「架空」は「現実」に。 作:キャノール
やはり、何度見ても面白いですね。
特に、体育祭の緑谷vs轟は見てて鳥肌が立ちます。
戦闘シーンはあのレベルを文に起こすことを目標にしてますが……なかなか厳しそうです……。
明けない夜はないように、寒さが厳しい冬も、やがて暖かい春になる。
春特有の包みこむような暖かい風。風に吹かれた桜が瞬きごとに揺れながら、その花びらを散らしていく。
試験が終わってから1週間後。雄英高校から合格通知が届いた。そしてその後の一ヶ月間。実家が北海道にあるため、雄英に近い所で一人暮らしをする必要があった。雄英高校が完全な通学制というのもあるが、俺自身が一人暮らしを望んだ。
一人暮らしをするにあたって、まず大変だったのが部屋探しだ。手頃な値段で雄英に通いやすい良い立地。出来るだけ広い部屋を探したのだが、まあ、そんな理想的な部屋は既に埋まっているわけで。
結局選んだのは、立地はあまり良くないが手頃な値段、そこそこの広さで日が当たる部屋。
家からの最寄り駅が、雄英の最寄り駅の二駅隣。最寄り駅まで自転車こいで20分。電車に揺られて10分。また歩いて10分。つまり、登校するのに40分もかかる。
契約した当初(名義は親)は、たかが40分と思っていたのだが、実際登校してみるとその長さが実感できる。
……正直、選択間違えたかもしれない。
雄英をなめていた。地元民にとっての雄英高校は、その象徴であり誇りなのだ。それ故に、雄英の制服に身を包む自分への視線は多い上、実際に挨拶もされる。幸い田舎の習慣からか、答えに詰まることはなかったのだが、答えに詰まる、もしくは挨拶し返さない。なんて事があった場合、結構な人の批判を浴びることになるだろう。
慣れるのが人という生き物だというが、果たして慣れるのにどれだけかかるのだろうか。
出来るだけ、早く慣れて欲しいものだ。
手元のクラス通知と校舎内の案内図を見比べて、自分が配属されたクラスへ向かう。並みの大学より広いのではないかと思える広大な敷地と校舎に圧倒されながら、足を進めた。
『クラス通知
若月 線斗
1-B 出席番号20』
目的の教室に到着し、大きさの割に滑らかに動く扉を開けると、既に席は多く埋まっていた。というより、俺以外は全員既に来ていたらしく、席は1つしか空いていない。既に仲良くなっていたのであろうクラスメイト達の話し声が聞こえる。
自分の席は窓際の最後尾。隣の席と前の席が仲よさそうに話している。俺が近づくと、両者の視線がこちらに向く。
「お、初日からギリギリで登校してくるとは」
席に着くと、こちらに話しかけたそうにしていた一見不気味と思えるような顔の男子が、フレンドリーに話しかけてくる。
「登校に思いの外時間がかかったんだ。一応、五分前に着くように出たんだけどな」
「へぇー、なんかあったのか?」
「いや。何もなかった」
「なんだそれ」
かっかっかっ、と軽く笑うフレンドリーな隣の人。もともと歯が剥き出しのせいで顔の動きがイマイチ分かりにくい。
「あ、俺は骨抜 柔造。ヨロシク。んで、お前の前の席の奴が鱗 飛龍な」
「なんでお前が紹介するんだよ……。鱗 飛龍だ。よろしくな」
「よろしく」
正直、この自己紹介で名前を覚えられる気がしない。
というのも、今まで自己紹介されて、その翌日に名前を言えた試しがないのだ。
「お前の名前は?」
「ああ。すまん。俺は若月 線斗だ」
ちなみにこの謝罪には、「ああ。(実は、お前らの名前もう既に忘れかけているんだ)すまん」という意味も入っている。
「若月ね。覚えた」
覚えるの早くないか
「それでーー」
「ほら、お前ら席につけ。時間だ」
骨抜が何かを言おうとした矢先、教室の前方から赤いタイツの大男が入ってくる。その大男は銀髪に、左頬に入った十字傷。そして骨抜とは違う意味で恐怖を与えそうな顔立ち。
