ウチのグランサイファー   作:ゆまる

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お料理カタリナ

「ひっ、いやだ……!頼む!助けてくれぇ!!まだ、まだ死にたくないぃ!!」

 

椅子に縛られ涙を流しながら絶叫する男たちの声を無視して、ゴポゴポと煮え立つ()()をドロリと掬い上げる。虹色に輝きながらも漆黒の闇のようにも見えるそれはもはや外宇宙的な、名状しがたい様相を呈していた。ちなみに木どころか銀や鉄ですらそれに触れた瞬間ジュワッと音を立てて変形したので、クロム鋼の使われた特注スプーンで掬い上げている。

 

「いやいや、ただの味見じゃないか。今回のは自信作らしいし、きっと一口でほっぺたが落ちるぞ」

 

「それ物理的な意味で!!頰が溶け落ちるって意味だろ!!」

 

「大丈夫大丈夫、ほら、ローアインはまだギリギリなんとか生きてるっぽいし」

 

「生死の境を彷徨うのはどう考えても大丈夫じゃないっしょ!!」

 

「無理無理無理!ホントッマジめに無理!」

 

「んー……じゃあ、俺が先に一口食べてみるか。それで大丈夫だったら、お前らも食ってくれよ?」

 

「えっ?いやいやいや、だんちょ、やめといたほうがいいって!」

 

「つーか、誰も食わなきゃいいだけの話っ……」

 

ぱくっ。

 

「…………えっ、マジで食った今?ジマで?」

 

「いや早く吐き出したほうがいいッスよだんちょ、手遅れになる前に!」

 

「…………うん、大丈夫だ。なんていうか、ヨーグルトみたいな味だ」

 

「……はい?いや、いやいやありえないっしょこんな見た目のヨーグルト」

 

「疑うなら食べてみろよ、ほれ」

 

二人は顔を見合わせ、疑いつつも渋々、同時にその差し出されたスプーンを口に入れた。

 

「こぷっ」「くかっ」

 

口に入れた瞬間、二人の目がぐりんと回り泡を吹いてガクリと首を落とした。

 

「まぁ俺が食べたのは色だけ変えた普通のヨーグルトだからな。そりゃヨーグルトの味がするよ、うん」

 

ビクンビクンと痙攣する三人を見下ろし、陰に隠したヨーグルトをぱくぱくと食べながら、グランは悪びれもなく言い放った。

 

 

「というわけで、カタリナの料理音痴を治したいと思う」

 

あたしのいる騎空団の団長、グランがいきなり私のところにきて淡々と当時の状況を説明してきたんだけど、意味がわからない。無駄に上手い語りと声真似のせいでありありと情景が浮かんできたけど、その状況の意味がわからない。

 

「……えっ、どういうわけで?あたしにはグランがローアインたちを毒殺したことしかわからなかったんだけど」

 

「おいおい、最初から説明したほうがいいか?まったく、ちゃんと聞いてくれよな」

 

ふぅーやれやれ、と肩をすくめるグランに対して思わず手が出そうになるけど、我慢。これでいちいち殴ってたらキリがないもの。

 

「あたしの頭が悪いみたいな言い方は死ぬほど納得いかないけど、うん、もう一回説明してみて」

 

「まず俺はある時思いました。カタリナの本気の料理ってどんな威力なんだろうと」

 

「はいそこ。まず前提がおかしいわよね。料理と威力って単語は普通結びつかないはずよね」

 

「そこで俺はカタリナに頼みました。カタリナが本気で作った料理が食べたい(奴らがいる)んだと」

 

「はいそこ。カッコつけて言うな。最初からローアインたち犠牲にする気満々じゃない」

 

「すると翌日、カタリナがにこにこ笑顔で冒涜的なナニカを持ってきたから、一人でじっくり食べたいって言って部屋に持ち帰った後、ローアインたちを呼び出した。んで、カタリナの手料理が食いたいってあいつらが言うもんだから、仕方なく分けてやって……」

 

「死体が三つ生まれたわけね。計画的犯行ね。やっぱりグランって頭どうかしてると思う」

 

「俺は涙を流しながら決意した。もうこれ以上、悲しい犠牲者を生まないためにも……カタリナの料理を、上手くするべきだと。料理教室を開くべきだと」

 

「なんで被害者面してるのかわからないんだけど……まぁ、カタリナの料理をどうにかするのは賛成。たまにこっそり厨房に潜り込んで、晩御飯に一品紛れ込ませるんだもん。だいたいは色と匂いと形がおかしいから気づけるけど」

 

多分味もおかしい。一度気づかずに食べたフェザーが、しばらく「いや、拳とか何の意味もないんで……そんなものじゃ何も分かり合えない」とか言い始めたし。二時間後には元に戻ってたけど。

 

「それでイオ、お前にはその料理教室でカタリナの監督役を任せたい。カタリナが変なものを入れたりしそうになったら止める係だ」

 

