アリス・ギア・アイギス 影道化師の辻芸   作:NAIADs

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Ep.03 バウンティ・ハント

「はぁ…」

最初の任務を見事に成功させたというのに、職場の空気は最悪だった。

理由は成子坂製作所が叢雲工業に買収という最悪のニュースが飛び込んできたから。

正に寝耳に水の事態だった。

うーむ、流石東京シャード最大手だな。資金力もアクトレスの数も質も違う。

一方こちらはアクトレスが3人(正確には5人)しか居ない零細企業。

調べてみたら累積赤字や借入金も結構な額だった。

こりゃ早急になんとかしないと、潰れるのが先か買収されるのが先か分からんぞ。

さて、どーしよう?

ゆっくりと夜露を育てるつもりだったんだが、難しいかもしれんな。

そんな夜露がテレビに見入っている中、文嘉とシタラが買収の話で軽く言い争っている。

そりゃそうだろう。

大人の俺だってどうなるか分からなくて不安なのだ。

それを高校生に背負わせるにはちょっと重すぎる。

「どうするかな…」

「えっ、入社していきなりクビになったりするんですか!?隊長!」

「分からんよ、俺は来たばっかだぞ」

「ええっ、そんなぁ!」

夜露には悪いが、本当にわからないの一言に尽きる。

買収が噂されるほど業績がヤバいのならば、なぜそんな時に俺を採用したか?という話になる。

そういうプロなら兎も角、アクトレスの指揮に関してはド素人だというのに。

アクトレスを兼ねるのに丁度いいと考えているのだろうか?

本当にここの所長の考えは読めないな。

彼女らはここの古株である磐田整備長に同じ質問をぶつけるようだが、恐らく彼の返答は俺と同じだろう。

 

「はぁ…」

さてと、どうするか考えないと。まぁ、分かりきっているんだが。

東京シャードだけで年に数百件もヴァイスが出現しており、東京AEGISの所属部隊がその全部に対処するというわけにはいかない。

そこでウチの様な民間業者の出番となる。

東京AEGISから貰える撃退ミッションを受注して完遂することで、彼らからヴァイス撃退褒賞金と補助金が交付されて会社の売り上げとなるのだ。

極端な話さっさと業績を回復させたければ、どんどん仕事を受注して出撃させれ続ければいいという訳である。

だが、そんなブラック企業まがいの方法は労働基準法違反であっさり業務停止にされてしまう。

それ以外となると、大型ヴァイスを狩り続けて撃退褒賞をがっぽり貰うほかない。

俗にバウンティハントと呼ばれる手法だ。

問題は狩場だが、俺が現役時代に見つけたあそこを使って大型を狩り続ければ、恐らくあっという間にがっぽり大金が手に入るだろう。

だが、この方法はそれなりの技量を必要とする。

文嘉やシタラもそうだが、特に新人の夜露にはこの条件は酷すぎる。

彼女に戦闘経験を積ませていくためにも、今は小型ヴァイスからちょっとずつやっていく他ないだろう。

あ…そうだ、俺もアクトレスだ…俺が鍾馗に乗ってやればいいんじゃないか。

よし、いっちょやってみるか。

まずは狩場の宙域近くの任務を受注して、…お、おあつらえ向きの奴があるじゃないか。

…参加するのは俺一人で、ギアは鍾馗っと。

よし、手続きが完了したからさっさと出撃しよう。

おっと、その前にアイツらも出撃するだろうからその分の任務を受注しておいて…。

指示と通信チャンネルをメモに書いておき、机の上に置いておく。

文嘉が見つけてそれを忠実に実行してくれるだろう。

あの人にも連絡しないと。

「すみません。フライトでしばらくこの席を開けますので、準備をお願いします」

『おう、無理すんなよ。嬢ちゃん達のサポートも任せとけ』

「ありがとうございます。戦闘機出せます?」

『そっちもすぐ出せるぞ』

「了解しました、すぐ向かいます」

俺は内線を切ると、三人に気付かれないようにこっそりハンガーへと向かった。

 

