戦姫絶唱シンフォギア ーそれは破壊の力ー   作:雪原

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プロローグのラストです、前後編の予定。これが終わったらいよいよシンフォギアのストーリーに入ると思われます。


運命の日 前

 はぁ、と溜め息を吐いたのは今日何回目だっただろうか。時間はまだ朝、眼前で騒ぎまくる唯も、呆れて溜め息を吐き続ける舞歌も、まだ起きてから数時間と経っていない。

 テーブルに置かれた二枚のチケットには、今日の日付が記されている。夜の公園で奏と言葉を交わしたあの日から数日。今日は唯が待ちに待った、ついでに舞歌も結構楽しみにしていたツヴァイウィングのライブの日なのだ。

 

「ついに来たねこの日が……!いやーもう楽しみすぎてあんまり寝れなくって私もうたまらんってやつですよ舞歌わかるこの気持ちなんかもう今なら何でも出来そうな気がするああ表現しきれないこの気持ちどうすればいいんだろう教えて舞歌さん!」

 

「うるさい」

 

「辛辣ッ!?」

 

 うんざり、といった様子を隠しもしない舞歌だが、このハイテンションが起きてからずっと続いていて、且つそれを受け止めるのが自分しかいないという現状ならば舞歌だって言葉の一つ位は辛辣になってしまうだろう。

 

「いい加減落ち着きなよ、ライブは夕方からなんだから、今からそのテンションじゃ疲れるよ?」

 

「んぐ……でもさあ……初めてのライブだし、楽しみだもん。舞歌だってさっきから口元弛んでるよ?」

 

「……まあ……」

 

 知らず知らずの内に顔に出ていたらしい、と舞歌は今更、意味も無く表情を引き締めてみる。しかし、よくよく思えば今引き締めてどうするんだと言うことで、すぐにいつもの無表情に変化した、溜め息付きで。

 

「うわー何の曲から始まるのかなー個人的にはORBITAL BEATだと思ってるけど、逆光のフリューゲルもあるよね!この二つのどっちかだと思うんだけど舞歌さんどう思いますか心の内をお聞かせ願いたいッ!」

 

「うっざい」

 

「更に酷くなった!」

 

「いっそ夕方まで寝てもらうか……」

 

「なにその不吉なこと……ちょっと待ってなぜギアペンダントを手に取るんですかうわあああ落ち着くから待ってやめて!」

 

 

―――――

 

 

「ったく……」

 

 そんな朝の喧騒から数時間後、諸々の準備を済ませて寮を出た二人は現在、ライブが開催されるドームに向かって移動する電車に揺られていた。周囲を見回すとツヴァイウィングのグッズを持った人達がちらほらと見受けられ、改めてあの二人の人気が高いことを思い知らされる。そういえば電車に乗った駅のホームでは、臨時の追加電車が出るという話も聞いた、末恐ろしい話だ。朝から騒ぎっぱなしで疲れたらしい唯が自分の肩を枕にして眠っている事に呆れながら、次々と流れていく景色をぼうっと眺める。

 暇な時間になると色々と考える物で、授業の事や唯との下らない雑談の事などを適当に思い返していると、ふと先日の一件が脳裏に浮かび上がった。

 それは、本当に忙しく騒がしかったあの一日、その最後に起こった出来事。奏と二人でいるときにノイズに襲われたあの時。

 

(あの時、確かに奏は疲労しているように見えた……でも、ノイズに襲われる前や戦闘後にはそんな素振りは全く見せなかった。

私を安心させるため?……いや、そういった感じでは無かった。なら、ギアを纏っている時だけ疲労感に襲われる?でも、私のシンフォギアにそんな特徴は無い。ガングニールだけ、と言ってしまえばそれまでだけど……何か、引っ掛かる)

 

 喉に引っ掛かった小骨のような、そんな小さいけれど強く残る違和感。しかし、自分が得ている情報程度ではこの疑問に答えを出すことは出来ないだろう。そう断じて、思考を一旦リセットする為に大きく息を吐いた。それと同時に、ずっと肩に掛かっていた重りがふるりと身じろぎしたのを感じた。

