戦姫絶唱シンフォギア ーそれは破壊の力ー   作:雪原

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交差する思惑(前)

 ノイズの発生現場には、走って数分で到着することが出来た。

 周囲には既に人影は無く、建物の前や歩道、道路に炭が纏まって落ちているのみ。どうやら何人かは既に犠牲になってしまったらしい。

 しかしノイズ自体は未だその場に残っている様子で、今でも建物の陰に隠れた舞歌のすぐそばをノイズがゆっくりと歩いて行った。

 

「……結構、多い」

 

 陰に隠れて確認する限りでも、ノイズはかなりの数がいた。地上型が殆どだが、空を飛んでいるタイプも数体確認出来る。

 物陰に隠れる舞歌の上着のポケットが揺れる。中に入っていた携帯を取り出して、通話ボタンを押して耳に当てた。

 

『こっちはもう大丈夫、そっちはどう?』

 

「……かなりの数のノイズがいる。この前とは比べ物にならない」

 

『……やれる?』

 

「やれと言うなら、やるよ」

 

『…………じゃあ、お願い。もしかしたら尻尾が掴めるかもしれない……あ、仮面忘れないでね』

 

「勿論」

 

 通話を切って、胸のペンダントを撫でる。

 

「行こうか、レーヴァテイン」

 

 物陰から飛び出す、ノイズが気付くが、もう遅い。

 すうっと息を吸う、後はただ、唄うだけだ。

 

「inyurays laevateinn tron……」

 

 静かな空間に凛とした聖詠が鳴り渡り、舞歌を光が包む。私服が何処かへ消え去り、代わりに纏うのは赤い戦闘衣。レーヴァテインのシンフォギア。

 その名の通り身体にノイズが走っていた敵は、レーヴァテインに調律され位相を固定される。

 後はただ、ノイズを殲滅するだけ。アームドギア……赤い刀身の剣をその手に持って、舞歌はノイズの群れに向かって突っ込んで行った。

 

 

 

────

 

 

 

「ああ、此方でも確認した、今、翼と奏を……何ッ!?」

 

 場所は変わって舞歌と唯の二人が先程までお邪魔していた風鳴家。

 二課からの緊急通信に対応する弦十郎を尻目に素早く準備を済ませ現場に向かおうとした奏と翼の二人だが、聞こえて来た弦十郎の驚愕する声に足を止める。

 彼の表情からして不味い事が起こった訳では無さそうだが……気になった奏が振り向いた。

 

「分かった、モニターしておいてくれ、すぐに奏と翼を向かわせる」

 

「ダンナ、どうかしたのか?」

 

「……例の奴が現れた」

 

「例の奴……まさか、レーヴァテインのシンフォギア!?」

 

「そうだ。既に戦闘を開始している事から、俺達に連絡が入る前にノイズの出現を感知し、現着。そのまま戦闘に入ったのは間違いない」

 

 まさか、二課より早い対ノイズの行動等、と二人は驚愕した。それもその筈、特異災害対策機動部、その二課は対ノイズ戦に特化していると言ってもいい存在だ。現状、二課より素早く行動できる組織は存在しない。

 ……現実は、ただ単に近場にいたからと言う全く単純な理由である。とは、今の二課側が知る筈もなく。

 

「とはいえ、出現したノイズは今までより数が多い、レーヴァテインのシンフォギアのみでは処理しきれない可能性が高い。

装者達は至急、現場に急行だ!」

 

「了解」

「分かった!」

 

 

 

────

 

 

 

『舞歌、聞こえる?』

 

「……唯」

 

 戦闘開始から数分、淡々とノイズを殲滅する舞歌の耳に唯からの通信が入る。邪魔をするノイズを両断し、周囲に警戒を払いながら通信に耳を傾けた。

 

『風鳴邸の方向から反応2つが接近中。ガングニールと天羽々斬』

 

「わかってはいたけど……早いね」

 

『本当にね。お役所だから初動は遅れると思ってたけど……フットワークは軽いみたいだ』

 

「どうするの?後は任せて退く?」

 

『…………』

 

