二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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遅くなりました。第3話投稿します。

今回はオリ主志狼と原作ヒロインセシリアの出会いを描いてます。
当然オリ展開で原作とは全く違うものです。
原作至上の方は読まない事をお薦めします。

前回まではオリ主志狼の一人称で進めてきましたが、今回からキャラ毎の一人称で視点を切り替えていこうとおもいます。

それでは過去最長の第3話、ご覧下さい。




第3話 セシリア・オルコット 

 

 

~セシリアside

 

 3年振りに志狼さまにお会いする事が出来ました。電話やメールで話はしていたものの、やはり実際に会うのは違います。

 特にこの1年は(わたくし)は代表候補生としての活動が、志狼さまも受験があったので、お互い忙しくてメールでしか話せず、お姿を見るのは本当に久しぶりです。

 久しぶりに見た志狼さまは背が伸びて、顔つきも精悍さが増して少年というより男性、といった感じがします。でも、その優しい笑顔と温かな声は変わらずに私を包んでくれるようでした。

 

「あの~、志狼さん、オルコットさんと知り合いなの?」

 

 志狼さまとお昼に行こうとしていた方──確か相川さん、から声を掛けられました。そう言えばずいぶん長く見つめ合っていたようで、少し恥ずかしいです。

 

「ああ、3年前にイギリスで知り合ってね。お昼、セシリアも一緒でいいかな?」

 

「勿論!」

「私も構いません」

「おっけ~♪」

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

 (わたくし)達は5人で食堂へ向かいました。

 

 

 

 

 

 IS学園の食堂は国際色豊かな校風からか、様々な国の料理を提供しています。食べたい料理の食券を買い、指定されたブースに並んで料理を受け取るセルフサービス方式で、かなり広い食堂は大勢の生徒で賑わっていました。

 

 (わたくし)達は食べる料理を決めましたが、皆違うブースの料理だったので、後で合流する事にして、それぞれのブースに向かいました。

 (わたくし)はサンドイッチにしたのでそのブースに並び、料理を受け取ると、皆を捜します。先にテーブルに着いていた鷹月さんが手を振っているのが見えました。

 

「席を取っておいてくれたのですね、ありがとうございます」

 

「うん、私が一番先だったから」

 

 (わたくし)は鷹月さんの対面に座ります。彼女のメニューはカルボナーラでした。

 

「おっ待たせー」

「席ありがとー、シズシズ、セッシー」

 

 続けて相川さんと布仏さんが戻って来ました。2人は(わたくし)達の座る位置を確認すると、揃って鷹月さんの隣りに座りました。

 

「オルコットさん、志狼さんの隣りの方がいいでしょ♪」

 

 相川さんの言葉に思わず顔を赤くしてしまい、

 

「セッシー、赤くなってる。か~わい~♪」

 

 布仏さんにからかわれてしまいました。というか、セッシーって私の事ですの?

 

 

 

 

「所でオルコットさん。志狼さんとはどんな風に知り合ったの?」

 

「そうですわね・・・・まず(わたくし)の事はセシリアと呼んで下さいませんか? それでその、(わたくし)も皆さんを名前で呼ばせて欲しいのですが・・・・」

 

「OK、私は清香ね、セシリア」

 

「静寐と呼んで下さい、セシリア」

 

「私、本音~、よろしくね、セッシー」

 

「はい!清香さん、静寐さん、本音さん、改めてよろしくお願いします」

 

 (わたくし)がお願いすると、皆さんは顔を見合わせそう言ってくれました。

 日本に来てすぐに3人もお友達が出来ました。志狼さまとも早々に再会出来ましたし、幸先がいいようです。

 

「さて、(わたくし)と志狼さまの出会いは───」

 

「すまない、遅くなった」

 

 そこで志狼さまが大量の料理と共に戻って来ました。

 

 

 

 

「え、志狼さんそんなに食べるの?」

 

 清香さんが驚くのも無理もありません。志狼さまが持って来たのはカツ丼、牛丼、親子丼、カレーライスにラーメン。それも全て大盛りなのです。

 

「体育会系の男ならこれくらい普通だろ?」

 

 そんな事ない、と思ったのは(わたくし)達だけではなく、首を左右に振っている周りの人達も同意見のようですが、

 

「ほら、冷めない内に食べようぜ」

 

 志狼さまは全く気にせず、(わたくし)の隣りに座ると、

 

「それじゃ、いただきます」

 

 と言って、食べ始めました。(わたくし)達もいただきますをしてから食べ始めましたが、折角志狼さまの隣りに座ったのに衝撃が大きすぎて、喜びとか恥じらいとか全部吹き飛んでしまいました。もう!

