「川神百代、見参!」
武神が来てから事態はすぐに収まっていった。
「川神百代だと?」
「なんでこんなところに」
いきなり現れた強敵に板垣竜兵、板垣天使、板垣亜巳の3人はたじろぐ。
「モモ先輩…」
「酷くやられたな。だが、よく守った。あとは任せろ」
「ハハ……そうか」
モモ先輩の自信に満ちた顔を見ると自然と体から力が抜けていった。
「薫君!?」
「そっとしておいてやれ、気絶しているだけだ」
「モモ先輩」
「ん?なんだ?」
「薫君は大丈夫なんですか?」
「見た感じだと、肩骨折と頭の出血以外は軽傷だ。気絶したのは脳震盪のせいだろうな。まぁ、すぐに川神院に運んで治療するが」
「…そうですか」
「薫に感謝しておけ。お前が必死で逃がした○○から知らせを受けて碌な準備もせずに真っ先に駆けつけたんだから。普通は私などに協力を仰ぐものなんだがな」
「薫君…」
「で、どうするんだ?やるのか?やらないのか?」
「流石に今武神とあたるのは不味いね。やめとくよ」
「そうか、つまらん」
板垣家の3人はすごすごと去っていった。
「薫は私が川神院に運んでおこう。お前もついて来るか?」
「はい!私はまだ薫君にお礼を言えていませんから」
大和田伊代は力強くそう言った。
「そうか」
そして川神百代は苑宮薫を担ぎ、大和田伊代はそのあとをついて行った。
川神院
「そうですカ」
「ルーよ、どうじゃ?その一年の様子は」
「特に問題はありませんでしたガ、肩の骨が折れているので、しばらくは運動出来ませんネ。それと、彼は左利きなのでいろいろと生活が不便になりそうでス」
「そうか、彼のご両親はなんと?」
「それが、自宅に居ないらしいのでス」
「とりあえず彼の意識が戻るまではわかりそうにないのう」
「それにしても彼は中々の強さでしたガ、その彼にあれ程の怪我を負わせるとは、何者でしょうかネ」
「ふむ、モモが言うには3対1で奮闘していたらしいがの」
「そうだとしてモ、一般の不良なら軽く捻れる実力はあると思いまス。稽古の様子を見ても彼には武の才能があるようですシ」
「そうじゃの、壁を越えるかはわからんが、強者と呼ばれるレベルまでにはなれるじゃろう」
「彼の成長が楽しみですネ」
「彼がモモの戦闘欲を満たしてくれるぐらいになってくれればの」
一方、薫が寝ている部屋では黛由紀江、大和田伊代、川神百代がいた。
○○さんは先ほど帰ったようで、既に事の経緯は皆が知っていた。
「ほんとにいい寝顔だな」
「薫さん、大丈夫でしょうか」
「薫君って川神院の門下生だったんだ」
「そういえば利き腕って左じゃなかったですか?」
「え?そうなの?」
「薫さんは私のたったひとりのお友達ですので、間違いないと思うのですが」
自分で言っておいて悲しいのか、黛由紀恵は少し凹んだ。
「じゃあ飯とか食いづらいんじゃないか?」
「それなら私が食べさせます!お、恩返しも出来ていないので///」
「ほぅ~」
「わかりました」
会話が一段落した所で
「……あれ?」
気づくと俺は天井を眺めていた。
「目が覚めたか薫」
「薫さん、意識が戻ってよかったです!」
「薫君…えっと、その」
辺りを見回すと、モモ先輩とまゆっち、大和田さんがいた。
モモ先輩とまゆっちはホッとした表情だが、大和田さんはほんのりと赤みがかった顔で、何か言いずらそうにしていた。
どうしたよ?大和田さん
「薫、私とまゆまゆは少し席を外すぞ」
「ん?わかりやした」
モモ先輩はニヤリと笑うとまゆっちを連れて部屋から出ていった。
そして、部屋には俺と大和田さんの二人が残った。
「け、怪我は大丈夫?」
「あぁ、肩以外は平気かな」
「そうなんだ……よかった」
「……」
「……」
「……」
何故か沈黙する俺と大和田さん。
しかしいつまでも黙っていては話が進まないので、先程思ったことを聞くことにした。
「そういえば、さっき何て言おうとしたんだ?」
「へ?あ、うん。薫君、助けてくれてありがとうね。あの時来てくれなかったら私は…」
「気にするなよ、大和田さんに大事なくてよかったよ」
「…伊予」
「え?」
「出来れば、伊予って呼んで欲しいかなって」
駄目かな?とでも言うような上目使いに当然断れるわけもなく。まぁ、断るつもりもないのだが、そう呼ぶことにした。
「わかったよ、伊予」
「あ、お腹空いてる?///」
時計を見れば針はちょうど12時を指していた。
「割と空いてるな」
思えば昨日の放課後から何も口にしていなかった。
「ちょっと待っててね!」
「え?あ、おい…」
大和田さんは急いでどこかに行ってしまった。
飯でも持ってくるのだろうか。あ、でも箸は使いづらいからスプーンとかフォークが欲しいけど大和田さん行っちゃったしな。
「お待たせしました」
暫くして大和田さんが料理を持って戻ってきた。
「お、オムライスか。美味しそうだな」
「ごめんね、本当はもっとバランスとか考えるものなんだけど、これ以外自身なくて」
「いや、俺オムライス好きだし。むしろ嬉しいぞ」
「よかった。じゃあ、はい口開けて」
「え?いや、右手でスプーンくらい使えるぞ?」
「だ、駄目。け、怪我人なんだし。私は薫君に感謝してるんだから、看病くらいは私にさせてよ///」
「さ、流石に恥ずかしいかな〜って」
「私だって、恥ずかしいんだよ?///」
大和田さんは頬を赤らめながらもしっかりと俺の目を見ていた。
退路は既に断たれた。行け!男を魅せろ俺!