 

「んぁー……」

 

「よく眠れたみたいだね」

 

「んー、やっぱり朝騒ぎすぎたー……」

 

「ま、疲れたままライブ行くよりよかったんじゃないの?」

 

「そうだね。あ、次の駅だよ」

 

「わかった」

 

 

―――――

 

 

「フフ……」

 

 間近に迫ったライブに会場の周辺が賑わい始める中、その極近くの何処かで人影が嗤う。ツヴァイウィングしか目に入っていない愚かな衆人を嘲るように。

 

「天羽奏……僅かな命を燃やし尽くしなさい。それが私を助けることになるのよ……」

 

 闇は笑う。間もなく訪れる災厄を楽しみに。

 

 

―――――

 

 

「すごい人だかりだね」

 

「うわー……まるで夏冬の祭典みたい」

 

 見渡す限り人、人、人……ごった返すような人の波に二人そろって唖然としてしまう。何度も実感させられたが、これほどまでにあの二人の人気を思い知ったのは初めてだった。

 この中に入っていくのか、と多少不安になる舞歌を尻目に、唯はパンフレットを改めて見直し始める。

 

「とりあえず、始まる前に買いたい物があるからそっちを消化しておこう。まだ時間もあるし多分大丈夫だから」

 

「わかった、けど……本当にこの中に入るの?ちょっと不安なんだけど」

 

「まぁーツヴァイウィングだからね……さすがにこれだけいるのは予想外だったけど。でも大丈夫だよ」

 

 にかっと笑った唯が舞歌の手をしっかり握る。これで逸れないよ?とでも言いたげなその表情に、舞歌もクスリと笑みを浮かべた。

 

「じゃーまずはTシャツとキーホルダーだね!サイリウムとかは入場してからだから、売り切れる前にグッズを確保しなきゃ!」

 

「……やっぱり少し不安だ」

 

 

―――――

 

 

「いやー買った買った!」

 

「重い……」

 

「まぁ色々買ったからねー。パンフによると臨時に設置したロッカーがあるらしいから、そこに荷物を置いてから入ろう。そろそろ入場時間だから」

 

「んー」

 

 ドサリ……とまではいかないが、それなりの重さを誇る荷物を地面に降ろし、パンフレットを流し読みしながら唯が言う。指差した先には、人の波で少し見えにくいが確かにロッカーの姿があった。行こうか、と言った舞歌に従って唯も降ろした荷物を持ち直し。ロッカーへと向かう。

 目視で見えただけあって数分も掛からずに到着し、使える場所は無いか、そろって探す。ほんの数秒で舞歌が空いたロッカーを二つほど見つけ、そこに荷物を入れようかと言うことになった。

 

「200円か。結構良心的な方じゃない?」

 

「だね、最近は500円とかそこら辺が多いから」

 

 お金を投入して、ロッカーを開ける。そこにライブに不必要な荷物を次々と入れていき、しっかりと閉めて鍵を掛ける。荷物が無くなって開放的になった唯が、んー、と伸びをした。

 

「これで身軽になったねー」

 

「鍵、無くさないでよ」

 

「もっちろん。大事なお預け物が入ってるんだから。んじゃ後は入場するだけ……ん?」

 

 急に言葉を中断した唯に何事かと顔を向けると、唯の視線は一点に集中していた。同じ方向を見るが、舞歌には人の波が左右している様子しか見えない。

 

「どうしたの?」

 

「いや……あそこ、見える?女の子」

 

 指差された先を注視すると、確かに人ごみにまぎれて一人の女の子の姿が見えた。しきりに左右を見回して首を傾げているように見えなくも無い。よく見つけたなー、と心中で感心する舞歌。

 

「困ってるのかな」

 

「そう見えるね、道にでも迷ったのかな」

 

「パンフ持ってないのかなー。……よっし」

 

「え、ちょっと唯……」

 

 一人意気込んだ唯は、人ごみを掻き分けて進み始めた。目標は明らかに件の少女で、上手く進んでいく。

 

「……お節介なんて、珍しい」

 

