ときめきクライシスを渡されたら、あなたはどうする? 彼は覚悟を決めたよ   作:erif tellab

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ポッピーは俺に任せてくれ……。だから皆……マリカやキバーラたちを……


※キメワザの表記を修正しました。使うのはゲーマドライバー(バグルドライバーは死ぬ)なので、そちらに音声沿います。ただし、レベル2はスキップしてXに。ご指摘ありがとうございました。フィニッシュとストライクがごっちゃになってしまった……


ときめきクライシスを渡されたら、あなたはどうする? 彼は覚悟を決めたよ

 ある年のクリスマス。その翌日の朝起きてみれば、俺の枕元にはときめきクライシスのガシャットとゲーマドライバー、バグルドライバー(水色)が納められているプレゼントが置いてあった。両親に聞いてみたところ、あくまでも「サンタさんの贈り物だよ!」と誤魔化されたが、これとは別にもう一つのクリスマスプレゼントがあったので、本当に二人に心当たりがないのはほぼ確実だった。なお、二つ目のプレゼントはガンプラだった。

 最初に言っておくが、俺は過労死したらいつの間にか二度目の人生をスタートした系の転生者だ。多分。前世の記憶的なアレがあるだけで、確証はない。

 あえて裏付けを取るなら、この世界に仮面ライダー作品が存在していない事だろうか。それなのにガシャットとドライバーがプレゼントされたという事は、随分と奇妙な話である。ちなみに、今の俺は中学生だ。

 おかしいな。エグゼイド作品が存在していないのに商品展開されてるとか、もうマジでおかしいな。だってこの前バグヴァイザーⅡを外で使ってみれば、ビーム撃てたんだもん。ときめきクライシスも起動させると本編並みに高音質だもん。無性に怖くて変身するのはやめた。

 その上、最近だと上空にケーキやらブリンやらの明らかに人為的な雲が浮いていたから、嫌な予感は拭えなかった。もしかしたら本物のバグスターウイルスにやられるかもしれないので、変身道具一式はベッドの下に置いている。

 

 悪い事が起きませんように。結局、俺にできるのは神頼みくらいのもので、今日も今日とて早起きする。

 

 我が家はパン屋で、特にメロンパンやクリームパンなどの菓子パンが人気の店である。早起きした俺はパン屋を経営する父の手伝いをし、一緒にパン生地をこねて、発酵させて、焼いたりする。

 パン作りにサラリーマンしていた前世とは違った楽しさを見出だした俺は、すっかり趣味と呼べるレベルにまで魅力された。特に菓子パン作りにハマり、現在は独力で美味しいデニッシュ系菓子パンを模索している。店に出ているのはリンゴを使っているので、できれば被らないようにしたかった。

 

 そして早速放課後。まっすぐ自宅まで帰った俺は、生クリームを使ったデニッシュを作るために準備を整える。

 

 その時だった。開けていた自室の窓から、謎のモヒカン生物が飛び込んできたのは。

 

「ぎゃん!?」

 

 モヒカン生物はそのまま向かいのドアに激突。悲鳴を短く上げて床に落ちる。目はすっかりぐるぐる回っており、すぐには起き上がれない様子だった。

 その身体はぬいぐるみのように小さく、肌は闇色。腰には星マークのバックルが着いており、見るからに常識の矛盾を突いてくる怪生物だ。ものすごい勢いで頭をドアにぶつけたはずなのに、意識はある。いや、脳震盪ぐらいは起こしているか? なら放置すれば自然と死ぬかもしれないのか。

 

「……絶版にしないと」

 

 そう呟いた俺はすかさずバグヴァイザーⅡを取り出し、銃口をモヒカン生物にかざす。だが改めて手を下そうと思うと、ゴキブリを素手で倒そうとする以上に迷いが生まれてダメだった。手元が震え、発砲しようがない。そもそも、ここは自室だった。ビームで穴を開けるものなら、親に怒られる。

 

 その後、のこのこ獣医師の元に連れてっても研究サンプル化エンドが関の山だと判断した俺は、苦渋の思いで親に相談。結果、我が家でモヒカン生物を看病する事になった。

 

