「ン……なんだぁ?こんな時間にどこでドンパチしてやがる。
どこぞの不良だか知らんが……いや、もしかしたら……仕方ねぇ、行ってみるとすっか」
──
──焔ノ一閃
ごう、と燃え盛った炎の斬撃がノイズを貫き、その身を炭に変える。息つく暇もなく、振り向きながら一閃。背後に迫っていた3体のノイズを真っ二つに斬り裂く。そしてそのまま正面のノイズに向けて走る。ノイズは当然のように両手のような触覚を伸ばして迎撃してくるが、舞歌はそれを屈んで回避。同時に下から触覚を斬り飛ばし、動きを止めること無くノイズの前面に躍り出ると、走った速度をそのまま生かした蹴りをノイズの腹に叩き込む。炭化するそれを確認する余裕すら惜しいと言わんばかりに、その場で地を蹴り飛翔。再び刀身を巨大化、炎を宿らせ『焔ノ一閃』を放つ。直撃し燃え上がるノイズを尻目に、空中で姿勢を整え高台に着地した。
眼下に広がるノイズ、その総数は戦闘開始時と比較すると3分の1程だろうか。中々な数を相手に立ち回った舞歌は体に溜まった空気を入れ替えるように深呼吸をした。
「唯、唯……駄目、か」
機能を停止している通信機は未だに何の音沙汰も無く、連絡を取ることは出来そうに無い。結局の所、このノイズ達を殲滅するしか道が無いと改めて認識した舞歌は、気合を入れ直す様にもう一度深呼吸し、ギアを構える。
そして、残りを斬る為に飛び降りようとした瞬間……
「遂に見付けたぜ、コソコソと嗅ぎ回る鼠野郎!」
「ッ!?」
唐突な第三者の声、弾かれた様にそれの出処を見上げる。そこには銀色の鎧の様な物を纏った人の姿。声からして少女だ、と舞歌が認識するのと同時に、その少女は空中へ飛び上がる。肩から伸びている鞭の様な形状の武装を振りかぶると、その先端から巨大な光球が生み出された。
「まずはゴミ掃除だ!そらよォッ!」
少女が叫ぶと共に光球を振り下ろす。放たれたそれは地上に残ったノイズ達の中心に落下し、着弾と同時に大爆発を起こした。
「……ッ、なんて威力」
高台にいた舞歌にまで届く強い爆風。その破壊力にノイズ程度ではひとたまりも無く、今の今までノイズが跋扈していたその場所は、クレーターの様に抉れた地面が残るのみとなっていた。
ノイズは居なくなった。しかし、それより何倍も厄介なものを引き付けてしまった様だ。
「レーヴァテインの装者……随分探したぜ」
「私を……?」
楽しげに少女は言い放つと、舞歌の立つ高台に向かって飛び降りてくる。警戒心を隠さない舞歌に向かい合う様に少女は立つと、不敵に笑みを浮かべて見せた。
同じ場所に立った事で、少女の姿がより鮮明に把握できる。鱗の様な形状の鎧、肩から伸びる鎖の様な鞭。そして先程の高威力の攻撃。
(唯に教えられた事と一致する、それじゃ、まさかこれが……)
「……ネフシュタン」
「ほーう?この鎧の事知ってんのか。って事は、勿論出自も把握済みって所か?」
「当然……その場に私もいたのだから」
「ハッ、そういやそうだったか……ま、そんなのはどうでもいいんだ。
レーヴァテイン……てめぇに用がある。大人しくあたしと一緒に来てもらおうか?」
ネフシュタンの少女が手を伸ばす、その手を取れば手荒な真似はしないと言う意思表示なのだろう、つまり、その手を跳ね除ければ……
舞歌は伸ばされた手を一瞥し、深く息を吐くと手に持つアームドギア、その刀身を真っ直ぐに突き付けた。
明確な拒絶、そう受け取った少女は、伸ばした手を握り締め、獰猛な笑みを見せる。
「そうだよなァ、大人しく付いてこられちゃあこっちも興醒めだ。
それじゃあわかりやすく……ブッ倒して引っ張ってくとするかァッ!!」
「ッ……!」
気炎を揚げながら、少女が鞭を振るう。一直線に伸びるそれを左にステップして回避、アームドギアの刀身に炎を宿らせ、それを斬撃として放つ
──焔ノ一閃
