『ログ・ホライズン』 幻獣記   作:Kaisu

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角端謎行動種明かし話。
キリのいいところが見つからなかった結果、画面黒く、一文長く、全体も長い三段構え。







幻獣問答

「呼ばれて来てみれば、なにやってんの」

「猫の集会ですか、これ?」

 

 念話を介して索峰(さくほう)からヘルプコールが届き、場所を聞けば非戦闘エリア内で、なにを助けが必要なのかと思いはしたものの、行ってみると面白いことになっていた。

 そう広くはない石畳の道と索峰の座る岩の背後の岩壁を埋め尽くすが如く小さな狐が群れなして索峰を取り囲んでいた。

 ほのぼのとしつつもなんとも異様な光景に、念話で助けを求めつつもなぜ助けがいるのかを言わなかった理由がわからなくもない。誰かに見せたくなるのも頷ける。

 

「いや助かった翠姐(すいねえ)(てん)ちゃん、止めどきが見つからなかった」

「写真撮れないのが残念ね」

 女2人に救い出された格好の索峰は腕をぐるぐる回していた。

 残された狐たちが名残惜しそうにしているはたぶん錯覚ではない。

 

「どれぐらいやってたんですか?」

「2時間はやってたんじゃないかなあ。どんどん増えるし。どこにあんなにいたのやら……」

 じゃらじゃらと積み上がって小山になっている鉱物や種子やなにかの実を索峰は大事そうに〈魔法の鞄(マジックバック)〉に片付け別れを告げた。

 

 

 しかし索峰が歩き出すとハーメルンの笛吹き男よろしくぞろぞろと小さな狐もついてくる。

 岩壁や石畳に残った小狐もいたが、ついてきているだけでも50匹以上はいるだろうか。

 さすがに索峰も手を振って散るように促したが聞きやしない。

 

「懐かれたわねー」

「いやもうさすがに勘弁して欲しいんだけど」

 結局狐たちは宿の社の前までついて来て、眠い目を擦っていた王燁(おうよう)ちゃんの眠気をぎょっと醒まさせ、角端(かくたん)が威圧してようやく散った。

 なにげに角端が索峰を助けたのは初めて見た気がする。

 

 

「寝落ちて申し訳ない」

「いいんじゃないですか、別に。差し迫った脅威があるわけじゃないですし」

「まー、索峰も人間だったってことでしょ。狐だけど。ちゃんと休みなさいよ。一応起こそうとしたんだけど、覚えてる?」

「すまん、全く記憶にない」

「それはまた見事な寝落ちね。戦闘で力尽きたのは影響したかしら?」

「たぶんそれはない、と思う。疲れただけ。あといろいろ静か過ぎて」

燕都(イェンドン)や麓の街に比べたら、そうですねえ」

「ならいいわ」

 

 蘇生の後遺症があるとないでは大きな違いだ。

 純粋な疲れから来たものなら自己管理を徹底すれば済む。

 

 時間だけは目的を見失うほどにある。

 

 

「あー、そうそう、角端の通訳してくれる人の手配だけど、お昼過ぎにお願いしたから。索峰いつ起きてくるかわかんなかったし」

「すまん」

「ま、それぐらいはね。起きてこなかったらどうやって起こそうかって話してたけど」

「くわばらくわばら」

 水ぶっかける、熱湯をかける、鼻と口を塞ぐ、関節を極める、角端に蹴らせる、といった案が出ていたので索峰は命拾いしたかもしれない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 陽は中天に差し掛かろうという時刻。

 

「皆様お揃いですな」

瑞袞(ずいこん)さん、この度はお世話になっております」

「いえ、こちらにとっても神獣と話す機会なぞ一生に一度も無いであろう貴重な機会ですから。立ち会わせていただけてありがとうございます。きっと黄泉での自慢話になるでしょう」

 

 瑞袞さんの物腰穏やか低姿勢は変わらない。

 今回違うのは、その横にもう1人いることだ。

 

「それで、お隣の方が、角端の通訳をしてくれる方ですね?」

「はい、項樊(こうはん)と言います。自己紹介を」

 

「お引き合わせいただきました、項樊と申します。

 師に預けられ、師によって教えられ、神獣との意思疎通が可能になりました。

 今、角端の主殿がつけておられる〈応鳳霊麟徽(おうほうれいきき)〉は本来私が管理しているものです。

 泰山において、このような会合や先立って登ってきた角端の意図や神託を言葉にするために、世代を超えて神獣と対話できる者が育成されております」

 

 大柄な瑞袞さんに比べると肌に張りがあって若く細身の男性。

 見た感じでは20代後半から30代半ばといったところか。

 こちらも剃髪しているので髪からは年齢が伺えない。

 

「気の遠くなるような話ね」

 現実世界で1ヶ月がこちらの1年。こう思うと世代を跨ぐ必要もあるのだろう。

「それが仕事、使命です。お気になさらず。一度もその役目を果たすこともなく逝った先達もおりますし、若くしてこの機会に恵まれた私はむしろ幸運かもしれませんから」

 

 

 相当長く角端は排出されず、応竜、鳳凰、霊亀、麒麟ら瑞獣に限っても、排出されればアリバイ作りのために公式サイトに排出の報がプレイヤー名を一部隠して載せられたほど出なかった。

 

 中華全土を見回せばいわゆる神獣の種類は多く、純正の神獣を扱う有名なプレイヤーもいることはいた。

 それでも十全に使いこなすには召喚術師(サモナー)でなければいけないし、次点の森呪遣い(ドルイド)を加えても全プレイヤーの15%未満という就職人数の問題がある。

 その中で追加で金を出して召喚生物を求める人はどれほどだろう。

 さらにそこから純正の神獣を所持し泰山へ赴く人は、きっとひとつまみ。

 

 多少時間をかければ一芸二芸に秀でた召喚生物は割合容易に契約できるし、角端ほどの全知全能な万能型まではいかずとも、それなりに手間と時間をかければ最上級難易度に挑める召喚生物は入手できるようにゲームデザインで設定されている。

