手を振り払っている筈なのに何故だろう、不思議と心地好くて私はされるがままになっていた。

 

「! すまん煌坂! 大丈夫か・・・・?」

 

 彼が不意に手を退けた。私が男嫌いというのを思い出したようだ。触れられた手の温もりが無くなったのを何故が残念に思う私がいた。

 

「べ、別にいいわよ。それより急ぐわよ結城志狼!」

 

「クスッ ああ、了解だ」

 

 私は先頭に立ってに歩き出す。周りが暗くて本当に良かった。今の私は顔を真っ赤にしているだろうから───

 

 

~side end

 

 

 

 

~all side

 

 

「結城志狼、見て!!」

 

 紗矢華に言われるまでもなく、進む先に光が見えた。それと同時に戦闘音も遠くに聞こえて来る。

 

「ああ、急ごう!」

 

 2人は光に向かって走る。幸い排水路の出口はトンネル崩落の影響かフェンスがひしゃげていて、人1人が通れるくらいの隙間が空いていた。

 2人はそこを通り抜け、土砂で塞がれたトンネルの先の道路に出る事が出来た。

 

「あーーっ! 私の煌華麟!」

 

 突然声を上げた紗矢華の視線の先には彼女のバイクがあった。すぐさま駆け寄り倒れたバイクを起こすと、紗矢華は笑顔を浮かべて言う。

 

「この娘がいれば百人力よ! 乗りなさい結城志狼!」

 

 そう言ってバイクに跨がる紗矢華。志狼も続いて後部シートに座ると、紗矢華はバイクを急発進させた。

 

 

 

 戦場はトンネルから離れた海上に移っていた。自衛隊機がトンネルの崩落を見て、上手く海上へ誘導したようだ。だが、2機いたはずの神武は1機しか見えない。どうやら1機は撃墜されたようだ。それもその筈、敵機は何時の間にか2機に増えていたのだ。

 

「ちくしょう、向こうも応援が来たのか」

 

 志狼が悔し気に呟く。その時、紗矢華が言った。

 

「行くわよ結城志狼。しっかり掴まってなさい。『煌華麟』、ファイターモード!」

 

 紗矢華の声に応えて、バイクの車体に様々なパーツが量子変換されて合体していく。

 

「こ、これは!?」

 

 パーツが合体し、変型が完了したその姿は小型の戦闘機になっていた。

 

「煌坂、これってまさか?」

 

「ふふん、驚いたでしょ?この娘が私の専用機『煌華麟』よ!」

 

 自慢気な笑みを浮かべて紗矢華が言う。

 

「さあ行くわよ、煌華麟!」

 

 煌華麟が飛翔する。その加速は凄まじいが志狼はGを感じなかった。PICが機能している証拠だ。

 

(こんなISがあるのか───!?)

 

 志狼は初めて接する可変型ISに驚愕していた。

 

 

 

 飛翔する煌華麟は凄まじい加速を見せて、戦場に到着する。その時既に浅葱を連れた敵機は飛び去っていて、後からきた敵機が神武の足止めをしていた。

 

「煌坂追え!」

 

「言われなくても!」

 

 その場で戦う2機を無視して浅葱を連れた敵機を追う煌華麟。飛行形態のスピードは通常のISより速く、ぐんぐん敵機に迫る。しかし、

 

「追いついたのはいいけど、この後どうしよう?」

 

「ノープランなのかよ!」

 

「だって、仕方ないじゃない! 藍羽さんがいるのに撃つ訳にはいかないでしょ!?」

 

 敵機が撃つビームを回避しながら口論する2人。

 

「余計なお荷物を乗せていなけりゃ取り押さえる事も出来るんだけどね!」

 

 紗矢華の言葉通りなのだろう。自分さえいなければと歯噛みする志狼の目に浅葱が手を振ってるのが見える。彼女は手に何かを持っていて──!