 

 

 

 

 その光景は圧巻の一言でした。カツ丼が、カレーライスがどんどん消えて行きます。決して早食いしている訳ではなく、普通に食べているように見えるのですが、私がサンドイッチを一切れ食べきる前に料理が一品消えて、気付けば志狼さまが一番早く食べ終えていました。

 周りの人達は志狼さまの食べっ振りに唖然としていました。

 

「うわぁ~、ホントに食べちゃった」

 

「・・・・凄いですねぇ」

 

「ほえ~」

 

「そう言えば志狼さまは健啖家でいらしたわ」

 

 イギリスの我が家に逗留中、かなりの量を用意した食事をペロリと平らげ、おかわりまでしていました。あれにはお母様やお父様も驚いていましたっけ。

 

「いや、さっきも言ったが体育会系の男なら普通だって」

 

「いや~、それはないと思うけど。そう言えば体育会系って志狼さん何やってたの?」

 

「ボクシング」

 

「え、でもボクサーって減量とかあるんじゃ? そんなに食べて大丈夫なの?」

 

「減量があるのは試合前だけだよ。ボクサーの練習量って凄くカロリーを消費するからむしろしっかり食べないと筋力が付かないんだ」

 

「へ~、そーなんだ~」

 

「・・・・それでも食べ過ぎなのでは?」

 

 (わたくし)達も思わずその通り、と思いました。すると、

 

「お前達いつまで食べている。もうすぐ午後の授業が始まる、遅刻は厳禁だぞ」

 

 織斑先生の声が食堂内に響きます。時計を見ると確かにお昼休みの終了10分前でした。

 

「もうそんな時間か。ほら、早く食べないと遅れるぞ」

 

 志狼さまの言う通り、まだ食べ終えてない(わたくし)と清香さんは大急ぎで平らげます。しかし、思いの外ボリュームのあったサンドイッチに途中で満腹になり、最後の一切れを一口食べて止まってしまいました。すると、

 

「時間切れ、没収な」

 

 志狼さまが(わたくし)の食べかけのサンドイッチを食べてしまいました。

 

 こ、ここここれって、か、間接キス、というものでは!?

 

 それに気付き再び顔を赤らめる(わたくし)ですが、

 

「皆食べ終わったな。じゃあ行こうか」

 

 志狼さまは気付いてないのか、平気な顔で器を返しに行きます。(わたくし)も後を追って席を立ち、志狼さまの後ろに並ぶとその背中を見つめました。

 

 あの時と変わらない大きな背中を見ていると、出会った時の記憶が不意に浮かんで来ました。

 

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

 

 (わたくし)はイギリス貴族の名門、オルコット家の一人娘として生まれました。まだ女尊男卑の風潮のない世の中で、母アリシアは当主としての手腕を発揮、いくつもの会社を経営し、成功を収めて来た尊敬すべき人でした。

 そんな母が伴侶として選んだ父クロードは、娘の目から見てもうだつの上がらない、ただ優しいだけの人に見えました。

 結婚前はやり手だったそうですが、結婚後は名門貴族の婿というプレッシャーに負け、母の顔色を伺うだけの人になってしまったそうで、周りの人達からの嘲笑や侮蔑を向けられてもヘラヘラ笑っている父は(わたくし)にとって嫌悪の対象であり、その後の男性観を決定付ける要因となりました。

 そんな風に母を尊敬しつつ、父を嫌っていた(わたくし)からすれば、普段顔を合わせても会話もない2人が未だに離婚していないのが不思議でした。

 

