戦姫絶唱シンフォギア ーそれは破壊の力ー   作:雪原

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原作前、ラストになります


爪痕は浅くなく

「…………」

 

 浮上した意識が真っ先に感じたのは、軽快なタッチで叩かれるキーボードの打鍵音だった。不規則なリズムで響くその音を聞き流しながら、寝起きの鈍い頭がゆっくりと動き出す。

 

(あの後……)

 

 あのツヴァイウィングのライブ。そしてノイズの襲撃、命を散らそうとする奏を助けるために賭けに出て、絶唱を使って奏の命を繋ぎ留めて、それで……

 

「気が付いた?」

 

 不意に掛けられた声、その方向に首を動かす。……それだけの動作でも、体が軋む感じがした。

 

「私、は……」

 

「ドームの外で待ってた私の眼の前に落ちてきたの、そりゃもうドカーンと。覚えてる?」

 

 そうだ、翼が奏に気を取られている内に会場を離脱したんだった。だけど絶唱の負荷に耐えきれなくなって途中で意識を失って、運良く唯の前に落下したのか。そしてそのまま回収されて、寮に運ばれた……

 

「なんとなく、ね……痛ッ」

 

「丸一日起きなかったんだし、まだ寝てなさい、とは言わないけど……暫くは身体中ガタガタかもねー」

 

 椅子に座ったままこちらを伺っていた唯は、くるりと椅子を回転させてパソコンに向き直る。カタカタと何かを打ち込んでいる様子だけど、ディスプレイに映る図面や文字数字なんかはちょっと私の理解が及ぶ所ではなかった。

 

「ギアからのバックファイアが凄いしフォニックゲインの流れもバラバラ。レーヴァテインにも相当負荷が掛かってたみたいだねー、現場は全く見れなかったけど、なんとなく分かるよ。……絶唱、使ったんでしょ」

 

「……ん」

 

 隠す理由もないので素直に頷く、顔で促す唯に私はあの会場で起こった一部始終を話した。

 

「そっか、私がいない間にそんなことが……」

 

 くるくるとペンを回しながら考え込むような動作をする唯。けれどそれも一瞬の事で、軽快に椅子から立ち上がると、そのペンでコツンと私の頭を小突く

 

「いたっ」

 

「日頃無茶させてる私が言うのもなんだけど、あんまり無理しないでよ」

 

「……ん」

 

 どの口が、と思ったけれど、心配掛けたのは事実、ここは大人しく頷いておいた。

 

「そういえば、唯」

 

「うーん?」

 

「二課の人とかは、来てないの?」

 

「どうして?」

 

「いや……奏に顔を見られたから、てっきりそこからバレてると……」

 

「あー……なるほどね、丁度良いし、舞歌が寝てた間の事、少し整理しようか」

 

 どうやら私が眠っていた1日で動きがあった様だ、椅子に座り直した唯はペンを指揮棒のように振りながら喋り始める。

 

「まずは今舞歌が言った事だけど……現状、私達の素性がバレた様子は見受けられません」

 

「どうして?」

 

「これは二課のデータベースにちょちょいっと侵入してわかった事なんだけど、奏さんはあのライブの後、目を覚ましていないようなの」

 

「そんな……!」

 

 絶唱のエネルギーを利用した治癒により、確かにあの時、奏は目前の死から生を取り返した筈だった、見えていなかった視界も回復していたし、心臓も確かに動いていたのに。

 

「かと言って死亡した訳でもなく、意識不明状態のようだね……現状、命に別状はない様子だから、そこは安心していいと思う」

 

 あそこの医療設備は下手な病院よりハイレベルだしね、と付け加えられた言葉に、ふっと胸を撫で下ろした。意識が戻らないのは不安だけど、それでも生きていてくれて良かった。

 

「……全く、随分奏さんに懐いちゃってまぁ。

さて、次に行こうか」

 

 切り替えるように唯が声を張る。椅子から立ち上がってテーブルにあるなにかを手に取ると、ん、とそれを私に差し出した。新聞のようだ。受け取ってバサリと広げてみると、1面にでかでかと写し出されているドームが目に入った。

 

「ツヴァイウィングのライブにノイズ襲撃、か。死者、行方不明者併せてざっと1万人……」

 

「今後もっと増えていくだろうけど……ね」

 