 

「煌坂、今から俺の指示通り動いてくれ」

 

「結城志狼!? 貴方何を言って──「頼む」!!」

 

 真剣な表情で紗矢華を見つめる志狼。

 

「わ、分かったわよ。どうすればいいの?」

 

「ありがとう───奴にぶつかれ」

 

「は?」

 

「奴に体当たりをしろ。浅葱を落とすんだ。そうしたら落ちた浅葱は俺が何とかする。お前は敵機を押さえてくれ」

 

「貴方、何言ってるのか分かってるの? 控え目に言っても自殺行為よ、それ!?」

 

「分かってる。大丈夫、自殺する気はないよ。勝算はある」

 

 2人の視線が交錯する。折れたのは紗矢華の方だった。

 

「あー、もう! どうなっても知らないからね!」

 

 そう怒鳴り、紗矢華は煌華麟を加速させる。近寄らせまいと敵機が撃つビームを回避しながら煌華麟が敵機に迫る!

 

「行くわよ、結城志狼!」

 

「応!」

 

 そして、煌華麟は敵機の背中にぶつかった。

 凄まじい衝撃の中、敵機が浅葱を落とした。

 

「開けろ煌坂!!」

 

 未だ体当たりの衝撃が治まらぬ内に、紗矢華が煌華麟の風防(キャノピー)を開けると、志狼は迷う事なく浅葱に向かって飛び降りた!

 

「浅葱ぃぃぃーーーーっ!!」

 

 志狼は先に落ちた浅葱を追い着く為、身体を真っ直ぐ気を付けの姿勢にして、空気抵抗を減らして加速する。落下速度を増した志狼はやがて浅葱に追い着き、

 

「浅葱、手を!!」

 

「志狼っ!!」

 

 浅葱の伸ばした手を志狼が掴み、そのまま抱き寄せる。

 

「浅葱、無事か!?」

 

「うん!」

 

 そのまま空中でしばし抱き合う2人。気丈に振る舞っていてもやはり怖かったのか、浅葱の身体は震えていた。志狼は浅葱を励ますように抱きしめた両腕に力を込める。

 

「・・・・きっと、来てくれると思ってた」

 

「当たり前だろ? 大事なパートナーだからな」

 

「うん。・・・・志狼、これを」

 

 浅葱はそう言って手に持っていたものを志狼に渡す。それは1本の腕時計───

 

「ありがとう。それじゃ、もう少しだけ辛抱してくれ」

 

 志狼はそう言うと、浅葱を上へ放り投げた!

 

「へ? っきゃああああーーー!!」

 

 浅葱の悲鳴を聞きつつ、志狼は腕時計を嵌めて叫ぶ!

 

「行くぞ、孤狼!!」

 

 志狼の叫びに応じて腕時計が赤い光を放つ。次の瞬間、志狼はその身に孤狼を纏っていた。孤狼は未だ落下する浅葱に翔け寄ると、彼女を優しくキャッチした。

 

「大丈夫か浅葱?」

 

 孤狼のマスクを開いて志狼が素顔を見せると、途端に浅葱が抗議した。

 

「この馬鹿!分かってはいても怖かったんだからね!?大体アンタはデリカシーってもんが欠けてんのよ!聞いてんの志狼!?」

 

「ああ、すまん。だが、そう言うのは後でな」

 

 志狼は上空で戦う紗矢華を見つめていた。

 

 

 

 

 志狼が飛び降りた後、紗矢華は煌華麟を変型させる。

 

「『煌華麟』、コンバットモード!」

 

 紗矢華の声に応え、煌華麟が変型する。紗矢華の身体に変型したパーツが合わさって行く。一瞬の後、紗矢華は鮮やかな緋色のISを纏っていた。

 

 

 

 ───煌華麟(こうかりん)

 

 

 獅子王機関が紗矢華に与えた高機動型第3世代機。

 志狼の護衛チームに配属が決まった紗矢華に、志狼が連れ去られた時、単独で追跡、奪還が出来るように機動性を追究した結果、恐らく世界初の可変型ISが誕生した。

 ライダーモードのバイク、ファイターモードの小型戦闘機、コンバットモードのISと3段階に変型出来る。但し、変型パーツに拡張領域の容量をほとんど持って行かれた為、機体名と同じ六式可変重装弓「煌華麟」とバルカン砲しか武装が無い。操縦者の腕に頼った扱い難い機体となっている。

 

 

 

 変型した煌華麟は唯一の武装たる六式可変重装弓「煌華麟」をコール。双剣を手にして浅葱を追おうとする敵機に斬りかかる。

 