 パーティで喜ばれる戦闘ビルド構築とは、全てが平均的よりもなにか尖って強力な部分がある方が喜ばれる。

 なにをしても強いという称号は、装備やプレイヤースキルが整ってからあとになってついてくるもので、最初からそれを目指すものではないと崔花翠(さいかすい)は思う。

 

 

「頭が下がります」

 貂ちゃんが頭を下げ、釣られるように王燁ちゃんも頭を下げた。

 

「いえいえ、頭を上げてください。そんな偉いものではありません。それに角端の方が待ちくたびれているようですから本題に入りましょう。

 私はただ通訳をするだけで、司会進行は致しませんので、どうぞ、心ゆくまでお話しください。少なくとも、人間側からの言葉は、私を通さなくても角端は理解していますから」

「拙僧も隅で聞いておるだけです。項樊も拙僧も意見を求められれば答えますが、こちらからなにか言うことはありません」

 

 そう言うと瑞袞さんは窓際の陽の当たる場所まで移動し座った。

 項樊さんは角端の隣に移動した。

 

 

「じゃあ、司会進行はとりあえず索峰ね」

「そんなことだろうと思ってはいたが。言いたいことはいくつもあるが、まずは王燁ちゃんか角端に手番回しておくべきだろうな」

 すっと、項樊さんが手を上げた。角端が何事かもごもごと口を動かしている。

 

『まずは、(われ)が言わせてもらいたい』

「王燁ちゃん、いい?」

「いいよ、玲玲(れいれい)

 角端が何を言うか、一同固唾を飲んで見守った。

 

『我が主人、王燁に、心からの忠誠を。いついかなる時であろうとも、求めに応じて貴女を守護いたします。なんなりとご下命を』

 角端から発せられたのは臣下の誓い。

 

『そして、まず謝罪したい。

 我の力が足りず、また、我が冒険者の悪意を侮ったがために主人を窮地に追いやってしまった。

 あの日、我はまず主人を安全な場所へと焦っていたと、今では言える。

 あの街は人の(おり)の深い陰の気が溜まり始めていた。

 我にはどうすることもできず、あの街にいては、早晩主人が不幸に見舞われる強い確信があった。

 しかし主人より呼ばれなければ我は活動できず、歯がゆい思いも持っていた。

 そのため呼び出されて即座に行動に移したが、主と意思疎通を図ることもできず初動も遅く力も足りなかった。

 窮地に陥った際に見ず知らずの主人を救援してもらったことには深く感謝している』

「そんな、気にしてないよ、玲玲」

 

『崔花翠嬢、危ない橋を渡っていただいて本当に助かった。特に深くお礼申し上げる』

「戦闘の気配察知したのは貂ちゃんだし、それがなければ救援には行かなかったと思うけど」

『それでも相当に勇気のいることだったと思う』

 

 角端は首を下げて頭を垂れた。

 

『また、あの救援の後も主人を放り出さずに仲間として迎え入れ精神的に補助してもらったことにも、強い感謝を。

 幼い主人にはあの戦いは相当な恐怖体験であったと思うが、それによる悪影響を薄め混乱を鎮めた。

 これは、あの時点で意思疎通ができなかった我には不可能なことだ。

 今、主人が明るく振舞えていることはお三方のお陰であろう。非常に大きなことだと思っている』

 

「うん、そうだね。崔花翠さん、郭貂麟(かくてんりん)さん、索峰さん、ありがとう」

「いいのいいの。当然のことよね、索峰」

 

 最終決定こそあたしがしたが、金銭面での王燁ちゃん受け入れ負担はおおむね索峰が負っている。

 あの時即時で受け入れを決めることができたのは、索峰が直前に稼ぎ出した法外なギルド財力が余裕として存在したことはまぎれもない事実。

 

「打算がなかったわけじゃないが。年長者の責務だな、あれは。こんな不安定な世界で放り出したら男も廃るってもんで」

「お世話になってます……」

「気にしない気にしない」

 

 

「でも、感謝している割に、角端は索峰さんに当たり強くないですか?」

 貂ちゃんが突っ込んだ。

 あたしも聞こうとしていたことで、角端は索峰にだけ明らかに態度が硬い。

 

『主人の援助には感謝している。だが索峰という狐尾族は隠している牙がまだ見えていない。見せようともしていない。意図的に力を落としているのが不気味に過ぎる。深いところで見下しているように思え、信頼には遠い』

「だ、そうですが?」

「んー、隠しているっちゃ隠しているかなあ。半分意図的にもう半分は止むに止まれず」

 なんとも歯切れが悪い。

 

『野狐程度に風格を隠しきれるものではないと知れ。佇まいからして戦歴も相当長かろう。それにしては、今のお前は弱すぎる』

「あたしと一緒に中国サーバーでも相当いろいろな大規模戦闘に大手ギルド傭兵で参加したわよ? 日本でも相当やってたのも知ってるわよ? 吟遊詩人(バード)としての索峰は、もとから中国サーバーで上から数えた方が早いと思うけど」

 

 

 イベントごとで大規模戦闘に参加する際、あたしと索峰はよくトップギルドに傭兵タッグとしての参加を打診したものだ。

 打診するのはあたしだが、付属品としてついてくる索峰の大規模戦闘特化型廃人級吟遊詩人という希少価値の方が喜ばれていた気がする。おかげで寄生先は見つけやすかったけど。

 傭兵としてではなく本採用としての勧誘話は多く、あたし以上に引く手数多だろう索峰に至ってはギルド移動は受け付けないとプロフィールコメントの時点で勧誘拒否の姿勢を表明していたほど。

 

 

『借り物の力というべきか羊に化けているというべきか。内在する(はく)の強さに見合ったものを全く身につけていない。その理由を明かせと言っている』

 

 角端には、索峰のなにが見えているのか。

 しれっととんでもないものを見ている。(はく)って魂だ。

 

「今更隠すことでもないのかな。手抜いてるわけじゃないんだけど。見抜かれるもんかね、これ」

『早くしろ』

 

