オレと守鶴のヒーローアカデミア   作:砂狸

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ついこの間ですね、ある方からなかなかに辛辣な評価を頂きまして、それを読んだときけっこうムカッとしましてね?それでそんなに中身我愛羅の作品が読みたいんだったらと思って、ちょっと簡単に書き上げてみました。
まぁ昨日の夜に風呂に浸かりながら簡単に思い浮かんだ内容なんで、あんまり期待しないでください。

という訳で、今回は中身が我愛羅くんという場合です。



No.??? 我愛羅 英雄伝

 とある森の中、ある家族が休日を利用してキャンプに訪れていた。

 

 近くにはきれいな川も流れており、設備も整えられたそこそこ有名な観光名所。

 街から少し離れたところに位置しているので、街の喧噪(けんそう)も届かずにゆったりと楽しめる。

 そんな場所に遊びに来ていた子供がおとなしくしていられるだろうか?

 まだ幼い子供だったので、一人で遊ばせることはできないので母親が一緒だったが、それでも元気よく森の中に探検しに向かった。

 

 木漏れ日の射す森の中、少し歩き進むたびに母親に楽しそうに話しかける子供の姿は、見る者に微笑ましさを与える光景であるとともにとても暖かな心地にさせるだろう。

 そうして森を進む間も、母親からあまり森深くまで入りすぎないように注意を受ける子供はその言葉に多少の不満を覚えるが、それでも大好きな母親の言葉に従いつつも本人にとっては大真面目な気持ちで探検を続ける。

 

 やがて、あちこちに点在する茂みの横を通り過ぎようとすると……その茂みからかすかな声が聞こえてくる。

 気になって茂みを掻き分けて入ってみると、そこに居たのは狸だった。

 だがその狸は見るからに深く傷ついており、体のあらゆる箇所から血が出ていた。

 

「…た、大変だ。母様にお願いして手当てしてもらおう!」

 

 一目見た瞬間に、目の前の傷ついた狸を助けてあげたいと思うも、自分ではどうすることもできないと理解し近くにいた母親にお願いしようとする。

 子供から見ても、この傷の深さはとても危険だというほどに狸は瀕死の状態だ。

 

 

 ―――だからその狸が起き上がり…、ましてや自分に向かって危害を加えようとするなんて夢にも思わなかった。

 

『人間…!人間は……大嫌いだ!!!』

 

 息絶える寸前の肉体を、目の前に憎む人間が居るという理由で限界を超え、胴体は変わらず伏せたままだが、頭だけを子供に向けて目を見開く。

 その瞳には人間という存在に対する憎悪の念が溢れ、もはやそれが何も関係ない…ましてや自分を何とか助けようと動こうとしていた子供に向けられた。

 

 食いしばられた口からは血とよだれが垂れ、呼吸することも難しいのか、微かな…それでいて激しい唸り声が発せられている……。

 

 その瀕死の…だからこその最期の感情は一層深く重い。

 そして、その憎悪の感情を向けられた子供は立ち竦んで動けないでいた。

 

 動物が人の言葉を発したことにも気づくことなく、唯々(ただただ)自分が生まれて初めて向けられた…激しい怒りと憎しみといった負の感情に恐怖し、身動きできなくなるのは致し方のないことだろう…。

 まだ幼い、頑是(がんぜ)ない子供なのだ。

 これが大の大人でも、これほどの負の感情の発露を至近距離で受ければ身も竦む。…もしかしたら腰も抜かすかもしれない。

 

 

『―――死ねない。このまま人間どもに復讐することもできずに、死ぬなんてことはできない…!!』

 

 その言葉を口にした次の瞬間、もはや身動きできないはずの狸が子供に向かって飛ぶように行く。

 

「……えっ?―――うわぁ!!?」

 

 半分透き通ったかのような体になった狸が子供の身体の中にその身を投じる。

 本来の狸の身体は、先ほどと同じ場所に横たわっている。横たわってはいるが、今はすでに辛うじて動かされていた腹のふくらみもなく、呼吸は途絶え微動だにせずにいる。

 明らかに死んでいる。

 