 そんな2人が一緒に旅行に出かけると聞いた時には驚きましたが、旅行先でパーティーなどに呼ばれる事もあるだろうから、その為だろうと納得しました。

 (わたくし)は留守を言い付けられたので、出発当日、出かける2人を見送る為に空港へ同行しました。そして、事件は起こりました。

 

 

 

 

 両親を搭乗ゲートまで見送った(わたくし)は、専属メイドのチェルシーと2名のボディーガードと共に屋敷に帰ろうとしました。

 人気の無いVIP専用の通路を抜けて駐車場へ向かう途中、背後で鈍い音がしたので何事かと振り返ると、ボディーガードの1人がもう1人とチェルシーを殴り倒していたのです。頭から血を流して倒れるチェルシーを見て呆然とする(わたくし)に、

 

「悪いがお嬢さん、一緒に来て貰うぞ」

 

 男が(わたくし)の腕を掴み、連れて行こうとします。(わたくし)は必死に抵抗しました。

 

「あ、貴方一体どういうつもり!? クッ、痛い!離しなさいこの無礼者!」

 

「!!」 

 

 

 ───バシンッ!

 

 

 大きな音と共に左頬に衝撃を感じると、ジワジワと痛み出しました。そう、(わたくし)は殴られたのです。親にも殴られた事のない(わたくし)は初めて受けた衝撃に戸惑い、男を見ると、

 

「騒ぐな。抵抗すれば殺す。連れて来さえすれば死体でも構わんと俺は言われてるんだ。どうする?」

 

 その殺気の籠った目に、(わたくし)は初めて感じる死の恐怖から動けなくなりました。

 

 (わたくし)が大人しくなると、男は私を抱えて走り出しました。どんどんチェルシー達から離れ、これから自分がどうなるのかを考えると、怖くて涙が溢れて来ました。

 

「おい、そこをどけ!」

 

 走りながら男が怒鳴ります。前にはVIP専用の通路に相応しくないTシャツにジーンズという格好の男性が携帯を片手に立ち止まっていました。その人はこちらに気付くと道を開け、すれ違った瞬間、

 

「「!!!?」」

 

 

 

 ───(わたくし)は宙に浮いていました。

 

 

 

 体が宙に浮く不安定な感覚。その後に来る衝撃に備え目を瞑ると、

 

「おっと、ナイスキャッチ」

 

 という声と共に、(わたくし)思ったのと全然違う柔らかく優しい感触に包まれていました。

 思わず顔を上げると、見えたのは先程すれ違った男性。思ったより若く、まだ少年といった年頃の(わたくし)の周りではあまり見かけない黒い髪と瞳。その瞳は優しい色をして、(わたくし)を見つめていました。

 

「怪我はない? お嬢さん」 

 

「あ、はい、大丈夫です」

 

 彼をまじまじと見つめていた事に気付いた(わたくし)は、反射的に答えました。

 

「それは良かった。所であの男はお嬢さんの知り合いかい? 要は敵か味方かって意味なんだけど」

 

「え、?」

 

 彼が指差す方を見ると、(わたくし)を拐った男が鼻血を出しながらも、もの凄い目でこちらを睨んでいました。どうやら顔面から床にダイブしたようで、ザマーミロ、です。

 

「! 敵です、裏切り者です!!」

 

「あ、やっぱり。見た目悪人だからつい足を引っ掛けたけど、実はいい人だったとかじゃなくて良かった」

 

 どうやらさっき(わたくし)が宙に浮いたのはこの人の仕業のようです。まあ、助かったからいいんですけど・・・・

 

 

「このガキふざけやがって、その娘を返せ!」

 

 男が怒りのままに襲って来ました。

 

「返せ、て言われてもねえ。・・・うん? 君、その頬」

 

 (わたくし)はハッとして先程張られた左頬を押さえました。

 

「・・・・アイツにやられたのか?」

 

 途端に彼の口調が変わりました。そして、抱き抱えていた(わたくし)をそっと降ろして、左頬に優しく触れました。

 

「ちょっと待っててくれ」

 

 そう言うと、彼は男に目を向けました。

 