 魔法の鞄(マジックバッグ)に肘まで突っ込み、索峰はアイテムを、正確には武具を取り出し始めた。

 〈しろたへの玉響〉〈古松弓・天橋立(あまのはしだて)〉〈湖笛仙の鉄笛〉〈夜笛・混江播磨(こんこうはりま)〉〈狐惑(こわく)のお札〉〈月銀・鏡写〉、出てくる出てくる〈幻想級〉の冠がついた見たこともないアイテム群。

 取り出されたものは付き合いの長いあたしでもかなり驚くものだった。

 

「ちょっと待ってください索峰さん、いったいどれぐらいあるんですかそれ」

「〈幻想級〉は36個。〈秘宝級〉まで合わせたら100は超えるな。古くて型落ちになってるものもあるから全部は持ち歩いてないが。実際にこの世界で使ったことはないし、長く封印してたから最適な動きがすぐできるかも怪しいところではある」

 

 あっけらかんに言うが、〈幻想級〉36個は相当な量。並大抵の努力で集まる数ではない。

 24人パーティ規模の大規模戦闘(フルレイド)を週単位で長時間周回し続けてようやく数個出るものをそんな気軽にぽこぽこ出してきてもらっても反応に困る。

 

「いや、確かに索峰が日本で相当に長くやってたのは知ってたけど、使いなさいよそれ。その気になれば全身〈幻想級〉で固めてもうちょっと楽になったでしょ」

 

 あたしが持っている〈幻想級〉は〈鉄山黒戦斧〉のみ。

 これ1本のためにプレイスタイルを構築したほどだ。

 〈幻想級〉は、入手難易度に比例してそれだけ強い。

 

『やはりか、狐』

「日本人ってことは言ってただろ、持ってる〈幻想級〉全部日本のなんだよ。日本で使うぶんにはいいんだが、中国で使うと一発で国籍透視されるし、全身〈幻想級〉なんて注目されるだけでいいことがない。

 日本ではバリバリの戦闘ギルドにいて大規模戦闘に浸かってたが、吹き専援護専させられることも多かったし、こういう少人数パーティでは役に立たないフルレイド(対象24人以上)用の広範囲支援特化〈幻想級〉もあるしで。

 中国では言葉の壁もあってのんびりやりたかったからな。こっちでは封印のつもりだった。

 そもそも中国サーバーに持ち込んだは良いが、文字化けやエラー吐いたものまであったから全部は使えなかったぞ」

 

 言い訳だ。

 

「悪いですけど、私は角端と同意見です。この状況下では正直いい気はしないですね。目立ちたくないということを差し引いても」

「貂ちゃんの言う通りだと思うわよ。弁明が足りない」

 索峰が頭を掻きむしって天井を見上げた。

 

「理論上の最強装備とお気に入り装備は違うし、同様にその場その場でも最適解は違うことはさすがに分かるな?

 燕都(イェンドン/北京)発の時点では全身〈幻想級〉は間違いだ。最速で影響範囲外に出るために注目集める理由はない。珍し過ぎて示威行為になるかも怪しい」

『理屈はそうだな。燕都を抜けるときには枷になったかもしれん。登山時に使わなかった理由にはならないと思うが』

「そっちは、潰れ役やることになるから修理コストが高いものはなるべく使いたくはない、ということで許してもらえないだろうか。選択肢に入っていなかったことも確かではあるが」

 

 HPが尽きて蘇生も叶わず大神殿送りになると装備の耐久度は通常使用に比べて大きく削られる。

 鍛治系のサブ職業持ちがいれば比較的容易に修復できるが、それはいない。気持ちはわからないでもない。

 

「あの、そんなに悪いこと? 索峰さんはしっかりやってた、よ?」

 剣呑な雰囲気に、おずおずと王燁ちゃんが助け舟を出す。

 

「気持ちの問題ですから、これ」

「じゃ聞くわよ索峰。その〈幻想級〉使っていれば、こちらの世界でなにか結果が変わったかしら」

 手を抜いていたのか、そこは聞いておきたい。

 索峰はひたいに指をあて、少し考える仕草をした。

 

「いや、大きくは結果が変化しないはず。試しで〈幻想級〉使うにもこれだけ数があると全部は難しい。

 燕都周りでは注目集めるだけでむしろ悪影響って思うし、PK受けて損耗も怖いし。

 燕都から泰山砦の間は角端の件でそれどころじゃないが、若干戦闘が楽になったかもしれないぐらい。

 泰山砦からここまでは中腹の熊戦で多少討伐速度は上がったかもれない。

 飛ぶ虎3頭は事前情報なしでは〈幻想級〉使っててもどっちみち死ぬ。大差なし。武器はともかくあの状況で防具までは切り替えられん」

 

「全力は出してたと言えますか」

「カタログスペックで多少劣ってたのは認めるが、行動として手を抜いたつもりは一切ない。それは信じて欲しい」

 索峰が頭を下げた。

 狐尾も力なく後ろに垂れている。

 

「ならいいです。今のところは」

「これから人目につかないところではちゃんと使いなさいよ」

 

「修理しやすいのだけで勘弁。というかな、この際言っておくが〈幻想級〉に夢見すぎだ。強いのは確かだが性能尖ってピーキーなんだぞ。翠姐の〈鉄山黒戦斧〉だってそうだろ、投げ物超強化。汎用性だけで採点したら音叉弓上回る汎用武器は手持ちにない。

 たとえば〈湖笛仙の鉄笛〉のメイン効果は淡水系モンスター戦闘時に特攻を付与する援護歌を使えるようになる笛で、〈夜笛・混江播磨〉は同様に海洋系モンスター対防御付与、かつ夜だと効果更に増。

 どっちも物理攻撃じゃなくて呪歌攻撃側かつ支援に振られてる。使い所間違えなきゃ強力だがそうそう出番ないって」

 

 一息に捲し立てると索峰は大きく息を吸い、魔法の鞄から飲料を出してごくごくと何度も喉を鳴らした。

 

 

