「あ、播磨くん、おはよう。」
何処に座ろうかと少し悩んでいた播磨に優しい声でこう話しかけて来た。
「おお、相良(さがら)。おはようやな。」
播磨は振り返ってあいさつを返した。
「良かったらここどう?」
隣の席を指差しながら播磨を隣に座るように誘った。
「じゃあ遠慮なく座らせてもらうか~。」
そうして播磨はよっこらせと席に着き、授業のチャイムが鳴るまでの間、休日の間にあった事やテストの事など他愛も無いことを話していた。
そしてそうこうしているといよいよ1限目の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「よし、始めようか。て、あー号令だな。とりあえず播磨頼むよ。」
隣の準備室から出てきた若いめの先生らしき人物がこう話した。
「あ、起立。気を付け、礼。」
播磨は慣れた口調で授業開始の号令を言った。そしてそれが終わると生徒は着席していった。こうして授業が始まったのである。
授業は少人数で行われている事以外は特に変わりは無い。普通にさっーと進んでいった。授業に関してはそこまで他の学校と違う物をしていないようだ。勿論能力開発のカリキュラムについては例外である。
帝ヶ崎が文系への進路に比較的特化しているのは、学校性も去ることながら、学園都市の行政機関などが集中している第1学区にあるのも多少は影響しているのであろう。
第1学区は住み心地があまり良くないらしい、というか実際あまり住みやすくはないかもしれないが、帝ヶ崎の場合は中心地から少し離れた山に校舎、グラウンド、寮、更にはちょっとした学生向けの商店街が集中しているのでそこに関しては不満はあまり出ていないし、播磨達にも無かった。
そして時は過ぎ、最後の授業が終わり下校時のホームルームを迎えようとしていた。
「おいおいハリマー。お前週末課題ちゃんと出したか?」
八尾が播磨に対してちょっかいを掛けるようにして話し掛けた。
「当然だろ?能力禁止でグラウンド10周走らされて反省しないドMさんなんてほとんどいねーよ。」
「あれは自業自得やろ。まさか怒りのあまりに宿題を全て燃やす暴挙に出るなんて、お前は革命家か何かかいな?」
「あの時はなぁ....。ちょっとグレてたというかなんというかなぁ....。」
播磨が頭を抱え込んだ。それに対して八尾はハハハと笑った。
「おーい播磨。ちょっと来てくれ。」
チャイムが鳴る前にホームルーム教室に入って来た担任が播磨を呼んだ。
「は、はい。」
それに反応し八尾との会話の途中ながら小走りで担任の方へ向かった。
「ちょっと放課後に生徒指導室に来てくれないか?何の様かはお前なら分かるだろうけど。」
担任の元へ着いた播磨にこう伝えた。すると何かを察したかのような顔をして、
「またあれですか....。」
と少し呆れ気味になりながら返した。
放課後の掃除を終えて播磨が向かったのが管理棟の3階にある、生徒指導室だった。そこへ入るドアをノックをし、ドアノブの握りくっと回して入った先には、他の校舎、部屋とは雰囲気が完全に異なる和の空間が広がっているのだ。
生徒指導室に入ってからは木で出来た廊下があり、順に受付所、面談室が複数、準備室、そして生徒裁判所という初めて聞くと若干引くであろう部屋がある。播磨の用事があるのは一番奥にある生徒裁判所である。
本格的な和風な内装で構成されている生徒指導室の中でも特に大きくかつ豪華な内装をしているのが印象的で、視界のあちらこちらにある金箔や大きな松の絵が目に入り込んでくる。そして大広間のような構造の生徒裁判所にずらっと
座布団と正座した際に使う簡易的な机が用意されてあった。
「播磨か。またすまんなまたわざわざ。だがどうしても手続きとかに風紀委員のトップのお前が必要なんだ。」
播磨が来ている事に気付いたある大男が話し掛けた。彼は生徒指導の主任だ。
「いやそれは仕方ないことですし....。何とも言いようがないんですけどね。」
播磨は少し弱気になって返した。どうやらこの謎のシステムに反論すると厄介事になるのはとうの前に察しているようだった。
「そうか。後5分で始まるからそろそろ席に着いて欲しい。」
「了解しました。」
この会話を最後に2人ともそれぞれの行くべき場所へ戻っていった。
配布されている資料を見ると今回の被告は『寮内での過剰な能力使用とそれに伴う器物破損』という容疑らしい。普通の学校なら生徒指導による厳重注意とか謹慎とかで済む筈なのだが、この学校は戦前の大日本帝国の流れを未だに汲んでおり、更にそれらを独自で変え、この現状にたどり着いたようだ。
それは制服にも現れている。学生服の上に勲章の様な物がついている人がいる。まるで軍隊の将軍のようだ。勲章という名の通り何か重要な立場についたり、学校指定の功績があると授与される。播磨の場合は4つある。
はっきり言ってしまうと帝ヶ崎は右寄りの学校だ、それもかなりのである。だが生徒には不満は特にないようだ。やはり設備の充実さが物を言うそうだ。
そしていよいよ裁判という名の茶番劇ほどではないがショーが始まったのである。
「よし、被告をこちらへ連れて来い。」
と、生徒指導代表がある生徒に伝えた。
「かしこまりました!」
するとその生徒がはきはきとした声で返事をし、小走りで待機室にいる被告を連れ出しに行った。
「あれも生指寮の被害者だな....。」
播磨がきびきびとした生徒の動きを見て確信しながら小さな声で呟いた。
「生指寮の恐ろしさ、良く理解しているようだな....。やはり役職が役職なのか。」
播磨の呟きに隣席のある生徒が反応した。
「そんなあんたはどんな役職で?生徒会関係か?」
播磨が顔の向きを変えて直感的に質問をした。
「あぁそうだったな。これでもだいぶ前から生徒裁判官になものでな。ここに来ている訳だ。」
「あんたも被害者の1人という訳か....。」
播磨は呆れ気味に同情をした。
「にしても生指寮には脱帽するよ。あそこは人間改造所みたいなもんだからな....。拘置所の独房を若干改良したみたいな場所で自衛隊みたいに毎朝起床ラッパで起こされ、そこから1日全て生指の言いなりとはな....。そらやらかす奴も年々減るわな。」
「その目、恐れているな。何か心当たりでもあるのか?」
「無いけどいつかやらかしてしまいそうなんだよな。これでも昔は結構あれだったからな...。」
ーーーーそう、昔の話だ。今はただ真っ直ぐ道を進むだけだ。だから、だから....。ーーーー
「おいどうした?」
はっと気が付いたような感覚がした。
「不思議だな。会話中なのに急にぼおっとするなんてな。」
「あぁ、すまんすまん。たまにあるんだよなぁ....。」
播磨はその場しのぎの会釈で対応した。
結局、被告人は反省の意が良く確認できるという理由で刑は修理代分の罰金と、4日間の自寮内謹慎で済んだ。播磨としては、風紀委員に特に影響が無く安心だった。生指寮に入った者は半強制的にしばらく風紀委員に入らさせられ、
そのための手続きが面倒だからだ。
「そういやお前名前なんて言うんだ?聞いてなかったな。俺のはもう分かるだろ。」
裁判を終えて生徒指導室を出、階段を降りている途中に唐突に話し掛けた。
「そういえばまだ言っていなかったな。外京。外京 直仁(げきょう なおひと)だ。」
「分かった。じゃあまた会う機会があったらって、どうせまたあそこで会うけどな。」
「それもそうだな。」
2人はこの会話を最後に別れた。
「よし、向かうか~。」
播磨は軽い足取りで第1支部の方へ向かっていった。