二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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大変遅くなりました。第43話を投稿します。

今回乱並びに甲龍・紫煙について大幅な設定改変がされています。
原作至上の方は読まない事をお薦めします。

それでは、第43話をご覧下さい。



第43話 学年別トーナメント②~目覚める力

 

 

~all side

 

 

 大会3日目。第3アリーナでは1年生の部Aブロックの試合が行われようとしていた。本日予定されているのは準決勝の2試合。その勝者が午後から第1アリーナで行われるブロック決勝に進出出来る。

 

 準決勝第1試合は結城志狼&凰乱音組対四十院神楽&鷹月静寐組の対戦。4人の選手は既にISを纏い、試合開始の合図を静かに待っていた。

 

 東側の志狼・乱組。志狼が纏うのは赤い全身装甲型の第2世代機、孤狼。乱が纏うのはピーコックブルーの真新しい装甲が美しい台湾製第3世代機、甲龍・紫煙(シェンロン・スィーエ)。鈴の甲龍を基に作られた量産型甲龍の先行試作機である。

 甲龍・紫煙は元々中国が甲龍をベースに開発していた次代の主力量産機であったが、鈴のお目付け役に乱を借り受ける事になった中国が、見返りとして台湾へ設計図を譲渡したのだ。第3世代機の開発に遅れていた台湾は歓んでこれを受け取り、ページワンでありながら開発が遅れ、未だ専用機を持たなかった乱の専用機としたのだった。カテゴリーとしてはラファールや打鉄などと同じ量産機に当たる甲龍・紫煙ではあるが、乱の機体は先行試作機だけあって、元の量産機から試験的に色々と手を加えられており、量産型とは言え侮れないものとなっている。

 

 対する西側は前衛の神楽が打鉄、後衛の静寐がラファールを纏っている。防御力が高く、近接戦闘に定評がある打鉄が前衛、万能型で戦う距離を選ばないラファールが後衛と理に適った選択であった。

 

「いよいよね。緊張してない?」

 

「大丈夫です。むしろ楽しみで仕方がありません」

 

 静寐の問いに神楽が笑みを浮かべる。そんな神楽を見て、静寐もまたパートナーの頼もしさに笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ作戦通りに。行きましょう神楽!」

 

「ええ、静寐!」

 

 

 

 そして、試合開始のブザーが鳴った。

 

 

 

 試合開始と共に乱の甲龍・紫煙と静寐のラファールが上空に上がり銃撃戦を始めた。それを尻目に孤狼がリングに入ったボクサーのように、小刻みに身体を揺らしながらゆっくりとアリーナ中央へ歩みを進める。一方、神楽の駆る打鉄も日本刀型の近接ブレードを手に、試合場に足を踏み入れる剣士のように静かにアリーナ中央へ歩みを進めた。

 2人はアリーナ中央で10m程の距離を空けて止まると、孤狼がヒットマンスタイルを、打鉄が剣を晴眼に構えた。神楽の剣は北辰一刀流。ゆらゆらと揺らしながら剣先を志狼に向ける。志狼と神楽、2人の視線が交錯し、次の瞬間、打鉄が孤狼に斬りかかった。

 

「はあああっ!!」

 

 気合一閃。10mの距離を一瞬でゼロにして、打鉄が上段から斬りかかった。しかし、孤狼は落ち着いて身体を半歩後ろに引いてかわした。神楽はそのまま逆袈裟に剣を斬り上げるも、その剣すらもう半歩身体を引く事で志狼はかわしてしまう。

 

 

 ───見切り。

 

 

 志狼は持ち前の動体視力を駆使して、絶妙な距離で回避し続ける。神楽の剣は振る度に鋭さを増して行く。だが、それでも当たらない。

 

「くっ!? 分かっていたつもりですけど、これ程とは───」

 

 神楽とて志狼と一夏のバトルは観ていたし、志狼自身と模擬戦をした事もある。だが、本気のバトルでの見切りは鋭さが段違いであった。いくら続けても当たらない徒労感はやがて絶望を生み、最後には戦う事を諦めてしまう───

 

(でも、それは1人で戦ってる時だけ。今の私には頼れるパートナーがいる!)

 

 そう思った時、突如孤狼の足下を銃弾が穿ち、反射的に孤狼が足を止めた。

 

(! ここです───!!)

 

 チャンスと見た神楽が一気に距離を詰め、横薙ぎに剣を振るう。孤狼は咄嗟にバックステップでかわそうとするが、神楽の剣が僅かに胸を掠め、SEを削っていた。

 

 

 オオオオーーーーッ!!?

