二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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第41話を投稿します。

第37話と40話を若干加筆・修正しました。
具体的には3人目の男性操縦者の件が報道されてない件の追加とアルベールが亡命した事に修正しています。
ご迷惑をおかけしますが読み返して貰えると幸いです。

それでは第41話をご覧下さい。




第41話 放課後の惨劇

 

 

~志狼side

 

 

 シャルロットが女だと言う件は、瞬く間に学園中に知れ渡った。その反応は騙されたと憤る者。事情を知って同情する者。恋破れて愕然とする者。この際女でもいいとトチ狂う者など多岐に渡っていた。

 元々3人目の男性操縦者の件が大々的に報道されてなかった為、おかしいと思っていた者も多かったようだ。シャルロットにとってしばらくの間居心地が悪いとは思うが、時間が解決してくれる事を祈ろう。

 

 

 

 

 放課後。本日うちのクラスに割り振られた第3アリーナでの実機訓練に参加した。操縦訓練をしたい者や模擬戦をしたい者と意見が別れたので、操縦訓練をしたい者に3機を割り振り、模擬戦をしたい者は専用機持ちが相手をする事にした。

 

 

 

「はああああーーーーっ!!」

 

 打鉄を纏った箒の気合いの入った斬撃が迫る。しかし、

 

「甘いですわよ、箒さん!」

 

 セシリアがブルー・ティアーズを操り、軽やかに回避するとそのまま至近距離からの銃撃で箒の打鉄にダメージを与える。

 

「くっ、やったなセシリア!」

 

「ホホホ、鬼さんこちら、ですわ~~」

 

 と2人は空中で鬼ごっこを繰り広げる。箒は直線的な動きはまずまずだが、如何せん立体機動となると代表候補生のセシリアには及ばず、今もヒラリヒラリと余裕でかわされている。だが、

 

「ここですわ!」

 

 ブルー・ティアーズが近接ブレード「インターセプター」をここぞとばかりに突き立てるも、箒は打鉄の肩の装甲で受けてダメージを最小限に抑える。

 

「刃が立ってないぞ、セシリア。それでは私は墜とせんぞ!」

 

「くっ!」

 

 セシリアは接近戦が苦手だ。模擬戦での敗因は全て射撃をかい潜られてからの接近戦なので何とかしようと箒から剣の扱い方を教わっている。逆に箒はISの動かし方や射撃武器への対応などを教わっている。だが、2人共教え下手だ。箒は感覚派で擬音で説明するし、反対にセシリアは理論派で、専門用語を羅列して相手に理解させようとしない。その為に2人共中々上達しないようだ。

 この2人は箒が接近戦でクラス上位、セシリアが射撃でクラス一なので理想的な前衛、後衛になるだろう。コンビを組ませたら今のままでも学年上位に食い込めるかもしれない。

 

 

 ピイイイイーーーッ!!

 

 俺の隣りにいた静寐が模擬戦終了のホイッスルを吹いた。

 

「時間でーーす。戻って下さーーい!」

 

 静寐の声に従い箒とセシリアが戻って来た。

 

「2人共お疲れ様。一応セシリアの優勢勝ちだな」

 

「やりましたわ、志狼さま!」

 

 喜ぶセシリア。だが、箒には悪いが勝って当たり前なんだから喜んでどうする。

 

「とまあお互いに足りないものが良く解った模擬戦だったな。箒はまず三次元機動をマスターする事が第一だな」

 

「うん。分かった」

 

「直線的な動きはかなり良かったし、剣の扱いも元々上手いんだから、立体的な動きをマスター出来ればかなり強くなれると思うぞ」

 

「本当か。よし、頑張る!」

 

 ポニーテールを揺らして気合いを入れる箒。誉められてちょっと嬉しそうなのが可愛い。

 

「セシリアはやっぱり接近戦がなあ」

 

「そうですねえ。正直代表候補生とは思えないレベルです」

 

「ちょっと静寐さん! 流石に酷いですわよ!」

 

「だが事実だしなあ」 

 

「志狼さままで!? うう~、いいですわよ、別に剣なんて使えなくても。貴族たる私には銃で獲物を仕止めるのが一番性に合ってますわ!」

 

 強がりを言うセシリアだが、それは悪手だ。

 

「セシリア・・・・そう言ってお前が負けた試合は全て接近戦に持ち込まれて負けてるじゃないか」

 

「うっ」

 

「その内セシリア必勝法として確立したらどうするの? 必勝法のあるカモとして、今度は貴女が獲物になるのよ?」

 

「ううっ」

 

「そもそもイギリスは騎士の国だろう。その国の貴族が剣を使えないと言うのは不味いのではないか?」

 

「ううう~~~、だって仕方がないじゃないですか! 使えないものは使えないんですわよ!」

 

 とうとう開き直ったか。涙目になってて可愛いんだが、困るのは本人だからなあ。

 

「うう、偏向射撃さえ出来ればこんな事には・・・・」

 

 偏向射撃(フレキシブル)とはビームやレーザーなどの光学兵器を発射後に湾曲させる射撃技術らしい。どう言う理屈でそうなるのか分からないが、射撃の高等技術で、とても難しいらしい。セシリアはこの技術を習得しようと頑張っているが中々上手くいかないらしい。

 

「偏向射撃ねえ。一応出来そうな人に心当たりはあるが・・・・」

 

「本当ですか、志狼さま!?」

 