「あらあら、不思議な動物ね。ぬいぐるみみたい。妖精か何かかしら?」

 

「妖精だとしたらトンだ世紀末から来たんだな。モヒカンだし」

 

 これは母と父の言葉。割りと能天気なのが調子を狂わされる。

 それからしばらくして、ようやくモヒカン生物が目を覚ます。元気はまるでなかったが、ここで人語を解する事が判明。名前もちゃんとあり、ガミーというらしい。かなりジャイアニズムな珍獣だというのが一発でわかった。

 

「頭がガンガンする……腹も空いた……ん? それを俺に寄越せぇ!」

 

 なにせ、開口一番で俺が持っていたクロワッサンに飛び掛かってきたのである。まだ体調が万全でもないのに。

 すれ違い様に掴まれたクロワッサンは半分に引き千切れ、ガミーはきりもみ落下。間髪入れずに浮遊するも、テールローターが故障したヘリの如く安定せず、ふらふらと廊下の壁や床にぶつかっては不様に崩れ落ちる。頭を打ったのが相当響いているようだ。

 

「……この隈ヤロォォォォ!!」

 

 取り敢えず、己の間食のために用意したクロワッサンがやられた俺は、このガミーをシバく事にした。その後は適当なベッドに拘束し、パンではなくお粥を食わせる。クロワッサンの強奪が腹空いていたからとか、暴挙にも程があった。

 良かったな、俺の親が優しくて。「妖精だから」という理由で許してくれたぞ。親の顔に免じても、俺にとってはあまりよろしくないが。

 

「このベルト外せぇ! キラキラル取りに行かせろぉ!」

 

「暴れんな! 大人しくしないといつまで経っても回復しないぞ! キラキラルなんて知らん!」

 

 ギュルル~。

 最初はジタバタしていたガミーだが、腹の虫を鳴かせると急に静かになり、何の抵抗もせずに俺がお粥を掬った匙を受け入れる。口をモグモグと動かし、無言で食べ進めるだけ。その間に起きた変化といえば、目尻に涙が溜まっていた事くらいだ。

 それから数日が経過。獣医師に診せる事もなく、ガミーはあっさり元気になった。ここまで来れば森なり海なりに帰すだけと思った俺は、ガミーを家の外に出す。

 

「じゃあなー。もうダイナミックお邪魔しますなんてするなよー」

 

 そうやって俺が見送るものの、ガミーは特に言葉を返す事もなく遥か空へと消えていく。かくして、ガミーとの日々は終わりを告げた。

 

 ――と、楽観視していた俺がバカだった。

 

 その日の一時間後。出来上がった手作りの生クリーム入りデニッシュを食べようとした俺の元に、ガミーが再び戻ってきたのだった。今度は自室の窓越しでの対面だったが、次の瞬間にはガミーがとんでもない事をやらかしてきた。

 

「なんでパンに? まぁいいや。そのキラキラルもらったぁ!」

 

 突如としてデニッシュから光が現れ、ガミーにそれら全てが吸引される。するとデニッシュは灰色となり、合わせてガミーも二頭身の珍獣から人間サイズの怪人へと変貌した。

 

「おっ、何だぁ? まだ少ししかキラキラル吸ってないのに力が溢れてくるぜ!」

 

 声も低くなり、自身の変化にすこぶる喜ぶガミー。俺は事態の急変に付いていけず、唖然としている内にもガミーはどこかへと飛び去っていった。

 

「イヤッホォー!!」

 

 遠くでガミーの声が木霊し、ようやく我に返った俺は灰色のデニッシュを一口食べてみる。味は案の定、クソマズだった。

 

「……絶版だあぁぁぁぁ!!」

 

 一拍置いて、俺は怒りに満ちた叫びを発する。曲がりなりにも助けてやったのに、恩を仇で返された。せっかくのデニッシュを豚の餌以下の物体Xに貶める形で。

 こればかりは我慢ならない。俺の趣味と食べ物に対する冒涜だ。

 すなわち、思い立ったが吉。灰色デニッシュをラップで包装した上でビニール袋に入れ、変身道具の入ったアタッシュケースも持ってガミーの追跡を開始する。実際に変身できるかどうかは知らんが、念のためだ。万が一はバグヴァイザーⅡでビームをグミ撃ちしよう。