「アンタの相手は私よ!」

 

 そう叫び鋭い斬撃を繰り出す紗矢華に、浅葱を追う事を一旦諦め対峙する敵機。丸太のように太い2本の腕を振り回し、肉薄する。剣と腕の激しい打ち合いに勝ったのは紗矢華。その武器たる2本の腕を斬り飛ばすと一気に勝負を決めようと上段から斬りかかる。

 敵機は後退して辛うじて斬撃をかわすと至近距離からビームを撃つ。当たれば大ダメージ必至の攻撃にも紗矢華は冷静に対処する。煌華麟の剣身に光を纏わせ、迫るビームを横薙ぎにすると、目の前の空間が裂け、ビームが吸い込まれ消えた。

 あり得ない状況に困惑したかのように動きを止める敵機に紗矢華は煌華麟を一閃する。

 

 煌華麟の第3世代兵装「空間切断」。空間を切断する事により、敵の攻撃を別次元へ送り無効化する事が出来る。攻撃にも使えるが紗矢華は主に防御に多用している。

 

「破っ!!」

 

 敵機は縦に真っ二つにされ海に落下、爆発した。

 

 

 

 

 

 その少し前、2機目の神武を撃墜した敵機は、目標を連れた僚機と合流すべく後を追った。しかし、合流しようとした僚機はデータの無いISに撃墜され、目標の藍羽浅葱は結城志狼の孤狼に保護されていた。

 作戦が失敗したと判断した敵機は撤退を始めた。しかし、

 

「逃がすもんですか」

 

 紗矢華はそう呟くと煌華麟を弓に変型させ、1本の矢をつがえた。

 

 

《獅子の舞女(ぶじょ)たる、高神(たかがみ)真射姫(まいひめ)が讃え奉る──》

 

 紗矢華の口から呪文のような言葉が紡がれる。それは「祝詞(のりと)」と呼ばれる真言。

 紗矢華の所属する獅子王機関は今でこそ更識家の下部組織だが、元は陰陽寮を始祖とした国の霊的災害を取り締まる特務機関であった。その為機関に属する者は霊能力や超能力といった特殊な力を持つ者達が多数在籍している。

 紗矢華はその中でも「舞威姫(まいひめ)」と呼ばれる能力者の1人で、幼い頃から機関の施設で育てられ、IS学園にも機関の命令で入学していた。

 舞威姫の祝詞には精神を研ぎ澄まし、神の力をその身に宿す力があると言われており、紗矢華は精神集中する為の自己暗示として使用している。

 

 

《───極光の炎駒、煌華の麒麟、其は天樂と轟雷を統べ、憤炎を纏いて妖霊冥鬼を射貫く者なり!!》

 

 祝詞を唱えると同時に紗矢華は矢を射る。放たれた矢は不可思議な旋律を奏でながら真っ直ぐに敵機に向かって行く。

 遠方から放たれた矢など当たったとしても多少SEを削られるだけと避ける様子を見せなかった敵機だが、矢が奏でる旋律を感知した途端、全ての機器に異常が発生した。ISコアが狂い、自分が何者なのか、何の為に作られたのか分からなくなり、コアはやがてシールドバリアを解除してしまう。そこに煌華麟から射られた矢が的確にコアの位置を貫いた。

 自分に何が起きたのか分からないまま、コアは活動を停止した。

 

 

 

 煌華麟の特殊兵装「鏑矢」。煌華麟の矢には特殊な紋様が刻まれていて、矢を射ると、この紋様と空気との摩擦によってある特殊な音波が発生する。

 人間の耳には不可思議な旋律に聞こえるこの音波を感知すると、電子機器は狂い、まともに動けなくなる。正に現代兵器の天敵であり、街中での使用が固く禁じられている兵装である。

 

 

 

 

「・・・・・凄え」

 

 自分達があれだけ苦戦した無人機を僅か数分で2機も撃墜した紗矢華の実力に志狼は戦慄を覚えた。

 

(あれがIS学園卒業生の実力か!?)

