戦姫絶唱シンフォギア ーそれは破壊の力ー   作:雪原

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ついにやってしまった……


プロローグ──ライブ前の物語
初陣


目の前に広がるのは廃墟、そして、炭の塊。

空からは、雨。

激しい雨が、体を打つ。

空は暗く、どんよりと、重苦しさを感じるような気がした。

 

『聞こえる?』

 

降り続ける雨の音だけを拾っていた耳に、聞き慣れた声が入る。通信機越しのその声は、隣に当人がいなくても、まるでそこにいるかのように明瞭だ。

 

「あなたが隣にいるみたい」

 

『それは重畳、遅延も確認されない。片手間に作った通信機だったけど、しっかり機能してるみたいだね』

 

「相変わらずね……標的は?」

 

『5秒後に視界に入ってくるよ。……来た』

 

廃ビルの角から、標的……特異災害、通称【ノイズ】が姿を表す。道路の真ん中に佇むこの身を見つけて、ゆっくりと歩を進めてくる。

足元に散らばる炭は、奴等の仕業だ。

触れた人間を自身諸とも炭素に転換する能力、自滅と引き換えに必ず人間を殺す。

彼等が何故存在するのか、何故人間を襲うのか、研究が続けられているらしいが、分かっていない。

 

『6時方向、アウフヴァッヘン波形を感知、形状は……天羽々斬、ガングニール』

 

「奴等ね」

 

『この速さはヘリかな?タイムリミットは……7分位、安全に部屋まで帰ってくるには5分以内かな』

 

「4分でやる」

 

ノイズには位相差障壁と言う特性がある。

詳しくは割愛、要は自身の存在を別世界に置く事で、どんな物理攻撃も通さないバリアの様なもの。

現状、ノイズに対抗するには攻撃の瞬間、存在をこの世界に置く刹那の時を狙って触れずにカウンターを叩き込む。

もしくは……

 

『自信満々だね……じゃあ4分で』

 

「彼女達の位置情報は常に送り続けて。ギアで急加速する可能性もあるから」

 

『もうやってるよ。気にしないで思いっきりやっちゃって』

 

「わかった。歌うよ」

 

世界に存在を秘匿され、日本のみが所有する対ノイズ用FG式回天特機装束。

名称──

 

「Inyurays laevateinn tron……」

 

──シンフォギアをその身に纏う事。

 

聖詠を唱え終わると同時に、身体が目映い光に包まれる。

ほんの少しの間目を瞑り、開く。

光は徐々に消えていって、今まで着ていた制服姿から、シンフォギアを纏った姿へと変わる。

 

『向こうも感知したみたい。今頃大騒ぎだろうねー』

 

「知らないシンフォギア装者が現れたのだから、そりゃね」

 

言いながら、右手を前に出す。開いた手の前に、前触れも無く剣が表れ、それを掴む。

縦に、横に、振るった剣は、雨粒を斬り裂く。

 

「アームドギア展開、異常は?」

 

『無し、適合係数も上々』

 

ここまでは完璧、ならば、後は実戦のみ。

迫るノイズに向けギアを構える、刀身から炎が迸り、触れた雨粒を蒸発させた。

ノイズがその身を槍の様に変形させ、こちらに向かって直進してくる。愚かにも一直線、その程度では、この身の敵ではない。

 

『カウントスタート、頑張って』

 

「……斬るッ!」

 

 

 

────────────

 

 

 

識別不明のアウフヴァッヘン波形を感知してから僅か6分後、雨が止み、曇り空になった上空、到着したヘリからシンフォギアを纏った二人組が着地した。

オレンジ色で槍を持った女性。第3号聖遺物『ガングニール』の適合者、天羽奏が炭へと姿を変えたノイズに触れる。

 

「熱っ」

 

「周辺にノイズもいない、あるのは炭だけ……」

 

青色で日本刀の様な剣を片手に持つ、第1号聖遺物『天羽々斬』の適合者、風鳴翼が周囲を見回す。

あるのは熱を持ったノイズの死骸である炭だけで、人の姿は何処にも見当たらなかった。

 

「だけど、誰かがここにいて、ノイズをぶっ殺したのは間違いないな」

 

「うん……、先程感知したアウフヴァッヘン波形は間違い無かったみたい」

 

『二人とも、どうだ?』

 

「司令」

 

二人の耳に、男性の声が響く。シンフォギアに搭載されている通信機能を使っての交信だ。通信相手は、風鳴弦十郎。

天羽奏、風鳴翼が所属する『特異災害対策機動部二課』の司令官であり、翼の叔父である。

 

