第40話を投稿します。
色々とご都合主義な展開となっていますが、ご覧下さい。
~シャルロットside
生徒会室で話し合った翌日。問題を解決するなら早い方がいいと今夜作戦を決行する筈だったんだけど、問題が生じてしまった。
「シャルル、行こうぜ」
「シャルル、どこに行くんだ」
「シャルル、トイレか? 付き合うぜ」
とまあ、こんな風に昨夜から一夏がずっと付き纏って、1人になれない。
「あの一夏? 僕は1人でも大丈夫だよ」
「何言ってんだ! お前は俺が守るって言っただろ!?」
「「「きゃああああ~~~っ!!一夏×シャルル成立よ~~~❤」」」
「・・・・・・はあ」
と言う問題発言を皆の前でするので、今朝からずっと好奇の視線に晒されている。最近ようやく落ち着いて来たと思ったのに、全くもう・・・・
原因は分かってる。昨日の放課後から夜にかけて私の居場所が分からなくて心配していたらしい。生徒会室での話し合いが長引いて終わったのは7時を過ぎていて、部屋に帰ったらもの凄い勢いで責められた。心配かけたのは悪かったけど、正直鬱陶しいと感じてしまう。
作戦の決行予定は午後9時。その時間までに志狼と合流しなくちゃいけないんだけど、部屋を抜け出そうにも、この分では一夏は私から目を離そうとしないだろう。どうしよう・・・・
~side end
~志狼side
時刻は間もなく午後9時。作戦決行の時間だ。俺は学園の生徒会室で刀奈と共にシャルロットが来るのを待っていた。
「もうすぐね。織斑先生が上手くやってくれるといいんだけど」
「う~ん、確かに。あの人演技とか出来そうにないよな」
今朝からシャルロットにピッタリ張り付いている織斑を引き剥がす為、織斑先生に適当な用事を作って呼び出して貰う事にした。
本当なら織斑自身を仲間に引き入れれば楽なんだが、あいつは俺の発案だと言うだけで拒否しそうだ。
そんな事を考えていると、刀奈が身体を寄せて来た。
「そう言えば2人っきりって久し振りね♪」
「そうだな。最近は大抵誰かいたしな」
「・・・・つまりはそれだけお見限りって事なんだけど、もしかして私、飽きられちゃったのかしら?」
刀奈はそう言って俺にしなだれかかる。
「馬鹿を言うな。お前に飽きる? まだまだ抱き足りないさ」
俺がそう言って刀奈の腰を抱き寄せると、彼女は嬉しそうにはにかんだ。
「そう? ならいいわ♪」
そう言って更に身体を密着させる。彼女の体温や柔らかさ、甘い匂いを感じて思わずクラッと来そうだ。もしかして誘ってるんだろうか?
「そこまでだ。続きは全部片付いてからな」
俺は彼女の身体を押しやる。
「あん♪ ふふっ、分かったわ。全部片付いたら、ね♪」
そう言って舌舐めずりする刀奈は、たまらなく色っぽかった。
そんな風に刀奈とじゃれていると扉がノックされて、シャルロットが息を切らして入って来た。
「はあ、はあ。失礼します。志狼、会長、遅くなってごめんなさい」
「遅かったわね、シャルロットちゃん。織斑先生は上手く一夏君を呼び出せなかったの?」
「いえ、そちらは上手くいったんですが、寮を出る所を女生徒に気付かれて、まくのに時間がかかっちゃって・・・・」
「それは災難だったな。大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
「よし。手筈は分かってるな? お前の演技力が鍵だぞ」
「分かってる。任せて」
シャルロットの目は決意に満ちていた。俺は刀奈を見て、頷き合う。
「それじゃあ、始めよう」
刀奈が手伝い、シャルロットを着替えさせる。着替えてる間、俺は給湯室に避難した。
5分程して呼ばれて目の当たりにしたシャルロットは実に扇情的な格好だった。メイクをしてシャルロットの準備が整うと、俺はテレビ電話の前に座り、とある番号をコールした。数回のコール音の後、目当ての人物が画面に現れる。
『誰だ。何故この番号を知っている?』
画面には40才くらいの短く刈り込んだ金髪の男が映っている。デュノア社社長アルベール・デュノアその人だ。
この番号はシャルロットが報告の為に持たされた社長直通の番号だ。アルベール・デュノアと直接話が出来る。それが俺の計画の大前提だった。
「こんにちは、アルベール・デュノア社長。昼食は終えたかな?」
