二度目の高校生活はIS学園で   作:Tokaz

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感想、誤字報告ありがとうございます。

それでは第48話をご覧下さい。


第48話 学年別トーナメント⑦~ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

~all side

 

 

 学園校舎の廊下を一組の男女が往く。Dr.スカリエッティとその秘書ウーノだ。

 来賓と言えど校舎内を自由に歩き回るのは許されていない。本来なら警備員が監視カメラで発見し、すぐ止められる筈がそんな気配すら無く、2人は優れた案内人の元、堂々と校舎内を闊歩していた。

 

『あ、ちょっと待って、ドクター』

 

 イヤホンから聞こえた声に2人は足を止める。

 

『はい、映像の差し替え完了、と。お待たせ、通っていいわよ』

 

 その声に従い、2人は再び歩き出した。

 さっきから同じ事を繰り返し、2人は警備員の目をかい潜っていた。

 やがて2人は校舎の外れにある1基のエレベーターにたどり着いた。だがそこには開閉ボタンが見当たらない。

 

「クアットロ、どうだい?」

 

『ちょっと待って・・・・これで・・・・』

 

 やがてチンッという音がして扉が開いた。

 

『お待たせ。それではIS学園地下特別区画に2名様ご案内しま~す♪』

 

 2人が乗ると扉が閉じ、エレベーターが下降し始める。約1分後、エレベーターが止まり扉が開いたが、そこには真っ暗な空間が広がっていた。

 

「クアットロ、明かりを」

 

『ハイハ~イ』

 

 案内人──クアットロの返事の後、照明が一斉に点いた。

 

「これは・・・・・!」

 

 照明の下姿を見せたのは1機のIS。その姿にウーノは思わず声を失った。でもそれも無理は無い。恐らく世界で一番有名な機体が変わり果てた姿を晒しているのだから・・・・

 

「『暮桜』・・・・かつて織斑千冬がモンド・グロッソを征した機体がこんな所に・・・・でもこの状態は?」

 

 暮桜は右腕と右脚が半ばから絶ち斬られ、美しかった純白の装甲は傷だらけで、まるで朽ち果てた石像の様な無惨な姿を晒していた。

 

「3年前の第2回IS競技世界大会(モンド・グロッソ)、その準決勝を最後にこの機体は公の場から姿を消した。何故だか分かるかい?」

 

 かつての雄姿が見る陰も無い『暮桜』を眺めつつスカリエッティが訊ねる。

 

「それは・・・織斑千冬が決勝戦を不戦敗した責任を取って現役を引退したからでは?」

 

 ウーノの言う通り、第2回モンド・グロッソの決勝戦は織斑千冬が試合に現れず、その結果不戦敗となりイタリア代表アリーシャ・ジョセスターフが優勝した。

 千冬は試合に来なかった理由を黙して語らず、不戦敗した責任を取り現役を引退した。

 因みにアリーシャはこの結果に納得いかないと千冬との再試合を望んだが叶わなかった。以来千冬と決着を付けない限り世界女王(ブリュンヒルデ)とは名乗らないと公言し、今でも世界女王(ブリュンヒルデ)の称号を持つのは千冬1人となっている。

 

「ふむ、まあ表向きはそんな所だろうね」

 

「真実は違うと?」

 

「私も聞いた話だから定かではないが、決勝戦のあったその日、織斑千冬は何者かと戦い敗北したらしい。そして暮桜を失い、その結果決勝戦に出場出来(でられ)なかった、とね」

 

 それを聞いてウーノは驚愕した。当時の織斑千冬と言えば常勝無敗、第2回モンド・グロッソも順調に勝ち進み、大会2連覇も確実視されていた文字通り世界最強の存在だった。その千冬が敗北したとは敬愛するスカリエッティの言葉とは言え、にわかには信じ難い。

 

「そんな・・・・! 一体誰が?」

 

「さてね? 私が今日ここに来たのはその話を聞いて、真実を確かめたかったからなんだが・・・・成る程、聞いた通りの状態だな。どうやら『彼』の話に間違いは無いようだ」

 

「では・・・・?」

 

「うん、決めたよ。『彼』の話に乗るとしよう。君もいいかい、クアットロ?」

 

『ドクターの決めた事に私達『姉妹』は従います。どうぞお心のままに。それとドクター、アリーナの事態が終息しました。そろそろお戻りを』

 

「分かった。行こうか、ウーノ」

 

「はい、ドクター」

 

 朽ち果てた暮桜を一瞥して、2人はエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 扉が開き、エレベーターを降りたスカリエッティの首筋にピタリと鋭い何かが押し当てられる。

