二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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遅くなりました。第37話を投稿します。

今回はISの独自解釈があります。
そんなの認めない、と言う方は読まない事をお薦めします。

それでは、相変わらずの予告編詐欺となりました第37話、ご覧下さい。


第37話 ターニング・ポイント

 

 

~志狼side

 

 

 デュノア達が転校して来て、1週間が過ぎた。

 

 その間にあった事と言えば、織斑とデュノアが同室になり、鈴が部屋替えをさせられた。鈴は相当渋ったが、男同士で同室になるのは当たり前だと言われては反論のしようもなく、泣く泣く部屋を出て行った。

 織斑は男同士で気兼ねなく過ごせるのが嬉しいらしくご機嫌だったが、デュノアの正体が知れたら血を見るかもしれない。

 

 今月のクラス代表会議では俺が議長に選出された。決勝に進んだのは俺と簪なのでどちらかと言う話になったのだが、簪に先に辞退されてしまったので、俺が引き受ける事になった。

 

 デュノアはすっかり人気者だ。整った容姿と柔らかな物腰はまるで物語の中の王子様が現実に現れたかのように思われて、どこに行くにも注目の的だった。

 テレビや新聞を見ても3人目の男性操縦者が現れたと言う件は報道されていなかった。まあ学園上層部はデュノアの正体を知ってるのだから、対外的に発表なぞ出来ないのだろう。 

 同室の織斑には未だに正体がバレてないらしく、上手くやっているようだ。最近は2人でいる事も多く、デュノアと一緒にいる事で織斑を見る目が上方修正されると言う織斑にとって嬉しい誤算があった。尤も、それ以上に喜んでいる腐女子も多かったが。

 

 一方ボーデヴィッヒは孤立していた。話しかけてもほとんど無視され、返事をしても「ああ」とか「そうか」くらいで全く会話にならず、コミュ力の高いセシリアや明日奈ですら寄せ付けなかった。

 学業成績は優秀で、特にISの操縦に関しては現在の1年生の中でもトップクラスの実力を誇っている為、織斑と違い孤立していても問題ないようで、ほとほと扱いに困っていた。

 

 あれから1週間が過ぎても刀奈から連絡は無い。どうやら調査が難航してるようだ。世界的な大企業の機密を探ろうと言うのだから、ある意味当然だろう。そちらに関しては待つしかない。

 既に正体がバレているのだから、デュノアに直接聞けばいいのかもしれないが、彼女がその気ならとっくに俺に正体を明かしている筈だ。それをしないと言う事は何らかの事情があるのだろう。不用意な真似をすれば彼女に危険が及ぶかもしれないので、今はただ静観するしかなかった。

 

 

 

 

 そんな風に時は流れ、暦は6月。衣替えの季節となった。

 IS学園は制服の改造が自由だ。右胸に臙脂色のワンポイントの付いた白いブラウスに臙脂色のスカートといった基本形から自分好みに改造をするのが流行っていて、必然的に様々なバリエーションが誕生した。

 

 

 朝のトレーニングから帰ると、珍しく起きていた明日奈が夏服を着ていた。

 

「どう、兄さん?」

 

 俺の前でくるりと回る明日奈に俺はしばらく見蕩れていた。既定よりスカートをミニにしたくらいでほとんどノーマルのままだったが、この制服は明日奈の為にデザインされたと言い切れるくらい、彼女に良く似合っていた。

 俺がそういうと、明日奈は嬉しそうに笑った。

 

 

 

 教室に入ると、皆も当然夏服になっていた。

 大幅な改造をしている娘はいないが、スカートをキュロットにしたり、ブラウスをノースリーブにしたり、ちょっとした小物を添えたりして、自分好みに彩っている。見目麗しい美少女達の色とりどりの夏服姿に満足して頷いていたら、明日奈からヒジ鉄を食らった。何故だ。

 

「おはよう、志狼」

 

 席に着くと、デュノアが挨拶して来た。当然彼女も俺と同じ男子用の夏服を着ているのに、「学園の王子様」と呼ばれているデュノアが着ると、妙な高級感を醸し出していた。

 それにしても・・・・無いな。上手く隠してるのか、元々無いのか分からないが、見事に真っ平らだ。これなら正体を知らなければ小柄な可愛い系の男子だと納得してしまいそうだ。

 

「何だろう・・・・物凄く失礼な事を思われてる気がする」

 

 妙に迫力のある笑顔で呟くデュノア。勘のいい奴め。

 そんな事をしていると、先生達が来て、授業が始まった。

 

 

 

 

 

 次の日、登校すると教室内が異様な緊張感に包まれていた。何があったのか事情通のナギに聞いてみると、昨日の放課後、織斑とボーデヴィッヒの間で諍いがあったらしい。

 アリーナでデュノアと訓練していた織斑にボーデヴィッヒが喧嘩を売ったが、織斑が買わないと見るや他にも大勢の生徒がいる中でいきなり実弾を発砲、織斑はデュノアに守られて無事だが、監督していた教師が注意するもボーデヴィッヒは無視して消えてしまい、遺恨が残る形になったそうだ。

 教室内を見渡すと、織斑もボーデヴィッヒも自分の席に着いたまま互いを見ようともしない。

 

(うちのクラスは問題児ばかりか)

 

 俺は思わず天を仰いだ。大勢の生徒がいる中、実弾を発砲したと言うボーデヴィッヒは安全規定違反で罰せられるべきだが、彼女に反省文や奉仕活動をさせようとしても、平気でサボりそうだし、問い詰めても無視されるのがオチだろう。

 いっその事、織斑先生に話しかけるの禁止とか5m以内に近付くの禁止とかにした方が彼女には堪えるのではないだろうか。 後で先生に相談してみよう。

 

 

 

 

「しろくん見~~つけた!」

 

 昼休み。皆と昼食を終え、ボーデヴィッヒの件で織斑先生を訪ねようとしていた俺の腕になのはさんが抱き付いて来た。

 

「こんにちは、なのはさん。フェイトさんも」

 

 なのはさんとその後ろにいるフェイトさんに挨拶する。

 

「うん。こんにちは」

 

「こんにちは~。ねえ、そんな事よりいつ私と戦ってくれるの?もうクラス対抗戦が終わって随分経つよ?」

 

 そう言えばクラス対抗戦の開会式の時、対抗戦が終わったら戦おうと約束していたんだった。無人機の襲撃や中間試験、更には転校生問題などが重なってすっかり忘れていた。

 

「すいません。色々あってすっかり後回しにしてました」

 

 俺の台詞になのはさんはため息を吐く。

 

「ハア、まあ今年のクラス対抗戦は色々あったしねえ。・・・・じゃあ今日やらない? 訓練用に第1アリーナを確保してあるんだけど?」

 

 なのはさんが上目遣いで俺を見る。急ではあるがなのはさん程の実力者と戦える機会なんて滅多にない。本人から申し出てくれてるのだから、乗らない手はない。

 

「分かりました。お相手願います」

 

 俺がそう言うと、なのはさんは満面の笑顔で大きく頷いた。

 

「うん! それじゃあ放課後、第1アリーナでね!!」

 

 なのはさんは嬉しそうに駆けて行った。そんななのはさんを見送ると、何故かフェイトさんがじっと俺を見つめていた。そう言えばこの人とは挨拶する程度でまともに会話した事なかったな。

 

「あの、何か?」

 

