アリス・ギア・アイギス 影道化師の辻芸   作:NAIADs

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Ep.06 『隼は往く、雲の果て』

この一か月ちょっと鍾馗を運用し続けてきたが、その間に機体が抱える数々の問題点が明らかになった。

 

まず、任務によってはコストパフォーマンスが低いという点だ。

大型ヴァイスを相手にするには申し分ない性能だが、小型ヴァイスの集団を掃討する任務では明らかに過剰戦力である。

しかも大体は彼女らがやってくれるので、最近では見守るだけになってしまう。

その割にはミサイルが主武装なので運用コストも高めだ。

もう一つの問題は、鍾馗は故障が多く稼働率が微妙という点だ。

主にエンジンと武装の故障が多いが、どれも小さいもので困ることはあまりない。

しかし磐田整備長たちで直せるとはいえども、7回に1回には何かしらの問題が起きる。

今朝もエンジンから黒煙を吹いてエンストし、整備班のお世話になっている。

そして故障しやすい割には整備に時間が掛かる。

まだまだお金不足でしょっちゅう出撃する我々にとっては困る部分だ。

霞にとって初めてのジャンルという事もあるが、こちらの整備員も慣れていないという面も強いだろう。

うーむ、欲を言えばもう一機欲しい。

なるべく整備性が良くてコストの掛からない機体が。

でも、そんな都合で霞に頼むのもなぁーとか言っている時だった。

携帯がワルキューレの騎行を奏でたのは。

 

〇〇〇

 

