夢から覚めるとき   作:建月 創始

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 最終話、よろしくお願いします。


#3 勘違いが解けるとき

 決めたら即行動……と思ったは良いものの……まずは動けるようにならなきゃ。

 

 私は自分のやせ細った足を見つめそう思う。

 こんな足ではあの坂を駆け上がるなど出来はしないだろう。

 とりあえず帰りは歩いて、行きは親に送ってもらうことにして学校に行こう。

 

 私は浦女の制服に身を包む、そしてもう一度鏡の前に立って自分が痩せたことを実感する。

 もちろんその姿は綺麗で健康な姿とは言えない。

 よく見たら目の下のクマなんて酷いものだ、黒くなっているうえに少しシワが寄っている。

 

「はぁ……」

 

 そんな姿の自分に私は肩を落とす。

 

 こんな状態で学校に行っても良いんだろうか……?

 

 唐突にその考えが私の中に走る。

 

 ……そんなこと今考えても意味はないだろう、何事もやってみなければわからないのだから、千歌ちゃんと一緒にAqoursを作ったときのように。

 

「……ッ!よし!!」

 

 私は勢いよく部屋のドアを開け、部屋から一歩踏み出す。

 その普通の廊下ですら私にはとても光り輝くステージのように見えた。

___________________________________

 

「今日はよーちゃん来るかな……?」

 

 私はそう呟き家を出る、その呟きに外で聞いていた梨子ちゃんが私に笑顔で問いかける。

 

「そんな千歌ちゃんに朗報です!こちらをご覧ください」

 

 そう言い私にスマホの画面を突きつける。

 どうやらメールのようだ。

 

「え……と、『今日、学校行きます、敬礼』……差出人は……よーちゃん!?」

 

 私は驚いて梨子ちゃんのスマホを落としそうになりながらもなんとかキャッチする。

 

 そんなことよりだ、私は梨子ちゃんを問いただす。

 

「り、梨子ちゃん!?こ、これ!これ本当?本当?!」

 

 その私の怒涛とも言える剣幕に梨子ちゃんは少し仰け反りながら私の問いに答える。

 

「まぁ……本人から来てるし本当じゃないかな……?っていうかそっちにも届いてない?メッセージ」

「あ、そういえば届いてたかも……朝急いでて確認してないんだよね、えへへ」

 

 私は自分の携帯を確認する。

 あった。

 放課後教室に残っていて欲しい、と書いてある。

 

 その言葉を見た瞬間嬉しさが溢れ、飛び上がりそうなくらい、気分が高揚する。

 しかし、それとともにあの日の記憶が突如として湧き上がる。

 

「千歌ちゃんのことが」

「大嫌い」

 

 十数秒の間を分けて曜ちゃんの口から飛び出たその言葉。

 表面には出てきては無いが、ずっと心の中では気になり続けてることだ。

 

「今日勉強会しなきゃ……ッ」

 

 そう私は自分に言い聞かせるように静かに呟き、学校への歩を進めた。

___________________________________

 

 教室のドアが開け放たれる。

 そして、そのドアを開けたみかん色の髪色の娘が私に向かって一直線に駆けてくる。

 

「よーちゃん!!!」

 

 その声は明るくて、どこか安心したような声色で。

 そして、私は静かに目を閉じる。

 

 瞬間、私の頬は強い衝撃に見舞われる。

 力強いビンタ、それが、一発私の頬を叩いたのだ。

 教室が急に静かになるのを肌で感じる。

 そして、その空気を感じた後、私は柔らかい体に包まれる。

 抱きしめている細くしなやかな腕は小さく震えているが、力強く私の体を縛っている。

 もうずっと離さない、と伝えるかのように。

 

「……だった……」

 

 静かに絞り出すように彼女の口から発せられたその言葉、その言葉は言を重ねていくに連れて大きくなり、言葉の全貌が明らかになっていく。

 

「心……だった……心配だった……心配だった!!!」

 

 そう強く言ったあと彼女が顔を上げる、その顔はもう涙でぐちゃぐちゃで、鼻水も出てきそうでお世辞にも綺麗とは言えない顔だったけれど、私にとってはとても綺麗な顔に見えた。

 そして私は千歌ちゃんに向けて口を開く。

 

「ごめんね、千歌ちゃん、心配かけて……ごめんね……」

 

 決して許されたわけではない、しかし、許されたような、そんな気がしたのだ。

 そう思うと私の視界はぼやけ、頬を一滴の涙が滑り落ちる、それでは止まらず、いくつもの粒が落ちると次は一途の川のようになって流れる。

 そして、我慢できず、私も千歌ちゃんの体を抱きしめる、強く、強く。

 

 しかし、その状況は儚く、一つのチャイムにより壊される。

 こればっかりはしょうがない、ここは規則がある学校なのだから。

 そして、私は離れる千歌ちゃんに耳打ちで伝える。

 

「放課後……勉強会しようね」

「……うん!」

 

 彼女は私の問いかけに笑顔で答えた。

___________________________________

 