 改めて見ると、この人物凄い美人だ。腰まである長い金髪と紅い瞳。表情は変化に乏しいが、まるで人形のように整った美貌は笑えばもっと可愛いのにと残念に思える。真面目な性格なのか、ほとんどノーマルの夏服は胸元が大きく盛り上がり、更にキュッと締まったウエストや長い美脚が抜群のスタイルを想像させる。

 美人には妹達で耐性が出来ている筈の俺が、見つめられて緊張してしまう。

 

「結城志狼──シロウって呼んでもいいかな?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

「ありがとう・・・・シロウ、今日のなのはとのバトルの前に私と戦ってくれないかな?」

 

「? 何故ですか?」

 

 突然の申し出に戸惑いを隠せない。

 

「試してみたいの。貴方の力を」

 

 成る程。要するになのはさんと戦うのに俺が相応しいのか見極めようと言うのだろう。

 

「いいですよ。但しなのはさんの了承は貴女が取って下さいね」

 

「分かった。それじゃあ放課後に」 

 

 それだけ言うと、フェイトさんは踵を返して去って行った。

 いきなり大勝負をする事になった。正直ボーデヴィッヒどころではなくなった。取り敢えず本音に連絡して協力を仰ぐとしよう。

 

 

~side end

 

 

 

 

~all side

 

 

 放課後。第1アリーナではなのはとフェイトの2人がISスーツを着て、志狼を待っていた。

 

「もう。いい加減機嫌直して、なのは」

 

「ふーんだ。フェイトちゃんなんて知らないよーだ」

 

 なのはは見るからにむくれていた。楽しみにしていた志狼とのバトル。なのに自分より先にフェイトが戦うと言うのだから、なのはからすれば楽しみを奪われた気分なのだろう。さっきからずっとこの調子だ。

 ただ、それでもフェイトが先に戦うのを許す辺りが、なのはのフェイトに対する信頼を表している。

 

 

「来た」

 

 フェイトの声になのははチラリ視線を向けると、ISスーツに着替えた志狼が入って来た。

 

「お待たせしました。で? どちらが先です?」

 

「私」

 

 一歩前に出たフェイトと明後日の方向を向いてむくれているなのはを見て、志狼は苦笑した。

 

「それじゃあ始めましょうか。・・・・なのはさん?」

 

 志狼の声に促され、なのははアリーナから出てピットへ向かう。

 なのはがアリーナから出たのを確認すると、志狼は携帯端末を操作してアリーナの模擬戦機能を立ち上げた。出入り口がロックされ、観客席にシールドバリアが張られて、準備が完了した。

 

「準備完了。行くぞ、孤狼」

 

 志狼の喚ぶ声に腕時計が赤い光を放つ。光が収まると、そこには全身装甲型の赤いIS、孤狼の姿があった。

 

「行くよ、バルディッシュ」

 

『Yes,sir』

 

 フェイトの喚ぶ声にISコアが応えると、手にした金色のブローチが光を放った。光が収まると、そこには鋭角的なフォルムをした漆黒のISがあった。

 イタリア代表候補生序列1位、フェイト・T・ハラオウン専用機、中・近距離戦用第2世代機「バルディッシュ」。世界で10機しかない二次移行(セカンドシフト)機のひとつだ。

 

 

 フェイトはバルディッシュの手に専用武器「可変型カートリッジ式機動戦斧・ライトニング」をコールすると、演武をするように一回転させて構える。

 その戦斧捌きに歴戦の操縦者たる風格を感じ、志狼は気を引き締めた。

 

 双方の準備が整い、カウントがスタートする。

 

 Wピットでは次の対戦相手であるなのはが、Eピットでは志狼の専属整備士である本音が、観客席ではなのはの教え子であるティアナとスバルを始め、噂を聞き付けて見学に来た何人もの生徒達が、固唾を飲んで試合開始を待つ。

 そして──カウントがゼロになる。

 

 

 試合開始のブザーが鳴ると同時に、2機のISは互いの最高速度で突撃し、アリーナ中央で激突した。

 ヴァリアブル・ナックルとライトニングが激突し、凄まじい轟音と衝撃が観客席のシールドバリアを揺らす。

 

「きゃっ!?」

「なっ!?」

 

 衝撃を受けてシールドバリアが明滅する。その光景に見学していた生徒達が悲鳴を上げる。 

 

 

 

 

 

「いきなり激突とは・・・・少しは様子を見るべきじゃないのか?」

 

「ううん。正しい判断だよ箒。フェイトさん相手に先手を譲るような真似はしちゃ駄目」

 

「何故だ?」

 

「フェイトさんは速度重視の戦い方をする方なんです。その方相手に様子見なんてしていたら、あっと言う間に斬り刻まれて終わりですわ」

 

「! それ程なのか・・・・」

 

「ええ。(わたくし)達のひとつ上の代には日頃の活躍から学園より特別な称号を授かった方が3人います。1人は『学園最強』と呼ばれる更識楯無生徒会長。2人目は『学園最高』と呼ばれるなのはさん。そして3人目のフェイトさんは『学園最速』と呼ばれていますの」

 

「学園最速!?」

 

「そう。そしてその速さ故に付いた二つ名が『雷光』」

 

「雷光・・・・」

 

 箒の疑問に明日奈とセシリアが答える。バトルは互いの距離の奪い合いになっていた。

 

 

 

 

 ライトニングのような長柄の武器はある程度距離が離れてないと威力を発揮出来ない。志狼は懐に入り込もうと接近を試みるが、フェイトはそうはさせじと距離を取る。

 

(驚いた。彼、強い───!)

 

 装甲の厚い鈍重そうな見た目に対して孤狼の動きは速い。機体各部にある複数のバーニアがそれを可能にしているのだが、一歩操作を誤れば体勢を崩し吹っ飛び兼ねないと言うのに、志狼は見事に孤狼を操っている。ISを扱い始めてまだ2ヶ月とは思えない操縦技術だ。

 元日本代表候補生序列1位、「銃央矛塵(キリングシールド)」の二つ名を持つ山田真耶教諭の教えを受けているとは言え、それだけとは思えない。

 

(彼は決してなのはのような天才では無い。善い師に恵まれ、善きライバルと戦い、たゆまぬ努力を続けて来た───彼はきっと、そんな(ひと))

 

 バルディッシュを操り、志狼の攻撃を回避しながら、フェイトはそう志狼を分析する。

 

(彼は全力で戦うに価する。ならば───)

 

 ある意味、この時初めてフェイトは志狼を認めたと言える。

 フェイトは迫る孤狼の拳をライトニングで受けると、そのまま大きく距離を取った。嫌な予感がした志狼は追撃せず、一旦様子を見る。

 

(何だ? 何をする気だ?)

 

 漠然とした不安を志狼は感じていた。

 

 

 

「うん、いいね。君は強い」

 

「・・・・どうも。それは認めて貰えたって事でしょうか?」

 

「そうだね。私は君を認めるよ。・・・・だからここからは──全力で行くよ?」

 

「!!」

 

 志狼は嫌な予感が的中した事を悟った。

 

(──やはりまだ本気じゃなかったか。集中しろ!ここからが本番だ!!)

 

 志狼は気合を入れ直す。そして、フェイトは静かに命令を下した。

 

「バルディッシュ、二次移行開始(セカンドシフト)───『バルディッシュ・アサルト』!!

