二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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ご無沙汰してます。
投稿再開しますので、ご覧下さい。


第45話 学年別トーナメント④~4強、揃う

 

 

~all side

 

 

「ド、ドクター!? 何故貴方がIS学園(ここ)に!?」

 

「おや? 閣下から聞いてなかったのかい? 私が来ると」

 

 昔と変わらぬシニカルな笑みを浮かべてDr.スカリエッティはラウラに近付いた。

 

 

 Dr.ジェイル・スカリエッティはドイツ科学局に在籍する科学者である。いつ頃からいたのか定かではないが、数々の新技術をドイツにもたらし、政府や軍部からの信任も厚い男だ。

 ラウラ・ボーデヴィッヒは軍が生体兵器として作り出した遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)の1人。高い戦闘力を有するように遺伝子を操作され、所謂試験管ベビーとしてこの世に生を受けた(因みにこれもスカリエッティが軍の要請で行った事で、彼がラウラの生みの親と云われるのは強ち間違いではない)。

 戦う為の道具として作られたラウラは軍の期待に応えた。高い戦闘力を有し、あらゆる兵器の操縦方法や軍略を学び、いずれも好成績を修めて来た。

 やがて成長したラウラは特殊部隊に配属され、そこでもトップに昇りつめた。だが、それは長く続かなかった。

 世界最強の兵器ISが登場すると、ISとの適合性を高める為、部隊員全員に『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』という擬似ハイパーセンサーのナノマシン移植処理が命じられた。

 肉眼に行われるこの処理は、危険性の無い、理論上不適合も起きない筈であったが、ラウラの左目は金色に変質し、常時稼働状態のままオンオフの利かない制御不能に陥った。『越界の瞳』により絶えず入って来る情報量を処理し切れず、IS操縦訓練で大きく遅れを取ったラウラは、結果、部隊のトップから最下位にまで転落した。

 その処理を施したのもDr.スカリエッティであった。当時のラウラはスカリエッティを慕っており、彼ならば自分の現状も何とかしてくれるかもしれないと、藁をも掴む気持ちでスカリエッティに話しかけた。だが返って来たのは無機質な、まるで道端のゴミでも見るかのような、何の感情も感じない瞳だった。

 その時ラウラは、自分が見捨てられた事を知った。今から2年半程前の話である。

 

 

 そのスカリエッティが今、目の前にいる。

 あの時の無機質な瞳が嘘であるかのように親愛に満ちた瞳をラウラに向けて。

 

「訊いてはいましたが、何をしに来るかまでは訊いてませんでしたので・・・・」

 

「何を言ってるんだい。君を見に来たに決まっているじゃあないか」

 

「はあ!?」

 

 ラウラは訳が分からなかった。一度は見捨てた自分に一体何の用だとばかりに反発しそうになる。だが彼は国の重鎮。一介の代表候補生が無闇に逆らっていい相手ではない。

 

「・・・・そうでしたか。わざわざのご足労ありがとうございます」

 

 ラウラはグッと堪えて深く礼をする。こうすれば顔を見られない筈だと考えて。

 

「ああ。だが、些か見に来た甲斐のない試合だったね」

 

「!!」

 

 暗に先程の試合の不様さを指摘され、ラウラは胸に鋭い痛みを感じた。

 

「この調子で明日は大丈夫なのかい? 明日の相手は今まで以上の強敵なんだろう?」

 

「・・・・・・」

 

 ラウラは頭を下げたまま、唇を噛む。何とも答えられないのが悔しかった。

 スカリエッティはラウラが見てないのをいい事にほくそ笑んで、傍らにいる秘書、ウーノと視線を交わす。

 

「なに、案ずる事はない。私はその打開策を授ける為にここに来たんだからね」

 

「!?」

 

 スカリエッティのその言葉にラウラは咄嗟に顔を上げていた。

 

「打開策・・・・?」

 

「うむ。これだよ」

 