思わず足を止めたスカリエッティとウーノがその人物に驚愕の視線を向けた。

 

「何をしていらしたのかしら──ドイツ科学局のジェイル・スカリエッティ博士?」

 

「これはこれは──更識楯無生徒会長。何故ここに?」

 

 スカリエッティの言う通り、そこには鉄扇をスカリエッティの首に押し当てる楯無がいた。

 

「それはこちらが訊いてますのよドクター。ご自分の国の機体がご禁制のシステムを使い騒動を起こしたと言うのに、学園関係者でもごく一部の者しか知らない地下特別区画に侵入するなんて、一体どんな言い訳を聞かせて貰えるのかしら?」

 

 不敵な笑みを浮かべる楯無。だがその目は全く笑ってはいなかった。

 

「さて・・・・何と言い訳すれば見逃してくれるのかね?」

 

 スカリエッティはクアットロの監視網を潜り抜け、自分の前に現れた楯無に賞賛の視線を向けた。

 

「何と言われても駄目、現行犯よ。大人しく連行されれば良し、抵抗するなら・・・・」

 

 言いながら楯無は視線に殺気を込める。その殺気に当てられ自分の戦闘力では楯無に敵わない事を察したウーノは、ドクターの危機に何も出来ない自分に歯噛みした。

 

「おお、怖い怖い。言われずとも私は何もしないよ・・・・私は、ね」

 

 そうスカリエッティが言い切った途端、突如襲った衝撃に楯無は吹き飛ばされた。

 

「くぅっ───!?」

 

 自ら後ろに飛ぶ事で衝撃を吸収した楯無だったが、その為スカリエッティと大きく距離が開いてしまう。そして、

 

「ご無事ですか、ドクター?」

 

「ああ、助かったよ、トーレ」

 

 スカリエッティの前には楯無を吹き飛ばしたと思われる全身を青いボディスーツで固めた、紫色のショートヘアの美女が立っていた。

 

「首尾はどうだい、トーレ?」

 

 スカリエッティの問いに紫髪の美女──トーレが答える。

 

「はい。目的の物は既にセインが」

 

「そうか、では撤収しよう。セインは?」

 

「は~い、お待たせドクター」

 

 突如天井が光を発すると、その中からトーレと同じボディスーツを纏った水色の髪の美少女が現れた。

 

「やあセイン、ご苦労様」

 

「へへ、これくらい朝メシ前だよドクター」

 

「そうか。では頼むよ」

 

「OK。んじゃドクター、ウーノ姉もしっかり掴まって」

 

 水色の髪の美少女──セインを中央にスカリエッティとウーノが両側から掴まる。

 

「では更識会長、これで失礼するよ。縁があったらまた会おう」

 

「ちっ、待ちなさい!!」

 

 駆け出す楯無だったが、その前にトーレが立ち塞がる。互いに拳や蹴りを繰り出し、激しい格闘戦を繰り広げる2人。

 

「くっ──!?」

 

「ほう!?」

 

 戦う楯無は焦りを、トーレは感嘆を顔に浮かべる。

 その間にスカリエッティ達3人は床から発した光に沈むように姿を消した。

 3人が姿を消すと、激しく打ち合った2人は大きく距離を取る。

 

(くっ、迅い! この迅さ、フェイトちゃん並みだわ!?)

 

「驚いたな、私のスピードに付いて来るとは

・・・・更識楯無、君は本当に人間か?」

 

 トーレはスピードには絶対の自信を持っている。その自分のスピードに曲がり形にも付いて来る楯無に思わず感嘆の声が漏れた。

 

「失礼ね。人間に決まってるでしょ!? 貴女こそ一体何者なのかしら?」

 

「私達は『ナンバーズ』。ドクターによって生み出された、云わばドクターの私兵だよ」

 

 トーレの答えに楯無は思考を巡らす。

 

(『ナンバーズ』・・・・・Dr.スカリエッティにより生み出された(・・・・・・)って事はただの人間じゃない・・・? あんなのが最低でも3人はいるなんて厄介だわ・・・・とは言え、これは増々逃がす訳には行かなくなったわね!!)

 

 腰を落として始めて構えを取る楯無。そんな彼女を見てトーレもまた身構える。

 一触即発の空気の中、楯無が動いた。だが、その時彼女の瞳はトーレの背後の小柄な人影を映した。

 

(───ラウラちゃん!?)

 

 そう、その人影はここにいる筈の無いラウラ・ボーデヴィッヒそっくりだった。そして、

 

「IS【ランブルデトネイター】」

 

 静かな声を発したラウラそっくりの少女は手にしたナイフを投げつけた。猛スピードで迫るナイフを楯無は鉄扇で払い落とそうとする。だが、

 

 ズガァァァンッ!!