日本とフランスの時差は8時間。フランスでは午後1時を回った所だ。
『くだらない質問だな。切るぞ』
「良いのかい? この番号を誰に与えたか分からない訳じゃあ無いだろう?」
俺がそう言うと、アルベールは忌々しそうに俺を睨み付ける。カメラの角度を調節して、画面には嫌らしい笑みを浮かべた俺の口元しか映らないようにしている。上手く挑発に乗ってくれるといいが・・・・
『あいつはどうした?』
「あいつねえ・・・・素直に娘って言えば、まだ可愛気があるのになあ?」
アルベールは額の皺を深くする。
『知られたか・・・・だがこの件は私の与り知らぬ事だ。好きにするがいい』
「ああ。そう言うと思って、好きにさせて貰ったよ。ほら」
俺はカメラを回して控えていたシャルロットを映す。
『なっ!?』
シャルロットを見て、アルベールは驚愕の声を上げる。シャルロットは扇情的なバニーガールの衣装に身を包み、息を荒げて倒れ伏している。衣装は所々破けていて、身体は汗にまみれている。見ようによっては事後のように見えるだろう。
「うう、ああぁ・・・・」
シャルロットは辛そうに声を上げる。その声を聞いた途端、
『シャルロット!? 貴様あ、娘に何をした!!』
アルベールが激昂して声を荒げた。
「何って、ナニ?」
『ふざけるな! 貴様許さんぞ!!』
「怒るなよ。好きにしろと言ったのはアンタじゃないか。大体女スパイ、それも見目麗しい美少女の末路なんてこんなモンだ。アンタだってそれが分かっててコイツを送り込んだんだろう?」
『くっ!』
アルベールは口惜しそうに唇を噛む。
「そもそも愛してもいない女が自分の知らない間に勝手に産んだ娘だ。アンタにとっちゃ精々政略結婚の道具くらいにしかならんだろ? なら今回のスパイ行為を公表しない代わりに俺が
俺はそう言いながら、倒れたままのシャルロットの尻をゆっくりと撫でる。その度に尻がピクピクといやらしく蠢いた。
『・・・・貴様は何者だ?』
「ん? ああ、御挨拶が遅れたな。俺はこう言う者だ」
俺はシャルロットに向けていたカメラを自分に向ける。
『2ndドライバー、結城志狼・・・・報告と違い随分とゲスのようだな』
「その報告をした奴は首にすべきだな。誰にだって隠してる顔はあるもんだ。アンタもそうだろう? アルベール・デュノア」
『・・・・・・・・』
「元々アンタは会社と恋人を天秤に掛けて、会社を取った男だ。今回も同じさ。会社と娘を天秤にかけて、会社を取ればいい」
『・・・・シャルロットをどうする』
「そうだな・・・・アンタの娘の顔と身体は気に入ったよ。実にイイ具合だった。しばらくは性処理用の道具として飼ってもいいな。ククク、女だとバレて俺に犯されてる時、何て言ったと思う?『お父さん、助けて』だってよ! 自分をこんな立場に追いやったのはそのお父さんだってのにな。ハハハッ!!」
俺が哄笑を上げると、アルベールは悔しそうに机を叩いた。
『くそっ! ブリュンヒルデは何をしてたんだ!? 彼女の元に送れば保護して貰えると思ったのに・・・・』
「おいおい、アンタ『ブリュンヒルデ』の称号に夢を見すぎだ。確かに彼女は世界最強の女だが、今では大した権限も持たない一教師に過ぎないんだぜ? そんな彼女に密約を交わした訳でもないってのに、スパイを保護する云われはねえよ」
『くっ・・・・・・』
「と言う訳でアンタの計画は失敗。フランスとデュノア社がした馬鹿な事を公表しない代わりに
『ま、待て! 娘を、シャルロットを返してくれ!!』
「返してどうする? 返せばフランスとデュノア社のやった事を世界中に公表するぞ?」
『言い値で金を払う。いくら欲しい?』
「金に興味はない。娘か会社か、どちらかを選べ。それ以外は認めん」
『くっ・・・・・・分かった。ならば娘を返してくれ。私にはもう妻と娘以外に大切なものは無い』
「そんな事をしたら社長の地位を捨てる事になるぞ?」
『構わん』
「
『覚悟の上だ』
「本気か?」
『本気だ。だから娘を、シャルロットを返してくれ、頼む!!』
「・・・・・・だってさ、シャルロット」
『何?』
アルベールの言葉に本心を感じた俺は、倒れたままのシャルロットに声をかけた。するとシャルロットは何事も無かったように立ち上がると、カメラの前に立った。
~side end
~シャルロットside
「今の言葉は本心なの?」