 通信越しに聞こえなくなった唯の声に、おや、と首を傾げた。

 いつも唯の指示には考える時間は存在せず、即決で指示が飛んでくる。しかし今回は、珍しく悩んでいる様子だ。考える唯を邪魔しないように舞歌は沈黙する。

 

『……戦闘を継続して。ガングニールと天羽々斬が来てもノイズを優先、向こうもノイズを殲滅するまでは手は出して来ないと思うから。その後はまた指示を出すよ』

 

「わかった」

 

 通信を切り再びノイズに対峙する舞歌。眼前の敵に斬りかかろうとした所で、上空から飛来する何かに気が付いた。

 

「あれは……竜巻?」

 

 竜巻のような風のうねりはノイズに向かって一直線に伸び、その威力でノイズを凪ぎ払っていく。竜巻が来た方向に目を凝らすと、2つの人影が降りてくるのが見えた。

 ガングニールと天羽々斬。風鳴翼と……

 

(…………やっぱり、か)

 

「……奏」

 

 地上に降りた二人と視線を交わす。最も、仮面に隠された舞歌の顔を見ることは出来ない。

 風鳴翼が天羽々斬の装者ならば、彼女の相方である天羽奏がガングニールの装者なのではないか……想像はしていたが、やはりと言うか、何と言うか。

 

「数が多いな。それに……あいつがレーヴァテインか」

 

「奏、先ずはノイズを」

 

「ああ、その後であいつから話を聞くとするか!」

 

 二人が左右に別れてノイズに突撃する。それがわかっていたかのように、舞歌もそれを目で追うに留めてノイズの群れに向かって走り出した。

 現状、ノイズの総数は舞歌によって出現時よりは減少している物の、未だその数は場数を踏んでいるツヴァイウィングさえ思わず息を呑んだ程である。

 時間の経過により自然消滅するのがノイズの特性とは言え、それまでの間に更なる犠牲者を出すわけにはいかず、またツヴァイウィングの二人には対ノイズに置けるシンフォギアの有用性を永田町の偉い方に示すと言う目的も存在する。

 故に数の不利で退く訳にはいかず、また三人ともその程度で怯むような性格はしていないのだ。

 

──♪

 

 戦場に鳴り響く奏の歌をBGMに、舞歌と翼が斬り、奏が槍で突く。 無数のノイズが瞬く間に炭へと変わっていき、あっという間に戦局は覆る。

 

「──奏!」

 

「ああ!」

 

 翼が名を呼ぶ、それだけで意図を把握した奏が大きく跳躍し、ビルの上に着地。

 全く同じタイミングで向かい側のビルに着地した翼と頷き合い、最後に残った眼下のノイズの群れを睨み付けた。

 

「纏めて仕留めてやるッ!」

 

 奏がアームドギアを振りかぶり、投擲。投げられたアームドギアは空中で無数に分裂し、同じタイミングで翼が放った無数の剣の雨と共に、ノイズを纏めて一気に殲滅する。

 

──STARDUST∞FOTON

──千ノ落涙

 

「やったか……?」

 

「……いや、少し残ったみたい」

 

 着弾の煙が晴れた先には、僅かに残るノイズ、雨の範囲から外れたようで、何体かが蠢いていた。

 

「あれくらいなら、直接……」

 

「──いえ、結構」

 

 不意に掛けられたその声(マシンボイス)に、二人がその方角を見上げる。

 

「降りると、巻き込まれるわ」

 

──焔ノ一閃

 

 いつの間にか二人のいるビルの更に上へ飛び上がった舞歌が、巨大化した刀身から炎熱の斬撃を放つ。着弾したそれは瞬時に炎となって周囲に拡散し、残ったノイズを纏めて焼滅させた。

 

「あいつ……あたしらが討ち漏らすことを考慮してたのか」

 

 奏の言葉通り、舞歌は二人の攻撃と同時にビルへ飛び上がり、さらにそこから空中へと飛び上がって、二人が仕留めきれなかった残りを排除するつもりでいた。

 考えが的中した舞歌は焔ノ一閃で残りを始末し……そのまま奏が立つビルへ着地する。

 舞歌と奏、二人が相対する。

 

「……あんた、何者なんだ?」

 

「…………」

 

