未だに1日目が終わりません。
こんな亀展開ですが、お付き合い下さい。
~志狼side
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。最初の15分を残りの自己紹介に当て、全員の自己紹介が無事終わると、いよいよ授業が始まる。
最初らしく内容は軽め。ISの成り立ちから現在への流れ、機体各部の説明など。ISに興味を持って新聞や雑誌を読んでいれば分かる基本的な内容だった。
入学前に渡された参考書にも同じ内容が載っていた。「必読」と赤で大きく書かれた600ページを越えるあのブ厚い参考書は、読破するのが大変だった。まだ完全に理解しきれない所も多く、こういう授業は復習になるので俺としてはありがたい。
それにしても山田先生の説明は分かりやすい。先生自身ISに関する理解が深いのだろう、自分1人で参考書片手に勉強してた時より理解出来るのでとても助かる。
「はい、それではここまでで分からない所のある人はいますか?」
ここら辺は初歩の初歩。一般人でも知っている事なのでそんな奴はいないと思ったが、教室内で明らかに様子のおかしい奴が1人、そう、織斑一夏だ。
織斑は両手で頭を抱え、項垂れている。俺の席は織斑の左斜め後ろなので顔までは見えないが、重苦しい雰囲気はひしひしと伝わってくる
「えーと、織斑君。何か分からない所はありますか?」
流石に織斑の雰囲気を察したのだろう。山田先生が織斑に尋ねると、
「・・・・先生」
「はい、何ですか?」
「ほとんど全部分かりません」
ガタンッと音を立てて皆が机に突っ伏した。山田先生はそう宣言した織斑に驚愕の視線を向けると、
「ほとんど・・・・え?全部ですか!?」
「・・・・はい」
「えー、この時点で分からない所のある人は他にいますか? ──結城君は大丈夫ですか?」
ほぼ全員が首を横に振る。俺は、
「大丈夫です。先生の説明は分かりやすくて助かります」
俺の答えにホッとして微笑む山田先生。反対に織斑は裏切り者を見るような目を俺に向けていた。知るか!
「織斑、入学前に渡された参考書は読んだのか? 必読と書いてあったはずだぞ?」
「古い電話帳と間違えて捨てました」
バシンッと音を立てて織斑先生の出席簿が唸る。
「すぐ再発行させる。1週間以内に全部覚えろ」
「え、流石にあのブ厚さを1週間じゃあ」
「覚えろ、いいな」
「はい・・・・」
一連のコントのオチが着くと丁度チャイムが鳴り、授業が終わった。
それにしても捨てた、ねえ・・・・
「今日はここまで。放課後は寮で自習するなり、校内を見学するなり好きにしろ。但し、許可がなければ外出は出来ないからそのつもりで、以上だ」
織斑先生はそう言うと山田先生と共に教室を出た。さて、俺は校内の見学に行くかな。
「志狼さま、放課後はどうなさるんですの?」
「ああ、校内の施設を見学したいんだが」
「それなら私達も一緒に行っていい?」
「構わないよ。皆はどこから見たい?」
「ん~、やっぱりアリーナからでしょうか」
「私、整備室が見た~い」
セシリア、清香、静寐、本音の4人と放課後の予定を話し合う。校内の見取り図を見ながらどこに行くかを話し合ってると、
「なあ志狼、ちょっといいか?」
俺に話しかけて来る奴がいた。志狼?