 

『Yes,sir. 2nd sift start』

 

 フェイトの命にバルディッシュが応え、金色の光を発した。そして、光が止むとそこには漆黒の翼を拡げ、更に攻撃的になったバルディッシュの姿があった。

 

 

 

 

 

「へえ。フェイトちゃんがしろくんを認めたか。しろくん、集中してないと一瞬で終わっちゃうよ?」

 

 ピットでモニターを見ながら、なのはは嬉しそうに微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「あれがバルディッシュの二次移行(セカンドシフト)形態、『バルディッシュ・アサルト』か」

 

「でもティア、二次移行って一回したらそこで固定されるんじゃ無いの?」

 

「あのねスバル、二次移行には二つの形態があるのよ。ひとつは今貴女が言った完全変形型。一度変形したらそのままの姿で固定されるタイプよ。もうひとつは任意変形型。操縦者の意志で一次移行形態から二次移行形態に変形出来るタイプよ。二次移行機はエネルギーの消費が激しいわ。でも任意変形型は操縦者が任意で二次移行形態へ変形出来るから、エネルギーの消費を抑えられると言う利点があって、その上変形すれば、エネルギーとダメージが5割くらい回復するのよ。更にISは二次移行すれば1世代上の性能を発揮すると言われているわ。つまりバルディッシュ・アサルトは第3世代機に匹敵する性能を持っているのよ。

現在世界中で確認されてる二次移行機は10機あるけど、その中でも任意変形型はわずか2機、なのはさんとフェイトさんの2人だけよ」

 

 スバルはティアナの説明を聞いて電光掲示板を見ると、確かに3割程減っていたバルディッシュのSEやダメージが回復していた。

 機体性能も、操縦技術も、戦闘経験も上。そんな相手にどうやって勝てばいいのか───

 

「・・・・志狼さん、勝ち目無いんじゃない?」

 

「普通ならね。でも志狼ならもしかして───」

 

 言ったティアナ自身でさえ、その台詞が自分の願望でしかないと分かっていた。

 

 

 

 

 

 試合は一方的な展開になっていた。バルディッシュは戦闘型でありながら、並の高機動型よりも速い。その速さを生かして、先程からヒット&アウェイを繰り返していた。

 バルディッシュ・アサルトのスピードに翻弄され、孤狼はガードを固めるしかなく攻撃を受け続けていた。装甲の厚さと急所に至る攻撃は避けている為に致命傷こそないが、このままでは敗北は時間の問題だった。だが、

 

(本当に驚いた。私が攻めきれないなんて)

 

 ここに来て、フェイトはもうひとつ志狼の評価を上げた。フェイントのつもりの攻撃は装甲の厚い所で受けられ、必殺のつもりの攻撃は察知されて回避される。一方的に攻めているように見えるかもしれないが、その実フェイトは攻めあぐねていたのだ。

 

(彼は相当目と勘がいい。そして何より冷静だ)

 

 フェイトはガードを固めた孤狼のマスクの奥に、決して諦めないという闘志を燃やしている志狼の目を幻視した。いつしかフェイトは楽しげな笑みを浮かべていた。

 

(不思議──私がバトルを楽しいと思うなんて)

 

 フェイトにとってISバトルは、なのはと共に在る為の手段でしかなかった。

 昏く、寂しい場所から救い出してくれたなのは。そんな彼女がISに魅せられ、操縦者の道を選んだ時から自分の道も決まった。養母の国籍のあるイタリアに渡り、試験を受けて代表候補生、それもページワンになった。才能があったのか、いつの間にか序列1位になっていたが、それら全てはなのはと共にいたいという強い願いの為。だからフェイトは正直バトルが楽しいと思った事はないし、本当は誰かを傷付ける行為自体が好きではなかった。

 そんな自分が今、ISバトルを楽しいと感じている。こんな事は初めてだった。

 

(それなら、貴方はこれをどう受ける!?)

 

 フェイトは一旦、志狼から離れて、自身の最大火力を撃つ準備を始めた。

 

「バルディッシュ、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『雷神』発動!」

 

『Ignition』

 

 次の瞬間、バルディッシュから金色の光が溢れ出し、バリバリバリッという凄まじい音が鳴り響いた。

 その轟音と閃光に志狼は目を眩ませる。視力が回復した時、そこには──雷神が顕現していた。

 

 

 

 

 

「これがフェイトさんの単一仕様能力───初めて見たわ」

 

「『雷神』・・・・確かその身に雷を纏い、機体性能を一時的に上昇させる能力、でしたわね」

 

「それだけじゃ無いよセシリア。攻撃や防御にも雷を纏わせられるはずだよ」

 

「・・・・攻撃は何となく分かるんだが、防御にどう使うんだ?」

 

「攻撃は箒の想像通り、威力の増加。それに追加してスタン効果もあるの。つまり今のバルディッシュの攻撃を受けると、機体が一時的に動けなくなるわ」

 

「!?」

 

「そして、防御では機体が帯電して高熱を発してる為、周りの大気が歪んでしまい、レーザーなどの光学兵装は直進出来なくて届かないの」

 

「!!」

 

「加えて、触れればやはりスタン効果が発動して機体が動けなくなります」

 

「そんな、それじゃあ無敵じゃないか!」

 

「ある意味そうよ。でも欠点がない訳じゃない。あれだけの電力、消費するエネルギーは相当の筈。恐らく持って3分。3分耐えればフェイトさんも雷神を解除せざるを得ない筈よ」

 

「だが明日奈、あのバルディッシュの攻撃に、志狼は3分も耐えられるのか?」

 

「・・・・・・」

 

 箒の問いに、明日奈も、そしてセシリアも答える事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 フェイトは拡張領域から何か取り出した。それは何の変哲もない金属製の棒。30㎝程度の長さのその棒を握り締めると、金属棒が帯電する。金属棒を弾丸として、込められた電力が大きい程発射速度が増すその砲撃は所謂電磁投射砲(レールガン)と化す。その名は───

 

「フォトンランサー、発射(ファイア)!」

 

 バルディッシュの放った金属棒は強力な電気を纏い、雷神の槍(フォトンランサー)と化した。

 

「くっ!?」

 

 かろうじて回避出来た志狼だったが、その威力とスピードに戦慄する。

 その時既に第2射を用意したバルディッシュが再びフォトンランサーを放つ。今度もかろうじて回避する。3射目、4射目と撃たれ、5射目でフォトンランサーが孤狼の脚を掠めた。

 

「ぐあっ!!」

 

 フォトンランサーの電撃で一瞬、孤狼の動きが止まる。

 

「くっ、掠めただけでこの威力か!?」

 

 遅まきながらフォトンランサーの特殊効果を悟った志狼だったが、時既に遅く、バルディッシュの周囲には大量のフォトンランサーが滞空し、孤狼を狙っていた。その数約30!

 

「これが私の最大火力。フォトンランサー・ファランクスシフト、全弾発射(フルファイア)!!」

 

 孤狼に向け、大量のフォトンランサーが一斉に発射される。最早逃げ場はなく、絶体絶命の孤狼。だが、志狼は迫り来る敗北に立ち向かうように孤狼を前進させた。

 

「うおおおおーーーーっ!!」

 

 前進しつつ、両肩のカバーを開き、スクエア・クレイモアを発射。クレイモア地雷がフォトンランサーと接触し、道を切り開くべく8発それぞれが誘爆を起こす。

 凄まじい爆発が起こり、爆煙と轟音が周囲に巻き散らされる。

 

 眼下に広がる爆煙を見つめ、フェイトは気を引き締める。

 

(───来る!)