 

 

 2人の攻防に観客から感嘆の声が上がる。前評判の高い志狼は勿論、神楽の剣の冴えは観客を惹き付けていた。 

 

(成る程。2人1組だからこその戦法だな。流石だよ、神楽、静寐)

 

 志狼は目の前の神楽に集中し過ぎていた事に反省し、気を引き締めた。

 

(だが、同じ手は通じないぞ? 俺にも頼りになるパートナーがいるんだからな)

 

 

 

 

(くっ、失態だわ)

 

 乱は目の前で神楽への援護射撃を許してしまった事を悔やんでいた。静寐への対応は自分の役目。相対する隙を突かれた事に、自分が静寐を甘く見ていたと気付かされた。

 

「でも二度目はない、行くよ紫煙!!」

 

 気合一閃、乱は甲龍・紫煙の身の丈程もある大刀型近接ブレード『角武』をコールして、静寐のラファールへ襲いかかる。

 

「はああああーーーーっ!!」

 

「! きゃあ!!」

 

 長大な角武が唸りを上げて、自機のすぐ横を掠める。何とか回避出来たが静寐は気が気でなかった。

 角武は大刀型近接ブレード。その巨大な質量が自分に向かって来るのは当たらなかったとは言え、恐怖心を呼び起こす。こう言う時、ISの敏感過ぎるハイパーセンサーが恨めしい。風切り音や大気の唸りすらもはっきりと感じるのだ。あんなモノが当たれば、いくらISにシールドバリアがあるとしても只ではすまない。下手すれば絶対防御が働いて、一発KOすらありえる。静寐は人知れず唾を飲んだ。

 

「まずいなあ。寝た子を起こしちゃったかな?」

 

 そう言いながら静寐の目には喜色が浮かんでいた。代表候補生が自分のような一般生徒に本気になってくれている。ならば勿体無くてビビってなんかいられない!

 

「ええい、女は度胸ーーーっ!!」

 

 静寐は果敢にも甲龍・紫煙に挑んで行った。

 

 

 

 

 一方の神楽は今の一撃で痛手を負わせられなかった事を悔やんでいた。

 パートナーの静寐が作ってくれた千載一遇のチャンスだったのに、自分はそれを生かす事が出来なかった。

 

(全く、静寐に会わせる顔がありません。とは言え、今のは志狼さんを誉めるべきでしょうか)

 

 先程のタイミングは完璧だった。意識を自分に集中させておいて、意識外からの銃撃で志狼の足を止める。その隙に斬撃を見舞えば最悪でも一太刀はクリーンヒットが奪える筈だった。だが結果は、志狼の胸を僅かに掠めただけ。志狼の反応速度を測り違えた痛恨のミスであった。

 

「ですがまだ終わった訳ではありません!」

 

 神楽は再び剣をかざして孤狼に斬りかかる。先程より更に速く、鋭い斬撃が孤狼を襲う。流石に志狼も全てを回避する事は出来ずに、孤狼の装甲に幾度も神楽の剣が掠めて行く。だが、それでもクリーンヒットは一発も許さない。志狼はウィービングやダッキング、パーリングといったボクシングの防御技術を駆使して神楽の剣を回避し続けた。

 

 

 

 

「だああああーーーーっ!!」

 

「くっ、きゃあああっ!!」

 

 一方の静寐は乱の猛攻に苦戦を強いられていた。長大な角武を振り回す乱の猛攻に神楽を援護する隙を見出だせず、今ではコールした大楯で防御するのが精一杯。それでも乱の剣は大楯毎砕かんとばかりに勢いを増し、静寐のラファールはあちこち悲鳴をあげている状態であった。

 

「まずい! これ以上持たない!!」

 

 幾度も角武の斬撃を受け続けた大楯に、とうとう亀裂が入った。

 

 

 従姉である鈴が2本の青竜刀による連続攻撃で相手を圧倒するスピードファイターであるのに対し、乱は一撃に全力を懸ける生粋のパワーファイターであった。

 代表候補生になったばかりの頃、従姉の鈴に憧れていた乱は同じ戦法を採ろうとしていた。だが、模擬戦で敗戦を続ける内に鈴の戦い方が自分には向いて無い事に気付かされた。

 憧れた姉のようにはなれないと知り、落ち込んでいた彼女に、ある日ひとつの出会いが訪れる。武者修行の旅をしていると言う初老の日本人。偶然出会ったこの老爺との出会いが乱に新たな道を指し示した。