〇〇〇

 

「さてと、賞金を稼ぎますかな」

ポキッポキッと軽く指を鳴らす。

今から起こる戦闘を前に心臓が高鳴っていく。

狩場の名前はシャード近接エリア109、俺の中での通称はトーキョー街道。

東京シャードを攻撃する際に一番探知されずに侵入できる場所で、現役時代にはその付近で大型とよく遭遇していた。

つまり大型ヴァイスどもを狩りまくる絶好の狩場という訳だ。

だから、ここで待っていれば必ず大型ヴァイスはやってくる…。

何の確証もないんだけどな。

小型ヴァイスを撃墜し続けていれば、いつか大型が誘い込まれてくる筈。

クリオスやルイカ、砲台型の『タキブリ』やらといった小型ヴァイスを機銃でバタバタ撃ち落としていく。

この一群を撃墜、あの一群も撃墜、撃墜、撃墜、撃墜…。

撃墜カウントが550体を越したころ、遂にターゲットが現れた。

 

「最初は…蛇か」

最初の標的…じゃなかった大型ヴァイスはサーペントか。

昨日の戦闘を考える限り、何の問題もなく撃破出来るだろう。

兵装を温存する為に機関砲だけでやるしかないが。

鍾馗は全長が22m、全幅も14mあり、アクトレスと比べるべくもなく被弾面積は大きい。

幸いアクトレスと同じくシールドが張られているが、このシールドは一定以上減ると強制的に戦闘を終了させアクトレスを離脱させるベイルアウトという厄介な機能がある。

被弾は少なければ少ないほどいい。

ではどうやるのか。

後ろから撃つのはサーペントが体節からビームを撃ちまくってくるので論外だ。

これは真横も同様である。

前の様に真正面から撃つのは速度の関係上狙いを定められない可能性があり、更に口から吐く光球に当たる可能性がある。

現状で一番リスクが低いのは、直上から撃ち下ろすか直下から突き上げるかのどちらかという事になる。

だから俺もその通りに実行した。

機銃を連射しつつ垂直降下し、通り過ぎた所で反転して垂直に上昇しつつ弾丸を叩き込む。

二往復したところでサーペントは爆散した。

鍾馗のギアはアクトレスが持つギアの三倍の威力があるという霞の話は本当だったんだな。

 

続いて狩場に現れたのは、三体のサーペント。

何とも珍しい現象に遭遇したな。

ヴァイスには目標地点までテレポートする能力がある。

この”突然現れる能力”により地球攻防戦では数々の通常兵器がヴァイスに破れたが、このテレポート技術は後に解析されて”テレポートドライブ”としてムーンシャードによる地球脱出に貢献することになった。

そんなヴァイスのテレポートにはある特徴がある。

小型ヴァイスは集団でテレポートすることが多いが、大型ヴァイスは単独でテレポートすること。

これは大型ヴァイス同士がテレポート直後に衝突するのを避けるためだと考えられていた。

それを証明するかのように、通常は一つのエリアに一体ずつしか出現しない。

何体もの大型ヴァイスが一つのエリアに来るのは、別々のエリアから出現して集まってこない限り見かけない現象である。

この時の敵は驚き慌てたのか三体のサーペントを一気に派遣してきたのだ。

そして予想通り、三体のサーペントは縺れ合う様に衝突した。

その滑稽な姿に苦笑を浮かべつつ、素早くミサイルの発射ボタンを押した。

絡み合ったサーペントは成す術もなく木っ端微塵になった。

 