 

「きゃああっ!!」

 

 鉄扇と接触したナイフは爆発を起こし、その衝撃に楯無は吹き飛ばされた。

 

「来たのかチンク」

 

 トーレがラウラ似の少女──チンクに親しげに声をかける。

 

「ああ、迎えに来たよトーレ姉さん。更識楯無は放っておいていいから早く戻るようにとドクターが」

 

「そうか。とは言えお前の【ランブルデトネイター】まともに受けたんだ。もう死んでるんじゃ・・・・おや!?」

 

 トーレが更に感嘆の声を上げる。爆煙が晴れた先には着ていた制服をボロボロにしながらも立ち上がる楯無の姿があった。  

 楯無は爆発の瞬間、咄嗟に『ミステリアス・レイディ』を部分展開して爆発からその身を守ったのだ。とは言え狭い校舎内でISを完全展開する訳にもいかず、楯無としては歯痒い状況にあった。

 

「本当に驚いたな・・・・改めて訊くが君は本当に人間か?」

 

「いやトーレ姉さん、どうやら爆発の瞬間にISを部分展開して防いだようだ。確かに人間離れしてはいるが出来ない訳じゃない」

 

「失礼ね・・・・そう言う貴女達こそISを使ってる訳じゃないのにその戦闘力、ただの人間じゃないわね・・・・貴女達ひょっとして戦闘機人?」

 

「ほう、戦闘機人(私達)を知っているのか」

 

「戦闘機人・・・・ISの登場によりもたらされた科学技術によって産み出された、人の身体に機械を融合させた戦闘用サイボーグ。噂には聞いてたけどこれ程の戦闘力とは・・・・手加減して勝てる相手じゃなさそうね」

 

 楯無が例え校舎を破壊してでも捕獲する、とISを使用する覚悟を決めたその時、

 

「は~いお待たせ。トーレ姉、チンク姉、迎えに来たよ」

 

 天井が光を発し、先程の水色の髪の美少女──セインが再び姿を現し、2人の間に着地した。

 

「セイン、ドクターは?」

 

「問題無し。安全な所で待ってるよ」

 

「そうか、ならば行こうか」

 

 そう言うとトーレとチンクはセインに寄り添い、セインは2人の腰に手を回した。

 

「更識楯無、今日はここまでだ。いずれまた」

 

「! 待ちなさい!!」

 

 楯無が鋭く声を発するも、3人の姿は床に沈むように消えてしまった。ISのハイパーセンサーを起動して周囲を探るも、3人の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「・・・・くそっ、やられた!」

 

 今回の事件の黒幕であろうスカリエッティにまんまと逃げられ、悔しさに楯無は唇を噛む。

 

「それにしても、VTシステムに戦闘機人って禁則事項のオンパレードじゃない。一体何をしようと云うの? Dr.スカリエッティ・・・・」

 

 VTシステムや戦闘機人は人道的な理由で使用が禁じられている。その技術を用い、ましてや自らの私兵としているとは。

 Dr.スカリエッティの目的は何なのか、予想するも楯無には嫌な予感しかしなかった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~千冬side

 

 

「あれ? 俺は一体・・・・・!?」

 

 医務室のベッドで寝ていた一夏の声がした。どうやら目を覚ましたようだ。

 

「イテテ・・・・ちくしょう、あいついきなり何を・・・」

 

「起きたか織斑」

 

 悪態を吐いて身体を起こす一夏に私は声をかける。

 

「千冬姉!?」 

 

 一夏は驚いたように声を上げた。全く、何度言っても直らんとは困った奴だ。

 

「織斑先生だ。それで織斑、身体の調子は?」 

 

「痛えよ。ちくしょう、結城の奴・・・・」

 

 私が訊くと、一夏は結城に悪態を吐きつつ答える。その様子に自分がどれだけ危険な事をしたか理解してないと感じ、私はため息を吐く。

 

「その結城に感謝するんだな。でなければこんな物では済まなかったろう」

 

「なっ!?」

 

 私が結城を擁護したのに驚いたのか、声を失っている一夏に向かって私は詰問する。

 

「そもそもお前は生身でIS相手に何をするつもりだったんだ?」

 

「そりゃあ、アイツに一発食らわしてやろうと・・・・」

 

「どうやって? エネルギー切れでISも展開出来ない、仮に展開出来たとしても零落白夜を使えないお前に一体何が出来ると言うんだ?」

 

「そ、それは・・・・・」 

 

 私の詰問に一夏は何も言い返せなかった。 

 大方、VTシステムが私の剣を模倣したのが許せなかったのだろう。そんな一夏に私は困ったようにため息を吐いた。

 