 しかし―――

 

『…!……これは…⁉クク、この体があれば―――人間共を皆殺しにしてやれる!!』

 子供の口から出てきたのは、死んだはずの狸が発していた声そのものだった。

 

 

「―――もう、こんなところに居たのね。お母さんから離れすぎちゃダメって言ったでしょ?そろそろお父さんたちのところへ戻りま――――――ッ!!?」

 近くにいた母親が、いつまでも茂みから出てこないので心配して近づいて来たが、子供の様子に気づくことなく声を掛けた。

 

 ……だが、突如子供の足元から砂が噴出し…、近づいていた母親は砂に押しのけられることになった。

 

『シャハハハハハハハハ!!!こいつはいいぜ!この体の個性はなかなか使えるな!!』

 噴出した砂はやがて収まるが…、子供がいたはずのその場所から現れたのは、明らかに人間の姿をしていなかった。

 

 身の丈2mを超す巨体。

 しかしその体を構成しているのは砂によるもので、しかも腹以外の体中に紋様が張り巡らせられており禍々しい。

 そしてその容姿を言葉で表すならば…、狸が一番近いだろうか?

 大きく張り出した腹に、とがった耳に大きく裂けた口。両腕は大きく太い、しかし足はあるのかどうかわからない。

 なにより目を引くのは、その巨体と同じくらいの大きさの一本の尾。

 

 そんな砂体の化け狸は、目の前で呆然とする母親目掛けて―――

 

 ザン!!

 

『フン、これでまず一匹…!』

 

 一本一本が太く鋭い爪から繰り出された爪撃。

 母親は振り下ろされた爪によって致命傷を負う。

 

「…ごぼっ」

 

 深い切り口からいくつもの内臓を損傷した母親の口から血があふれ出す。

 …母親には自分の身になにが起きたのか、いまだに理解できていまい。

 ただ子供と共に森を散策していただけのこと。

 それだけ、…ただそれだけのはずだったのに……。

 今は見上げるような大きさの化け物に傷を負わされ、何よりも愛する子供に何が起きたのか知る由もない。

 

 

 けれども―――

 

 それでも自分にはまだできることがある。

 

 その想いから―――

 

 個性を、最後の力を振り絞って……。

 

 

「どんなことがっても私が守っていくからね…

 

  …我愛羅」

 

 

 彼女、加瑠羅という名の母親の個性は"想念"というらしく。

 その能力は、彼女が想う相手に対し庇護の加護を与えるそうだ。ただしその庇護も完璧ではなく、どんな危険からも守れるという訳にはいかない。

 例えば転んでもケガをしない、向かってきていたはずの落下物がなぜか逸れる程度。

 

 その能力を死の間際に、目の前の化け物の体内に感じる我が子供に向けて全力で……それこそまさに全身全霊を賭けて施す。

 

 

『あぁ…?てめぇ何を言って………!!!??』

 

 こと切れる直前、母親は安堵の微笑みを浮かべる。

 

 目の前の化け物の身体が徐々に崩れ去り、その中から我が子の姿が見えたからだ。

 

 …そして―――。

 

『クソ、クソクソクソ!!―――まだだ…、まだオレは終われねェ…!絶対にまたこの体を奪って…人間共を皆殺しにしてやるぁぁああああ!!!!!』

 

 

 崩れる自らの身体を見て、事ここに至り今回は目的を果たせそうにないと理解した化け狸は、次こそは完全に体を乗っ取り人間たちに対する復讐を果たさんと怒号を上げる。

 

 最後に発した怒号は森の木々を突き抜け、その先にまで響き渡るほどの絶叫だった。

 

 

 やがて完全に体は崩れ去り、後に残ったのは砂の海に浮かぶ子供と横たわる母親。…それに血だらけで伏している狸の骸。

 

 

 

 その後は化け狸の絶叫を聞きつけた父親と、他にキャンプに来ていた人々が協力して二人を探し出した。

 

 

 ―――それから十数年後

 

 日本で最も人気があり、そして最も難しいと言われる雄英高校ヒーロー科の入学試験会場に一人の少年の姿があった。

 

 所々跳ねた赤い髪に、白皙の美貌という言葉が出てくるような肌の少年。

 ただし一番特徴的なのは、目の周りに浮き出た濃い隈だろう。…あと、眉がないのもかな?