『新しい機体が出来たから受け取って欲しい』

そんな電話を受けてやって来たのは、ヤシマ重工株式会社の東京シャード本社。

…の何故か屋外駐車場。

がらんとした大きめの駐車場の端っこにカバーに覆われた何かがあって、霞はこっちを見るなり両手をちぎれんばかりに振ってくる。

犬よろしくブンブン振られる白いポニーテールと、”にこにこ”どころか”にぱっ”とした笑顔がクール(?)な彼女のイメージに恐ろしく似合わない。

アイツ…今日はいやにテンション高いな。

傑作が出来て舞い上がっているのか、それとも変なのをやってハイになってるか…。

それとも…俺をおちょくる為の準備が出来たからか。

これはちょっと警戒すべきかもしれん。

「よう」

「やっほー。割とすぐに来てもらってくれて嬉しいよ」

「で、新しい機体は…えらく小さいな」

「キ-43Ⅲ丙 一式戦闘機『隼』三型丙だよ」

「マジか………」

嫌な予感が的中した。

カバーの下から現れたのは、一式戦闘機『隼』と呼ばれるプロペラ戦闘機だった。

その姿を見て思わず唖然としてしまった。

唖然とする俺の反応がおかしいのか、アイツは腹を抱えている。

…イライラしてきた。

機体全体は暗緑色で塗装されているが、機首上面は光の照り返しを防ぐために艶消しの黒で塗られている。

機体下面は灰色っぽい色で塗られているな。

上から見て三角形を描くように主翼と胴体に引かれた白い帯と、垂直尾翼に書かれている青く縁どられた白い矢印。

スピナーも白く塗られていた。

彼女曰く、加藤隼戦闘隊と呼ばれた飛行第六十四戦隊の部隊長機がモデルらしい。

『鹿毛』と『加藤』じゃ『か』しか会ってねぇんだよ。

なにダジャレに成功したかの様なドヤ顔してるんだコイツは。全然うまくねぇんだよ。

「…加藤隼戦闘隊ならぬ、鹿毛隼戦闘隊ってわけか?」

「あれ、面白くない?」

「数世紀も前の奴じゃねぇかそれ!」

「まぁ、第二次世界大戦の機体だからね。キ-43Ⅲ乙をモデルに色々新しくしたよ」

「…ったく、具体的な変更点は?」

「アリスギア以外だったら…装甲材と操縦系は最新のものにしたし、発動機を変更したりとかしたけど…。一番の改良は軽量化かな」

「軽量化?」

「装甲とか色々変更したら重量600kgまで低減できたよ」

「600kg…元の機体の約四分の一じゃねぇか!?」

重量600kgとなると航空機として軽いというレベルじゃない。

第一次世界大戦の複葉機並み…というか、超初期の航空機並みの軽さだ。

軽自動車どころか大きな馬よりも軽いんだが。

何をどこまで改良したのか知らないが早速不安だ。…主に機体の強度という意味で。

「モーターで動くのか?」

「そりゃ当然だよ」

「モーターの最大出力は?」

「えーっと馬力換算で3500馬力ってところかな。馬力荷重は0.14kg/hpで翼面荷重は33kg/㎡だったかな?」

本来ならばモーターの出力はワットだが、馬力の方が数字を大きく見せやすいので馬力が未だに使われている。

馬力荷重というのはパワーウエイトレシオの事で、小さいほど上昇力と加速力に優れている。

…とはいえ1以下の数字は正直聞いたことがない。

一方の翼面荷重は翼の1㎡当たりの重量の事で、小さいほど格闘戦に優れていると言われる。

コイツのモデルであるはずの一式戦闘機は124、究極軽戦と言われた九七式戦闘機で85.9、 複葉機の九五式戦闘機でも82.5である。…えっと、30以下ってどういう動きをするんだ?

じゃじゃ馬の予感がする…。

「全力で不安しかないんだが、最高速度と制限速度は?」

「最高速度は多分1600kmh、制限速度は2500kmhというのは計算で出てる」

計算って乗ったことないのかよ。

そして制限速度が最高速度とまぁまぁ近い。

エンジンを最大まで上げての降下、急降下しながら急旋回はNGって事か。

「そういえば武装は?」

「機首に20mm機関砲2門、主翼に七四式多目的誘導噴進弾10発」

「武装の貧弱さも隼譲りか…ミサイルは1回しか使えないといったところか?」

「まぁそこは軽量化の代償として勘弁してほしいな」

「電力はギアから供給されるんだろうが、止まった時はどうする?」

「あー、大丈夫。光さえあれば光電池で飛べるから」

「なんだかな…」

「案ずるより産むが易し、習うより慣れろというし、早速乗ってみてよ」

「分かった」

乗らず嫌いはしない派だし、ああは言ったが実はちょっと楽しみだったりする。

強度こそ懸念材料だが、そこはテクニックでどうにかなるだろう。

適当にシャード内での仕事を選んで受注する。

楽しみ過ぎてガチで適当に選んでしまったのは霞には内緒だ。

「今日からよろしくな、相棒」

そう声を掛けながら隼のボディを手で撫でた。

 

〇〇〇

 