「全く・・・なあ一夏、お前が私を慕ってくれるのは嬉しい。だがな、お前が私を心配するように私もお前が心配なんだ。だから無駄に命を捨てるような真似はするな」

 

「千冬姉・・・・」

 

 私達はこの世でたった2人の姉弟だ。結城が無理矢理にでも止めてくれたから良かったが、もしそのまま突っ込んで命を落としていたら、そう考えると怖くてたまらない。

 3年前のモンド・グロッソ決勝前、一夏は何者かに誘拐された。開催地だったドイツ軍の力を借り、一夏の居場所をつかんだ私は専用機『暮桜』を駆り急行した。

 幸い一夏は救出出来たが、そこで謎のISと戦闘になり、私は敗北した。暮桜を失った私は決勝戦に出場出来ず、その責任を取り現役を引退した。

 まるでその時の恐怖が甦るようだ。だが私はそんな恐怖を握り潰し、何事も無かったかのように一夏に告げる。

 

「幸い事態は終息した。お前は目が覚めたら戻っていいと御門先生の許可も出ている。今回処罰は無いが、自分の行動が如何に危険だったかきちんと反省しろ」

 

「はい・・・・」

 

 一夏は落ち込んだ様子で医務室を出て行った。これで反省してくれたらいいんだが・・・・

 さて、どうやらもう1人の問題児も目を覚ましたようだな。こちらはどうなるか・・・・

 

 

~side end

 

 

 

 

~ラウラside

 

 

 ドクターに嵌められ絶望に支配された私はそのまま黒い泥のようなモノに取り込まれ、光が一切差し込まない暗い場所に引き摺り込まれた。

 

(もう、私には何も無い・・全部失くしてしまった・・・)

 

 強さも誇りも、名誉も栄光もラウラ・ボーデヴィッヒを形作るもの全てをだ。

 何もかも失って空っぽになった私は途端に怖くなった。

 

(私はこのまま消えてしまうのか?・・・そんなの嫌だ! 怖い、怖いよ、誰か助けて!!)

 

 助けを求めても誰も助けてはくれない。当たり前だ、誰が私なんかを助けてくれると言うのか。私はこのま独り寂しく消えていくのだと何もかも諦め、崩れ落ちそうになった時、目の前の暗闇が斬り裂かれて一条の光が私を照らした。

 その光はかつて私が感じた織斑千冬()と同じくらいに眩しく、そして暖かかった。

 

「全く、手の掛かるお嬢さんだ」

 

 そんな声と共に私の身体は一気に光の元に引き摺り出され、温もりに包まれていた。ふと目を開けると、私は赤いIS──孤狼に抱かれていた。

 

(結城、志狼・・・・? 何故・・・? どうしてお前が私を助けてくれるんだ・・・・? 私はお前にも、お前の仲間にもあれだけ酷い事をしたのに、どうして───?)

 

 私の視線を感じたのか、孤狼のマスクが開き、結城志狼が素顔を見せる。その黒い瞳は強い意思と深い優しさに満ちて、私を見つめていた。

 

「悪夢は終わりだ。今は休め、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 彼にそう言われ、私は今まで感じた事の無い安らぎを感じていた。

 

(ああそうか、もう休んでもいいんだ───)

 

 そうして私は安らぎの中、目を閉じた。

 

「アリ・・・ガ・・・ト・・・・」

 

 自然と感謝の言葉が漏れる。私はそのまま眠りに落ちていった。 

 

 

 

 

 

「! ここは!?」

 

 それからどれくらい経ったのか、目を覚ました私は身体を起こそうとした。

 

「グッ!? ウウウ~~~!」

 

 途端に身体中に激痛が走った。身体がまともに動かない? 何だこれは? こんなに激しい痛みは始めてだぞ!?

 

「目を覚ましたか」

 

 その聞き覚えのある声に反射的にそちらを向こうとするが、

 

「~~~~~~~!!」

 

 途端に激痛が走り、声にならない叫びを上げた。

 

「無理をするな。身体に多大な負荷が掛かったせいでかなり痛む筈だぞ。ほら、寝てろ」

 

 激痛で動けない私を支え、ベッドに寝かせてくれたのは、あろう事か織斑教官だった。

 

「も、申し訳ありません織斑教官。ここは一体・・・・?」

 

「織斑先生だ。全くお前らは・・・・ここは医務室だ。お前自分の身に何が起きたか理解してるか?」

 

 そう言われて私は暫し目を閉じる。そうだ、分かってる。VTシステムに取り込まれた時の絶望も、暗闇に閉ざされた恐怖も、そして助けられた時の温もりと安らぎも、私は全部覚えている。