 放課後、静かな教室にその二人は向かい合って座っている、今日は曜が教えてもらっている、しょうがない、長く休んでいるのに勉強がわかるほど曜も完璧超人ではない。

 まぁ……千歌が間違えたところを指摘出来るぐらいには曜の方が優れているのだが、そこは内緒だ。

 

「あ〜!今日の分は終わり!!疲れたぁ!!」

「流石に疲れたね、千歌ちゃん」

 

 二人は大きく背伸びをする。

 

 背伸びが終わるのと同時に曜が立ち上がり、頭を下げ、謝罪する。

 

「ごめんね、千歌ちゃん!千歌ちゃんを勝手に不安にさせて、勝手に居なくなって……ごめん……ごめんなさい!!」

 

 唐突な曜の謝罪に千歌は困惑し、それに釣られて千歌も謝罪する。

 

「ち、千歌もごめんなさい!!あんなこと言って……でもあのときはあの一言のことで頭が一杯で、それしか考えられなくて……それで……あんなこと言っちゃった……」

「……?あの一言?なにそれ……?」

「え、あ、うん、よーちゃんが居なくなる2日前、勉強会、やったでしょ?そこで私が寝てたらよーちゃんがなんか言ってて……それを聞いてたら、よーちゃんが千歌のこと嫌いって……」

 

 そう言って千歌は視線を机に向ける。

 

 その千歌の言葉に曜は酷く自分の言動を責める。

 

 本当に全部私のせいじゃないか。

 は~本当にバカ曜だ。

 

「千歌ちゃん……本ッッッ当にごめん、ほんとに全部私のせいだ……ごめん……私が千歌ちゃんのことを嫌いになることなんて絶対に無いよ」

「じゃあなんであんなこと言ったの」

 

 千歌のジト目付きの指摘が真っ直ぐに飛んでくる。

 その指摘に曜はどもる。

 

 どうしよう、このまま勢いで告白してしまおうか、いや無理だ、どうせ詰まるに決まってる。

 いや、でもやるしかないこの負の連鎖を断ち切るために言うしかない、よし……言うぞ……渡辺曜……気合入れろ……。

 

「それは……」

「それは?」

 

 やっぱりどもる。

 しかし、曜も覚悟を決めた身、これはもう言うしかないのだ、伝える以外ないのだ。

 

「ち、千歌ちゃんに」

「私に?」

「その……えっと……」

 

 自分の顔が一気に紅潮していくのが伝わってくる、暑い、これは、ヤバイ。

 

 千歌の顔が曜にどんどん近づいて行く。

 近づくに連れて曜の顔が真っ赤になっていく。

 

「わ、私、わ、渡辺曜は……」

「よーちゃんは?」

 

 フッ、とそこで曜の頭は妙に冷静になる、そして、覚悟を決めた顔で、こう伝える。

 

「私は千歌ちゃんのことが好きで好きで好きで堪らないんです、でも、その想いを伝えられない私のことが嫌いで、大嫌いで、その嫌いが口に出てて……」

 

 そこまで言った所で千歌の顔を今一度見つめる。

 その顔は真っ赤だった。

 

「ち、千歌……ちゃん?」

「よ、よよよよよよよ、よーちゃん!!つつつつつつ、つまり?」

「全部私のせいです……」

「そこじゃない!!千歌が聞きたいのは!!よーちゃんは千歌のことをどう思ってるか!!」

「ッ!!私は……」

 

 そこで曜は真っ直ぐ千歌に向き直りこう答える。

 

「私は……渡辺曜は……千歌ちゃんのことが大好きです、気持ち悪いかもだけど出来るなら付き合って欲しいです!!」

 

 そう言って頭を下げ、チラッと顔を覗く。

 覗いた千歌の顔はとても涙で濡れていて、それでいて笑っていて。

 いわゆる嬉し泣き、という形の表情をしていた。

 

「よーちゃん……嬉しい……千歌も、よーちゃんのことが好きです!大好きです!!」

 

 そう言うと千歌は曜の胸に飛び込む。

 そして、それを曜は抱き返す。

 お互いに強く、苦しいほどに。

 苦しくてもその腕を緩めることはしない、いや、出来ない、二人はこの幸せを離すまい、と、もう二度と離れたりはしない、そう、伝えるようにお互いに抱きしめあう。

 そして、千歌が静かに曜に伝える。

 

「よーちゃん、キスして?」

「えっ!?」

「うーそ♡えいっ!」

 

 千歌は曜の唇にその柔らかい唇を重ねる、曜は唐突の展開に少し身を震わせたが、すぐに目の前の彼女に想いを馳せるように、もう一度、抱きしめ、唇の重なりに身を任せた。

 

 どうやら、この勘違いは私にとってはとても幸せな勘違いだったのかもしれない、あの悩みに押し潰されそうな夢を見た日々もこの幸せを手にするための少しの試練だったのかもしれない。

 もしかしたら、この今の一瞬も夢なのかもしれない、でも、もしそれでも、この夢から覚めても、私はきっとこの夢を忘れないでしょう。

 もちろん、この夢が覚めるときなど訪れることはなかった。




 如何だったでしょうか、だいぶ前より間が空いてしまい、自分の語彙のなさを実感しながら書きました。
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