「...終わったぞおおお!!」
仕事が終わったという大きな喜びからか、播磨は反射的にこう叫んだ。時刻は既に午後5時となっていた。
「あぁ、やっと終わったのね。お疲れ様。」
神明が播磨に近づきながらこう話しかけた。だが今の播磨には多少の嫌味などどうでも良いのだ。
「それにしても、結構ぼうっとしてたような気がしたけど、どうかしたの?」
「いや特に何でもないんだけどな。ていうか逆にブルーライトの集中攻撃の中ずっとやれる訳ないんだけど...。」
「それもそうよね。」
支部の人達はそれぞれ会話をしながら帰れる人はそのまま帰宅、当番などで残る人は仕事続行という流れだ。神明は週1回メインモニターの
監視が当たってしまったのでまだここにいるらしい。
「じゃあ悪いんだけど、今からもよろしく。」
「礼なんて別に大丈夫よ。当番ぐらい普通にこなすわよ。」
「それなら大丈夫だな。それじゃあお疲れ~。」
「ええ。また明日。」
この言葉で明日が月曜日である事にはっと気付かされる播磨。少々がっかりした。
『家路』これを家に帰れるという安心感などからか楽しむ人もいれば、逆に家に帰りたくない、そのような人からすれば家路は絶望の道と化すのかもしれない。自分は1人暮らしなのでどちらかといえば前者が該当するのだろうが、何か味気ないからかつい寄り道をしてしまう。もう日も沈みかけているし。どこかに寄っていこう。
「久しぶりにゲームセンターにでも行くか。」小声で播磨は呟いた。ゲームセンターと言えば格闘、レース、クレーン、メダルなど様々なジャンルがあるが播磨の推しはなんといっても音楽ゲームだった。リズムに合わせてボタンや太鼓やらに触れたり叩いたりする。
言葉だけでは簡単に見えるのだが難易度が高くなるにつれて譜面に着いていくだけでも疲れたりするし、汗も結構かく。だがワンプレイ100円と思えないハイクオリティさに播磨は毎回心が惹かれてしまいついついゲームセンターに寄ってしまう。そして今日も方向転換をするのであった。
自転車を駐輪場に停めると、播磨は自動ドアに若干吸い込まれていくかのように早歩きで店舗へ入っていった。店内に入ると外の雰囲気と全く異なるような煩さ、振動、煙草の匂い。通い始めた頃は違和感を覚えるだろうが、慣れてしまえばどうっていうことでは無いのだ。
店内はちょっとした迷路の用に様々なジャンルのゲームが置かれてあるが、それでも結構スッキリしている。そして播磨は体が勝手に動いているかのように、音楽ゲームが置かれてある場所へと向かっていったのであった。
音楽ゲームのコーナーへ行き播磨が毎回疑問に思うのは明らかに学園都市の条例により学生は本来ならば風紀委員に帰るよう指示されるはずなのだが、各ゲームの筐体が明らかに学生らしき人で結構埋まっていることだ。ここは播磨が注意すべきだが肝心の播磨自身も条例を思い切り破っているので黙殺することにした。
さて、まずはどれから始めようかと悩む播磨。最近の音楽ゲームは種類が多くユーザーの選択肢が大きく増えてしまい、この類いのゲームをよくやる人にとっては、嬉しい悩みとなっている。それにそれぞれに個性がある。ピアノや太鼓をモチーフにしたのもあれば、ドラム式洗濯機の用な風貌の物もある。あげくの果てにはダンスを使ったりする物まで。
それぞれに個性があるからこそ、企業がそのゲームの特徴を押し出し、競合し、そして新たな音楽ゲームが生まれてきたのだろう。そうした世の中の流れに感謝しながら最初にするのを決め、筐体へと再び歩き始めた。
1プレイ目。疲れからかスコアが少し伸び悩んでいた。音楽ゲームは疲労があると動きが鈍くなるというのは播磨は自然にそう感じていた。だが慌てる必要はない。播磨は自らの経験と直感から鞄から栄養ドリンクを取り出し、筐体に居ながらぷはぁと一気にそれを飲みきった。そして2プレイ目、3プレイとやって行く内に自然とスコアが伸びて行った。