 その頃にはもうお互いの手が届く距離まで迫っていました。憎むべき裏切り者とはいえ元は我がオルコット家のボディーガード。腕は確かです。

 そんな男に彼のような少年が敵う訳がない、そう思って目を瞑った次の瞬間、

 

 

 

 ───男が呻き声を上げて倒れたのです。

 

 

 

 男は完全に失神していました。

 私には何が起きたのか解りませんでしたが、唯一(わたくし)に解るのは、目の前の彼に救われたという事。その事を(わたくし)は深く胸に刻み、(わたくし)を守るように立ち塞がる大きな背中を見つめていました。

 

 心臓がいつになく激しく高鳴っているのを感じながら・・・・・

 

 

 

 

 

 その後、ようやく駆けつけた警備員と追いかけて来たチェルシー達に事情を説明して、男を拘束、警察に引き渡しました。

 事件が起きた事を黙っている訳にもいかず、お母様に連絡すると、離陸前の飛行機から2人が慌てて戻って来ました。

 

「「セシリア!!」」

 

 お母様は(わたくし)の姿を見ると、抱き着いて来ました。

 

「セシリア大丈夫? 怪我はない? ああ、頬が腫れてるじゃないの!」

 

「お、お母様!? 大丈夫、大した事ありませんから」

 

「本当? 良かった。連絡を聞いて気が気でなかったのよ。可哀想に、怖かったよね」

 

 お母様が(わたくし)を抱きしめて泣いています。お母様の涙を見るのは初めてで、強いお母様が泣くなんて思いもしなかった(わたくし)は困惑していました。

 

「アリシア、少し落ち着いて。セシリアが困っているよ」

 

「クロード、だって・・・・」

 

 チェルシーから事情を聞いていたお父様が話しかけると、お母様はお父様にそっと寄りかかり、お父様はその肩を優しく抱き寄せました。

 それはまるで信頼し合う夫婦の姿そのものでした。2人の仲は冷えきっているとばかり思っていた(わたくし)が更に困惑を深めていると、

 

「オルコットさん、そろそろ彼女に本当の事を教えてあげたらどうですか?」

 

 (わたくし)を助けてくれた彼が2人に話しかけたのです。

 

「・・・・貴方は?」

 

「アリシア、彼は結城志狼君。セシリアを助けてくれた人だよ」

 

 結城志狼。この時になって(わたくし)は彼の名を聞く事も自分が名乗る事もしていなかった事に気付きました。貴族にあるまじき不作法、恥ずかしいです・・・・

 

「そう、貴方が・・・・娘を助けてくれた事には礼を言います。ですが本当の事、とはどういう意味ですか?」

 

「言葉通りの意味ですよ、ミセス。貴女方夫婦が普段仲が悪い振りをしている理由。恐らく今回の事件にも関わっていると思えますが?」

 

「・・・・・・」

 

 (わたくし)には志狼さまが何を言っているのか分かりませんでした。本当の事? 仲が悪い振り? どういう意味なのでしょう?

 

「本来無関係な俺が口出しすべきじゃないのでしょうが、このままでは彼女は両親の本当の姿も本当の想いも知らないまま生きて行く事になる。それはあまりにも不憫です。誰もが今日と同じ明日を迎えられるとは限らない。いつまた今日のような事が起こって、下手したらもう二度と会えなくなる、なんて事もあるんです。貴女は時機を見て話すつもりだったのかもしれませんが、今がその時機に相応しいと思いますよ?」

 

「・・・・・・」

 

 志狼さまの言葉には妙に実感が籠っていて否定出来ない迫力がありました。

 その言葉に考える素振りを見せるお母様。いえ、考えるというより迷っているように見えます。何事も即断即決のお母様のそんな姿を初めて見た気がします。

 

「それにね、親の本当の姿を知らないっていうのは子供からすると結構辛いものなんですよ」

 

「・・・・・・」

 

「アリシア、僕も志狼君に賛成だよ」

 

「! クロード、貴方・・・・」

 

「最近は上手くいってたから油断していた。今回の件で思い知ったよ。敵はいついかなる時も魔の手を伸ばして来ると。言い方は悪いが良い機会だと僕は思うよ?」

 

「・・・・そうね。セシリア、良く聞いて頂戴」

 