 スカリエッティは白衣のポケットから取り出した小さなパーツをラウラに渡した。

 ラウラ手のひらに収まる位の小さなパーツ。どうやら集積回路の一種ようだ。

 

「それをレーゲンに取り付けるといい。少なくとも現状より出力や反応速度が15%は上がる筈だ」

 

 ラウラはその言葉に訝しげな表情をする。

 

「・・・・まあ、使う使わないは君の判断に任せよう。ただ───」

 

「・・・・ただ、何です?」 

 

 スカリエッティはラウラを見下すように嘲笑(わら)って彼女の耳元で囁いた。

 

「───今日のような不様な姿は二度と許されない、と私は思うよ?」

 

「!!」

 

 その一言にラウラの呼吸が止まった。

 Dr.スカリエッティは政府にも軍部にも顔が効く。その男の言葉がこの場限りではなく現実になる可能性は極めて高い。ラウラはこのスカリエッティの言葉を彼からの最後通牒と判断した。

 

「では頑張りたまえ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。行こうか、ウーノ」

 

「はい、ドクター」

 

 ラウラを残し、2人は去って行った。

 

(───私にはもう後がない。どうする? どうすればいい!?)

 

 ラウラの心は千々に乱れていた。

 

 

 

 

「よろしいのですか、ドクター?」

 

「ん?、何がだい?」

 

 廊下を歩きながらウーノがスカリエッティに尋ねる。

 

「例の物です。使うように命令した方が良かったのでは? あのままでは使わないおそれも「使うよ」・・・え?」

 

「あの娘は使うよ。必ずね」

 

「はあ・・・・」

 

 そう断言するスカリエッティをウーノは不思議そうに見つめる。

 

「君の最後の舞台だ。精々派手に踊って魅せてくれよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 そう言って、スカリエッティは酷薄な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 中央アリーナでは1年生の部、Cブロック決勝が行われようとしていた。

 Eピットからは結城明日奈&シャルロット・デュノア組が、Wピットからは更識簪&沙々宮紗夜組が姿を現すと観客席から歓声が沸き上がった。

 この試合の見所は何と言っても明日奈と簪、2人の対決にあった。日本代表候補生の序列3位と4位、同時期に代表候補生入りした2人は周りからライバル同士と見なされていた。

 今年の年始に行われた序列決定戦に於いて、直接対決では明日奈が勝ったものの、総合成績から簪が3位、明日奈が4位となった。お互いに専用機を得てから初めての公式戦。ライバル対決に観客は否応にも盛り上がっていた。

 

 

「それじゃあシャルロット、手筈通りにお願い」

 

「分かってるよ明日奈。紗夜は私が抑えるから存分に戦って」

 

「うん。ありがとう」

 

 周りから思われているように、明日奈は簪にライバル意識を持っていた。序列決定戦に於いて直接対決では勝ったものの、序列が下になった事を内心悔しく思っていたのだ。

 明日奈は元々負けず嫌いな所があり、トーナメント表を見てから、この対決を心待ちにしていたのだった。

 

 

 

「簪、ファイト」

 

「うん。ありがとう紗夜」 

 

 いつもの無表情のまま、親指を立てて激励する紗夜に簪は頷いた。

 周りから思われている以上に簪は明日奈にライバル意識を持っていた。序列決定戦に於いて序列は上になったものの、直接対決で敗れた事をずっと悔しく思っていたのだ。

 簪には目指すべき()がいる。その人(楯無)に並び立てる自分になる為に過去の敗戦をそのままにしておけない。トーナメント表を見てから、この対決を心待ちにしていたのは簪も一緒だった。

 

 

 試合開始のブザーが鳴る。それと同時に閃光と華鋼が一気に距離を詰める。

 

「明日奈ああっ!」

「かんちゃん!」

 

 互いに瞳を反らさぬまま、閃光は細剣「ランベントライト」を、華鋼は超振動薙刀「夢現」を抜く。

 

「──この時を!!」

「──待ってた!!」

 

 アリーナ中央で2機のISが激突した!

 

 ギイィィィィィンッッ!!

