「架空」は「現実」に。 作:キャノール
・この作品のおもな登場人物は1-B生徒のため、個性や性格など大幅に独自解釈が入っております。
・また、それに伴い独自に設定も作ったものになるので、もはや同姓同名の別人になっている可能性があります。
それでも構わない、という心の広い人のみ、ゆっく……読み進めてください。
「
全体の人口の約八割が何らかの特殊体質を持った、超人社会の現代を示した言葉だ。
その言葉を裏付けるように、かつて多くの人が夢見た、人を救い助ける職業……『ヒーロー』が脚光を浴びている。
でも、俺は思うのだーー本当にそうなのだろうか、と。
ヒーロー。
ヒーロー。国から個性の使用を許可された、市民の盾であり、矛。実績と、人気、そして実力が無ければ、それ一本でやっていけない
こう考えれば、ヒーローという職業の光と闇がよく見える。
まるで、テレビの
だからこそ、初めから
国立雄英高等学校。そこは、数多くの高名なヒーローを輩出してきた名門。
特にヒーロー科は、例年倍率が300倍を超え偏差値が79と言われる、難関中の難関。
多くても毎年たった40名の卒業生たちは、否応無く世間の注目を浴び、活躍を期待される。つまり、
成功が約束され、未来が約束された、
ーー俺、若月 線斗も、そんな
◆
『今日は俺のライヴにようこそー!!! エヴィバディセイヘイ!!!』
シーン。
『コイツァシヴィーー!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!! アーユーレディ!?』
シーン!
『入試要項通り! リスナーにはこの後! 10分間の「模擬市街地演習」を行ってもらうぜ!! 持ち込みは自由! プレゼン後は各自、指定の演習会場へ向かってくれよな!!』
『
『演習場には‘仮想敵’を三種・多数配置してあり、それぞれの攻略難易度に応じてポイントを設けてある!!』
ステージ上で動きがあったので、視線を戻す。手元の資料と異なり、大きなスクリーンには説明通り三種の仮想敵のシルエットが映し出されていた。
『各々なりの‘個性’で‘仮想敵’を行動不能にし、ポイントを稼ぐのが、君たちの目的だ!! もちろん、他人への攻撃等アンチヒーローな行為はご法度だぜ!?』
「質問よろしいでしょうか!?」
説明終了だと見た一人の受験生がハキハキとした声を出し、立ち上がる。
「プリントには四種の敵が記載されております! 誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!! 我々受験者は、規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」
個人的に、質問してくれて感謝だと思った。それは、俺も知りたかった事だったから。
ふと、というか質問した受験生を見て「坊っちゃん」という単語が浮かんだ。
「ついでにそこの縮毛の君!」
良くないとは思っていても、自然と質問者が指差す方向を見てしまう。そこには、いきなり指されるとは思ってなかったのであろう、緑髪の小柄な生徒がビクっと、反応していた。
「先程からぼそぼそと……気が散る! 物見遊山のつもりなら即刻、
「すみません……」
その態度から、気弱な性格なのであろう緑髪の受験生は、自信に満ち溢れている周りの受験生からひどく浮いているように思えた。
『オーケーオーケー。受験番号7111くん、ナイスなお便りサンキューな! 四種目の敵は0P! そいつはいわば、お邪魔虫! スーパーマリオブラザーズってやったことあるか!?』
ここで、画面上に新たなシルエットが追加される。デカデカと表示された「0P」が、何かを表してるように感じる。
……試験に限って「何かある」と疑う場合、その大抵が、何かあると思わせといて、何もない事が多い。
『あれのドッスンみたいなものさ! 各会場に一体! 所狭しと大暴れしている「ギミック」よ!』
「有難うございます、失礼しました!」
成る程。ゲームというとアレだが、感覚としてはそれに近い。いうならば、より敵を倒してスコアを稼げ。といった感じか。
……ドッスン。スター状態なら倒せる。だがそこまでして、「倒す意味はない」……なんだろうか。少し違和感があるな。
『俺からは以上だ!! 最後にリスナーへ我が校‘校訓’をプレゼントしよう』
『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った! 「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!』
‘Plus Ultra’!!
『それでは皆、いい受難を!!』
ーーそういう事か。けれど、これは正直反則だろう。
意地の悪い学校だ。
志願した高校、さらに言えば現在進行形で受験中の高校をそう評価しながら、実技試験の会場へ向かった。
……本当、なんなんだろうな、この学校は。
目の前に広がる「市街地演習場」を見て思う。正直、これほどの規模だとは思っていなかった。実際の市街地と比べても遜色ないだろう。しかも、これが7つ? 雄英、金あるのか。
『ハイスタートーー!!』
突然かかるスタートの合図。だがそれは想像していたものより大幅に、何というか、ノリが軽かった。
『どおしたあ!?
実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!!
走れ走れぇ!!
