「うわ、何じゃこりゃ...。」
播磨はコピー機の隣の机に山積みにされてある大量の書類を見て絶句した。
「新年度が始まったばかりなのにいきなりこれかよ...。どうかしてるぜおい。」
「新年度だからこそよ。この時期忙しいのは日本国民である以上宿命なんじゃないの?」
神明は播磨の愚痴に対して手を動かしながらこう適当に返した。まあ確かに、神明の言う通りなのかもしれない。だがそれでも不満はある。
「俺達はいつから社畜養成所の構成員になったんだ?呆れるぜ本当。」
「そんな事言う暇あったら働いたら?文句は言う癖に行動しないのは社畜じゃなくてただのニートよ。」
少々呆れ気味に神明はこう返事した。言っていることは正しいと思う。ただ少し毒舌過ぎないか?と播磨は感じていた。まぁもう慣れたのでやっぱりそこまで何ともは思ってもいなかった。
少ししたら播磨も仕事をし始めた。どうやら他の支部へ送る書類が大量に溜まっていたらしい。期限がかなり近いからこうやって急な呼び出しが来たらしい。やれやれ、事務の人たちにはもうちょっと書類管理は頑張ってもらわないと。「学生だから~。」という言い訳はこの風紀委員では通用しないということを俺が行動で示してやろうと、さっき文句を言っていたが播磨は燃えていた。
時間は既に午後2時を回っていた。だが播磨はそんな事気にせず左手でコンビニで買ってきたバタークッキーを取りながらパソコンの画面と向き合っていた。
『......新学期と言うこともあり、各支部付近の状況把握のために各支部毎にA4両面5枚のレポートを作成してもらうことにする。期限は4月中とする。 以上 第1支部』
やっと1種類終わった。播磨は大きく息を吐き出した。
「事務に出しに行くかな...。」
そう呟き席を後にした。
「コンコン」
「あ、どうぞ~。」
播磨はドアを開けた。
「あ、ごめんこれ例の書類の一部なんだけどこれでどうだろうかな?」
「確認しますね~。ちょっと待っててください。」
播磨にこう答えたのは事務室の「烏森(かすもり)」さん。薄い桃色の髪に眼鏡、そして小柄な体型だ。そして性格は温厚な方。少なくとも播磨はこの人に悪いイメージは持っていない。
だがしかし、よくよく考えたらこの事務室は皆を苦しめている書類無断遺棄事件の発生現場じゃないか。ここは支部長として一回注意を入れてやろうじゃないか。そう播磨は心の中で決心した。とりあえずその内の1人烏森さんに注意をすることにした。
「とりあえずざっと確認したんですけど、特に問題はありませんでした。引き続きお願いします。」
「ありがとう。それとこっちからも言いたい事があるんだよね。」
「はい、何ですか?」
「この書類関係の事なんだけど、これ期限近いのに急に出されて皆困ってるんだよね。何があったの?」
「あっ...えっとそれは...。」
烏森さんが椅子に座りながらもじもじしている。もしかして主犯はこの人なのか?と播磨は疑問を感じた。
「実は...私がもう使用済みの書類だと勘違いしてて倉庫に締まったままにしてたんです。そして昨日過去の書類データを漁ってたら気付いて...。」
「えぇ...。」
「すみません!私のせいで皆さんに迷惑かけてしまって!本当にすみません!」
烏森さんが俺の前で必死に謝っている。小さい体全体で。どうやら反省はしてるみたいだな。と播磨は感じていた。
「まあまあ、そこまででいいよ。烏森さん反省してるみたいだし、ただ次からはないようにしようか。」
「以後... 気を付けます。」
その言葉と同時にさっきまで床を向いていた顔が上がり、播磨と目が合う。目が若干涙ぐんでいるようだ。
「ん...?」
播磨は心の中で呟く。か、可愛い...。播磨は顔をほんの少し赤くしながらそう思った。だが少しして咳払いをして播磨はこう口にして事務室を後にした。
「じゃあ、よろしくねー。」
「はい...頑張ります...!」
烏森もこう返した。
そして自分の席に座る播磨。時計を見たところ、時間はすでに午後3時だった。だが書類は まだ終わらない。ひたすらパソコンの画面とにらめっこをしながら、キーボードを高難度もぐら叩きのようにひたすら文字を打ち込んでは、訂正を繰り返した。
「播磨、お茶入れたから置いとくよ。」
神明の声だ。視線をパソコンから左上に移すと彼女の姿があった。
「あぁごめんわざわざ。ありがとう。」
「別に礼なんていいのよ。あなたの補佐である私の仕事だし。」
冷静に神明はこう答える。少しくらい照れたりしてもいいだろと心の中でツッコミを入れる播磨。
暗めの茶色ロングヘアーに俺の学校でもある「帝ヶ崎高校」の制服。なぜ制服?まさか週末朝の定番「希望者補習」に律儀に参加しているのか?だとしたら恐ろしい奴だ。つくづく播磨は驚愕し、そして困惑した。
「この1杯、大切に飲まさせて頂きますぅ...。」
播磨は神明の横でお辞儀をしながらこう呟いた。
「どうしたの急に?また変な茸でも食べたの?」
神明が失笑気味にこう返した。
「怪しい茸はそもそも1回も食べたことないんですけど...。」
瞬時に播磨は返した。フェイクニュースを流されてたまるか。そう感じたのだろう。
「そう?ならいいんだけどね。」
そう残して神明は自分の席に戻った。
そうこうしている内にいよいよ書類作業も大詰めを迎えて来た。何かを記憶の中に置き忘れている気がするがそんな事気にしていたら仕事が終わらない。播磨は前向きになっていた。
ある時、播磨はふと自分の席の周りを見回してみた。
「やっぱりここは大きいなぁ...。」
そう小声で呟いた。それもそのはずであり、播磨達が所属する風紀委員第1支部は周辺の学区の管理だけでなく他の支部全ても管理する司令塔のような役割もあるからだ。そのため、他の支部よりも建物、人員の規模が大きくなってくる。
播磨はまず左の方を見回してみる。彼の正面に続く机とパソコンと人列の奥に事務室へ繋がる扉がある。右を見てもやはり机、パソコン、人の行列だが播磨の席の真横の奥の方に2階と地下へ繋がる階段。2階には学園都市全体を監視するメインモニターがある。そして地下に資料保管室。第1支部所属の人はだいたいざっと30人くらいで前後している。年によって人数は多少変化するのだ。
「机を見たらその人はどんな人なのか、見えてくる。」
そんな事を大分前誰かに言われた気がする。まあ間違ってはいないなと自分の真正面にある机達を見て播磨は思った。
例えば神明。自分の机の一部が銃の保管庫と化している。拳銃が2丁、短機関銃らしきものとスナイパーライフルあろう物、確か「M4」だっけ?それぞれ1丁ずつ。本人曰く、特例でセーフなのらしいがそれでも心配する。後は狐、豚、狸のソーラーなんたら。光が当たって動く奴。
では神明の隣の大須 (おおす)はどうだろうか。PCゲームのソフトがかなり並べられている。っていうか今ゲームをしているじゃないか。後でしばき倒してやる...。こいつは地味なようで実はこんな事日常茶飯事。どんな奴なのかは付き合ってみないと分からないの代表例だ。
そういえば烏森さんの机には英語の小説が結構置いてあった。あの人は外国語も出来てパソコンの使い方も一級品。ちょっと抜けてる部分があるのを除けば、かなり凄い人なんじゃないか?
「でそういえばあの人は...。」
播磨が心の中でこんなやり取りを繰り返す内にも時間は時計の針に合わせるように経っていくのであった。