Re-incarnation   作:ミカヅキ&千早

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第9話「暴走するカードたち」(ミカヅキ)

「……ペルソナッ!!」

 

 琴音が自らのこめかみに向けて召喚器を撃った瞬間、世界は刻(とき)を失った。

 そして同時に色彩も失われ、モノクロームの世界に全ての人間が閉じ込められた。

 

 と、数秒後(時間が止まった世界で数秒後と表現するのもおかしいが)、武見妙だけがそこから抜け出て色彩と動きを取り戻した。

「……え? な、何!?」

 

 死神のカードが額に貼り付いた時から身動きが取れなくなった妙だが、今は自由に身体を動かせる。

 しかし、その額に依然カードは貼り付いたままだ。

 

「ちょっ……、これは? みんな……、止まってる?」

 周囲を見渡す妙。

 そこには、悠、暁、千枝、そして夢子がモノクロームの風景に溶け込んで固まっていた。

 と、妙の頭に少女の声が聞こえてきた。

 

「この混乱を収めるには……、あなたが必要です」

 声の主はラヴェンツァ。

 続いて、マーガレットが妙に語りかける。

「あなたが持つタロットの暗示、それは死神。死神は直接的に『死』を扱う特殊なカード。それはすなわち、『生と死』を操る存在なのです」

 

「ちょっ……何? 誰なの!? 私は妙な力を持った覚えは……」

「言い得て妙ね」

「……ちょっと、ヘタなダジャレはよしてよ」

 マーガレットの天然さが、妙の思考回路を正常に戻した。

「あの、誰だか知らないけど説明してくれる? 私に、いやみんなに何をしたの? 目的は何なの?」

「それは私にも分からないわ。ただ、この混乱は誰かが仕組んだ『虚無世界』への強制旅行。……でも、このままでは『強制』が『合意』になってしまう。それを阻むために、三つのワイルドを集結させたのです」

「ワイルド?」

「そう。あなたがよく知っている来栖暁、彼と一緒に現れた鳴上悠、そして……」

 そう言って、マーガレットは大きく息を吸って叫んだ。

 

「エリザベス! そろそろ起きなさい!!」

 

 マーガレットの声が届いたのか、床に転がっていたエリザベスの目がパッと開いた。

 そして起き上がるや、代わりにテオドアがゆっくりと目を閉じ、バッタリとその場に倒れ込んだ。

「……おっはよーでございます」

 

  *

 

 同時刻、バー・にゅぅカマーでも直斗、明彦、そしてララがその動きを止めていたが、天井に貼りついたタロットカードがその色彩を取り戻し、小刻みに揺れ始めた。

 そして、その内の1枚、中央に『W』とだけ描かれた真っ白なカードがヒラリと剥がれ落ちたかと思うと、そのまま消えた。

 

  *

 

 再び武見内科医院。

 見知らぬ声たちに戸惑う妙の眼前に、突如一人の男が現れた。

「えっ!?」

 現れたのは、青い髪で片眼を隠した、幸薄そうな細身の男だった。

「ちょっ……、誰? アンタ」

「……結城理」

「名前なんてどうだって……、ああゴメン。私が質問したのよね」

 軽く自戒した妙は、ここでようやく理の額にカードが貼りついていることに気付いた。

 それは、悠や暁の額にあるものと同じ『W』のカードだった。

「ちょっとそのカード……。ああなるほど。つまり、君も暁君たちと同類ってワケね」

「そうみたいだね」

 他人事のように答える理。

 ただ、理にはこれまでの事情が全て分かっているようだった。

 奇妙なことだが、理は琴音と記憶を共有しており、琴音が知りえたことは全て自身の疑似体験となっていた。

 ただ、二人は同時に存在することはできず、それはエリザベスとテオドアにもリンクしていた。

 

「僕たち3人のワイルドの力で、タロットの暴走を止めることができる……らしい」

「さっき、茶髪の女の子がそう言ってたね」

「ただ、それだけじゃゼロには戻らない。最後のひと手間、『死神』の力が必要……」

「ひと手間?」

 眉間に皺を寄せる妙。

 と、そこへ夢子がモノクロの世界から抜け出てきた!

 

「あ……、あなた!」

「ソウハサセナイ……、セカイハモウ、ウツロノモリヘトドウカスル!!」

 夢子が両手を高々と上げて叫ぶ!

 

  *

 

 時間は再び動き出した。

 

 そして、バー・にゅぅカマーの天井に貼り付いたタロットカードが次々と剥がれ飛んでいく!

 その内の2枚が、明彦と直斗の頬に貼り付いた!

「な、何だ!?」

「こ……、この感覚は!」

 明彦には『皇帝』のカードが、そして直斗には『運命』のカードが貼り付き、やがて粒子となって溶け込み、二人はその場にバッタリと倒れ込んだ。

 

  *

 

 親友・新島真の家で勉強中だっ奥村春の目の前に突如『女帝』のカードが現出した。

「……え? 何何?」

 そして、カードは春の頬に貼り付いてそのまま溶け込んでいく。

「ちょっ、春! 春ーーーーっ!!」

 真の叫びの中、春は意識を失った。

 

  *

 

 テレビで野球中継を見ている伊織順平。

 その画面から、突如『魔術師』のカードが飛び出し、そのまま順平の頬に貼り付いた!