 

「はい・・・・VTシステム、あのシステムがレーゲンに搭載されていたのですね・・・それで結城志狼らと戦い、結局彼らに助けられた・・・フフ、私は一体何をしてるんでしょうね・・・」

 

 自嘲の笑みが漏れる。本当に私は何をしてるのか・・・・

 

「お前は何も知らなかったのか?」

 

「はい・・・・いえ、実は昨日ドクターに貰ったパーツがありまして」

 

「ドクター? Dr.スカリエッティか?」

 

「はい。昨日の試合の後、私の前にドクターが現れました。そして・・・・」

 

 私は昨日からの出来事を全て教官に話した。ドクターに渡されたパーツを取り付けた事、敗北しかけた時に女の声が聞こえた事、その声に導かれるようにVTシステムが起動した事など。

 知る事全てを話し終えて、私は教官からの沙汰を待った。

 

「全く・・・・らしくないなラウラ。普段のお前ならそんな怪しい誘いに乗ったりしないだろうに」

 

「はい・・・・・」

 

 教官の言う通りだ。私は一体、いつからおかしくなっていたのか・・・・

 

「ふぎゃっ!!」

 

 沈んだ私の額に突然痛みが走る。驚いて顔を上げるとどうやらデコピンされたらしい、指を弾いた姿勢の教官の姿があった。

 

「き、教官・・・・?」

 

「顔を上げろラウラ。・・・まあ、お前に力だけを教え、心まで教えられなかったのは私のミスだ。正直すまなかった」

 

 そう言ってあの織斑教官が私に頭を下げた。

 

「だが、その上で敢えて言うぞ。ラウラ、私を追いかけるのはやめろ」

 

「き、教官!?」

 

「どんなに頑張ってもお前はお前だ。私にはなれん」

 

「!!?」

 

 教官の言葉が私に突き刺さる。そう、私は教官のように、いや織斑千冬(・・・・)になりたかった。2年前、絶望の淵にいた私を救ってくれた恩人。その強さと美しさに私は強く惹かれた。

 いつしか私はあの人になりたいと思うようになった。VTシステムに取り込まれた私が教官の剣を使ったのがいい証拠だ。でも教官の言う通り、結局私は私でしか無い。では私はどうすれば良かったのだろう───

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

 

「は、はい!」

 

 頭の中で色々な考えがグルグル回っていた私に、雷のように織斑教官の声が響く。

 

「お前は誰だ!?」

 

「は? わ、私、私は───」

 

 私は誰だ? ラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツ軍少佐で代表候補生。でもそれらは軍から与えられたもので、教官が訊いてるのは恐らくそういう事じゃない。でも何と答えればいいんだろう。分からない、私は───

 

「分からないか? 分からないならこれから探せ。幸い時間はたっぷりとある。何せお前は3年間この学園に籍を置くんだからな。自分が誰なのか悩み、考え、納得のいく答えを見つければいいさ」

 

 そう言って教官は私の頭を乱暴に撫でると、仕事に戻るのか部屋を出て行った。

 

「フ、フフ、ハハハ───」

 

 教官が出て行くのを呆然と見送った私から、不意に笑いの衝動が溢れて来た。全く、散々人を悩ませておいて、結局答えは自分で探せとは相変わらず厳しい人だ。でも、

 

「そうだな・・・・・探してみよう、私なりの答えを」

 

 病室のベッドから見上げた茜色の空は、昨日までと違って、どこか色鮮やかに見えた。

 

 

~side end

 

 

 

 

~志狼side

 

 

 ボーデヴィッヒを救出した後、俺達は簡単な事情聴取とメディカルチェックを受け解放された。俺と乱は問題無かったが、鈴はかなり無理してたらしく、全治までもう1週間延びてしまい、今は医務室のベッドで絶対安静を言い付けられていた。

 そんな鈴が戦う姿も当然放送され、一部メディアから「怪我で欠場した身で戦うなど、代表候補生の自覚に欠ける」と叩かれもしたが、従妹の乱の危機に自らの怪我も省みず戦うその姿は、あの戦いを観ていた多くの人達から称賛を受けた。最近いい所が無く評価が下がり気味の鈴だったが、従妹を助け戦う姿に「鈴にゃん復活!」とネット上で祭りが起きていた。

 

 ボーデヴィッヒは身体に多大な負荷が掛かりはしたが、幸い後遺症は無く今は眠っているという。俺達は間に合って良かったと胸を撫で下ろした。

 シュヴァルツェア・レーゲンはあんな物(VTシステム)を搭載していた事からIS委員会立ち合いの元、大々的な監査が入るそうで、その監査次第では廃棄もあり得るという。

 そして学年別トーナメントは───

 