迫る斬撃に少女はもう片方の鞭を横に構えると、迎撃するようにそれを薙ぐ。衝突した斬撃は鞭の威力に屈しその軌道を真横に弾かれ、あらぬ方向へと着弾する。それならば、と舞歌は距離を詰めようと走り出す。瞬く間にアームドギアの攻撃範囲まで距離を縮めると、再び刀身に炎を宿らせる。宿った炎は先程の様に飛ぶ斬撃として放たれることは無く、そのまま少女に向かって放たれる
──火閃一刀
当たれば唯では済まない炎の斬撃。命中したように見えたそれは、引き戻された鞭によって少女の体に届く直前で防がれていた。防がれた刀身を素早く引き、再び斬撃。それも同じ様に鞭で防がれる。
(読まれている……それに、あの鞭。攻防一体とは厄介な……ッ!)
次の手を考える間も無く少女の反撃が飛ぶ。振るわれた鞭はアームドギアを上へ強く弾く。当然舞歌の腕も上がり、上半身、その右側はがら空き。それを逃さないと鞭が迫る。大人しく食らうつもりは毛頭無い舞歌は、咄嗟に身を屈めて横薙ぎの鞭をやり過ごす。
「ッハァ!!」
しかし、少女はそれを待っていたかのように屈んだ舞歌に向かっての蹴撃。迫る足に舞歌は回避は間に合いそうも無いと判断すると、その蹴撃を空いた掌でガシリと受け止めた。予想外の対応に驚く少女の隙を逃すまいと、地を蹴った舞歌は返すように少女に向かって蹴撃を放つ。少女は咄嗟に腕を出して蹴りを受け止めるが、それを予想していた舞歌はその体勢のまま唐竹割りの様にアームドギアを振り下ろした。
「ッく……そがぁッ!!」
振り下ろされたアームドギアを頭に受ける直前に空いた腕でなんとか防いだ少女は、がむしゃらに腕を振って舞歌の足と剣を振り払う。振り払われた舞歌は数メートル程離れた所に足を付けた。
(鎧の防御力と鞭の威力もそうだけど、彼女自身のバトルセンスも相当高い……やっぱり、生半可な相手じゃないか……)
「ギアの力に振り回されるペーペーかと思いきや、存外やりやがる……なら、これでどうだ!!」
叫びながら少女が取り出したのは不思議な形状をした杖のようなもの。それを掲げると、杖の先から光線のようなものが放たれる。身構えた舞歌だが、光線自体は適当な地面に着弾。しかし、そこから予想外の物が現れた。
「……ノイズ!?」
本来、自然現象的に発生するのがノイズの習性。しかし、このノイズは明らかにあの杖によって呼び出された存在。舞歌は以前に唯に聞かされていた話を思い出す。
曰く、ノイズを自在に呼び出す聖遺物が存在していて、米国政府に保管されていたそれを譲渡された何者かがいる。
「そうか、ソロモンの杖……!」
「コイツの事も知ってるのか、物知りな奴だ」
「既に起動しているとまでは、知らなかったけど」
「こいつを使った以上、もう時間は掛けねぇ。あたしも全力で相手をしてやる。
行きな、塵芥共!」
形様々なノイズが少女の声に反応し、舞歌に向けて進軍を開始する。数は多くても所詮はノイズ、と普段なら高を括る事も出来たが、今はそんな余裕も無い。見れば既に光球を生み出して今にも投げ飛ばそうとしている少女の姿がある。
「どう考えても状況は悪いけれど、なんとかするしかないか」
未だ通信は繋がらず、少女の戦闘力から考えるに逃げることも厳しいだろう。ノイズがいるなら尚更。それでも、潔くやられるつもりだけは毛頭無かった。
(戻ってきてね、って言われたからね)
「……さぁ、もう少し頑張ろう。レーヴァテイン」
呟くような舞歌の言葉に、レーヴァテインが誰にも気付かれないような一瞬だけ、薄く赤い光を灯していた。
──
どうせ大したことは無いと、この完全聖遺物の手にかかればあっという間に片は付くと、そう思っていた。
慢心と言われればそうだろう。しかし、そう思うのも無理は無いほどの力がこのネフシュタンにはあった。過信でも何でも無く、自分は戦いに長ける能力があると自覚していた。それが好ましいかはともかくとして。
(なのに、何でだ!?)