「じゃあ、この〈しろたへの玉響〉ってどんな服装備なんです?」

「援護歌2曲発動中と同等のMP上限とHP上限15%を失いつつ援護歌使用不可になる代わりに呪歌の威力大幅上昇。

 HPMPを減らした上で援護歌も使えない状態でMP使ってヘイトも稼ぎやすい呪歌を使えという呪歌砲台用。主に本職の魔法攻撃職が足りない時に使う」

 

「それはまた、なんというか」

「使わない理由がわかりやすいだろ。このパーティから中衛削って完全後衛3人目はいくらなんでも多過ぎる。そりゃあ少人数パーティで有効な装備もあるにはあるが」

 

 そこまで言って、索峰が視線を角端に戻した。

 

「話逸れてるぞ。角端は説明これで納得できたか。信頼しろとは言わないから。自分としてもあれだけ険のある対応されてはいそうですかは無理だ」

『納得しよう。信に値するかの判断は、お互いこの会合が終わってからでも遅くはないだろう』

「そうだな。この話題はここで折り合いだ。次行こう。誰かある?」

「では、私いいですか」

 貂ちゃんが小さく手を挙げた。

 索峰が目線で王燁ちゃんに確認を取ると小さく頷いて了承。手番が変わった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 郭貂麟(かくてんりん)にとって、角端(かくたん)の存在は畏怖の対象であり謎そのものである。

 

 森呪遣い(ドルイド)として、喋る召喚生物や明確に意思をもっている召喚生物は、受け入れがたい不思議な存在ではない。

 上位妖精種を使役すれば特技発動時に効果音としてランダムに喋るという話は聞いていたし、〈幻想級〉〈秘宝級〉のアイテムにも喋りかけてくるものがあると聞いたことがある。

 

 ゲーム時代、精霊の宿った杖を使う施療神官が攻撃を受けて、それに反応するオートカウンターとして精霊が反撃して、その度になにかしらの言語サウンドが出ていたことを動画で見たことがある。

 オプション設定でそのような喋るコマンドのオンオフが切り替えられるチェックがあったことも覚えている。

 

 ゲームでは仕様だったが今この世界であればかえって納得できる事象だ。

 意思を持って動くことは、不思議ではない。

 

 

「では、角端さん。私の見た限りでは、あなたはいち召喚生物の枠を大きく逸脱しているように見えます。

 たとえば燕都(イェンドン)から移動する際の〈強行軍〉やパーティの騎乗生物行動固定。契約主の了承を得ずに長時間放置して離れる。そもそも召喚解除に応じない、召喚獣にしてはやたら強い、など。

 そんなに付き合いは長くないですが信じがたい行動は枚挙に暇がありません。

 あなたはいったいなんなのですか。どのような仕組みがあってあのような動きができているのかを聞きたいです」

 

 角端は、ちょっと考える仕草をしたような気がする。翠姐(すいねえ)さんは静観の構え。

 

『〈幻獣憑依〉という特技はわかるか?』

「知らないです」

「あたしも。索峰(さくほう)、説明」

「こっち振るのか。えーと、召喚術師(サモナー)の人側が召喚した生物に乗り移って、直接細かい操作をできるようにする特技だったか?」

『それだ。(われ)には、それが常時発動している』

 

 背景が見えてこない。

 王燁(おうよう)ちゃんも翠姐さんも訳した項樊(こうはん)さんも、特技の説明を行なった索峰さんすらもクエスチョンマーク。

『ゆえに、我には意思が強く宿っている。ひとつの体にふたつの精神が宿ることがあるのだから、当然だ』

 なにが当然なのかさっぱりわからない。

 

『我が召喚されてそれが戦闘中であって明確な指示があればそれに従うが、それ以外の時間は、我の考えで召喚主にとって必要であろう行動を行なっている。

 〈幻獣憑依〉は我々召喚獣の行動全てを召喚主が行うことができ、決して召喚術師ではできないことも実現できるであろう。

 一方で〈幻獣憑依〉を発動した術者は、抜け殻となり棒立ちになるのか?

 そうではなく、我々の精神が入れ替わって人の身を操作して術者の体を守り難を逃れるのだ。

 ただ〈幻獣憑依〉そのものは精神を入れ替えるという大きな術であり、新たな体に魂が定着し、体を動かせるようになるまで時間がかかる。体の造りそのものが違うのだから当然だな。

 しかし我の場合は術者との強い結びつきが強固であればあるほど、他の生物が介在する余地がなければないほどに〈幻獣憑依〉の効力は高まり、魂の入れ替えが容易になる。体への定着も早くなりごくごく僅かな時間での頻繁な入れ替えすらも可能になる』

 

「わかったようなわからないような……」

「ぜんぜんわかんなーい!」

 翠姐さんが首を捻っている。私も同じ感想だ。王燁ちゃんはついてこれていない。

 角端が〈幻獣憑依〉に高い適性を持っていることは理解したが、それが異常行動にどう繋がるのかわからない。

 

 

「角端よ、お前は召喚生物が他に契約されていないほど強くなるよな? 〈幻獣憑依〉に限らず」

『そうだ。我の力を最も強く引き出すのであれば、我以外は不要だ』

「それで、王燁ちゃんは角端以外に契約してないよね」

「うん。玲玲(れいれい)だけ」

 電波なことを発する角端の謎論理の中で、なにか索峰さんが掴みかけていた。

 

「たぶん原因それだわ。細かい理屈わからんけどたぶんな」

「1人で納得してないで説明しなさいよ」

 

「角端単独契約だと、ゲーム的に言うならステータス面だけじゃなくて自律行動AIの思考まで強化されるんだよ、たぶん。

 〈幻獣憑依〉はデフォルト発動枠で、詠唱不要かつ憑依へのタイムラグが極端に減る。手慣れたプレイヤーなら、角端と術者本体の2体同時操作に近いことができる」

 

「えっと、〈幻獣憑依〉が瞬時だと、どういうことができるんです? それとAIがどんな関係が」

 ゲームシステムの話になってもまだ索峰さんの言わんとしていることが掴めない。

 