 

 フェイトがそう感じたのと同時に、狼の咆哮のような独特のブースト音を上げて、爆煙の中から孤狼が飛び出した。

 

 地を這うような低空飛行で自分の真下まで来て急上昇、その右腕には既にリボルビング・ステークが装備されている。 

 ここが勝負所とフェイトはライトニングを変形させる。

 

「バルディッシュ、ザンバーフォーム!」

 

『Yes,sir』

 

 フェイトの命にライトニングが変形する。戦斧だった部分が柄になり、そこから雷光の刃が形成され、ライトニングはバルディッシュの身の丈程もある大剣に姿を変えた。

 これがバルディッシュ・アサルトの最強形態『ザンバーフォーム』。フェイトは己が最強形態で孤狼を迎え撃つ。

 

「はああああーーーーっ!!」

 

「うおおおおーーーーっ!!」

 

 奇しくも試合開始時と同じく真っ正面からの激突と相成った。だが、やはり雷神を発動しているバルディッシュにスピードもパワーも分があり、このままでは孤狼の敗北は必至であった。しかし、

 

「───なっ!?」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動し、上昇していた孤狼が更に別のバーニアに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を発動させて急加速したのだ。

 瞬時加速中に更に瞬時加速を連続発動するこの技は二連瞬時加速(ダブルイグニッション)と呼ばれる高等技術であり、代表候補生でも使い手の少ない難度の高い技だった。

 

上昇していた孤狼に合わせ剣を降り下ろしていたバルディッシュは、孤狼が急加速した為、目標を一瞬見失う。刹那の攻防ではこの一瞬が命取りになる。この試合でバルディッシュの懐に初めて潜り込む事に成功した孤狼は、ここぞとばかりにステークを叩き突けた。

 

 

 

 

 

 鋼を撃ち突ける衝撃音が3度、アリーナに響いた。しかし───

 

「そうか・・・・防御にもスタン効果があったのか。迂闊だった・・・・」

 

「そうだね。君は本当に強かったよシロウ。

・・・・でも今回は私の勝ちだ!!」

 

 

 雷神発動中のバルディッシュ・アサルトには雷撃防御と呼ばれる触れる者にスタン効果を与える防御壁が張られている。

 フォトンランサーを受けた時、その可能性に気付いていれば、時間切れで雷神が解除されていれば、ステークを全弾撃ち尽くせていれば、たらればを言い出したらきりがない。だが───

 

 

 スタン効果で動きを止めた孤狼に向け、バルディッシュは雷光の刃を降り下ろす。雷が落ちたかのような凄まじい轟音の後、孤狼が落下した。

 

 

 

 

 試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 試合時間12分32秒、孤狼は敗北した。

 

 

 

 

 

 終わってみれば順当な結果だろう。相手は代表候補生、しかも序列1位、更に機体は二次移行機だ。操縦技術も、機体性能も、戦闘経験も上の相手に善戦したと言える。だが、それでも───

 

(───負けた)

 

 志狼の胸にあるのは、ただ悔しさだけだった。

 志狼とて今まで負けた事は何度もある。だがISバトルで負ける事がこんなに悔しいとは思わなかった。

 

「シロウ、大丈夫?」

 

 バルディッシュが降りて来て、手を差し伸べた。志狼は複雑な気持ちを隠してその手を取る。

 

「大丈夫・・・・完敗です。ありがとうございました」

 

 孤狼のマスクを開いて、フェイトに礼をする志狼。一方フェイトは、

 

「やめて、お礼を言うのは私の方。バトルがこんなに楽しいと思えたのは初めて。君はとても強かった、本当だよ?」

 

 フェイトの言葉に志狼は苦笑を浮かべる。

 

「楽しかったか・・・・ありがとう、力を付けてまた挑戦します。その時は受けて下さいね」

 

「あ、うん。喜んで」

 

 2人はISに乗ったまま、握手を交わした。

 

 

 

 

「それじゃあ一旦ピットに下がります。試合開始の目途が付いたら連絡しますから、なのはさんに伝えといて下さい」

 

「うん、分かった」

 

 志狼とフェイトは互いに反対側のピットに向かう。Eピットに入った志狼を本音と、何故か簪が出迎えた。

 

「志狼さん、お疲れさまです」

 

「簪? 何でここに」

 

「お手伝いに来てくれたの。それよりしろりん、孤狼を整備台へ」

 

「了解」

 

 孤狼を整備台へ駐機すると同時に本音が機体に取り付いてノートパソコンを繋げると、ダメージチェックを始める。孤狼を降りた志狼に簪がドリンクを差し出した。

 

「ありがとう」

 

 ドリンクを受け取ると、志狼はゴクゴクと喉を鳴らしてドリンクを飲み干した。中身は麦茶だった。

 

(簪の好みなのかな?)

 

 こう言う時は普通スポーツドリンクじゃないかとも思ったが、自分も麦茶は好きなので、まあいいかと納得する。

 

「どうだ本音?」

 

「ちょっと待って・・・・うん、大丈夫みたい。言い方は悪いかもだけど、巧くやられてるから、いくつかパーツを取り替えれば行けそうだよ?」 

 

 ノートパソコンを操作しながら本音が言った。

 

「よし!しろりん、すぐ修理するから20、いや15分待って」

 

「分かった、よろしく頼む」

 

「うん! かんちゃん手伝って~~」

 

「うん、解った」

 

 本音が簪に指示して孤狼の修理を始める。志狼はその間にプライベートチャネルでなのはに連絡を取った。

 

(なのはさん、志狼です。孤狼の修理と補給に15分かかるそうです。20分後に試合開始って事でいいですか?)

 

(了解でーす。・・・・ねえ、しろくんは大丈夫?)

 

 どうやら志狼を心配しているらしいなのはに、思わず苦笑が浮かんだ。

 

(正直へこんでます。でもこの悔しさはフェイトさんの親友の貴女にぶつけさせて貰いますから覚悟して下さい)

 

(あはは、その調子なら大丈夫そうだね。それじゃあ20分後に)

 

 通信を終えた志狼は何となく孤狼を見つめていた。そんな志狼に作業しながら簪が話しかける。

 

「でも最後の二連瞬時加速(ダブルイグニッション)には驚きました。志狼さん、いつの間にあんな高等技術出来るようになったんです?」

 

 しかし志狼は驚いた顔で聞き返す。

 

「二連瞬時加速?・・・・俺やってた?」 

 

「「えええっ!?」」

 

 これには本音も驚き、声を上げる。

 

「しろりん、無意識にやったの~?」

 

「・・・・ああ。最近真耶先生から孤狼のどのバーニアでも瞬時加速出来るようにしろと言われて、その練習ばかりしてたんだ。練習中は1度も成功しなかったんだが・・・・そうか、出来たのか」

 

「成る程、下地は出来てた訳ですか。でもこれは大きな武器になりますよ」

 

「ああ、そうだな・・・・」

 

 簪にはそう言われたが、志狼は自分に成功した感覚がない二連瞬時加速を当てにするのは危険な気がした。とてもなのは戦では使えないだろう。

 

「よし、しろりんお待たせ。準備完了だよ~」

 

「ああ、ありがとう」

 

 整備が完了した孤狼に近付き、乗り込む。

 

「志狼さん、ひとつだけアドバイスを。なのはさん相手に長期戦は愚策です。やるなら短期決戦で決めて下さい」

 

 出撃準備をする志狼に簪が話しかける。

 

「だがあの人は砲撃戦特化だ。懐に入るにも時間がかかるぞ?」

 

「それでもです。じゃないとなのはさんには絶対勝てません」

 

「・・・・・・」

 

「それとね、なのはさんが砲撃戦特化と言っても、不用意に近付くのも危険だよ~」

 

「本音?」

 