 老爺の使う剣術は『示現流』。初太刀に全てを懸けた一撃必殺の剣。老爺の指導を受けた乱は己が適性に気付き、パワーファイターとして覚醒した。それから乱は模擬戦でも連勝を重ね、序列4位まで上り詰めた。

 

 

 立ち塞がるモノ全てを打ち砕く剛剣。それこそが姉とは違う自分の──凰乱音の剣。今もどこかを旅しているであろう師匠から教えを受け、覚醒した己が剣を力の限り乱は振るう。

 

「チェストォォォーーーーッ!!」

 

 その一撃はラファールの大楯は真っ二つに砕き、ラファールの絶対防御すら発動させた。そして───

 

 

『ラファール・リヴァイブのSE残量0。よって鷹月静寐選手、リタイヤです』

 

 

 アリーナにアナウンスが響く。それと同時にもう一方の戦いも動いた。

 静寐の敗北を知った神楽は決着を付けるべく、大上段から渾身の一撃を孤狼に叩き込んだ。しかし、

 

 パキィィィンッッ!!

 

 乾いた音を発てて、神楽の剣が折られた。

 

「なっ!?」

 

 神楽の放った渾身の一撃を、志狼は光る拳で白刃取りし、そのまま叩き折ったのだ。

 

 剣を振った体勢のまま、孤狼の元に落下する打鉄。2機は完全に密着していて、どちらも攻撃が出来ない距離だった。だが、

 

「強かったよ神楽。また戦ろう」

 

「───え?」

 

 神楽の耳元で志狼の声がした。次の瞬間、神楽は腹部に凄まじい衝撃を感じて、意識を失った。

 

 志狼がやったのは密着状態からでも打てる超至近弾。踏み込みと腰の回転により、僅か10㎝の距離があれば打てる志狼の必殺パンチであった。生身で打った時ですら『爆弾』と称された威力のパンチをヴァリアブル・ナックルを介して打ったのだ。その威力は一撃で神楽の意識を奪うに充分であった。

 

 

 試合時間11分22秒。結城志狼&凰乱音組はAブロック決勝に駒を進めた。

 

 

 

 続くAブロック準決勝第2試合では、早々と箒・セシリア組が勝利を収め、Aブロック決勝は志狼・乱組対箒・セシリア組の対戦となった。

 

 

 

 

 

 第4アリーナでは1年生の部Bブロックの試合が行われた。

 準決勝第1試合、織斑一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ組対布仏本音&谷本癒子組戦は昨日と同じ状態で火蓋を切った。昨日、観る者全てに恐怖を刻み込んだラウラ1人が前に出て、一夏は後ろで待機する例のスタイルだ。

 

 試合開始のブザーが鳴ると同時に本音と癒子はシュヴァルツェア・レーゲンへ集中砲火を浴びせるが、全ての銃弾はシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界に悉く阻まれてしまう。

 

「終わりか? ではこちらの番だな」

 

 集中砲火が途切れたのを見計らい、ラウラが呟く。

 

 

 そして、蹂躙が始まった。

 

 

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツ代表候補生序列1位にして現役の軍人。戦闘に対する厳しさは、学園生徒とは比べるべくもない。2対1の数的不利を物ともせず、本音と癒子を次々と撃墜して行った。本音と癒子にとっては幸いな事に、次の決勝を意識したラウラが早目に決着を付けた為、必要以上に痛め付けられる事は無かった。

 ともあれ、ラウラは2試合連続ただ1人で勝利を収め、その実力を見せ付けたのだった。

 

 

 

 続く準決勝第2試合では前評判通りヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー&ティナ・ハミルトン組が勝利し、Bブロック決勝は一夏・ラウラ組対ヴィシュヌ・ティナ組の対戦となった。

 

 

 

 

 

 第5アリーナでは1年生の部Cブロックの試合が行われた。

 準決勝第1試合では結城明日奈&シャルロット・デュノア組が、第2試合では更識簪&沙々宮紗夜組が順当に勝利して、決勝での対戦が決まった。

 

 

 第6アリーナで行われた1年生の部Dブロック。ティアナ・ランスター&中嶋昴組が順当に勝ち進み、決勝へ進出した。

 

 

 

 

 午前中で各ブロックの決勝進出ペアが決まり、午後からは第1アリーナでブロック決勝が行われる。

 昼食を終え、参加する16人の選手達が続々と第1アリーナに集まって来る。

 最初に行われるのはAブロック決勝。結城志狼&凰乱音組対篠ノ之箒&セシリア・オルコット組の対戦であった。

 東側に志狼・乱組が、西側には箒・セシリア組がそれぞれのISを纏い、試合が始まるのを待っていた。

 