「なあ、無視すんなってば」
「・・・・織斑、それは俺に言っているのか?」
「? 当たり前だろ。あれ、名前って結城志狼でいいんだよな?」
どうやらこいつは礼儀というものを知らないらしい。俺は不快な顔をして、
「確かに俺は結城志狼だが、お前に下の名前で呼ぶ事を許した覚えは無いぞ。第一お前と言葉を交わすのは初めてだ。まず、するべき事があるんじゃないのか?」
俺は暗に初対面の挨拶も交わしてない事を指摘したが、織斑は全く意に介さず、
「? 何だよ、別にいいじゃん、細かい事を気にする奴だな。2人しかいない男なんだからさ、俺の事も一夏でいいから仲良くやろうぜ」
と来た。俺は思わずセシリア達の顔を見るが皆も呆れ、不快そうな顔をしている。良かった、俺がおかしい訳じゃないようだ。こいつは「親しき仲にも礼儀あり」という言葉を知らんのか? 親しくもない奴から名前で呼ばれたって不快なだけなんだが・・・・
「・・・・最初はそうしようかと思ったが、その気も失せた。俺に用があるなら礼儀を勉強してから出直して来い」
「? 何怒ってるんだよ。それより頼みがあるんだ」
・・・・どうやらこいつは人の話を聞かない上に厚かましいという俺の嫌いな人種のようだ。駄目だこいつ。
「皆、行こう」
「あ、おい」
呼び止める織斑を無視して行こうとすると、
「貴様! 一夏が話しかけてるというのにその態度は何だ!」
今度は織斑以外の女子から呼び止められた。
「・・・・確か
「! 私とあの人は関係ない! それより何故一夏を無視するんだ!」
「俺は出直せと言ったぞ。聞こえてたよな織斑」
「え、ああ、聞こえたけどさ、そんな風に孤立しようとしなくてもいいだろ?」
・・・・こいつは何なんだろう? 宇宙人を相手にした方がまだ会話が成立しそうな気がする。
「ハア、俺は孤立したい訳じゃなくてお前と関わりたくないんだよ。いい加減理解しろ」
「貴様! 一夏に対するその態度、もう許さんぞ!」
激昂した篠ノ之がどこからともなく取り出した竹刀を俺に向けて振り放つ。こいつ、こんな物で人を打てばどうなるか理解してるんだろうか? 丁度いい、こいつを利用させて貰おうか。
~side end
~箒side
パァン、と乾いた音を立てて私の放った竹刀は結城の額に命中した。
その瞬間、私は頭が真っ白になった。いくら冷静さを欠いていたとしても防具も着けていない人を竹刀で打ってしまうとは、何の言い訳も出来ない。
誰もが皆、動きを止めていた。まるで時が止まったような中で、額を打たれ、下を向いていた結城がゆっくりと頭を上げた。その額からは一筋の赤い線、
───血が流れていた。
「篠ノ之、そんな物で人を打てばこうなると分かってたよな」
「わ、私は・・・・」
冷めた目で私を見る結城に、何も言えなかった。
「お前が何で腹を立てたかは何となく分かるが、物には限度がある。ましてやお前は剣道の有段者だ、違うか?」
「・・・・・・」
「ハア、これは立派な暴行・傷害事件だ。残念だが先生に報告させて貰うぞ」
「!」
「おいおい、それは
結城の言葉に一夏が口をはさもうとするが、結城に視線を向けられただけで黙ってしまう。それも当然かもしれない。結城の冷たい視線の奥にあるモノ、
───殺気を向けられているのだから。
ずっと剣道をやっていた私には分かるが、剣道から遠ざかっていた一夏には分からないのだろう。分からないながらも体が硬直し、息が出来なくなるような圧迫感を感じて動けなくなっているようだ。そんな時、
「あ、良かった。結城君、織斑君、まだ帰ってなかったんですね。実は2人に連絡が──って、結城君! どうしたんです。血が出てるじゃないですか!」
教室に入って来た山田先生が結城の様子を見て驚いた。
「簡単に説明しますと篠ノ之に竹刀で打たれました。とっさの事で避けられず、このザマです。ああ、証人なら周りの皆がなってくれるでしょう」
額をハンカチで押さえながら結城が言うと、一夏を除く皆がうなずく。山田先生は結城と私を交互に見て、悲しそうな目をして言う。
「篠ノ之さん、理由を説明して貰えますか?」
私は何て説明したらいいか分からなくて、言葉が出なかった。すると、
「先生、先に治療したいので、一旦席を外してもいいですか?」
「あ、そうですね。えーと」
「先生、私が付き添います」
「布仏さん・・・・では、お願いします」
結城が布仏という娘に付き添われて教室を出て行く。それを見送った山田先生は携帯を取り出すと誰かと話し出し、
「織斑先生、山田です。実は問題が発生しまして。はい、はい、教室までお願いします」
───私の死刑宣告がされた。
~side end
読んで下さってありがとうございました。