私はお父さんに尋ねる。
『シャルロット!? お前・・・・・・何とも無いのか?』
「いいから答えて」
『あ、ああ、無論本心だ。私には会社よりお前やロゼンダの方が大事だ』
そう言ったお父さんに思わずため息を吐く。全く、面倒くさい人だなあ。
「なら今回の計画の真相を全部話して」
『あ、ああ、それは───』
お父さんは計画の全容を話し始めた。
概ね志狼と会長の予測通り、全て私を守る為だった。改めてお父さんの口から聴かされると何とも切なくなる。どうして? どうしてこの人は───
「───どうして?」
『シャルロット?』
「どうしてそんな事したの?」
『───それは、話したろう。お前を守る為に──「そんな事私は頼んでない!」!?』
「私は、お母さんは死んじゃったけど、それでもお父さんに会えるのを、一緒に暮らせるのを楽しみにしてたのに、そんな事の為に私はずっと辛い目に合わされてたの!?」
『そんな事って・・・・お前を守る為なんだぞ!?』
「守れてないじゃない!」
『!!』
「それとも何? 守るって命だけ守れればそれでいいの? 私はお父さんに蔑ろにされて凄く辛かった。私の心は全然守ってくれなかったじゃない!!」
『そ、それは・・・・』
「今更そんな話を聴かされて、私はどうすればいいのよ・・・・」
思わず涙が溢れて来た。
『シャルロット・・・・・・すまない。私は怖かったんだ。今まで存在を知りながら放っておいた私が、お前にどう接すればいいのか分からなくて。それでもお前を守る為に考えて、わざと蔑ろにしていたと言うのに、結局お前を辛い目に合わせただけだった。私は最初からやり方を間違えてしまった。本当にすまない、シャルロット』
「・・・・・・」
お父さんは辛そうな表情で頭を下げた。あんなに怖かったお父さんが今はとても小さく見える。無機質だった瞳は、同じ人とは思えない程感情に溢れて、私を真摯に見つめていた。
「そう言うわだかまりは、これからゆっくり話し合って解消していけばいい。今はその環境を作る話をしたいんだけど、いいかな?」
「志狼・・・・」
私とお父さんの話が一段落したのを見計らって、志狼が私の肩にバスタオルを掛けてくれた。
「少し話を進めておく。今の内に着替えておいで」
「あ・・・・うん」
そう言えば私、あちこち破れたバニースーツのままだった。そんな格好でお父さんと話してたんだと思うと流石に恥ずかしい。私は席を立って志狼と交代した。
~side end
~アルベールside
『さて、先ずは謝罪を。デュノア社長、貴方の真意を確かめる為とは言え、散々無礼な態度と発言をしてしまいました。申し訳ありません。ああ、勿論シャルロットには手を出してませんよ』
2ndドライバー結城志狼が席を立ち、深々と頭を下げた。
「フウ・・・・・・大した演技力だ。私は見事に一杯食わされたという訳か。目的は私の本音を引き出す事か?」
『はい。貴方がシャルロットと会社のどちらを取るか。それを確かめないと計画が成立しませんから』
「計画とは?」
『勿論貴方達デュノア家を救出する計画ですよ』
「!?」
『単刀直入に言います。デュノア社長、奥様とシャルロットを連れて日本へ亡命しませんか?』
「!!」
いきなりの提案に驚きを禁じ得ない。そんな私に対してに結城志狼は話を続ける。
『日本政府には既に話を通し許可を得ています。職は社長という訳にはいきませんが、ある企業のしかるべきポストを用意出来ます。どうです? 家族3人で新たな生活を始めませんか?』
正直魅力的な提案だ。だが私には・・・・
『こう言っては何ですが、デュノア社は今、副社長派に乗っ取られようとしています。貴方を会社に縛り付けた前社長である父君も既に亡い。沈みかけた船の船長をわざわざ代わってくれると言うんです。無理に船長を続ける必要は無いんじゃありませんか?』
「はっきりと言ってくれるな・・・・」
思わず苦笑が洩れる。だが確かにその通りだ。
『それに貴方は先程会社より家族を取ると言いました。その言葉は偽りですか?』
「偽りなものか! シャルロットとロゼンダより大切なものは無い!!」
私は激昂して机を叩く。いかんな、先程から感情のコントロールが上手くいかない。揺さぶられてばかりだ。
『ならご決断を』