「……あの子は、響ちゃんは、生き延びることは出来たのかな」

 

「現時点でリストアップされている被害者の中に、立花響って名前は無かったよ。あくまで今の所はだけど」

 

「まだ、わからないか。生きていると信じたいけど……」

 

「それなりの重要人物ならいくらでも生死を掴む術はあるんだけど、さすがにまるっきりの一般人じゃ私でもね……さて、世間一般の認識するライブ会場での事故は、粗方把握したかな?」

 

 会話をしながら読み取った新聞の情報で大体を把握して、唯の言葉に頷く。よろしい、と言って、唯は再び椅子に腰掛けた。

 

「それじゃあ、ここからは表には決して出てこない、あのライブに隠された裏のお話」

 

「裏のお話……」

 

「そ。それには、私が追う影もがっつりみっちり関わっちゃってるって事」

 

 そう言ってキーボードを軽快に叩き、パチリと音を立ててエンターキーを押す。そうするとモニターの画面が切り替わり、中央に文字が表示された。

 

 

【Project:N】と……

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「まさか、絶唱を使って天羽奏を救うとは……レーヴァテインとその装者、思っていたよりもずっとやり手のようね」

 

「……レーヴァテイン?」

 

「そうよ、北欧神話にある武器の一つ……剣であったり炎であったり、他の武器と同一視されていたり、謎の多い存在ではあるのだけれど」

 

「……あんたなら、わかるんじゃないのか?」

 

「フフ……さて、ね。

ともかく、先日に私を覗き見しようとした不埒者と同一か、若しくは関係者か……どちらにせよ、計画を進める上で無視出来ない存在ではあるわ」

 

「あんたの計画……」

 

「前に言った通り、あなたの夢にも繋がることよ、叶えたければ……」

 

「あんたの手足になれっていうんだろう?……それで望みが叶うなら、あたしはそれでいい」

 

「いいわ……忠実な子は好きよ」

 

「……ッ」

 

「痛みだけが人の心を絆と結ぶ……仲良くやっていきましょう?クリス……」

 

「……」

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「…………」

 

 目が覚める。規則正しく流れる音、眩しい光、ぼーっと働かない頭が状況の把握を遅らせる。

すぐ近くには手術着を纏った人間が二人、何かをしている。鼻と口を覆うように何かが付けられていて、身動きは取れそうにも無かった。

 

「……ぅ……」

 

 声も上手く出ない。自分は何故こんな事になっているんだろう。混乱した頭はやがて落ち着き、意識を失う前の記憶が蘇ってくる。

 

――死なないで。

 

――生きるのを諦めるな。

 

……あぁ、そうだ。私は、あの時。

 

「……生き、てる……」

 

 また意識が途絶えそうになる、起きようにも起きれない、それならいっそ眠ってしまおうと目を瞑る。きっと私は途轍もない怪我をしたのだろう。それでも今、こうやって息をしている、命を放さないでいる。

 

(あぁ、私は幸せ者だ……未来……会いたいなぁ……)

 

 次に目が覚めたら、一番に視界に入るのがきっと涙目の親友なんだろうな。そう思いながら、また意識を手放した。

 

 

 

 

――

 

 

 

 

「……さて、大体の現状把握も済んだところで、これから私達が取る行動だけれども」

 

「これから?」

 

「そ、これから。ここで引き下がったら今までやってきたことの意味がないでしょ?舞歌にはまだまだ付き合ってもらうよ」

 

「……わかった」

 

「よろしい。とは言え、私達は学生だからね。あくまで生活の基準は学校、そこはしっかり一般学生やるとして……ね、舞歌」

 

「うん?」

 

「学生には勿論、ながーいお休み期間があるよね」

 

「冬休みとか、夏休みとか?」

 

「正解。冬休みはもう過ぎちゃったから……夏休み!」

 

「夏休み」

 

「ちょーっと、お出かけしない?」

 

「いいけど、どこに?」

 

「ふふん、それはなんと、海外!」

 

「海外?」

 

「アメリカ!!!」

 

「アメ……は、えっ?」

 

 

 

 

――舞台は2年後へ。




なんだかすっっっっっごい時間が掛かったきがするけどこれにて過去編終了となります(5年)

これは1期終わるころには次の次のオリンピック終わってそうだな?
持ってくれオラのやる気……
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