 セシリアが食い付いた。

 

「セシリアも知ってる人だぞ。なのはさんだよ」

 

「成る程。あの方ですか・・・・」

 

「ああ。恐らく出来ると思うぞ。案外教えたがりな人だし、頼めば教えてくれるんじゃないか?」

 

「そうですわね・・・・少し考えてみますわ」

 

 まあ、いずれにしても今度のトーナメントには間に合わないだろう。

 

「志狼さん。調整が終わりました。お相手願います」

 

 箒の乗っていた打鉄を自分用に調整し直していた神楽が声をかけて来た。次の模擬戦は俺と神楽の番なのだ。

 

「分かった。それじゃあ行って来る」

 

 セシリア達に一声をかけて、俺は狐狼を纏うと、神楽と共に空へと翔け出した。

 

 

~side end

 

 

 

 

~一夏side

 

 

 放課後、部屋に戻るとシャルル、いやシャルロットが荷物の整理をしていた。

 

「あれ? お帰り一夏。早かったね、アリーナには行かなかったの?」

 

「あ、ああ。何か気分が乗らなくてな」

 

「もう、駄目だよ。一夏はただでさえ稼働時間が短いんだから。時間があるなら白式に乗らなきゃ上手くならないよ」

 

 服を畳んでバッグに詰めながらシャルロットが言う。

 

「ああ、気を付けるよ。・・・・なあシャルロット。聞きたい事があるんだ」

 

「ん~~、な~に?」

 

 俺はずっと気になっていた事を聞いてみた。

 

「その、シャルロットの問題って全部片付いたのか?」

 

「え? うん。そうだね。片付いたって言えるかな」

 

 シャルロットが手を止めて、こちらを向いた。

 

「一夏にも色々迷惑かけちゃったね。でも私はもう大丈夫だよ」

 

 シャルロットは曇りのない明るい笑顔を見せる。本当に解決したみたいだ。本来喜ぶべき筈なのに、何故だか俺は心に引っ掛かるものを感じていた。

 

「そうか・・・・結局何をどうしたんだ?」

 

「ん~~、簡単に言うとね、志狼がお父さんを説得してくれたんだ」

 

 ズキンッ!

 

 結城の名を聞いて胸が痛んだ。何故ここでアイツの名前が出るんだ!? シャルロットは嬉しそうに結城がああしたこうしたと話しているが、俺の耳にはほとんど入って来なかった。

 

「ち、ちょっと待ってくれ。何で結城が出て来るんだよ? だってアイツは何もしないって言ってたじゃないか!?」

 

 シャルロットの話の途中で俺は口を挟んだ。

 

「うん・・・・あの時そう言ったのは私や一夏に軽はずみな事をしないよう釘を差す意味で言ったんだと思うよ。現にあの後すぐ私と話し合いの場を設けたもの」

  

 それを聞いて俺は、シャルルの帰りが遅かった日があったのを思い出した。

 

「あ、あの時か! でも、だったらどうして俺も呼んでくれなかったんだよ!?」

 

「・・・・一夏。あの段階で志狼から話し合いをすると言われて参加した? あの剣幕からすると自分は勿論、私が参加する事も許さなかったんじゃないの?」

 

「そ、それは・・・・」

 

 確かにそうかもしれない。あの時は結城の薄情さに腹を立ててたからな。

 

「それに一夏は先生方に話すのを反対してたでしょ?」

 

「あ、ああ」

 

「志狼は話し合いの場に織斑先生と山田先生も呼んでたんだよ。それと生徒会長も」

 

「!?」

 

 千冬姉を話し合いに呼んだ? アイツ、余計な事を。でも、それじゃあ結城がシャルロットの親父さんを説得するのを千冬姉は認めたって事かよ。そう考えた途端、俺が感じたのは、またアイツに持って行かれた、と言う虚しさだった。

 

「・・・・一夏? どうしたの?」

 

「ハハ、何だよ。何が何も出来ないだ。俺が相談した時は突っ撥ねたくせに。結局アイツは自分の手柄にしたかっただけじゃないか!!」

 

 俺は胸の内を吐き出した。そんな俺にシャルロットは諭すように言った。

 

「それは違うよ一夏。志狼だってあの場ではいい考えなんて浮かんで無かったんだよ。一晩じっくり考えて、先生方や会長とも話し合って、実現可能なように計画したんだ。あの時の志狼にはそんな自分本意な考えなんて無かった。ただ純粋に私を助けようと知恵を絞ってくれただけなんだよ」

 

 だが、シャルロットが結城を弁護すればする程、俺は益々意固地になって行った。

 

「分かるもんか! アイツの事だからどうせ下心でもあったんだろうさ!!」

 

 そして、つい言ってしまった。言った瞬間「しまった」と思って、思わずシャルロットを見ると、彼女は酷く悲しそうな顔をして、俺を見つめていた。

 

「・・・・一夏、どうしてそんな事を言うの? 確かに私を救い出してくれたのは志狼だよ。でもね一夏、私は『ここにいていい』と言ってくれた君にも同じように感謝してたのに・・・・残念だよ」

 

 シャルロットはそう言うと俺に背を向けて、残りの荷物を無理矢理バッグに詰め込んで立ち上がった。そして、

 

「・・・・さよなら」

 

 そう一言呟くと、部屋を出て行った。

 

「まっ───!」

 