 

 閃光のランベントライトと華鋼の夢現が打ち合い、激しい音を発する。

 

「くうっ!」

 

「まだよっ!」

 

 突きを主体とした攻撃で攻める明日奈。それに対し簪は夢現を縦横無尽に振るい、クリーンヒットをかわしつつ、隙あらば攻めに転ずる。一進一退の攻防に観客は熱狂した。

 

 

 

 

 一方のシャルロットと紗夜はアリーナ中央で戦う明日奈と簪を邪魔しないように砲撃戦を繰り広げていた。

 

「ど、ど~~ん」

 

 紗夜の駆る打鉄が腰だめに構えた大口径砲を発射する。

 

「うわわっ!?」

 

 大口径砲はその大きさに比例して、華鋼の春雷以上の威力がある。当たればカスタム機とは言え元は量産機のラファールでは一溜まりもない。だがシャルロットはラファールを巧みに操り、回避しながらも距離を詰める。

 

「むう」

 

 手にしたアサルトライフルを撃ちながら接近するシャルロットから辛くも逃げ切った紗夜は大口径砲のエネルギーを確認する。

 

(エネルギー充填70%・・・・充填完了まで約1分、それまで逃げ切らなくちゃ)

 

 紗夜の使っている大口径砲『39式光線砲ウォルフドーラ』は彼女の父親の作った特別性だ。

 紗夜の父は某大企業に勤める技術者だったが、会社の方針と対立、喧嘩別れをしてフリーに転身した経歴の持ち主で、紗夜は父親の技術力を証明する為にIS学園入学していた。

 そんな彼女にとって、この学年別トーナメントは絶好の舞台であった。

 

(お父さんの為にも、私は負けない──!)

 

 紗夜のIS適性はA-と一般生徒にしては高い上に、父親の研究室でシミュレーターによる操縦訓練を入学前から積み重ねて来た。シミュレーター限定とは言え、操縦経験は代表候補生である明日奈や簪以上で、紗夜自身も自分の操縦技術には少なからず自信があった。しかし、

 

「逃がさないよ!」

 

「むう!?」

 

 シャルロットは更にその上を行った。

 シャルロットは2年前からデュノア社でテストパイロットを務めていた。過酷とも言える環境下でテストパイロットとして実績を積んで来た彼女の操縦技術は並の代表候補生を凌駕するレベルに達していた。

 もし彼女が普通に代表候補生になっていたら、確実に冒頭の6人(ページワン)入りして次期フランス代表となっていただろう。

 

「貰ったあ!」

 

「!!」

 

 エネルギー充填80%。未だチャージが終わらない中、シャルロットの放った銃弾が沙夜に迫る。

 

「ふっ!!」

 

 カカカカンッ!!   

 

 誰もが紗夜の被弾を予感したこの状況で、観客は信じられないものを見た。銃弾が当たる間際、紗夜は腰を軸にしてウォルフドーラを回転させ、迫る銃弾を全て叩き落としたのだ。

 

「ウソォ!?」

 

 撃ったシャルロットもまた驚いていた。シャルロットの射撃は正確に打鉄のバーニアを撃ち抜き、紗夜の足を止める筈だったのに全て叩き落とされたのだ。

 これにより分かる事は2つ。1つは紗夜のウォルフドーラが恐ろしく頑丈で、アサルトライフル程度では破壊出来ない事。もう1つは紗夜は砲撃戦だけではなく近接戦闘も出来ると言う事だった。

 シャルロットの予測を裏付けるように、さっきまで逃げ回っていた紗夜が反転し、ウォルフドーラの銃把を持ち、まるで巨大なトンファーのように回転させつつ迫って来た。シャルロットはアサルトライフルを捨てて近接ブレードをコールし、すれ違い様に一閃する。

 

 ギイイインッッ!!

 

 近接ブレードとウォルフドーラがぶつかり合う。シャルロットはウォルフドーラのあまりの頑丈さに思わず呆れた顔をした。

 

(何なのアレ!? あんな使い方が出来るなんて、どれだけ頑丈なの!?)

