戦姫絶唱シンフォギア ーそれは破壊の力ー   作:雪原

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立花響バースデー!
お話回です。


影を追う

「ちっ、逃がしたな」

 

「うん……」

 

 舞歌がいなくなった戦場、二人は揃ってアームドギアを仕舞う。目標を逃がした事を悔しがる奏の隣で、翼は思案顔で顎に手を当てる。

 

「どうした、翼」

 

「あ……えっと……」

 

 奏が顔を覗き込むと、翼は僅かに顔を朱に染めながら、言っていいものかと悩む。今の戦闘で気になった事があるとは言え、あくまで気になった程度のものだ、態々奏を混乱させることも……

 

『二人とも、ご苦労だった』

 

 そんな最中、二課にいる弦十郎からの通信が入る。翼はこれ幸いと、この話を打ち切ることにした。

 

「いえ、周辺にノイズの反応はありますか?」

 

『うむ……反応は無いな。もう大丈夫だ、二人とも、帰ってきてくれ』

 

「了解、帰還します」

 

 通信を切断して、シンフォギアを解除する。一瞬光を纏って私服姿に戻ると、何と無く気分が落ち着いたような気がした。

 翼と同じ様にギアを解除した奏が、顔に疑問符を浮かべながら翼に視線を向ける。

 

「なぁ翼、さっきの……」

 

「大丈夫、ちょっと気になった事があっただけ。帰ろう、奏」

 

「お、おう……?」

 

 確証は無い、だから態々口に出す事も無いだろう。そう思いながら、不思議そうな奏を連れて、自宅へと足を向けた。

 

 

──

 

 

「ただいま……」

 

「おかえり、舞歌」

 

 戦闘終了から約1時間後、全身から疲れを滲ませながら帰宅した舞歌を迎えたのは、コーラを飲みながら呑気にテレビ番組を眺めている唯の姿だった。思わず顔を歪めた舞歌だったが、だからと言って唯に戦えと言うのも……まぁ、酷なのでここは我慢することに決めた。はぁと溜息を吐いて冷蔵庫に直行、中からペットボトルの麦茶を取り出して、キャップを開け一口、冷たい感覚が喉を通る感覚に心地好さを感じる。

 

「さすがに2対1は辛かった?」

 

「ふぅ……まあ、ね。二人とも私より手練れだし、正直もう限界だった。あれ以上続けてたら今頃ここには帰って来れなかったかも」

 

「うは……ギリギリのタイミングだったんだね……」

 

「……で、そこまで私にさせて一体何を求めてたの?」

 

 当然の疑問、と言った風に問い掛けた舞歌に、唯は一つ頷いてテレビを消し、立ち上がる。足が向かった先は、部屋の一角に鎮座するパソコンの前。いつものように椅子に座るとスリープ状態になっているそれをボタンを押して立ち上がらせ、手早くキーを叩く。

 

「……これ」

 

 唯の後ろに位置取り、パソコンの画面を覗く。幾つかのウィンドウが開く画面、その真ん中に一際大きく開かれたウィンドウがある、その中には一枚の画像が表示されている。

 

「これ……さっき私が戦っていた?」

 

「そう、あの周辺に設置されている監視カメラのネットワークを片っ端からハックして、このパソコンから映像を見れるようにしていたの、途中に食らった通信妨害の突破に手間取ったせいで、舞歌には負担かけちゃったけどね。で……これ」

 

 唯が指差したのはやはり真ん中の画像、一見ただ街並みが写っているのみに見える。しかし、目を凝らすとそこに妙なモノが写っているのがわかった。

 

「……右上の、これ……人影?」

 

「そう、ここに誰かがいたの。このカメラだけじゃ何もわからないから、この周辺のカメラに写っている映像をくっつけて切り取ると……」

 

 舞歌にはよくわからない処理が繰り返される画面、大人しくそれを待っていると、その処理はすぐに終了し、また新しく画像が表示された。無理矢理に切り貼りされたその画像に写っていたのは……

 

「……下半身だけ」

 

「そ、残念ながら上は覗けなかったんだー

……でも、今は存在が確認出来た、それだけで十分」

 

「存在……?」

 

「確証は無かったから舞歌には黙ってたけどね。けど、こうやって存在は確定したし、舞歌が帰ってきたら話そうと思ってた」

 

 カチリ、マウスのクリック音が鳴り、ウィンドウが切り替わる。デスクトップの壁紙は相変わらずツヴァイウィングだ。モニターから目を離して、傍らにあったペンをくるくると回しながら、唯は口を開き始めた。

 