「…よし、空気圧よし、OK。オールチェックグリーン」

機体を一周して細かい所まで目視点検を行い、いよいよ隼に乗り込む。

キャノピーはモデルの隼の様にスライドさせて開けるタイプではなく、一体成型されたキャノピー全体が前方に開く仕様になっている。

機内はやはり鍾馗より狭い。

計器盤や照準器はカラーパネルやヘッドアップディスプレイに取って代わられている。

見た目は旧式だが、中身は最新という訳か。

電気系統のスイッチを入れると、カラーパネルには姿勢指示器や高度計、HUDには照準が映し出される。

操縦桿とフットバーを動かし、昇降舵、方向舵、補助翼の動きを確かめる。

よし、ちゃんと動いているな。

「シャドークラウン、離陸する!」

機体を飛ばす前にアリスギアを起動する。

光電池により光のあるうちは飛べるらしいが、念の為という事らしい。

スロットルを段々開いていくが、モーターなので機内はかなり静かで振動もしない。

速度が出た所で操縦桿を前に倒し、三点の姿勢から地面と平行の姿勢に変化していく。

機体自体がかなり軽いので、案外あっさりと浮かび上がった。

高度1000mまで一気に上昇し、水平飛行に移る。

620…950…1074…1011…1290…1300kmh…うおっと。

超音速飛行は高度によっては衝撃波で地上に被害を与えかねないので、一応スロットルを絞って1000kmhまで下げる。

機体が軽いのでスロットをあまり開けなくても速度が出る。

取り敢えずこの機体は1000kmh位を基準速度にしておこうか。

この位の速度ならば空戦機動も急降下も気兼ねなしに出来るだろう。

そうこうしているうちに作戦空域に到着した。

ヴィーッヴィーッヴィーッという警告音と共にレーダーに多数の白い点が映る。

機体前方に多数の小型ヴァイス。

高度はこちらの方が有利だ。

カッカと血液が燃えるように熱くなり、心臓がドックンドックンと激しいビートを刻む。

俺はそのままヴァイスの群れに突っ込んでいった。

 

〇〇〇

 

会敵から約2分。

隼を操る俺はあっという間に約480体近い小型ヴァイスの群れを全滅させていた。

まぁこの機体はとにかくよく動く。

キビキビというよりかはフワフワという擬音が似合うほどに。

ヘリウムガスで満たされた風船を飛ばしている感覚に近い。

グランサーを使う鍾馗もキビキビと動く方だが、隼と比べれば鈍重そのものだ。

さらに隼が元々持っていた無類の旋回性能が機体の軽量化で強化され、あのルイカの動きに付いていける程の旋回を発揮している。

スピードの速い鍾馗では見越し射撃が精々だったが、遅く飛べる隼は水平旋回でも垂直旋回でも着実に小型ヴァイスの動きに追従して背後から射撃できる。

唯一のアリスギア(?)である機首の機関砲は毎分3000発と連射速度が速く、狙いやすい機首配置と隼特有の射撃安定性も相成ってヴァイスを確実に撃墜する火力を備えている。

シャード内専用とはいえ、隼はかなり強力な機体であることは確かだ。

そんなことを考えているうちに視力5.9を誇る視界に新たな敵影が映った。

「ワーカーか…」

ヴァイスワーカーは偵察隊の間で“ワーカー”や”人型”の通称で呼ばれる中型ヴァイスの事で、簡単に言えば対アクトレス用のヴァイスだ。

ライフル的な射撃兵装と鉈のような格闘兵装を持ち、動き自体も普通のアクトレスと同じレベルである。

ヴァイスワーカーのバリエーションには射撃能力を強化したヴァイスワーカースプレッド、シールド防御に特化したヴァイスワーカーシールドがある。

単独で出てくることもあれば、チームで出てくることもある。

こいつらの上位個体には斬撃に特化した『ヴァイスワーカー・ソード』と狙撃に特化した『ヴァイスワーカー・スナイプ』があり、侵攻部隊の小隊長的なポジションで出現することもあったりする。

ヴァイスワーカーはその場で旋回出来る上に接近戦を挑んでくるので、戦闘機にとっては大敵の一つである。

サーチの為に1秒程度の隙が生まれるので、この隙をつくのが定石だ。

まずは目の前で突っ立っている(?)ワーカーを撃墜し、急降下しつつ弾丸を浴びせて2体目のを爆発させる。

今度は機体を急上昇させながら3体目のワーカーのケツに照準を合わせて撃破し、背面の姿勢から一気に機体を垂直降下しながら四体目を撃ち落とした。

よし、任務達成。

 