 

 アサルトライフルの直撃にも壊れず、打撃武器としても使え、砲として高い攻撃力を持つ武器なんてどうやって作ったのか見当もつかない。各国の企業がさぞ欲しがる事だろう。その点では父親の技術力を知らしめるという紗夜の目的は達せられたと言える。後はこの試合に勝利すれば完璧。だから───

 

(ここで勝負を決める!!) 

 

 ウォルフドーラのエネルギーは既に100%に達し、いつでも撃てる状態だ。紗夜は接近戦を繰り広げながら機会を伺っていた。

 そして何合目かの打ち合いの末、紗夜の一撃がシャルロットの近接ブレードを上に弾き飛ばした。武器を失ったラファールが無防備な姿を晒す!

 

(今だ───!!)

 

 紗夜は降り上げた勢いのまま、ウォルフドーラを回転させ腰だめに構えると、至近距離からの砲撃を放った。

 

「!!」 

 

 光の奔流の中に飲み込まれるシャルロットのラファール。その光景を見た誰もが紗夜の勝利を確信した。

 だが、光が消えたそこには───

 

「───なっ!?」

 

 大盾を構えたラファールの姿があった。

 

「ふう。危なかった」

 

 シャルロットは近接ブレードを弾き飛ばされた瞬間、素早く拡張領域(バススロット)から大盾をコールし、ウォルフドーラの砲撃からその身を守ったのだ。

 

(これって高速切替(ラピッドスイッチ)───!?)

 

 そう。かつてクラス対抗戦でティアナが志狼を苦しめた高速切替(ラピッドスイッチ)。シャルロットはそれをティアナ以上の速さで行い、その技術(テクニック)によってその身を守る事に成功していた。

 

「今度はこっちの番だよ!」

 

 シャルロットは大盾を突き出すと、盾の装甲がパージされ、リボルバーと杭打ち機が融合した武装が姿を現した。

 これぞラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ最大の切り札『灰色の鱗殼(グレー・スケイル)』。通称──盾殺し(シールド・ピアース)

 

「行っけええええーーーーっ!!」

 

 鋼鉄がぶつかり合うような凄まじい音がアリーナに2度響く。

 

(───ああ、負けちゃった。ゴメン簪、ゴメンお父さん・・・・)

 

 シャルロットの盾殺しの威力は紗夜の打鉄のSEを一気に削り、絶対防御を発動させるに至った。

 

 

『打鉄SE残量0。よって沙々宮選手、リタイヤです』

 

 

 8分51秒。シャルロット・デュノアと沙々宮紗夜のバトルはシャルロットに軍配が上がった。だが戦いはまだ終わらない───

 

 

 

 

 

 シャルロットの勝利を知らせるアナウンスを聞いて、明日奈は心の中で喝采を上げた。  

 

(流石シャルロット! きっちり仕事を果たしてくれたわ。後は私が決着を付けるのみ!)

 

 意気を上げて、明日奈は華鋼に斬りかかる。

  

 

 

 紗夜の敗退を知らせるアナウンスを聞いて、簪はパートナーの気持ちを思い、胸を痛めた。

 

(紗夜、悔しかったよね・・・・でも待ってて。明日奈もシャルロットも私が倒すから、明日の準決勝に2人で進もう!)

 

 決意も新たにして、簪は閃光を迎え撃つ。

 

 

 

 明日奈と簪は一進一退、互角の戦いを繰り広げていた。

 今の閃光は高機動型の華鋼に対応する為に、同じ高機動型のフォースシルエットを装着している。エネルギー消費が激しい為に温存していたが、決着を付けるべく明日奈はここで切り札を切った。

 

 閃光が華鋼から大きく距離を取って静止した。そして、

 

「閃光!『V-MAX』発動!!」

 

『Ready』

 

 明日奈の声に機械音声が応えると、閃光の機体各部のスリットから一筋の閃光が疾る。光の尾を引き、高空へ舞い上がった閃光は白い光の繭に包まれ、その名の通り『閃光』と化した。