「FG式回天特機装束シンフォギア。それは確かに、 直接的な干渉が実質不可能だった災害、ノイズに対して圧倒的とも言える効力を発揮した。その力は扱ってる舞歌ならわかってるよね」

 

「勿論」

 

「シンフォギアは特異災害対策機動部二課……通称、特機部二(とっきぶつ)に所属する科学者、櫻井 了子(さくらい りょうこ)と言う人物が造り上げたような物なの」

 

「櫻井理論の提唱者……」

 

「彼女によって生み出されたシンフォギアは幾つかあるんだけど、その中でも実戦力として運用されているのは二つ」

 

「天羽々斬と、ガングニール?」

 

「そう。表に出ていない物だと、五つ……いや、四つかな、後は彼女が関わっていないレーヴァテイン……まあそれはいいとして。

このシンフォギアって物さ、どうもおかしいと思わない?」

 

「おかしい……とは?」

 

「だって明らかにオーバースペックでしょ、これ。現状の科学技術で造り上げられる物じゃない、正しく異端技術の結晶って訳。いくら櫻井了子が稀代の超天才でも、こんなのを造れるとはとても思えない。

なら、何故シンフォギアは存在しているのか、誰が作ったのか……私はそれに、さっきの人影が関わってると思う」

 

「櫻井了子……若しくは特機部二に、私達の想像も付かないようなバックがいて、その人物がシンフォギア等の異端技術に関与している……って事?」

 

 うん、と唯は頷いて、喋り続けて乾いた喉を潤すようにコーラをぐいと飲む。

 

「んっ……まぁ、本当に櫻井了子が自力でシンフォギアを造り上げた可能性も無いわけじゃないんだ。寧ろそっちの方が辻褄が合うことには合うし……」

 

「辻褄?」

 

「ああ、これはこっちの話、気にしないで。まだ私にもよく分かってない事だから。

……で、例の人影が私の仮説の通りに実在するなら、自身が関与してないシンフォギアが稼働していたら興味を示すと思ったの。

後は舞歌を適度に戦わせて、相手方の反応を見たり、あわよくば直接見に来てくれたり……なんて思ってた。結果は上々だったよ」

 

 成程、私を餌に釣り上げようとしたわけか、と他人事のように思いながら、舞歌は自身の首から下がるペンダントに触れる。例の人影が関与していないシンフォギア。目の前の少女が造ったそれは、その人影にとってどれだけの影響力があったのだろうか。

 

「……兎も角、唯が考えていたことは分かった。そして第一目標が達せられた事も」

 

「……流石舞歌さん。理解してるね」

 

 そう、ただ見つけただけでは終わる筈が無い。疑問を解けば新たな疑問が浮かび上がる。唯は勿論、舞歌にとっても、例の人影の存在はそういった、調べてみたい疑問の内に入っていた。

 

「とはいえ、向こうが明確に姿を現さない以上、こちらから取れる行動は殆ど無いし……特機部二に殴り込みかける訳にもいかないしね。まず本部の場所分からないし。

だから……シンフォギアの研究を進めつつ、向こうの装者と小競り合い……まあ、今までとあまり変わらないよ」

 

「わかった。……私も、レーヴァテインをもっと使いこなせるようにならないといけないね」

 

 舞歌の頭に、奏の一言が甦る。シンフォギアの力、その根元にあるのは、ギアが奏でる旋律と、装者の歌。翼も歌っていた。奏も歌っていた。しかし舞歌は、まだ。ギアから旋律が流れた事も無い。

 戦闘に入る直前の問答。納得がいったような奏の様子。あの時にも思った通り、彼女は舞歌が歌えない理由を知っているのだろう。

 

「そのシンフォギア……レーヴァテインは向こうの2つと同じ手順を踏んで製作された物。相違点は開発者のチェックが入ってない事だけど……今までの稼働状況を見るにシステム自体に問題があるようには見えない。聖詠にはしっかり反応するし、身体機能の上昇、位相差障壁の無効化、バリアコーティング機能は問題無く動いてる……なら、原因は一つ」

 

「……やっぱり、私に問題があるね」

 

「間違い無く」

 

(…………問題か。まあ、粗方の検討は付いているけれど。でもこの問題は、私には難易度が高い)

 

 深く溜息を吐いた舞歌は、ふるふると頭を振って踵を返した。向かう先に気付いた唯が疑問符を浮かべる。

 

「出かけるの?もう門限過ぎちゃうよ?」

 

「少し、気晴らしに。バレないように戻ってくるから……」

 

 カチャリ、ドアの閉まる音が聞こえた。

 再び一人になった唯は、持っていたペンを後ろに放り投げて、椅子の背凭れに身体を預けて肩を竦めていた。顔には呆れたような表情を浮かべて、ひっそりと呟く。

 