…とはいかず、再び警報がビービーと鳴り響く。

今度は大型ヴァイスが接近しているという警報だ。

チッ、またイレギュラーかよ。

レーダーが示す方向に目を向けると、俺の目にしっかりとその姿が映った。

緑色の細長の胴体に、胴体中央から伸びる腕の先に光るオレンジ色の刃。

こいつはレントラーと呼ばれる大型ヴァイスで、俺たちの間ではやじろべえや地球ゴマの通称で呼ばれる大型ヴァイスだ。

目のような器官からのビーム攻撃と刃による斬撃を飛ばす攻撃がこいつの主な攻撃手段なのだが…クッソ弱い。

奴から放たれるビームは避け易く、斬撃はある程度の距離を保てば届かない。

チャージ攻撃こそ厄介だが、それ以外はすべての点においてサーペントにすら劣っている。

まぁ、あくまでも戦闘機乗りたちにとってはかもしれんが。

それを証明するかのように偵察隊の間では『振り切りやすい大型ヴァイスNo.1』という不名誉な称号が与えられており、鍾馗ではもう既に3体を撃墜している。

隼に掛かれば文字通りイチコロだろう。

まずは誘導噴…ミサイルを一斉発射して機体を軽くする。

レントラーからのビームをロールしたり横滑りをしてかわしながらミサイルが命中するのを待つ。

ターゲットへの命中を確認、対象は例の行動を開始。

ある程度の時間が経つか一定以上の攻撃を与えると、レントラーはフリスビーの様に回転して斬撃を飛ばしてくる。

もちろん回転軸となる胴体はがら空きとなる。

これ以上願いようもないチャンスだ。

このタイミングでここを攻撃したいのは山々なのだが、鍾馗の場合シャード内だとどうしても重力に縛られて一度しか攻撃できない。

だが身軽な隼はGに打ち勝って何度も反復攻撃を掛けることが出来る。

5回も反復攻撃を行い40秒ほど弾丸を撃ち込むとレントラーは光り輝いて行動を停止した。

よし、あのモードになったか。

大型ヴァイスはある程度のダメージを与えると緊急回復の為に一時的に行動が停止する事がある。

この時金色に光り輝くバリアで自身を覆う事でアリスギアの攻撃を完全に無効化するのだが、レントラーだけは例外で剣の部分に攻撃が通るようになっている。

与えられるダメージはそれこそ微々たるものだが、もう一つのチャンスを知る術でもある。

もう一つのチャンス…チャージングだ。

本人(?)にとっては自らの命を懸けた起死回生の一撃の準備なのかもしれないが、俺にとっては最大の攻撃チャンスの一つに過ぎない。

ヒーローの怪人よろしく必殺技のチャージが終わるのを待ってやる義理もない。

思い切って100kmh近くまで減速し、レントラーに弾丸を叩き込めるだけ叩き込む。

すると奴はチャージングに失敗してショック状態に陥ったので、くるくると周りを回りつつ更にありったけの弾丸をぶち込んでいく。

 

数千発近い弾丸を浴びたレントラーは光を発して爆散した。

 

〇〇〇

 

「地上の隼、宇宙の鍾馗か…」

成子坂へと帰る途中、ふとポロッと言葉が漏れた。

宇宙で無類の戦闘力を発揮する鍾馗はシャード内では鈍重で、一方身軽でシャード内では無類の運動性を発揮する隼は宇宙を飛べない。

適材適所って何事にも存在するんだなぁ…。

とにかく、今は素晴らしい戦闘機をゲットできたことを喜ぼうじゃないか。

一刻も早くコイツに慣れないと…またGODのお世話になりそうだな。

ぐふふ…使いこなしている光景を思い浮かべただけで顔付きがだらしなくなってきたぞ。

そんなウキウキ気分で操縦していたら、仕事用の端末がメールの着信音を奏でる。

「ん…?何だ…」

操縦中に端末を開きたくはないのだが、それで連絡をミスって2日前に文嘉にどやされたばかりだからなぁ。

仕方なくオートパイロットシステムを起動し、一応端末を確認する。

見覚えのないメールアドレスだな。…いったい誰だろう。

一応ウィルスに警戒しつつメールを開封する。

 

1週間前の”アレ”は楽しかったわ。またやり合いましょう。

鳳 加純

 

思わず表情筋が凍った。

1週間前って言えば、夜の記憶が丸々ぶっ飛んでるあの日だ。

アレってなんだ?あの日に東京最強アクトレスに何をやらかしたんだ?

楽しかったって何が楽しかったんですか!?

そのやり合うってどういう表現をする奴ですかぁーッ!?

な…な…ななな…なななな…。

 

「一体何したんだ一週間前の俺えェェェェッ!」

 

 

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