 お母様は(わたくし)と目を合わせると静かに語り始めました。

 

 

 お母様とお父様の仲が悪いのは振りであり、本当は愛し合っている事。オルコット家の財産や利権を狙う敵が大勢いる事。その敵を調査しやすくする為にお父様は無能の振りをして、かつ夫婦仲も悪く見せている事。後一歩で敵を一網打尽に出来る証拠が掴めそうだという事。今回の旅行もその為だという事等々。

 

 

 (わたくし)が知らなかった本当の事を教えて貰って最初に感じたのは罪悪感でした。

 両親がどんな想いを抱えていたか、そんな事考えもせず、表面だけで判断してお父様を嫌っていた。そんな自分が情けなくて、お父様に申し訳なくって、ただただ罪悪感で一杯になっていました。

 

「ごめんなさいお父様。知らなかったとはいえ(わたくし)は・・・・」

 

「気にしないでおくれ、セシリア。そうなるように仕向けたのは僕達なのだから」

 

「そうよ。だから自分を責めては駄目よ、セシリア」

 

「お父様、お母様ぁ~」

 

 涙を流しながら2人に抱き着くと、2人は優しく抱きしめてくれました。

 

 

 

 ───こうして(わたくし)達は本当の家族になれたのです。 

 

 

 

「フフ、こうした仲直り出来たのは志狼さんのおかげね。・・・あら、そういえば彼は?」

 

 お母様のつぶやきに周りを見ると、志狼さまもチェルシーもいません。さっきまでいたはずなのに・・・・

 

 お父様がドアを開けたら2人がいたらしく、入って貰いました。

 

「あら、いつの間に外へ出たの?」

 

「お2人の話が始まる前にチェルシーさ「チェルシーですわ」・・・チェルシーと2人でこっそりと抜け出しました。家族の事ですし、部外者がいない方がいいと思いまして」

 

「気を使わせてすまないね。クスッ しかし随分とチェルシーに気に入られたようだね」

 

「はあ、そうでしょうか」

 

「志狼様はお嬢様の命の恩人。誠心誠意お世話するのはオルコット家のメイドとして当然の事ですわ、旦那様」

 

 何でしょうか? 今のチェルシーには得もいわれぬ迫力があって、逆らい難いです。 

 

「ああ、うん、そうだね」

 

 その迫力を感じたのかお父様もやや引き気味でした。

 

「所で志狼さん、この後のご予定は?」

 

 お母様が尋ねると志狼さまはご自分の事情を話してくれました。

 

 医者を目指している事(そういえばチェルシーの手当てをしたのは志狼さまでした)、現場の医療を学ぶ為医療NGOに参加している事、この国にはその仲間達と合流する為に来た事、仲間の到着が遅れていて2日程宿をとらねばならない事等々。

 

 話を聞いたお母様はそれならばと我が家へ泊まっていく事を薦め、最初は遠慮していた志狼さまも再三の申し出に了承して、我が家へ逗留する事になりました。

 

 

 

 

 この後、おもてなしの準備があるからとチェルシーが、空港の職員に呼ばれてお父様が、今回の件を処理すると言ってお母様が部屋を出て行きました。

 気付けば志狼さまと2人きり。(わたくし)が緊張していると、

 

「しかし、いいのか? 大事な娘を得体の知れない外国人と2人きりにして」

 

「フフ、お母様はいくつもの会社を経営するやり手で人を見る目は確かです。それにチェルシーが自分から(わたくし)の側を離れたくらいですから」

 

「? チェルシーが何だって?」

 

「チェルシーは(わたくし)の専属メイドというだけでなく、護衛も兼ねているんです。今回は不覚を取りましたが本当はとても強いんですよ。その彼女が自分から(わたくし)の側を離れた、という事は(わたくし)の側には今、信頼出来る方がいるという証しなんです」

 

「ああ、そういう事・・・・」

 

 志狼さまは頭を掻いて目をそらします。もしかして照れてるのでしょうか? 何だかカワイイです。

 いけない、こんな事考えてる場合ではありません。

 

 (わたくし)は意を決して志狼さまの前に立ちました。

 