賽は投げられてんぞ!?』
どうやら、さっきのスタートの合図が正式なものだったらしい。
その言葉に理解が追いついたのか、次々とスタートする他の受験生たち。
スタートした人達は、その狭い入り口に殺到する。デパートのタイムセールを見ているようで、その中に進んでいくのは憚られた。
それで結局、出遅れてしまうのだが、あの中に入って行きたくなかったのでしょうがない。
ともあれ、仮想敵は主に中央に配置されているようで、開始100メートル程の直線には仮想敵の影も形もなかった。
このまま中央に行くのもいいが、少し逸れた方が良さそうに思える。仮想とはいえ敵。大通りから一本入った道に多く分布してる可能性もある。
仮想敵の大きさ次第では、一切配置されていないかもしれないという危険性を認識しながらも、直進せずに脇にそれる。
「当たりだな」
比較的スタートから近くても、一切手のつけられていない仮想敵の集団が其処にはあった。
『標的捕捉!! ブッ殺ス!!』
「随分と物騒な事で』
目の前の1Pから、敵らしい音声がする。もしかして、全部の仮想敵に人工音声つけているのか。その場合、予算が想像つかないことになりそうだ。
直す個性がいるのか。そんな余計なことを考えながらも、体はいつも通り動き、向かってくる1Pの足(車輪)を屈みながらの足払いで奪ってから、倒れた1Pの頭を潰す。行動不能になるのを確認して、意識を次の仮想敵に向ける。
「まずは1P」
次いで向かってくるのはまた1P。頭を潰せば行動不能になるのは確認済み。軽く跳び、頭だけをとばして2P。
崩れて行く1Pを足場に再び跳躍、比較的低い位置にある3Pの頭をかかと落としで外して5P。
そして、大きい3Pの本体を回り込むようにしてこちらに回ってくる2体の2P。
「……」
早く到着した左側の2Pがサソリのような尻尾を使い、先端を針のように突くーー動きは予想できたので、その前に内側に入り込み、攻撃と同時に下がってくる長い頭をヘッドロックの要領で固め、捻る。
ぶちぶちっ、という何本かの線が切れる音と共に、頭部の光が消えたので、行動不能と判断。予想以上のスピードで近づいてきた、右2Pの攻撃を避け、次の攻撃に入る前に正面から叩き潰す。
縦の衝撃で、圧縮……というより、潰された頭をふらつかせ倒れる2P。
「……よし、次」
「これで、46P」
頭を飛ばされ、倒れて行く3Pを慣れたように眺めて、周囲を見回す。
……敵の数が予想以上だ。ここまで上手く嵌ると、逆に怪しくなってくる。
結果的に、路地裏を行くのは正しかった。出遅れた俺でも、十二分にポイントを稼ぐことができた。残り4分あたりで、46Pは、なかなかなのではないだろうかと思う。
いつの間にか、真っ直ぐ進んでいた受験生集団にも追いついていて、視界に入っている。
その時だった。突然ーー巨大な影が現れた。
『四種目の敵は0P! そいつはいわば、お邪魔虫!』
『所狭しと大暴れしている「ギミック」よ!』
MC……流石にこのデカさは想像していなかった。
0Pはその大きさらしい鈍さで、大きく振りかぶり、一発。
BoooooM!!
一瞬で崩れ去る建物と、吹き荒れる爆風。馬鹿みたいな運動エネルギーを持った拳が、地面に突き刺さっただけで起こる災害に、勝てないと本能で悟ってしまう。
中学生にとって、あまりに強大すぎる
その存在に、今までの威勢は何処へやら。たった一体の仮想敵を目にしただけで、我先にと逃げ出し始める受験生。
「自信」と「期待」に満ち溢れていたその顔には「焦り」と「絶望」がありありと顔に出ていた。
会場は既にパニック状態。このままだと、怪我人が出るのは時間の問題だろう。
ーー他の受験生の為じゃない。
「そうだ」
ーー俺の合格のためだ。仕方ない。
俺は近くにあった仮想敵の残骸の中で、棒に近い状態のものを手に取り、自分と0Pを分けるような形で置く。
ーーヒントは与えられていた。
過剰と思えるほどに強調された0Pの文字。0Pの例えが、スターならば倒せる、ドッスンだったという事。そして、わざわざプレゼントされた雄英の校訓……‘Plus Ultra’ーーつまり「更に向こうへ」。
単純に戦闘能力をはかるなら、あのデカブツは、特大
雄英側が伝えたのは倒すだけ「無駄」という事だけ。しかし、それならばなぜ用意した? 受験生に恐怖を与えるため? ただ本当に邪魔をするだけ?
ーー違う。用意された以上、何らかの役割を担う必要がある。あの巨体には「お邪魔虫」という役割では、役不足にも程がある。
つまり、何か別の意図があると考えた方が自然だ。
そこで、ナポレオンの言葉と雄英の校訓。
どちらも「壁を乗り越えていく」事を語っている。
ーー雄英は、願っているのではないか。あの0Pに、立ち向かい、乗り越えて行く事を。
「とは言え、俺は筆がないとまともに個性は使えない」
その上、あの巨体じゃ、いくら殴っても通用しなさそうだ。
幸い、俺は今現在、最前線にいる。
だから、俺が出来るのはせいぜい。
「‘壁’を張るぐらいだ」
0Pが再び大きく振りかぶり、俺に向かってその大質量の拳を振り下ろしてくる。
が、丁度先程置いた棒のあたりでその大質量の拳は、何かに弾かれ、大きな音を立てる。つられて0Pが、大きく仰け反った。
そして、その大質量に見合った慣性によって、その巨体には小さすぎたキャタピラは、地面から離れその役割を終え、逆に0Pの上体は背中から地面につき、大きな音と、砂煙を立てた。
「バランス、悪すぎないか……?」
まさか、反動で倒れるとは思わなんだ。
『お、おおおぉぉぉおお!?』
こうして、俺の試験は幕を閉じた。