これは……。
「……ヤクザ?」
一人の女子生徒が呟く。突然の生徒以外の人物の登場で静まり返っている教室に、その呟きは広く染み渡った。
数瞬の沈黙。呟いた女子は首を傾げたままだ。自分が変なことを言ったという意識がないらしい。
(『……それだ!』)
心を読む個性は持っていないのだが、不思議とそんな声が聞こえた気がした。
……しかし、黒スーツにサングラスで完全にヤの付く人だな。この人。
「……ヤが付く人ではない。今年度のこのクラスの担任を務める、菅 赤慈郎だ」
そう、見た目のイメージと異なりやんわりと否定するが、その勢いは明らかに教室に入ってきた時よりも落ちている。ほのかに湧く、罪悪感。
(『なんか、すみません……』)
「まあいい。慣れている。それよりも、これより本日の予定を説明する。口頭でのみ説明するので、一度で覚えろ」
……慣れているのか。
ヤクザ先生は、見た目や口調こそ厳しいが、その説明の最中には、各々しっかりとついてこれているかどうかの確認を時折入れていた。
根は優しいのだろう。
今日は登校初日という事で、入学式と軽いガイダンスのみで午前中に終わるらしい。クラスの数人がガッツポーズをするのが見えた。
「以上だ。まあーー入学式とは言っても、教室で放送される校長先生の話を聞くだけなんだけどな」
『やあ、一年生のみんな。入学おめでとう。僕は雄英高校の校長、根津だ。よろしくね』
(『もはや何から突っ込んでいいかわからない!?』)
合格通知と同じような形式で、黒板に投影される、右目に傷が入った‘動物’。
その動物が喋り、さらに日本トップ校の校長をしているというのだから、この世が不思議で満たされていることは変わらないんだな。と、つくづく思う。
『まずは僕の自己紹介をしよう。さっきも言った通り、僕の名前は根津。個性は「ハイスペック」と言って、人間以上の頭脳が動物に発現した、自分で言うのもなんだけど、唯一無二の存在さ』
ーー基本、異種間における頭脳の良し悪しの比較は脳の表面積の大きさで行う。脳の表面積が大きくなれば大きくなるほど、頭は良くなる。アウストラロピテクスからホモ・サピエンスに進化する過程で火や道具を使うようになったのは、簡単に言えば脳が大きくなったためだ。
それで、目の前にいる動物にはとてもではないけれど、人間より大きい脳が詰まっているとは思えない頭蓋骨の構造をしている。ネズミの頭蓋骨に近い。
個性の出現によって、医療の発展が遅れたというのも、なんだか分かった気がした。
『あ、因みに僕は、ネズミでもなければ犬でもないよ。校長という生物なのさ』
これは分からん。
ーーそこから先は、普通の校長らしい話をしていたので省略する。だが、俺らを喚起する為にしたであろう、ウサギとカメの話の締めが、『
……一体何があったんだ。根津校長。
「これで、入学式を終わりにする」
本当に聞いて終わりだった。
新入生代表挨拶とか、祝辞。そんなものはないと言わんばかりに、自然と終わる校長先生のお話のみの、教室でやる入学式。さすが雄英、意味がわからない。
「済まないな、入学式がこの様な形になってしまって。だが今日はやらなければならないことが山程あるからな。すぐにガイダンスを行う」
流石に短すぎるのはわかっていたらしい。……えっと、ヤクザ先生は軽い謝罪をしすぐに資料を配り始める。
正直、あれだけならやらなくてもいいんじゃないかと思ってしまうが、形だけでもやっておかないと体裁が悪いのだろう。
……まさか、隣のクラスは形だけの入学式すら行わなかったとは、夢にも思わなかったが。
手元の資料に目を向けると、それだけで、いろいろな施設があるなと分かる。広大な敷地に、多様な施設。この高校は何を目指しているのだろうか。
「では、これから雄英高校ガイダンスを行う。まずは、施設紹介からだ」
