Re-incarnation   作:ミカヅキ&千早

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第3話「選ばれし者」(ミカヅキ)

 その日、武見内科医院は患者でごった返していた。

 

「な……、何でこんなことに?」

 

 頭痛、眩暈、耳鳴り、吐き気、関節痛に胃痛に腹痛。

 症状は様々だが、患者の身体自体は皆健康体だった。

 しかし、これだけいれば仮病や悪戯とは決して思えない。

 武見妙は、何度も首を傾げながら緩和薬の種を患者に与え続けた。

 

「身体が正常だとしたら、やっぱり心の病? でもこの数……、伝染病じゃあるまいし」

 

 夜も更け、ようやく患者が引けた頃、妙はグッタリと診察用ベッドに横たわって考えを巡らせた。

「……疲れた。でも、これは異常すぎる。一体どこに原因が。……あ」

 何かを思い出し、ふと上半身を起こす妙。

「確か、あの文献にこれと似たような……。そうだ、あれは曽祖父の資料」

 そう言って奥の部屋へ駆け込んだ妙は、押し入れから古い資料類を引っ張り出す。

「えっと、確か……、ん、あった」

 妙が取り出した資料、それは1938年に書かれた医学報告書だった。

 そこには、放射線が人体に与える影響がまとめられていたが、妙が思い出したのはその中にある『集合的無意識が生み出す無気力症候群の可能性』という記述であった。

 

「これは、理化学研究所時代の曽祖父が記録したもの。ただ、公式には発表されていない。あくまでまだ若かった曽祖父が独断でまとめた記録……」

 妙は、真剣な表情で報告書をパラパラとめくる。

「……謎の放射線によって起こる無気力症、その前兆として頭痛や耳鳴り、吐き気などがまず起こる。あ、これだ。……そしてその要因は、テレビ?」

 思わぬ記述に、妙は目を見張る。

「MHKの実験放送を視聴した関係者が相次いで発症。しかし、この事実は闇に葬られる……。まあそうよね。でも、ということはテレビから原因となる放射線が出ていたってこと? 今回のことが、もしこれと同じ現象だったとしたら……」

 頬に冷や汗を感じる妙。

 暗い和室に、何やら陰謀の影が揺らめいていた……。

 

  * * * *

 

 その夜、一子はまたしてもバー・にゅぅカマーの店前にいた。

「うーん……、いよっし!」

 悩んだ挙句、勢い良く店内に入っていく一子。

 

「うわっ! やっぱいた……」

 一子がまず目を遣ったのは奥のテーブル席。

 昨夜、最上夢子がいたあの席だ。

 そして今夜も、やはりそこには夢子が陣取っていた。

 

「ちょっとララちゃん! あのコまた来てる~!」

「言ったでしょ? いいチップ払ってくれるって。お得意様は大事にしないとね」

「んんんん……」

 昨夜のカード騒ぎに結構恐怖感を覚えた一子は、夢子にも同様の恐怖を感じていた。

 案外怖がりさんである。

 

「……あ、あのさあ。なんで毎日ソコに座ってんのかなあ? あ、いや別に悪いとは言ってないよ? なんちゅうかその……、若いお嬢さんがその……」

「この場所が最適だからです」

 恐々尋ねる一子に、夢子は逆にスパッと答える。

「最適?」

「方位学の観点から、この場所が最もエネルギーを得やすいと分かったのです。だから通っています。いけませんか?」

 改心前、ストーカー行為を繰り返していた頃とは別人のようなしっかりとした口調で一子に説明する夢子。

 未だ池杉くんへの思いは成就していないようだが、自分の行動には信念を持てるようになったようだ。

 

「いやまあ、いけないなんて言ってないじゃん……。はぁ……」

 一つ溜め息をつき、夢子からできるだけ遠いカウンターへと移動して腰掛ける一子。

「ララちゃん! 今夜はストレートね!」

「もう、無理しちゃダメ!」

「だって~~~」

「酔って怖さ紛らせるくらいなら、仕事すれば?」

「今日はもう店仕舞いなの! 今あんまり面白いネタがないの!」

「ネタならあるじゃない、あのコのカードのこととか。気晴らしにオカルト記事もいいんじゃない?」

「ちょっ……、やめてよ!」

 

 ララと一子が話し込む中、夢子は問題のカードをジッと見つめていた。

「これは確かに『世界』のカードだった……。その絵柄が盗まれるということは、新たな『世界』が構築されつつある……ということかしら」

 そう呟きながら、夢子は白紙のカード以外のカードを左手でシャッフルする。

 と、そこからヒラリと一枚のカードが滑って飛び上がり、そのまま宙空を泳いで一子の頬へピタリと貼りついた!

 

「ひやっ!!」

 驚いて素っ頓狂な声を上げる一子。

「な……何なのよ!」

 一子は頬に貼りついたカードを剥がそうとするが、強烈な粘着力で剥がれない。

「もう! どうなってんのよ!!」

 その内、カードの輪郭が徐々にぼやけていき、一子の頬に溶け込むように消えていった。

「ちょっ!! 一っちゃん!!」

「う、うわああああああああああああああああ!!」

 

 悲鳴とともに、一子が昏倒する。

 

 そして、残りのカードを確認し終えた夢子がひと言ポツリと呟いた。

「悪魔のカードが……ない……」

 

 

(つづく)

 

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