誤字や脱字等ありましたら、お申し付けください、修正します。
それでは、夢から覚めるとき、お楽しみください。
「千歌ちゃん……私ね、千歌ちゃんのことが……」
好きなんだ。
_______そこまで口に出したところで最後の一言が喉に詰まって出ない。
今、教室の机に突っ伏して寝息を立てている状態の彼女にすら私は本心を伝えられない、そんな私が私は……。
「大嫌い」
つい自分に対する言葉が口から飛び出し、教室という狭い空間のどこかへ反響することなく消えていく。
思いを伝えられない悔しさと彼女に対する愛しさで胸が一杯になる。
辛い、目の前に愛おしい人が居るのに手を伸ばせない自分に不甲斐なさを感じ、嫌悪感を覚える。
すぐ近くに居るのに……何故か心の距離は果てしなく……遠い。
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「おはヨーシコー!」
「おはよ……じゃなくてヨハネよ!」
「はいはい」
いつも通りバスに乗り込み善子ちゃんと一緒に学校へ向かう。
バスの揺れ、海風と潮の香り、チラチラと見え隠れしている善子ちゃんの堕天使グッズ……全ていつも通りだ、しかし、何故だろうか、今日は胸騒ぎがする。
なんかこう……胸の奥がざわめくような、そんな感覚。
「浦の星女学院前……浦の星女学院前」
そうこうしているうちにバスは私達を浦の星近くの停留所へと送り届ける。
善子ちゃんと一緒にバスを降り、二人で他愛ない話をしながら坂を登る。
そして、そこを登っている途中、見覚えのある、二人の後ろ姿を見つける。
一人は少し深い赤毛のロングヘアーの女の子、そしてもう一人は明るい橙色の髪の毛に頭のてっぺんらへんからぴょこ、と一本クセ毛が立っている女の子。
誰とは言わずもがな梨子ちゃんと千歌ちゃんである。
その後ろ姿を見つけると共に私は二人に向かって駆け出す。
「おっはヨーソロー!二人共!」
唐突に後ろから投げかけられた挨拶だが、いつものことで慣れすぎてしまった梨子ちゃんはビクともせず挨拶を返す、しかし、千歌ちゃんはびっくりする……はずだったのだが、今日はなぜか反応が鈍い。
そして、ワンテンポ置いたあとに、「おはよう、よーちゃん」と返事をする。
ほんの少し、元気がない……?
「……?」
と、少し変に思いながらも私は二人と歩き始める。
……後ろから走ってくる善子ちゃんを忘れて。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよおおおお!!」
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「ここがこうだからこの公式を代入して……ほら、出来上がり!」
「あ、うん、ありがと、よーちゃん」
「これぐらい、お安い御用であります!」
このように私は千歌ちゃんに時々勉強を教える、この時間が私にとってどんな時間よりも大切な時間だ。
なんたって、二人きりでなんの邪魔なく、千歌ちゃんの横に座れるのだから、昨日だって、今日のように勉強を教えていた……まぁ最終的に寝ちゃって、私の想いを伝えることは出来なかったんだけど。
だけど……やっぱり今日の千歌ちゃんは変だ、なんだろう、どこかショックを受けているというか……。
はっ!まさかなにか大きな悩み事!?それなら好きな人のため!この渡辺曜、一肌脱ぐであります!思い立ったら即行動!