 

 

 

 午後7時、昨日と同じメンバーで夕食を食べていると織斑先生と真耶先生がやって来た。

 そこで俺と乱は「決勝進出を辞退しないか」と打診を受けた。ボーデヴィッヒ(VTシステム)との戦いで孤狼も甲龍・紫煙もダメージレベルBと判定され、出場出来なくも無いがISが成長中の今、無理するのも良くないと言うのだ。

 

「最終的にはお2人の意思を尊重しますが、学園としては出場しない事をお薦めます。志狼君、凰さん、どうしますか?」

 

 真耶先生から決断を促され、俺と乱は顔を見合せた。乱が微笑み頷くと俺もまた彼女に頷き、真耶先生に返答する。

 

「分かりました。俺達は学園の申し出を受け入れ、決勝進出を辞退します」

 

 その一言に辺りが静まる。

 

「いいんだな、結城」

 

 織斑先生が念を押すように訊ねる。

 

「はい。俺と乱は元々ボーデヴィッヒを倒すのが目的でペアを組んだのだし、」

 

「その目的を果たせた今、これ以上IS(この娘)達に無理はさせられませんから・・・・」

 

 俺と乱がそう答えると、織斑先生が噛みしめるように頷いた。

 

「そうか・・・・分かった、お前達の決断を尊重する。では明日奈、デュノア!」

 

「「は、はい!?」」

 

「準決勝第2試合のカードを決勝戦に繰り上げる。お前達が決勝進出組(ファイナリスト)だ。準備しておけ」

 

「「! はい!!」」

 

 織斑先生の声に明日奈とシャルロットが気合いの篭った返事をする。

 こうして今日の試合は公式には無効試合となり、決勝戦は明日奈&シャルロット組とティアナ&昴組で行われる事になった。 

 

 

 

 

 その夜、自室で眠りに就いた筈の俺はまたもこの世界に来ていた。

 最初に来た時は白と黒しか無かった世界が彼女(・・)の成長に伴い、少しずつ色づき始めた。今では色にも濃淡が出始め、前に来た時よりも着実に現実の風景に近づいていた。

  

 いつもの様に学園の制服姿(ちゃんと夏服だ)の俺は砂浜を歩いて海にたどり着いた。寄せては返す波の音だけで無く心地よい風まで感じる。彼女は順調に成長しているようだ。

 辺りを見渡すと・・・・いた。波打ち際にいつもの白い少女の姿が。だがいつもと違い彼女の側にはもう1人の少女がいた。

 どういう事かと思ったが、この不思議な世界なら何でもありかと思い直して彼女の元に歩みを進める。

 

「! マスター!!」

 

 俺が近づくと、それに気づいた彼女が嬉しそうに抱きついて来た。

 

「おっと。やあ久し振り、また大きくなったね」

 

 受け止めた白い少女は7、8歳くらいにまで大きくなっていた。相変わらず大きな白い帽子で目元は見えないが、甘えるように頬を擦り付ける仕草が可愛らしく、俺は帽子越しに頭を撫でながら彼女の好きにさせていた。

 

「あのね、今日はお友だちがきてるの」

 

 しばらくして満足したのか彼女が言うと、俺はもう1人の少女に目を向けた。

 その長い黒髪の少女は年齢は10歳くらい、黒い軍服でガッチリと全身を固めていた。黒い軍帽のせいで目元は見えないが、何故だか緊張しているように見える。

 白い少女は軍服の少女の元に駆け寄ると、彼女の手を引いて俺の前に連れて来た。

 

「こんにちは。俺に何か用かな?」

 

 緊張している彼女と目線を合わせ、なるべく優しく声をかける。すると彼女は少しだけ緊張を解いて口を開いた。

 

「・・・ほ、本日は大変迷惑をかけた。謝罪する」

 

 軽く頭を下げる彼女を見つめ、俺は目を丸くした。この世界と白い少女の正体はおおよそ見当がついている。それを踏まえて軍服の少女の口振りから彼女の正体を察したからだ。

 

「驚いたな・・・・取り敢えず顔を上げてくれ。身体は・・・って言ってもいいのか?まあ、大丈夫なのか?」

 

「う、うむ。あのシステムは貴方が撃ち貫いてくれたからな。お陰で快調だ、感謝する」

 

「そうか、それは良かった。わざわざ礼を言いに来てくれたのか?」

 

「それもあるのだが・・・・本日は私のマスターに会って欲しいのだ」

 

「君のマスターって・・・そんな事出来るのか?」

 

「うむ。コアネットワークを使い心象世界を繋ぐだけだからな。貴方の許可があれば可能だ」

 