 

 

 

 

 ───V-MAXシステム

 

 

 閃光の第3世代兵装。元は緊急脱出用のシステムを転用したもので、システムを発動すると機体各部のスリットから閃光が疾り、光の繭を形成して超高速飛行が可能となる。

 そのスピードは通常のISの2~5倍に達し、光の繭にはバリア効果も発生する。そのまま敵に体当たりしてダメージを与えたり、敵の攻撃をある程度防ぐ事も出来る。1対1では無類の強さを発揮する攻防一体の兵装。

 但し、エネルギー消費が激しく60秒しか発動出来ない。60秒を過ぎると機体がオーバーヒートして、SE切れを起こしてしまう。

 一応他のタイプでも使えるが、システム最大の持ち味であるスピードを活かす為にフォースシルエットで使用する事が最も多い。

 因みに発動する時の「Ready」という機械音声は開発元であるモルゲンレーテ社の技術者によるこだわり。

 

 

 

 

「!!」

 

 簪は咄嗟にガードを固めたが、次の瞬間、激しい衝撃に跳ね飛ばされた。

 

「きゃああっ!?」

 

 閃光のスピードに華鋼は対処しきれず、右へ左へと跳ね飛ばされる。

 

「く、分かってはいたけど、これ程とは!でも!!」

 

 簪はいつか明日奈と戦う事を想定し、幾度もシミュレーションを重ねて来た。その結果『V-MAX』を使われたら自分に勝ち目はないと判断せざるを得なかった。

 圧倒的スピードによるヒット&アウェイは回避不能。出来るとすればガードを固めてカウンターを狙う位だが、あのスピードにカウンターを入れるには事前に必ず来る攻撃が分からないと難しい。結果、閃光に勝つにはV-MAXを使われる前に倒すしかない。そう思っていたある日、簪は偶然にも明日奈の攻撃パターンからその必ず来る攻撃を見付けた。だがそのチャンスはほんの一瞬しかない危険なものだった。

 

「でも勝つにはこれしかない!」

 

 激しい衝撃に絶えながら、簪はじっとその時を待つ。そして華鋼のSEが2割を切った時、閃光が大きく距離を取った。

 そう、最後の突撃を仕掛ける時、明日奈は必ず加速する為に大きく距離を取る。そして、閃光が加速した。

 

「ここだ!『山嵐』全弾発射!!」

 

 偶然見付けた唯一のチャンス。簪はこの一瞬に全てを賭け、山嵐を全弾叩き込んだ。6機×8門のミサイルポッドからミサイルの雨が閃光に向かって降り注ぐ!

 簪は今回華鋼の第3世代兵装『マルチロックオンシステム』を敢えて切り、閃光の予測進路にミサイルを集中させた。

 いくら閃光が驚異的なスピードを誇っていても、間断なく降り注ぐミサイルの雨は避けようがない。そして驚異的なスピード故に一度加速したら閃光は急停止出来ず、真っ直ぐ突っ込むしかない。光の繭のバリアも2、3発ならともかく48発全てには決して耐えられない。それこそが簪が見付けた勝利への道。そして───

 

 

 ドガアアァァァンンッ!!

 

 

 計48発のミサイルが一斉に着弾した轟音と衝撃がアリーナを揺さぶる。

 

「やった!!」

 

 簪が思わず声を上げる。あのミサイルの豪雨の中を突っ切るのは計算上不可能。簪は自分の勝利を確信した。しかし───

 

 

 

 

 結城明日奈は代表候補生になるまでは護身術程度しか学んだ事が無かった。でありながら序列決定戦に於いて簪を始めとした代表候補生達を倒し、序列4位にまでなっている。

 彼女がどこでそれ程の力を身に付けたのか? その答えは彼女の趣味であるVRMMOゲームにあった。

 VRMMOゲームはバーチャルリアリティー(VR)空間で行う大規模オンラインゲームで、視覚聴覚だけで無く5感全てで没入(フルダイブ)するタイプのゲームである(因みにこの技術もISの研究によりもたらされた副産物のひとつ)。プレイヤーはVR空間に創られた仮想世界で冒険したり生産活動をしたりと自由に生きていくのだ。