 奏が舞歌に問い掛ける、訝しげな奏に対し、舞歌の表情は仮面によって隠され、見える事は無い。

 隣のビルから翼が飛び移り、奏と翼で舞歌を挟むように陣取る。逃げ道を塞ぐつもりだ。と何処か他人事のように舞歌は考える。通信を通しての指示は無い、唯は未だ沈黙している。

 

「じゃあ、質問を変えるか。……あんた、何で戦ってんだ?」

 

 奏の質問が、仮面の下にある舞歌の表情を揺らす。意図していなかった質問なのか、それともその質問そのものに、舞歌の心に刺激を与える何かがあったのか。

 

「……単純な事。そうしてくれと言われたから」

 

「……そうか、成る程な。だからあんた、歌ってないのか」

 

「歌…………?」

 

 納得がいったように頷いた奏、その様子に舞歌のみならず挟んで向かい側にいる翼も首を傾げた。

 

「いや、これはあたしが勝手に抱いてた疑問だ、気にすんな。

……こっからは本題だ。あたしたちと一緒に来てくれないか」

 

「…………」

 

「武器を持ったままのあたしらが言っても信用出来ないかもしれないが……こっちは別にあんたを拘束しようとか、危害を加えようって訳じゃないんだ。ただ、そのシンフォギアについて話を聞きたいだけなんだよ」

 

「…………保証は、ない」

 

「私達の直属の上司は信頼できる方です。決してあなたを悪いようにはしません。……同行していただけませんか」

 

 ここまで言い切るとなるとどうやら話を聞きたいだけと言うのは本当かもしれない、と舞歌は少し拍子が抜けたような気分になった。とはいえ、上司のそのまた上司はわからないが、とも思いはしたが。

 

(……唯、まだ?どうすればいいか、わからない……)

 

 未だアクションを起こさない、いや、起こせない舞歌、理由は単純、唯の反応が全く無いのだ。行動の全てを唯に依存している現状ではこういった時に動きに詰まる。わかってはいたのだが。

 

『…………舞歌!』

 

「ッ!」

 

 繋がった!と通信先でほっとしたような唯の声が聞こえた。思わず舞歌の口から安堵したような息が漏れる。

 

『ごめん、通信妨害が掛けられてたみたい、破るのに少し手間取ったけど…………これは逆にチャンスになり得るかも』

 

「どういう事?」

 

『尻尾が掴める……まではいかなくても、見える程度まではいくかもってこと。……さて、指示を出すよ』

 

「ん」

 

『といっても単純な話なんだけどね。同行は勿論拒否。そして今回は逃げないで一戦交えて欲しいんだ。出来れば戦いを長引かせるように』

 

「…………わかった」

 

『あの二人相手に難しいかもしれないけど、お願いね』

 

 通信が切れる。唯の言う通り難しい事だ、奏の実力はよくわかっていないがノイズ相手に平然と立ち向かい、翼とコンビネーションを取れているならば相応の実力の筈。翼に関しては生身なら互角、しかしギアの戦いでは経験から向こうに分があるのは確かだ。

 加えて此方……舞歌には、奏の言った通り、歌が無い。

 シンフォギアには欠かせない、その力の源となる歌が。

 

(私がレーヴァテインを纏い始めてから、今まで1度も歌えていない……奏は知っているのかな、その理由を)

 

 先程交わした問答の中に答えがあったのだろう。心当たりが無いわけではないが、今はその事を考えている時では無いだろう。

 

「同行は、出来ない」

 

「……理由を、聞かせていただけませんか」

 

「そう、言われたから。貴女達には、ついていくなと」

 

(言われた……先程も同じ事を。……なら、レーヴァテインに命令を下す存在がいる……?)

 

「……そうか、だけど悪いな、大人しく帰す訳にもいかないんだ。だから少しだけ……痛い目にあってくれ」

 

 奏が槍を構える、舞歌の後方で翼も剣を構えた。先ずは戦闘に入ると言う段階をクリア。次は出来る限り戦闘を継続させること。

 

「……自信は無いけど……やってみる」

 

 レーヴァテインのギア……赤い剣を片手に構え、走り出した。

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