 

「マッチアップはさっきと同じ。俺が箒を押さえるから乱はセシリアを頼む」

 

「はい。任せて下さい」

 

「どちらか先に倒した方がもう一方の援護に回る。基本方針はこれでいいよな?」

 

「はい。それで行きましょう・・・・後ひとつですね、志狼さん」

 

「・・・・そうだな。でも今は目の前の箒とセシリアに集中する事。いいね?」

 

「! は、はい!!」

 

 志狼には乱が些か逸っている気がしていた。目的だったラウラとの対決まで後ひとつ。ようやく現実味を帯びて来た対決の予感に目の前の相手ではなく、その向こうのラウラを視ているように感じたのだ。

 

(嗜めはしたが、セシリアを舐めてかからなきゃいいんだがな・・・・)

 

 乱の様子に若干の不安を感じている志狼だった。

 

 

 

 

 一方、西側の箒とセシリア。

 

「悔しいですが志狼さまはお任せしますわ、箒さん」

 

「ああ、任せろ。お前の分も志狼にぶつけてやる」

 

「ふふ、頼もしいですわね・・・・本来私が志狼さまの相手をしたい所でしたが、孤狼は以前とは違います」

 

「ABフィールドか・・・・レーザーを無効化するとは、つくづく厄介な物だな。時に乱の方はどうなんだ?」

 

「そちらは任せて下さい。同じ代表候補生同士、負けてなるものですか」

 

 不敵な笑顔を見せるセシリアに、箒もまた同じような笑顔を浮かべる。そして、2人はコツンと軽く拳を合わせた。

 

 

 

 

 試合開始のブザーが鳴った。それと同時に孤狼と箒の駈る打鉄が地を這うようにダッシュして、アリーナ中央で激突した。

 

「はああああーーーーっ!!」

 

「うおおおおーーーーっ!!」

 

 拳と剣がぶつかり合い、衝撃を散らす。

 一方、セシリアは乱が志狼の援護に入らぬように、スターライトMk-Ⅱを乱射し、乱を引き付けていた。

 迫る幾条ものレーザーをかわしながら、乱もまた、甲龍・紫煙の尾部に備えられたレーザー砲『甲尾』を撃ち、応戦する。

 

「そんな真似しなくても、最初から私のターゲットは貴女ですよ、セシリアさん!」

 

 手にしたアサルトライフルと甲尾を撃ちながらセシリアに迫る乱。だがセシリアは乱がある程度近付くと、後退して距離を取った。乱は逃がすものかと追い縋る。こうして徐々にアリーナ中央の志狼から引き離されて行った。

 スナイパーライフルであるスターライトMk-Ⅱと中距離戦用の甲尾では射程が違う。セシリアの射撃は届くのに、自分の射撃は届かず、近付けばまた距離を空けられる事の繰り返しに、乱は段々苛立って来た。

 

「この、逃げるな!」

 

 甲尾を連射するもセシリアには届かず、乱は次第に苛立ちを募らせ、冷静さを失って行く。そして、それはセシリアの思う壺だった。

 

 セシリアは高度を落として低空飛行に入った。乱もそれを追い、甲尾とアサルトライフルを連射する。セシリアが回避する度に銃弾が弾け、アリーナに土煙が舞う。やがてアリーナの端に追い詰められるセシリア。乱はここぞとばかりに角武をコールして斬り掛かる。

 

「貰ったあっっ!!」

 

「いいえ。それはこちらの台詞ですわ」

 

 美しく微笑むセシリアに言い知れぬ不安を感じる乱。次の瞬間、背中に衝撃を受けて、甲龍・紫煙は落下した。

 

「ガハッ! な、何?」

 

 突然の衝撃に訳が解らず顔を上げる乱。その目の前に何がかが浮かんでいた。どこかで見た事のあるそれは───

 

(───BT兵器!?)