 大急ぎで外に飛び出し、ガミーが消えた方へがむしゃらに走る。ヤツが依然として空を飛んでいるのなら、まだ見つけるチャンスはある。むしろ潜伏するな。面倒だから。

 やがて、俺の住んでいる街にあるイチゴ山という場所の麓まで辿り着く。この追跡の無謀さに徐々に心が折れそうになるのを何とか堪える。

 その時、不思議な事が起こった。息を整えながら辺りをふらついていると、何故か光っている少女を見つけたのだった。しかも、なんか変身している最中だ。

 

「キュアラモード・デコレーション! ショートケーキ!」

 

 そう言って、ショートケーキの小物を左手に持った手鏡に装填。それだけで変身はまだ終わらず、何やら化粧に使うペンを取り出した。

 

「元気と笑顔を! レッツラ・まぜまぜ!」

 

 ペン先からクリームが自在に放出され、少女が自由にペンを振るうとクリームが衣装に変化。ピンクと白のドレスになり、ついでに髪型も大きく変わってウサミミが生える。無論、尻尾も忘れていなかった。

 

「キュアホイップ! 出来上がり!」

 

 また、幻覚なのだろうか。そう名乗った一瞬だけ、少女の背後に巨大なケーキが見えた気がした。てか“キュアホイップ”って……え?

 一先ず、俺はそそくさと適当な木の陰に隠れて様子を窺った。よく確認すれば、ホイップの前にはガミー怪人態が悠然と立っていた。お前、ここにいたんだ。

 

「あなたガミーね! そんな姿になってるって事は、またキラキラルを奪ったの!?」

 

「誰かと思えばお前か。仕返しも兼ねて準備運動にはちょうどいいぜ!」

 

 どうやら両者ともに面識はあるようで、先にガミーが仕掛けてきた。繰り出されるラリアットをホイップはかわし、距離を取ってから反撃に移る。

 

「懲りてないならいいわ! そのキラキラル、皆に返してもらうから!」

 

 そう啖呵を切り、ペンからピンク色のクリームをビームのように出す。だが既存のクリームとは一線を課しているようで、かなりの攻撃力があった。クリームビームを正面から受けたガミーは仰け反り、かといってベトベトになっていない。

 ……プリキュアかな? もしかしなくてもプリキュアかな、あの子? 最近のプリキュアはよく知らないけど、プリキュアなら勝ち確間違いなしかな? 間違いないだろ、絶対。

 なら、俺の出る幕なんてないんじゃないか? このままあの子に丸投げするだけで、ガミーの撃破は約束される。危険を犯す必要はない訳だ。

 だって見ろよ、この戦場。クリームが盾になったり、ビームになったりしている。少なからず怪人として強くなっているであろうガミーと戦えている。これに介入するのは少しキツイものを感じる。

 

 さて、ここまで来て本当にどうしようか。灰色にされたデニッシュの件があっても、見守る一択しかない気がする。バグヴァイザーⅡオンリーでどうしろと。

 だが、予想に反して戦いの雲行きが怪しくなる。クリーム攻撃を浴びせられているガミーの口角が上がるや否や、片手間でクリームを蒸散させたのであった。

 

「ふん!」

 

「ウソッ!? 効いてないの!?」

 

 驚愕するホイップ。対してガミーはニヤニヤと笑う。

 

「ハッハッハッ!! これはいいや!! 思ってたよりも強くなってる!! そぉらあ!!」

 

「キャッ!?」

 

 刹那、ジャンプしたガミーは頭上からホイップを強襲。間一髪でホイップは避けるも、ガミーの踵落としが地面に炸裂。飛び散る多くの小石が彼女にバシバシ当たる。

 

 前言撤回。ガミーが強くてプリキュア負けそう。

 

