家の近くの緑色と桃色に包まれている桜の木に、やや強めに風が吹いている。四月の中頃と言ったところであろうか。
ある1人の学生がその桜を寝ぼけながら見つめていた。彼はまだ午前中であることを祈りつつ時計を見たが、時刻は既に一時を回っていた。少しショックを受けた様子だった。彼は残念そうな顔で再び布団の中へ殻に籠るように入っていった。
学生の名は播磨 正悟(はりま しょうご)。高校生の彼は休日からか、情けない事に、このような時間まで寝ていたのであった。布団の中から顔だけを出し、寝ぼけながら葉桜を眺めいていたのであった。
だがある時、彼の耳元で着信音が鳴り出しのであった。携帯電話の画面には『神明』という文字が映し出されていた。播磨はこの時点でなにかを察していた。
播磨は寝床の近くにたまたまあった消費期限不明のカレーパンを食べつつ、少し焦りながら家を出る支度を始めた。そして、電話に出る。
「もしもしー。どうしたの?」
と、播磨は軽い口調で答える。
「大体分かってると思うけど、事件よ。あんたの家の学区内の八丸銀行。真っ先に向かえるのあんたぐらいだし、それに手っ取り早いからさ、至急向かってくれるかしら?」神明は非常に冷静に播磨に要件を伝えた。このようなやり取りに慣れているかのように。
「えーと、だるいから無理なんだけど。」
播磨は面倒くさいからか、嘘を付いた、というよりかは神明に難癖を付けてみた。
「そんなのもう聞きあきたし、ていうか立場わきまえてるの?いいから向かって。」
神明は冷たく彼に言いつけて、通話を終えた。
「はいはい分かりましたよー...。」播磨はそう小声で呟きつつ、身支度を進めていた。少し経つと彼はだらけながら自転車で八丸銀行へと向かい始めた。
ーー午後1時32分頃事件発生。案件は銀行強盗。現場は当学区内の八丸銀行です。犯人グループは3人組の模様。
今回の事件の詳細らしい。春の季節は何故かは分からないがこのような事件が少し多い気がすると播磨はふらっと考えてみた。
「いや、そんなことないのかなー ...。」小声で呟き自転車で例の銀行へ向かいつつあった。
「全員おとなしくしてりゃあ、命は救ってやるよ。だから黙って大人しくしているんだな..
.. !」
目以外全て真っ黒に包まれている男はナイフを片手に持ちながらこう叫んだ。彼の周りでは仲間と思われる2人が銃を構えつつ見張りをしていた。銀行の窓、入口はシャッターなどで完全に閉じられていた。外には多くの野次馬などが見られた。
播磨は自転車を止め、事件現場である八丸銀行に到着した。そういえば警備員(アンチスキル)はまだ来てないのかと少しだけ考えてみた。だが、実際はそんな事どうでも良かった。彼はすぐにまた別のことを考え始めた。
ーーーなんで、この街はこんなにデリケートなんだろう?人口230万人。だがその内のほとんどは学生。だからかは知らないけどこの都市は
学園都市と呼ばれている。そんな大規模な都市がなぜこんなにも荒れるのかな。
やっぱり、最先端どころか近未来なこの学園都市ではどうしても「落ちぶれ」が存在してしまうから?それとも、都市の上層部の人間や研究者達の思惑によるもので、それぞれの「将来の世界のため」と言う名の「私利私欲」なのか?もし後者だとするならば、俺は絶対それを許したくない。例え立場上関係の深い奴でも。そう。許さないんだ。あいつらは、あいつらだけは、絶対に...。――――
ここで播磨はふと気がついた。
いけない。また変な事を考えていた。今はさっさとこれを終わらせて帰って「みんなでミニチュア」を見るんだ。今は1時40分。よし、2時半の放送開始までには十分間に合うな。やはり生で見ることに意義がある、うん。だから敢えて録画はしない。