そこからは、わかりやすい様に細かく説明してくれたヤクザ先生だったが、要点を言えば以下の通りだ。
食堂「LUNCH RUSHのメシ処」
クックヒーロー ランチラッシュが運営する食堂。安価で和、洋、中の一流料理が味わえる。結局お米。
USJ(ウソの災害や事故ルーム)
13号が設計した、救助訓練を目的とした雄英高校の演習場。大阪をイメージしてはいけない。
演習場
工場地帯、市街地など様々な環境での戦闘訓練、救助訓練を行う。ほぼコンクリ製。鉄筋コンクリではないから強度はお察し。
運動場
破壊を目的としない、まさに身体を動かしたいときに使う演習場。なぜ別枠にしたのか。
保健室
リカバリーガールがあらゆる怪我、病気を治癒する。仮病は通用しない。
「お前らが使う施設はこんな感じだ。演習場、運動場は申請すれば休日でも使えるからな。積極的に使っていけ。次は、ヒーロー科特有の授業の説明だ」
そして、……赤タイツ先生はまた新しい資料配り始める。
「ま、まだやるのかよ」
隣の席から、小さな声で呟くのが聞こえた。
「この敷地だ。紹介するものが多かっただけで、まだ施設紹介しか終わってない」
「……くそぉ」
始業から入学式、ガイダンスと休憩を挟まずに説明を聞いているので、骨何とかが音を上げるのもわかる。
始業は8時半で、現在時刻は10時過ぎだ。
「ヒーロー科は、基本の5科目に加え、1年次は‘ヒーロー基礎学’‘ヒーロー情報学’の単位を取得する。‘ヒーロー基礎学’は今年から教師になったオールマイトが……」
『オールマイトッ!?』
……驚いた。クラスメイトが声を揃えて叫ぶものだから、身体が反応してしまった。
ーー「オールマイト」それは、俺でも知っている。
絶対の人気を誇るNo.1ヒーロー。どんな状況でもその笑顔で人々を安心させ、救い出す。その存在が敵の発生を抑制すると言われる「平和の象徴」
そんな存在が、なぜ教師に。
軽く考えてもそのメリットよりデメリットの方が大きいような気がする。
メリットは、その膨大な経験からなる、実践的なアドバイスと指導。そして、その存在ゆえの生徒達の喚起。生徒達の学びは、より実りのあるものになるだろう。
逆にデメリットは、「平和の象徴」ゆえに数多くの敵から恨まれる存在だということだ。「オールマイト」は言うなれば‘光’だ。
光と闇は表裏一体。離れることなど有りはしない。
オールマイトが引退したというニュースは聞いていないので、現役を続けながらの教師生活を過ごすのだろう。引退していれば良かったものを、未だ‘光’は健在だ。
ーーその‘光’が、
それが、俺の懸念するデメリットというか、危険性。
そして、そのオールマイトの指導能力の不明確さだ。指導能力がなければ、そのような危険性を孕んだ存在を雄英に置いておくのは、リスクしかない。
……ところで赤タイツ先生、貴方が目を細めると、本気で人を殺しそうな目になっているのでやめてください。クラスメイトが声出なくなってます。
「……そう。オールマイトが担当する。んで、情報学は相澤……あー、イレイザーヘッドが担当する事になっている」
その他に細かい役割区分があるが、気にしなくていい。とのこと。
「ヒーロー基礎学は、簡単に言えば‘訓練’だ。戦闘訓練、救助訓練。この授業を通して、お前らにはヒーローとしての下地を作ってもらう。
ヒーロー情報学は、ヒーローに関する法律などの、規則。ヒーローにおける常識……いわゆる、暗黙の了解というものを学んでもらう。
……何か質問あるものはいるか?」
周囲を軽く見渡すも、誰も手を挙げるそぶりを見せるものはない。端の席なので、クラスの状況がよくわかる。
赤タイツ先生もそれを確認すると、ニッと笑って
「じゃあ、これから……体育の時間だ」
雄英の体操服を手に持って、さらに笑みを深めた。