 何ともまあ・・・・彼女達が規格外の存在だと分かってはいたが最早何でもアリだな。

 

「いいよ。連れて来てくれ」

 

 俺がそう言うと彼女は「うむ!」と嬉しそうに返事をして目を閉じた。

 すると辺りが霧に包まれ、しばらくすると霧の向こうに人影が見えた。

 

「ここは一体・・・・?」

 

 霧の向こうから現れたのは軍服の少女のマスター、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 

~side end

 

 

 

 

~ラウラside

 

 夢を見ていた。

 

 真っ白な霧に包まれ、自分がどこにいるか、どこに行けばいいかも分からなかった。

 そんな中、誰かに呼ばれたような気がした。その声に導かれるように進んでいると、いつしか霧は晴れて私の前には白い砂浜が広がっていた。

 

「ここは一体・・・・?」

 

 砂浜には先客がいた。夏用の白いワンピースを着た少女と黒い軍服の少女、そして学園の制服を着た男──結城志狼がいた。

 

「ようボーデヴィッヒ。身体は大丈夫か?」

 

「あ? ああ、少し痛むが問題は無い。それより結城志狼、ここは一体どこなんだ?」

 

 私は戸惑いながらも、普通に声をかけて来た結城志狼に訊ねる。

 

「推測で良ければ・・・・多分ここは『コアの世界』だ」

 

 

 

 ───コアの世界

 

 世界で唯1人、篠ノ之束にしか作れないISコア。ISの中枢を司る基幹であり、ISが無敵の兵器たる源でもあるこのパーツには人格が宿っているという。

 そのコア人格の心象世界が『コアの世界』と呼ばれる世界で、専用機持ちの操縦者は稀にこの世界に招かれ、コア人格と接触する事があるという。

 とは言え、実際に体験した事のある操縦者は数える程しかおらず、篠ノ之束も公式には何も語らない為、半ば都市伝説と化している。

 

 

 

「ここがコアの世界・・・・・・じゃああの娘達は───」

 

 私は驚きながらも2人の少女に目をやる。

 

「ああ、『孤狼』と『シュヴァルツェア・レーゲン』のコア人格だろう」

 

 私は2人の少女──正確には黒い軍服の少女を見つめる。彼女は私の視線を受け、こちらに歩いて来た。

 

「レーゲン・・・・なのか?」

 

 黒い軍服の少女──レーゲンが頷いた。

 その瞬間、力を失い私は膝から崩れ落ち、(こうべ)を垂れた。

 

「・・・・お前を酷い目に合わせてしまった。すまない、私は専用機持ち失格だ」

 

 VTシステムにより自分の身体を変貌させられたレーゲンの苦しみはどれ程だったろう。目の前の小さな少女にそんな苦しみを負わせてしまった私は自責の念に押し潰されそうだった。だが、

 

「マスターは悪くない。悪いのはVTシステム(あんな物)を私に取り付けた奴等だ。私なら大丈夫。だからマスター、その、元気を出して・・・・」

 

 彼女はそう言って、その小さな手で私の手を握る。彼女の手は不思議と暖かくて、不意に涙が滲んで来るのを抑えられなかった。

 

「ありがとうレーゲン」

 

 私は彼女の手をそっと握り返した。

 

 

 

 

「・・・・・恥ずかしい所を見せたな」

 

「気にするな。嬉しくて流す涙は恥じゃないさ」

 

 差し出されたハンカチを受け取って涙を拭いてから、このハンカチが誰の物か気づいて、恥ずかしさで一杯になった。

 

「今回は色々と迷惑をかけてしまったな。すまない・・・・」

 

 隣に座ったハンカチの持ち主──結城志狼に頭を下げる。試合で敗北したからか、助けてくれた恩人であるからか分からないが、以前彼に感じていた敵愾心は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「反省してくれたならいいさ。今回はお前もある意味被害者だからな」

 

「・・・・・・」

 

 そう言われ彼を見つめる。そんな時、ふと彼に助けられた時に流れ込んで来た記憶を思い出す。

 

(母を亡くして慟哭する少年。孤児院、そして新しい家族との生活。母との約束を守る為努力し続けた少年はやがて青年になり夢の第一歩を踏み出そうとした時、それを失った。そして青年は迷いながら新しい道を歩み始める───)

   

 あれは恐らく結城志狼の記憶なのだろう。あの黒泥を介して彼の記憶が流れ込んだのだと思われる。だとしたら───

 

「なあ結城志狼。ひょっとして私の記憶を・・・・」

 

「ああ、見た。その様子だとお前もか」

 