「うわっ! な、何だコリャ!?」

 そして、カードが順平と同化するとともに、その身体は力を失った。

 

  *

 

 小西酒店で新酒の利き酒をしている小西尚紀。

 その眼前に『刑死者』のカードが現出し、尚紀の頬に貼り付く!

「えっ!? ちょまっ! えっ!?」

 そしてカードが頬に溶け込むや、尚紀は盃を持ったままその場に倒れ込んだ。

 

  *

 

 夜の教会で新手の研究をしている東郷一二三。

 その盤面から、突如『星』のカードが現出し、一二三の頬に貼り付く!

「なっ! これはフライングメタモルフォーゼ!?」

 と、カードはそのまま溶け込み、一二三は静かに盤面に突っ伏した。

 

  *

 

 自宅でゲーム中だった織田信也がふと振り返ると、空中に『塔』のカードが浮いていた。

「こ……、これは!?」

 そのままカードは信也の頬へと貼り付いて溶けていき、ゲームオーバー音とともに信也の身体も力尽きた。

 

  *

 

 ファッション雑誌のライターとなっていた海老原あいは、今宵も原稿の執筆。

 と、突如眼前に現れた『月』のカードに驚く。

「何なの!?」

 そして、カードはあいの頬に貼り付いて溶けていき、あいもまたその場に倒れ伏した。

 

  *

 

 残業続きの国語教師・川上貞代は、今夜も職員室でカップ麺をすする。

 と、積み上がった書類の中から『節制』のカードが飛び出し、貞代の頬に貼り付く!

「わっ! ちょっ、何!? お化けはやめて!!」

 そう叫んだ貞代だったが、あえなく気絶した。

 

  *

 

 今夜も男に振られ、居酒屋で一人ヤケ酒の西脇結子。

「男なんて……、え?」

 そんな結子の目の前に現出した『剛毅』のカードが結子には殊更イケメンに見えた。

「やっと来てくれたのね~~~!!」

 両手を広げる結子の頬に貼り付いたカードはそのまま溶け込み、結子は幸せな表情でテーブルに崩れ落ちた。

 

  *

 

 ホテルの一室で翌日の講演の準備をしている吉田寅之助。

 と、突如眼前に『太陽』のカードが現出し、寅之助の頬に貼り付く!

「ムッ!? なにやつ!?」

 必死でカードを剥がそうとする寅之助だったが、カードはそのまま頬に溶け込んでいき、寅之助の意識も飛んだ。

 

  *

 

 自宅で入浴中の新島冴。

 シャワーの湯しぶきの間から、そっと『審判』のカードが顔を覗かせる。

「え、ちょっと……、何!?」

 ピタッと冴の頬に貼り付いたカードはそのまま溶けていき、冴の身体は湯煙の中へと消えていく。

 

  *

 

「そろそろ寝るね」

「ああ。明日は俺も早いんだったな」

 堂島家では、遼太郎と菜々子が就寝準備にかかろうとしていた。

 と、二人の目の前に突如カードが現出!

 そして、遼太郎の頬には『法王』のカードが、菜々子の頬には『正義』のカードが貼り付いた!

「何だ!?」

「お、お父さん!!」

 そのままカードは二人に溶け込んでいき、親子は力なく崩れ落ちていった。

 

  *

 

 自宅でネットフレンドと文字チャット中の山岸風花。

 そのパソコンモニターから、突然『女教皇』のカードが飛び出して風花の頬に貼り付く!

「えっ! 何!? どうなってるの!?」

 

 同じ瞬間、そのチャット相手であった佐倉双葉の眼前にも『隠者』のカードが現れていた。

「カード? 何のマネだ?」

 そしてカードは双葉の頬に貼り付き、次第に溶け込んでいく。

 

「いやあああああああっ!!」

「なんなんなんなんなん!?」

 

 互いのモニターの前で二人は失神。

 

  *

 

 そして武見内科医院。

 一瞬時間が止まったことを、悠と暁は本能的に感じ取っていた。

「……今、何かあったな」

「そうですね……。あっ!」

 暁が叫んだ先には『戦車』のカードが浮かんでいた。

 そして、そのカードは空中を走って千枝の頬へと貼り付いた!

「えっ!? 何!? 何なの!?」

 驚く千枝だったが、瞬く間にカードは千枝の頬に溶け込んでいく。

 

「カードが……!」

「むぅ……」

 その様子を見て思わず顔をしかめる暁と悠。

 そして、千枝が気を失って倒れると同時に、二人の身体に自由が戻った。

 

「う、動いた!」

「……む、おい見ろ暁! あの奇妙な女がいない!」

「えっ!? ……あ、武見先生も!?」

 

 と、刻(とき)を止める原因となった召喚器を撃った琴音の姿が、青い髪の男に変わっていた!

 

「やあ。ここにいたんだね」

 そう呟いた理の指は、まさに『ひっくり返す』動作をしていた。

 

 

(つづく)

 

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