黒の妖精と幻想国の少女   作:片椅子

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少女は、知った
兄がもういないことを
「…私が、殺したの?」
だから、知りたいの
私は、どうすればよかったのか
この空白の心は
もう、どうしようもないんだ


ずっとそれでいて

ああ…なんて虚しい

兄さんのいなくなった部屋は、ただ読めもしない本ばかりの書庫のようだ

ああ…あの時『わたし』がちゃんと恐怖をコントロール出来ていれば

兄さんは殺されずに済んだのに

『ああ、なんて虚しい

私の心は過去に囚われたまま

ずっと、このまま…』

 

 

「…×××、起きて」

声がした、兄さんに似て、少し低い

この声は、2番目の兄

「…どうかした?」

困った表情まで兄さんに似てるのね

それもそう、私たちは兄弟だった

「どうかした?って…とーさんが呼んでる」

こっち来て、と手招きして、2番目の兄は言う

兄、名前はなんだったか

「まぁ、いいか」

面倒だけど、とこぼし、兄の背中に付いていく

でも、だめね

この背中では無かった

兄さん…

私が恐怖をコントロール出来なかったから

だから、兄さんは『殺された』

ああ、やはり虚しい

何故?

何故兄さんは殺されなければならなかったの?

それは、全て私のせい?

ええ、私のせいね

でも、なら、私を殺してくれれば良かったのに…

私、兄さんになら、殺されてもいい

構わないのに…

「…もう、誰も私を殺してはくれないのね」

兄さんはいない

もう、絵本を読んでくれることも

もう、あの笑顔を見ることも

全て、叶わない

「着いたよ?大丈夫?とーさんは×××に用があるらしいけど…」

「平気、あなたは?」

「あ、俺は仕事があるから戻るよ

じゃあ、また」

「…ばいばい」

軽く手を振り、兄と別れた

残されたのは私1人

目の前には扉

ほかの部屋とそんなに変わらないのに

少しアンティーク材で出来ている

そんな扉を開けて、私は中に入った

 

 

中は兄さんの部屋に似て、足元や机に紙類や本が積まれていた

中央の机に肘を置いて、父は座っていた

威厳がある…という訳ではないけれど

それでも伸びた髭と、高身長の体躯

それでいて眼光は強く、射抜く

これが、私の父

「…兄から聞きました、何の御用でしょうか」

会いたい、そんな感情はあいにく無い

父へは社交辞令を通して、早く終わるように願うだけだ

「お前の2番目の兄、あいつももうすぐ役目のために外へ出る」

「…」

「だから、お前もそろそろ決めなさい

外へ出るのか、この地で生きるのか」

「…私は」

 

 

 

この国は、ある種の空間の狭間にある

悪魔の国…そう呼ばれ、迫害を受けたからだ

悪魔の国の王と民は、当時あるだけの力を使い、この空間へ逃げた

それだけの力が、悪魔『ミスーティア』にはあった

まだ完全に全て分かった訳では無いのに、彼らには襲う以外の生体があった訳だ

そして、生き残った民は安堵し、この空間から出ることはしなかった

しかし、やはりいるものだ

外の世界に憧れる者が…

外の世界を憎む者が…

王は決断した

成人を迎えた男子は、外に出て、『悪魔の力で人間に知らしめて来い』

成人を迎えた女子は、外でも中でも

自由に選択させる

 

ーーーこの為に、何人が犠牲になったことか

 

 

私は、もう決めている

兄さんのいない世界

けれど、その残滓にしがみついて生きている

会いたい…

もう一度、兄さんに会いたい…

あの弱い自分を殺して、今の自分とすげ替えたい

それほどに、愛していた

 

 

 

「私は、外に出る」

決断など早い

もう決めていた

外に出て何があるか?

そんなものどうでもいい

ただ、兄さんのいないこんな世界

ーーー大嫌いだ

「そうか、お前は外に出るか」

感慨深い声を出して父は言った

止めはしない

これはこの世界の法則だ

自由にしろ、それは絶対だ

「…兄と共に出るか?」

「いいえ、私は私のタイミングで出ます」

「…分かった、話はこれだけだ

外へ出て、その思考がただしかったと

証明しなさい」

「…」

父はそう言って言葉を切った

私は一礼して部屋を出る

背後にちらつく父の姿など、知らない

 

 

 

 

2番目の兄は、一週間後に出ていった

私が出ることは兄には伝えていない

どうせ、もう会うことなんて無いんだから

「…私も、行かないと」

出会いを求めて?

くだらない

そんなものに時間なんてかけていられない

「虚しい、この心を誰か埋めて」

それこそ、無駄だと知りながら

私は、この国を出た

 

 

さようなら、兄さん




…あなたが?

わかっていた、これは仮初だ
慣れない地上も、陰り曇らせる人間達も
でも、誰も知らない
悪魔の事を
私たちは知っている
『恐怖』が、世界を左右する
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