 呼び止めようとした声は詰まり、伸ばした手は空しく空を切った。ただ、パタンと扉の閉まる音がやたらと大きく感じた。

 

「っっっ、ちくしょーーーーっ!!」

 

 俺の叫びは空しく部屋に響いた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 翌日の朝のSHRで来週開催の学年別トーナメントに於ける大々的な変更点が発表された。即ち、

 

「今年の学年別トーナメントはより実戦的な模擬戦闘を行う為、2人1組の参加を必須とする。尚、ペアは誰と組もうと自由だ。前日までに誰ともペアが組めなかった者は抽選によりペアを決定するからそのつもりで。少しでも勝ち進みたいなら自分の適正を考えて、早目にパートナーを決める事だ。以上、何か質問は?」

 

 織斑先生がそう言うと、静寐が手を挙げた。

 

「より実戦的な模擬戦闘と言う事でしたが、別に1対1でも実戦的な模擬戦は出来るのではないですか?」

 

「そうかな? 例えば実戦では常に1対1で戦えるとは限らない。敵の増援がいきなり襲って来る事もあり得るだろう。そんな事態を想定して2人1組の方がより実戦的になりうると考え、今年は試験的に採用した訳だ」

 

 静寐が着席すると、続いて神楽が手を挙げた。

 

「本来、学年別トーナメントは私達個人個人の実力を量る為のものだった筈ですが、2人1組にしたらパートナー次第で勝ち進める事もあり得ます。それでは本末転倒になるのではありませんか?」

 

「一理ある。が、あまり学園の教師をなめるなよ。例え強力なパートナーと組んで勝ち進んだとしても、個人の実力を判断するくらいは出来る。その点は信頼してくれ」

 

 神楽は「失礼しました」と言って着席する。続いて明日奈が手を挙げた。

 

「より実戦的な模擬戦を、と言う事はやはり先日のクラス対抗戦のような事態に対応する為でしょうか?」

  

「その通りだ。あんな事は二度と無いと言いたい所だが、襲撃犯が何者かは未だ不明だ。よって、万が一の備えとして皆にも戦う心構えをして貰う為でもある」

 

 明日奈が着席すると、セシリアが手を挙げた。

 

「2人1組となると、単純に試合期間が半分になると思いますが、日程に変更はありますか?」

 

「日程に変更は無い。従来通りだと日程がかなり厳しいのでな。試合期間が半分になって、余裕を持って進行する予定だ」

 

 セシリアが着席すると、他には質問は無いようだった。

 

「ではなるべく早くパートナーを決めるように。ペアを組んだら職員室で申請書を書いて提出する事。これが提出されないと抽選になるから注意しろ」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

 ともあれ、パートナー決めが急務のようだ。さて、誰と組むべきだろうか?

 

 

~side end

 

 

 

 

~鈴音side

 

 

 切っ掛けはヴィシュヌの何気ない一言だった。

 

「それにしてもデュノアさんが女だったのは驚きましたね。確かに男にしては可愛らしいとは思いましたが」

 

 机に突っ伏して寝ていたアタシの耳がそんな一言を拾った瞬間、アタシは飛び起きた。

 

「ちょっと、それ本当!?」

 

 突然飛び起きたアタシにヴィシュヌ達はビックリしてたけど、それ所じゃない!

 

「え、ええ。昨日から女子の制服を着ていますよ」

 

 アタシはそれを聞いて教室を飛び出した。

 

 

 何と言う失態。興味の無い事にはとことん無頓着なアタシの性格が災いしてしまった。よもやそんな事になっていようとは思いもしなかった。

 昨日やたらとあちこちでデュノアがどうしたこうしたと騒いでいたが、アタシは興味が無かったので聞き流していた。男にしてはなよっちいと思っていたけど、まさか女だったとは───!

 

 

 1組の教室へ乗り込むと、突然やって来たアタシに皆が注目する。アタシはデュノアを見付けると、彼女の前にズカズカと歩みを進め、上から下までジロジロと視線を這わす。

 

「あの、何か用かな、凰さん・・・・?」

 

 彼女。そう、まさに彼女だ。彼女は不安そうに瞳を揺らす。こう言う仕草が男の庇護欲をそそるんだろう。

 アタシは胸のふくらみが本物かを確める為に(決して大きいのでもいでやろうと思った訳ではない)手を伸ばして揉んでみた。

 

「きゃっ!! ちょっと、何するの!?」

 

 彼女は慌てて胸を隠すように屈んだ。その柔らかさは本物だった。

 

「ちっ! 本物か。とすれば・・・・」

 

 アタシは舌打ちをすると、もう1人の標的を捜した。そいつはアタシの一連の行動を間抜け面して見ていた。アタシの胸に怒りの炎が燃え盛る。

 

「いぃぃちぃぃかああああーーーーっ!!」

 

「! うわあああーーーーっ!?」

 

 アタシが襲いかかると、一夏の奴は一目散に逃げ出した。逃がすモンか!