 明日奈はとある人気VRMMOゲームにて、攻略ギルドの副団長を務めるトッププレイヤーであった。勿論ゲームの中の話であり、現実でゲームのような動きが出来る訳無いが、ことISの操縦という点ではあながちそうとも言えなかった。

 ISの操縦に最も大切なのはイメージ。どういう動きをするか、より明確にイメージ出来れば、イメージフィードバックシステムによりISはその通りに動いてくれる。

 明日奈はゲームで培った感覚を明確にイメージする事で武術経験の無さを補い、序列4位にまで上り詰めたのだ。 

 そして、そのイマジネーションは今回も明日奈を救った。

 

 

 

 自分に迫り来るミサイル群を見て明日奈は唇を噛む。

 

(やられた! 完全にタイミングを読まれてた! どうする───!?)

 

 このまま進めば、いくらV-MAXにバリア効果があっても最終的にミサイルに捕まる可能性が高い。ならばどうするか、明日奈は刹那の間に決断すると機体をそのまま突っ込ませた。

 

「行くよ、閃光!!」

 

 その時明日奈はより速く、より鋭く山嵐のミサイル群を突っ切る閃光の姿をイメージして飛翔した。明日奈の明確なイメージはいつも以上のスピードを閃光にもたらし、すぐ近くにミサイルが着弾して爆風に煽られるもただ前に、真っ直ぐに突き進んだ。

 

「届けええええーーーーー!!」

 

 明日奈のイメージに閃光は応え、これまでの最高速度を上回り、ミサイルの豪雨を潜り抜けた。

 

 

 

 

 ミサイルの着弾する衝撃にアリーナが揺れる。爆煙が立ち込める中、簪はキラリと輝く光を見た。それに気付いた次の瞬間、その光に華鋼は貫かれていた。

 

(───そう、あれをかわしたの・・・・やっぱり明日奈は凄いや・・・・)

 

 衝撃の中、簪は己の敗北を悟った。

 

(ゴメン紗夜、私も勝てなかったよ───)

 

 華鋼を貫いた閃光がV-MAXを解除すると、機体各部のスリットから機体に籠った熱が排出される。そして───

 

 

『華鋼SE残量0、よって11分14秒でこの試合、結城明日奈&シャルロット・デュノア組の勝利です!』

 

 

 アリーナが歓声に包まれ、白熱したバトルを見せた4人に惜しみない喝采が贈られる。

 こうしてCブロックの勝者が決まった。

 

 

 

 

 続く1年生の部、Dブロックは8分35秒でティアナ・ランスター&中嶋昴組がブロック優勝を決めた。

 

 

 

 こうして1年生の部は以下のように各ブロックの優勝ペアが決定した。

 

A.結城志狼&凰乱音組

B.織斑一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ組

C.結城明日奈&シャルロット・デュノア組

D.ティアナ・ランスター&中嶋昴組

 

 以上のように今年の4強が揃った。

 

 

 因みに2年生の部はなのは&フェイト組、3年生の部はダリル&イレーネ組の優勝候補ペアが順当に勝ち進んでいた。

 

 

 

 

 

 その日の夜、志狼達は昨日と同じメンバーで夕食を摂っていた。

 

「ハア~、まさか乱さんの機体にあんな奥の手があるなんて・・・・」

 

「あはは、まあまあセシリア。でもインパクトあったよねえ~」

 

「うん。乱ちゃんおっきな龍、頭に乗っけてたもんね」

 

「いや、ナギさん、ゆっこさんも私が被り物してたような言い方しないで下さいよ」

 

 乱がナギと癒子の言い方に不満を漏らす。

 

「でも良かったの? あれって温存しときたかったんじゃ・・・・」

 