「さて、事件解決しますかね」
そう呟き、ひっそりと周りから姿を消していった。誰も彼の事に気がつかなかった。
その2分後くらいだろうか、銀行内から大きな音がした。その瞬間、シャッターに大きな穴が開き、犯人グループの一人が店内から追い出され、道路の向かい側の街路樹のそばで気を失っている。それに気付いた犯人の一人がこう叫ぶ。
「おい誰だ!好き勝手に暴れてる奴は!!」
これにある男が反応する。犯人の男に向かいながらこう伝えた。
「おいおい、よくも好き勝手やってくれたなぁ。で、もう覚悟は出来たか?」
そう伝えた瞬間彼は犯人の目の前に移動した。だが、周りの人達には移動したようには見えはしなかった。
「じゃ、さようなら。」
そう小声で呟き彼は犯人の男の腹に拳を打ち込む。そして男はへっぴり腰で腹を抱えながら後ろへ下がり、いつの間にか気絶した。
「お、お前ぇ、な、何もんなんだよぉ!?」
犯人最後の一人が彼に怖気づいたように質問した。すると彼は最後の犯人にこう言う。
「ジャッジメント(風紀委員)だよ。でもよ、そこらの奴らとは違うけどな。」
それを聞いて犯人は路地へ向かって走り去っていった。
「こ、こん畜生うぅ!!覚えてろよ!」
犯人は道路脇に止めてあった自分達の車に乗り込もうとする。
「おっと、下手に逃げるのはやめておいた方がいいと思うぞ。」
犯人が振り返った瞬間に車が宙に浮いた。いや違う、これは落ちてくると犯人が察するまでもなく犯人の真上に車が落下していく。
「う、うわあぁぁーー!!」
ガッシャーン!という大きな音と共に犯人は車に潰されたのであった。
炎上する犯人の車の姿や後ろから巻き起こる歓声と拍手が目や耳を通じて伝わってくる。時折「ありがとー!」とかそんな感じの言葉がはっきりと聞こえて播磨は少し照れているような仕草をした。
そんな中、ある女が播磨に向かって歩いている。そして隣まで来てこう播磨に言った。
「あら、お疲れ様。中々派手にやらかしてるのね。」
播磨にこう言い放ったのは先ほど播磨に電話をかけてきた神明だった。神明 華蓮(しんめい かれん)彼女も風紀委員所属だ。
「まあただ、仕事をしただけだし....。どうせ上が払ってくれるさ。」
播磨は少々ふてくされながらこう返した。
「それもそうよね。まぁどうにかなるでしょう。」
神明も何だかあっさりとした感じで続けて返事をした。
「じゃあ今からは室内で頑張ってもらいましょうか。」
「え、何すんのこれから。何かあったっけ今から?」
「他の支部向けの書類の作成よ。急遽入って来たの。まぁ3時頃には終わるでしょうね。」
「何それ聞いてないんだけど....?」
「予定外なのは皆そうなのよ。まさかまたサボる気なのかしら?」
薄笑いをしながら普段神明が隠し持っている銃をちらちらと播磨に見せながら片手で掴んだ。
「分かってるよ行くよ!もう痛い目なんて見たくねーよ!」
少々興奮気味にこう口にした。
神明の銃は確か「M4」とかそんな名前だった気がするなとあまり関係ないことを考えながらも自転車でふらふらと風紀委員の支部へと向かった。
「播磨....流石ね。『あの人』が認めただけあるわね....。私もがっかりさせないようにしっかりサポートをしないといけないわね....。」
神明は心の中でそう呟き、播磨に続くように支部へと早歩きで向かったのであった。
「さて、着いた着いた。ちゃっちゃっと終わらせちゃいますかね....。」
播磨は案外気楽に風紀委員の支部へと入って行った。どんな量の仕事が待ち受けているのかすら知らずに階段を淡々と上がって行くのだった。