戦姫絶唱シンフォギア ーそれは破壊の力ー   作:雪原

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剣と炎

──────♪

 

夜、星が瞬く戦場に凛と渡る風鳴翼の歌と共に、ノイズが次々と炭に変わっていく。

逆羅刹の体勢から戻った翼は、未だかなりの数を残すノイズに顔を顰める。

いつも共に戦ってきた奏は今回、別方面に出現したノイズの対処に当たっていて、この場には翼一人しかいないのだ。

叔父である弦十郎からは無理と感じたら撤退しろと言われてはいるものの、それは奏と共に立ち、共に戦うことを誉れとする翼にとってとても容認出来ない事でもある。

アームドギアである剣を片手に、気を落ち着かせようと深く息を吸い、吐く。

苛立ちの募り始めていた頭は冷静に冴え、戦場を見渡す余裕を与えてくれた。

自身の周囲、後方を覗き取り囲むノイズは愚直に突っ込んでくるタイプの物もいれば、房に付いた実のようなものを飛ばしてくるタイプのノイズ、大型のサイズのノイズも確認できる。

冷静に考えてようやく気づいた事だが、どうやら自分は多い方を引き当ててしまったらしい、と戦意を滾らせる顔、口元が僅かに弧を描く。

しかし、負けるわけにはいかない。

痺れを切らしたように突撃してくるノイズ、中断していた歌唱を再開しつつ、構えた剣で迎え斬る。

機を窺うように迎撃に専念し、猛攻が途切れる一瞬の隙、そこを付き、高く跳躍。

眼下に群れるノイズを見据えて、剣を持っていない方の腕を勢い良く横に振る。

直後、呼応して翼の周囲に無数の刀剣が現れ、ノイズへ目掛けて雨の様に降り注ぐ

 

───千ノ落涙

 

剣の雨に貫かれたノイズは次々に炭へと姿を変え、数を減らしていく。

更に、重力に従い落下を始めながらも、駄目押しを掛けるかのように、剣を巨大な物へと形を変え、纏わせた強大なエネルギーを一閃として放つ!

 

───蒼ノ一閃

 

地面ごと斬り進む一閃は、直線状にいたノイズを一瞬で炭へと変えた。

それを見届けて、体勢を整えつつ着地する。

 

「……これでも、まだ半分……ッ!」

 

千ノ落涙、蒼ノ一閃でかなりの数を減らしたノイズだが、それでもまだ数は残っている。

自身の体力が尽きるのが先か、ノイズを殲滅するのが先か。

 

(とにかく今は、ノイズを倒すことだけを……はッ!?)

 

迫るノイズを一刀の元に切り捨てた翼だったが、その先に見えた光景に絶句する。

炭素分解していくノイズの真後ろに、実を発射した葡萄ノイズの姿が見えたのだ。

 

(駄目、間に合わない!)

 

跳躍、防御、回避、どれも到底間に合う距離ではない。この一撃だけで死にはしないだろうが中々のダメージは受けてしまうだろう。

何も出来ないまま、実が直撃しようとした瞬間───炎が、迸る。

 

───火閃一刀

 

「ふぅ……ッ!」

 

翼の目の前で赤い剣の煌きが奔り、実が燃えて消える。

唖然とした翼を置いてその姿は駆け走り、次々とノイズを斬って進む。

間を置いて気を落ち着かせて、翼は初めて見る自分と奏以外のシンフォギア装者を目に焼き付けた。

 

 

 

────────

 

 

 

走る足を止めること無く、ノイズを斬り、突き、燃やす。

身に纏ったレーヴァテインと一つになり、思いのままに剣を振るう。

 

『いやぁ、万が一にって顔隠し様の仮面を渡しといてよかったよ』

 

通信機越しに聞こえてくる唯の安堵の声には答えず、葡萄のような形をしたノイズを燃やし斬る。

最中、沈黙を保っていた風鳴翼の方に目を向けると、落ち着きは取り戻したようだがこちらを眺めて、舞歌の姿を覚えようとしているように見えた。

 

「呆けない」

 

「ぁ……え、ええ」

 

舞歌の咎める声にはっと気づいた翼が、剣を構えなおす。

一人では梃子摺ったノイズも、二人になればかなり余裕が生まれる。

猛攻に晒されて歌唱が乱れることも無ければ、体力の消費も抑えられる。

途中参戦故にコンディション万全な舞歌が前を突貫しノイズを翻弄、戦闘が長続きし消耗がある翼が後方から千ノ落涙や蒼ノ一閃で一網打尽にする。

初対面で急場凌ぎのコンビネーションと言えど、それぞれの役割を把握した二人の行動はしっかりと効果を表していく。

大勢のノイズは瞬く間に炭へと変わり、最後に残った大型を翼が蒼ノ一閃で真っ二つに分解し、その場には装者二人が残るのみとなった。

 