 

「待ちなさい! アタシを追い出しておいて、他の女と同居してたなんてどう言う事よ!?」

 

「こ、これには訳があるんだーーーっ!!」

 

「だったら説明してみなさい!!」

 

「なら追いかけるのを止めてくれ!」

 

「アンタが納得のいく説明が出来たら止めてやるわよ!」

 

「んな無茶な! 因みに出来なかったら?」

 

「───殺す!!」

 

「! うわあああーーーーっ!!」

 

 逃げる一夏と追う私。アタシ達の追いかけっこは、千冬さんが出席簿で物理的に介入するまで続いた。

 

 

~side end  

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 昼休み。クラス代表の仕事で生徒会室を訪れた俺は、つい長居してしまい、午後の授業に遅れそうになった。近道をしようといつもは通らない狭い廊下に差し掛かった時、

 

「貴女程の人が何故こんな所で教師などをしてるんです!?」

 

「何度も言わせるな。私はここでやるべき事がある。それだけだ」

 

 曲がろうとした廊下の先で、誰かの言い争う声がした。流石にその中を突っ切る訳にはいかず、様子を伺うと、織斑先生にボーデヴィッヒが食ってかかっていた。

 

「このような極東の地に何があると言うのです。お願いです教官。我がドイツで再びご指導を。この学園は教官が教えるに相応しい場所ではありません!」

 

「ほう、何故だ?」

 

「この学園の生徒は皆、ISと言う兵器を扱っている意識が低く、危機感が足りません。それにISをファッションと勘違いをしている輩までいます。そのような者達に貴女の教えを受ける資格は─「そこまでにしておけよ、小娘」っ!?」

 

 織斑先生の声に殺気が混じる。流石のボーデヴィッヒもこれには黙らざるを得なかった。

 

「しばらく見ない内に随分と偉くなったものだな。15歳でもう選ばれた者気取りか」

 

「わ、私は・・・・」

 

 ボーデヴィッヒはそれ以上声を出せずにいる。虎の尾を踏んだらこんな気分だろうか。離れた所にいる俺にまで威圧感がのし掛かる。だが、

 

「さて、授業が始まるな。さっさと教室に戻れよ」

 

 さっきまでの威圧感を嘘のように消して、織斑先生が言う。ボーデヴィッヒは黙したまま、足早に去って行った。

 

 

 

 

「さて、盗み聞きとは趣味が悪い。お前にそんな趣味があるとは知らなかったぞ」

 

 やはりバレてたか。俺は物陰から姿を現す。

 

「そんな趣味ありませんよ。聞かれたくないなら公共の廊下で深刻そうな話をしないで下さい」

 

 俺がそう言うと、織斑先生は一瞬楽しげな笑みを浮かべた。

 

「フッ、そうか。・・・・なあ結城。お前はあいつをどう思う?」

 

 あいつとは勿論ボーデヴィッヒの事だろう。俺は思った事を口にした。

 

「正直、彼女とは会話が成立しないんで判断しかねます。ですが随分と狭い世界で生きて来たように感じました」

 

「ほう。その通りだ。・・・・あいつは軍以外の場所を知らずに生きて来たからな」

 

 軍か・・・・元々軍人っぽいとは思っていたが本当に軍しか知らない奴だったか。ならば今の学園生活を大層不満に思っているのだろうな。

 

「結城、あいつの事を見てやってくれないか? かつて私はあいつに力を与えた。だが、時間が足りずに心まで与えてやれなかった。むしろ、それこそが一番大切な事だと言うのにな・・・・」

 

「先生・・・・」

 

 織斑先生がさっきとは違う悔やむような自嘲の笑みを浮かべる。この人にこんな表情は似合わない。いつも堂々としていて欲しい。だから、

 

「任せて下さい、とは言えません。ですが、出来る限りの事はしてみます。それでいいですか?」

 

「ああ、それでいい。よろしく頼む」

 

 先生はそう言うと、さっきとは違う少し嬉しそうな笑みを浮かべた。いつかこの人が心から笑顔になれるといい、そんな風に思ったその時、

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 

 午後の授業の開始を告げるチャイムが鳴った、

 

「「あ・・・・・・」」

 

 俺達は顔を見合わせ、呟いた。

 

「・・・・織斑先生、この時間は?」

 

「あ~、私はその、空き時間でな・・・・」

 

「因みに遅刻を認めてくれたりは・・・・」

 

「見なかった事にしてやるから、急げ」

 

 そう言って先生は視線を逸らした。

 

「うおおおーーーっ!!」

 

 俺は慌てて駆け出した。次の時間は桐島先生の格闘技の授業。今から着替えて武道場に向かうとすると大遅刻決定である。あの先生の授業に遅刻すると容赦なく技の実験台にされるのだ。俺は暗鬱たる気分で先を急いだ。

 

 

~side end

 

 

 

 

~ラウラside

 

 

「くそっ!」

 

 授業の開始を告げるチャイムが鳴ったが、私の知った事ではない! 私は教官に拒絶された事で頭が一杯で、それ所ではなかった。

 何故だ。何故あの方は分かってくれないんだ!? この学園に来てからと言うもの、再三に渡ってドイツへの復帰をお願いしているにも関わらず、一度も良い返事を貰えない。いつも「私はここでやるべき事がある」と言って断られてしまう。今日なんてとうとう殺気を向けられてしまった。

 あの恐ろしいまでの威圧感。こんな所で教師をしていて鈍ったのではと危惧していたが、以前と変わらぬ野生の虎のような殺気だった。その事が恐ろしくも少し喜ばしい。

 

「どうすればいいのだ・・・・」

 

 やはり織斑一夏の存在がネックなのか。奴を排除する? だが、そんな事をすれば教官は私を絶対許さないだろう。ならば奴に近しい者を痛め付けて、その罪悪感から奴が自ら学園を去るように仕向ければ───!