 

 そう認識する前に、目の前の浮遊物体──BT兵器からレーザーが発射された。

 

「くっ、いつの間に!?」

 

 咄嗟に腕を上げてガードするも、レーザーによりSEが削られて行く。一旦逃げようと上昇するも、上空にはいつの間にかセシリアが陣取っていて迎撃された。

 

 土煙に紛れて4機のBT兵器を射出したセシリアは、わざと追い詰められ、勝負を焦っていた乱の進路を限定させた。その背後にレーザーを撃ち、体勢を崩せば、後はBT兵器の包囲網を完成させるだけ。今のセシリアには容易い事だった。

 

「くっ、しまった!」

 

 自分が罠に掛かった事を覚った乱だったが、前後左右にBTを配置され、どこにも逃げ場が無い。上空にはセシリア自身がスターライトMk-Ⅱを構えて乱が出て来るのを待ち構えている。甲尾でBTを撃ち落とそうにもセシリアの巧みな操作で絶えず動き回る為、狙いが定められない。乱は次第に追い詰められて行った。

 

 

 

 

「ちっ、流石だなセシリア、やってくれる!」

 

 アリーナ中央で箒と戦いながら志狼が悪態を吐く。

 

「ふっ、当てが外れたようだな志狼。セシリアが乱を倒せば2対1で私達が有利だ。後は私がそれまで耐えればいい」

 

「面白い、行くぞ箒!」

 

「おおっ!!」

 

 気炎を発し、ぶつかり合う拳と剣。薙ぎ、払い、突き、打つ。己が持つあらゆる技術を駆使してぶつかり合う2人。いつしか2人共笑みを浮かべていた。

 

(ははっ、凄いな。神楽以上だ!)

 

(ふふっ、何だこれは? 戦うのがこんなに楽しいなんて!)

 

 自分が身に付けた技を全力で振るう、それを受け止めてくれる相手と出会えた喜びに志狼と箒は歓喜した。

 

 

 

 

 

「ほう。中々やるじゃないか、2人共」

 

「織斑先生?」

 

 アリーナの管制室で千冬が洩らした声に真耶が反応する。

 

「互いが互いの力を引き出し合ってる。今まさに戦いながら強くなってるんだよ、あの2人は」

 

 そう言われて、真耶は打ち合う志狼と箒を見る。確かに一打、一太刀毎に速く、鋭く、強くなっている。真耶はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「凄いですね・・・・」

 

「ふっ、ああ言う相手と巡り合えるのは歓びだな。何だか血が騒いで来た。後で私達も戦るか、真耶?」

 

「勘弁して下さいよ、この忙しい時に!」

 

「むう、そうか」

 

 千冬は残念そうに呟いた。戦いは更に激しさを増して行く。

 

 

 

 

 志狼と打ち合いながら箒は自分の剣が研ぎ澄まされていくのを感じていた。

 

(───不思議だ。こんなにも穏やかな気持ちになれるだなんて)

 

 嘗て、ただの暴力と成り果てた自分の剣。その醜さを知り、絶望しつつも、最早自分の一部であった剣を箒は捨てられなかった。そんな昏く澱んでいた自分の剣が志狼と打ち合う度に澄んでいくように箒は感じていた。

 

(違う。剣だけではない。私の心までもが澄んでいくようだ───)

 

 実際には心が澄んだから剣もまた澄んだのだろう。剣は自分の心を映す鏡だと言う、嘗ての父の言葉を箒は思い出していた。

 今、箒の心は鏡のように澄み渡り、さざ波ひとつ立たない水面のように静かであった。

 

 明鏡止水。武の極意とも云われる境地に、箒は今、到達していた。

 

 

 

 

 それは今まで通り、軽く振っただけに見えた剣だった。だが志狼は、かわす事も受ける事も出来ず、まともにその斬撃を浴びてしまった。結果、

 

「ガハッ!?」

 

 その一太刀は孤狼のシールドバリアを斬り裂き、絶対防御を作動させるに至った。

 

「───えっ?」

 

 これには当の箒ですら驚いた。今までと同じように振った一太刀がまさかの大ダメージを叩き出したのだ。予想外の事に箒は困惑していた。

 

 

 

 

「な!? あれは篠ノ之流剣術一の秘剣・『桜花放伸』!?」

 

 今の一撃を見た千冬が思わず立ち上がった。

 篠ノ之流剣術は大別すると二つの型に別れる。攻めの剣『桜花』と守りの剣『梅花』である。その中でも今箒が放ったのは攻めの剣『桜花』の中でも奥義に属する技のひとつであった。

 だが、箒が親元から離されたのはまだ10歳頃。とても父から奥義を伝授されたとは思えない。確かに完全な桜花放伸とは言えない所謂モドキではある。だが、自力で篠ノ之流の奥義に辿り着いたと言うならば───

 

(箒の剣才が開花したと言う事か。これをみたら柳韻先生もさぞ喜ばれるだろう)

 

 千冬は妹弟子の成長に思わず笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 一方、笑えないのが志狼であった。今までと何が違うのか解らないが、全く違う剣を放たれ、たった一太刀でSE残量が3割以下に減ってしまい、いきなり大ピンチに陥っていた。