続いてテレポートしたのは蛾のような見た目をした大型ヴァイスだった。

ソレの名称はポイゾネルモス級ポイゾネルモスといい、俺たちの間では蛾と呼ばれている。

全長3.7mと大型ヴァイスの中では比較的に小さく、そんな体躯を生かした俊敏な機動性による一撃離脱を得意とする。

奴の攻撃は誘導弾の発射とシールドを侵食する輪っか型の機雷の発射、それと突進だったはず。

ポイゾネルモスが次々発射してくる誘導弾をロールしてかわし、逆に5連装ミサイルを叩き込みつつ近付いていく。

奴の機動性にはアクトレスでも追いつけない時があるらしいが、鍾馗はピタッと後ろに追従して確実に機銃の有効射程まで持ち込むことが出来るな。

ギリギリまで近づいて200発ほどダダダッと弾丸を撃ち込むと、ポイゾネルモスは小さな爆発を起こしてその場にピタリと停止した。

チャージ攻撃か…。

サーペント以外の大型ヴァイスにはチャージ攻撃というものが存在する。

その威力は強大で、当たり所によってはアクトレスでも即刻戦闘不能になりかねない。

だがチャージ中の大型ヴァイスは一切の動きを停止するので、その間に攻撃すれば大型もただの標的だ。

更にこちらが一定以上のダメージを与えれば奴らはチャージ攻撃に失敗してスタンするので、この間に攻撃を叩き込んで撃破するのがセオリーである。

ポイゾネルモスはどういう攻撃をするんだったかな?

まぁいいか、奴はチャージに失敗して停止しているのだから。

…ミサイルを使う必要はない、ありったけの弾丸を撃ち込み続けるのだ。

機関砲を500発ほど撃ち込むと、ポイゾネルモスは強烈な光を発して爆散した。

汚い花火だ。

 

「よし、次!…ありゃ?」

さて次の敵に挑まんと操縦桿を握った瞬間、画面に赤い文字が表示された。

『警告:ウェポンベイ内にあるシェルが満杯です。帰還を推奨します』

嘘だろ…。

シェルとはヴァイスの残骸の総称であり、貝のような見た目をしているのでこう呼ばれる。

研究所やらなんやらで日々こういうヴァイスの残骸を解析することでアリスギアは製造や強化、改良が行われるのでシェルの回収は結構大事なのだ。

その為アクトレス関連企業内での売買ルートも存在しており、結構な値段で売れる。

アクトレスが装着するアリスギアにはシェルを自動回収する機構があるらしいが、こいつにも設けられている様だ。

こんな中途半端な状態で帰るのも勿体ないが、折角敵を倒したのに貴重なシェルを拾うことが出来ないというのは非常に勿体ない。

仕方ない…今日はここらへんで戻ろう。

ヴァイスにまぁまぁな損害は与えたし、トーキョー街道は使われないだろうな。

バウンティハントの問題点は一度使った狩場は二度とヴァイスの通り道には使用されないという事だ。

だから一度に大量のヴァイスを狩らねば割に会わない。

今回の大型ヴァイス5体撃破は目標値の33%であり、実に中途半端な戦果である。

まぁ一応、東京シャードへの侵入ルートの一つを潰すことが出来たという事で納得するしかないんだろうな。

戦闘時間はトータル20分と自分が思っていた時間と同じで、まだまだ時を忘れて戦い続ける境地までには至っていない。

まさに食い足りない…いや、喰い足りない気分だった。

今度、霞に燃料タンク型のオプションベイを頼んでおこう。

『隊長、応答願います』

「こちらクラウンシャドー、文嘉か」

『はい…慣熟訓練中なのは承知していますが、指揮をお願いします』

「遠慮するなっての、そういうのが仕事なんだからよ。ちょっと待ってろ…」

機体のシステムにアクセスする。

クルーズモードを起動、目的地は成子坂製作所。

これさえ起動すれば目をつぶってても東京シャードへ帰ることが出来る。

指揮をするには何も問題はない。

「よしお前ら、前後左右上下…特に後ろは念を入れて警戒するんだぞ。チーム成子坂、エンゲージ」

『了解、戦闘開始ーっ!』

送られてきた映像と戦闘データに思わず笑みがこぼれる。

新たな戦闘に気分が高揚しているのだ。

そんな自分に嫌悪感を抱きつつ、データに目を向ける。

俺はああでもないこうでもないと三人を指揮してうっぷんを晴らすのだった。

 