「……俺は……何やってるんだ?」

 

 そして、ようやく本来の目的を思い出す。気が付けば地面に下ろしていたアタッシュケースとビニール袋を交互に見やり、再度ガミーへと視線を動かす。

 よくよく考えれば、アイツの怪人化には俺も不本意で関わってしまっている。怒りの感情を抜きにしても、やはりケジメはしっかり着けるべきだ。奇しくも、その道理を押し通すだけの代物が身近にある。

 それに、もう知らない振りを貫けそうな場面でもない。最悪、このままホイップがやられる可能性もあり得る。先に立たない後悔は、できる事ならごめんだ。

 腹を括れ、俺。ときめきクライシス以下一式がプレゼントされたのは、きっと運命的な何かだったんだ。だって俺の名前、仮野飛那だし。男なのにアスナだし。読みの強引さが千翼(ちひろ)みたいだし。

 

 何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。覚悟完了。命と心の火を燃やすつもりで、俺はアタッシュケースを開ける。

 

 

 ※

 

 

 前に戦った時--自分が初めてプリキュアに変身した日よりも手強くなっている。キュアホイップがガミーと戦って真っ先に感じたのがそれだった。怪獣サイズにはなっていないのに、目の前のガミーの変貌ぶりが怪獣時と勝るとも劣らなかった。

 キラキラルの力が足りていない。それでも負けじとホイップペンを動かす。だが、それよりも早くガミーが懐へと踏み込んできて、悠長にキラキラルのクリームを放っている場合ではなくなる。回避を優先するキュアホイップを、ガミーは執拗に追い掛ける。

 

「うわっ! ちょっとー!?」

 

 プリキュアの扱うキラキラルは闇を浄化し、光をもたらす。しかし、攻撃する暇を与えられなければ宝の持ち腐れ。ガミーから逃げ回るキュアホイップはどうにか反撃しようと試みる。

 

「あぶっ!?」

 

 すると、うっかり足を滑らせて転んでしまった。一方のガミーは成人男性とほぼ同じ体格になっているので、怪獣時と比べてスピードに優れている。狼のように素早くキュアホイップを追い立てれば、ご覧の通りとなった。

 

「フッフッフ……」

 

 足を止めたガミーの顔に浮かぶのは余裕。転んでいるキュアホイップをまじまじと見下ろし、早急に危害を加えようともしない。半ば、この戦いはガミーにとって遊びと化していた。

 だが次の瞬間、突如として放たれたビームがガミーの側頭部に当たる。ろくにダメージは負っていないが、気分を害されたガミーは咄嗟に発射元へと振り向いた。

 

「誰だ!!」

 

 ドスの利いた声が響き渡り、ギロリと睨む。そこには、バグルドライバーを持った少年--飛那がいた。顔立ちは中性で、腰にはゲーマドライバーが巻かれている。彼の後ろには、アタッシュケースが放置されていた。

 

「っ、ダメ! 危ないから下がって!!」

 

 遅れて彼に気づいたキュアホイップは懸命に制止する。阿須那の異様な点に気づくまでの余裕はなく、むしろガミーを早く倒そうと奮起する。

 そんな風に慌ただしくキュアホイップが立ち上がろうとしたところ、飛那は構わずに左手に持ったガシャットを起動させた。

 

『ときめきクライシス!』

 

 いきなり発せられた可愛らしい女の子の声に、ガミーとキュアホイップは思わずびっくりする。この間にも飛那は淡々と次の段階へ移る。背後にときめきクライシスのタイトル画面を立体化させながら、一言呟く。

 

「変身」

 

『ガッチャーン! レベルアップ!』

 

 同時にガシャットをドライバーに挿し、レバーを開いた。周囲に現れては横方向に回転するパネルの列の内、一枚を手のひらでタッチ。タッチされたパネルは飛那の全身を透過していき、その姿を戦闘形態へと生まれ変わらせる。

 

『ドリーミングガール♪ 恋のシミュレーション♪ 乙女はいつもときめきクライシス♪』

 