「〈幻獣憑依〉で使用キャラの高速入れ替えが可能なら、召喚術師の方がターゲット決めて長めの詠唱してる間に角端で移動して自分で操作して味方の回復とかヘイト引いたりとか、角端で威力偵察しながら地形見て即キャラ変更、召喚術師側からは見えない位置にいる敵に召喚術師の呪文撃ち込んだりとか。その逆も然り。本来そういう風に使う設計と見た」

「うわつっよ」

 

「でも2キャラ分動かす訳だから要求される操作難易度が跳ね上がる。できない人だったいるはず。AIの強化はそのための救済措置なんだろう。

 本来?の2キャラ操作ができなくてもそれに近い働きができるように単独で戦わせても強いステータスと頭のいいAI思考が与えられている。大当たりにふさわしい性能だと思う。

 AI性能の高さと、動かすキャラの強さや操作性でいくらでもレアリティ変えられそうでもあるし」

 

 2キャラ操作ができれば強いことは想像できる。

 それができない人が引いた時のための救済措置にAIが絡んでいるという想像が提示されたことも、ギリギリ理解できなくもない。

 

 

「あの、理屈はそれでいいかもしれませんが、それで角端が異常行動してる理由は?」

 問題はここだ。

 いくらゲームシステムで理解が及んだとしても、こちらで説明できなければ。

 

「そもそも異常行動ってわけでもなさそうだがな。悪く言うならAIの暴走。良く言うなら頭のいいロボットに意識が芽生えたということになるな。謎は残るが」

「あー、あー、あー、そういうこと」

 翠姐さんが破顔した。

 

『我は意図をもって行動しているつもりだがな』

 角端は索峰さんの説明に少し不満そうだ。

 

 それでも郭貂麟には、すとん、と落ちた。

 AI=角端の思考能力であり、レアリティ最高の〈幻想級〉相当の角端は、ゲーム時代自律行動レベルは最上級に近い設定。そこに意識が芽生えた。

 ゲームの設定を考えると意識が芽生えたというのも語弊があるかもしれない。

 仮想が現実になったのだから、データ上の生物だった彼らも、意識を、魂を持っていて当然。

 

 高度な戦闘AIレベルは、理性と判断力と思考力の高さに反映されたのだ。

 単独契約のボーナス補正も王燁ちゃんが角端以外と契約していなかったことで強く反映されているのだろう。

 

 

「あれ?」

 ふと、気づく。

 

「〈幻獣憑依〉常時発動で入れ替わりにタイムラグ無しなら、通訳するまでもなく王燁ちゃんと角端の中身入れ替わって喋ればいいんじゃないですか?」

「あ」

 気まずい感じの沈黙が流れた。

 

「それは……そうだよね玲玲(れいれい)

 今まで通訳しかしていなかった項樊さんが顔面蒼白になっている。

 存在理由崩壊の危機なのだからそれは当然のことかもしれない。

 

 すると角端がなにかモゴモゴと項樊さんに耳打ちした。

『主人に負担がかかることになるから、他に手段があるならその方がいい。頻繁な魂の入れ替えは無駄に疲労を増すだけだ』

 律儀にも役割を果たし通訳を続けた項樊さんは明らかにホッとしている。

 

 

『〈幻獣憑依〉が常時発動していると言ったな。しかし我はあくまで従者であり、我からは魂の入れ替えを発動できない』

「ゲームシステムを鑑みると、勝手に入れ替えされたら困るわよね。そもそも〈幻獣憑依〉自体を王燁ちゃんも把握してなかったみたいだし」

「〈幻獣憑依〉はわかるよ? でも、玲玲(れいれい)が言うまで使うことは考えてもなかったなー」

「なら知らなかったも同然よね」

 

 無知と評するのはさすがに酷だろう。

 〈幻獣憑依〉で入れ替わって喋らせる発想の時点で大概に飛躍している。

 王燁ちゃんの父親が近くにいればまた違ったのかもしれない。

 

 

「人型はしてないが5人目のプレイヤーというぐらいのつもりでいいのかもな。実際のところ」

「人型じゃないってなら索峰も大概だけど」

「もういいってそれは。んじゃついでに角端に聞くけど、燕都(イェンドン/北京)出て勝手に行き先変えたのはなんだったんだよ、あれ。話しぶりと今までの行動から多少想像できるけど」

 王燁ちゃんのためにという行動理念が常に先に来ているから、謎だった行動の裏が見え始めている。

 

『なるべく早く直接言葉で意思疎通を図れるようにしたかったのだ。そして燕都から最も近く我々の言葉を変換できる者がいるのは、この山であった』

「一刻も早く会話したかったと?」

『第1の理由はそうなる。そこの狐が早々に街の外に出る理由を作ってくれたのは我としては非常に都合が良かった。最初は我の意図を汲み取ってくれたのかと思ったほどに。勘違いだったが』

 先ほど一応の折り合いがついたものの、まだ角端と索峰さんの間にはトゲが残っているようだ。

 

『第2に、いかに冒険者が魔力運用に長けていようとも、神獣を御するにはあまりにも主人の力量が見合っていなかったこと。

 救援を受けた最初の戦いもそう。北の街から出てこの山の麓の街までの移動もそう。我が要求する負荷に対し、主人の体は応えられていなかった』

 

 郭貂麟は泰山砦に到着した時のことを思い出した。

 索峰さんも翠姐さんも当然の戦闘疲れを滲ませていたが、王燁ちゃんはMP酔いとでも言うのか、MPを一気に抜かれ続けての脱力と衰弱を起こしていた。

 その感覚は戦闘訓練の際に郭貂麟にもあった。

 

 

『我々が神獣と崇められるのはそれに見合った強い力を持っているためであり、本来何者かの下に属する必要がないほど強い生物であるということ。

 我は、地を歩む毛のある生物の長たる格を持つ。ゆえにただの馬や狐程度を従わせることなど造作もない。ああも簡単に指揮権を奪えたことは、躾が足りん』

「泰山砦までの〈赤騎狐〉の勝手な追従の原因はそれか。はた迷惑な」

 

 馬2頭と大型の狐1匹。確かに毛のある獣だ。

 燕都の廃墟の屋上で話していた時にも、索峰さんの〈赤騎狐〉は平伏するような遠慮するような恐縮するような微妙な動きを見せていた。

 