「これで全部ね」

 

周囲を策敵してもノイズの姿は無い。全滅を確認した舞歌はアームドギアを仕舞う。

翼はその手のアームドギアを握ったまま、眼前の舞歌をじっと見つめる。

仮面で隠した顔、謎のシンフォギア。武装を解除するには不安要素が多すぎるのだ。

 

「…………そんなに見つめられると困るわ」

 

「敵の敵は味方、と言う訳ではないのでしょう?」

 

『翼!』

 

「司令」

 

剣呑な雰囲気になりつつある中、翼に弦十郎からの通信が入った。

気を割いて良いか迷ったが、あのシンフォギア使いは動きを見せていない、視線は反らさずに短く返事を返す。

 

『状況はこちらでもモニターしている。今奏がそちらに急行中だ、俺も現場に向かう。そいつを逃がすなよ!』

 

「了解しました」

 

弦十郎が来る。相手がノイズでなければこれ程安心感を感じる言葉はない。

何せ生身の身でありつつもシンフォギアを纏った翼や奏より遥かに強いのだ。具体的には震脚でコンクリートを粉々に砕き散らしたり、十階建てのビル程度ならひと飛びで屋上まで届いたり。

とにかく人間じゃない。

 

「……手荒な真似はしたくありません。ご同行を」

 

舞歌は仮面の下で表情一つ動かさず沈黙する。

翼にはそれが不気味な物に見えて、だが不思議な違和感も感じていた。

 

「……それは、……」

 

「……?」

 

何かを言いかけて、また沈黙する。

 

「……指示を」

 

舞歌は当然この状況を見ているだろう唯へ、それが当たり前の様に問い掛けた。

 

『ったくもう……今二課に連れてかれちゃうのは私としてはNG、今回は翼さんが危なかったから手出しちゃったけど、これも本来予定に無いしね。

だから取り敢えず逃げて、追撃してくるなら相手を傷付けないように往なして』

 

「わかった」

 

「……返答を」

 

痺れを切らした翼の催促に、舞歌はくるりと背を向ける。

 

「要求には応じられないわ。あなたを助けたのだから、見逃してくれない?」

 

「痛いところを突く……しかし、そうもいきません。

繰り返します、ご同行を」

 

「ごめんなさい」

 

「……では、無理矢理にでも来て頂きます!」

 

明確な拒否、説得は不可と判断した翼はアームドギアを構える。

実力行使、察知した舞歌は、シンフォギアの身体能力を活かして脱兎の様に駆ける。

しかし走り始めた直後、進行方向から無数の刀剣が迫るのを視認した。

 

──千ノ落涙

 

「……!」

 

予想外の手に面食らう舞歌。しかし、レーヴァテインの一振りならば、自身に害をなす刀剣だけを切り払うのは容易い。

再びアームドギアを取り出し、刀身に炎を宿らせ、走る速度を落とさずに、袈裟に振るう。

 

──焔ノ一閃

 

刀身に宿った炎は翼の蒼ノ一閃の様にエネルギーとなって斬撃と化し、刀剣を蹴散らしていく。

千ノ落涙の間を抜けそのまま走り抜こうてした刹那、進行方向上空よりいつの間にか移動したのか、翼が巨大化した刀身にエネルギーを宿らせていた。

 

「天羽々斬の機動性……舐めて貰っては困る!」

 

──蒼ノ一閃

 

「ちッ!」

 

蒼ノ一閃は正面上空から放たれている、速度から考えるに潜り抜けるのは不可能に近く、走るのを中断し横に飛んで回避するしか選択肢は無かった。

 

(唯には傷付けるなと命令されている。

風鳴翼と戦わずにこの場を離脱する方法は……)

 

周囲を見回した舞歌の視界にあるものが映る、閃いた舞歌はそれを掴み取り、再び離脱する為に走り出す。

 

「懲りずにッ!」

 

着地した翼が走り出す舞歌を迎える様にアームドギアを構える。

対する舞歌もアームドギアを構え、進路を変える様子も見せず駆け走る。

距離はあっという間に縮まり、攻撃せんと天羽々斬を振るおうとした翼の顔は、舞歌の取った行動を見て驚愕に染まった。

 