 ガシャットから可憐な歌声が流れ、変身が完了する。

 光が収まり、降臨するのは黄色を基調とした動き易いドレスアーマーだ。ドレスの下には黒地のスーツをぴっちり着ていて、素肌を晒さない。

 また、その時不思議な事が起こった。視線を上にすれば、中性的な少年の面影がすっかりなくなっていて、代わりに桃色ショートヘアーにカチューシャを身に付けた美少女の顔が乗っていたのだった。瞳は美しい青に染まり、健康的な柔肌が露出する。

 

 使用したのはゲーマドライバー。されども仮面ライダーにあらず。何の因果か、ここに誕生したのはライダー少女ポッピーであった。

 

「……ええぇぇぇーっ!?」

 

 これにはキュアホイップもとてつもない衝撃を受ける。何せ、明らかな男子が目の前で女子になったのだ。容貌が中性的でも男だと判別できたものが、体格や身体の線も含めて完全に別人になってしまっている。無理もない。

 それからしばらく呆然するキュアホイップとは対照的に、ガミーはポッピーの前に立ち塞がる。先ほどのビームの仕返しついでに、標的を彼女に移す。

 

「へぇ、お前も変身できたんだな。でも俺に敵うと思っ--あぶっ!?」

 

 にへら笑いしながら語るのも束の間、目に留まらぬ速さでガミーはアッパーされた。あっという間に間合いを詰めたポッピーのスカート裏とシューズ裏には、内蔵されているスラスターの火が仄かに揺らめいている。

 それから、アッパーを受けて宙に舞うガミー目掛けて容赦なくバグヴァイザーで発砲。数多のビームが放たれ、無防備になっているガミーに次々当たる。効果的なダメージを与えているかどうか問われると微妙だが、ダメージ蓄積は確実に起きていた。

 

「ぐおおっ!?」

 

 ビームを受けた反動で宙に舞う距離を伸ばされ、ようやく地面に転がるガミー。表情には苛立ちが垣間見え、怒りの咆哮をポッピーにぶつける。

 

「うぐぐ……!! 俺を舐めるなァァァァァァ!!」

 

 そして地面を全力で蹴り、相応に肥大化している剛腕をポッピーに突き出す。

 

『ガッチャーン』

 

 その寸手、ポッピーは僅かに顔を横にずらすだけでガミーのパンチを避けた。並行して右手に持つバグヴァイザーをチェーンソーモードに切り替え、ひたすらガミーの胴体を殴り付ける。打突と斬撃の重たい複合技を何度も食らう羽目になったガミーは、呻き声をくぐもらせながら後ろにどんどん下がっていく。

 

 本来ならガミーも含めて、彼をリーダー格とした悪い妖精の一味にはただの肉弾攻撃は通じない。キラキラルを用いたクリームエネルギーが唯一の有効打であり、浄化技でもある。とはいえ痛覚は確かに存在しているし、あらゆる物理法則を無効にする訳ではない。例えダメージがなくともタンスの角に小指をぶつければ痛く、辛いものを食べればしっかり辛いと痛覚は働く。

 つまり、反動や衝撃などは消されないのだ。また、バグヴァイザーのビームといった高熱エネルギーには、肉弾とは根本が異なっているのでダメージカット率は極めて百パーセントに近いだけ。キラキラルを吸収して強化されている妖精のガミーは、ブラックホールに吸い込まれてもミンチになるどころか無傷でピンピンと生きていられる超生物ではない。生き物である以上、限度はあった。

 

 故に、ケガは負わないのに痛い思いが続くという現象にガミーは襲われる事となった。ポッピーの怪力も相まって。

 

「す……すごい……」

 

 いつの間にか置いてきぼりを受けていたキュアホイップは、ポッピーの戦いぶりをじっと眺めていた。自分とは根底から異なっている戦闘スタイルに少しばかり恐ろしさを覚えつつも、ガミーを圧倒できている点に関しては素直に評価せざるを得ない。

 

「はっ! いけないいけない! 私も戦わないと!」

 

 ようやく傍観から抜け出せたキュアホイップは、首を横にブンブン振って気持ちを切り替える。

 