「芽吹きは遠そうだ……」

 

 放り投げたペンは後ろのテーブルに置いてあったペン立てに吸い込まれるように入っていった。

 

「終わりの名、ねぇ……」

 

 

──

 

 

「……おー、結構寒いな」

 

 二課本部にて先程の一戦についての話し合いを終え帰路に付いた奏は、意味もなく立ち寄った人気の消えた公園のベンチに腰を降ろす。ひんやりとした夜の風が肌を打ち、ふるりと身体を震わせた。しかし、戦闘を終えて火照った体と頭を沈めるには丁度良い。

 

「……あ」

 

「ん?」

 

 横から人の声。もしかしてファンに見付かったか?と奏が振り向くと、そこには少し前に別れた少女が立っていた。

 

「よ、舞歌、さっきぶりだな」

 

「奏……」

 

「こんな時間にどうした、何かの用事か?」

 

「ううん……ちょっと気晴らしにね」

 

「そうか、なら少し話でもしようぜ。座りなよ」

 

 お言葉に甘えて、と奏の隣に腰を降ろす。

 昼間と違って少し元気がないように見える舞歌に気付いた奏は、小首を傾げる。翼の家で別れた後、何かあったのだろうか。

 そんな舞歌に、奏は自身のポケットから取り出した缶コーヒー……近くの自販機のアタリで取った奴……を舞歌の頬に押し当てた。

 

「んむ?」

 

「あったかいの、やるよ」

 

「ん、どうも……」

 

 プルタブを引っ張って開け、軽く飲む。程好い苦さが喉を通っていく。

 

「……あったかい」

 

「そいつは良かった」

 

 微笑む舞歌だが、やはり僅かに陰りが見える。そう感じた奏は、お節介だと、余計なお世話だと自覚しつつも、友達の世話を焼いてやることにした。

 

「何か、悩みでもあるのか?」

 

「え……」

 

「翼の家で話した時より、落ち込んでるように見えてな。吐き出すだけ吐き出してみろ、楽になるぞ?」

 

 その言葉に言い淀むような仕草を見せる舞歌。何を隠そう、悩みの種にそう言ってくれたご本人が関わっているのだから。

 当然、正体を明かす訳にはいかず、しかし、奏に話を聞けば何かがわかるかもしれない。押し黙ったまま天秤を揺らしていたが、やがてそれが片方に傾いた。

 

「ねぇ……奏」

 

「なんだ?」

 

「奏は何で…………」

 

 舞歌が言いかけた刹那、奏が今までの朗らかな表情から一転、険しい顔でそれを制す。

 奏は感じていた。この異様な感覚、不快な感覚は…………

 

「ノイズだ!」

 

 叫ぶ奏と同時に、周囲から様々なノイズが姿を現す。前だけではなく、後ろからもだ。

 

「囲まれた……これじゃ、逃げられない……ッ!」

 

「くっ……」

 

 奏は迷った。今すぐにこの場でギアを纏えば、この唐突に襲った窮地を脱することは出来る。それはガングニールならば容易い事だ。しかし、シンフォギアは秘匿される兵器。舞歌が見ている前では……

 

「くそっ、どうする……!?」

 

「奏……」

 

 舞歌も同じような迷いを抱えていた。特機部二に所属しているだろう奏は、他人の目がある場所でギアを纏う事が出来ない筈だ。対して、自分ならばそういった制約は無い。聖詠を唱えればレーヴァテインを纏い、ノイズを殲滅出来る。

しかし、舞歌にはそれが出来ない。理由は無い。……いや、あるとするならば、それは意志力の欠如。誰かに行動を委ねる事しかしない舞歌は、こういった時に自分の意志で動く事が出来ない。故に何も出来ないまま、ノイズとの距離が縮まっていく。

 やがて最早目前といった辺りまで近寄られた時、舞歌の隣から、何かを決意したような、そんな声色が漏れた。

 

「……大丈夫だ」

 

 そう呟いて、奏が前に出る。舞歌を庇うように立って、顔だけ振り向いて、ニカッと頼もしげに笑った。

 

「あたしが守ってやるから、そこから動くなよ」

 

「それって……」

 

 つまり、決心したのだ。舞歌が選べなかった選択肢を、奏は選んだのだ。

 

(やっぱり、奏は強い)

 

「Croitzal ronzell Gungnir zizzl……」

 

 夜の闇を晴らすように、眩い光が奏を包む。光が収まると、ガングニールのシンフォギアを纏った奏が、アームドギアを手に、ノイズを睨み付けていた。

 

(私は、弱いな……)

 

「待ってろ舞歌、直ぐに……終わらせるッ!」

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