『そもそも冒険者や大地に住まう人が扱う召喚術式の不備もあり、喚び出す生物らの真の力を引き出すことはできていないがな。

 それでも要求される負荷を軽減する道具はなにか持っているものだが、神と崇められるような力の強い者が要求する負荷というものは尋常ではない。

 古来よりただの道具ではなく特別な祭具神具によって神を鎮めようとするように、我々を御するためには並ではさほど意味がない』

 

 角端は王燁ちゃんの襟元につけられた五色の光を湛える羽根飾りを見た。

 

「それで、〈応鳳霊麟徽(おうほうれいきき)〉か」

『神を鎮める役割は神官か祈祷師か仙人がやるものだ。

 同時に彼らは神の言葉や神のお告げを得ようとする研究者でもある。

 それらが作る専用の祭具は、主人にかかる負荷を和らげるには役に立つ。

 いざ神に等しいものが降りた時に、望んだ結果を得られる前に耐えられなかったでは話にもなるまい』

 

「言われてるわよ、瑞袞(ずいこん)さん、項樊さん」

「我々泰山の者は封禅の祭壇を守る者。もっとも時の権力者に付き随う特異な力をもった獣も伝承によく出てきますから、それらを暴れさせないための術も研究しているというわけで」

 突然水を向けられた瑞袞さんは、少し焦っていた。

 

「ということは、第2の理由は王燁ちゃんの負荷を軽減するためと〈応鳳霊麟徽〉を入手するため、ですか」

『そうなる。主人にかかる負荷を抑えられればそれでよく、必ずしも〈応鳳霊麟徽〉である必要はなかったのだが。

 そこの狐が持っていたもののように、我を制御するに足る充実した数の宝具があれば、第2の理由で行動を起こす必要はなかっただろう』

「王燁ちゃんの赤珊瑚装備一式も強化はしたが背伸びした汎用型に留まるからな。プレイヤーメイン操作で、親子で遊ぶぐらいのエンジョイプレイには不自由しないと思うが、角端が主軸で運用するには不満不足も出るか」

 

 赤珊瑚装備は血のように紅くも五星紅旗よりはやや暗色寄りの落ち着いた色合いの前合わせの服。

 袖口や首元といった体との境界を一際鮮やかな赤珊瑚が飾っている。

 インナー素材も郭貂麟が持つどれよりも質が良く柔らかそうだ。

 

 

「第3の理由はあるのか?」

『第1の理由と被る部分もあるのだがまだある。

 なるべく世の乱れが酷くなる前に、行動を起こしたかったことだ。

 生きるのに精一杯になってしがらみも増えればこのような遠出も難しくなるかもしれない。そうなると主人にとっては不利でしかない』

「しばらくは内に内にってなるでしょうからね。王燁ちゃんの歳と知人の少なさも不利な条件だし」

 

 どこをどう見ても幼い顔立ちと体型、孤立無縁の交友関係、少ない人生経験。

 ゲームに詳しいとは言えない情報弱者。

 王燁ちゃんが1人で生きていこうとするならば、かなりのハードモードが予想される。

 保護者の角端にとっては街中は安心できる場所ではなかったのだろう。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「はい! 索峰(さくほう)さん!」

 ピッと、王燁(おうよう)は教師にするように手を挙げた。

 

「どうぞ」

「ねえ玲玲(れいれい)、なんで王燁は特技使えないの? なんで召喚解除できないの?」

 

 玲玲を召喚してからずっと王燁側の特技はほぼ全てグレーアウト。指示しての使用はできない。

 戦闘用に該当する主戦特技(スキル)ほぼ全てが角端経由スキルで埋まっているため、特技(スキル)全滅に近い。

 従者召喚も解除できず、システムとしてMP上限を定量削って存在を維持させているために王燁のMPがゼロになったとしても召喚は維持される。されてしまう。

 

『それは〈幻獣憑依〉が関係している』

「またそれ?」

 崔花翠(さいかすい)さんが呆れている。

 

「教えて、玲玲。なんで?」

 もし難しくなっても索峰さんが玲玲の説明を噛み砕いてくれると期待して続きを促した。

 

『先ほど言ったように、(われ)は主人と主従の召喚契約だけではなく〈幻獣憑依〉でも繋がっている。

 この〈幻獣憑依〉による繋がりは本来魂の入れ替えだが、常時発動の我と主人においては、厳密には入れ替えではなく魂の融合させ体をシェアし合う形を取る。

 血の繋がりよりも深いところでの結合であり、他生物の影響がないほど結びつきが強く、魂の融合の度合いも大きくなる。

 より魂が一体化することによって〈幻獣憑依〉への親和性が上がり、別の体でもすぐ動けるようになる』

 

「テレビ1台に対して、別会社のゲーム機2機種か両方を互換するゲーム機1台か、どっちの方がソフトの切り替えが楽か、みたいな話か」

「後者ですね、間違いなく」

 解釈が雑、と思ったが、玲玲の説明より索峰さんの方がわかりやすくなった気がする。まだついていける。

 

「玲玲、続き」

『魂の融合が深まれば別の体でも動きやすくなると同時に、我は主人との連結部分が増え 魔力をロスなく融通しやすくなり、力を奮いやすくなる』

「王燁ちゃんのMPをより効率的に吸えるし大技も使えるようになると」

 

『魂を融合させ相互魔力移動と意識の交換の効率化を図るわけだが、互いの体への魂の定着が進むことは選択可能な権限が増えることでもある。

 それは主たる体の操作に留まらない。従の肉体に対しても影響を持てる。それには特技の個別使用制限や召喚解除無効も含まれる』

「な、なんで?」

 なぜそんなに深刻な制限が玲玲側からかけられるのか。意味がわからない。

 

『術者の無駄撃ち、召喚生物が勝手に術者の魔力を使わないようにするためだ』

「わかんないよー」

 

「ゲーム時代の名残(なご)りだろうな。味方がHP削ってステータスを強化する特技使っているところにAI判断でHPが減ってるからって勝手に回復しても迷惑。

 MP温存しておきたい時に勝手に大技連発されても困るし、召喚術者側に召喚解除のトリガーがあるから〈幻獣憑依〉で角端操作中にAI術者が勝手に召喚解除してもいけない。

 安全装置と言えるものかもしれない。なんで王燁ちゃんじゃなくて角端が制限してるかは謎だが」

「えー」

 理屈はそうかもしれないが、迷惑な機能だと王燁は思う。

 

「じゃあなんで使わせてくれないの!」

『戦技召喚や我固有の特技は術者の魔力を使用するが、本来、主従の契約をしなければ角端という生物が自らの体許す限り自由に使える術や技だ。我の制御下にあって不思議はないだろう?