 

「ククク、ああ、そう言えばうってつけの奴がいたなあ・・・・」

 

 確か中国の代表候補生だったか。今日も2人で走り回ってたし、さぞかし仲が良いんだろう。

 

「放課後が楽しみだな、ククク」

 

 私の昏い笑みは、誰もいない廊下に吸い込まれ、消えていった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~鈴音side

 

 

 放課後。アタシは今日1年2組に割り振られた第3アリーナに来ていた。これから学年別トーナメントへの訓練をするので準備をしに来たのだ。

 これもクラス代表の仕事とは言え、アタシも良くやるわよねえ。でもアタシはクラス対抗戦でクラスの皆の期待を裏切ってしまった。だから今回は皆の力になりたい、とそう思っていたのに、

 

「ちょっと、ここはうちのクラスの貸し切りよ。出て行ってくれない?」

 

 突然、アリーナにクラスメイトではない小柄な人影が現れた。

 

「中国代表候補生序列3位、凰鈴音だったか。噂程出来るようには見えんな。まあいい、少し遊んでやろう」

 

 隣のクラスのもう1人の転校生。ドイツ代表候補生序列1位、ラウラ・ボーデヴィッヒ。その紅い右目が見下すようにアタシを見つめていた。

 

「あ? いきなり何言ってんのアンタ。大会前に問題起こそうって言うの?」

 

 アタシの顔が不機嫌に歪む。ボーデヴィッヒが口元に嘲笑を浮かべた。

 

「おや? そんな事を気にする奴だったか? ふむ、そう言えば猿にも反省くらいは出来るのだったな」

 

 コイツ、明らかにケンカを売ってる。

 

「何、やるの? わざわざドイツくんだりから来てボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそう言うのが流行ってんの?」

 

「ハッ、2人がかりで量産機に負ける程度の実力で代表候補生とは片腹痛い。やはり数しか能のない国だな。質より量、と言う事か」

 

 ブチッ!

 

 何かが切れたような音がした。コイツ、アタシ達中国代表候補生全員をバカにしやがった。

 皆が普段どれ程厳しい状況に身を置いてるかも知らずに、よくも───!

 

「ああ、ああ、分かったわよ。自慢の新型をスクラップにして欲しい訳ね。いいわ。やってやるわよ」

 

「ハッ、下らん種馬を追いかけてるようなメスに、この私が負ける訳なかろう?」

 

「───殺す!!」

 

 コイツはもう許さない。ボコボコにして土下座させてやる!

 

甲龍(シェンロン)!!」

 

 アタシの叫びに応えて、左手の黒いブレスレットが光を放つ。次の瞬間、アタシは『甲龍』を纏っていた。

 

「フ、出撃だ、レーゲン」

 

 ボーデヴィッヒが呟くと右腿のレッグバンドが光を放つ。ドイツ製第3世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』。その黒い機体を纏い、ラウラ・ボーデヴィッヒが不敵に嘲笑(わら)う。

 

「ほら、さっさと掛かって来い」

 

「上等!!」

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 放課後。俺は今日うちのクラスに割り振られている第4アリーナへ明日奈とシャルロットと共に向かっていた。途中、第3アリーナの前を通りかかると、何やら騒がしい。アリーナの入口で2組の面々が集まっているのだ。俺達は顔を見合わせると近寄ってみた。中には見知った相手がいたので声をかけてみる。

 

「ヴィシュヌ、何かあったのか?」

 

「志狼!それがアリーナの扉が開かないんです」

 

「開かない? 中に誰かいるのか?」

 

「鈴が先に来ている筈なんですが・・・・」

 

「ヴィシュヌ、管制室に行ってみたら?」

 

「ええ明日奈。そう思って今、乱に行って貰ってるんですが・・・・」

 

 ちょうどその時、横の階段から乱が駆け降りて来た。

 

「大変! 大変よ!!」

 

「どうした、乱?」

 

「え? あ、志狼さん。鈴が、鈴が戦ってるんです!」

 

「戦ってる!? 誰と?」

 

「1組の、あの眼帯の娘! ラウラ・ボーデヴィッヒです!!」

 

「「「!!?」」」

 

 ボーデヴィッヒが鈴と戦ってる? 何でそんな事になってるんだ?

 

「今、アリーナには模擬戦機能が働いてて、それで入口がロックされてたんです」

 

「そう言う事か。でも観客席か管制室には入れた筈だよな?」  

 

「あ、はい。それなら」

 

「行こう!」

 

 そこにいる皆で観客席へ駆け上がる。観客席に出た俺達が見たのは、あの鈴が手も足も出せず蹂躙されている姿だった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~all side

 

 

「くっ、この!」 

 

「ふん、無駄だ」

 

 双天牙月を振りかざし突撃するも、シュヴァルツェア・レーゲンが右手を突き出すと動きが止まってしまう。

 

「くっ、また!?」

 

「無駄だと言ったぞ。この『シュヴァルツェア・レーゲン』の停止結界(AIC )の前にはな!」

 

 動きの止まった甲龍は最早的でしかなく、至近距離から大型レールカノンの砲撃をまともに食らってしまう。

 

「きゃあああーーーっ!!」

 

「ほら、最初の威勢はどうした!」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンは両肩から2本のワイヤーブレードを射出すると、甲龍の足に絡めて振り回し、ちょうど志狼達が入って来た観客席にブン投げた。

 甲龍は観客席のシールドバリアに衝突するとバリバリと激しい音を発てて、シールドバリアが明滅する。

 