ビシィッとあたしを指差すグランに対して、露骨に嫌そうな顔をしてしまう。

 

「え"っ、なんであたしなの……。料理上手い人に見てもらえばいいじゃない」

 

「……立派なレディってさ、誰かを教えたり導いたりするのも上手いと思わないか?カタリナに料理を教えることで、レディに一歩、いや二歩三歩近づけると思うぞ」

 

「うっ、たしかにロゼッタとか、教えるのめちゃくちゃ上手い……」

 

「あんまり上手くてもカタリナの参考にならないしな。ほら、料理に関しては、技量的にカタリナよりもイオのほうがお姉さんだ。色々教えてやったらどうだ?」

 

「お姉、さん………………しょ、しょうがないわねー!!引き受けてあげるわ!その代わり、カタリナの料理がちゃんと上手くなったらご褒美ちょうだいね!」

 

「はっはっはっ、もちろんだ。ちょっろ

 

「いまなんか言った?」

 

「いや?」

 

 

「はい、それではお料理教室を始めようと思います」

 

「「「はーい!」」」

 

そんなわけで、グランの号令ですぐに人が集められた。

先生役はバウタオーダさんとレ・フィーエ。

料理も教えることも上手い、無難なところね。

 

「えへへ、ヤイアね、チャーハンのほかにもお料理できるようになりたいんだ」

 

「自分で料理をすれば、美味しいものがたくさん食べられると聞いた」

 

「ごめんねグラフォス、お料理に砂が入るといけないからちょっと向こうに……」

 

「みんなとお料理、楽しみなのー!」

 

「皆さん、頑張りましょうね!」

 

「ま、まぁ、将来のために少しは料理出来ないといけないかなーって、別に深い意味はないんだけどね」

 

ヤイア、アーミラ、サラ、リリィ、ルリア、クラリス。こっちも、だいたいはほのぼのしたメンツね。うん、普通だったら、楽しいお料理教室に、なるはずだったのにね……。

 

「フフ、腕が鳴るな」

 

何故か自信満々でエプロンをつけているカタリナ。鳴らさないでお願い。

他の子たちに被害がいかないように見張ってないと……。

 

「じゃあ、ペアになってもらって料理を作っていただきますわね。ペアはこっちで割り振りますわ。ヤイアさんとサラさん、アーミラさんとルリアさん、リリィさんとクラリスさん……イオさんとカタリナさん」

 

あぁ、団長の根回しが済んでたみたい。一人で相手しろってことね……。他の人へ気を使わずにすんで良かったと考えましょ、うん。

一応助けを求めるようにレ・フィーエを見つめてみたけどサッと目を逸らされた。うん、そうだよね、料理出来る組はみんなカタリナの腕知ってるもんね。でもちょっと無慈悲すぎじゃない?

 

「ではまず、野菜を切っていきましょうか。このように皮を切っていってください。包丁に慣れていない人は私が横でお教えします」

 

野菜を切るだけね。良かった、とりあえずこれならカタリナも暴走することはないよね。

 

「待ってカタリナ、それは何?」

 

「マンドラゴラだが?いけなかっただろうか」

 

いけないっていうか!!それ魔物!!せめて!食材を!!プルプル震えてるじゃないその子!!

 

「今日は用意されてる食材使ってねカタリナ!!ほら、先生の言う通りにね!?」

 

「ふむ……。仕方ないか。ではこの人参から」

 

なんでそんな渋々折れてやったみたいな感じなの……?

一瞬私が間違ってるのかなとか錯覚しちゃう。

 

「ほっ、と」

 

「待ってカタリナ!包丁使えって言われたでしょ!!剣で切らないで!」

 

「しかしこのほうが切りやすくてだな……」

 

「危ないし、まな板まで切れちゃってるから!!大人しくこっち使って!」

 

なんで魔物倒すみたいに、全力で剣を振り下ろしてるのよ……。ただ野菜を切るだけでこれって、もう先が思いやら『ダンッ!!』れる……?

 

「え、待ってカタリナ。包丁でもまな板両断したの?」

 

どれだけ力込めてるの?ゴリラなの?

 

「む、このまな板、脆いな……」

 

そしてどこまで自分の非を認めないの?

どうしようグラン、もう私心折れそう。

 

 

それからも私は。

 

「待ってカタリナ!!卵っていうのは鶏の卵のことであってサラマンダーの卵じゃない!!」

 

カタリナの奇行を止めに止めて。

 

「待ってカタリナ!!強火で煮込むというのはコンロの火を強めるってだけで、イフリートに頼むほどじゃないの!!」

 

他のペアがどんどんとまともな料理を作り上げていくなか。

 

「待ってカタリナ!!鍋を変形させるほどかき混ぜなくてもいいの!!優しく!!もう中身掬うことも出来ない形になってる!!」

 

私は心も体もボロボロになった。

 

「待っカタ!!!!」

 

 