〇〇〇

 

東京シャードの空をゆったりと帰還している途中、夜露とシタラと文嘉と合流した。

バウンティハントは失敗だったが、三人の指揮の方は成功した。

いやむしろ彼女らは大型ヴァイスを撃墜して意気揚々としていた。

三人に合流するなり、つんざく様な声で隊長が指揮をしてくれたお陰で無傷で済みました!といった称賛の声を浴びる。

今まで機械の指揮しか経験しなかったので、これは素直にうれしかった。

コンソールに向かって指揮するのも悪くないかもしれないな。

というか、これからこういう事に慣れていかないと行かないんだよなぁ。

スタンドプレーも今日限りにしよう。

そんなことを考えていたら成子坂製作所に着いたので、三人を先に下ろして着陸の準備に入る。

鍾馗が普通の飛行機の様に着陸するには400m位の真っすぐの道路が必要なのだが、100mもない成子坂製作所ではグランサーを使った垂直離着陸をするしかない。

別になんてことは無い、昨日やった事の再現だ。

着陸脚を下すと同時に機体を静止させ、グランサーの出力を段々下げていく。

ゆっくりと降下するうちにガクンという衝撃を感じた。

グランサーを後ろ向きになるよう調整し、倉庫の中へ機体をそろりそろりとバックさせる。

指定の位置に止めた所で全ての機器をシャットダウンした。

視界が真っ暗になると同時に蓋が開き始める。

コックピットの外に出ると、ピットクルーの様に整備員が駆け寄って機体を弄り始めた。

「よぉ、やったじゃねぇか」

「そうでもありませんよおやっさん。大型を全然喰えませんでした」

「5体は新人アクトレスとしては上々だろ」

振り向くと整備員たちが丁度ウェポンベイを開けようとしているところだった。

鍾馗の腹からシェルがばらばらと落ちて積み重なる。

うーむ、どうみても残骸にしか見えんな。

整備スタッフ達は嬉々とした顔で金の生るガラクタを集め、整備長は回収業者に連絡するよう檄を飛ばす。

予定よりは遥かに少ないが、多少なりとも業績は回復しただろう。

あの三人も喜んでくれるかな。

 

…と思ったのだが。

文嘉にめちゃくちゃ説教を食らう羽目になった。

曰く、余計なスタンドプレーはせずに私たちを信用して命じてくださいと。

別に信用してないという訳ではないんだがなぁ。

まぁ一応弁解はしたのだが、言い訳がましく聞こえたのか余計に怒らせてしまった。

正直に言うと…怒らせた文嘉は俺の元上司よりおっかない。

こうして一時間も直立不動になってるし。

年下なのにマジで怖い。

「…ともかく、このお金は受け取れません」

「貰っておけよ、これで取り敢えず借入金を完済できる。後顧の憂いは断っておこうぜ」

「ですが隊長がこなした仕事ですし…」

「分かった分かった、じゃあ1%だけ貰ってやる。これと俺のポケットマネーを合わせれば…新人歓迎会ぐらいは出来るだろう」

「分かりました」

「よし、夜露!シタラ!今度新人歓迎会やるぞ、俺のおごりだ!」

「本当っすか!?」

「おぉー、隊長太っ腹―」

「言っとくが、高級店は無しだぞ。文嘉も行ってこい」

「はい」

文嘉も加わり、三人はわちゃわちゃと新歓の場所決めを始めた。

夜露も早々に馴染めて良かったな。

一応言い出しっぺなので、新人歓迎会の幹事として働くべく会話の推移に耳を傾ける。

ファストフード、喫茶店…ほうほう。

ファミレス…カラオケ…焼肉…バイキング?

え…えーっと?段々値段的な意味で雲行きが怪しくなってきたな。

あらら、これひょっとしたら予算を超えるパターン…?

 

さてと、お金下ろしてくるかな…。

 

 

 

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