「きゃあああーーーっ!!」

 

 バリアの衝撃を受けて、甲龍はアリーナに落下する。アリーナに倒れた甲龍をシュヴァルツェア・レーゲンはワイヤーブレードを操り、アリーナ中央に投げ飛ばす。鈴は懸命に立ち上がろうとするが、そこにワイヤーブレードが鞭のように甲龍を打ちつける。

 

「そら、そら、どうした? もう終わりか!?」

 

「ぐっ! くあっ!」

 

 ワイヤーブレードが打ちつけられる度、鈴が苦悶の声を上げる。

 

 

 

「酷い・・・・」

 

 シャルロットがあまりの惨状に思わず呟いた。既に模擬戦の決着は付いている。であるのにラウラは攻撃の手を弛めない。いや、それ処か更に苛烈に甲龍を攻め立てている。

 

「いやあ、もうやめてよ・・・お姉ちゃんが死んじゃうよ・・・・」

 

 乱が涙を流してへたり込む。甲龍のダメージは既に機体維持警告域(レッドゾーン)を越えて、操縦者生命危険域(デッドゾーン)へ到達していた。これ以上ダメージを受け、ISが強制解除されれば、文字通り生命に係わりかねない。

 

「明日奈、シャルロット、ヴィシュヌ、来い!」

 

 3人に声をかけると、志狼は走り出す。

 

「兄さん!?」

「志狼!?」

「志狼、どうするのです!?」

 

 疑問の声を上げるも志狼の後を追う3人。3人が志狼に追い付くと、志狼は素早く指示を出す。

 

「ヴィシュヌ、織斑先生を捜して連れて来てくれ。ボーデヴィッヒはあの人じゃないと止まらん!」

 

「分かりました!」

 

 志狼の指示を受け、ヴィシュヌが走り出す。

 

「俺達は突入するぞ。俺と明日奈でボーデヴィッヒを挟撃する間にシャルロットは鈴を救出してくれ」

 

「「はいっ!!」」

 

「よし、行くぞ!」 

 

 志狼はそう言うと、孤狼の右腕を部分展開して入口を打ち抜いた。

 

「うわあ~~」

 

「志狼、流石にこれは・・・・」

 

 いきなりの事に唖然とする2人。だが志狼は顔色ひとつ変えず、「非常事態だ」と言い放つと、自ら打ち抜いた入口へ駆け出した。

 

「あ、兄さん!」

「待って、志狼!」

 

 明日奈とシャルロットは志狼の後を追った。3人はアリーナに飛び出すとISを展開、未だに甲龍を痛めつけるシュヴァルツェア・レーゲンへ襲いかかった。

 

「鈴を離せ、ボーデヴィッヒ!」

 

「結城志狼!? 邪魔をするな!!」

 

 孤狼がヴァリアブル・ナックルを振りかざし襲いかかるが、ラウラは停止結界(AIC )を発動し孤狼の動きを止める。

 

「くっ、こ、これは!」

 

「無駄だ! 私の停止結界の前ではどんな攻撃も無意味だ!」

 

 

 

 

 ───AIC (慣性停止結界)

 

 

 シュヴァルツェア・レーゲンの第3世代兵装。アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略。

 元々ISに搭載されているPICを発展させたもので、対象を任意に停止させる能力を持ち、1対1では反則的な効果を発揮する。

 但し、発動には多大な集中力が必要であり、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄いと言う欠点を持つ。

 

 

 

 

 

「反対側がガラ空きだよ、ボーデヴィッヒさん!」

 

「くっ、結城明日奈か!? しまった!」

 

 孤狼が停止結界で抑えられている反対側から明日奈の閃光が攻撃を仕掛ける。閃光はビームサーベルで斬りかかると、シュヴァルツェア・レーゲンはプラズマ手刀を発動して受け止めた。

 

「はああああーーーーっ!!」

「ぬううううーーーーっ!!」

 

 ビームサーベルとプラズマ手刀が火花を散らす。この状態では流石のラウラも集中力を維持する事が出来ず、孤狼の停止結界が弛む。

 

「今だ、シャルロット!」

 

「了解!」

 

 志狼の声にシャルロットの『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』が飛び出すと、倒れたままの鈴の甲龍を救出する。

 

「凰さん、大丈夫!?」

 

「うう、何よ、デュノア・・・これから反撃なんだから、邪魔しないでよ・・・・」

 

 そう言うと、鈴は気を失った。

 

『シャルロット、鈴の様子は?』

 

「うん、大丈夫みたいだよ」

 

『そうか。ならばそのまま離脱して鈴を医務室へ連れて行ってくれ』

 

「いいの? 2人で大丈夫?」

 

『何とかする。急げ』

 

「了解。気をつけてね」

 

 シャルロットはそのままアリーナを出て行った。

 

 

 

 

「ち、よくも邪魔してくれたな、お前ら」 

 

「ボーデヴィッヒ。流石に今回はやり過ぎだぞ。過剰なまでに鈴を痛めつけてどう言うつもりだ」

 

「ハッ、痛めつける? それは奴が弱かっただけだ。弱い者は強い者に食い物にされる。この世の摂理に私は従っただけだ」

 

「なっ、貴女何を言って──「確かにお前の言ってるのは正しいかもしれない」──兄さん!?」

 

「ほう」

 