そんな私に結城志狼は冷徹に決断を迫る。彼の瞳の奥には何故か怒りが伺える。私は彼を怒らせるような事をしたのだろうか。私の疑問に答えるかのように彼が口を開く。
『俺はね、怒ってるんです。あの日故郷の村を出た彼女は父親の元で幸せに暮らしてるんだと、つい最近までそう思ってました。それが実際には酷い扱いを受けて、ずっと辛い思いをしていたと言う。事情があるとは言え、そんな扱いをした貴方にも、今までそれを知らずにいた自分にも腹が立っているんですよ』
「・・・・君はシャルロットとどう言う関係なんだ?」
『友人です。2年前の事故の時に知り合いました』
「そう、なのか・・・・」
『それで、返答は如何に?』
私はしばらく考え込んだが、結論は既に出ていた。
「分かった、君の計画に乗ろう。よろしく頼む、いや、頼みます」
『分かりました。勇気ある決断に感謝します。では詳細を詰めましょう』
そうして私は彼と詳細を話し合った。全ては時間との勝負だ。
その夜、妻のロゼンダに全てを話し、彼女の賛同を得ると、私達は副社長派に気付かれぬように身辺整理を進めた。
そして───
~side end
~志狼side
アルベール・デュノアとの密談から1週間が過ぎた。
あれからIS業界ではちょっとした騒動が起こった。フランス最大手の企業デュノア社で社長交代が起きたのだ。
社長であるアルベール・デュノアは第3世代機の開発が遅れた責任を取って辞職し、副社長に社長の座を譲った。新社長は第3世代機の早期開発を宣言し、社を新たに導くと公言しているが、各国は技術者として有能だったアルベールが抜けたデュノア社にその力があるのか疑問視している。
アルベールは辞職後、妻ロゼンダと共に日本へ亡命。日本政府は2人を受け入れ、アルベール自身は絃神コーポレーションのIS開発部長として迎え入れられた。元々技術者であったアルベールは向いてなかった経営から離れて、のびのびと仕事をしていると言う。
シャルロットをスパイとして送り込んだ件をフランス政府上層部は知らなかったらしい。一部の官僚が賄賂と手柄欲しさにデュノア社と組んで仕出かした事で、真相を知るとその件に係わった官僚の首を飛ばして全てを闇に葬った。デュノア社側ではアルベールは既に辞職、亡命してしまったので、対外的に何人かの役員が責任を取らされて辞職したそうだ。
今回の俺の計画は、要するにデュノア親子を日本へ亡命させて、スパイ行為についてはフランス政府とデュノア社に責任を擦り付けてしまおうと言う無責任なものだ。
今回のスパイ行為はデュノア社の副社長派とフランス政府の一部の官僚が画策した事が発端だった。当初は女生徒を転校させ、俺と織斑にハニートラップを仕掛ける予定であったが、そこでアルベールがシャルロットを男装させ、男として送り込む事を提案した(アルベールは始めはリスクが高すぎると反対しようとしたが、シャルロットを逃がすのに都合がいいと考え直し提案したそうだ)。その提案が通り、シャルロットはシャルルとしてIS学園へやって来た。
正体が発覚した後で俺のした事は、刀奈を通しての日本政府との交渉(政府にはフランスへの貸しに出来るようスパイ行為があった事を報告して、尚且つ技術者として有能なアルベールを引き抜ける事を材料に亡命を認めさせた)と、アルベールの亡命後の仕事先を浅葱を通して絃神の社長と交渉(IS企業としては新参の絃神としては経験豊富な技術者でもあるアルベールは欲しい人材らしく、喜んで迎えてくれた)したくらいだ。
先生達にはシャルロットがこのまま学園に居続けられるよう協力をお願いした。シャルロットの境遇に同情的だった2人は、積極的に協力してくれた。
正直な所アルベールがこちらの提案に乗ってくれるかが一番の問題だったが、思いの外簡単に乗ってくれた。
俺は当初、IS委員会に告発され、デュノア社ごと滅びるのがアルベールのシナリオかと思っていたが、こう上手く事が運ぶと不審に思える。例えばアルベールが俺とシャルロットが友人だと知っていたとすれば、俺が彼女の為に動く事も予想していたかもしれない。
まあ、事が上手く運んだ今となってはどうでもいい事なんだが。
シャルロットは先日からアルベールとロゼンダに会う為に学園外へ出ている。昨夜電話を貰った時、2人と仲直り出来たと喜んでいた。特にアルベールがシモーヌさんの遺骨を持って来た事をとても喜んでいて、近い内に日本で新しい墓を建てると息巻いていた。