「よし、あとはこれで3分ほど煮込めば完成だな。あとイオ、あまり料理中に大声を出すものじゃないぞ。唾が入ってしまうだろう」

 

「…………もうツっこむ気力もないわ」

 

それでも、やっと終わる。この苦行も、これで終わりだ。

ほら、鍋から良い匂いが……。

……良い、匂いじゃ、ないんだけど。

 

カポッと鍋の蓋を開けると、そこにはゴポゴポと煮立つ、変色した()()が入っていた。

 

「…………カタリナ、もしかして、何か、入れた?」

 

「ん?ああ、隠し味に昨日の私が作ったシチューを少しだけな。なに、元のシチューの味を殺しはしないさ。引き立てあって、より良い風味になるというのが私の見立てで……」

 

ドサッ。

 

「イオさんが倒れましたわー!!」

 

「許してください、不甲斐ない私を……!!」

 

……もう無理。

 

 

何とか復活したあたしは、グランの部屋へと向かった。

一言言ってやらないと気がすまないんだもん!!

 

「グラン!!」

 

「おおイオ……。カタリナの料理はどうなった?」

 

グランがのっそりとした動きで部屋から出てきた。……って。

 

「な、なによ。顔真っ青……っていうかげっそりじゃない。大丈夫なの?」

 

「ああ、大丈夫大丈夫……。ヨーグルトみたいなもんだから」

 

「?……と、とにかく、カタリナの料理を治すのは無理だったわ」

 

「そうか……。いや、よく頑張ってくれた。今度ご褒美に高い高いしてやろう」

 

「いや、いらない。ていうかあたし高い高いで喜ぶと思われてたの?すごく心外なんだけど……。はぁ、調子悪いなら今日は責めないでおく。お水取ってきてあげるから、寝てなさいよ」

 

「ああ、助かる……」

 

グランを部屋に戻し、ちょっと急ぎ足で食堂のほうへ向かう。

朝は全然そんな雰囲気なかったのに、どうしたんだろうグラン……。

 

すると廊下の向こうから向こうからカタリナがやってきた。

 

「ああ、イオ!具合は大丈夫か?」

 

「ウンモウダイジョウブ。キニシナイデ」

 

カタリナはあくまであたしが突然倒れたのは体調不良のせいだと思ってる。もうカタリナの料理には関わりたくないから、勘違いさせたままでいいや……。

 

「そうか。あ、グランは部屋にいるか?」

 

「うん、いたわよ。ちょっと調子悪そうだったけど」

 

「何、そうなのか……。様子を見てこよう」

 

カタリナはそう言ってグランの部屋のほうへ歩いて行った。

……なんだろう、少しだけど、カタリナの足取りが軽いように見える。

 

コッソリ廊下の角から、カタリナの様子を窺ってみる。

カタリナはちょいちょいと髪を弄ってからグランの部屋の扉をノックした。

 

「やぁグラン。昨日の料理の感想を聞きたくてな……と、本当に随分顔色が悪いな……」

 

む、ここからだと、グランがいつもより声が小さい上に部屋の外に出てないから、グランの声が聞こえない……。

カタリナの反応でわかるかな?

カタリナは少し微笑んでから、ちょっとだけ顔を俯かせてる。

 

「…………なぁ、もしかして、原因は私の料理か?」

 

えっ!?あのカタリナが自分の料理がおかしいことに気付いた!?やっと!!?

 

「……もしかしたら、傷んだ食材が入っていたのかもしれない。私の確認不足だ。本当にすまない」

 

違う、謝るべきところはそこじゃない、そこじゃないのカタリナ。

傷んでるとかそういうレベルじゃないの。貴女が傷めてるの。致命傷を与えてるの。

 

「……本当か?無理はしなくていいんだぞ?……そうか、それはすまないな。……フフ、まったく君というやつは……」

 

そこから二言三言交わした後、カタリナが何か……容器?みたいなのを受け取ったみたい。

 

「あ、ああ、どうだった……?む、言ってくれるじゃないか。……フ、ああわかった。それでは。安静にするんだぞ」

 

カタリナは扉を閉めると、嬉しそうな顔でそこから去っていった。

 

……グランが体調悪い理由、わかっちゃった。

多分、カタリナの料理、全部、食べたんだ。

 

「……変なとこキッチリしてるんだから」

 

 

 

 

「はいお水」

 

「……さんきゅぅ」

 

ま、自業自得だけど、今回はちょっとだけ優しくしてあげよっかな、なんて。

 




登場キャラ紹介

カタリナ
るっ!の被害者の一人。その目はビィくんを見つめるため。その声は「ビィくぅぅぅん!!」を奏でるため。その手はビィくんを愛でるためにある。ビィくんどこにやったって?勘のいいガキは嫌いだよ。

※追記
料理シーンにて、魔物だからダメというような描写がされましたが、
ビストロ・フェードラッヘにて普通に魔物が料理されてました。
上手に調理されれば魔物も美味しくなるらしいです。
上手に調理されればな。
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