様々なゲームを巡回した後、播磨はゲームセンターでの一時を終えると、気分が良いのか家で入るのが面倒なんか、銭湯へ向かう事にした。ここでも播磨の寄り道癖が出たのであった。
もう既に太陽の面影は無く、黒い空にぽつんと月が1つ君臨していた。
お金を払い、脱衣を済ませ、そしてシャワーなどを駆使して体を流すとついに湯船へと向かう。右足からまず慎重に底を探すように入れていく。床が見つかり次第左足を入れていく。そして膝をゆったりとまげて体全体を湯の中に収める。疲れをとってくれるのか否かは分からないが、とにかく今の播磨に銭湯はぴったりだったようで思わず大きくため息を出してしまった。
「おや、お疲れのようだね。」
少しすると少し白髪が多い中年くらいの人が播磨に話しかけた。髪型はK泉首相のようだ。それにしてもかなり穏やかそうな人だと一瞬で察知した。
「ええ。だからここに来たっていうのもあります。」
「気持ちは分かるよ。お酒が飲めなかったあの頃は食事とお風呂が数少ない癒しの1つだった。今はゲームとかいろいろあるけどねぇ...。」
「確かに昔と比べたら自分達はまだ恵まれてるのかもしれないですね。」
「それは人それぞれとしといて、君は何処の学校に通ってるんだい?」
「あー帝ヶ崎高校です。今年度から2年に。」
「そうなんだ。僕は君の学校の反対の学区で先生やってるだ。物理が専門なんだけどおやね。」
文系の播磨はどう足掻いても1年生の時の化学基礎、生物基礎しか分からない。なんて返したらいいのかと困惑したが、反射的にこう返した。
「物理ですかぁ...。成る程。文系だから履修これからなんでけど面白そうですよね。」
「そうやって何にでも興味を持てるのは良いことだよ。にしても帝ヶ崎は不思議だな。なんで学園都市にあるのにやけに勉学と文系を推すんだか。」
そんなこと言われても分かる訳がない。だがこの人が言うことには一理ある。同情しておこう。
「通ってる自分が言うのもあれなんですが、案外その通りかなって思います。」
この人ならちゃんと話が出来そうだ。だいたい経験と知恵で分かる。こちらからも振ろう。「でもここには世間で言う高学歴となる大学に入ろうするため、本気で勉強をする人もたまに要るんですよね。その過程で文系の分野に興味を持ったりまたは最初からそうだったり。そういう人が集まるのが帝ヵ崎なんじゃいのかなって。そう思うんです。」
「君、将来明るいよ、きっと。そうやって客観的に見れる人はとても良いことだ。時間は大丈夫かい?」
「もちろん、いつまででもどうぞ。」
播磨は顔を少しや柔らかくして即答した。初顔合わせの2人の間で湯船に癒されながらの討論会が始まった。湯気とシャワー、水の音が部屋を包み込んでいた。
「今日はありがとうこざいました。」
「いやいやこちらこそ。楽しかったよ。それしじゃあまた何処かで。」
「ええ。お会い出来たら嬉しいです。」
2人はそれぞれ逆方向の道を進んでいった。お互いとても満足しているだろう。
自転車にぶつかってくる風に少し煽られながらも家に向かって行く。今晩は荒れるかもしれない。洗濯物を片付けなくてはと徐々に焦りが出来てくる。だがその話題は心の中であっという間に過ぎ去り、夕食をどうしようかどうしようかと考えていた。
小さな雨粒が1つハンドルに当たる。それを見て播磨はまた焦り出す。そして片側3車線の道路の隅を立ちこぎで飛ばし始めた。赤信号の先に眩しいライトが2つ見える。赤信号を確認し止まる播磨。だが向こうの車に減速気配がない。まさかと播磨は思った。交差点を越え、播磨の方へまだ直進する。
「な、嘘だろ...。ちょっ」
辺りに大きな衝撃音が鳴り響いた。