シャルロットはアルベールの辞職に伴い、デュノア社のテストパイロットを辞め、代わりに絃神のテストパイロットにならないかと誘われ、承知したそうだ。機体に関しては今まで蓄積したデータを消すのは勿体ないと、「ラファールリヴァイブ・カスタムⅡ」をそのまま専用機として供与される事になった。
尚、デュノア社は返還求めるも、絃神から今回の裏事情を楯に突っ撥ねられ、泣く泣く退いたそうだ。そして───
週明けの月曜日。学年別トーナメント開催まで1週間を切った。
今日から俺達1、2年生にもアリーナが開放される。学園のアリーナは第1から第7、
クラスの皆もこの1週間、実機訓練は授業だけだったので、フラストレーションが溜まっているらしく、心は早くも放課後に飛んでいる者が何人もいるようだ。俺もクラス代表として公平に時間を割り振らねばならず、頭を悩ませている。
「皆さ~ん、おはようございます~」
いつになく疲れた表情で真耶先生が入って来た。
「え~と、今日は皆さんに転校生?でいいのかしら?をとにかく紹介します」
真耶先生のこの発言で皆がザワついた。ついこの間2人も転校生を迎えたばかりなのに、またもこのクラスに転校生を迎えると言う。明らかに異常事態だ。動じてないのは事情を知っている俺と興味のないボーデヴィッヒの2人だけだった。
「それでは入って下さい」
真耶先生に言われて入って来たのは皆も見覚えのある、けれどどこからどう見ても女の子であった。
「あれ? シャルル君?」
「けど、どう見ても女の子だよ?」
「え? じゃあひょっとして───」
「皆さん。シャルロット・デュノアです。改めてよろしくお願いします」
「「「「えええええーーーーっ!?」」」」
シャルロットは困ったような、申し訳なさそうな笑顔を浮かべていた。
「と言う訳でデュノア君はデュノアさんでした。はあ~、また部屋割り考え直さなきゃ」
シャルルと言う男はシャルロットの変装だった。この事実を聞かされて、納得出来ない者や騙されていた事に不満を持つ者が何人もいたが、
「全員黙れ。デュノア、事情を説明しろ」
織斑先生の鶴の一声で、皆が静まった。
「はい。先ずは皆さんに謝罪します。嘘を吐いて、騙していてごめんなさい。私が男として転校したのには理由があります。私がデュノア社のテストパイロットをしていたのは話しましたが、その会社からの命令で男の振りをさせられてたんです。デュノア社は近年経営難に陥っています。その難局を乗り切る為、イメージアップの広告塔として男の振りをさせられて学園に転校しました。取り敢えず閉鎖的な学園での評判を見てから大々的に世界中にアピールする予定だったんですが、先日事情が変わりました。私の父アルベールが社長を退任したのです。それにより私がデュノア社に関わる必要も無くなり、私もテストパイロットを辞めて、女に戻る事が出来ました。
一企業の愚かな企みで皆さんを騙してしまい、本当にすいませんでした。でも、私はこれからもこの学園で、このクラスで学んでいきたいんです。難しいかもしれませんが、どうかこのクラスにいる事を許して下さい。お願いします!!」
シャルロットはそう言うと、深く頭を下げた。
教室内はしばし静まり返っていたが、最初に本音が拍手し出すと、1人、また1人と拍手の輪が広がり、やがて教室中に響き渡った。
「成る程。そんな事情だったんだ」
「美少年じゃなくて美少女だったのか。でも、それもいいかも。デュフフフ」
「でもデュノア社って酷いよね」
「バレた時のリスクが高すぎるでしょ。イメージアップどころかイメージダウンの可能性大だよねえ」
「とにかく大変だったね、シャルロットさん」
「頑張ったね。歓迎するよシャルロットさん」
「仲良くやってこうね、シャルロットちゃん」
クラスの皆からの温かい拍手と言葉に迎えられ、シャルロットはクラス中をポカンとした表情で見渡していた。俺と目が合ったので頷いてやると、シャルロットは目の端に涙を浮かべながらも飛びっきりの笑顔を見せた。
「ありがとう。皆よろしくね!」
こうしてシャルロット・デュノアは1年1組の正式な一員になった。
~side end
読んで頂きありがとうございます。
次回は学年別トーナメント開始前までをお送りしたいと思います。