「いちかちゃーん!」

 

「いちかー!」

 

 加えて、遠くからキュアホイップの本名を呼ぶ声が聞こえてくる。最初に呼んだ方が有栖川ひまり、呼び捨てにした方が立神あおい。最近になって親しい友達になったばかりの女子二人だ。

 スイーツパクトを取り出しながら大急ぎで駆け寄ってくる彼女たちに、キュアホイップの顔色が明るくなる。

 

「あっ、二人とも! 来てくれたんだ? よく場所がわかったね?」

 

「はい! 空の色が変わっていたので」

 

「またスイーツの想いが踏みにじられたら黙ってられないでしょ! ところで、あっちの子は?」

 

 キュアホイップの疑問にひまりは手早く答え、あおいは威勢の良さを見せながらもポッピーの方へ目が動く。

 しかし、キュアホイップが事情を説明しようとした頃には、ポッピーとガミーとの戦いにクライマックスが訪れていた。

 

『キメワザ! ときめきクリティカルストライク!』

 

 思い切りジャンプしたポッピーは、よろよろと足元が覚束ないガミーに向かってライダーキックを繰り出す。キメワザ発動時に足へチャージされたエネルギーが、ガミーの胸部へ炸裂した。

 

「うぎゃああァァッ!?」

 

『会心の一発!』

 

 キックの衝撃でガミーは後ろに大きく吹き飛ばされ、ポッピーは華麗に着地。だが、クリームエネルギーを使っていなければ決め手にならず、一度は地に伏せたガミーも数秒後には立ち上がった。目立った外傷はなく、肩で大きく息をする。

 

「ハァ……ハァ……んだよチクショーッ!!」

 

 より怒りと苛立ちを露にしたガミーは、その場で地団駄を踏む。これを見てポッピーは軽く「チッ」と舌打ちし、二度目のキメワザを発動しようと試みる。

 その瞬間、キュアホイップがポッピーの前に割り込んできた。

 

「はい、ストップ! 後は私たちに任せて!」

 

 突然のキュアホイップの差し水にポッピーは目を白黒させるも、納得のいった様子を見せては無言で下がる。そんな彼女と入れ替わるように、ひまりとあおいが前に出た。

 

「「キュアラモード・デコレーション! カスタード / アイス!」」

 

 それぞれスイーツパクトにアニマルスイーツをセットし、放出されるクリームエネルギーを操って衣装に変換し、自分の姿を変えていく。

 

「勇気と! 知性を! レッツラ・まぜまぜ!」

 

 ひまりの使うクリームエネルギーは黄色。せわしく服装が変わっていき、やがてリスの耳と尻尾も生えてくる。

 

「自由と! 情熱を! レッツラ・まぜまぜ!」

 

 一方であおいは青色のクリームエネルギーを使い、革ジャンとアシンメトリーのドレスに。ライオンの耳と鬣、尻尾、肉球も付け加える。ライオンのメスに鬣はないと突っ込んではいけない。

 

「キュアカスタード! 出来上がり!」

 

「キュアジェラート! 出来上がり!」

 

 かくして決めポーズと名乗りを終えた二人のプリキュアは、改めてキュアホイップの隣に並び立つ。

 

「行くよ! この前みたいに三人の力を合わせて!」

 

「おう!」

 

「わかりました!」

 

 キュアホイップのかけ声に二人は元気よく応じ、開幕早々必殺技の構えへ。各自ホイップペンを手に取り、スイーツパクトから溢れ出す膨大な量のクリームエネルギーを飛ばし、合わせる。ピンク、イエロー、ブルーの三色が混ざり合う。

 

「「「キラキラキラルン、キラキラル!」」」

 

 声も合わせた三人は、練りに練ったクリームエネルギーを一気に放った。その射線上に立っていたガミーは避ける暇もなくクリームエネルギーに飲み込まれ、その中に包まれる。

 こうなってしまえば、今まで吸収したキラキラルは全て体外へと排出され、灰色になったスイーツの元へと戻っていく。クリームエネルギーはガミーを包んだまま一つの球体に凝縮され、勢い良く綺麗に弾け散った。