「駄目だ、旦那。炭以外に何も残っちゃいない」

 

『そうか……』

 

『私の知らないシンフォギアなんて……一体誰が?何の聖遺物を使ったのかしらねぇ?』

 

通信に女性の声が割り込んで来た。

現場の二人はそれを全く気にしない。

その女性こそが、シンフォギアの生みの親であり、自分達の所属の技術主任なのだから。

 

『シンフォギアの製作には櫻井理論と聖遺物が不可欠、例え情報が漏れたとしても、簡単には造れないし、そもそもどうやって、どこから聖遺物を……』

 

『……兎に角だ、異常が無いなら帰還してくれ。詳しい話は戻ってきてからにしよう』

 

「りょーかいっ」

「わかりました」

 

 

 

────────

 

 

 

30分後、リディアン音楽院女子寮の一室。

 

真っ暗な部屋の中に、パソコンのキーボードを叩く音がする。

少女……日向唯は、恐るべき速さでキーボードを叩きつつ、モニターに映る映像を見てふんふんと唸っていた。

そんな事がずっと続いていた部屋に、急に明かりが付く。

唯が手を止めて玄関の方に顔を向けると、リディアンの制服を着た赤い髪の少女がため息混じりに立っていた。その手が延びた先には、部屋の明かりを付けるスイッチ。

 

「ただいま。……明かり位付けたら?」

 

「舞歌おかえりー。いやぁつい夢中になっちゃてね。なんせ貴重なデータだから」

 

そんな様子に、天海舞歌はもうひとつ溜め息を吐いて、鞄の中からペットボトルを取り出し、唯に手渡す、頼まれてた買い物だ。

唯はお礼もそこそこにキャップを開け、一気に中のコーラを流し込んだ。

 

「ん……くー、生き返ったー!」

 

「全く……で、どうだったの?」

 

舞歌の問いに、唯はキャップをきっちりと閉め、コーラを置いてモニターを指差した。

それを覗き込んでみる……様々なグラフと難解そうな記述が羅列していて、舞歌ではとても理解出来ない、唯一左上に表示されている『Complete』の文字が、成功を知らせてくれた。

 

「ちょっと製作には苦労したけど、それだけの見返りは充分。テスト前に設定した基準もぶっちぎりでクリア。完成ってことで問題なし!」

 

「『櫻井理論』を元に生み出されたシンフォギアの製作……聞いた時は絶句だったけど、ホントにやってのけちゃうなんてね」

 

「流石に『櫻井理論』と『聖遺物』を手に入れる為には危ない橋も渡らざるを得なかったよ?ちょっとでも痕跡残せばあっという間に辿られてバレちゃうしね」

 

この子は私の要求に答えてくれるんだからー、とパソコンを撫でる唯。

このパソコン1台で完全秘匿状態のシンフォギアを造るための要素を全て揃え、そして舞歌も知らない交友関係をフル活用し、実際に造り上げて見せたのだ。

そう、この日向唯と言う少女、超じゃ足りないレベルの天才だった。

 

「で、実際に使った感想は?」

 

そう問い掛けられ、舞歌は自分の首に掛かったペンダントを手に取る、赤い結晶、シンフォギアの待機状態だ。

 

「……感想、ね」

 

「うんうん」

 

「すごかった」

 

「うんうん……え」

 

「……」

 

「それだけ?」

 

「他に何を言えばいいの?」

 

「ほらもっと、手足の駆動がーとかアームドギアの展開がどうとか」

 

「そう言われても……だったら自分で動いてみれば?」

 

舞歌の言葉に唯は不貞腐れた様に眉を八の字に変え、不満です、と言った視線を舞歌にぶつける。

 

「私の運動能力は底辺の底辺の底辺ってこと、舞歌なら知ってるよね……!」

 

日向唯、体育は小学校から今に至るまで最低評価をキープ、跳び箱の4段も飛べない圧倒的運動音痴。天才の代償と舞歌の中で決定されている。

対して舞歌の身体能力は常人を置き去りにして飛び越えるレベルだと、唯は認識している。特に本人が我流と主張する剣術は、素人目に見ても他を圧倒する程。故にこのシンフォギアの聖遺物は、舞歌にうってつけとも言えた。

 

「……ま、いいや。舞歌の顔を見れば、気に入ったかどうか位すぐ分かるしね。大分お気に召した様じゃない?」

 

「そうね。悪くないわ……これからよろしく」

 

──レーヴァテイン

 

舞歌の言葉に反応するかのように、待機状態のレーヴァテインがキラリと輝いた。

 




取り敢えずプロローグをば。
完結まで頑張ります。
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