「だがな、俺にはお前が織斑先生に相手にされない憂さを晴らしをしているようにしか見えないよ、ボーデヴィッヒ」

 

「! 何だと!?」

 

「聞こえなかったか? 高尚な事を言ってるようで、その実、子供がキャンキャン喚いてるようにしか見えなかったって言ってるんだ」

 

「貴様アア、殺してやる!!」

 

「やれるものなら、やってみろ!!」

 

 その台詞を皮切りにシュヴァルツェア・レーゲンと孤狼が互いにバーニアを吹かし突っ込む。激突する瞬間、ガキンッと鈍い音が響いた。

 

「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

 孤狼のステークとレーゲンのプラズマ手刀を両手に持ったIS用の近接ブレードで受け止める織斑千冬の姿がそこに在った。

 

「教官!?」

「織斑先生・・・・」

 

 ラウラと志狼を始め、この光景を見た者達は信じられない気持ちで一杯だった。千冬はISスーツすら身に着けてない、普段の黒い女性用のスーツ姿で、自分の身長程の長大なIS用近接ブレードを2本も振り回しているのだ。ISの補助のない生身でそれを成し遂げる姿に、見た者は驚きを禁じ得なかった。

 

「教師として模擬戦をやるのは構わんが、殺し合いは黙認出来んのでな。この決着は来週の学年別トーナメントで決着を付けろ」

 

「教官がそうおっしゃるなら」

 

「俺も異存はありません」

 

 ラウラと志狼はそう言うと、互いにISを解除した。その言葉を聞いた千冬はアリーナ中の生徒に向けて言い放った。

 

「それでは来週の学年別トーナメントまで一切の私闘を禁止する。以上、解散!!」

 

 千冬がパンッと手を叩く。その音はやけに大きく鳴り響いた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 第3アリーナでの事件から1時間経過していた。俺と明日奈、ヴィシュヌの3人は織斑先生の事情聴取を受けて、ついさっき解放された所だった。

 鈴とボーデヴィッヒが戦いを始めた経緯は分からないが、ボーデヴィッヒの過剰攻撃とそれを止める為に乱入した事は説明しておいた。

 それを聞いた織斑先生は「そうか」と呟き沈痛な表情を浮かべていた。この人の事だから自分の責任だと胸を痛めてるのかもしれない。昼休みの廊下での一件のすぐ後の事だ。無理もないのかもしれない。

 かく言う俺も先生からボーデヴィッヒの事を頼まれた矢先の出来事に、先生に会わせる顔がないと思っていた。因みに今回、俺は扉を壊した件で反省文10枚を明日の朝までに提出する事になってしまった。

 

 

 

 

 事情聴取が終わると、鈴の容態が心配だったので、医務室へ直行した。

 医務室へ行くと全身包帯でグルグル巻きの鈴が目を覚ました所で、側には乱とシャルロットが付き添っていた。涼子先生の所見では全身打撲で全治2週間との事だった。あれだけやられておいてこの程度で済むとは鈴が丈夫なのか、ISの絶対防御が優れているのか、判断がつかなかった。

 

「志狼さん、明日奈さん、シャルロットさん、そしてヴィシュヌ。皆ありがとう。皆のお陰でお姉ちゃんは比較的軽傷ですみました。本当にありがとうございます」

 

 乱が深々と頭を下げる。その姿に彼女が普段厳しい態度を取っていても、心の中では鈴を慕っているのが分かる気がして何だかホッコリした。なのに、

 

「アンタは大袈裟なのよ、乱。アタシがこの程度の怪我でどうにかなる訳ないでしょ」

 

 などと鈴が言うものだから、乱がキレた。

 

「何言ってるのお姉ちゃんは! あれだけ一方的にやられてたら心配にもなるわよ! 大口叩くぐらいなら最初から心配させるようなバトルなんかすんな!!」

 

 乱は目の端にまた涙を浮かべて抗議する。その剣幕に鈴も気圧(けお)されていた。思えばクラス対抗戦での俺もこんな風に明日奈や皆に心配かけたのだろうか。そう思ったらつい口を出してしまった。

 

「鈴。今のはお前が悪い。お前だって大切な人が怪我したら心配するだろう? 散々心配かけておいてその態度は頂けないぞ」

 

「うっ」

 

「俺もクラス対抗戦で大怪我をして、明日奈や皆に心配かけたからな。心配かけた者は心配してくれた人に対して、それなりの態度を取るべきだと思うぞ」

 

「・・・・・・」

 

「兄さん・・・・」

 

 仏頂面する鈴に比して、嬉そうな笑顔を浮かべる明日奈。鈴はやがて深くため息を吐いた。

 

「ハア、志狼の言う通りかもね。志狼、明日奈、ヴィシュヌ、それにシャルロット。アンタ達のお陰でこの程度の怪我ですんだわ。ありがとう」

 

 鈴はそう言うと、俺達に向かって頭を下げる。

 

「それと乱」

 

「な、何よ?」

 

「心配ばかりかける駄目なお姉ちゃんでごめんね。でも心配してくれてありがとう」

 

 乱の頭に手を置き、そう言う鈴。鈴のその言葉に乱は再び涙を流した。

 

「グスッ お姉ちゃんのバカ。本当に心配したんだから、もう心配させないでよう・・・・」

 

 ポロポロと涙を流す乱の頭を優しく鈴が撫でる。

 

「うん。ごめんね、乱」

 