「なッ!?」

 

舞歌が片足をブレーキに急停止、そして先程掴み取った物……ノイズのなれの果て、握っていた炭を翼の顔に投げつけた。

当然、攻撃してくるとばかり思っていた翼にこの奇襲を回避する余裕など与えられる筈もなく。

 

「くあッ!……目潰しとは、小癪な真似を……!」

 

一瞬で視界を潰された翼は顔を手で覆い、思わず膝を突く。

舞歌は翼の後ろに回り込み、レーヴァテインの柄で翼の首を打つ。

 

「……ま、まて……!」

 

急激におちていく意識の中、翼は手を伸ばす。

その先の舞歌はアームドギアを仕舞い、逃げ出そうとして、止まる。

 

「……レーヴァテイン」

 

「な、に……?」

 

「またね」

 

自身の纏うシンフォギアの元となった聖遺物。それを翼が聞き取り、気絶したのを確認、再び走り出す。

舞歌の逃走を邪魔する者は現れず、そのまま街の中に消えていった。

 

 

 

────

 

 

 

「……さ、翼!」

 

誰かが自分を呼ぶ声が聴こえて、翼は薄らと目を開けて、感じた痛みにきつく目を瞑る。

 

「よかった、起きたか、翼」

 

「かな、で……?」

 

「ああ」

 

寝ていた体を起こして、ソファーに背を預ける。

いつの間に移動したのか、二課の指令室に戻っていたようだ。

 

「心配したぜ、翼がやられたって言うからさ。ま、気絶させられただけで怪我は無いらしいぞ」

 

「そっか……ぅ、いたっ……」

 

「大丈夫か?目を良く洗った方が良い、目潰しをもろに食らったようだからな」

 

そう、確かにあの時、斬りかかって来るとばかり思っていた思い込みを突かれ、目潰しという攻撃に対応出来なかった。

痛む目は自分の甘さの代償なのだろう。

 

(次は必ず……)

 

「……翼?」

 

心中決意を新たにしていた翼に、奏が声を掛ける。

「大丈夫」て翼は返し、起き上がって指令室を出ようとする。

が、思い出したかのように立ち止まった。

 

「……レーヴァテイン」

 

「何?」

 

「あの装者が言っていました。レーヴァテイン、と」

 

そう言って翼は出ていった。

レーヴァテイン、よくわかっていない奏は首を傾げているが、二課の司令官たる弦十郎にはそれが何か、考え付くのに時間はいらなかった。

 

「レーヴァテイン……ラグナロクの際にスルトルが振るったとされる剣、か。

と言う事はあれはレーヴァテインから生み出されたシンフォギアなのか……了子君に報告しなければな」

 

 

 

──────

 

 

 

『……なんでバラしちゃったの?』

 

「……何でだろう、わからない」

 

唯の咎めるような声に、目を瞑ったまま静かに答える。

表面上は静かでも、舞歌の心中は少し荒れていた。自分の取った行動に。

あんなことは、唯にやれと言われていない。

 

『ま、いいけどね。聖遺物がバレた程度じゃどうってこと無いだろうし』

 

「ごめんなさい」

 

『自分で判断して行動した舞歌を見れたんだから、代償としては軽いもんだよ』

 

基本、舞歌は行動指針を他人に委ねる傾向が強い。

唯に出会う以前は舞歌のみが知る事だが、少なくとも唯が舞歌に初めて出会った時から、その特性は変わっていない。

 

「私が、自分で……ね」

 

『やっぱりシンフォギアを手に入れてなにか心境の変化が?』

 

「…………、……………………さぁ?」

 

『はい、聞いた私が馬鹿だった。

二課も追ってきてないみたいだし、戻ってきて。

ふらわー……は無理か。適当に作るから一緒にご飯食べよ』

 

「わかった」

 




『焔ノ一閃』

風鳴翼の技、『蒼ノ一閃』の舞歌版。
アームドギアの刀身に込めたエネルギーを炎熱属性を持つ斬撃に変換し、上段からの振り下ろしにて放つ技。
斬撃としての威力は『蒼ノ一閃』に劣るものの、炎熱の斬撃は着撃と共に周囲へと拡散し、複数の敵に攻撃を加える事が出来る。

『火閃一刀』

『焔ノ一閃』を発する際に刀身に込めるエネルギーをそのまま維持し、直接攻撃で込められたエネルギーを叩きつける技。
凝縮された力と、舞歌自身の剣術技能によって高い攻撃力を誇る。
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