「まあ本音を言えばそうなんですけど、それだけセシリアさんに追い詰められてたから仕方がないかなって」

 

 静寐がそう訊くと、乱は正直に試合での心境を語った。

 

「だってさ。ほら、いい加減機嫌を直せってセシリア」

 

「ム~~、志狼さまがそうおっしゃるなら・・・・」

 

 志狼に嗜められ、セシリアも渋々ながら機嫌を直した。

 

「俺としては箒のあの剣について聞きたいな。あれは一体何なんだ?」

 

「そうね、私も聞きたいわ箒。今までの稽古でも見せた事なかったわよね?」

 

「うん・・・・あれは恐らく篠ノ之流剣術『一の秘剣・桜花放伸』、だと思う」

 

 志狼と神楽から訊ねられ、箒が答える。

 

「だと思うって、何だかはっきりしないわね」

 

「そう言われても困るぞ明日奈。私があの技を父に見せて貰ったのはまだ10歳位で、その父とも随分会ってないんだ。断定出来なくても仕方ないだろう?」

 

「え? じゃああれって意識して撃ったんじゃないの?」

 

「まあ、そうなる・・・・」

 

 明日奈に言われて反論する箒だったが、シャルロットに訪ねられ、偶々撃てた技だとばらしてしまう。

 

「な~んだ、偶然か~」

 

「な~んだ、マグレか~」

 

「ぐうっ、・・・・まあ本音と清香の言う通り、確かに偶然なんだがな・・・・」

 

「偶然だろうが何だろうが、撃てた事には変わらないだろ? でも箒、篠ノ之流の剣士ならすぐ側にいるじゃないか」

 

「え?・・・・あ、織斑先生!」

 

「ああ。織斑先生(あの人)は篠ノ之流剣術を修めてるんだろ。なら奥義の事も知ってるんじゃないか?」

 

「そうか・・・・ありがとう志狼、早速明日にでも聞いてみる!」

 

(あの技を自在に撃てるようになれば、私はもっと強くなれる。そうしたら私も志狼の隣に───!)

 

 自分の撃った技の正体が分かるかもしれないと、箒は目を輝かせた。

 

 皆でおしゃべりしながらの夕食が終わり、そのまま解散となった。志狼は席を立とうとして、携帯にメールが入っているのに気付いた。

 

「どうしたんですか、志狼さん?」

 

「いや、何でもない」

 

 メールを一瞥して、志狼は乱に答える。

 

『今夜10時、寮の屋上で待つ  凰 鈴音』

 

 メールの送り主は鈴だった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~鈴音side

 

 

 午後10時、屋上の扉が開いて志狼が姿を見せた。

 

「よう、鈴」

 

「時間ピッタリね志狼。感心感心」

 

「そうか。で? こんな時間に呼び出すなんて、一体何の用だ?」

 

 志狼がそう前置きなしに訪ねて来る。志狼は明日も試合があるんだし、長く引き止めるのも悪いわね。さっさと用件を済ませましょうか。

 

「うん・・・・聞きたい事があるの。志狼、アンタはどうして乱をパートナーに選んだの?」

 

「乱から聞いてないのか? お前の仇を討ちたい乱と、ボーデヴィッヒの暴走を止めたい俺の利害が一致したからだよ」

 

「・・・・・それだけ?」

 

 確かに表向きの理由としては完璧だ。だからこそアタシには怪しく感じる。

 

「どう言う意味だ?」

 

「・・・・アンタもしかして乱を狙ってるんじゃないでしょうね!?」

 

「はあ!?」

 

 アタシがそう言うと、志狼は何とも言えない顔をしていた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 俺は今、泣きたい気分になっていた。

 

「確かにあの娘はアタシに似て物凄い美少女だし、胸も悔しいけど年の割にあるわ。性格は生意気な所もあるけど根は素直ないい娘だし、アンタが目を付けるのも分かるわ。でもあの娘はまだ14歳、恋愛するにはまだ早すぎると思うの。アンタに箒やセシリアもいるんだし、何より明日奈がいるでしょ!? だから乱の事はそっとしておいて欲しいのよ。そもそも───」