 

(全く、これだから剣術と言う奴は厄介なんだ)

 

 恐らく今箒が放ったのは篠ノ之流の奥義で、箒の驚いた顔からして偶発的に出たものなのだろうと志狼は推察する。

 

(だとすれば箒自身もどう放ったのか分からない筈。あんなのを連発されたら正直お手上げだ)

 

 いずれにせよ、決着を急がねばならないと志狼は決意した。自機のSEが残り少ないのもあるが、時間が経ち、箒が例の奥義の感覚を掴んでしまえばこの試合での勝ち目は失くなる。

 

「勝負だ、箒!」

 

 志狼は意を決して突撃した。

 

 

 

 

 狼の咆哮のような独特のブースト音を響かせて、孤狼が突撃して来る。箒は深呼吸して気を落ち着かせると、先程の感覚を思い出すように目を閉じた。

 

(落ち着け。あの時の感覚を思い出すんだ。あの時は、そう、こんな感じで───)

 

 箒は上段に構えた剣を振り降ろす。そのフォームは身体のどこにも力みの無い自然体で美しいフォームだった。その美しさに比例するように、放つ斬撃は凄まじい威力で地面を一直線に切り裂いた。

 今度は警戒していたからか、辛うじて避けられた志狼だったが、内心は焦りまくっていた。

 

(おいおい、もう感覚を掴んだのか? 嘘だろ!?)

 

 箒が奥義の感覚を掴むまで、まだ時間が掛かると思っていたが、あっさり成功させてしまった。しかも、先程より威力が上がっているのだ。

 

(撃てば撃つ程完成に近付くと言うのか。なら、これ以上撃たせる訳にはいかん!)

 

 志狼は体勢を整え、再び加速した。

 

 

 

 

(今のは!? いける! 今の感覚を覚えている内に、もう一度───!!)

 

 箒が迫る孤狼に向けて、三度目の斬撃を放つのと同時に、志狼はリボルビング・ステークを全弾地面に向けて撃つ。地面はステークの衝撃で爆発するかのように土砂を噴き上げ、箒へのスクリーンになった。

 

(どこだ? どこから来る!?)

 

 次の瞬間、孤狼が上から強襲する。右拳を掲げ、箒目掛けて打ち下ろした。

 箒も負けじと迎撃の斬撃を放つ。

 

「うおおおおーーーーっ!!」

 

「はああああーーーーっ!!」

 

 交差する拳と剣。そして───

 

 

 パキイィィンッ!!

 

 

 乾いた音を立てて、箒の剣が根元から折れた。

 

「なっ!?」

 

 箒が驚愕に声を上げる。奥義の連発に剣の方が耐えられなかったのだろう。その間に、孤狼は打鉄の懐に潜り込み、ヴァリアブル・ナックルを放った。

 

(ああ、やっぱり強いな志狼は。私ももっと強くなって、貴方の側に───)

 

「箒。この勝負はお前の勝ちだ。俺は運が良かっただけ。また戦ろう」

 

「うん。また、な・・・・」

 

 箒は志狼の言葉に笑みを浮かべると、そのまま意識を失った。

 

 

『打鉄操縦者の戦闘続行不能を確認。よって篠ノ之箒選手、リタイヤです』

 

 

 こうして、ひとつの戦いは終わった。だが、試合はまだ終わらない。そして───

 

 

「何やってんの!しっかりしろ乱!!」

 

 

 この試合を終わらせる引き金となる1人の少女の怒声がアリーナに轟いた。

 

 

 

 

 

 時は少し前に遡る。

 

 ブルー・ティアーズの作るレーザーの檻に逃げ場を失い、乱は追い詰められていた。

 

(どうする? どうすればいい!?)

 

 予想外の展開に乱は焦り、パニックを起こしていた。パートナーの志狼は箒の相手で手一杯で、こちらを救援出来そうにない。

 

(くっ、誤算だった。イギリスのBT兵器がこれ程使える物だとは思わなかった)

 

 

 事前にスペックデータやセシリアの過去の試合映像は視ていたが、ここまで器用な使い方はしていなかった。それもその筈、セシリアがこの戦法を試合で使うのは初めての事だ。

 切っ掛けは志狼となのはの模擬戦。なのはの戦い方に自分と相通じるものを感じて、過去の試合映像を視た時、アクセルシューターで相手の動きを封じる場面があった。これをBT兵器で出来ないかと考えたセシリアが、苦心の末に会得した戦法なのだ。確かに最低6個のアクセルシューターで前後左右上下の全方向を塞ぐなのはに比べ、セシリアのレーザーBTは4機しかなく、不完全であるのは否めないが、空いた箇所には自らがライフルで迎撃するように絶えず動き回る事でそれを補っている。