「千歌ちゃん……なんか元気ないね、なにかあった?」
私がそう千歌ちゃんに言うと、千歌ちゃんは少しビクッと体を震わせたあと、にへら、と笑いながら首を横に振る。
「な、なにもないよ、気にしないで!ほら、練習……行こ?!早く行かないとダイヤさんにまた怒られちゃう!」
千歌ちゃんはなぜかその話題を誤魔化すかのように慌てて部室へ向かう支度を始める。
そこで私は長年の千歌ちゃんとの付き合いから一つの答えを見出した。
「嘘……だよね?それ」
千歌ちゃんは私のその言葉を聞いて、ぎょ、としたような表情を浮かべ、もう一度にへら、と笑い「なんでもないよ」と呟く。
なんでもないわけがない、そう思った私は千歌ちゃんに言う。
「嘘だよ、千歌ちゃん、嘘下手だからわかるもん、ねぇ話して?」
「なんでもないよ」
「なんでもなくない」
「なんでもないって……」
「なんでもなく……」
「なんでもない!!!!」
千歌ちゃんが私の言葉を遮るように激しく声を張り上げ、否定する。
千歌ちゃんの目を涙が覆い、今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。
私がその怒涛の剣幕に一瞬後退りしそうになったとき、千歌ちゃんは私に向かってこう叫ぶように告げた。
「私がこんなになってるのは全部!!!“曜ちゃんのせいなのに!!!!”」
その言葉を残し、千歌ちゃんは教室を去っていってしまった。
私は教室に一人、静かに佇むことしか出来なかった。
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「部活……休んじゃったな」
私は一人でバスに揺られながらそう呟く。
乗客は誰もいない、居るのはバスの運転手さんだけ、どうせ独り言を呟いたところで、聞こえはしない。
『曜ちゃんのせいなのに!!!!』
その言葉が私の鼓膜を常に震わしているように脳裏から離れてくれない、声色だけではない、その時の教室に差し込むオレンジ色、千歌ちゃんの涙が溢れそうになっている、赤い二つの大きな瞳、その全てがもう脳にインプットされてしまっているようだ。
「悪いこと……しちゃったな……明日、謝らない……と……」
そこで私の視界は瞼によって遮られてしまった。
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気がつくと私は暗闇に居た。
その場所は何も見えず、何も見させてはくれない。
しかし、声が聞こえる、それは、ライブで歌うときのようにエコーがかかっているようで何重にも重なって聞こえる。
まず最初に
「全部……わたしのせい」
という言葉が私の声で暗い空間に響く。
その言葉に続けて、私の声を加工したような声でこう聞こえる。
「そう、私のせい」
「そう、あなたが悪いのよ」
「そう、全部全部曜が悪い」
その言葉が繰り返されるたびに心が雑巾のように絞られていくような感覚を覚える。
息苦しい、助けて、ねぇ助けてよ、誰か、誰か……。
私はそう呟くが私の声は響くことなく虚空へ消え失せていく、まるで私に発言する権利がないかのように。
「わたしのせい、わたしのせい、わたしのせい______」
「あなたが悪い、あなたが悪い、あなたが悪い」
「曜が悪い、曜が悪い、曜が悪い」
どんなに耳を塞ごうとも、鳴り止まない耳鳴りのように耳にへばりつき、声は離れてはくれない。
うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいウルサイ。
どれだけその言葉を呟こうとも声はやはり虚空へと消えていく。
響くのは加工された私の声だけ。
そんな状況のこの暗闇に一筋の光が指した。
それに気づいた私はその光の指す一点をあふれる涙を拭き、じっと見つめる。
居た。
橙色の髪に脳天前からはねた一本の髪が特徴の少女、そう、高海千歌がそこに居た。
私はそれを確認すると、一直線にそこへ駆け出す、藁にもすがる思いで駆け出す。
そして、肩を持ち、抱き寄せる、そうすれば幾分か楽になるような気がした、というか楽になった。
すると腕の中に居る千歌ちゃんがいつもの陽気な声で私に言う、エコーはかかっていない。
「だめだよ、よーちゃん」
「え?」
私はその言葉を聞いて顔を見ようと、曲げている肘を伸ばす。
しかし、そこには、千歌ちゃんの顔はなく……正確には口以外の場所が黒く塗りつぶされた高海千歌の顔があった。
その様子の千歌ちゃん(らしきもの)に私は驚き、突き飛ばし、すぐに逃げようと踵を返そうとする……が、私は地面にへたりこみ、動けなくなってしまう。
まさか、腰が抜けた!?
そうすぐさま判断するも遅かった、もうすぐ目の前に“それ”が迫っており、もう逃げられない状態だった。
そして、“それ”は私の肩を掴むと、次はしっかりエコーのかかったどこか甘い声でこう言った。
「だめだよ、よーちゃん、これも全部」
そこで、すべての声が消え、静寂が訪れる、しかし、“それ”は口を動かし続ける。
声は聞こえない、しかし、私には“それ”の言った言葉が完全に理解できてしまった。
「曜ちゃんのせいなのに」
あ。
そこで私の中でなにかがブチり、と千切れる音がして、その暗闇はガラスが割れるように砕け散った。
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「っは!?!?」
目を覚ますとそこはバスの中で、窓からはオレンジ色の光が射し込んでいる。
私が目を覚ましたのを確認するとバスの運転手が私に向かって、こう言う。
「渡辺さん、ここ降りるとこでしょ?早く降りなさい」
「あ、はい!」
そこで私は飛び起きるように立ち上がり、バスを降りた。
体がダルい、なんだろう、とても悪い夢を見たような気がする、あぁ……。
「明日、学校行きたくないなぁ」
寝る前と起きた後の考えが変わっていることに私は気づくことなく家に着いてしまった。
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夢を見た、見た覚えなどないのに展開をすべて覚えてしまっている夢。
そして最後はいつも。
「曜ちゃんのせいなのに」
という言葉で終わる、そんな夢。
目覚めると記憶から消えるようになっていたその夢は今ではもう全てを鮮明に思い出せるようになってしまった夢。
その夢を見るようになってから。
私は部屋から出れていない。
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