 

「こんなはずじゃあぁぁぁ!!」

 

 捨て台詞を吐きながら、小さなサイズに戻ったガミーは慣性に従って空の彼方へ消えていく。清々しいまでの短期決着であった。

 排出されたキラキラルは虹色に輝きながら宙をふらふらと漂う。そこにポッピーがラップ包みの灰色デニッシュを持ってくると、吸われるようにしてデニッシュに戻っていった。以前のきつね色を取り戻し、中身の生クリームも甦る。

 その一部始終を間近で見守っていたポッピーは二、三度瞬き、生クリーム入りデニッシュの復活を理解するや否や――

 

「よっしゃ!!」

 

 周囲の目を憚らずに両手を上げて、喜びの声を発した。表情は歓喜に満ちており、身体が小躍りしている。とっくに出来立てホヤホヤではなくなっているが、あのまま灰色クソマズパンとして完結させるよりはマシというもの。しまいには小刻みに跳ねながら、その場をグルグル回る始末だ。

 

「ヤッホ! ヤッホ! ヤッホ! ヤッホ!」

 

 そんなポッピーの姿にプリキュアたちは微笑む。何はともあれ、悪さを企んだガミーは成敗し、不条理に奪われたキラキラルも取り返して人を笑顔にした。特に不満を抱くところなど一つもない。

 そして頃合いを見計らい、キュアホイップが彼女に話し掛ける。

 

「さっきは助けに入ってくれてありがとう。あなたの持ってるそれってデニッシュ? あ、クリームが入ってるね。じゃあ菓子パンか!」

 

「へ? あぁ、うん。何だかガ……さっきのモヒカンに灰色のクソマズパンにされてさ。だからこっちこそ感謝してる。ありがとう、アイツをぶっ飛ばしてくれて」

 

「どういたしまして。困った時はお互い様、だね!」

 

 お互いに感謝を告げて、にこやかに笑うキュアホイップ。そこに水を差すようにして、ふとキュアジェラートが自分の疑問を呟いた。

 

「うん? パンなのにキラキラル入ってるの?」

 

「菓子パンっていうのは日本独自の概念で、他の国ではイーストで膨らませたケーキの一種と言われてます。だから別に不思議じゃないと思いますよ?」

 

「へー、なるほど~」

 

 横からキュアカスタードの説明を聞き、キュアジェラートはポンと手を叩いて得心を覚える。

 そうこうしている内に、ポッピーは自分の荷物をまとめに入った。そこら辺に放置したアタッシュケースを拾い、変身を解除しようとする。

 その一歩手前、何の前触れもなくポッピーの動きが止まった。金縛りの如く微動だにせず、キュアホイップたちは不意に首を傾げてしまう。ポッピーの視線の先には、鏡と言っても謙遜なく周囲の景色を写し出す金具がちょうど存在していた。綺麗に磨かれた金具の中のもう一人の自分から、ポッピーは目を離さない。

 徐々に指先が震え始め、鏡代わりのそれをバッと覗き込む。空いた手で何度も自分の顔を触り、その感触を確かめると膝を落として大きく俯いた。

 

「あ、あれ? 急にどうしたの? どこか具合悪い?」

 

 急変したポッピーの様子を案じたキュアホイップは寄り添い、他の二人もやや不安げな表情で彼女の側に座る。すると――

 

「ピ……」

 

「「「ピ?」」」

 

「……ピプペポパニック」

 

 そこはとない悲しみの色に包まれながら、ポッピーは静かに天を仰ぎ見た。




Q.こら。敵を倒すんじゃなくて、敵を料理しなさい。

A.パン職人なので叩いたりするのはセーフ……だといいな……


Q.キラキラルガシャットを神に作ってもらわなければ。

A.もしくはレペル1になって、キラキラル摘出という名の肥満治療を。


Q.この世界におけるライダーシステムの修正パッチは?

A.総じてプリキュア寄りになります。男だってお姫様になれるなら、仮面ライダーだってプリキュアになれる(白目)
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