 やはり、私達はお互いの記憶を見てしまったようだ。

 

「ああ、見てしまった。すまない」

 

「いや、お互い様だ、気にするな」

 

 私達はお互い、勝手に記憶を見た後ろめたさを感じていた。

 

「なあ、私の記憶を見てどう思った?」

 

 そんな後ろめたさを隠す為か、私は気にしていた私事を彼に訊いてしまった。

 

「どう、とは?」

 

「お前は見たのだろう? 私が自然に生まれたのではなく作られた(・・・・)モノだと。それを見てどう思った?」

 

 今まで私の出自を知った者は誰もが忌避感や嫌悪感で見る目が変わった。彼もそうだろうと思ったが彼は、

 

「いや、特に何も」

 

 淡々とそう答えた。

 

「は・・・・? いや、何かあるだろう!? 不自然だとか、薄気味悪いとか色々と!!」

 

 私がそう捲し立てても彼は態度を変えなかった。

 

「あのな、例えば不妊症などで子供が出来なくて、それでも子供が欲しいって人は沢山いるんだ。そういう人達が代理母や試験管ベビーで子供を求める事もある。お前もそれと大して変わらないだろう?」

 

「いや、だが私は遺伝子強化試験体として色々と調整されて・・・・」

 

「そのせいで寿命が短いとか、老化が早いとか、薬物投与を受け続けなきゃならないとかデメリットはあるのか?」

 

 言われてみればそんなのは聞いた事が無い。悔しいがドクターは本当に天才なのだろう。

 

「いや、聞いた事は無いが・・・・」

 

「なら気にする必要は無い。多少生まれ方が違っただけでお前は『人間』だよ」

 

「!!」

 

 そんな風に言ってくれた人は初めてだった。驚きつつも嬉しくて、涙がまた滲んで来た。 

 

「フ、フフフ、アハハハッ」

 

 こんな風に声を上げて笑う事が日に2度もあるとは思わなかった。全く、結城志狼(こいつ)といい織斑千冬(あの人)といい、どうして・・・・・

 

「・・・・そんな風に笑えるならお前はやっぱり人間だよ」

 

「そうか・・・・なあ、教えてくれ。どうしてお前はそんなに強いんだ?」

 

 私は思った事を素直に訊いてみた。だが、

 

「強い? 俺が?」

 

 結城志狼はキョトンとした顔で訊き返した。

 

「いや強いだろう!? 織斑教官を模倣(トレース)した私を倒したんだぞ? そのお前が強くない筈が無い!!」

 

 彼が強くないと言うなら、負けた私は何だと言うのか、私は否定されるのを怖れて声を荒げる。だが、

 

「・・・・なあボーデヴィッヒ、お前勘違いしてるぞ。強さと戦闘力は必ずしもイコールじゃない」

 

「なっ!?」

 

 あっさりと否定されてしまった。

 

「軍しか知らないお前では無理も無いが、強さにはいくつも種類あるんだ。心の強さや気持ちの強さ、結び付きの強さなんてのもある。鈴と乱の2人と戦った今のお前なら分かるんじゃないか?」

 

 そう言われて従姉(あね)の仇を打とうと私に戦いを挑んで来た凰乱音と従妹(いもうと)を助ける為、傷ついた身で救援に来た凰鈴音の姿を思い出す。

 確かにあの2人からは心の、結び付きの強さを感じた。でも私にそんな強さは無い。

 

「お前がその強さを知らないのも無理は無い。この手の強さは1人じゃ手に入らないものだからな」

 

「1人じゃ手に入らない強さ・・・・・」

 

「お前がこの先その強さを手に入れたいのなら、この学園は最適な場所だぞ。色々な主義主張を持った人間が沢山いるからな。そんな中でお前が織斑先生以外に1人でも大切な人を見つけられたのなら、その時にはお前もその強さを手に入れてるだろう」

 

 この時感じた気持ちは何と言うのだろう。私は彼の言葉にあの時と同じ光を感じた。

 

「見つかるかな、私にも・・・・・」

 

「それはお前次第だ。でもお前がその大切な誰かを見つけたいなら・・・・クラス代表だしな、俺が手伝ってやるよ」

 

 そう言って立ち上がると、結城志狼は私に手を伸ばした。差し出されたその手を取り、私も立ち上がった。握ったその手は大きく、そして温かかった。

 

「ありがとう。よろしく頼む、結城志狼」

 

「ああ、こちらこそ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 そんな私達を2人の少女が嬉しそうに見つめていた。

 

 

~side end

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

暮桜の状態は原作で詳しく説明されてないので、独自の展開とさせていただいてます。

次回は学年別トーナメントのエピローグをお送りする予定です。
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