初手の打ち合いは完全に互角だった、無論こちらは全力ではなかったけれど、それは相手もそうだったかもしれない。たらればの話をすればキリがないが、圧倒するつもりで挑んだ結果があれだったのは事実。
ならば、とソロモンの杖を持ち出し、自身も油断を捨てて全力で望むことした。ノイズを召喚してしまった以上、特機部二に察知されるのは時間の問題だからだ。
それがどうだ、あの装者はまだ健在じゃないか。
ノイズを利用しての攻めは効果を発揮し、着実にレーヴァテインを追い詰めつつあった。
そう、追い詰めつつあるという程度に落ち着いてしまってるのだ。
こちらは無傷、相手は確実にダメージを負ってきている、今だって、振るった鞭がノイズ諸共レーヴァテインの横腹を薙ぎ、吹っ飛んだ先で壁に激突していた。
(いい加減にこれで……)
それでも、レーヴァテインの装者は倒れる事はなく、ギアを支えにではあるが立ち上がってみせる。
(ウソだろ!?今のは完全に入ってたじゃねぇか!!)
「くッ……まだ立ち上がるってのか!?戦力差は明らか、お前はもうボロボロだ!なのに……」
「敵の……心配、してくれるの?」
「な……」
「ふふ……意外と、優しいんだね」
「はァッ!?」
顔が赤くなるのを感じる。それは明らかに羞恥からで、そしてそんな反応を返すということは少なからずそんな意思が自分の中に芽生えていたという証拠でもあって。
「まぁ確かに、このまま倒れればこれ以上傷付くことは今の所は無いかもしれない」
世迷言を、と断じようと開いた口は、レーヴァテインの装者が静かに語り始めた言葉に行き場を無くすように閉じられる。
「それでも、何だろうね……戻ってこい、と言われたからなのか……
いや、違う、なんとなくだけどそうじゃないような気がする」
「あァ?」
「上手く言葉に出来ないけど……私の中の何かが、負けるなと言っている気がするんだ。
だから、私はここで倒れるわけにはいかない。あなたを突破して、あの子の所へ帰らないといけない」
「訳の分からねー事を言いやがる!いいさ、そんなにぶっ飛ばされてぇなら存分に……」
『クリス』
「ッ!?」
激高しながら振り上げた鞭は、突然脳内に響いた声にピタリと静止する。怪訝に首を傾げたレーヴァテインの装者を尻目に、唐突な念話の主に声を荒らげた。
『何だよ!今忙しいんだ、あんたの言ってた装者を追い詰めてる所なんだぞ!?』
『熱くなってるのね、珍しい事。
けど残念、時間切れよ。風鳴翼がそちらに向かっているわ』
『……!クソ、時間をかけ過ぎちまったか!』
『接敵までそう時間は無い。レーヴァテインの装者は惜しいけれど……ネフシュタンを見せるのはまだ早いわ。
今は大人しく退きなさい、いいわね?』
『……ああ、わかったよ。だいぶ頭も冷えた』
『いい子ね、それじゃ』
聞こえなくなった声から念話が切れた事を確認すると、身体に滾ってていた熱を吐き出すかの様に大きな溜息をついて、両手の鞭を収める。
「時間切れだとよ、運が良かったな」
「時間切れ……?」
「次は逃さねぇ、首でも洗って待ってなよ。アウトローの装者さんよ」
そう言い残すと、少女はふわりと宙に浮き、そのまま空を飛び撤退していった。その姿が見えなくなったのを確認して、舞歌は堪えきれないといった様に尻餅を付く。
「はぁ……助かった、って事なのかな」
『……か、舞歌、聞こえる?』
「唯?」
『ああ、良かった。急に通信できなくなっちゃって……取り敢えず、至急そこから離れられる?