 

(試合で使うのは初めてでしたけど、上手くいきましたわ。箒さんには感謝しないといけませんわね)

 

 セシリアは試合で使えるようになるまで、訓練に付き合ってくれた箒に心の中で礼を言った。間もなくレーザーBTのエネルギーが切れる。一度ブルー・ティアーズに戻してエネルギーを補充しなければならないが、その前に決定的なダメージを与えておきたい。セシリアが行動を起こそうとしたその時、

 

 

「何やってんの!しっかりしろ乱!!」

 

 

 突然聞こえた怒声にセシリアは目を丸くした。

 

 

 

 

「全くあの娘は~、セシリア舐めてるからこんな目に合うのよ!」

 

 観客席の最前列でクラスメイトと観戦していた鈴は苛立ちのままに声を上げた。 

 鈴は先日の怪我も完治しておらず、左腕を三角巾で吊っているのを始め、右腕や太股などにも包帯や絆創膏を貼っている。鈴の夏服は露出が多く、それらがしっかり見えるのが妙に痛々しい。当然まだ痛むだろうに、それを忘れて鈴は従妹の戦い振りに憤慨していた。

 

(何泣きそうな顔してんのよ。アンタはいつまで昔のままなの!?)

 

 幼い頃、自分の後を付いて回っていた乱。たまに鈴に付いて来れず、1人置いて来てしまった時の不安そうな顔と今の乱が不意に重なった。

 

「あ~、もう! アタシより背も胸も大きくなったくせに、そんな顔すんな!!」

 

 鈴は突然立ち上がり、シールドバリアギリギリまで近付くと、

 

 

「何やってんの!しっかりしろ乱!!」

 

 

 マイクも使わないのにアリーナ中に響く怒声を上げた。

 

 

 

 

 

 その声に驚き、顔を向けると、鈴と目が合った。

 

「・・・・お姉、ちゃん?」

 

 思わず呆けた声を出す乱。鈴は何故か悔しそうにも、辛そうにも、怒っているようにも見える複雑な表情をしていた。

 

「アンタはいつまでも昔のままなの!? 違うんでしょ!? ならしっかりしろ、凰乱音!!」

 

「!!」

 

 鈴の檄に乱の闘志に再び火が点く。歯をきつく噛み締めると、乱は吼えた。

 

「あーーっ! 情けない情けない情けない! この程度の事で折れかけるなんて! そうよ、しっかりしろ! 私は、私は凰乱音だあっっ!!」

 

 気合一閃、乱は角武をしっかりと握り直すと力の限り振り回した。

 

「はああああーーーーっ!!」

 

 長大な角武を振り回し、発生した太刀風にBTが吹き飛ばされる。

 

「くっ、非常識な!・・・・こちらも限界ですわね、仕方がない!」

 

 セシリアはエネルギー切れ寸前だったBTをブルー・ティアーズに戻した。1機のエネルギー補充に約1分。それまでBTが使えなくなる。

 

「箒さんは負けてしまったようですね・・・・志狼さまが救援に来るのは時間の問題。せめて乱さんを倒せていれば・・・・全く、恨みますわよ鈴さん!」

 

 セシリアは今まさにに乱にとどめを刺そうとした矢先に檄を飛ばし、乱を甦らせてしまった鈴に文句を言った。

 その間に体勢を整えた乱が角武で斬りかかる。だが、あまりにも無造作に突撃して来る乱にまだ冷静さを取り戻してないと感じたセシリアは切り札を切った。

 

「どうやら頭はまだ冷えてないようですわね。ならば食らいなさい!」

 

 セシリアは乱に向かってミサイルBTを発射した。2機のミサイルBTはカウンターで甲龍・紫煙に命中する!

 

 

 ズガアアァァァンッッ!!