 主人が我の特技を我以上に使いこなせるだろうか』

 

「それは至極ごもっともな意見ですね……」

「魂持ってちゃんと考えられる頭が入ってるなら、当然本家の方が扱い慣れてるから召喚者に命令されるまでもない、か。オート戦闘で全くスキルを使わないってのもそれはそれでダメだし」

 頼みの索峰さんも反論材料がないらしい。

 

『もともと我のものだった特技に使用制限をかけて、召喚解除に応じるつもりも当分ないが、召喚術師(サモナー)個人で完結する特技には制限をかけたつもりはない。

 戦闘中に主人からどうして欲しいという指示があれば今後はなるべく応じるよう努めよう』

 

 索峰さんは訝しげ。

 王燁としてもあまり良い印象には取れなかった。

 

 

森呪遣い(ドルイド)と補助の召喚生物の場合、使い込んでいくと効果が拡張されていくんですけど、召喚術師の場合もそうなんですか?」

「同じだと思うよ?」

 

 召喚術師も、契約直後と何度も召喚を行なって共闘を繰り返しアイテムも使って育成した後を比較すれば、行える指示に大きな差が出る。

 召喚時のステータスも上昇し、召喚獣を経由する特技によるMP消費も減る等のボーナスは多い。

 

「じゃ、角端と王燁ちゃんの場合は? どれぐらい伸び代あるの?」

『我の感覚で言うなら、相当な改善の余地がある』

「王燁もそう思う……」

 

 守護してくれるのはいいが、ぎこちなさはおそらく誰の目にも明らか。

 玲玲を経由する特技を使えないこともその表れとしてわかりやすい。わかりやすすぎるほど。

 

 

「私は、そんなに改善の余地があるのにあんなに独立して強いことに驚きです。まだ強くなるんですか」

「独立行動してるから強い、ってことはあるかもしれないとは思うわよ」

 背中を少し後ろに倒し郭貂麟(かくてんりん)さんが玲玲を見上げた。

 

「連携技ってのがあるんですけど、王燁はまだ未開放です。それにゲームのプレイ時間そのものもそう長くはありませんでしたから」

『先ほど言ったように主人と我は融合体のようなものだ。(こな)れて魂の連結が深まればチャンネルが増えて拒否反応が減る。

 術者の魔力消費を抑える道具にもいろいろあるが、〈応鳳霊麟徽(おうほうれいきき)〉を経由した場合は人の生み出す魔力を我が扱いやすい魔力に変換してくれる。

 我の体内で変換してロスされる分が減るのだから、我も主人から採取する魔力量が少なくても術を発動できる。

 森呪遣い(ドルイド)も原理は同じだろう。主と従が魔力の使い使われを繰り返すうちに、自然と双方の関係にとって最も効率の良い形に変化するものだ。

 郭貂麟嬢はハーフアルヴであろう? 先天的に魔力への対応幅が広い種族だ。召喚生物にとって合わせやすく進歩は早いだろうな』

 

(てん)ちゃんを急かせる気はないけど、召喚生物を利用するつもりがあるなら、主戦を決めるのは早い方がいいのは事実よね」

「装備の充実まで考えるとゲームだった時よりも進歩は遅いだろうがな。なにぶん、大規模なプレイヤーコミュニティは吹っ飛んだ」

 

 

 再び手を挙げ、王燁は発言権を取った。

「あの、ここに来るまでの玲玲のことはわかった。じゃあ、この後、会議が終わったあと、玲玲はどうしたいの?」

 

 生活の中心には索峰さんがいるが、ここまでの行動の中心には玲玲がいる。

 索峰さんが立てた予定を大きくねじ曲げてまで、今がある。

 

 長距離移動で召喚生物を使えばそれを勝手に従わせることもできる。

 歩けばいいが、中華のフィールドコンテンツは移動用の生物がある前提で設計されている気配すらある。

 

「〈幻獣憑依〉で入れ替わればお話する方法もあるし、王燁がやりたいことがあればそれに協力してくれるだろうけど、いま、王燁にやりたいことはないの。

 だから崔花翠さんたちと一緒にいさせてもらおうと思ってるけど、崔花翠さんたちの選んだ行動で玲玲が危険だと思ったら、反対して邪魔しちゃいそう」

 

 

 王燁と玲玲は一枚板ではない。

 主人と従者の立場でこそあるが、力関係の逆転すら起き、さらにパーティ全体へも強い影響力がある。

 王燁がギルド〈翠壁不倒(すいへきふとう)〉の行動に賛同したとしても、玲玲がそれを妨害しひっくり返すことすらできるだろう。

 

 3人がゲストである王燁を守ってくれている理由が善意である以上、不興を買い過ぎると切り捨てられる可能性すらある。

 それは、困るし避けたい。

 恩も返したいし、どこにいっても立場が弱くなることは年齢でも能力でも明らかなのだ。

 

 

『希望を言わせてもらうなら、主人は当分の間、燕都(イェンドン/北京)には近づけさせたくない』

「大胆なこと言い出したわね。理由は?」

『まず冒険者からの襲撃の可能性の高さ。我が存在が目を惹いてしまうこともあるが、冒険者からの襲撃は刺激が強すぎる』

「あー」

 それはなあ、しょうがないよねえ、と大人2人がボヤいた。

 