状況はよくわからないけど、翼さんがそっちに向かってるみたい。すぐ動かないと接触しちゃう』
「翼さんが……ま、これだけ暴れればそりゃ見つかるか……」
『暴れる?やっぱり何かあったんだね』
「ま、その話は後で……」
『おっけー、取り敢えず安全圏まで距離を離したら知らせるから、そこからはギアを解除して帰ってきてね』
「了解……」
ギアを支えにして再び立ち上がる。出血もあるし身体の節々も悲鳴を上げているが、この場から離れる程度はなんとかなりそうだ。そう判断すると、必要なくなったアームドギアを収納し、現場を離れるために走り出した。
──
舞歌がその場を後にしてから数分後、戦闘の爪痕が残るその場に翼がギアを纏った姿で到着する。確認するように周囲を見回すが、そこに人の姿は既に無く、どうやら一手遅かった様だと判断した。
「……司令、現場に到着しました」
『そうか、状況はどうだ?』
「やはり何者かが戦闘を行っていたようです、ノイズが炭化したと思われる炭と……地面にクレーターの様な爆発痕が。壁には斬撃で付いたような傷もあります」
『うむ……ただの人間が生み出せる状態では無さそうだな』
「やはりシンフォギアの装者でしょうか?」
『アウフヴァッヘン波形を感知出来なかったのが不思議ではあるが、そうと思う他あるまい』
通信をしながら翼は、何気なく壁に付いた斬撃痕に触れる。
「……温かい?熱を……まさか」
『どうした、翼?』
「レーヴァテイン……」
『レーヴァテイン……だと?』
「可能性はあります。シンフォギアとして稼働していて、今も所在がわからないのはアレだけですし……」
『2年もの間姿を見せなかったレーヴァテイン……この国から離れたかとも思っていたが……状況は把握できた。後の処理はこちらでやっておく。とんぼ返りで悪いが、翼はこちらに帰還してくれ』
「了解。これより帰還します」
──
『……で、結果は』
「兆しアリ、って所?二年前に一時的に活性化してからは鳴りを潜めていたけれど、今回の一戦でまた反応を見せたみたい」
『ほう……となると、第一種適合者との接触が鍵か?』
「それもあるけれど……一番大きなファクターはやはり装者本人であると推測するよ。
二年前の活性化も、風鳴翼よりは天羽奏との接触が大きく作用したようだし」
『なるほどな、担い手の意志に呼応する……腐ってもシンフォギアということか。
しかし、あまり悠長にもやっていられん。事を起こすにはまだまだと言った所だが……何年も待てるものでもない、覚醒の兆し程度で終わってもらっては困る』
「そこら辺はあまり心配していないよ。ネフシュタンの鎧に新たなガングニール、二年の時を経て再び姿を見せたレーヴァテイン……何かが起きるには十分すぎるほど、状況が動き始めている」
『運頼みなのが気に入らんがな。より盤石に事を運ぶためにこちらから手出しはできん、しくじるなよ』
「わかってる、そっちはそっち、こっちはこっちでね」
翼さんあっちいったりこっちいったり忙しそう……一体誰がこんな重労働を……