「本音の言う通りです。なのはさんを倒すなら接近戦でと考えた対戦相手は山程います。でもなのはさんはその悉くを逆に倒して来ました」

 

「なのはさんの異名はいくつもあるけど、その中にはこう言うのもあるの。『近接殺し』って」

 

「マジか・・・・」

 

「「マジです(だよ~)」」

 

 志狼は2人の話を聞き、しばし考え込む。モニターを見ると、既にレイジングハートを纏ったなのはがアリーナで待ち構えていた。

 

「2人共ありがとう、気を付けるよ。・・・・よし、行って来る!」

 

 ハッチが閉じて孤狼が起動する。簪と本音が孤狼から離れたのを確認して、志狼はカタパルトに乗った。

 

「結城志狼、『孤狼』出るぞ!」

 

 志狼の声に本音がスイッチを押す。2人に見送られ、孤狼はアリーナに飛び出した。

 

 

 

 

「あ、来た!」

 

「鈴、志狼が出て来ましたよ」

 

「ん~、やっと? 随分待たせたわね」

 

 アリーナの観客席の一画で乱、ヴィシュヌ、鈴の3人がピットから出て来た孤狼に注目する。

 

「あの『不沈要塞』相手に志狼さん、どう戦うつもりかしら」

 

「どうもこうも操縦技術も、機体性能も、戦闘経験も上の相手よ。さっきのハラオウン先輩の時と同じで志狼に勝ち目なんて無いわよ」

 

「あら? 確かISを本格的に扱って4ヶ月で国家代表に勝った人がいた筈ですけど?」

 

 ヴィシュヌは珍しく揶揄うような顔をして、鈴を見る。

 

「ぐっ、そ、それはアタシだからよ!アタシってほら、天才だし」

 

「あ~、はいはい。天才天才」

 

「ム、何よ乱、何か文句あるの?」

 

「別に~~」

 

「2人共その辺で。始まりますよ」

 

 ヴィシュヌに嗜められ、鈴と乱もアリーナに注目する。アリーナでは孤狼とレイジングハートのバトルが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

「さて、いよいよだね。用意はいい?」

 

「ええ、胸を貸して貰いますよ」

 

「・・・・しろくんのエッチ」

 

「そう言う意味じゃねーよ」

 

 軽口を叩きながらも緊張感を高める2人。カウントがゼロになり、試合開始を告げるブザーが鳴った。

 

 

 

 大方の予想通り、開始早々孤狼が突っ込んだ。当然なのはも予想していたようで、冷静に対処しようとする。だが志狼はここで左腕にグランディネをコールし、発砲した。

 

「ええ!?」

 

 今までと違う行動に虚を突かれ、被弾するなのは。なのはが一瞬、孤狼から目を離した隙に孤狼が姿を消した。なのははハイパーセンサーで孤狼を捜すと、頭上に反応があった。

 右腕にリボルビング・ステークをコールし、孤狼がレイジングハートに襲いかかる。

 

「くううっ!?」

 

 スターライトを頭上に構えて孤狼の突撃を防ごうとするなのは。しかし孤狼の勢いを止められず、ステークの一撃を食らって吹き飛ばされた。

 

「きゃあああっ!!」

 

 レイジングハートは今までの攻防で既に2割のSEを失っていた。

 孤狼は逃がすまいと追撃するが、なのはは咄嗟にアクセルシューターを発射して牽制する。だが、孤狼はガードを固めたまま突っ込み、当たるアクセルシューターを物ともせず、リボルビング・ステークを撃ち込んだ。

 

「きゃあああっ!!」

 

 更に2発ステークが撃ち込まれ、レイジングハートのSEが削られる。流石のなのはもこれ以上はマズイと判断して全速力で後退した。

 

 

 

 

「志狼、凄い・・・・」

 

 観客席で試合を見ていたシャルルは志狼の戦いに感嘆の声を上げた。試合前の予想を覆し、あの学園最高を相手に優勢に試合を進める志狼に素直に驚いていた。

 

「凄いや。ね、一夏!」

 

「・・・・ああ、そうだな」

 

 隣にいた一夏が不機嫌そうに答える。そんな一夏の態度を不思議に思いながら、シャルルはアリーナに目を向けた。

 

 

 

 

「驚きました。まさかあの高町なのはさん相手にここまで戦えるとは・・・・」

 

「うん! 凄い! 凄いよ志狼さん!」

 

「・・・・マジ?」

 

 志狼の思わぬ優勢にヴィシュヌは驚き、乱は目を輝かせ、そして鈴は呆然としていた。

 

 

 

 

「い、行けるんじゃないか? この試合」

 

「確かに志狼さまの動きは予想以上にいいです。ですが──」

 

「──うん。なのはさんはまだ本気じゃない。むしろ勝負はこれからだよ、箒」

 

 素直に志狼の優勢を喜ぶ箒。だが、セシリアと明日奈はこの先の展開を思い、顔を曇らせた。

 

 

 

 

「全く、やってくれるね、しろくん。いきなりここまでやるとは思わなかったよ」

 

「喜んで貰えましたか?」

 

「うん。だからここからは全力で相手するよ! レイジングハート、二次移行開始(セカンドシフト)──レイジングハート・エクセリオン!

 

『All light my master. 2nd sift start』

 

 なのはの声にISコアが応え、レイジングハートが桜色の光に包まれる。光が収まった時、純白の翼を拡げた白き天使が降臨した。

 

 レイジングハート・エクセリオン。

 日本代表候補生序列1位、高町なのはの専用機が今、その真の姿を顕した。

 

 

 

 

 

「変形しただと!?」

 

「綺麗・・・・・・」

 

 レイジングハート・エクセリオンを見て、一夏とシャルルは感嘆の声を上げた。

 

 

 

 

 

「ほう・・・・イタリアに続き日本の1位まで奥の手を見せてくれるとは。案外使えるかも知れんな、あの男」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒが観客席の片隅で眼帯をしてない紅い右眼を光らせた。

 

 

 

 

 

 レイジングハート・エクセリオンは変形を完了すると、純白の翼を羽撃かせ、一気にアリーナの限界高度の2000mに到達した。

 

「! 疾いっ!!」

 

 あっという間に置いて行かれ、追おうとした時にはなのはは既にスターライトを構えていた。

 

「ディバイン・バスターーーッ!!」

 

 スターライトを長距離砲撃用のバスターモードに変形させて、孤狼に得意の砲撃を撃ち込む。二次移行してパワーアップしたのはレイジングハートだけではない。専用武装であるスターライトもまたパワーアップしていた。

 このバスターモードは通常時のカノンモードと同様、最も使用頻度が高く、なのはにとっても扱い慣れた形態。そしてその威力はカノンモードを遥かに凌ぐ。

 

「くっ!!」 

 

 上空からの砲撃を孤狼が辛うじて避けると、グラウンドに直撃した砲撃はそのまま地面を灼き、大穴を空けた。

 

 

 

 

「・・・・・・何て威力よ」

 

「いつものなのはさんの砲撃と全然違うよ~!?」

 

 なのはの教え子であるティアナとスバルは、自分達との訓練時に見せるのとは比較にならない威力の砲撃に驚愕していた。

 なのはの課す訓練は2人にとってかなり厳しいものだったが、あれでもまだ手加減されてたのだと思い知って、2人は背筋を震わせた。

 

 

 

 

 

