「おいおい、嘘だろ!?」
男がとある部屋の中で驚きながら叫んだ。その部屋は教会の様な豪華な西洋建築の一室であった。
「急にどうしたんだよ一体....。」
また別の男が言葉に反応したかのように、その部屋に入って来て眠そうにこう返事をした。
「いやよ、約束の時間からも3時間経ってるのにコスタさんと連絡が全く取れねぇんだよ!」
男は驚きと焦りを隠せない状態であった。
「いや待てエルチュアーネ、きっと回線か何かの問題じゃないのか?コスタさんがそんな事するはずないだろう?」
エルチュアーネという男に対しもうひとり1人の方はやけに冷静だった。
「それなら....!もう試した....!だが特に問題は無かった....!」
エルチュアーネは悔しがりながら握り拳で近くにあった机をドンと叩いた。
「そ、そんな....。あの人が....冗談だろ....?」
もう1人の男もさっきの眠気が飛んでしまい、驚きが隠せなくなっていた。
「いくら年の衰えがあるとは言えあのコスタさんがだぞ!?一体何者なんだよ!教えてくれよディゼット!」
エルチュアーネはディゼットというもう1人の男をじっと見ながらこう言った。
「確かあの人、日本のどこかに殺しの依頼に行ったはず....。ターゲットに逆に殺られたって言うのが一番怪しいな....。」
「そんな....!あのコスタさんがターゲットに殺られたなんて....!許せねぇ!今から向かってやる!」
悲しみと怒りを露わにしたエルチュアーネが座っていた席を立ちどこかへと行こうとした。
「おい落ち着け!何も情報無しに行ったら、俺達も殺られてしまうぞ!」
ディゼットはそんなエルチュアーネに手で止めながらこう返した。
「俺だって辛いさ....!だがコスタさんを倒したって言う事は相当の強者の筈だ。下手すれば俺達で行っても全員殺られる....!」
「それもそうだが.... !」
「お前だけが悲しくて、辛いって言う訳じゃないんだぞ....!ここは堪えてくれ....。」
そうディゼットが言うとエルチュアーネは少し黙り込んだ。
「....そうだよな.... 。」
そこからやっと彼は涙目になりながらも落ち着きを取り戻したのであった。
「とりあえずこの事は今パリにいるあいつにだけ話そうと思っている。他の奴らには絶対言わない。
「色々分かり次第、俺達3人で日本へ向かうんだな?」
「あぁ、そうするつもりだ。他の奴らはほとんど置いていこう。」
「よし、分かった。それで行こう。」
2人の会話が少し途絶えると2人共立ちあがり互いの目を見つめあった。
「フォレスタ、絶対仇を取りに行くぞ....!コスタさんの為にも....!」
「そんなの当然だ....!」
「「我が『ナポリ幻枢機団』の名に懸けて!」」
2人の言葉が見事に揃った。それは思いの一致を捉えられるのだろう。
朝日が部屋を窓越しで照り付けている。外から鳥などの鳴き声も聞こえて来る。
「........ん....んん....。」
そして播磨もとうとう深い眠りから目を覚まそうとしていたのであった。
寝起き特有のだらしない目付きをしながらそっと播磨はベッドからゆっくりと磁石を引き離すように動き出した。
「8時25分....。ちょっと急がないとな....。」
播磨の通う帝ヶ崎高校は9時から1限目が始まる。播磨の寮から高校2年生の使用する『二棟』まではだいたい徒歩、登山10分くらいだ。そしてすぐ近くには帝ヶ崎中学校があり、生徒数も中高合わせておよそ1800人くらいと案外大規模な学校である。土地も小さな山1つ全て持っているのではないかというくらいの大きさだ。
前日の空腹が播磨の予想以上に響いていたので、しっかりと朝ごはんとしてパンをいくつか食べる事にした様だ。
そしていくつかそれらを貪った後、熟練の技であっという間に学校へ行く準備を整えてみせた。時間は8時40分だった。扉を開けて施錠をし、エレベーターで1階まで降りてから、登校の始まりだ。