 

 

 凄まじい爆音と黒煙が上がる。

 

「やりましたわ!!」

 

 喜色を上げるセシリア。だが、次の瞬間、一条の光が黒煙を切り裂いた。

 

「な、何ですの、あれは!?」

 

 セシリアが驚くのも無理はない。黒煙の中から現れたのは、長い首を伸ばしこちらを睥睨する鋼鉄の龍だった。龍はその顎を開くと、充満した光をセシリア目掛けて放った。

 

「!!」

 

 咄嗟の判断で回避したのは正解だった。先程までセシリアがいた場所には大穴が空いていた。土埃が舞い上がり、高熱で溶解したその穴の状態にセシリアは見覚えがあった。

 

「これは───荷電粒子砲!?」

 

 閃光のビームライフルや華鋼の「春雷」が荷電粒子砲、所謂ビーム兵器だ。セシリアが使っているレーザー兵器とは一線を画す代物で、その威力は2人のバトルを観ていたセシリアもよく知っていた。だが鋼鉄の龍の放った光。その威力は今まで見たどのビーム兵器よりも威力は上だった。

 

「そう、これが甲龍・紫煙の龍雷咆。そして、これが甲龍・紫煙の真の姿よ!」

 

 ようやく黒煙が晴れる。そこにいたのは先程までとは全く違う姿の甲龍・紫煙だった。

 その姿は二本足の龍、と言うべきものだった。ピーコックブルーの機体色はそのままに、装甲には良く見ると龍の鱗のようなものが浮かんでいる。手足は鋭い爪を持つ龍の手足に変わり、三ツ又に分かれた尾はその先端部で更に三つに分かれ、計9門の砲口を形成している。最大の特徴は乱本人の頭上に浮遊する龍の首であろう。それが只の飾りじゃないのは証明済みだ。

 セシリアを始め、アリーナ中の人達が驚愕している。事前に話を聞いていた志狼すらも、その変貌には驚いていた。

 

「これが甲龍・紫煙の完全戦闘形態。名付けて『爆龍モード』よ!」

 

 

 

 

 ───爆龍モード

 

 

 甲龍・紫煙は元々中国が鈴の甲龍を基に進めていた次代の主力量産機であった。紆余曲折の末、その設計図が台湾に渡り、乱の専用機となったが、乱の専用機とするに当たり、台湾技術陣は先行試作機であるのをいい事に大幅な改修を施した。

 本来龍の頭を模した砲口には第3世代兵装である龍咆が搭載される筈だったが、それを取り止め、開発中だった荷電粒子砲『龍雷咆』を搭載している。

 他にも龍鱗装甲や甲尾・九葉、プラズマ龍爪など強大な戦闘力を持つ機体であるが、エネルギー消費が激しい為、この状態で戦闘出来るのは5分しかないと言う欠点も抱えている。

 

 

 

 

「出来ればボーデヴィッヒ戦まで温存しておきたかったけど、こうなっては仕方がないわね。セシリアさん覚悟! 全砲門、フルバースト!!」

 

 乱はそう叫ぶと龍雷咆と三ツ又に分かれた尾部の9門の砲口『甲尾・九葉』を一斉発射した。

 

「くっ! 駄目、避けきれない!? きゃあああーーーーっ!!」

 

 必死に回避するセシリアだったが、全てを避ける事は出来ず、とうとう捕まってしまった。そして───

 

 

『ブルー・ティアーズのSE残量0。よって、15分52秒で結城志狼&凰乱音組の勝利です!』

 

 

 ワアアアァァーーーーッ!!

 

 アナウンスの後、歓声が響く。

 

 志狼と乱はAブロックの優勝を果たした。

 

 

 

~side end

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。

志狼の必殺パンチ。その正体は「B.B」の10㎝の爆弾です。空中では踏み込みが利かなくて、威力を発揮出来ませんが、今回は地上戦だった為、本来の威力を発揮出来ました。
因みにゴーレム戦で撃ったのもこれです。

篠ノ之流剣術については勝手に設定しました。
攻めの桜花と守りの梅花。モチーフは「新仮面ライダーSPIRITS」、スーパー1の赤心少林拳。奥義の名前は桜花繋がりで「サクラ大戦」から使わせて貰いました。

乱の設定については独自設定です。
以前も書きましたが、筆者はアーキタイプ・ブレイカー(以後AB)は未プレイです。従ってABのキャラ、ISについては設定しか知らず、どんな話し方や戦い方をするのか解りません。よって、独自設定過多になるのはご了承下さい。
イラストで乱が角武を構えているのを見て、「斬艦刀みたいだな~」と思ったのが切っ掛けで、乱は示現流の使い手のパワーファイターになりました。技の1号力の2号って事で(笑)。因みに師匠はリシュウ・トウゴウ先生です。
甲龍・紫煙の爆龍モード。名前でお解りかと思いますが、「忍者戦士飛影」の海魔・爆龍がモデルです。丁度飛影の位置に乱が収まっているのを想像して下さい。

次回はB~Dブロックの決勝の模様をお送りしたいと思います。



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