 試合は先程とは打って変わって、なのは優勢で進んでいた。

 バトルに於いて頭上を取られるのは明らかに不利。加えてなのはのレイジングハート・エクセリオンは砲撃戦特化型。自分には無い遠距離攻撃を主体に攻めて来る相手に対し、近付かねば何も出来ない自分に志狼は歯噛みする。

 

「くっ、近付けさえすれば!」

 

 志狼とて先程から必死に距離を詰めようとしているが、一定の距離まで近付くと、なのははまた離れてしまうのだ。自分が必死に追い付こうと飛んでるのに、なのははどこまでも軽やかに宙を舞っている。その姿は実に自然で美しく、志狼は試合中だと言うのに思わず見惚れていた。

 

 そんな風に見惚れてると砲撃が飛んで来て、志狼は慌てて回避する。なのはの砲撃は純エネルギー砲撃。エネルギーを消費はするが、レーザーやビームとは違いエネルギー自体を圧縮し、砲弾として撃っているのでABフィールドでは防げない。当たれば孤狼とて大ダメージを受けてしまうので、避けるしかない。

 しかしこれだけ砲撃を続ければエネルギーが尽きてもおかしくないのに一向にそんな気配が見えない。不審に思う志狼の目に、宙を漂っていた桜色の光がレイジングハート・エクセリオンに吸い込まれて行くのが見えた。

 

「何だあれは?」

 

 怪訝に思い、周りを良く見てみるとひとつだけではなく、無数の桜色の光がアリーナ中から集まって、レイジングハート・エクセリオンに吸い込まれていた。

 

「どうやら気付いたみたいだね。この桜色の光は私の単一仕様能力だよ」

 

「!?」

 

 

 

 ───単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)『暴食』

 

 

 常時発動型のこの能力は、ナノマシンで構成された桜色の光を周りに放出するだけの能力。ただ、この桜色の光は周囲に飛び散り、戦場に散ったエネルギーの残滓に付着すると、自機のエネルギーに変換して持ち帰る機能がある。

 自機が放出したエネルギーだけではなく、敵機の放出したエネルギーをも変換して自機のエネルギーとして吸収してしまう為、レイジングハートは事実上、エネルギー切れを起こさず戦い続ける事が出来る。

 強力な砲撃と尽きる事ないエネルギーで戦い続ける。なのはの二つ名「不沈要塞」はこの能力が由来である。

 

 

 

 

 なのはの説明を聞き、志狼は驚きを禁じ得なかった。確かになのはの「暴食」にフェイトの「雷神」や一夏の「零落白夜」のような派手さは無い。だがISバトルに於いてこれ程厄介な能力は無い。

 ISバトルは相手のSEを0にする事で勝敗が決まる。そのSE切れがなのはには無いと言うなら、彼女は事実上無敵だ。

 

(簪の言った意味がようやく分かった。こうなると俺に出来る事はひとつしかない!)

 

 志狼は意を決して、再びレイジングハート・エクセリオンを追う。なのはは孤狼が一定の距離まで近付いたので移動しようとした矢先、移動方向に向けて孤狼がグランディネを撃つ。グランディネの砲弾は広くばらまくように撃たれるので、なのはでも回避するのは難しく、方向転換を余儀なくされる。それを何度か繰り返す内になのはは志狼の狙いを理解した。

 

「そう言う事か・・・・本当にやってくれるね。しろくんは」

 

 気付けばなのははアリーナの外縁部に追い込まれていた。

 第1アリーナはアリーナの中でも広い方だが、アリーナ故に限界はある。志狼はボクシングで逃げる相手をコーナーに追い込むように、なのはをアリーナ外縁部まで追い詰めたのだ。ここまで来れば下に逃げるか、迎え撃つしかなのはには出来ない。だが志狼には確信があった。なのはは逃げない、と。

 果たして志狼の予想通り、なのははスターライトを構えて迎え撃たんとする。

 

「行くよレイジングハート。エクセリオンモード、発動(ドライブ)

 

『Yes,my master.excellon mode ignition』

 

 なのはの声に応え、スターライトが変形する。音叉のような形をしたバスターモードから先端が槍状の形をしたエクセリオンモードに変形した。

 

『A.C.S stand by』

 

 レイジングハート・エクセリオンのISコアがなのはの意を汲み、A .C .S (瞬間突撃システム)を起動し、砲身から光の翼が展開される。

 

「アクセルチャージャー起動。ストライクフレーム!」

 

『open』

 

 槍状の先端部から光の刃が伸び、変形が完了する。

 

 

 

 ───エクセリオンモードA.C.S。

 

 

 エクセリオンモードの突撃、至近及び零距離攻撃に特化した形態。この形態で突撃し、至近及び零距離からの砲撃でシールドバリアごと相手を貫き、粉砕するなのはの切り札的形態。

 

 

 

「エクセリオンバスターA.C.S、全力発動(フルドラーイブ)!!

 

 光の翼と刃を展開してレイジングハート・エクセリオンが孤狼に向けて突撃する。

 一方、孤狼もリボルビング・ステークを構えて突撃した

 

「やああああーーーーっ!!」

 

「うおおおおーーーーっ!!」

 

 アリーナ上空で激突する2機。光の刃とステークが衝突して互いのシールドバリアを貫かんとする。

 

「「貫けえええーーーーっ!!」」

 

 激突の結果は痛み分けだった。激突の衝撃で光の刃とステークが砕け散る。

 衝撃で体勢を崩した2機の内、先に体勢を立て直したのは孤狼だった。孤狼はここが勝負所とスクエア・クレイモアを撃とうとする。しかし、一瞬遅れて体勢を立て直したレイジングハート・エクセリオンは猛スピードで孤狼に接近して抱き付いた。

 

「くっ、何を!?」

 

「これだけくっつけば撃てないでしょ!?」

 

 抱き付かれ、両腕を封じられてる為、ヴァリアブル・ナックルもグランディネも撃てない。リボルビング・ステークは砕けた。スクエア・クレイモアは近すぎて爆発に自分まで巻き込まれる。

 孤狼の武装は全て封じられた、かに思えた。

 

「まだだあああーーーーっ!!」

 

 志狼の叫びに応え孤狼の頭部の角が赤熱する。

 

 

 

 ───頭角部エネルギー刃

    『ヒートホーン』

 

 

 クラス対抗戦で折れた孤狼の角を改修、強化したもの。エネルギーを纏わせた角は高熱を発し、鋭い切れ味を発揮する。切れ味は抜群だが、場所が場所だけに密着した状態でないと使えないのが欠点。

 

 

 

 密着した状態から孤狼がヘッドバットの要領でヒートホーンを降り下ろす。ヒートホーンがシールドバリアを灼き斬ろうとなのはに迫る。目の前に迫る赤熱の刃に流石のなのはも思わず手を離した。

 離れたのを機会にスクエア・クレイモアを発射しようとした孤狼の動きが急に止まる。

 

「何だ!?」

 

 急に動けなくなり焦る志狼。孤狼には光の鎖が幾重にも巻き付いて、動きを封じていたのだ。

 

 

 

 

 ───空間設置型トラップ

    『チェーンバインド』

 

 

 レイジングハートの特殊装備。青い迷彩塗装が施された20㎝程の立方体を任意の座標に設置し、敵機が近付くと光の鎖が飛び出して動きを封じるトラップ。

 主に体勢を立て直す時や、確実に砲撃を命中させる為の時間稼ぎに使われている。

 

 

 

 

『Star light bleaker, stand by』

 

 なのはは孤狼の直上に位置すると、スターライトを天に掲げた。スターライトの赤い宝玉の部分に周囲から桜色の光が集まって行く。光はやがて集束して、巨大な光の球となった。

 

 

 

 

 

「! ダメだよなのは! これは模擬戦なんだよ!?」

 

 Wピットでフェイトがモニターに向かって叫ぶ。しかし、時既に遅く、  

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 その光景を見た志狼は自分が絶体絶命の危機に追い込まれているのを悟り、必死にバインドを外そうと暴れるが、無情にも時は過ぎ去り、そして

 

 

「行くよしろくん。これが私の全力全開、スターライト・ブレイカーーーーっ!!