 そんな2人を夕焼けが優しく包んでいた。

 

 

 

 

 しばらくして、泣き顔を見られた乱が顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたので空気を変えるように俺は別の話題を振った。

 

「でもこれで鈴はトーナメントに出場出来ないな」

 

 だが、これに鈴が反発する。

 

「何言ってんのよ。出るわよアタシは! ボーデヴィッヒの奴に雪辱するんだから!」

 

「何言ってんの!? 駄目に決まってるでしょ!!」

 

 途端に乱が反対する。当然だろう。

 

「お姉ちゃんは全治2週間。1週間後のトーナメントに出られる訳ないでしょ!?」

 

「いや、1週間くらい気合いで何とか・・・・」

 

「お・ね・え・ちゃん?」

 

「・・・・ハイ、スミマセン」

 

 などと言うやり取りの末、乱が鈴をやり込めた。そんな時、

 

「ハハハ、今日の所は乱の言う通りだぞ、鈴」

 

 そう言って医務室に入って来たのは2組担任の桐島カンナ先生と真耶先生の2人だった。

 

「カンナ先生。山田先生もどうしてここに?」

 

 乱が聞くと、桐島先生は乱の頭をやや乱暴に撫でながら、

 

「ん? 見舞いがてら報告にな。真耶、説明頼む」

 

「はいカンナさん。凰さんの『甲龍』の状態を先程確認しましたが、ダメージレベルがCを超えていました。残念ですが当分は修復に専念する必要があります。今の状態で無理をすれば、後々重大な欠陥が生じる事になりますよ。よってISを休ませる意味でもトーナメントの参加を許す訳にはいきません」

 

「ぐう・・・わ、分かりました・・・・」

 

 真耶先生の説明を聞いた鈴は、不本意そうではあるが了承した。

 

「それでいい。今無理をすれば、そのツケはいつか必ず自分に帰って来るからな。引く時は引く。それもまた勇気だぞ、鈴」

 

「はい・・・・・・」

 

 桐島先生にも言われ、鈴は悔しそうに返事をした。学年別トーナメントはクラス対抗戦と同様、全世界にテレビ中継される。その大舞台で代表候補生である鈴が出場出来ないのは国や国民、果ては同じ代表候補生達の期待を裏切る結果になる。彼女の心中を察するに悔しくない訳がないのだ。こんな時、何て言葉をかけたらいいか、俺には分からなかった。

 

 

 

 

 涼子先生の計らいで、鈴は今夜一晩医務室でお世話になる事になった。今の鈴には休息が必要なので俺達は揃って医務室を出た。

 

 

 寮への帰り道。皆が何となく無言で歩いていると、乱が突然俺の前に立ち塞がり、真っ直ぐ見つめて来た。

 

「どうした、乱?」

 

「・・・・私はあの人、ラウラ・ボーデヴィッヒを許せません。お姉ちゃんの仇を取って、無念を晴らしたいと思ってます。・・・・だから志狼さん、トーナメントで私と組んで貰えませんか?」

 

「「!!」」

 

 乱と組むか。彼女は代表候補生、それもページワンだ。操縦技術は確かな上、専用機は中・近距離用の戦闘型。完全前衛型の俺とペアの相性は悪くない。

 そんな風に考えていると、横から明日奈が声をかけて来た。

 

「ちょっと乱ちゃん! いきなり抜け駆けしないでよ! 兄さん、組むなら私と組もう? 私達ならコンビネーションバッチリだよ」

 

 明日奈とか。代表候補生でページワンなのは乱と同じ。専用機はシルエットの換装によりどの距離でも戦う事が出来る。長年一緒に暮らしているから勿論息も合うだろう。やり易さでは一番かもしれない。

 そんな風に考えてると、今度はシャルロットがシャツを軽く引っ張った。

 

「あの、志狼。私も志狼と組みたいなって・・・・」

 

 シャルロットはテストパイロット。機体の扱いについては代表候補生以上かもしれない。専用機はラファールのカスタム機で万能型。格闘一辺倒の俺の至らない所をしっかりとフォローしてくれるだろう。

 

 こうして見ると、どの娘も力強いパートナーになってくれる事だろう。そんな時、俺は誰と組むか考える時、自分のメリットばかり考えていた事に気付いた。

 今回の学年別トーナメント、当然出来るだけ勝ち抜きたい。だが今はそれ以外の目的が出来た。その事に思い至った時、俺がパートナーに選んだのは───

 

 

 

 

 

 

 パートナーが決まった翌日から、彼女との連携を主として訓練を開始した。他の皆も次々とペアを組んで、トーナメントの為の訓練をするようになった。

 

 

 そして、瞬く間に時は過ぎ、週明けの今日、いよいよの学年別トーナメント開催の朝が来た。

 

 

~side end

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

セシリアのなのは’Sブートキャンプ参加フラグが立ちました。彼女の運命や如何に!?

一夏の嫉妬からの失言でシャルロットが離れて行きました。志狼と一夏の間を取り持つ可能性のあった彼女が離れて行き、一夏はどうなるのでしょう。

うちのセシリアは最初から一夏に興味がないので、惨劇を免れました。一方、惨劇に合った鈴ですが、本エピソードではまだ活躍の場があります。ご期待下さい。

各キャラのパートナーは誰か次回発表します。(決して思い着いてない訳じゃ無いですから!)

次回から学年別トーナメントを数回に渡ってお送りします。お楽しみに。


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