学校へ続く坂道には様々な歩調の多くの生徒がいた。それを気にせず播磨はゆっくり坂道を上がって行った。すると背後から肩をトンっと叩かれそちらへと振り返った。
「よぉハリマー。久しぶりやね~。今日は早いんやね。」
ある学生が強く訛った発音、明るく軽い口調で播磨に話し掛けた。
「よう。久しぶりって程でも無いけどな....。」
播磨は少々苦笑いしながら返事をした。そして2人は横並びになった。
「そういえば、この前の校内模試どうやったん?」
「あれかー....。あんま良くなかったからなぁ。」
「そんな事言っときながら学年トップ10は確定でしょ?」
「それはそうだったけどな....。てかお前も俺と似たようなもんじゃん。」
「それもそうやな~。でも来月の中間テストは負けへんよ。八尾vs播磨や!」
「おう、乗ったぜその勝負。」
2人の日常的な会話の中で播磨は太陽が出ているものの雲が多く包み込んでいる空を反映しているかのような複雑な気分であった。昨日の事でまだ心の中で思う事があるのだろうか。
そんな会話が続いているといつの間にか校舎にたどり着いた様だった。
「今の時間は....8時53分か!ちょっとヤバかったかもな....!」
「後6分以上も逢ったのか。全然余裕でしょー。」
「流石駆け込み登校のプロ!言う事が違うなぁ~。」
八尾は身振りなどを使って播磨の発言に感心を示した。
「こっちだってなぁ....。好きにあんな事してるじゃないんだよ....!」
播磨が若干悔しそうに八尾に対して反論した。
「いやいや、じゃあ早起きを頑張ればそうはならんよ。明日から頑張ってくれよハリマー。」
「それが出来ないからこうなっているだよなぁ....。」
こう播磨が言った後、少々落ち込んでしまった。
「まあハリマー。段々直してけばええでしょ....。」
播磨の態度を見た八尾が励ましの態勢に入った。
「残念ながら、もう既に俺の体は腐った生活習慣が身に付きつつあるみたいだな....。ステージなんとかとか、そんなレベルじゃねぇ。」
「おいおいそれ、卒業して大学行ったらどうすんねん。単位落とすとかあんまり笑える事じゃ無いやろうにー....。」
移動教室である事に気付いた2人は、ロッカーから個々の教材を取り出しそこを目指して歩いた。
「てかお前理科基礎選択何だっけ?」
「俺は化学と物理にしたけど、お前はどうなんだよ?」
「僕は物理と生物やな。にしてもこの学校は色々便利やね~。選択授業の選択の幅が広すぎるにも程があるで。」
「それは俺も思った。何から何までエグいからな....。」
2人はどうやらこの学校に大変満足しているようだった。
「よし、化学講義室は3階やからここでお別れやな。じゃあまた次の数学Ⅱの授業でな!」
「おう。また分からんからってふて寝するなよ。」
「それは余計なお世話やで....!」
八尾はそう言い階段を小走りで上がっていった。
帝ヶ崎は他の学園都市の学校から見ても、勿論学園都市以外の学校から見ても多少特殊な学校なんだそうだ。私立なのでかは知らないが、先生を多く雇っているので生徒が自由にどの科目を習うか選べる。選択ルートは他の学校を圧倒しているのかもしれない。というかそうだろう。能力開発も勿論行われているが生徒の目は在学の内に進学を見つめるようになるようだ。
他にも山から第1学区を一望出来る食堂など素晴らしい設備が沢山ある。だが案の定学費はお高いが成績が良ければ給付型の奨学金もあり援助もかなり手厚い。こういった援助については国が絡んで来るそうで何でも日本随一の進学校の1つだからだそうだ。そんな学校を築き上げた先輩方は敬意を表したい。
播磨は物理講義室のドアを開けそして静かに中へと入っていった。
ーーーー俺はこの学校に入れて良かったと思っている。ただ1つを除いて ....。ーーーー