 

 集束砲。「暴食」により集めたエネルギーをひとつに束ねて放出するなのは最大の切り札。その破壊力は凄まじく、本来模擬戦で使っていい代物ではない。

 

 

 

 動けない孤狼に向けてなのははスターライトを降り下ろす。

 スターライト・ブレイカーが発射され、孤狼は光の中に消えた。

 

 

 

 

 極太の光の柱が消えると、そこにはSEを切らしてアリーナに倒れた孤狼の姿があった。

 

 

 

 試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 試合時間15分53秒、孤狼はこの日2度目の敗北を喫した。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 何だか周りが騒がしい。人の話し声が聞こえる。俺は何をしてたんだっけ? よく思い出せない。確か俺は・・・・・・

 

「志狼?」

 

 箒の声がすぐ側で聞こえる。俺はゆっくりと目を開いた。

 

「志狼? 私が分かるか?」

 

「志狼さま? お目覚めになりましたか?」

 

「箒? セシリア? 俺は・・・・・・!?」

 

 そうだ。俺はなのはさんと戦って・・・・負けたのだ。そう認識した途端にあの試合の光景がまざまざと浮かんで来た。バインドで動けない俺は為す術なく光の柱に飲み込まれ、意識を失ったのだ。

 今思い出しても身体が震える。良く生きてたな、俺。

 

「兄さん、目が覚めた?」

「シロウ、大丈夫?」

「しろりん平気~?」

「志狼さん、身体の具合はどうですか?」

 

 俺が目を覚ました事に気付いたのか、カーテンの向こう側で騒いでいた明日奈、フェイトさん、本音、簪が顔を見せる。

 

「ああ。頭がボーッとするくらいで、他に異常は無いみたいだ」

 

「そう、良かった・・・・」

 

 皆がホッと息を吐いた。その皆の後ろからまるで幽霊のような声が聞こえて来た。

 

「あの~、この度は誠に申し訳ありませんでした~」

 

 驚いて見てみると、なのはさんが憔悴しきった顔をして立っていた。

 

「なのはさん? 一体どうしたんです!?」

 

「ううう、しろくん。それがね」

 

「このバトル馬鹿にはきつくお灸をすえておいた」

 

 なのはさんの後ろから織斑先生が現れた。

 

「織斑先生? 一体何があったんです?」

 

「結城、試合で何があったか覚えているか?」

 

「はい・・・・確かなのはさんとの模擬戦中、馬鹿デカイ砲撃を食らって、気付いたらここに」

 

 織斑先生は俺の話を聞くと、額に手を当ててため息を吐いた。

 

「あの砲撃は集束砲と言うんだが、強力すぎて本来模擬戦での使用を禁止されてるものだ」

 

「はあ・・・・」

 

 良く分からない。まだ頭が上手く働いてないようだ。俺はなのはさんに目を向けると、彼女は酷く落ち込んでいるようだった。

 

「つまりだな。この馬鹿はやり過ぎた、と言う事だ」

 

「あうう、ご、ごめんなさ~~い」

 

 織斑先生に頭をシェイクされながらなのはさんが謝る。

 

「ごめんねシロウ。私も止めようとしたんだけど、間に合わなくて」

 

 フェイトさんが酷く悲しそうな顔で言う。何だかこの人にこんな顔をさせると、もの凄い罪悪感を感じるな。

 

「いや、フェイトさんは何も悪くないですし」

 

「ううん。なのはを止められなかった私にも責任はあるよ。せめてものお詫びに今夜は私が付きっきりで看病するから」

 

「「「「はああっ!?」」」」

 

 俺より先に周りの娘達から声が上がった。

 

「いや・・・・て言うか俺、そんなに重体なのか?」

 

「ううん。明日は土曜日だから一応大事を取って今夜は泊まってけって涼子先生が」

 

 俺の疑問に明日奈が答えてくれた。それを聞いて一応安心はしたんだが、

 

「あ~、フェイトさん? ただ寝てるだけですから看病の必要は・・・・」

 

「そうです! 看病なら妹の私が!」

 

「あすにゃんズル~い! なら専属整備士の私が~♪」

 

「本音は整備士なんだから先に孤狼の面倒を見なくちゃ駄目。ここは同じクラス代表のよしみで私が」

 

「あ~、それなら私も簪と同じって事で。べ、別にやりたい訳じゃないわよ。ただ志狼がどうしてもって言うならやってもいいかなって・・・・

 

「うわあ~、ティア、ツンデレ乙」

 

「うっさい、スバル!」

 

「あら、簪さんもティアナさんも他のクラスでしょう。ここはやはり同じクラスの副代表であり、パートナーでもあるこの(わたくし)が」

 

「ちょっと待て! いつからセシリアが志狼のパートナーになったんだ!」

 

「何をおっしゃるの箒さん。副代表と言えば代表の右腕。すなわちパートナーと言う事ですわ!」

 

「なんとまあ、無茶苦茶言ってるわね」

 

「あ、じゃあ一番年下の私が。なんちて」

 

「鈴、乱、どうやら無駄みたいです。誰も聞いてません」

 

「あ、それなら加害者である私が」

 

「お前はこれから反省文だ、高町」

 

「ふええええーーーっ! あ痛たた!耳引っ張らないで織斑先生!」

 

 何かもうカオスだった。皆の厚意は嬉しいんだが、これでは身体を休める事など出来やしない。そんな時、

 

 

「何をしてるんです皆さん! ここがどこだか分かってるんですか!?」

 

 

 誰であろう真耶先生が、普段上げた事のない怒鳴り声を上げ、皆を黙らせた。

 

 

「病室で騒ぐんじゃありません! 志狼君がちっとも休めないでしょう!?」

 

 

「「「「す、すいませ~~~ん!!」」」」

 

 普段怒らない人が怒ると怖いとは良く言われるが、真耶先生は正にその典型だった。

 

「先輩もこう言う時はすぐに止めて下さい!」

 

「う、すまん」

 

 現にあの織斑先生ですらタジタジになっている。真耶先生は一同にジッと睨みを効かせると、おもむろにため息を吐いた。

 

「皆さんは解散して下さい。志狼君は私が看てますから」

 

「「「「えええええーーーーっ!!」」」」

 

「い・い・で・す・ね」

 

「「「「は、はいいいい~~~」」」」

 

 真耶先生にそう言われ、皆は不満の声を上げたが、真耶先生の笑顔の前に納得せざるを得なかった。

 

 

 

 

 皆が出て行って真耶先生と2人きりになった。

 

「さて志狼君、お説教です」

 

 真耶先生がにこやかに宣言する。

 

「え!? な、何で?」

 

「何で? あんな無茶をしておいて私が何も言わないとでも?」

 

「あ、はい・・・・」

 

 そしてお説教が始まった。とは言っても俺の体調を考慮して軽いお小言だけで済ませてくれた。その後、どんな試合展開だったか聞かれたので、覚えてる範囲でその都度どんな事を考えたかを交えて説明した。