 

 決闘の申し込みのようなメールで呼び出され、何事かと思いきや、どうやら鈴は俺が乱に手を出さないよう釘を刺してるみたいだ。だがそれはいつの間にか乱の昔話に変わり、鈴はどこか楽しそうに語っていた。

 ともあれ今の鈴の様子はどこかで見たような気がする。熱心に妹の自慢をし、人の話を全く聞かないこの様子は───

 

「ああそうか。簪の自慢をする刀奈にそっくりなんだ・・・・」

 

 気付いたら納得した。今の鈴は妹自慢をする刀奈そっくりだ。道理で既視感を感じると思ったが、つまりは鈴も刀奈と同レベルのシスコンだった訳だ。全く、この学園にはシスコンしかいないのか。(どこかから「お前もだろ!」ツッコまれた気がしたが、気のせいだろう)  

 そのシスコン()は未だに乱の昔話を垂れ流している。もしこの場に乱がいたら恥ずかしさのあまり悶絶するような内容になって来たので、いい加減止めなくては。

 

「いい加減落ち着け」

 

「ピャアッッ!!」

 

 奇っ怪な叫び声を上げて鈴が蹲る。軽く左肩を叩いただけなんだが、ちょうど鈴の負傷した箇所だったらしく、かなり痛かったようだ。

 

「あ、スマン。そんなに痛かったか?」

 

「痛いに決まってんでしょ! 何すんのよもう!!」

 

 鈴は涙目で怒鳴った。

 

「それは悪かったが、結局俺にどうしろと? 言っとくが乱に手を出す気は無いぞ?」

 

「何よ! 乱のどこが不満なのよ!?」

 

「ハア・・・・あのな鈴、手を出して欲しいのか欲しくないのかどっちかハッキリしてくれ」

 

 理不尽な怒りをぶつけて来る鈴に、流石に呆れた。

 

「とにかく、俺から乱にアプローチをかける気は無い。確かにいい娘だとは思うが、彼女とはあくまで利害の一致から今大会に限りペアを組んだだけ、他意はない。まあ、信じる信じないはお前次第だけどな」

 

「ムウ・・・・いいわ、取り敢えずアンタを信じるわよ」

 

 鈴は一応納得してくれたようで矛を収めた。

 

「・・・・それじゃあ俺はもう帰らせて貰うぞ」

 

「あっ、ま、待って志狼!」

 

 話は終わったとばかりに踵を返す俺を鈴が呼び止める。

 

「・・・・・今度は何だよ?」 

 

 ややうんざりしながら振り向くと、さっきまでと違う真剣な表情の鈴がいた。

 

「志狼、アンタに頼みがあるの───」

 

 

~side end  

 

 

 

 

~ラウラside

 

 

 間もなく日付が変わろうという時刻、IS学園の整備室に私はいた。

 整備台には整備が完了した『シュヴァルツェア・レーゲン』が鎮座している。勿論整備は私自身の手で行った。我がドイツの技術の結晶を素人同然の学園生徒になど触らせてなるものか。それに───

 

「・・・・・・」

 

 私は手にした小さなパーツを見つめる。今日の試合後、Dr.スカリエッティから渡された物だ。私はこれを使うべきなのだろうか。正直ドクターの作った物になぞ頼りたくはない。だが───

 

 

(───今日のような不様な姿は二度と許されない、と僕は思うよ?)

 

 

 あの時のドクターの言葉が頭から離れない。

 あの男の言う通り、私にはもう後がない。だったら私は───!

 

 

 

 

 ドクターから渡されたパーツを取り付けた後、去り際にふと『シュヴァルツェア・レーゲン』を見上げた。

 何故だろうか、レーゲンが哀しんでいるように私には思えた───

 

 

~side end

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。
間が開きすぎて内容を忘れたという方、一部書き直している所もありますので、読み返して貰えたら幸いです。
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