『第2に、燕都は係争地もしくは紛争地になる可能性が非常に高いこと。もうなっているかもしれない。

 その結果、主人がどんな不利益を被るか、想像がつかない。人の悪意はとめどない。あまり主人を冒険者の多いところには置きたくない』

「さっきも似たようなこと言ってましたね。そんなに良くないですか?」

『主人だけでなく、全員に戻らないことを推奨したいほどだ。少なくとも根拠地を燕都に置くことには強く反対する。何事か悪い事柄に巻き込まれること必定だ』

 

「断言ね。索峰、どう思う?」

「王燁ちゃんを燕都にいさせたくない、ってのは理解できる範囲かな。

 PK襲う側としてパーティ単位で見るとこの4人の戦力は弱い。バランスが悪いとも言えるが。

 膠着状態や長期戦には強いけど、襲撃受けた際の初動の防御力が著しく弱い。

 具体的には、翠姐(すいねえ)と自分が同時に行動停止系の足止め受けたら詰む。ヘイト固定されても詰む。速攻どっちかが落とされてもダメ」

「え、えっと、玲玲いるよ……?」

 そこまでこのパーティは弱いのだろうかと、王燁は思う。

 

「モンスター相手ならそう弱くないんだけどね。火力が翠姐と自分の2人に集中してるでしょ、それがダメージ出せない状態になると押し返せなくなる。

 そもそもPKは襲撃する側が有利だから、体張る職業いないことがわかれば火力職止めればじっくり料理できるからね」

「PKの常套手段、不意打ち暗殺者(アサシン)なんて来られたらどうしようもないわよね。全員防御装甲薄いし誰かしら欠けるわ。単純な耐久力だけなら角端が1番強いぐらいじゃないの?」

 

 魔道士系ローブの王燁と郭貂麟さん、ハイランクの防具ではあるものの避けること前提の布鎧の崔花翠さんと索峰さん。

 皮鎧や鎖帷子すらいない。

 

「話戻すぞ。燕都に行くなと言われてもな、もともとの予定では燕都に戻る前提の外出なんだ。こっち3人は資産を結構残してきてる。最低1度は戻らないと困るんだ」

「ですね。私もアイテム全部持ち出した訳でもないですし、それを放置するのはちょっと」

『仕方ないか』

「勝手に予定変えた玲玲が悪いよ」

 王燁は軽く玲玲を叩いて、めっ、した。

 

 その一方、崔花翠さんだけが眉間を寄せていた。

「今だから言っとくけど、根拠地を燕都に置かないのは、あたしは賛成」

「その心は?」

「女の勘」

「無下にはしないけど、それはちょっと」

『馬鹿にできるものではないと思うがな』

「角端がそれを言うかね。お前幻獣とはいえ男だろ」

 何度見たかわからない、索峰さんの困り顔。

 

「最低1度は戻る必要があるのはあたしも肯定する。残すには惜しいものが結構あるし。

 ただ、燕都がいい雰囲気じゃないのも認める。女所帯であそこに居たいとはあんまり思えない。いい街ではあると思うけど、住みたいとは違う」

「全てのギルドが大都市に本拠地置いていたわけじゃないですからね。本拠地を置ける街って、燕都ほど大規模じゃなくてもありましたし」

 

「話の腰折って悪いんだけど、(てん)ちゃんは割と翠姐寄り? 燕都じゃない方がいい派?」

「元々《翠壁不倒》は燕都のギルドでしたから、燕都でも構わないとは思いますが。かといって燕都に本拠を置かなければいけない理由も無かったんじゃないかなあ、とも思いまして。

 ギルドホール機能やギルド効果ほとんど使いませんでしたし、本拠を別の街に構えても、大きな不利益は無いのではないかと。五分五分ぐらいですかね」

「てことは角端入れて5人中の2.5人分が燕都やめておこうって意見になるけど、索峰どうよこれ」

 崔花翠さんの目が、王燁を一瞥したあと、索峰さんへ向かった。

 

「2.5人分だとしたら、もう白旗だな」

『どういうことだ』

「ギルドの財布は自分寄りだが議決権はギルマスの翠姐が持ってるってこと。翠姐を説き伏せられなきゃ半々では自分が折れる。立場の違いの問題。

 王燁ちゃんが強硬に燕都に本拠を構えることを主張したら角端が折れるかもしれないけども」

 

「王燁そんなことしない」

 

 玲玲の機嫌を今は損ねられない。

 それに絶対に燕都がいいと主張する理由も王燁にはない。

 父様と遊ぶために設備が揃った燕都が好都合だっただけで、街そのものに思い入れがあるわけではない。

 

「翠姐と角端が燕都反対、貂ちゃんがどちらでもいい派、王燁ちゃんは角端に従う形。5の4が燕都じゃなくてもいいという意見をなんらかの形で持ってる」

『あとは狐、お前だけだが白旗か』

「そういうこと。全員を説得できる燕都残留の理由を提示できない。自分の考えは貂ちゃんと大差なくてな。

 究極的に、金持ってるのはプレイヤーだから財務的に燕都出るのは不利かなとは思うが、燕都に本拠を置かなくてもそこまで大きな不利益があるとも思えなくてな」

「そうよね。お金引き出すだけならそれこそ泰山砦でもできたし、神殿も道具屋も一通りあったし。あくまで前衛基地だから硬派なところはあったけどその気になれば本拠地として使えなくもない」

 

「その気になれば、なんですね」

「冒険者がいなくなったせいかギスついてたのがどうもねー。それに燕都から近いし封禅の祭壇も近くにあるし、なにか起きそうだからパスね」

 

 角端の先導があったとはいえ、燕都から泰山砦まで移動に一晩かかっていない。

 確かに近くと言える距離なのかもしれない。

 

「すぐに本拠地を決める必要はないですよ、ね?」

「燕都から荷物や資産引き上げてからで十分だと思うよ」

「あたしとしてはもうちょい南下したいわ」

「でも、南下し過ぎると今度は上海組がいるぞ」

「そのうち考えるわよ、それは」

 いつの間にか陽は傾き、外はもう暗くなり始めていた。




理屈こねこね。
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