 

「ねえ、彼女何者なの?」

 

 そんな志狼に浅葱が話しかける。

 

「あ?ああ、俺の護衛を務めてくれてる奴で名前は煌坂紗矢華。昨年のIS学園の卒業生だそうだ」

 

「! あれ、煌坂さんだったの!?」

 

「知ってるのか?」

 

「勿論。昨年度操縦士科を次席で卒業した私の同期よ。何故か目立つのが嫌みたいで実力を発揮しなかったけど、本来なら彼女が首席だったはずよ」

 

 どうも紗矢華から聞いてたのと話が違うようだ。だが、あの紗矢華の戦い振りを見ると、浅葱の方が正しいと思える志狼だった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 こうして後に「電子の女帝誘拐事件」と呼ばれる事件は終わった。

 

 浅葱は幸い怪我も無く、無事に助け出す事が出来た。

 撃墜された神武は操縦者も機体も無事回収された。

 敵機のビームで崩落したトンネルは、幸い車通りの少ない時間帯だった為、被害に合ったのは俺達だけだった。但し、修復にはかなりの時間と費用が掛かるらしい。

 そして俺と煌坂は衛宮さんからきついお叱りを受けた。煌坂から連絡を受けた衛宮さん達も俺達の後を追ったそうだが、トンネルの崩落で足止めを食らっていたと言う。今後、緊急で動く時は必ず衛宮さんに連絡する事を固く約束させられた。

 衛宮さんのお説教が終わり、正座しながら言い合いをする俺と煌坂を見て皆が、それこそ南宮さんまで目を丸くして驚いていたのが、妙に印象的だった。

 

 その煌坂だが、あの後浅葱とは友達になった。そして浅葱は・・・・

 

 俺はあの戦闘の後の事を思い出していた。

 

 

 

 

<><><><><><>

 

 

 

 

 戦闘を終えた俺達は近場の砂浜に降り立ち、ISを解除した。

 

「やれやれ、折角直ったのに出番がなかったな」

 

「ホントにね。お~~い煌坂さん、久し振り!」

 

 浅葱から声をかけられた煌坂は驚いていた。

 

「え・・・・藍羽さん私の事覚えてるの?」

 

「当たり前でしょう。卒業してまだ2ヶ月よ。貴女みたいに印象深い娘を簡単に忘れないわよ」

 

「え? 印象深い!? 私なるべく目立たないようにしてたんだけど・・・・」

 

「ああ、やっぱりわざとなんだ。逆にそれで目立ってたわよ貴女」

 

「えええっ!?」

 

 

 と、こんなやり取りの後でお互いの認識の齟齬を話し合っていた。

 どうやら煌坂は自分が目立っていないと思っていたらしいが、実際には操縦者としての高い実力とその容姿から、かなりの人気があったらしい。特に年下からは隠れて「お姉様」と呼ばれ、慕われていたそうだ。その事実を知って煌坂は愕然としていた。

 確かに煌坂は濃い栗色のポニーテールと翠の瞳をした浅葱に優るとも劣らない美少女だ。長身で抜群のスタイルをしてる所や、案外面倒見の良い所からお姉様と呼ばれるのも分かる気がする。俺がそう言ったら2人から真っ赤になって怒られた。何故だ。

 そんなやり取りの結果、浅葱と煌坂は改めて友達になり、連絡先の交換をした。ついでとばかりに煌坂は俺とも連絡先を交換した。「あくまで仕事で必要だから」とやたらと強調していたが何なんだか・・・・

 

 

 そんな風に3人で話しをしていると、絃神コーポレーションが用意した迎えの車がやって来た。

 

「それじゃ志狼、紗矢華、またね」

 

「う、うん。あ、浅葱・・・・」

 

 名前で呼び合う事になった浅葱と煌坂だが、煌坂がまだ恥ずかしそうに名前を呼ぶのが微笑ましい。

 

「ああ、気を付けてな」

 

 俺もそう挨拶を交わした。だが、車に乗り込もうとした浅葱は動きを止めると、振り向いて俺の元まで歩いて来た。

 

「どうした浅葱?」

 

「志狼ちょっと」

 

 俺と浅葱では20㎝近い身長差があるので、内緒話でもあるのかと少し背中を屈めると、浅葱は俺の顔を両手で挟み、

 

 

 ───そのまま唇を押し付けた。

 

 

 たっぷり10数えるくらいしてから浅葱が唇を離す。

 

「あ、浅葱?」

 