 俺の説明を聞き終えた真耶先生は考えをまとめるかのように目を閉じた。やがて目を開いた先生は真っ直ぐ俺を見つめ訊ねた。

 

「ねえ志狼君。さっき負けて悔しかったって、そう言いましたよね?」

 

「・・・・はい」

 

「それはどうして?」

 

「どうしてって・・・・負けたら悔しいに決まってるじゃないですか」

 

「そうですか? 以前の、それこそ入学して間もない頃の貴方ならここまで悔しがりはしなかったんじゃないですか?」

 

「! それは・・・・そうかも知れませんが」

 

「私と放課後の訓練を始めてからしばらく経った頃、休憩中に貴方はこう言いました。“IS操縦者になるのは仕方がない。でも医者になる夢も捨てきれない。だから自分は操縦者としては平均より少し上であればいい。サンプルとしてデータを提供するならそれで充分だし、最強の座になんて興味はない。教えてくれる私には悪いけど、将来までISにドップリ浸かる気はない”

って」

 

 それはクラス対抗戦の少し前、対抗戦に向けて訓練が厳しくなって来た頃、休憩中にした雑談で真耶先生に将来の事を聞かれて言ったのだが、我ながら教えてくれる人の前でとんでもない事を言ったもんだ。

 

「志狼君。貴方の考えは今も変わってませんか?」

 

「それは・・・・」

 

 どうしてだろう。俺は即答出来なかった。

 

「私にはこう見えます。志狼君、貴方はISバトルが面白くなって来たんじゃありませんか?」

 

「!?」

 

 言われてみれば思い当たる事はいくつもある。セシリアやティアナとのバトル、無人機との実戦、目の当たりにした煌坂の戦闘、そして今日の2人とのバトル。どれも俺の血を熱くする出来事ばかりだ。

 だが俺は敢えて考えないようにして来た。だってそれは───

 

「・・・・もしかして、お母さまに対する裏切りだと思ってませんか?」

 

「!!」

 

 自分でも顔が強張っているのが分かる。真耶先生の一言は俺が目を背けて来た事を白日の元に晒す結果になった。

 

「貴方が亡きお母さまに対して負い目を背負っているのは理解しているつもりです。だからと言って自分の心を偽ってまで約束を叶えて欲しいとはお母さまも思ってないんじゃないでしょうか?」

 

「心を、偽る・・・・?」

 

「はい。確かに亡きお母さまとの約束を叶えようと貴方は今まで努力して来たのでしょう。でもそれに固執して自分の本当にやりたい事を我慢する必要はないと私は思いますよ」

 

 俺の本当にやりたい事──それは一体何だろう。思えば勉強は勿論、ボクシングを始めたのも医者に必要な体力作りの一環だし、医療NGOのボランティアに参加したのも将来医者になる為にして来た事だ。

 だが、これらは必要と思いやって来た事で、俺のやりたい事かと問われると分からなくなってしまう。俺は───

 

 色んな考えがグルグル回って分からなくなって来た。その時、不意に柔らかく温かな感触が俺の頭を包む。

 

「ごめんなさい。ちょっと急過ぎましたね。だって、嬉しかったんです、私」

 

「・・・・真耶先生?」

 

 真耶先生は俺の頭をその豊満過ぎる胸に抱いて話を続ける。

 

「だって志狼君が“悔しい”なんて言うとは思わなかったんですもの。悔しいって事は本気で取り組んでるからこそ出る言葉です。貴方がそれだけISバトルに本気になってくれた。私はそれがとても嬉しかったんです」

 

 そうかもしれない。少し前の俺だったらなのはさんとフェイトさんに負けてもやっぱりな、と納得してしまい、悔しがる事は無かっただろう。

 

「ねえ志狼君。時間はまだあります。貴方が将来どんな道を選ぶのか私には分かりませんが、どうか自分の心を偽らないで。貴方のやりたい事を貴方の心のままにやってみて下さい。その為の手助けなら私がいくらでもしますから」

 

 真耶先生の俺を抱く手に力が籠る。その温かさにかつての母の温もりを思い出してしまう。

 

「・・・・いいんでしょうか? 俺は母さんと喧嘩して、謝る事の出来ないまま永遠に逢えなくなってしまいました。そんな俺が母さんの為に出来るのは、生前約束した医者になる事だけだと思って今までやって来ました。なのに今更俺が自分のやりたい事を見付けて、やってもいいんでしょうか?」

 

 俺は今まで誰にも話した事のない自分の正直な気持ちを吐露した。

 

「いいんですよ。貴方は最初の高校生活をお母さまの為に頑張りました。だったらこの二度目の高校生活は自分の為に使ってもいいじゃないですか。それに志狼君はひとつ間違っています。貴方が亡きお母さまの為に出来る事は医者になる事だけじゃありませんよ」

 

「・・・・先生?」

 

「貴方が幸せになる事。それが一番お母さまの為になる事です」

 

「!!」

 

 真耶先生の言葉に不意に涙が滲んで来る。それを見られたくなくて先生の胸に顔を強く押し付ける。先生は何も言わず、そのまま俺を抱きしめてくれた。

 

「・・・・先生って凄いですね」

 

 俺がそう言うと、真耶先生はちょっぴり悪戯っぽい笑顔を浮かべて言った。

 

「そうですよ。だって私は貴方の先生ですから!」

 

 

 

 

 しばらくして病室に回診に来た涼子先生のニヤニヤ笑いに、俺を抱きしめてる事に気付いた真耶先生は真っ赤になって病室を出て行った。

 涼子先生に「お邪魔だったかしら?」と聞かれたが、苦笑するしかなかった。

 

 涼子先生が出て行き、1人になった病室で、俺は真耶先生に言われた事を考えてみる。

 俺は確かにISバトルが楽しいと思い始めている。ISに乗って強い相手と戦うのも、相手を倒す為にどう戦うかを考えるのも、訓練で新しい技を習得するのもどれも楽しくて仕方ない。

 

 もう認めてしまおう。俺はISが好きなんだと。

 

 真耶先生の言う通り、この二度目の高校生活は己が心のままにやってみてもいいのかもしれない。そんな風に思えた。

 

 早く狐狼に乗りたい、そんな事を思いながら俺は眠りに就いた。

 

 

~side end  

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

ご覧の通り今回は予定を変更してフェイトとなのはとの2連戦をメインにお送りしました。
構成的にここで2人の実力を示しておかないと活躍の場がなくなってしまうので急遽バトルメインの回となりました。

フェイトの専用機のモデルは「ヴァイサーガ」です。相棒のなのはの「アンジュルグ」と同じくラミア繋がりと言う事で、予想を当てた方、お見事でした。

二次移行の設定は独自解釈です。変身シーンを入れたくてこう言う設定になりました。因みに3巻のエピソードで出る志狼の二次移行も任意変形型です。

真耶先生のお説教。彼女にとって志狼はただの生徒ではなく、最早弟子と言える存在。その彼女の導きによって、志狼は医者になる夢を一旦置いて、IS操縦者として自分の道を進もうと決意する、正にターニング・ポイントとなりました。
今後の活躍にご期待下さい。


次回こそはシャルルの正体を巡り、一夏と志狼か衝突。そして、志狼とシャルロットの出会いを書きたいと思います。





【変更点】
レイジングハートのモデルをウイングガンダムに変更。
レイジングハート・エクセリオンのモデルをウイングガンダムゼロカスタムに変更。
バルディッシュのモデルをガンダムデスサイズに変更。
バルディッシュ・アサルトのモデルをガンダムデスサイズヘルカスタムに変更。




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