 身体的な特徴とは別に、彼は自身の身の丈ほどもある瓢箪を背中に背負っていた。

 

 今は概要の説明も終わり、実技試験の行われる会場に辿り着き、後は開始の合図を待つだけの状況。

 彼の周りにいる他の受験者たちは、ある者は体をほぐし、中には精神統一を図っているものもいる。

 そんな中で彼は自然体でいて、胸の前で腕を組みただ静かに時を待つ。

 

 そして突如宣言される開始の言葉。

 

 誰もが一拍の呼吸、始まったことに気づかずに我を忘れている。

 しかし始まりを告げられた瞬間に、彼だけは即座に動き出していた。

 

 周囲の受験者たちに先んじて走り出した彼は、さっそく飛び出してきた標的に向けて瓢箪に詰められていた砂を纏わせる。

 流動的に動く砂は瞬時に標的を拘束し、ある程度覆った砂で圧力をかけて破壊していく。

 あっさりと壊れる標的を、感情を伺わせない表情で見やると早々と次の標的向けて駆け出していく。

 そうして次々と現れる標的を、次第に追いつき始めたほかの受験者たちと共に狙う。

 

 ゴオ…  ボオオォォォォン!!!

 

 開始からある程度の時間が経過すると、説明されていた通りに邪魔な相手が出現した。

 

 それは巨大という表現が当て嵌まる大きさであり、相手をしても試験には無意味なこともあり、彼以外の受験者たちは即座に避難を始めていた。そのため周囲には、すでに彼以外の人の姿もなく、また逃げ遅れたような者もいない。

 

 ―――彼には、巨大な敵を前にして逃げ出すような真似は到底選ぶべくない選択だった。

 

 かつて大好きな母をその手で殺し、そしてその後も……、今現在でも苦しめさせられている相手を思い起こさせる相手を前にして彼がとった行動は―――

 

 【流砂瀑流(りゅうさばくりゅう)

 

 あらかじめアスファルトの下…地中にある岩石や鉱物を砕いて砂に変えていた。

 組んでいた腕を解き、腕を振り上げ大量に作りあげておいた砂を大噴出させ、相手に纏わせていく。

 

 【砂縛柩(さばくきゅう)

 

 その巨大な体躯を覆い拘束を終え、もはや身動きの一つもできなくなった。

 …これがただの八つ当たりに過ぎないとしても、しょせん相手は命を持たない機械仕掛け。

 

 【砂瀑送葬(さばくそうそう)

 

 ドッ!!!!

 

 一片の呵責もなく、両手で握りつぶす動作が行われたと同時にその巨体が圧壊する。

 

「…お前もこれぐらい簡単に潰せたらよかったんだがな、守鶴」

 

 幾らもしないうちに試験終了の声が会場に響き渡る。

 それを聞きつつ、彼は踵を返し出口へと歩き出す。

 

 彼がヒーローを目指すのは、偏に母に報いんがための一念。

 母を殺した化け狸に対する憎しみもあるが…、それでも幼き自分を化け狸から救い、そして今に至るまで…そしてこれからも自身の中に存在し続けるだろう母の愛。

 自身に注がれた母の愛は今も自分を守り続けてくれている。

 だから今度は自分も他の誰かを守るためにヒーローを目指すことにした。

 

 ―――けれど、今だに心に燻り続ける化け狸への憎しみの炎は燃え続けている。

 




どうでしたでしょうか?
たいしてプロットもないのですが、それでも自分としてはなんかこっちのほうが展開が盛り上がりそうな気が…。
本編のほうは軽めといった感じですが、こちらは重めです。
いちおう活動報告に考えた設定を上げておきます。

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