 意外そうに呟いて、舞歌もすぐに後を追う。距離自体はそこまでは離れていなかったようで、多少の人の流れに逆らう程度ですぐにたどり着くことが出来た。二人と同じか少し下位の少女に、唯は軽快な口調で話しかける。

 

「あれー……どっちなんだろう……」

 

「君、どうかしたの?」

 

「うぇ!?あ、えっと、その……」

 

「あ、ごめんね驚かせて。何だか困ってるみたいだったからさ」

 

「はい、まぁ……って、そんなに困ってそうでした?私……」

 

「まぁね、結構わかりやすいくらいには」

 

 目に見えて落胆する少女にあははと苦笑を返しながら、出来るなら力になるよ?と唯は口を開いた。

 

「ね?」

 

「……まぁ、唯がそう言うなら」

 

「で、でも……」

 

「大丈夫、私たちもライブは初参加だけど、それなりに準備とかはしてきてるから、助けにはなれるよ?」

 

「気にしなくていいよ、私たちももう用事は済ませてるから、暇になった所だし」

 

「……ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて……えっと、実はどこに行けばいいのか分からなくて……ドームの中に入りたいんですけど」

 

「そっか、それなら丁度よかった」

 

「え?」

 

「私たちも中に入ろうと思ってたの、君さえいいなら、一緒に入場しよっか?」

 

 唯からの思いがけない提案に、少女は渡りに船といわんばかりにはい!、と返事を返した。さっきまでの困惑気から一転、元気一杯の返事に思わず笑みがこぼれる。

 

「じゃ、いこっか。……と、その前に自己紹介だね。私は日向唯、こっちは天海舞歌。よろしくね!」

 

「よろしく」

 

「立花響と言います!唯さん、舞歌さん、よろしくお願いします!」

 

 

────

 

 

「とんでもない偶然もある物だね」

 

「本当ですよ!座席のチケットがお二人の隣だなんて!」

 

「何か運命みたいだねぇ……あ、あそこでサイリウム売ってるよ」

 

「おぉー、やっぱりすごい並んでますねぇー……」

 

 立花響と名乗った少女を引き連れて、人ごみに押し潰されそうになりながらなんとか入場、中をぐるりと回った後、ライブの定番であるサイリウムを購入しようとその売場を探す。唯がそれを発見したが、そこにはやはりというべきか、結構な数が並んでいた。回りは早そうだが、それでも少し長く待ちそうに見える。

 

「時間まではまだ少しあるね……ここに並んで買う位なら問題ないよ」

 

「よかった、未来にこれは買っておいたほうがいいよって言われてたんですよね!」

 

 未来、というのは響の友達なのだろう、話を聞いた限りでは、友人と来る予定だった筈が急な用事が入って……まぁ、所謂ドタキャンだ。その友人と言うのが、彼女の言う未来という人なのだろう。名前の響きからして女性だろうか。

 そんなことを考えつつ、舞歌は早々と意気投合した響と唯の漫才染みた会話を聞いている。二人の会話は変に息が合っていて面白い。

 そのまま待つこと数分、思った以上の早さで列は進み、素早くサイリウムを購入することが出来た。店員の仕事の早さに驚きつつ、会計を済ませて代物を受け取る。

これを最後に回るところも無くなった三人は、いち早く席へ付くことに決めた。唯の案内で歩を進め、会場の中に入る。

 

「……わぁ……!」

 

 響が感嘆の声を上げる。舞歌も声すらあげなかったが、これがあの二人のためだけに用意されたステージと考えるとなんとも言えない気分にさせられる。ツヴァイウィングとはここまで……と。

 

「ライブが始まったらもっと凄いんだろうね、この会場を埋め尽くす程の人間が、たった二人に意識のすべてを向けて、熱中する」

 

「……いやはや、全く」

 

 恐ろしいものを敵に回しているな、と言った感じの舞歌の溜息に、唯も苦笑で答えた。

 

 

────

 

「……いよいよか」

 

 その姿は嗤う、後の惨劇を予感して。

 

「下準備は万全……後は座して待てばいい。すべては私に転がって来る……フフ」

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