「はい、あ〜ん///」
スプーンに乗せられた卵とチキンライスはゆっくりと俺の口に運ばれた。
「……///(モグモグ」
先程自信があると言っていただけはある。普通の店のより美味しかった。
「ど、どう?」
「うん、美味しいよ」
「良かったぁ~。じゃあ、はい あ〜ん///」
「ん(モグモグ」
こんな感じで、俺は大和田さんに食べさせてもらった。
「ご馳走様」
大和田さんはニコッと笑うと、食器を片付けに行った。
すると入れ替わるように鉄心殿とルー師範代が入ってきた。
「気分はどうじゃ?」
「鉄心殿、すみません。まだまだ自分は甘い様でした」
不覚にも後ろを取られたことを思い出し少し反省する。
「ほっほっほ、体の様子を聞きに来たんじゃがの…」
「まぁ、反省するのはいい事だヨ」
「あはは…」
「どれ、少し手を加えてみるかの」
「えっと、鉄心殿?何を…イデデデデデデ!?」
鉄心殿は俺の肩を掴んだ。
「ふん!」
「鉄心殿、今何をしたんですか?肩が暖かいのですが」
鉄心殿が掴んだ肩の部分は体の内から温まる様な感覚だった。
「ワシの気を送って、お主の細胞に働きかけ治癒力を高めたのじゃよ」
「一週間ぐらいで完治すると思うヨ」
「全力でやると3日で治るのじゃが、儂の
体に負担がかかるのじゃ、我慢してくれ」
「十分過ぎますよ。ありがとうございます」
「皆には秘密じゃからの」
「ハハッ、感謝します」
「これまで以上に鍛錬するんだヨ」
「精進します」
「御両親はどこにいるんだイ?」
「未だに新婚気分で二人旅してますよ」
「ほっほっほ、若いのぅ」
「もう30後半ですよ」
「なるほどネ。怪我のことも知らせたいから御両親の連絡先をおしえてくれないカ?」
「いいですいいです。自分で伝えますから」
「そうかイ?じゃあ頼んだヨ」
「それよりルー師範代、気の使い方を教えてください」
「気の使い方?どうしてだイ?」
「もっと強くなりたいと思いました。今回はモモ先輩が助けてくれました。でも、それじゃあ駄目なんです。力が欲しい、せめてあの三人相手に勝てるぐらいに…」
「悔しいんだネ、一人で倒しきれなかった事ガ」
「はい…」
「ふむ、いい事じゃ。力というものは自分を満たしてくれる。しかし、使い方を間違えてはいかぬ、わかるの?」
鉄心殿は目を見開き威圧しながら聞いてきた。
「はい、重々承知です」
「ルーよ、怪我が治り次第彼に気の扱いを教えてあげなさい」
俺の覚悟が伝わったのか鉄心殿は微笑むとルー師範代にそう言った。
「わかりましタ」
「ありがとうございます!」
「薫、ワタシが教えるのはあくまで基本の技のみだよ。自分で工夫し、技を編み出すんだヨ」
「はい」
その様子を遠くから見つめる人がいた。
「兄ちゃん…大した怪我じゃなくてよかった」
pipipipipi
『薫の様子はどうじゃ?』
「大した怪我じゃなかったよ」
『そうじゃない、例のアレのことじゃ』
「見る限り気の乱れは無いし、封印には全くの影響なしだよ。お爺様」
『なにか危惧すべき事はないかの?』
「あのルー・イーに気を教えてもらうらしいよ。封印が解けちゃうんじゃないの?」
『問題ないと思うがの。一応義真と依李奈をつけておく。舞霞は戻ってきて良いぞ』
「わかったよ」
pi
「お父さんとお母さん来るんだ…」
「まぁ、大丈夫でしょ。お父さんとお母さんは本当に兄ちゃん愛してるからね。もちろん私もそうだけどね。頑張ってね兄ちゃん」
少女はフッと姿を消した。
難しいですね。小説って