「結城志狼さま。改めてご挨拶を申し上げます。(わたくし)はセシリア・オルコット。オルコット伯爵アリシアの娘にして、イギリス貴族の末席に名を連ねる者です。この度のご助力、本当にありがとうございました」

 

 スカートの両端を摘まみ、貴族として正式に礼をする私を驚いた顔で見ていた志狼さまでしたが、おもむろに席を立つと(わたくし)の前で跪き、

 

「ご丁寧な挨拶痛み入りますレディ。私は結城志狼。ここより遠く東の国、日本から参りました。未だ学生の身なれど、貴女のお力になれた事を嬉しく思います」

 

 そう言うと志狼さまは(わたくし)の右手を取り、そっと手の甲に唇を触れさせました。その様はまるで物語の騎士のようで思わず顔が熱くなるのを感じました。

 

「プッ、フフフ」

「プッ、ハハハ!」

 

 ふと目が合った一瞬の後、(わたくし)達は同時に吹き出していました。この笑いの衝動は皆が戻って来るまで続きました。

 

 

 

 

 

 こうして(わたくし)と志狼さまは出会いました。

 

 この後、我が家での逗留中に色々な話をしました。日本の事、家族の事、そして夢の事。たくさんの話を聞き、そして語りました。

 志狼さまには妹が2人いて上の娘は(わたくし)と同い年だそうです。(わたくし)にも兄がいたらこんな感じなのかな、と羨ましく思いました。

 

 (わたくし)を拐ったあの男はやはりお母様の政敵に雇われたようです。ただ、はっきりした証拠は出ず、敵を一網打尽にする事は出来ませんでした。 

 (わたくし)はお母様達の足を引っ張ってしまった事を悔やみましたが、お母様達は「またチャンスは来る。その時は容赦しない」と迫力のある笑顔を浮かべていました。ちょっとだけ怖かったです・・・・

 

 

 2日間の逗留後、お友達が迎えに来ると志狼さまは旅立たれました。別れ際、連絡先を交換し、また会えるかと尋ねる(わたくし)に「素敵なレディになったらまた会おう」と言って頭を撫でてくれました。

 お友達の車に乗り、去って行く姿を見送りながら、(わたくし)はこれが初恋だったのだとその時になって気付きました。

 

 

 

 

<><><><><>

 

 

 

 

「セシリア、どうしたの?」

 

 清香さんの呼びかけでトリップしていた過去から(わたくし)は戻って来ました。

 

「いえ、何でもありませんわ」

 

 気付けば列の先頭に立っていたので器を返却し、皆の元へ戻ります。

 

 

 あれから3年、(わたくし)は素敵なレディになる為に色々な事を学びました。勉強や礼儀作法は勿論、もう二度と拐われるような無様を曝さない為に護身術も学び始めました。特に射撃に適性があったらしく(わたくし)はぐんぐん腕を上げて行きました。

 そんな中でIS適性が高い事が判明、いつの間にやら代表候補生入りし、IS学園に入学しました。

 IS学園の受験は国から薦められた事もありますが、本音は日本へ行けば志狼さまに会えるかもしれないと思ったからです。まさか、志狼さま自身が入学して来るとは思いませんでしたが・・・・

 

 

「セシリア、どうした?」

 

「! いえ、何でもありません」

 

 いけない、またトリップしていました。気を付けなくては。

 ・・・・それにしても志狼さまのあの態度、先程の間接キスを何とも思っていないようです。むう、全く意識して貰えないのは悔しいです。

 いつか必ず(わたくし)を一人前のレディとして意識させてみせます!

 

 決意を新たにすると、私は志狼さまの後を追いました。 

 

 

 

 

 ───覚悟して下さいね、(わたくし)騎士(ナイト)さま。

 

 

~side end

 

 




読んでいただきありがとうございました。

セシリアの両親ですが、名前は筆者が勝手に名付けました。爵位も適当です。
筆者は原作をワールドパージまでしか読んでないので、それ以降で出ていたらすいません。

セシリアの両親は原作の列車事故に合う前に戻って来たので2人共無事生きています。
母親は当主のまま、父親とは和解して家族仲は良好という事にしています。

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