「....ふぅ.... 。」
そう息を吐き出し播磨が顔に少しついた血を手で拭った。そして静かに歩き出す。
「あまりもうこういう事はしたく無かったんだけどな....。」
少し悲しそうな目付きをし独り言を淡々と言った。
「コスタ、あんたには悪いけどもう終わりだ。あんな衝撃波を間近で受けて大動脈やら心臓やらが無事な奴なんてほとんど居ねえよ....。」
コスタの元へ着くと、播磨は膝を曲げて左手を置いて地面に座った。
「な、何故謝るんだ....。貴様はただ敵を仕留めた。それだけの筈なのに....。」
コスタはさっきまでのとは大違いのかすかすな声でこう返した。
「よほどのやべー以外奴は人殺しをしたくてする訳じゃねえだろ。俺だってもう人殺しなんてしたく無かった。でもそんな綺麗事で済む甘い世の中なんかじゃなかった....。」
播磨は優しく語りかけている。心の底の優しさ彼をそうさせたのだろうか。
「私も....もしかすると貴様と同じだったのかも知れない....。まぁ、それは罪を何処かに投げ捨てただけの話なのだがな....。」
コスタの目がどんどん細くなっていく。声もそれに合わせるかの様に小さく、弱々しくなっていった。
「時期があれだけど気付けたことは幸せなんじゃないか....?それに対して本当に不幸な奴は『何か』に気付かない、気付けないまま死んでいく....。」
「そうか....ならば....良かった.... 。死ぬ前に.... 貴様に会えて良かった.... 。感謝したい....。」
「あぁ。またいつか『地獄』で会おう....。」
このやり取りを最期に、コスタは息を静かに引き取った。心無しか吹っ切れた顔をしていた。
「....さてと。」
播磨はコスタの元からゆっくり立ち上がった。
「俺も何か見直せた物があるかもしれない。ありがとう。」
死んだコスタの近くでこう呟いた。播磨の顔に若干の笑顔があった。
「随分手こずっていたわね....。」
播磨の元に神明がやって来た。
「あぁ。確かに結構体とか痛い。特に頭....。」
播磨は此処で頭を抑える仕草をした。
「いつもこう先頭に立ってくれて....何か申し訳ない感じね。」
「良いんだよ。俺はやりたいからやってるだけだし。それにコスタのお陰で気付けた事があるかもしれない。」
「そう....。それなら何より。」
「後、もう1つ伝えないといけないことがあるんだ。」
播磨の表情が変わった。
「コスタもそうなんだけど、これから魔術師って言う連中が学園都市に多分やって来て、科学とかが気に食わないとかで襲撃なり何なりしてくると思うんだ。」
「そうね....だとするならば色々と心配な所が多いかも。」
「そうなんだよな....。あんな奴らがゴロゴロ来て全て対処出来る訳ないし....。」
播磨が腕を組んで少し考え込んだ。
「こんな事言うのもあれだけど、今の痛みだらけのあんたが考えてもあまり実にならないんじゃない?そこまで焦らなくても答えは導けるわよ、きっと。」
熟考していた播磨に神明がこう優しめに指摘をした。
「....それもそうだな.... 。」
「それより今はこの人をどうするか考えましょう。」
神明がパッと振り返りこう言った。それに合わせて播磨も振り返った。
「コスタ....。故郷に帰らせられなくて申し訳無いな.... 。でもせめて同じ地球の土に還してやらないとな。」
播磨が能力を使い地面に人がすっぽり入るくらいの穴を作った。そこにそっとコスタを入れた。
「さて後は埋めるだけ....ん?」
播磨が何かに気付いた様だ。
「どうかしたの?」
「いや、これ....。」
播磨は神明にコスタの服の中にあった写真を見せた。恐らく10数年前にコスタが家族と撮った写真だろう。本人と妻、子供が2人写っていた。2人ともまだ幼そうに見えた。
「そうか、そうだよな....。お前にもやっぱりあるじゃないか....。」
その写真とコスタを交互に悲しそうに播磨が見た。神明も切なそうにそれらを見つめた。
「よし。」
開いた穴を2人がかりでそっと手をを使い埋め切った。
「どうかもう1回いつか家族に会ってくれよな.... 。」
地面にそっと手を置き播磨がこう呟いた。
「....そろそろ行きましょうか。」
「あぁ、そうだな。」
2人はその場を後にして歩き始めた。
「それにしても此処は前から何も変わっていないんだな。まるで過去にワープしたみたいに。」
並んで歩いている神明にこう話し掛けてた。
「そんなの当然よ....。って言いたいけどそれでもびっくりするくらい何も変わっていないわね。強いて言うなら廃墟の劣化くらいかしら...
.。」
播磨に同情する形で神明がこう返した。
「第0特区....。学園都市の負の遺産見たいな物なのかな....。だけど俺は此処に世話になったし、愛着も有るには有るかな。」
第0特区はかつて都市の上層部が第1学区のすぐ隣に設けられ、彼らは其処に都市のあらゆる中枢機関、上層部のためのカジノなどと言った娯楽施設などを設置しようとした大胆な開発計画のために命名された。
だが推進派のトップの汚職が判明すると雲行きが怪しくなる。そして上層部の権力闘争の末にこの計画は完全に破綻。その結果、今の廃墟街、不良の溜り場が出来てしまった。今では第1学区の再開発などで多少は誤魔化しているようだが、誤魔化し切れる訳が無かった。
その廃墟の集まりを背に播磨がぐっと歩きながら手を大きく空へ伸ばした。
「ところで、こんな遅くまで悪かったな。神明が居なかったらあの能力使えなかったからな。」
「だって補佐官だもの.... 。そんな役職が指示待ち人間でどうするのよ.... 。」
「そいつはありがたいなぁ。」
播磨が神明に向けて微笑みこう返した。
しばらくすると2人は帝ヶ崎高校の寮に到着した。寮といってももはやただのマンション群なのだが。
「じゃあ俺A方面だからさ。ここでお別れだな。」
「私はC方面ね。それじゃあ今日1日お疲れ様。」
「それはお互い様だな....。」
このやり取りを最後に2人はそれぞれ反対の方向へ歩いて行った。黒に近い蒼色の空に星が一つ一つ懸命に輝き続けている。
播磨は暗証番号を慣れた手付きで入力し、ドアをさぁっと空けた。そしてそのままの勢いで別の部屋にあるベッドに吸い込まれるように倒れ込んだ。まるで今までの疲れが爆発した様だった。
「ふぅ....。頭痛いな.... 。明日学校なのに大丈夫かなこれ....。」
播磨は独り言をぶつぶつ言い続ける。
「そういえば昼のあのアニメ見逃たな....。録画しようにも容量が一杯だしなぁ。」
普段なら発狂しているであろう播磨だが、疲れからかそんな反応をしている気力も無くただただ落胆するのみだった。
「飯.... 。もうどうでもいいや....。」
そして倒れ込んだそのままの勢いで電気を付けたまま寝入ろうとしていた。
「教材入れるの朝でいいや.... もう知らないや。」
眠気によって考えが滅茶苦茶になってしまっていた。
そして布団にしがみつくようにして目をそっと閉じた。時計の針が12と1を指していた。
「.... 俺ってあの頃から何か変われたのかな。」
そう口にして深い眠りへと入って行った。