「えっと、あの、そう言う事だから。じゃあね!」

 

 そう言って逃げるように車に飛び込んだ浅葱の顔は、暮れ行く夕陽よりも更に赤く染まっていた。

 

 

 

 浅葱を乗せて走り去る車を見送ると、顔を真っ赤にして固まっていた煌坂が喚き出した。

 

「───ゆ、ゆゆゆ結城志狼ぉーーー!!ア、アンタ浅葱と、キキキ、キスするなんてどういう事よーーーっ!?」

 

「いや、俺に言われても」

 

「何なのよ、もおーーーーっ!?」

 

 

 煌坂の叫びは、暮れ行く皐月の空に吸い込まれていった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~束side

 

 

「あーー、もう!分かった、分かりました。もうあの娘に手は出さないよ!約束する。絶対!」

 

『本当だな!?そう言ってまた無人機なんぞ寄越すなよ!?』

 

「分かったってば!ゴーレムも出さない何もしないってば!束さんだってしーくんに嫌われたくないもん!」

 

『その言葉信じるぞ。じゃあな』

 

「は~い、じゃあね、バハハ~~イ」

 

 

 長い電話でのお説教がようやく終わった。深く息を吐いていると、私の前にティーカップが置かれる。

 

「お疲れ様でした束さま」

 

「ありがとう、くーちゃん♪」

 

 くーちゃんの淹れてくれた紅茶をゴクゴクと喉を鳴らして飲む。これは私の好きなリ〇トンのティーバック。流石くーちゃん、分かってるう♪

 あっという間に飲干し、おかわりを頼む。

 

「でも、ちーちゃん様も随分と長いお話でしたね」

 

 紅茶のおかわりを淹れながらくーちゃんが言う。

 

「うん。まあ今回は束さんも悪かったかなって。あの娘を見つけた喜びのあまり、録に調査もしないで行動しちゃったしね。反省反省」

 

「そこら辺は束さまらしいと思いますが。確かに下手をしたらちーちゃん様はおろか、しーくん様にまで嫌われてたかもしれませんしね」

 

 紅茶のおかわりを差し出しながらくーちゃんが言う。

 

「そうだね。まあ、どこの誰かはもう分かってるんだし、ほとぼりが冷めたら改めてご招待するよ」

 

「そうですね。それがよろしいかと思います」

 

「うん。当分は大人しくしてるよ。この娘の開発も佳境だからね」

 

 私はそう言って後ろを見る。そこには開発中のISがあった。

 

「でも、いっくんがあれだから展開装甲のデータが不十分なんだよね。でもまあ、何とかするか」

 

 Xデーまで後2ヶ月。それまでにこの娘を完璧に仕上げなければ。私はその日を思い浮かべ、静かに微笑んだ。

 

 

~side end

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

箒に紅椿獲得フラグ1が付きました。力を求め、足掻く箒とそれを見守る神楽。モデルを華さんにしたせいか自分でも最近お気に入りで、それとなく出番が増えている神楽でした。

志狼の墓参り。ご覧の通り志狼の旧姓は風見です。これにも設定はあるのですが、本筋と関係ないので発表するかは未定です。
志狼の育ての親、言峰綺礼。父親を知らない志狼にとって初めて接する大人の男で、どこか父親の幻想を重ねて反発しながらも意識してしまう存在です。
前話で雪菜の事を相談され、縁堂縁を紹介したのはこの男です。

ティアナとスバルがなのはの教え子になりました。なのはの魔改造ぶりをご期待下さい。

浅葱との初デート。初デートがスイーツバイキングなのがこの2人らしい(笑)

煌坂紗矢華登場。彼女の専用機のモデルはセイバーガンダムです。弓を使うのでライジングガンダムにしようかと思ったのですが、紗矢華の専用機は可変型にしたかったのでセイバーになりました。セイバーにした理由は単純に好きだからです。原作では不遇の最後を遂げた機体ですが、本作では活躍して貰いたいと思います。

自衛隊の神武。モデルは勿論GMです。本作ではやられ役でこれからも出る予定です。

箒の紅椿獲得フラグ2が付きました。束さんは次のエピソードでは出番が無いので、大人しく紅椿を開発して貰おうと思います。


次回は転校生3連発です。お楽しみに。

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